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2021年11月号
特集

「動く倉庫」と「動かない輸送」が常識を覆す

物流の変革~動く倉庫と動かない輸送  物流において従来の常識が覆される原動力となるのはテクノロジーの驚異的な進化である。
今日、テクノロジーは単に進化しているだけでなく、進化のスピードが加速している。
さらにこれから複数のテクノロジーが組み合わされて信じられないような現象が生み出されていくだろう(注*1)。
 近い将来登場する完全自動運転EVトラックは単に輸送手段としてだけ使用されるのでなく、製造テクノロジーの革新を背景とした車両価格の急激な低下により、コンテナのように倉庫の役割をも果たすことになるだろう。
それは「動く倉庫」とでもいえるものとなる。
 同じく近い将来において輸送のかなりの部分は、遠隔制御が可能な無人製造ユニットによるオンデマンド生産に代替される。
移動手段による輸送が、いわば「動かない輸送」によって肩代わりされるようになる。
 このような変革を促進するのは外部環境の変化である。
とりわけ世界的に生じている脱炭素化への急速な傾斜は上記のような変革を強く後押しすることになるだろう。
本稿では、このような劇的な物流の変革の可能性について検討していく。
輸送と保管という物流機能の本質  まず、物流の機能の中心を成している輸送と保管についてその本質を考えてみたい。
輸送とは産地と消費地の間にある距離的な隔たりを埋める機能であり、その本質は「場所的離隔の解消」だといえる。
これに対して、保管とは生産と消費の間に時間的なズレがある場合に、その時間的な隔たりを埋めるための機能である。
その本質は「時間的離隔の解消」ということができる。
 これまで、輸送という機能を担ってきたのはトラック、鉄道、飛行機、船といった移動手段であった。
これらの移動手段によって荷物を産地から消費地に動かすことで場所的離隔を解消してきた。
一方、保管の機能を担ってきたのは倉庫である。
倉庫という建築物の中に荷物を預かっておくことで、必要とする時間的な離隔を安全に経過させることができたわけである。
 ここで疑問が生じる。
果たして、輸送が担っている「場所的離隔の解消」という効果は本当にトラックなどの移動手段がなければ実現できないものだろうか。
この20~30年の間にわれわれの身の回りには、移動手段の助けを借りずに場所的離隔を解消した商品が次々に現れている。
 その典型例が音楽のストリーミング配信だ。
以前は音楽を購入するにはレコードやCDなどの音楽情報が化体した物体を買うしか方法がなかった。
従って、そこにはレコードやCDという物体の物理的移動、すなわち輸送が発生した。
 しかし、今や音楽情報の移動に媒体としての物体は必要ではない。
音楽情報はインターネットを経由するデジタル情報の形をとり、驚くべき頻度と速度で世界中を移動している。
同じような現象は他の商品、例えば写真、ビデオ、ソフトウエア、書籍、チケットなどさまざまなものについても生じている。
つまり、以前は情報を化体した物体そのものが移動していたが、現在では情報だけが移動するようになったのである。
 では、このような現象は音楽や映像のように物体を記録媒体として必要とするものに限られるのだろうか。
この点を理解するには、そもそも商品には何が化体されているのかについて検討しなければならない。
 例えば、自動車の部品を製造している部品メーカーにとって部品は商品である。
ここで仮にA社という部品メーカーがあるとしよう。
そして、自動車メーカーX社は長期間にわたってA社から部品を仕入れている。
このX社がA社の部品を仕入れる理由を考えると、A社の部品が性能、品質、価格などの点で競合他社より優れていて、簡単には他社には作れないからだと考えられる。
 仮にこの部品の原材料は一般的な金属などであり特殊性はないとすると、X社が購入している商品の実体は金属などによって物体化されているA社の「製造テクノロジーやノウハウ」だと理解できる。
つまり、X社はA社の「製造テクノロジーやノウハウ」が化体した物体である部品を購入しているわけである。
 ただし、この場合、音楽などの化体している記録媒体と異なり、物体である部品から「製造テクノロジーやノウハウ」という情報(これを以降は「製造情報」と呼ぶことにする)を抽出することは容易ではない。
リバースエンジニアリングという非常に困難な作業を行わなければならないからである。
その結果、通常の場合はX社はA社から継続して部品を購入し続けることになるのである。
製造情報が物体と一体化していた理由  さて、従来、A社が製造情報を化体させて部品という物体を製造する場所はA社の工場であることが常だった。
工場は製造テクノロジーやノウハウの源泉である従業員と製造用の機械類とが所在する場所であり、それ以外の場所で製造することは事実上不可能だった。
 そして、A社の工場は通常はX社の組み立て工場とは距離的な隔たりがあるため、何らかの移動手段によって部品という物体を物理的に移動させる必要があった。
これが従来の輸送の現象形態であり、私たちが長い間、輸送とはこういうものだと理解してきた姿である。
 しかし、もし、製造情報の化体した物体を移動させるのではなく、製造情報それ自体をX社の組み立て工場の敷地内に設置した独立の製造ユニットに移動させて、そこで部品を製造できるならばどうだろうか。
