2021年11月号
特集
特集
大手トラック事業者3社における環境会計
1.問題の所在
物流は製造と共に環境の取り組みが重視されてきた。
製造と比較すると物流は、環境負荷とコストの同時削減が可能な取り組みが多いとされ、その実行可能性の高さも指摘されている。
各種のガイドラインも環境負荷削減以外の効果を強調して、物流における環境の取り組みを奨励してきた。
しかしながら、これらは概してメーカーなど荷主の視点によるものであり、物流の主要な担い手であるトラック事業者の視点からは一定の限界があろう。
確かに、物流の利用者は不要な利用量を削減するための弾力的な取り組みも可能である。
しかし、トラック事業者のサービス提供量は、荷主の利用量のようには調整できない。
物流の利用と実施では環境の取り組みが非対称であり、荷主は独自の判断による広範囲な取り組みが可能でも、トラック事業者は荷主の要求を所与とした制約的な取り組みとならざるを得ない。
このような状況下にあるトラック事業者には、環境の取り組みをコスト算定の対象として把握し、事業活動と関連付けた上で効率化を推進する環境会計の実施が有用と考えられる。
現在の環境会計は業種を問わず大手企業が実施し、その成果を環境報告上に公表している。
大手トラック事業者による環境報告も知られているが、環境会計はこれまで十分に検討されておらず、実施状況も明らかでなかった。
従って、本稿ではまず、環境会計の意義を確認した上で、継続的な公表を行っている大手トラック事業者の状況を示し、同業種における今後の実施や改善を促す手掛かりを提示したい。
具体的には日本における標準的な環境会計である環境省によるガイドラインの内容を整理した後、大手トラック事業者3社による環境会計の現状とこれまでの経緯を明らかにする。
続いて、ガイドラインによる環境会計と比較した3社の特徴を示してから考察を行う。
2.日本における環境会計の発展 地球環境問題に対する社会的な関心の高まりを反映して、1990年代ごろから企業経営に環境マネジメントが導入されるようになった。
環境マネジメントは、環境負荷削減に関する各種の取り組みを基本的に物量で測定する。
だが、企業活動は貨幣価値による測定を基本とするため、環境マネジメントは企業活動と別個に行う必要があった。
一方、環境マネジメントの一部に含まれる環境会計は環境の取り組みを貨幣測定の対象とするため、企業活動との関連付けが可能となっている。
環境会計には算定対象の広さに応じて種類がある。
日本では環境省のガイドラインが2000年に公表され、当初は製造業を中心に導入されていたが、その後、他業種にも普及した。
現在は大手企業の多くが同ガイドラインに準拠した環境会計を環境報告書で公表している。
同ガイドラインは02年と05年に改定が行われ、算定および公表方法が精緻化されている。
最新の05年版は以下の項目からなっている。
① 環境会計とは ② 環境会計の基本事項 ③ 環境保全コスト ④ 環境保全効果 ⑤ 環境保全対策に伴う経済効果 ⑥ 連結環境会計の取扱い ⑦ 環境会計情報の開示 ⑧ 内部管理のための活用 ⑨ 環境会計の数値を用いた分析のための指標 ⑩ 環境会計の開示様式と内部管理表 概要は以下の通りである。
「①環境会計とは」では環境会計の定義を示し、内部管理機能および外部報告機能に関する役割、目的適合性、信頼性、明瞭性および比較可能性などの環境会計に関する一般的要件を解説している(1)。
「②環境会計の基本事項」では環境会計の対象期間や集計範囲に言及している。
「③環境保全コスト」では環境保全目的を有するものが対象となり、投資額と費用額に区分される。
これらは事業エリア内、上・下流、管理活動、研究開発、社会活動および環境損傷の各コストとして算定する。
算定方法としては直接識別できる場合と複合コストの場合があり、後者では総額から差額集計や按分集計により環境分を抽出する。
「④環境保全効果」では③におけるコスト分類に対応させて、事業活動に投入する資源、事業活動から排出する環境負荷および廃棄物、事業活動から算出する財、サービスおよびその他に関する環境保全効果を算定する。
基準期間における環境負荷量と当期における環境負荷量との差額とするが、基準期間は原則として前期である。
「⑤環境保全対策に伴う経済効果」は、環境保全の結果、企業などの利益に貢献した効果とし、貨幣単位で測定する。
その根拠の確実さの程度によって、実質的効果と推定的効果とに分けられる。
「⑥連結環境会計の取扱い」について、現状では法的な形式に基づく法人単位の情報から環境会計の実態を捉えることは困難となっている。
事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を捉えようとすれば、可能な限りサプライチェーンの広い範囲に関する環境負荷を対象としていく必要がある。
そのため重要性に応じて連結範囲を設定する。
また、コストや効果の算定では二重計上を消去するというかたちで取り扱われている。
