2022年1月号
特集
特集
アパレル流通を再生するサプライ革命
サステナブルにはほど遠い流通実態
経済産業省「電子商取引統計」の推計によれば、衣服・服飾雑貨の小売総額は2019年の13兆7700億円からコロナ禍の20年は11兆4200億円と17・1%減少し、ピークだった1991年の19兆8800億円の6割以下にまで萎縮した。
同じ経産省の「商業動態統計」では数字が異なるが、ピークの91年の15兆3千億円から2020年は8兆6千億円と6掛け弱に萎縮したことには変わりない。
服飾雑貨や下着・ナイティを除くアパレル(外衣)に限れば、19年の9兆2千億円が20年は20%近く減少して7兆3千億円台に落ち込んだと推計される。
一方で衣類・服飾雑貨のB2C(消費者向け)EC売上高は19年の1兆9100億円から20年は2兆2200億円と16・25%増加して小売売上高に占める比率(※)は19・44%に達した(電子商取引統計)。
店舗売上高が大きく落ち込んだ百貨店アパレルや駅ビル・アパレルではEC売上高が4〜5割に達するケースも珍しくなくなった。
※EC比率‥‥20年の衣類・服飾雑貨EC比率は米国では38・7%、英国や中国では過半を超えたと推計される。
総務庁の家計調査では20年のアパレル支出は前年から20・2%減少し(00年からは45・5%減少)、購入点数は14・0%減少(計算上、購入単価は7・2%低下)した。
それに対してアパレル業界の供給数量は19年の25億3160万点から20年は22億8340万点と10・3%しか減少していないから、コロナ禍の20年は過剰供給がさらに深刻化した。
とりわけ第一次緊急事態宣言に直撃された20年の春夏物は都心店の大半が長期休業して販路が閉ざされ、緊急事態宣言が明けた6月・7月には例年のセールとは比較にならないほど大幅値引きの叩き売りとなったのは記憶に新しい。
わが国のアパレル供給数量はコロナ禍で輸入が10・5%減少した20年でも海外生産品が97・8%を占めている。
海外生産品のうち中国が61・9%、アセアンが29・1%と大半を占める。
00年代までは国内や中国沿海部の工場で少なからずQR(クイックレスポンス)生産が行われていたが、調達コストを切り下げるべく中国内陸部や南アジアの大規模工場へ生産移転が進み、大半は数カ月から一年近く前の発注で計画生産されている。
一方通行の見込み生産が大半であって実需への対応能力は無いに等しく、値引き販売や翌シーズンへの持ち越しで辻褄を合わせているのが実態だ。
過剰供給がコロナ禍以前から慢性化して値引き販売が常態化し、売れ残って来期に持ち越されたり処分業者に放出される商品が紳士既製服などでは過半に迫っていた。
そこにコロナ禍が襲い、店舗売上高が激減して膨大な過剰在庫が発生し、川下(小売業者やアパレル事業者)だけでは吸収しきれず、川中(商社やOEM/ODM業者)が抱え込む在庫も膨れ上がったと推察される。
流通効率の指標とされるW/R比率(※)は、問屋流通の衰退によって1997年に2・0を切り、SPA化(自社ブランドによる一括調達)の急進で2010年には1・0も割り込み、19年には0・61まで落ちた(図1)。
※W/R比率‥‥卸(Wholesale)の売上高を小売り(Retail)の売上高で除した指数。
大きいほど中間取引が多い非効率な流通とされる。
しかしながら現実には川中(商社やOEM/ODM業者)の負担が増えただけで、川中から川下に在庫が滞留している。
EC事業者の乱立で在庫が分散して物流も交錯し、残品の海外放出(国内アパレル産業を圧迫するとして輸入を規制する途上国が多い)や廃棄の問題も絶えず、エシカルともサステナブルともほど遠い状況にある。
環境省による「サステナブルファッション」提言(※)はそんな業界の体質に真っ向から切り込んで『買わないこともサステナブル』『一着をリペア・リユースして長く着よう』と過剰供給・過剰消費に警鐘を鳴らしている。
これまで拡大を煽ってきた経産省もサステナブルな適正供給と流通の効率化へ舵を切っている。
※環境省「サステナブルファッション」提言‥‥www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/ ダム型サプライとECシフトの弊害 アパレル供給の大半を占める計画生産品は「作り溜めの売り減らし」が実態だ。
在庫は海外生産地の出荷基地倉庫にシーズン直前まで積み上げられ、販売時期が迫ってようやく家賃の高い国内倉庫に出荷される。
アパレル事業者へは国内倉庫一括渡しが主流だが、商社が国内倉庫に在庫を抱えてアパレル事業者の倉庫や店舗へ出荷する時点で引き渡す分納もある。
小ロット生産品や受注先行品など、国内倉庫に積むことなくスルーで出荷仕分けされ、各店舗や顧客にひと撒きされて終わる商品もないわけではないが、海外生産地倉庫と国内消費地倉庫の二段階で溜めては流す「ダム型サプライ」が一般的だ。
そこにEC倉庫への在庫分散・移動も加わり、棚入れとピッキングが繰り返されている。
生産地倉庫の在庫は作り溜めるに連れて積み上がり、販売時期が迫ると国内倉庫に移って減っていくが、大手SPA事業者の連結決算などから推計すれば、平均して総在庫の3割前後が積まれている(図2)。
国内在庫は00年代までは店舗に販売在庫7割/倉庫に補給在庫3割といったバランスが主流だった。
しかしECが急拡大するに連れてEC向け倉庫在庫が膨れ上がり、倉庫在庫が店舗在庫を上回るようになってきた。
EC比率が5割ともなると店舗に3割/倉庫に7割と倉庫に偏っていき、店舗在庫の奥行きが浅くなって欠品が頻発して売り上げが落ち込むようになった。
