2021年11月号
特集
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日本能率協会グループ 「ESG時代のSCMに関する自主調査」を読む
SDGsは始まったばかり
──本調査の狙いから。
日本能率協会総合研究所(JMAR)小阪貴之 組織・人材戦略研究部 主任研究員「ここ数年、ESGやSDGs、コンプライアンスといった観点から、個別企業のサプライチェーンに関する調査を依頼されることが増えています。
しかし、このテーマで日本の産業界全体の動向や実態が分かる資料は調べた限り見当たりませんでした。
そこで日本能率協会グループの自主調査として企画しました。
設問の設計や分析にはSCMの専門知識が必要になるため、日本能率協会コンサルティングに協力を求め、調達領域のコンサルティング実績が豊富な加賀美氏の支援を受けてプロジェクトを進めました」 ──加賀美氏のバックボーンは? 日本能率協会コンサルティング(JMAC) 加賀美 行彦 生産コンサルティング事業本部グローバル・調達革新センター シニア・コンサルタント「JMACに入社してから30年近くにわたり主に生産系のコンサルティングに従事してきました。
現在は調達領域の責任者を務めています」 ──SCMの実務家にとってESGやSDGsは、既に切実なテーマになっているのでしょうか。
JMAC・加賀美「これから本腰を入れる段階だと思います。
従来から『CSR調達』というキーワードはありましたが、『ESG投資』が始まり資金調達に影響するという話になって否が応にも取り組まざるを得なくなったというところです」 ──それでは調査結果を見ていきます。
■図1(Q1)はSCMの組織体制、■図2(Q3〜Q5)はSDGsの取り組み、■図3(Q10)はSDGsの推進体制の現状が示されています。
結果をどう評価しますか。
JMAR・小阪「『独立した調達/サプライチェーン管理部門』を置いている会社が全体で8割、製造業が9割以上、非製造業は5割強というのは、ほぼ事前の想定通りでした。
一方で、SDGsの推進体制については、専門組織や専任担当者を置いている会社は1割に過ぎず、兼任を含めても担当者がいる会社は少数派でした。
これは大半の会社がSDGsやESGに対してまだ受け身でいる、積極的に取り組んでいる会社は一部に過ぎないということを示していると思います」 ■図4(Q15)と■図5(Q17)は、サプライヤーのコンプライアンス管理に関する問題です。
JMAR・小阪「コンプライアンスに関しては、問題が起きればすぐに表面化してしまうため、とりわけ大手は既にかなり気を遣っています。
図4(Q15)の数字にもそれは現れています。
しかし、サプライヤーのコンプライアンス状況を把握する方法としては、多くの会社が年に1回のアンケートを実施するにとどまっているという印象でした。
ところが、図5(Q17)によると、アンケートから一歩踏み込んでヒアリングを実施している会社がかなり出てきています。
われわれが予想していたより取り組みが進んでいることが分かりました」 調達BCPは半数以上が未策定 ■図6(Q19)はグリーン調達に関する設問です。
カーボンニュートラルに向けて既に具体的な指標と目標値を決めて取り組んでいる会社が3割弱ある。
JMAC・加賀美「今後さらに上がっていくはずです。
カーボンニュートラルは世界的な動きですから、とくに海外に製品を輸出している企業、グローバルメーカーにとってはマストです。
非製造業でもインフラ系は取り組みが進んでいます」 ■図7(Q21)の調達BCPは、策定していない会社が「策定中」を含めると半分以上です。
JMAC・加賀美「製造業でもまだ半分近くが策定していない、策定する予定もない会社もかなりある、というのは驚きでした。
10年近く前から経済産業省が計画を策定するように旗を振っているのに実態はあまり変わっていない」 JMAR・小阪「大手企業であれば自社のBCPは策定しているはずです。
対サプライヤーでも大手との取引に関しては手を打っている。
しかし、中小サプライヤーになると『できません』というところが増えてくる」 ■図8(Q22)は調達BCPの中身に関する設問です。
JMAC・加賀美「日本企業のBCPはやはり東日本大震災が大きな転換点になりました。
それまでサプライチェーンはピラミッド構造だと理解されていた。
それが本当はダイヤモンド構造であることが分かった。
サプライチェーンを遡っていくと特定の原材料メーカーに行き当たるケースが多くあった。
そこがストップすれば全てが止まってしまうということを身を持って知りました。
従来のBCPではダメだということになり、そこから見直しが始まった」 「さらにその後、毎年のように台風や大雪に見舞われるようになってBCPの対象範囲を広げてきた、という経緯です。
