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2022年1月号
特集

ネットスーパー専業「Ocado」の失速

コロナ禍でセインズベリーが躍進  米ニールセンIQの調査によると英国のスーパーマーケット市場におけるEC化率は2021年1月に16%を記録し、前年同月の8%からわずか1年で倍増した。
生鮮品のEC購買が英国の消費者に浸透して、日々の食卓のオンライン化が一気に進んだ。
肉・魚類をネットで購入することを避けていた家庭の多くが購入を開始した。
 それまでネットスーパーの中心的な顧客層は子育て世代だった。
しかし、コロナ禍に入ってリタイア世代を含む幅広い層において利用が拡大した。
その結果、20年には英国民の59%がネットスーパーを利用するようになった。
今後コロナが終息してもネットスーパーの利用をやめようと考えている顧客は5%にとどまっている。
(英市場調査会社Mintel)  コロナ後の消費者行動についてのデロイトの調査でも、スーパーの配送とクリック&コレクトの利用拡大は今後も続くと予測されている。
ネットスーパーがニッチなサービスからマスサービスに変化して、買い物スタイルとして習慣化したと言える。
 英国のネットスーパー業界はこれまで、実店舗を持たないネットスーパー専業のオカド(Ocado)が市場を牽引してきた。
同社は2000年に創業、英国でネットスーパー事業を展開するほか、他の先進国では現地の大手スーパーにEC物流システムを提供している(写真1)。
日本では19年にイオンと提携を結び、23年の稼働に向けて千葉県千葉市にセンターを構築中である。
 コロナ前の19年の時点で英国ネットスーパーの売り上げシェアは、1位がテスコで31%、2位がアズダ(Asda)18%、3位がオカド15%、4位がセインズベリー14%の順であった。
 オカドはスーパー業界全体の売り上げランキングでは10位以下にすぎないが、ネットスーパー市場では大手小売りに伍して高い存在感を示している。
その成長の鍵は「ピッキングの効率性追求によるSKU数の充実」「ラストマイル配送効率化による便利な配送の提供」「需給予測の精度向上による低欠品率・低廃棄率の実現」という三つのオペレーション戦略にある。
 しかし、コロナ禍に入って英国のネットスーパー市場の勢力図に異変が起きている。
需要の急増に対応して柔軟に供給枠を増やしたセインズベリーやテスコが新規顧客の獲得や顧客満足度の向上を達成する一方、対応が遅れたオカドでは顧客の不満が高まり、離反が続出している。
 地元紙の報道によると、巣ごもり需要が急激に増えた20年夏にネットスーパーで翌日の配送枠が利用可能だったのはテスコとセインズベリーのみだったという。
しかも、セインズベリーは年60ポンドという当時で最も安価な配送のサブスクリプションサービスを提供した。
 これにより、同社は新規顧客の獲得に成功した。
21年第1四半期(1月−3月)の同社のネットスーパー事業の売上成長率は19年度比で142%という躍進を遂げた。
グロサリー全体の売上成長率も同11%に達した。
EC化率は18%に上昇した。
さらに、顧客がオンラインで注文した商品を自分で店まで取りに来るクリック&コレクトサービスを大幅に拡張したことも功を奏し、同社の顧客満足度は競合と比較して向上したと年次報告書で伝えている(図1)。
 実際、同社のネットスーパーアプリのユーザー評価は4・7スター(5スターが最高)と極めて良好だ。
レビュー数も約13万に上っている。
ユーザーのコメントには、配送枠が取りやすいことに対するポジティブな評価が多く見受けられる。
「COVID-19によるロックダウン中に配送枠が利用可能だったため、以前使っていたスーパーから乗り換えた」とのコメントもあった。
 一方、オカドは需要の急増で運営に問題が生じて20年にしばらくの間アプリをダウンさせていた。
同社のネットスーパーアプリのレビューに見ると、コロナ前までは高評価のコメントが多かったが、コロナ禍に入ってからは、配送枠に空きがないこと、アプリがつながらないことなどを理由に、別のスーパーに乗り換える顧客が続出しているのが分かる。
 オカドのアプリレビューは、0・2万レビューで評価は3・3スターと利用者数・評価共に低迷している。
2010年からオカドを利用してきたというある顧客は、アプリにアクセスできないとの理由からオカドの利用をやめたとコメントしている。
「21年6月時点で配送枠が9千人待ちだった」とのコメントもあった。
その顧客はテスコに乗り替えたという。
 オカドは20年12月に発表した業績予想で、成長率が前四半期に比べて鈍化した。
市場の期待に満たない数字であったことから、決算後には同社の株価は5%下落した。
失速の理由は明らかにキャパシティ不足であった。