ECに在庫が偏って店舗の品揃えが薄くなれば顧客はますますECに流れ、それがまた店舗在庫を薄くするという悪循環に陥っている。
頭打ちの店舗販売に比べECは伸び盛りで、自社ECなら店舗販売より格段に流通コストも低いから、ECに在庫を回したくなるが、実はECは品揃えが豊富でロングテール販売も可能な分、膨大な在庫を要して在庫回転は店舗より格段に低くなる。
EC比率が3割、4割と拡大していくとEC倉庫在庫の滞留は無視できなくなる。
その分、店舗は在庫が手薄になって売り上げが落ちていく。
EC比率が4割、5割になっても収益が低迷するアパレル事業者が多いのは、店舗販売が落ち込んで赤字が膨らむ一方、ECも外部(モール)依存では販売手数料とクーポン発行などウェブ販促費の負担が嵩み、在庫効率も劣化するためと推察される。
ECはローカルOMOに収斂していく 消費者にとってECは店舗に比べて品揃えも商品情報も豊富で、実見できない分、サイズ・レコメンドのアプリなどが充実しており、何より店舗まで出向かなくてもショッピングを済ませられるという利点がある。
手早く送料無料で受け取りたければ店舗受け取り(※)という選択もある(図3)。
※店舗受け取り‥‥英国ではC&C(Click and Collect)、米国ではBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)と呼ばれている。
コロナ禍で巣ごもり消費を強いられる中、感染リスクを厭わず時間とお金を使ってわざわざ店舗まで出掛け、自らピッキングして持ち帰るという「物流労働」負担の不合理に気付いた消費者は、コロナが収束しても旧来の店舗購入には戻らず、ウェブルーミング(ネットで情報収集と店舗選択・取り置き)とショールーミング(店舗からネットへ飛んで情報収集と購入)を駆使して店舗とECを使い分けるに違いない。
とは言え、際限なくECへシフトすれば店舗売上高が減少して不採算店舗が増えていく。
不採算店舗を閉めると店舗のない空白エリアが生じ、店受け取りもショールーミングもできなくなってエリアのEC売上も萎んでいく。
空白エリアでは店舗受け取りも店舗在庫の出荷もできないから顧客は受け取るのが遅くなり、宅配費用も倍増するから顧客の送料負担も増える。
それを避けるには、エリアごとに顧客情報を管理して店舗網とECを政策的にバランスするべきだ。
顧客の利便性と宅配コストを考えれば、空白エリアを作るべきではない。
エリア店舗をローカル出荷基地とすれば在庫も積めるから、EC拡大による店舗在庫の貧弱化も避けられる。
ただしエリアの全店を出荷基地化するのは非効率だから、家賃の低い大型店舗に在庫を積んでローカルECの出荷基地とするとともに、エリア各店舗への補給基地とするテザリング(店舗間の在庫融通)を仕組む。
修理加工を要する紳士服やサイズ在庫が膨らむ靴などでは必須のロジスティクスだ。
ECはこれからローカルOMO(※)に収れんしていく。
販売とはもとよりローカルなものであり、ECとて物流効率を考えればローカルに徹するべきだ。
一晩を跨ぐリージョナル間輸送を要して二回も載せ替える高コストな全国区の宅配物流を使うメリットなど、もはや存在しない。
アマゾンは出荷拠点のローカル布陣と合わせ、ヤマト運輸から地域別の「デリバリープロバイダ」などへの切り替えを急ピッチで進めているではないか。
※OMO(Online Merges with Offline)‥‥ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、店舗とECの在庫引き当てを連携して全国区物流とローカル物流を仕分け、ウェブルーミングとショールーミングを駆使してC&C(Click&Collect)など顧客利便を高めるリテール戦略。
ならば、ECの受注引き当てと出荷は全てローカル店舗に任せ、EC出荷用のフルフィルセンター(FC)を持たない/廃止するという選択もあるはずだ(ただし、先行受注商品やロングテール商品はFC出荷が合理的だ)。
ネットスーパーの闘いを見ていると、ECの究極はローカル完結だと喝破される。
出荷拠点は店舗とは限らずダークストア(※)という布陣もあるだろうが、ローカル完結というゴールは変わらないだろう。
※ダークストア‥‥ネットスーパーで店舗から注文商品をピックアップすると、繁忙時には顧客のピッキングを妨げ欠品を生じさせる弊害が生じるから、ネット注文が増えてくると地域に専用ピックアップ倉庫としての「ダークストア」を設ける。
不採算化して閉めた店舗を使うこともあれば、端から専用に設けることもあるが、三温度帯管理などの必要から店舗と共通した冷蔵・冷凍ケースなどを並べる部分もあり、「ダークストア」という表現が生まれたと思われる。
アパレルでも早々とそんな決断を実行したグローバルチェーンがある。
「ZARA」で知られるスペインのインディテックス社がそうで、21年中には世界の主要市場でFC出荷から店舗出荷への切り替えを完了するはずだ。
同社と比べると、ファーストリテイリングが東京・有明の自動化FCに拘ってローカルECへの切り替えに大きく出遅れたのは痛恨の戦略ミスと言わねばなるまい。
棚入れとピッキングを回避する サプライ効率も物流効率も流体力学の論理が支配する。
溜めたり止めたりしたら一気に非効率になってしまう。
「物流」は流れてこその効率であり、棚入れせずスルーで仕分けるのが大原則だ。
店舗向けにせよEC顧客向けにせよ、棚入れせず撒いてスルーで仕分けないと手間もコストも二桁跳ね上がる。
棚入れとピッキングを前提に高額なロボットシステムを装備するのがトレンドのようだが、棚入れDC/FCの効率はどうAIロボティクスを駆使しても結局、シンプルな自動化TCに遠く及ばない。