そのため現状では天災への対応が中心で、サプライヤーの複数化、いわゆる複線調達によってリスク分散はいくらかは進めてきたものの、今回のようなコロナ禍などはまったく想定されていなかった」 ■図9(Q23)と■図10(Q24)は、サプライチェーンの見える化のレベルを尋ねています。
JMAC・加賀美「1次サプライヤー、2次サプライヤーまではなんとか情報を集められる。
しかし、3次、4次、5次となってくると把握すること自体で苦労している企業が多いというのが実態です。
5次、6次まで把握できている企業は非常に限定的です。
基本的にサプライヤーは中抜きを恐れて自分たちの調達先を明かしたがらない。
それだけハードルは高い。
しかし、これからそれを乗り越えていかなければなりません」 ──同調査ではサプライヤーのBCP策定状況の把握範囲も尋ねています(図は割愛)。
JMAC・加賀美「直接の取引先のみ把握している会社が半分弱というのは想定通りです。
むしろ『2次サプライヤーまで把握している』会社が1割もあることに驚きました。
業種別に見るとやはり自動車系が進んでいます」 ■図11(Q29)はサプライヤーのBCP策定が進んでいない場合の対応方法ですが、結果がかなりばらけています。
JMAR・小阪「サプライヤーにBCPの策定を要請しても、対応できるところとできないところがある、こちらが要求した水準で対応できる会社は限られる、ということだと受けとめています。
そのため取引金額が大きいとか、キーパーツを調達しているところを優先して手を打っているというのが実態だと思います」 Excel管理がいまだ主流 ■図12(Q25)では調達BCPの管理ツールについて尋ねています。
JMAR・小阪「このところ大手企業を中心に『Tableau(タブロー)』やマイクロソフトの『Power BI』などのビジネスインテリジェンス(BI)ツールが急速に普及しています。
そうした流れが調達分野にも及んでいるのではないかと予想したのですが、現状はまだまだExcel頼みだということを確認しました。
グローバル企業がツールを導入して、あるいは自社開発して調達の一元管理に乗り出すのを支援する機会が、体感ベースでは増えているのですが」 JMAC・加賀美「いざ有事が起きた際に、対応が必要なサプライヤーや部材をすぐに特定するには、やはりシステムが必要です。
しかし、複線化のためにサプライヤーを全て登録しておこうというレベルであればExcelで済んでしまう。
そこから一歩踏み出そうとした時にツールを導入するということだと思います」 ■図13(Q27)でサプライヤーとの商談や交渉の記録方法について尋ねた狙いは? JMAR・小阪「価格や仕様、条件などに関する交渉の記録方法をコンプライアンスの観点から把握したいと考えました。
その結果、担当者から口頭で上長に報告するという記録の残らないやり方や、担当者が個人ベースで記録するという方法がいまだに主流を占めていることが分かりました。
決まったフォーマットで日報に記録しているところが多いと想定していたのですが、そのレベルにも達していないケースが予想以上に多かった」 JMAC・加賀美「そもそも調達の仕事は属人化しやすく個人のやり方にとどまっていることが非常に多い。
商談記録の書式が決まっているケースもまだ少ないと思います。
記録といっても単なるメモ書きで、それがファイリングされていれば良い方です。
それが電子化されて検索もできるようになっている、というレベルはほとんど聞かないです」 ■図14(Q34)〜図15(Q35)はサプライチェーンのKPIについてです JMAC・加賀美「この設問の狙いは、SCMが施策中心の取り組みになっていないか、という問題提起です。
サプライヤーを集約するとか、再編するとか、あるいは新規サプライヤーを探索するといった施策を各社は進めているわけですが、そもそも何を目標にそれをやっているのかが明確になっていないケースがかなりあるように見受けられます」 「サプライチェーンの競争力を評価して、現状に対して目標値を置いて取り組むべきだというのが、われわれのメッセージです。
その競争力を何で測るのかといえば、サプライヤー評価です。
各サプライヤーの納入実績のQCDとそれを改善していく力です。
図15(Q35)では、それがどれだけできているのかを尋ねました。
『直接材』と『間接材』に分けたのは、直接材についてはできているだろう、間接材はできていないだろう、という仮説からでした」 JMAR・小阪「今回のアンケート調査は全業種を対象にしており、設問の選択肢にも限りがあるため、回答者の主観に委ねざるを得ない部分がどうしても出てきます。
