2021年11月号
特集
特集
ロジスティクス部門におけるESGの実行
「2024年問題」のタイムリミット
日本の大手企業が挙って「ESG経営」を掲げるようになった。
物流の実務家の多くは新たなコストアップ要因の登場を危惧している。
あるいは余計な手間が増えることを懸念している。
しかし、決してネガティブになる必要はない。
物流部門はESGを推進力に利用することで長年の課題を解決できる。
物流企業は売り上げの拡大を期待できる。
その具体策を伝えるため、われわれ船井総研ロジは今年8月と9月の2回にわたり「ロジスティクスにおけるESG実行の手引き公開セミナー」と題したウェビナーを開催した。
中堅クラスの荷主企業や3PL経営層を受講者として想定した企画だったが、蓋を開けてみれば参加者の大部分は各産業を代表するような荷主企業の実務家たちだった。
もともと株式を公開している企業と未上場企業ではESGの受け止め方に温度差がある。
上場企業にとってESGは資金調達に直結するテーマだが、未上場企業にそれだけの切実さはない。
経営層でもESGに手を伸ばすほどの余裕はないと考えている会社が大多数であろう。
しかし、ESGを武器として生かせるのは、むしろ中小荷主や物流会社だと筆者は考えている。
ESGに取り組むメリットは持続的な成長だ。
ESGが表す「環境」「社会」「企業統治」はいずれも企業にとってリスクになり得る。
自然環境の破壊や労働環境の悪化は従業員の離職率を高め、生産性を低下させる。
短期的な業績に振り回されることなく継続的にESGに取り組むことが新たな顧客や取引先の開拓につながり、中長期的な企業成長を可能にする。
例えばESGの「S(社会)」において、最大のテーマとなる「人的資源」は大企業より中小にとってより重要な問題だ。
大企業の従業員は一部の例外を除き既に守られている。
異常な労働時間を強いられることはなく、取引先に対しても無茶な要求はしなくなっている。
しかし、中小は同じではない。
ワークライフバランス、労働環境の改善は十分とは言えず、協力運送会社をはじめ取引先との関係性にも問題を抱えている。
現状のままでは、目の前に突き付けられた最大の課題「2024年問題」にとても対応できない。
2019年に施行した働き方関連法案で、運送会社に認められた適用猶予期間が24年3月末日に終了する。
24年4月1日以降、ドライバーの時間外労働は年960時間制限されて、時間外割増賃金率が大幅に引き上げられる。
従来と同じ業務を委託している場合、単純にドライバーの人件費の値上がり分だけを計算しても支払い運賃が2割前後上昇するケースが頻発することになる。
17年の物流危機以来となる大幅な実質値上げだ。
売上高物流費比率の高い荷主にとっては死活問題にもなり得る。
2024年問題への対応は24年4月1日のちょうど1年前に当たる、23年3月末日が事実上のタイムリミットだ。
全国規模の荷主であれば協力物流会社の数も膨大だ。
各社との打ち合わせだけでも相当な時間を要する。
サプライヤーとの取引条件の見直しや人員配置の変更も発生する。
それらを逆算していくと23年4月には、24年4月からの新体制をスタートしておく必要がある。
そうしないと物流部門は24年度の予算組みができない。
物流企業は事業計画を立てられない。
2024年問題は事実上「2023年問題」なのだ。
残された時間は1年余り。
まさしく待ったなしだ。
ほとんどの荷主は支払い物流費の増加を避けられないだろう。
しかし、コストアップ分をそのまま予算に計上することが許されるケースは多くない。
物流部門は2024年問題への対応策と並行して、コストアップを吸収するための原価低減を迫られる。
原価低減は着手から効果の刈り取りまでに時間を要する。
これもやはり1年は見ておく必要がある。
荷主は考え方を逆転させなければならない。
支払い物流費の削減によってコストメリットを生み出すという発想から離れて、運送原価と庫内人件費の単価を所与のものとして24年4月以降も安定的に物流インフラを維持していくために何をすべきかを考える。
ESGがその旗印になる。
ESGが物流施策を再定義する 図はESG投資の評価項目だ。
このうち赤で括ったところが、物流と深く関与している。