自動化TCは作業人員をほとんど要さないから運営コストが低く、住宅地から離れた格段に低コストな立地に位置できる。
ならば自動化TCで撒いてスルー仕分けできるよう、「商流」の設計と生産仕上げ段階のプレ物流仕分け加工が要になる。
それは店舗段階の品出し・陳列効率も大きく改善する。
生産仕上げ段階のプレ物流仕分け加工は(1)消費地倉庫でのスルー仕分けを容易にし、(2)店舗段階の品出しマテハンを効率化すべく、a.店舗タイプごとのSKU数量組み合わせをバンドル化し、b.バンドル単位に包装(ビニール袋入れ)して皮剥き作業を回避し、c.番地と棚割陳列を指定して品出し作業の迷いを断ち切る‥‥のがデフォルトだ。
バンドル化は撒き切りのスポットアイテムや継続商品の初期配分だけでなく、量販アイテムなら補充配分でも設定できる。
朝一のアパレル店内で品出しカートやワゴン(労働負担の大きい買い物カゴは止めてほしい)に入荷品を乗せ、逐一ビニール袋を皮剥いてサイズリングを装着し、タグの記載を読んでは陳列位置を探している販売員を見るたびに、彼(彼女)らの労働価値の使い捨てが悲しくなる。
時給が2千円以上なら、こんな作業はさせないのではないか。
それはFCにおけるピッキングも同様で、一度棚入れすればピッキングが不可避になり、作業効率は二桁落ちる。
ピッキングが発生すること自体、プロセス設計の欠陥であり、棚入れとピッキングを回避できる物流プロセスを仕組むことが先決だ。
受注先行の予約販売や通販型クラウドファンディングならひと撒きで仕分けてスルーできるし、週や曜日、タイムセールで訴求アイテムを特化すれば、日々の受注全量を一括ピッキングしてひと撒きで仕分けられる。
FCのマテハンを効率化できるよう、マーチャンダイジングと販売訴求の「商流」から設計することが肝要だ。
ECの業務プロセスは(1)受注と決済、(2)受注プロセシング、(3)物流プロセシングの三段階から成る。
(1)と(2)は不可分でも(3)は分離できる。
ECのプラットフォーム(PF)には、全プロセスを受託して在庫を預かり棚入れ・ピッキングして出荷する「フルフィル型」、(1)と(2)だけを受託して在庫を預からず受注情報を出品者に提供して出品者が顧客に出荷する「ドロップシッピング型」、日々の受注分を出品者がPFのFCに一括納品して棚入れせずスルーで仕分け出荷する「仕分け出荷型」がある。
手数料率は「フルフィル型」が26〜36%と最も高い。
百貨店の歩率と大差なく、単価が低い服飾雑貨では40%に迫るケースも聞く。
「仕分け出荷型」は棚入れ・倉庫管理・ピッキングのコストだけ料率が安くなるはずだが、棚入れ型の倉庫設備のまま、いったん棚入れしてしまう業者もあり、現実には「フルフィル型」と大差ない。
確実に料率が低くなるのが「ドロップシッピング型」だが、その分、出品者が棚入れ・倉庫管理・ピッキング・仕分け出荷・宅配委託のフルフィルを負担する必要があるから、トータルコストが低くなるとは限らない。
FCの棚入れ・ピッキングと全国区宅配便を回避してフルフィルのコストと時間を最小化する「商流」と「物流」を自ら設計・運用できることが突破口になる。
DXはサプライを革新できるか 物流を効率化するには「商流」の変革が不可欠だが、大元の生産段階が販売と分断された一方通行の計画生産ではダム型サプライから抜け出せない。
産業界ではトヨタのかんばんシステムやデルのBTO(受注生産)などオンデマンド生産の仕組みが確立されているが、前者は下請け孫請けまでの垂直統合による専用部品調達、後者は水平分業による汎用部品調達を前提としたもので、想定外の突発事態には脆いが通常運行ならオンデマンドに制御できる。
ただし、オンデマンド生産が成り立つのは、仕様や顧客オーダーのバリエーションがあってもオンデマンドな部品調達で同一商品を継続して生産するからだ。
アパレルでは同一商品を継続して生産・販売するケースは極めて限られ、部品(素材)調達も副資材を除けばほとんどバイオーダー(受注生産)だ。
ボタンやジッパーなどの副資材、量産合繊素材は汎用品が調達できても、多少なりとも意匠性のある素材は受注生産だから、素材・副資材を調達してから(このリードタイムが実に長い)一括して計画生産することになる。
継続販売する商品でも一括生産して生産地倉庫に積み上げ、消費地倉庫との二段階ダム型サプライで売り減らすケースが大半だから、かんばんシステムのように販売動向を生産ラインに反映する術がない。
大ロット生産の定番商品を継続販売する「ユニクロ」さえ二段階のダム型サプライで、低コストな遠隔地(南アジアや中国内陸部)で大量計画生産し、シーズンイン後の同一素材による近接地(中国沿海部)短納期追加生産でSKUごとの在庫バランスを補正しているのが現実だから(擬似パターンオーダーの「ジャストサイズ」が分かりやすい)、オンデマンドサプライは夢物語に近い。
アパレルの生産は受注商品ごとに全てのパーツを事前調達して生産工程をセットする必要があり、工程を分業(※)してもそれぞれの進行を合わせるのが困難で流れ作業にならず、ストップ&ゴーの繰り返しになる。
※分業方式‥‥ロットの大小、多能工か単能工かで分業生産の方式は異なる。
多能工で小ロット生産するのに適したのが「セル生産方式」で、一人が複数の工程を担当し、複雑なものでは一人で全工程を仕上げる。
単能工で大ロット生産するのに適したのが「ライン生産方式」で、工程ごとに担当してラインを流していく。
例え生産を流れ作業にできたとしても、海外での計画生産が大半となった今日では、高額な国内倉庫賃料を回避すべく販売時期が迫るまで生産地倉庫に積んで待つしかなく、コンテナ積載効率も考慮しなければならないから、作り溜めるというプロセスが避けられない。