そのため今後は調査結果を叩き台にして回答企業にヒアリングさせてもらうことで内容を捕捉していきたいと個人的には考えています」
日本能率協会総合研究所(JMAR)小阪貴之 組織・人材戦略研究部 主任研究員「ここ数年、ESGやSDGs、コンプライアンスといった観点から、個別企業のサプライチェーンに関する調査を依頼されることが増えています。
しかし、このテーマで日本の産業界全体の動向や実態が分かる資料は調べた限り見当たりませんでした。
そこで日本能率協会グループの自主調査として企画しました。
設問の設計や分析にはSCMの専門知識が必要になるため、日本能率協会コンサルティングに協力を求め、調達領域のコンサルティング実績が豊富な加賀美氏の支援を受けてプロジェクトを進めました」 ──加賀美氏のバックボーンは? 日本能率協会コンサルティング(JMAC) 加賀美 行彦 生産コンサルティング事業本部グローバル・調達革新センター シニア・コンサルタント「JMACに入社してから30年近くにわたり主に生産系のコンサルティングに従事してきました。
現在は調達領域の責任者を務めています」 ──SCMの実務家にとってESGやSDGsは、既に切実なテーマになっているのでしょうか。
JMAC・加賀美「これから本腰を入れる段階だと思います。
従来から『CSR調達』というキーワードはありましたが、『ESG投資』が始まり資金調達に影響するという話になって否が応にも取り組まざるを得なくなったというところです」 ──それでは調査結果を見ていきます。
■図1(Q1)はSCMの組織体制、■図2(Q3〜Q5)はSDGsの取り組み、■図3(Q10)はSDGsの推進体制の現状が示されています。
結果をどう評価しますか。
JMAR・小阪「『独立した調達/サプライチェーン管理部門』を置いている会社が全体で8割、製造業が9割以上、非製造業は5割強というのは、ほぼ事前の想定通りでした。
一方で、SDGsの推進体制については、専門組織や専任担当者を置いている会社は1割に過ぎず、兼任を含めても担当者がいる会社は少数派でした。
これは大半の会社がSDGsやESGに対してまだ受け身でいる、積極的に取り組んでいる会社は一部に過ぎないということを示していると思います」 ■図4(Q15)と■図5(Q17)は、サプライヤーのコンプライアンス管理に関する問題です。
JMAR・小阪「コンプライアンスに関しては、問題が起きればすぐに表面化してしまうため、とりわけ大手は既にかなり気を遣っています。
図4(Q15)の数字にもそれは現れています。
しかし、サプライヤーのコンプライアンス状況を把握する方法としては、多くの会社が年に1回のアンケートを実施するにとどまっているという印象でした。
ところが、図5(Q17)によると、アンケートから一歩踏み込んでヒアリングを実施している会社がかなり出てきています。
われわれが予想していたより取り組みが進んでいることが分かりました」 調達BCPは半数以上が未策定 ■図6(Q19)はグリーン調達に関する設問です。
カーボンニュートラルに向けて既に具体的な指標と目標値を決めて取り組んでいる会社が3割弱ある。
JMAC・加賀美「今後さらに上がっていくはずです。
カーボンニュートラルは世界的な動きですから、とくに海外に製品を輸出している企業、グローバルメーカーにとってはマストです。
非製造業でもインフラ系は取り組みが進んでいます」 ■図7(Q21)の調達BCPは、策定していない会社が「策定中」を含めると半分以上です。
JMAC・加賀美「製造業でもまだ半分近くが策定していない、策定する予定もない会社もかなりある、というのは驚きでした。
10年近く前から経済産業省が計画を策定するように旗を振っているのに実態はあまり変わっていない」 JMAR・小阪「大手企業であれば自社のBCPは策定しているはずです。
対サプライヤーでも大手との取引に関しては手を打っている。
しかし、中小サプライヤーになると『できません』というところが増えてくる」 ■図8(Q22)は調達BCPの中身に関する設問です。
JMAC・加賀美「日本企業のBCPはやはり東日本大震災が大きな転換点になりました。
それまでサプライチェーンはピラミッド構造だと理解されていた。
それが本当はダイヤモンド構造であることが分かった。
サプライチェーンを遡っていくと特定の原材料メーカーに行き当たるケースが多くあった。
そこがストップすれば全てが止まってしまうということを身を持って知りました。
従来のBCPではダメだということになり、そこから見直しが始まった」 「さらにその後、毎年のように台風や大雪に見舞われるようになってBCPの対象範囲を広げてきた、という経緯です。