この場合、物体化する地点はX社の工場敷地内であり、もはやトラックなどの移動手段は不要となる。
 ここで注意が必要なのは、上記の場合、独立の製造ユニットはあくまでA社のコントロール下にあり、しかもA社の従業員がそこに駐在して作業しているわけではないということだ。
もしA社のコントロール下になければX社または他社への製造委託がなされているだけであり、A社の従業員がそこに駐在して製造しているのなら単にA社の工場がそこにあるだけの話だからである。
 なお、X社の敷地内に置かれた独立の製造ユニットのことを本稿では「IMU(Intensive Manufacturing Unit)」と呼ぶことにする(図1)。
IMUは遠隔無人製造ユニットであり、例えばA社の所在地のような遠隔地から製造情報をX社の敷地内に置かれたIMUに移動させ、内部の無人製造装置群によって部品という物体に製造情報を化体させる作業が行われることになる。
IMUの設置をX社が許可するメリット  ここで視点をX社側に移すと、なぜIMUの設置をX社が敷地内に許可するのかという疑問が生じる。
A社のためにだけ、そのようなスペースを提供するのは無駄ではないのか。
 実はIMUはA社専用ではない。
IMUは基本的にX社に部品を納入している複数の部品メーカーがタイムシェアリングで利用できる遠隔無人製造ユニットなのだ。
もちろん、そのような共同利用を可能とするためにはIMU側にいくつかの条件が備わっている必要がある。
少なくとも、製造装置の汎用性・組み換え容易性、原材料の多様性と標準化・共通化といった条件がクリアされていることが前提となる。
また、製造情報の秘匿性も重要な条件である。
 このような条件がクリアされれば、X社に部品を供給する大多数の部品メーカーがIMUを利用するようになるだろう。
その結果、X社は部品の物理的な移動によるコストや時間的制約を免れるというメリットを享受できるのである。
IMU実現に必要なテクノロジー  では、IMUを実現するために必要となるテクノロジーはどのようなものだろうか。
 中心となるテクノロジーは柔軟な製造を可能とする深層強化学習型ロボットである。
深層強化学習とはAI(人工知能)の一分野であり、AI自身が試行錯誤しながら適切な動作を学習していく手法である。
従って、深層強化学習型ロボットは従来の産業ロボットとはまったく異なり、さまざまな状況に柔軟に適応していくことが可能だ。
なお、図1では4本の腕を持った汎用製造ロボットとして登場させている。
 次に重要なテクノロジーが3Dプリンターである。
3Dプリンターとは「3次元的なデジタル・モデルをもとにして、(現実の)物体をつくりだすことができる機械(*2)」であり、今では金属部品をはじめ多種多様な造形物を製造することが可能となっている。
製造スピードや仕上がり品質の点で改良すべき点はまだ残っているが、今後重要な製造テクノロジーとなることは疑いない。
 なお、図1では下部がオレンジ色の箱のようなイメージで表現している。
他にもAI化したマシニングセンター(MC)やAGV(無人搬送車)など、多種類の完全自動化した製造装置が必要となる。
 ここで重要なことは、ロボットや3Dプリンターを含め全ての製造装置が移動可能となっていることだ。
これはIMUを使用する部品メーカーによって必要となる製造装置の種類と配置が異なるためである。
 例えば、部品製造メーカーA社がタイムシェアリングしているときはA社専用の配置となり、全ての装置にA社の製造情報がインプットされた状態となる。
そして、B社がタイムシェアリングするとB社専用の配置にすばやく自動的に配置換えが行われ、各装置のメモリはB社の製造情報で書き換えられる。
 なお、現状のロボティクスは、まだまだ柔軟性や判断力の点で人間のレベルに到達していない。
そこで、こうしたスキマを埋める手段として「テレオペレーションロボット」をIMUに配置しておく必要がある。
テレオペレーションロボットは、基本的な動作に関してはAIが補佐するが、遠隔地にいる人間がVRを使用して現場の状況を視認しつつ、ロボット操作用の装置を使って遠隔操作する。
主要な動作は人間の遠隔操作によって行われるため、判断力の必要な柔軟な作業が可能となる。
このタイプのロボットでは遠隔操作の際に生じるタイムラグが問題になるが、超低遅延技術開発の進展により支障がなくなりつつある。
 以上のような製造装置群に加えて、製造情報や配置換え情報の円滑な伝達を調整するための窓口となるポータルAIが別途必要である。
なお、装置の故障や入れ替えなどの特別な場合以外はIMU内に人が立ち入ることはできない。
これは人の安全のためでもあるが、製造情報の秘密保持のためでもある。
また、IMU自体が移動可能であり、例えばX社が自動車製造から撤退した場合、別の自動車メーカーY社の要請によりY社の敷地に移動していくのである。
脱炭素化が「動かない輸送」を促す  IMUを利用する場合でも原材料という物体の物理的移動は残る。
しかし、各部品メーカーから部品を物理的に移動させる必要があった時代に比べると、圧倒的に物理的移動の頻度は減少する。
 現在の主要な移動手段であるトラックが、ガソリン車からEVに置き換われば、移動手段の排出する温室効果ガスの量は大幅に削減されることは確かである。