そんな生産プロセスを効率化し、ストップ&ゴーを最小化すると期待されるのがDX(デジタル連携)だ。
アパレル(布帛製品)の生産プロセスはマーキング(※)〜裁断というCADCAMに始まって、縫製工程、仕上げ工程を経て物流加工で完了する。
※マーキング‥‥デザインを工業パターンに落として縫製パーツに分解し、柄や織地の合わせに違和感がないよう、無駄なく使えるよう一定幅の素材にパーツをレイアウトする工程。
その際の素材利用率を「収率」と言い熟練職人は85%を目安とするが、最新のマーキングCADはその水準を超える。
マーキング〜裁断はDXで企画段階と連携しCADCAMで自動化・高速化できるが、縫製工程は難易度とロットでライン(分業)生産とセル(一人完徹)生産を使い分けても各段階の進行と品質をそろえるのが難しく、計画通りに流す制御はかなりの熟練を要する。
仕上げ工程は布帛製品ではプレス仕上げ、ニット/カット製品では縮絨仕上げが要だが、前者では一点ごとの作業になり、後者では仕上がりを見ての修正が必須で、ストップ&ゴーが避けられない。
DXは企画と生産をつないで企画段階と生産仕掛かり段階のラグタイムを圧縮する効果が大きく、生産機器のCADCAM化も生産効率を高める。
しかし、素材調達のリードタイムを圧縮する効果は無く、物流加工段階以降も「商流」設計の革新を欠いては効果が及ばない。
国内や近隣地域での短納期生産はともかく、海外遠隔地での計画生産ではダム型サプライの解消は難しいだろう。
一つだけ突破口があるとすれば、個別のローカル(国)マーケットにフォーカスを絞り、AIがECやSNSを網羅して自動的に売れるデザインを大量に合成し(デザイナー不要)、DX連携した多数の小規模スマートファクトリーが即、手に入る素材で100点単位の小ロット高速生産を数日サイクルで繰り返し販売動向に擦り合わせていく方法で、中国のファストファッション越境EC「SHEIN」の爆発的急成長を支えるひとつのロジックとされる。
自動運転でAIが1秒に数十回・数百回の判断を繰り返して安全を担保するロジックと共通しており、自動ブレーキでその感覚を体験された方も少なくないのではないか。
究極はVMI戦略同盟 アパレルの生産はバイオーダーで分断される垂直分業型ゆえ非効率なストップ&ゴーが繰り返され、物流も積んでは流すダム型サプライを強いられる。
一度棚入れすればピッキングが不可避になり、いかにAIロボティクスを駆使しても効率化には限界がある。
ダム型サプライを回避し、積まずに仕分けて流すのが理想だが、それにはチャネルリーダーによる「商流」の戦略的設計が不可欠だ。
流体工学の基本は蛇口制御(プル)であり、店舗販売では棚割陳列とPOP/タグを軸としたアナログVMD(※)、オンライン販売ではテンプレートと「ささげ(撮影・採寸・原稿)」情報を軸としたデジタルVMDを起点に、販売消化動向に即応する補給と補充生産を仕組む。
※VMD(Visual Merchandising)‥‥店舗やECサイトで商品構成や個別商品を見易く買い易く魅力的に表現する陳列・演出技術体系(店舗では「管理・補充し易い」が加わる)で、在庫状況に即して販売消化を図る再編集運用が競われる。
店舗では「フェイシング管理」、ECサイトでは「さ・さ・げ」が基本で、両者の機動的連携が問われる。
倉庫在庫からの補給は棚入れとピッキングを伴うから、店舗販売では生産段階での物流加工で消費地倉庫のスルー仕分けを仕組み、オンライン販売ではドロップシッピングや店在庫引き当てで二重物流を回避し、予約販売や受注販売型クラウドファンディング、ライブコマースなどで一括スルー仕分け出荷を図る。
倉庫や店舗の在庫を引き当てても売り減らすだけだから、販売消化に即応するオンデマンド生産が求められるが、前述したようにアパレルの生産はバイオーダーのバッチ生産だから看板システムのようなオンデマンドは困難で、素材背景を前提に遠隔地での低コストな大ロット計画生産を近接地での割高な小ロット短納期生産(QR)で補正するのが定石だ。
EDIのAI進化にDXが加われば、システム上はQR補正生産の自動反復が可能だが、素材・副資材や生産ラインの確保を欠いては絵に描いた餅になる。
究極は意匠素材の潤沢な現物流通と小回りの効く中小工場の集積を背景にDXで小ロット高速生産を反復し、先行サンプルでのEC掲載を先行して、国際郵便小包配送(SAL便)の時間差(2〜3週間)を初期ロット分だけ航空便で送って埋めるタイムマシン・マジックで実質無在庫販売(ピッキングも不要)を実現する「生産値出荷型越境ECファストアパレル」だが、そんな生産背景がある中国や韓国では可能でも我国では困難だ。
これまでは川下の小売りチェーンやブランド事業者がSPAを謳ってチャネルリーダーを務めてきたが物流も生産も制御できず、販売情況で商流が崩れれば在庫が滞貨して金流も崩れ、サプライチェーンが行き詰まることも多かった。
生産も物流も商流も金流も制御できるのはDX装備した資金力ある川中のサプライヤー(商社やOEM事業者を含む)であり、彼らがチャネルリーダーとなって川下と取り組み、VMI(※)を仕切る戦略同盟こそ、行き詰まったアパレル流通を再生する突破口になると期待される。
※VMI(Vendor Managed Inventory)‥‥あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。