「⑦環境会計情報の開示」では、環境会計の外部報告機能という観点から、環境報告書を通じて環境会計情報を積極的に開示することを推奨している。
環境保全活動の経過および成果、基本となる重要な事項(対象範囲、集計期間、コストや効果の内容や算定基準など)および集計結果を記載する。
「⑧内部管理のための活用」では、環境会計では環境保全に関する定量的な情報を内部管理および外部報告に提供するが、内部管理情報を要約整理したものが外部報告情報となることが説明されている。
また、内部管理目的に特化した環境管理会計も発展している(2)。
「⑨環境会計の数値を用いた分析のための指標」は、環境会計の複数の集計項目や事業活動量の指標などを組み合わせて、環境保全活動の状況を分析するための指標を用い、集計結果の意味をさまざまな視点から示すことができる。
また、このような指標の期間比較により、企業などの環境保全活動の進展が理解され、内部管理上も目標として活用できる。
「⑩環境会計の開示様式と内部管理表」では、社会全体の統一的な理解を促進するため、共通した様式の公表用フォーマットの利用を推奨している。
さらに、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果に関する本表と付属明細表を示している。
取り組みの熟度や目的に応じて、環境保全コストの公表から着手して後に効果と対比する段階的な取り組みも可能である。
内部利用のための詳細な管理表も示している。
以上のようにガイドラインは、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果の3項目の算定を推奨しているが、その方法や範囲をめぐっては改善の必要性も指摘されてきた。
例えば、水口(2005)は、ガイドラインによる誘導というアプローチの限界を指摘して制度化による補完という可能性について検討を加えている。
河野(2009)はコストと効果のフローに加えて資産や負債のストックを算定する必要性を検討している。
大森(2005)は金額と物量による対比を改善するため、環境保全効果の貨幣測定を検討している。
その後、これらの指摘に関して一定の対応が見られた。
また、複合コストから上記「③環境保全コスト」を集計する方法についてもさらなる検討を要する。
現在の集計方法は便宜的であり、金額の正確性については一定の限界が指摘されてきた。
他方、集計方法の精緻化により正確な算定も可能である。
環境保全活動は単独で着手しても、後に実施コストの低減などを目的に事業活動と関連付けて実施する傾向が見られる。
これに伴い環境保全コスト全体に占める複合コストの割合が増加すれば、取り組みの実態を反映する算定方法が求められる。
3.トラック事業者における環境会計 環境会計の公表状況については、環境省「環境にやさしい企業行動調査」に代表されるように、上場企業や大手企業の全体としての状況や業種別の概要は知られている。
他方、各業種の内訳や一部製造業を除けば、個別企業の詳細までは明らかではない。
例えば、最新の上記調査は13業種を対象としている。
その一つには「運輸業、郵便業」が含まれている。
回答企業113社のうち18社が環境会計導入とあるが、その内訳や具体的な状況は不明である。
これらを踏まえ筆者は、現在の環境会計が大手企業による実施が先行している現状を鑑み、2021年4月時点において直近の売上高上位10社のトラック事業者について、各社のウェブサイト上にある環境報告などから環境会計の実施状況を調査した(3)。
その結果5社の公表があり、以下の3社では単独かつ継続的な実施が見られたため、これらの現状と、着手から現状に至る経緯を明らかにする。
(1)日本通運 日本通運はウェブサイト上でESGデータの一部として「環境保全に関する投資」を公表している。
これらは(a)モーダルシフト推進のための投資、(b)引越用反復梱包資材への投資、(c)車両関係投資、(d)廃棄物適正処理管理費用、(e)環境マネジメントシステム登録費用、(f)緑化推進のための植栽への投資、および(g)その他からなっている。
過去3年分の金額が記載されている。
毎年(c)車両関係投資が最も多く、(a)モーダルシフト推進のための投資がそれに続いている。
同社では環境報告のバックナンバーを2000年から掲載しており、環境会計では以下の発展が見られた。
まず2000年には「物流サービスにおける環境負荷低減への取組み」のなかで、エネルギー消費量低減のための投資額、反復梱包材への投資額および植栽の推進(投資額)を明らかにしている。
01年には「環境保全コストのご報告」の中でモーダルシフトに関する投資、引越業務に伴う梱包資材への投資、新規導入車両への投資および緑化推進のための投資額を集計可能なものとして公表している。
前年のエネルギー消費量低減のための投資をモーダルシフトと新規導入車両に区分している。
以降、この投資分類は後に「その他」を追加して現在まで踏襲されている。
