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2021年11月号
特集

JIT物流から次世代モビリティシステムへ

トヨタ「ウーブン・シティ」の地下物流  今年10月5日、静岡県裾野市は2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指す「カーボンニュートラルシティ」を宣言した。
同日開催された裾野市の住民向け説明会には高村謙二市長と共に、トヨタ自動車が出資するウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナーCEOが同席、トヨタグループが裾野市で建設を進めている実証実験都市「Woven City(ウーブン・シティ)構想」の進捗について説明した。
 カフナーCEOは米グーグルの自動運転車開発チームの創設メンバーの一人で同社ロボティクス部門の責任者も務めた人物だ。
16年にトヨタ自動車が米シリコンバレーに設立したトヨタ・リサーチ・インスティテュートに転じた。
現在はトヨタグループの先進技術開発を統括するチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)として、トヨタ自動車の執行役員も兼務している。
 ウーブン・シティはトヨタが考える「未来のモビリティ社会」を具体化する未来都市だ。
トヨタ自動車東日本「東富士工場」跡地の70・8万平方メートルの敷地に、2千人前後の住民が暮らすスマートシティを建設する。
豊田章男社長が米ラスベガスで20年1月に構想を発表、今年2月に基礎工事がスタートした。
早ければ24年中にも第1期工事が完了して実際に人が住み始めるという。
 「Woven」とは「織られた」という意味の英語。
ヒト、モノ、コトがつながるコネクティッド社会を想起させる言葉であり、トヨタグループが祖業とする自動織機にも掛けている。
ウーブン・シティには次の3種類の「道」が網の目のように織り込まれて人々の暮らしを支えることになる。
・ ゼロエミッションの完全自動運転車が高速で通行する車両専用道路 ・ 歩行者と低速のパーソナルモビリティが共存するプロムナード ・ 歩行者専用の歩道  歩行者のいない車両専用道路であれば、レベル5の完全自動運転をすぐにでも実現できる。
プロムナードを走行する低速のパーソナルモビリティは人と共存しても重大事故の危険が小さい。
ウーブン・シティは私有地であるため法的な制約も受けない(厳密には道路交通法の適用対象だが「公道」と比べて自由度は高い)。
次世代モビリティを支える「CASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared & Service:シェアリング&サービス、Electric:電動化)」を一足早く実装できる。
 当初は150メートル×150メートルの区画に360人程度が住むことになるようだ。
それを実証実験の「原単位」として、高齢者世帯や子育て世代の生活者と技術やサービスの開発担当者で住民を構成、さまざまなアイデアを検証していく。
現実空間で集めたリアルタイムのビッグデータを基にシステム上に仮想の街を再現、「デジタルツイン」を活用して開発を加速する。
 ウーブン・シティでは都市物流が従来のトラック運送から地下輸送システムに移行する。
そのために四つ目の「道」として物流ロボット専用の地下道が建設される。
トヨタのオウンドメディア「トヨタイズム」によると、街に届いた宅配便などの荷物は全て物流センターで、トヨタが「S-Palette」と呼ぶ自動運転配達ロボットに載せ替えられて地下通路を走行して各戸に運ばれる。
 各戸の玄関前には「スマートポスト」が備え付けられている。
S-Paletteがそこに荷物を格納して戻っていく。
自宅や店舗から荷物を出荷したり、ごみを出したい時もスマートポストに入れておけば、S-Paletteが自動的に回収する。
人が家の外で荷物を運ぶことは基本的にないという。
 地下ロジスティクスには現在、トヨタだけでなく世界の多くの企業や研究者が関心を寄せている。
EC市場の成長は今や物流の処理能力が制約になっている。
その一方で新興国を中心に都市部の交通渋滞と大気汚染が深刻化している。
解決策として地下輸送システムに期待がかかっている。
 個人事業主やギグワーカーに頼った現在のECラストワンマイルは労働問題を内包している。
持続可能性には疑問符が付く。
ドローンは処理能力に限界があり、主要な輸送モードにはなり得ない。
地下に大量の物量を高速処理する自動搬送システムを整備すれば、都市部の交通問題と環境負荷を同時に解決できる。
EC市場の一層の拡大が可能になる。
「スコープ3」が変革の引き金に  ウーブン・シティの建設に先立つ20年9月に、トヨタ自動車はお膝元の東海地区で大規模なミルクラン輸送を開始している。
「必要なものを、必要なときに、必要な数だけ」生産するために、サプライヤーがそれぞれ車両を手配してトヨタの生産ラインにJIT納品する従来の体制を改めた。
 関係者によると、そのためにトヨタは組み立て工場の隣接地に自社倉庫を用意してフルトレーラーなどの大型車でサプライヤーの工場を集荷に回っている。
これまでサプライヤーは主に中小型車を使って、かんばんに従い1日に何度もトヨタの工場へピストン輸送していた。
 調達物流の輸送ロットを大型車単位にまとめて配送頻度を減らせば、CO2排出量は大幅に減る。
ドライバー不足対策にもなる。
ただし、トヨタ側の在庫は増える。
新たに倉庫費用も発生する。
サプライヤーから徴収する輸送費ではとても吸収できないはずだ。
 それでもトヨタがミルクランに踏み切ったのは、サプライチェーン全域にわたる環境負荷低減が物流コストの削減以上に切実な問題になっているからだ。
トヨタ以外の自動車組み立てメーカーは従来から既にどこもミルクランに移行している。
最後まで効率化にこだわりJIT納品を維持してきたトヨタでさえ、もはや方針転換が避けられなくなった。
 温室効果ガス(Greenhouse Gas=GHG)排出量の算定と報告に関する国際基準「GHGプロトコル」は、サプライチェーン上で発生する排出量を次の三つに分類している。
スコープ1:事業者自らによる直接排出 スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出 スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出  このうちスコープ3は原材料の調達から製品の廃棄に至る製品ライフサイクル全体で発生する排出量を対象としている。
日本企業の環境報告は当初、スコープ1、スコープ2までだった。
それが現在はスコープ3に広がっている。
そうしなければESG投資の要求を満たせないからだ。
 サプライチェーン排出量を測定する以上、それで終わりということはあり得ない。
数値目標を定めて削減を進めていくことになる。
物流部門に新たなKPIが突き付けられる。
3PLの役割も変わる。
スコープ3の測定と排出量削減がソリューションとして求められる。
コスト効率に偏重していたロジスティクスの見直しが始まる。
サプライチェーンが組み替えられる。

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