急激な需要の増加に三つの施策で対応  セインズベリーがネットスーパー需要の急増に対応することができたのは、主に次の三つの施策によるものと考えられる。
施策1 ネットスーパー対応店舗の拡張  一つはネットスーパー対応店舗のスピーディーな拡張である。
20年3-6月の約4カ月間でクリック&コレクトの対応店舗を約200店追加した。
即日配送も開始した。
20年にフードデリバリーのDeliveroo、Uber Eatsと提携。
セインズベリー自らも自転車による即日宅配サービス「Chop Chop」を立ち上げ、20都市・50店舗で利用可能にした(写真2)。
 同社の迅速な対応を可能にしたのは、オペレーションのマニュアル化とシステムの定型化だ。
トップダウンで配送業者との提携やクリック&コレクトサービスの立ち上げを急ぐのと並行して、対応店舗のオペレーションを標準化。
顧客とのインターフェイスも同一アプリで実現した。
さらに21年3月からは、宅配ルートの最適化システムの改良、SCMとロジスティクス管理を連結させたモデルの構築に取り組んでいるという。
施策2 各店舗の処理能力増強  対策の二つ目は店舗の処理能力の増強だ。
20年3月〜10月の8カ月間でネットスーパーの販売枠を、週35万枠から週73万6千枠に倍増させた。
そのために同社は20年3月〜6月の3カ月間で2万5千人以上の職員を追加採用している。
ちなみに競合のテスコもほぼ同じ時期に、1万人のピッキング作業員と3千人のドライバーを含む1万6千人の職員を採用している。
 店舗の改修も行った。
従来は買い物客が自分の目指す商品以外も目に入るように導線を引くことを重視していた。
それをピッキングの効率性を重視したレイアウトに変更した。
バックヤードにはクリック&コレクト用の追加スペースも確保した。
立ち上げスピードを重視して、駐車場に停めた冷蔵トラックをピックアップポイントにするといった工夫も行った。
施策3 受け渡し機能の強化  三つ目が店舗の受け渡し機能の強化だ。
ラストワンマイルでは先に触れた通り、20年にDeliverooとUber Eatsと提携して即日配達を開始、これらの業者との提携によるサービスを21年には200店舗で提供している。
自社配送も強化している。
20年に配送用トラック約1000台を追加購入。
同時に配送枠の時間帯を前後1時間拡張して6時30分-23時30分までの配達を可能にした。
 また、クリック&コレクトは、店舗側の負担が軽く、顧客の利便性の高い供給手段である。
店舗側からすると、配達の必要がないのでコストが抑えられる上、先ほどの駐車場に停めた冷蔵トラックをピックアップ場所にするといった工夫などにより、投資を抑制しながらキャパシティを強化することができる。
 顧客にとっての利便性という点でも、クリック&コレクトは配送料が不要で、配送枠の制約を受けず、好きなタイミングでの受け取りができる。
住所入力も不要、家にいるタイミングの調整が不要、購入前に商品の確認が可能(欠品していた場合の対応を自身で決められる)、店舗での買い物に比べて店舗内・周辺で過ごす時間が少なくて済む、といった優位性がある。
小売DXのハードルを乗り越える  以上、イギリスの事例からは、ネットスーパー対応店舗の拡張、各店舗の処理能力増強、受け渡し機能の強化の三つが、ネットスーパーの処理能力を拡張する上で重要であることが読み取れる。
日本においても同じイシューがカギになると考えられる。
 日本国内のスーパー業界におけるEC化率は、現状ではイギリス・アメリカなどに比べて大幅に低い。
しかし、この分野に適切に投資を実施している企業は確実な成長を見せている。
日本のネットスーパー市場が大きなポテンシャルを秘めていることは誰の目にも明らかであろう。
ただし、その成長にはデジタル化に特有の次の三つのハードルがあり、多くの企業において障壁となっている。
・ デジタルでのDX最適化──たくさんの商品を同時にまとめ買いできるワンストップショッピングをモバイルで実現したり、欠品時に機転の利いた対応をするなど、顧客体験を最適化すること ・ 新たなサプライチェーンの構築・運用──店舗運営とは全く違う在庫管理、ピッキング、物流機能の構築 ・ 適切かつスピーディーなシステム開発──デジタル最適化したシステムの提供とそれにかかるリスクの最適化  われわれ10Xはこれらの障壁を超えていくためのプロダクトとして、ネットスーパーの垂直立ち上げプラットフォーム「Stailer」を運営している。
さらには個別企業が必要とするオペレーションシステムの設計や構築などを全面的に支援している。
DXを目指す日本の小売業のパートナーとして、これからさらに貢献していきたい。

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