同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、ファストファッションやアクセサリー、ベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。
同じ経産省の「商業動態統計」では数字が異なるが、ピークの91年の15兆3千億円から2020年は8兆6千億円と6掛け弱に萎縮したことには変わりない。
服飾雑貨や下着・ナイティを除くアパレル(外衣)に限れば、19年の9兆2千億円が20年は20%近く減少して7兆3千億円台に落ち込んだと推計される。
一方で衣類・服飾雑貨のB2C(消費者向け)EC売上高は19年の1兆9100億円から20年は2兆2200億円と16・25%増加して小売売上高に占める比率(※)は19・44%に達した(電子商取引統計)。
店舗売上高が大きく落ち込んだ百貨店アパレルや駅ビル・アパレルではEC売上高が4〜5割に達するケースも珍しくなくなった。
※EC比率‥‥20年の衣類・服飾雑貨EC比率は米国では38・7%、英国や中国では過半を超えたと推計される。
総務庁の家計調査では20年のアパレル支出は前年から20・2%減少し(00年からは45・5%減少)、購入点数は14・0%減少(計算上、購入単価は7・2%低下)した。
それに対してアパレル業界の供給数量は19年の25億3160万点から20年は22億8340万点と10・3%しか減少していないから、コロナ禍の20年は過剰供給がさらに深刻化した。
とりわけ第一次緊急事態宣言に直撃された20年の春夏物は都心店の大半が長期休業して販路が閉ざされ、緊急事態宣言が明けた6月・7月には例年のセールとは比較にならないほど大幅値引きの叩き売りとなったのは記憶に新しい。
わが国のアパレル供給数量はコロナ禍で輸入が10・5%減少した20年でも海外生産品が97・8%を占めている。
海外生産品のうち中国が61・9%、アセアンが29・1%と大半を占める。
00年代までは国内や中国沿海部の工場で少なからずQR(クイックレスポンス)生産が行われていたが、調達コストを切り下げるべく中国内陸部や南アジアの大規模工場へ生産移転が進み、大半は数カ月から一年近く前の発注で計画生産されている。
一方通行の見込み生産が大半であって実需への対応能力は無いに等しく、値引き販売や翌シーズンへの持ち越しで辻褄を合わせているのが実態だ。
過剰供給がコロナ禍以前から慢性化して値引き販売が常態化し、売れ残って来期に持ち越されたり処分業者に放出される商品が紳士既製服などでは過半に迫っていた。
そこにコロナ禍が襲い、店舗売上高が激減して膨大な過剰在庫が発生し、川下(小売業者やアパレル事業者)だけでは吸収しきれず、川中(商社やOEM/ODM業者)が抱え込む在庫も膨れ上がったと推察される。
流通効率の指標とされるW/R比率(※)は、問屋流通の衰退によって1997年に2・0を切り、SPA化(自社ブランドによる一括調達)の急進で2010年には1・0も割り込み、19年には0・61まで落ちた(図1)。
※W/R比率‥‥卸(Wholesale)の売上高を小売り(Retail)の売上高で除した指数。
大きいほど中間取引が多い非効率な流通とされる。
しかしながら現実には川中(商社やOEM/ODM業者)の負担が増えただけで、川中から川下に在庫が滞留している。
EC事業者の乱立で在庫が分散して物流も交錯し、残品の海外放出(国内アパレル産業を圧迫するとして輸入を規制する途上国が多い)や廃棄の問題も絶えず、エシカルともサステナブルともほど遠い状況にある。
環境省による「サステナブルファッション」提言(※)はそんな業界の体質に真っ向から切り込んで『買わないこともサステナブル』『一着をリペア・リユースして長く着よう』と過剰供給・過剰消費に警鐘を鳴らしている。
これまで拡大を煽ってきた経産省もサステナブルな適正供給と流通の効率化へ舵を切っている。
※環境省「サステナブルファッション」提言‥‥www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/ ダム型サプライとECシフトの弊害 アパレル供給の大半を占める計画生産品は「作り溜めの売り減らし」が実態だ。
在庫は海外生産地の出荷基地倉庫にシーズン直前まで積み上げられ、販売時期が迫ってようやく家賃の高い国内倉庫に出荷される。
アパレル事業者へは国内倉庫一括渡しが主流だが、商社が国内倉庫に在庫を抱えてアパレル事業者の倉庫や店舗へ出荷する時点で引き渡す分納もある。
小ロット生産品や受注先行品など、国内倉庫に積むことなくスルーで出荷仕分けされ、各店舗や顧客にひと撒きされて終わる商品もないわけではないが、海外生産地倉庫と国内消費地倉庫の二段階で溜めては流す「ダム型サプライ」が一般的だ。
そこにEC倉庫への在庫分散・移動も加わり、棚入れとピッキングが繰り返されている。
生産地倉庫の在庫は作り溜めるに連れて積み上がり、販売時期が迫ると国内倉庫に移って減っていくが、大手SPA事業者の連結決算などから推計すれば、平均して総在庫の3割前後が積まれている(図2)。
国内在庫は00年代までは店舗に販売在庫7割/倉庫に補給在庫3割といったバランスが主流だった。
しかしECが急拡大するに連れてEC向け倉庫在庫が膨れ上がり、倉庫在庫が店舗在庫を上回るようになってきた。
EC比率が5割ともなると店舗に3割/倉庫に7割と倉庫に偏っていき、店舗在庫の奥行きが浅くなって欠品が頻発して売り上げが落ち込むようになった。
ECに在庫が偏って店舗の品揃えが薄くなれば顧客はますますECに流れ、それがまた店舗在庫を薄くするという悪循環に陥っている。