それぞれの項目について具体的な物流施策を何十も並べることができるが、その骨格は次のように整理できる。
すなわち「ESG」の「E(環境)」は「共同配送」「拠点集約」「モーダルシフト」が柱になる。
「S(社会)」は「労働環境改善」「ワークライフバランス」「サプライチェーン(取引先の労働環境基準)」。
そして「G(ガバナンス)」は「CO2削減」「労働災害」「企業倫理」だ。
これらの施策はいずれも相互に深く関連している。
共同配送や拠点集約など、そこに挙がっている施策自体に目新しさはない。
しかし、それらをESGの推進策の一つとして位置付けることで、物流部門は取引先や営業部門を巻き込んでいくことができる。
手垢の付いたテーマのように感じても実際にはやれることがたくさんある。
例えば共同物流には大きく四つの領域がある。
「共同配送」「共同幹線」「共同集荷」そして「共同保管」だ。
しかし筆者の知る限り現状の取り組みは末端の共配ばかりに偏っている。
ごく一部の会社が求車求貨機能を生かした共同幹線にも手を伸ばしているという状況だ。
共同集荷に関しては手付かずの場合がほとんどだ。
そこには大きな改善の余地が残されている。
実際、筆者は前職の物流子会社で調達物流の共同化に取り組み、環境負荷低減と遊休アセットのプロフィットセンター化を実現した。
まずは工場から出荷する幹線輸送の帰りにサプライヤー1社の出荷場所に立ち寄り、製品を工場に持ち帰るシンプルなスキームから出発した。
それだけでも空荷の運行を減らすことはできる。
しかし、積載率には課題があった。
そこで次に既存倉庫の空きスペースを積み替え用のTC(トランスファーセンター)として機能させて、集荷した製品を集約した。
さらに親会社だけでなく、競合メーカーや外販荷主の荷物も全てTCに取り込んで輸配送を共同化した。
調達物流の積載率を大幅に引き上げることができた。
一連のスキーム構築と運営に筆者は都合15年にわたり従事した。
当時はESGなど当然ながら念頭にはなかった。
しかし、共同物流はESGの大テーマ「地球温暖化」に直接効く。
その環境負荷低減効果はそのままESGの指標に反映できる。
物流施策にコスト効果以上の意味を与えてくれるのである。
物流の実務家の多くは新たなコストアップ要因の登場を危惧している。
あるいは余計な手間が増えることを懸念している。
しかし、決してネガティブになる必要はない。
物流部門はESGを推進力に利用することで長年の課題を解決できる。
物流企業は売り上げの拡大を期待できる。
その具体策を伝えるため、われわれ船井総研ロジは今年8月と9月の2回にわたり「ロジスティクスにおけるESG実行の手引き公開セミナー」と題したウェビナーを開催した。
中堅クラスの荷主企業や3PL経営層を受講者として想定した企画だったが、蓋を開けてみれば参加者の大部分は各産業を代表するような荷主企業の実務家たちだった。
もともと株式を公開している企業と未上場企業ではESGの受け止め方に温度差がある。
上場企業にとってESGは資金調達に直結するテーマだが、未上場企業にそれだけの切実さはない。
経営層でもESGに手を伸ばすほどの余裕はないと考えている会社が大多数であろう。
しかし、ESGを武器として生かせるのは、むしろ中小荷主や物流会社だと筆者は考えている。
ESGに取り組むメリットは持続的な成長だ。
ESGが表す「環境」「社会」「企業統治」はいずれも企業にとってリスクになり得る。
自然環境の破壊や労働環境の悪化は従業員の離職率を高め、生産性を低下させる。
短期的な業績に振り回されることなく継続的にESGに取り組むことが新たな顧客や取引先の開拓につながり、中長期的な企業成長を可能にする。
例えばESGの「S(社会)」において、最大のテーマとなる「人的資源」は大企業より中小にとってより重要な問題だ。
大企業の従業員は一部の例外を除き既に守られている。
異常な労働時間を強いられることはなく、取引先に対しても無茶な要求はしなくなっている。
しかし、中小は同じではない。
ワークライフバランス、労働環境の改善は十分とは言えず、協力運送会社をはじめ取引先との関係性にも問題を抱えている。
現状のままでは、目の前に突き付けられた最大の課題「2024年問題」にとても対応できない。