しかし、EVを充電するための電力を火力発電で賄うのであれば、その分の温室効果ガスは削減できない。
 日本の自然環境は太陽光発電や風力発電には不向きである。
今後もかなりの部分を火力発電などに頼らざるを得ないため、ガソリン車をEVに置き換えただけでは脱炭素化の要請に十分に応えることができない可能性がある。
そのため恐らくは他の国以上に、移動手段に頼る輸送をできるだけ回避し、IMUを利用した「動かない輸送」を推進することになるだろう。
「動く倉庫」のコンセプトとは?  「動く倉庫」のコンセプトは「物理的移動という意味での輸送のためだけに完全自動運転EVトラックを使用するのでなく、コンテナ代わりに保管用途でも利用する」というものである。
そこにどのようなメリットがあるのか。
また、そのような使い方に経済合理性はあるのか、以下に検討する。
 まず、前提として除外しておかなければならないケースがある。
それは仕分けや流通加工などのために荷下ろしして作業する必要がある場合だ。
このような場合はトラックに積んだままにしておくわけにはいかないので「動く倉庫」という使い方はできない。
 では、積載する荷物が仕分けや流通加工が不要なものであればどうだろう。
完全自動運転EVトラックは荷物を積載したまま充電設備付きの専用駐車場で保管期限まで待機する。
そして、保管期限が来て輸送の必要が生じた場合、完全自動運転EVトラックは目的地に向かって勝手に移動していくことになる。
つまり、従来、トラックは輸送を担い、保管には倉庫という特別な施設を用いていた。
それが完全自動運転EVトラックという同一の手段によって輸送と保管の二つの機能が担われるようになるというわけだ。
これを完全自動運転EVトラックの視点で見ると「動く倉庫」と表現できるし、施設の視点で表現すると「Warehouse(倉庫)」ではなく「WareParking」といった造語が相応しいものになるだろう(図2)。
「動く倉庫」のメリットと経済的合理性  「動く倉庫」が可能にする最大のメリットは、従来必要とされてきた倉庫の大部分と荷役(仕分けや流通加工の必要がない場合でも行わなければならない荷役)が不要となることである。
 また、「動く倉庫」実現の前提となるEVトラックが完全自動運転車であることから、ドライバーを発地に戻すためにトラックを走行させる必要もなくなる。
これも脱炭素化の要請に応えるものとなるだろう。
繰り返すが、日本ではEVトラックといえども充電のための電力を火力発電で賄わなければならない可能性が高いからである。
 では、経済的合理性の点はどうだろうか。
従来のトラックであれば専用駐車場に長期間停車したままにするなどという使い方は想像もできなかった。
トラック価格が高価だからである。
高価ゆえに1台のトラックをできるだけ使い回さなければならない。
使い回すには、ひとまず荷下ろしして荷台を空ける必要がある。
そのためにも倉庫が必要だったのである。
 では、完全自動運転EVトラックの価格は今後どうなるのだろうか。
日本電産の永守重信会長は「将来的に電気自動車(EV)の価格は5分の1になる。
(*3)」と予測している。
 そもそもEVは従来の内燃エンジン車と比較して構造がシンプルだ。
端的に言えばバッテリーとモーターをボディに収めれば済む。
内燃エンジン車に比べて製造が簡単なので基本的に製造コストは低下する。
そこに大量のロボットを導入すればコスト削減効果はいっそう大きくなる。
 自動車製造においてロボット化を積極的に推し進めている米テスラでは従来「モデルY」のボディ製造ラインに約1千台のロボットを使用していた。
しかし同社は「ギガ・プレス」と呼ばれるダイキャストマシンを導入することで従来70個の部品が必要だった後部ボディをたった1個の鋳物に置き換えた。
その結果、約1千台のロボットのうち約300台を不要にした。
 このような製造テクノロジーの革新を背景としたEV価格の急激な低下により、車両を無理して使い回す必要性はどんどん小さくなっていく。
倉庫での荷役料や保管料を考えると、むしろ車両に積載したまま保管期限まで駐車しておいた方が経済的合理性にかなう分岐点がいずれ必ず訪れることになるだろう。
引用・参考文献 *1 参考:ピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラー(土方奈美訳)「2030年:すべてが『加速』する世界に備えよ」2020、ニューズピックス *2 出典:ウィキペディアの執筆者、2021、「3Dプリンター」『ウィキペディア日本語版』、(2021年9月27日取得、https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=3D%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC&oldid=85512954) *3 出典:井上久男「電気自動車の『価格破壊』で、トヨタの売り上げが『5分の1』になる日」2020、(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77074)

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