頭打ちの店舗販売に比べECは伸び盛りで、自社ECなら店舗販売より格段に流通コストも低いから、ECに在庫を回したくなるが、実はECは品揃えが豊富でロングテール販売も可能な分、膨大な在庫を要して在庫回転は店舗より格段に低くなる。
EC比率が3割、4割と拡大していくとEC倉庫在庫の滞留は無視できなくなる。
その分、店舗は在庫が手薄になって売り上げが落ちていく。
EC比率が4割、5割になっても収益が低迷するアパレル事業者が多いのは、店舗販売が落ち込んで赤字が膨らむ一方、ECも外部(モール)依存では販売手数料とクーポン発行などウェブ販促費の負担が嵩み、在庫効率も劣化するためと推察される。
ECはローカルOMOに収斂していく 消費者にとってECは店舗に比べて品揃えも商品情報も豊富で、実見できない分、サイズ・レコメンドのアプリなどが充実しており、何より店舗まで出向かなくてもショッピングを済ませられるという利点がある。
手早く送料無料で受け取りたければ店舗受け取り(※)という選択もある(図3)。
※店舗受け取り‥‥英国ではC&C(Click and Collect)、米国ではBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)と呼ばれている。
コロナ禍で巣ごもり消費を強いられる中、感染リスクを厭わず時間とお金を使ってわざわざ店舗まで出掛け、自らピッキングして持ち帰るという「物流労働」負担の不合理に気付いた消費者は、コロナが収束しても旧来の店舗購入には戻らず、ウェブルーミング(ネットで情報収集と店舗選択・取り置き)とショールーミング(店舗からネットへ飛んで情報収集と購入)を駆使して店舗とECを使い分けるに違いない。
とは言え、際限なくECへシフトすれば店舗売上高が減少して不採算店舗が増えていく。
不採算店舗を閉めると店舗のない空白エリアが生じ、店受け取りもショールーミングもできなくなってエリアのEC売上も萎んでいく。
空白エリアでは店舗受け取りも店舗在庫の出荷もできないから顧客は受け取るのが遅くなり、宅配費用も倍増するから顧客の送料負担も増える。
それを避けるには、エリアごとに顧客情報を管理して店舗網とECを政策的にバランスするべきだ。
顧客の利便性と宅配コストを考えれば、空白エリアを作るべきではない。
エリア店舗をローカル出荷基地とすれば在庫も積めるから、EC拡大による店舗在庫の貧弱化も避けられる。
ただしエリアの全店を出荷基地化するのは非効率だから、家賃の低い大型店舗に在庫を積んでローカルECの出荷基地とするとともに、エリア各店舗への補給基地とするテザリング(店舗間の在庫融通)を仕組む。
修理加工を要する紳士服やサイズ在庫が膨らむ靴などでは必須のロジスティクスだ。
ECはこれからローカルOMO(※)に収れんしていく。
販売とはもとよりローカルなものであり、ECとて物流効率を考えればローカルに徹するべきだ。
一晩を跨ぐリージョナル間輸送を要して二回も載せ替える高コストな全国区の宅配物流を使うメリットなど、もはや存在しない。
アマゾンは出荷拠点のローカル布陣と合わせ、ヤマト運輸から地域別の「デリバリープロバイダ」などへの切り替えを急ピッチで進めているではないか。
※OMO(Online Merges with Offline)‥‥ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、店舗とECの在庫引き当てを連携して全国区物流とローカル物流を仕分け、ウェブルーミングとショールーミングを駆使してC&C(Click&Collect)など顧客利便を高めるリテール戦略。
ならば、ECの受注引き当てと出荷は全てローカル店舗に任せ、EC出荷用のフルフィルセンター(FC)を持たない/廃止するという選択もあるはずだ(ただし、先行受注商品やロングテール商品はFC出荷が合理的だ)。
ネットスーパーの闘いを見ていると、ECの究極はローカル完結だと喝破される。
出荷拠点は店舗とは限らずダークストア(※)という布陣もあるだろうが、ローカル完結というゴールは変わらないだろう。
※ダークストア‥‥ネットスーパーで店舗から注文商品をピックアップすると、繁忙時には顧客のピッキングを妨げ欠品を生じさせる弊害が生じるから、ネット注文が増えてくると地域に専用ピックアップ倉庫としての「ダークストア」を設ける。
不採算化して閉めた店舗を使うこともあれば、端から専用に設けることもあるが、三温度帯管理などの必要から店舗と共通した冷蔵・冷凍ケースなどを並べる部分もあり、「ダークストア」という表現が生まれたと思われる。
アパレルでも早々とそんな決断を実行したグローバルチェーンがある。
「ZARA」で知られるスペインのインディテックス社がそうで、21年中には世界の主要市場でFC出荷から店舗出荷への切り替えを完了するはずだ。
同社と比べると、ファーストリテイリングが東京・有明の自動化FCに拘ってローカルECへの切り替えに大きく出遅れたのは痛恨の戦略ミスと言わねばなるまい。
棚入れとピッキングを回避する サプライ効率も物流効率も流体力学の論理が支配する。
溜めたり止めたりしたら一気に非効率になってしまう。
「物流」は流れてこその効率であり、棚入れせずスルーで仕分けるのが大原則だ。
店舗向けにせよEC顧客向けにせよ、棚入れせず撒いてスルーで仕分けないと手間もコストも二桁跳ね上がる。
棚入れとピッキングを前提に高額なロボットシステムを装備するのがトレンドのようだが、棚入れDC/FCの効率はどうAIロボティクスを駆使しても結局、シンプルな自動化TCに遠く及ばない。
自動化TCは作業人員をほとんど要さないから運営コストが低く、住宅地から離れた格段に低コストな立地に位置できる。
