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2021年11月号
特集

日立物流 脱炭素を切り口に荷主と3PLの関係性深化

物流企業の脱炭素化戦略  日立製作所は9月13日、自社製品の調達から製品の使用まで含めたバリューチェーン全体のCO2排出量を2050年度までに実質ゼロにすると発表した。
50年度までに10年度比で80%削減するという従来の目標値を引き上げた。
自社の排出量については30年度までにゼロにする計画だ。
 これに先立つ7月には「サステナブル調達ガイドライン 第4版」を調達約3万社に配布した。
そのうち取引額全体の7割を占める主要調達先800社に対しては、個別にCO2削減計画の策定を要請している。
同社は環境技術(グリーンテクノロジー)を今後の事業成長の牽引役と位置付けている。
自らサプライチェーンの脱炭素化を推進することで巨大市場に先鞭をつける。
 日立物流も歩調を合わせている。
21年4月、「CO2排出量可視化ソリューション」を正式にローンチした。
荷主の基幹システムからCO2排出量の算出に必要な実績データを自動収集、温暖化対策法や省エネ法に準拠した算出方法でモニタリングする。
排出の実態や改善効果を正確に把握できる。
 同社はエンド・トゥ・エンドのサプライチェーンを見える化して分析・シミュレーションするためのデータマネジメント基盤を18年に実装している。
社内利用を目的に開発したシステムだが、19年度から「SCDOS(Supply Chain Design & Optimization Services)」と名付けて顧客向けにも機能を提供している。
 その基盤をCO2排出量の可視化に利用した。
荷主のERPや物流拠点のWMS・TMSなどに分散している生データを吸い上げて編集・加工、「燃料法」や「燃費法」などの精緻な算定手法に準じた測定値を見やすい形でアウトプットする。
 日立物流の森尾直弥 経営戦略本部 経営戦略部 主任が、日立グループの戦略シンクタンク、日立総合計画研究所(日立総研)に出向中の19年度にまとめた「サプライチェーンの脱炭素化に向けた物流企業の戦略」と題した一本のレポートが、同サービスを開発するきっかけとなった。
 日立総研は日立製作所の経営陣に対して定期的に研究報告を行っている。
森尾主任が日立総研に出向した18年10月当時から既にカーボンニュートラルはグループ戦略の大きなテーマとなっていた。
「この動きを物流企業としてどう捉えていくべきかという問題意識から報告書の作成に取り組んだ」と森尾主任はいう。
 世界各国・地域の環境規制は年々強化され、排出量の算定開示基準は厳格さを増している。
さらに運用総額約100兆ドル(1京1千兆円)を超える世界の投資マネーがESG経営に注目している。
世界持続的投資連合(GSIA)によると、20年の世界のESG投資額は18年比で15%増の35・3兆ドル(約3900兆円)に達した。
うち日本は同32%増の2・9兆ドルだった。
 企業のESGへの取り組みは、NPOの英CDPをはじめとする第三者機関によって評価される。
それを参考に機関投資家や金融機関は投資や融資を判断する。
国際組織「GHGプロトコル・イニシアチブ」の定める算定基準「スコープ3」=サプライチェーン排出量の開示が第三者機関から高評価を得るための必要条件の一つになる。
 物流から発生する排出量はスコープ3の44%を占めている(IEA調べ、2015年)。
その算定や削減を、荷主企業は物流企業の協力なしには実施できない。
荷主のサプライチェーン排出量の見える化と削減は物流企業の社会的な使命であり、3PLの大きなビジネスチャンスがそこにある。
森尾主任は報告書でそう結論付けた。
 20年10月、出向から戻った森尾主任は、日立物流の経営層に報告書の内容を基にしたソリューション開発を提案した。
SCDOSにCO2の測定機能を付加すれば、大規模な開発を必要とせずクイックスタートが可能になるというアイデアだった。
すぐに提案は承認され、IT戦略本部デジタルビジネス推進部でSCDOSを担当している半澤康弘部長補佐が開発プロジェクトのリーダーに指名された。
 半澤部長補佐は「それまで環境について特に意識していたわけではなかったが、提案書の内容には深く共感できた。
実際に測定に必要なデータの種類や範囲を調べたところ、SCDOSとの親和性は高く、ほとんどが既にカバーできていた。
CO2を計算するロジックさえ組み込めばすぐにスタートできると分かった」という。
 ただし、ソリューションの市場性を確認する必要があった。
今年2〜3月にかけて、既存荷主と各業種の代表的企業を中心に200社余りの開示状況を調査した。
その結果、現状では上場企業でも大半は「スコープ1:直接排出量」と「スコープ2:利用エネルギーによる間接排出」の開示にとどまっていた。
スコープ3を開示している企業は、22年4月にスタートする東証プライム市場の候補銘柄でも2割程度にすぎなかった。
しかも、ただし書きを添えて、データの取得が容易な限られた範囲を算出しているケースがほとんどだった。
 半澤部長補佐は「今のところスコープ3を開示しているのは環境意識の高い一部の先進企業に限られている。
しかし、プライム市場では開示の義務化が検討されている。
いずれは日本もスコープ3まで進む」という。
開示の遅れはむしろ好都合だった。
 物流業界の競合状況も調べた。
欧米では国際インテグレーターやメガフォワーダーが荷主向けにCO2排出量をレポートするシステムを提供している。
日本でも一部の物流企業やスタートアップが同様のサービスを始めていた。
しかし、SCDOSを基盤にした日立物流のソリューションには十分に競争力があることを確認できた。
 同社は脱炭素をきっかけに次の三つのステップで荷主企業との関係性を深めていく戦略を描いている。
第1ステップは排出量の「見せる化」。
第2ステップがその削減。
そして第3ステップが廃棄量自体の削減による脱炭素化、サーキュラーエコノミー化だ。
3PLとしてその取り組みを主導することで物流コスト削減だけでなく、荷主の企業価値向上に直接貢献していく考えだ。

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