そのため現状では天災への対応が中心で、サプライヤーの複数化、いわゆる複線調達によってリスク分散はいくらかは進めてきたものの、今回のようなコロナ禍などはまったく想定されていなかった」 ■図9(Q23)と■図10(Q24)は、サプライチェーンの見える化のレベルを尋ねています。
JMAC・加賀美「1次サプライヤー、2次サプライヤーまではなんとか情報を集められる。
しかし、3次、4次、5次となってくると把握すること自体で苦労している企業が多いというのが実態です。
5次、6次まで把握できている企業は非常に限定的です。
基本的にサプライヤーは中抜きを恐れて自分たちの調達先を明かしたがらない。
それだけハードルは高い。
しかし、これからそれを乗り越えていかなければなりません」 ──同調査ではサプライヤーのBCP策定状況の把握範囲も尋ねています(図は割愛)。
JMAC・加賀美「直接の取引先のみ把握している会社が半分弱というのは想定通りです。
むしろ『2次サプライヤーまで把握している』会社が1割もあることに驚きました。
業種別に見るとやはり自動車系が進んでいます」 ■図11(Q29)はサプライヤーのBCP策定が進んでいない場合の対応方法ですが、結果がかなりばらけています。
JMAR・小阪「サプライヤーにBCPの策定を要請しても、対応できるところとできないところがある、こちらが要求した水準で対応できる会社は限られる、ということだと受けとめています。
そのため取引金額が大きいとか、キーパーツを調達しているところを優先して手を打っているというのが実態だと思います」 Excel管理がいまだ主流 ■図12(Q25)では調達BCPの管理ツールについて尋ねています。
JMAR・小阪「このところ大手企業を中心に『Tableau(タブロー)』やマイクロソフトの『Power BI』などのビジネスインテリジェンス(BI)ツールが急速に普及しています。
そうした流れが調達分野にも及んでいるのではないかと予想したのですが、現状はまだまだExcel頼みだということを確認しました。
グローバル企業がツールを導入して、あるいは自社開発して調達の一元管理に乗り出すのを支援する機会が、体感ベースでは増えているのですが」 JMAC・加賀美「いざ有事が起きた際に、対応が必要なサプライヤーや部材をすぐに特定するには、やはりシステムが必要です。
しかし、複線化のためにサプライヤーを全て登録しておこうというレベルであればExcelで済んでしまう。
そこから一歩踏み出そうとした時にツールを導入するということだと思います」 ■図13(Q27)でサプライヤーとの商談や交渉の記録方法について尋ねた狙いは? JMAR・小阪「価格や仕様、条件などに関する交渉の記録方法をコンプライアンスの観点から把握したいと考えました。
その結果、担当者から口頭で上長に報告するという記録の残らないやり方や、担当者が個人ベースで記録するという方法がいまだに主流を占めていることが分かりました。
決まったフォーマットで日報に記録しているところが多いと想定していたのですが、そのレベルにも達していないケースが予想以上に多かった」 JMAC・加賀美「そもそも調達の仕事は属人化しやすく個人のやり方にとどまっていることが非常に多い。
商談記録の書式が決まっているケースもまだ少ないと思います。
記録といっても単なるメモ書きで、それがファイリングされていれば良い方です。
それが電子化されて検索もできるようになっている、というレベルはほとんど聞かないです」 ■図14(Q34)〜図15(Q35)はサプライチェーンのKPIについてです JMAC・加賀美「この設問の狙いは、SCMが施策中心の取り組みになっていないか、という問題提起です。
サプライヤーを集約するとか、再編するとか、あるいは新規サプライヤーを探索するといった施策を各社は進めているわけですが、そもそも何を目標にそれをやっているのかが明確になっていないケースがかなりあるように見受けられます」 「サプライチェーンの競争力を評価して、現状に対して目標値を置いて取り組むべきだというのが、われわれのメッセージです。
その競争力を何で測るのかといえば、サプライヤー評価です。
各サプライヤーの納入実績のQCDとそれを改善していく力です。
図15(Q35)では、それがどれだけできているのかを尋ねました。
『直接材』と『間接材』に分けたのは、直接材についてはできているだろう、間接材はできていないだろう、という仮説からでした」 JMAR・小阪「今回のアンケート調査は全業種を対象にしており、設問の選択肢にも限りがあるため、回答者の主観に委ねざるを得ない部分がどうしても出てきます。
そのため今後は調査結果を叩き台にして回答企業にヒアリングさせてもらうことで内容を捕捉していきたいと個人的には考えています」