ならば自動化TCで撒いてスルー仕分けできるよう、「商流」の設計と生産仕上げ段階のプレ物流仕分け加工が要になる。
それは店舗段階の品出し・陳列効率も大きく改善する。
生産仕上げ段階のプレ物流仕分け加工は(1)消費地倉庫でのスルー仕分けを容易にし、(2)店舗段階の品出しマテハンを効率化すべく、a.店舗タイプごとのSKU数量組み合わせをバンドル化し、b.バンドル単位に包装(ビニール袋入れ)して皮剥き作業を回避し、c.番地と棚割陳列を指定して品出し作業の迷いを断ち切る‥‥のがデフォルトだ。
バンドル化は撒き切りのスポットアイテムや継続商品の初期配分だけでなく、量販アイテムなら補充配分でも設定できる。
朝一のアパレル店内で品出しカートやワゴン(労働負担の大きい買い物カゴは止めてほしい)に入荷品を乗せ、逐一ビニール袋を皮剥いてサイズリングを装着し、タグの記載を読んでは陳列位置を探している販売員を見るたびに、彼(彼女)らの労働価値の使い捨てが悲しくなる。
時給が2千円以上なら、こんな作業はさせないのではないか。
それはFCにおけるピッキングも同様で、一度棚入れすればピッキングが不可避になり、作業効率は二桁落ちる。
ピッキングが発生すること自体、プロセス設計の欠陥であり、棚入れとピッキングを回避できる物流プロセスを仕組むことが先決だ。
受注先行の予約販売や通販型クラウドファンディングならひと撒きで仕分けてスルーできるし、週や曜日、タイムセールで訴求アイテムを特化すれば、日々の受注全量を一括ピッキングしてひと撒きで仕分けられる。
FCのマテハンを効率化できるよう、マーチャンダイジングと販売訴求の「商流」から設計することが肝要だ。
ECの業務プロセスは(1)受注と決済、(2)受注プロセシング、(3)物流プロセシングの三段階から成る。
(1)と(2)は不可分でも(3)は分離できる。
ECのプラットフォーム(PF)には、全プロセスを受託して在庫を預かり棚入れ・ピッキングして出荷する「フルフィル型」、(1)と(2)だけを受託して在庫を預からず受注情報を出品者に提供して出品者が顧客に出荷する「ドロップシッピング型」、日々の受注分を出品者がPFのFCに一括納品して棚入れせずスルーで仕分け出荷する「仕分け出荷型」がある。
手数料率は「フルフィル型」が26〜36%と最も高い。
百貨店の歩率と大差なく、単価が低い服飾雑貨では40%に迫るケースも聞く。
「仕分け出荷型」は棚入れ・倉庫管理・ピッキングのコストだけ料率が安くなるはずだが、棚入れ型の倉庫設備のまま、いったん棚入れしてしまう業者もあり、現実には「フルフィル型」と大差ない。
確実に料率が低くなるのが「ドロップシッピング型」だが、その分、出品者が棚入れ・倉庫管理・ピッキング・仕分け出荷・宅配委託のフルフィルを負担する必要があるから、トータルコストが低くなるとは限らない。
FCの棚入れ・ピッキングと全国区宅配便を回避してフルフィルのコストと時間を最小化する「商流」と「物流」を自ら設計・運用できることが突破口になる。
DXはサプライを革新できるか 物流を効率化するには「商流」の変革が不可欠だが、大元の生産段階が販売と分断された一方通行の計画生産ではダム型サプライから抜け出せない。
産業界ではトヨタのかんばんシステムやデルのBTO(受注生産)などオンデマンド生産の仕組みが確立されているが、前者は下請け孫請けまでの垂直統合による専用部品調達、後者は水平分業による汎用部品調達を前提としたもので、想定外の突発事態には脆いが通常運行ならオンデマンドに制御できる。
ただし、オンデマンド生産が成り立つのは、仕様や顧客オーダーのバリエーションがあってもオンデマンドな部品調達で同一商品を継続して生産するからだ。
アパレルでは同一商品を継続して生産・販売するケースは極めて限られ、部品(素材)調達も副資材を除けばほとんどバイオーダー(受注生産)だ。
ボタンやジッパーなどの副資材、量産合繊素材は汎用品が調達できても、多少なりとも意匠性のある素材は受注生産だから、素材・副資材を調達してから(このリードタイムが実に長い)一括して計画生産することになる。
継続販売する商品でも一括生産して生産地倉庫に積み上げ、消費地倉庫との二段階ダム型サプライで売り減らすケースが大半だから、かんばんシステムのように販売動向を生産ラインに反映する術がない。
大ロット生産の定番商品を継続販売する「ユニクロ」さえ二段階のダム型サプライで、低コストな遠隔地(南アジアや中国内陸部)で大量計画生産し、シーズンイン後の同一素材による近接地(中国沿海部)短納期追加生産でSKUごとの在庫バランスを補正しているのが現実だから(擬似パターンオーダーの「ジャストサイズ」が分かりやすい)、オンデマンドサプライは夢物語に近い。
アパレルの生産は受注商品ごとに全てのパーツを事前調達して生産工程をセットする必要があり、工程を分業(※)してもそれぞれの進行を合わせるのが困難で流れ作業にならず、ストップ&ゴーの繰り返しになる。
※分業方式‥‥ロットの大小、多能工か単能工かで分業生産の方式は異なる。
多能工で小ロット生産するのに適したのが「セル生産方式」で、一人が複数の工程を担当し、複雑なものでは一人で全工程を仕上げる。
単能工で大ロット生産するのに適したのが「ライン生産方式」で、工程ごとに担当してラインを流していく。
例え生産を流れ作業にできたとしても、海外での計画生産が大半となった今日では、高額な国内倉庫賃料を回避すべく販売時期が迫るまで生産地倉庫に積んで待つしかなく、コンテナ積載効率も考慮しなければならないから、作り溜めるというプロセスが避けられない。
そんな生産プロセスを効率化し、ストップ&ゴーを最小化すると期待されるのがDX(デジタル連携)だ。