2019年に施行した働き方関連法案で、運送会社に認められた適用猶予期間が24年3月末日に終了する。
24年4月1日以降、ドライバーの時間外労働は年960時間制限されて、時間外割増賃金率が大幅に引き上げられる。
従来と同じ業務を委託している場合、単純にドライバーの人件費の値上がり分だけを計算しても支払い運賃が2割前後上昇するケースが頻発することになる。
17年の物流危機以来となる大幅な実質値上げだ。
売上高物流費比率の高い荷主にとっては死活問題にもなり得る。
2024年問題への対応は24年4月1日のちょうど1年前に当たる、23年3月末日が事実上のタイムリミットだ。
全国規模の荷主であれば協力物流会社の数も膨大だ。
各社との打ち合わせだけでも相当な時間を要する。
サプライヤーとの取引条件の見直しや人員配置の変更も発生する。
それらを逆算していくと23年4月には、24年4月からの新体制をスタートしておく必要がある。
そうしないと物流部門は24年度の予算組みができない。
物流企業は事業計画を立てられない。
2024年問題は事実上「2023年問題」なのだ。
残された時間は1年余り。
まさしく待ったなしだ。
ほとんどの荷主は支払い物流費の増加を避けられないだろう。
しかし、コストアップ分をそのまま予算に計上することが許されるケースは多くない。
物流部門は2024年問題への対応策と並行して、コストアップを吸収するための原価低減を迫られる。
原価低減は着手から効果の刈り取りまでに時間を要する。
これもやはり1年は見ておく必要がある。
荷主は考え方を逆転させなければならない。
支払い物流費の削減によってコストメリットを生み出すという発想から離れて、運送原価と庫内人件費の単価を所与のものとして24年4月以降も安定的に物流インフラを維持していくために何をすべきかを考える。
ESGがその旗印になる。
ESGが物流施策を再定義する 図はESG投資の評価項目だ。
このうち赤で括ったところが、物流と深く関与している。
それぞれの項目について具体的な物流施策を何十も並べることができるが、その骨格は次のように整理できる。
すなわち「ESG」の「E(環境)」は「共同配送」「拠点集約」「モーダルシフト」が柱になる。
「S(社会)」は「労働環境改善」「ワークライフバランス」「サプライチェーン(取引先の労働環境基準)」。
そして「G(ガバナンス)」は「CO2削減」「労働災害」「企業倫理」だ。
これらの施策はいずれも相互に深く関連している。
共同配送や拠点集約など、そこに挙がっている施策自体に目新しさはない。
しかし、それらをESGの推進策の一つとして位置付けることで、物流部門は取引先や営業部門を巻き込んでいくことができる。
手垢の付いたテーマのように感じても実際にはやれることがたくさんある。
例えば共同物流には大きく四つの領域がある。
「共同配送」「共同幹線」「共同集荷」そして「共同保管」だ。
しかし筆者の知る限り現状の取り組みは末端の共配ばかりに偏っている。
ごく一部の会社が求車求貨機能を生かした共同幹線にも手を伸ばしているという状況だ。
共同集荷に関しては手付かずの場合がほとんどだ。
そこには大きな改善の余地が残されている。
実際、筆者は前職の物流子会社で調達物流の共同化に取り組み、環境負荷低減と遊休アセットのプロフィットセンター化を実現した。
まずは工場から出荷する幹線輸送の帰りにサプライヤー1社の出荷場所に立ち寄り、製品を工場に持ち帰るシンプルなスキームから出発した。
それだけでも空荷の運行を減らすことはできる。
しかし、積載率には課題があった。
そこで次に既存倉庫の空きスペースを積み替え用のTC(トランスファーセンター)として機能させて、集荷した製品を集約した。
さらに親会社だけでなく、競合メーカーや外販荷主の荷物も全てTCに取り込んで輸配送を共同化した。
調達物流の積載率を大幅に引き上げることができた。
一連のスキーム構築と運営に筆者は都合15年にわたり従事した。
当時はESGなど当然ながら念頭にはなかった。
しかし、共同物流はESGの大テーマ「地球温暖化」に直接効く。
その環境負荷低減効果はそのままESGの指標に反映できる。
物流施策にコスト効果以上の意味を与えてくれるのである。