アパレル(布帛製品)の生産プロセスはマーキング(※)〜裁断というCADCAMに始まって、縫製工程、仕上げ工程を経て物流加工で完了する。
※マーキング‥‥デザインを工業パターンに落として縫製パーツに分解し、柄や織地の合わせに違和感がないよう、無駄なく使えるよう一定幅の素材にパーツをレイアウトする工程。
その際の素材利用率を「収率」と言い熟練職人は85%を目安とするが、最新のマーキングCADはその水準を超える。
マーキング〜裁断はDXで企画段階と連携しCADCAMで自動化・高速化できるが、縫製工程は難易度とロットでライン(分業)生産とセル(一人完徹)生産を使い分けても各段階の進行と品質をそろえるのが難しく、計画通りに流す制御はかなりの熟練を要する。
仕上げ工程は布帛製品ではプレス仕上げ、ニット/カット製品では縮絨仕上げが要だが、前者では一点ごとの作業になり、後者では仕上がりを見ての修正が必須で、ストップ&ゴーが避けられない。
DXは企画と生産をつないで企画段階と生産仕掛かり段階のラグタイムを圧縮する効果が大きく、生産機器のCADCAM化も生産効率を高める。
しかし、素材調達のリードタイムを圧縮する効果は無く、物流加工段階以降も「商流」設計の革新を欠いては効果が及ばない。
国内や近隣地域での短納期生産はともかく、海外遠隔地での計画生産ではダム型サプライの解消は難しいだろう。
一つだけ突破口があるとすれば、個別のローカル(国)マーケットにフォーカスを絞り、AIがECやSNSを網羅して自動的に売れるデザインを大量に合成し(デザイナー不要)、DX連携した多数の小規模スマートファクトリーが即、手に入る素材で100点単位の小ロット高速生産を数日サイクルで繰り返し販売動向に擦り合わせていく方法で、中国のファストファッション越境EC「SHEIN」の爆発的急成長を支えるひとつのロジックとされる。
自動運転でAIが1秒に数十回・数百回の判断を繰り返して安全を担保するロジックと共通しており、自動ブレーキでその感覚を体験された方も少なくないのではないか。
究極はVMI戦略同盟 アパレルの生産はバイオーダーで分断される垂直分業型ゆえ非効率なストップ&ゴーが繰り返され、物流も積んでは流すダム型サプライを強いられる。
一度棚入れすればピッキングが不可避になり、いかにAIロボティクスを駆使しても効率化には限界がある。
ダム型サプライを回避し、積まずに仕分けて流すのが理想だが、それにはチャネルリーダーによる「商流」の戦略的設計が不可欠だ。
流体工学の基本は蛇口制御(プル)であり、店舗販売では棚割陳列とPOP/タグを軸としたアナログVMD(※)、オンライン販売ではテンプレートと「ささげ(撮影・採寸・原稿)」情報を軸としたデジタルVMDを起点に、販売消化動向に即応する補給と補充生産を仕組む。
※VMD(Visual Merchandising)‥‥店舗やECサイトで商品構成や個別商品を見易く買い易く魅力的に表現する陳列・演出技術体系(店舗では「管理・補充し易い」が加わる)で、在庫状況に即して販売消化を図る再編集運用が競われる。
店舗では「フェイシング管理」、ECサイトでは「さ・さ・げ」が基本で、両者の機動的連携が問われる。
倉庫在庫からの補給は棚入れとピッキングを伴うから、店舗販売では生産段階での物流加工で消費地倉庫のスルー仕分けを仕組み、オンライン販売ではドロップシッピングや店在庫引き当てで二重物流を回避し、予約販売や受注販売型クラウドファンディング、ライブコマースなどで一括スルー仕分け出荷を図る。
倉庫や店舗の在庫を引き当てても売り減らすだけだから、販売消化に即応するオンデマンド生産が求められるが、前述したようにアパレルの生産はバイオーダーのバッチ生産だから看板システムのようなオンデマンドは困難で、素材背景を前提に遠隔地での低コストな大ロット計画生産を近接地での割高な小ロット短納期生産(QR)で補正するのが定石だ。
EDIのAI進化にDXが加われば、システム上はQR補正生産の自動反復が可能だが、素材・副資材や生産ラインの確保を欠いては絵に描いた餅になる。
究極は意匠素材の潤沢な現物流通と小回りの効く中小工場の集積を背景にDXで小ロット高速生産を反復し、先行サンプルでのEC掲載を先行して、国際郵便小包配送(SAL便)の時間差(2〜3週間)を初期ロット分だけ航空便で送って埋めるタイムマシン・マジックで実質無在庫販売(ピッキングも不要)を実現する「生産値出荷型越境ECファストアパレル」だが、そんな生産背景がある中国や韓国では可能でも我国では困難だ。
これまでは川下の小売りチェーンやブランド事業者がSPAを謳ってチャネルリーダーを務めてきたが物流も生産も制御できず、販売情況で商流が崩れれば在庫が滞貨して金流も崩れ、サプライチェーンが行き詰まることも多かった。
生産も物流も商流も金流も制御できるのはDX装備した資金力ある川中のサプライヤー(商社やOEM事業者を含む)であり、彼らがチャネルリーダーとなって川下と取り組み、VMI(※)を仕切る戦略同盟こそ、行き詰まったアパレル流通を再生する突破口になると期待される。
※VMI(Vendor Managed Inventory)‥‥あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。
同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、ファストファッションやアクセサリー、ベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。