続いて04年から「環境経営評価の指標としての環境会計」となり、環境省のガイドラインに一部準拠して環境保全に関する投資とともに、環境保全効果を明らかにした。
投資は従来と同様の分類であり、効果ではモーダルシフトによる効果および引越用反復梱包資材利用により削減できた従来の梱包資材である。
モーダルシフトでは鉄道や船舶で輸送している貨物数量をトラックで輸送したと仮定した場合のCO2排出量との差を削減効果としている。
梱包資材では引越1件当たり平均使用数を乗じて削減数量を算定する。
その後の07年から16年までは、環境会計を環境経営評価指標として重要な指標と位置付け、より詳細な環境会計評価指標の確立を目標としながら、環境保全に関する主な投資額のみを報告していた。
17年と18年では環境保全につながる投資を積極的に行う点が強調されている。
19年からは報告書ではなく、ESGデータの一部としての公表となり、現在に至っている。
同社の特徴は、ガイドラインに準拠して環境保全効果を計上した時期もあるが、全体としては車両、モーダルシフトおよび梱包を中心とした投資の公表を継続的に行ってきた点にある。
(2)ヤマトホールディングス ヤマトホールディングス(HD)はウェブサイト上に、「ESGに関するデータ類」の一部として環境会計を公表している。
環境省ガイドラインに一部準拠して、環境保全コストと環境保全効果を算定している。
コストは投資額と費用額に区分し、投資額は費用額よりも多く、事業エリア内コストとしての「低炭素な車両や新スリーターの導入コスト」が大半を占めている。
費用額では事業エリア内コストのロールボックスやコールドボックスなどの修繕に関する「資源の効率的な利用のためのコスト」が中心である。
環境保全効果では、改善による廃棄物削減と省エネによるCO2削減について前年実績との差を示しているが、コストと比較すれば少量である。
同社では環境報告のバックナンバーを2000年から掲載しており、環境会計は以下の発展が見られた。
2000年では環境保護活動方針において、環境保護活動に要した費用と効果・結果は、可能な限り数値・数量で把握し、進捗の指針として、相互に情報開示を進めながら活動を展開し、環境報告書の作成や環境会計の準備を進めるとある。
01年には環境負荷低減のためのコストを低公害車と廃棄物処理に区分して示した。
02年には重点事項5項目の一つとして、環境会計の導入を目指し、廃棄物処理費やその他の環境対策処理費用などの数値、数量を正確に算定し、開示項目を策定とある。
環境負荷低減のための主要コストとして、低公害車購入追加投資額・燃料油脂費の追加負担額と廃棄物処理費用を計上している。
03年の環境保護宣言では重点事項の一つに廃棄物処理費用やその他環境対策費用などの数値、数量などを正しく把握して開示し、(a)大気汚染防止対策・地球温暖化防止対策、(b)騒音防止対策、(c)廃棄物の削減・リサイクル、(d)環境コミュニケーションの各項目を環境保全の主要コストとして公表している。
(a)大気汚染防止対策・地球温暖化防止対策が総額の大半を占め(c)廃棄物の削減・リサイクルが続いている。
その後は04年から10年まで金額の多い順に上記4項目を公表してきた。
11年には「主要な環境への投資」へと名称を変更したが、内訳には大きな変更は見られない。
12年と13年の報告書は簡易版となり環境会計は掲載されず、14年から再び上記の環境投資が掲載された。
18年には環境省ガイドラインに準拠した公表となり、上記の分類に対応した環境保全コストを計上し、その後に環境保全効果も追加して現在に至っている。
同社の環境会計の特徴は、車両と梱包に関する項目をコストまたは投資として継続的に公表してきた点にある。
その後にガイドラインに一部準拠して環境保全コストと環境保全効果を示しているが、効果の公表は少量にとどまり、コスト中心の公表と言える。
(3)SGホールディングス SGホールディングス(SGHD)のウェブサイト上にある直近の環境会計では、環境保全コスト、環境パフォーマンス指標および環境保全効果が示されている。
環境保全コストを環境費用と環境投資に区分している。
環境パフォーマンス指標では、軽油、灯油、重油、天然ガスなどの消費量、環境保全効果では環境パフォーマンス指標の前年増減量を示している。
環境保全コストは廃棄物処理などの事業エリア内コストと車両点検などの安全対策コストが中心である。
後者は環境費用からなり、環境保全コスト全体の80%程度を占めている。
SGHDは環境報告のバックナンバーを2000年から公表している。
03年には実証・研究活動としての環境会計の取り組みを紹介した。
環境報告書に環境会計を掲載している企業の割合は75%程度、環境省「環境報告書ガイドライン」に沿って作成した報告書には環境面の経済性を評価する傾向にある(4)。
現在、運輸業、特に貨物輸送業の環境報告書には、環境会計が掲載されていないが、経済的効果を金銭面から評価することは、佐川急便の企業経営にとっても必要であり、環境会計ガイドラインに沿って可能な範囲から導入を検討し、環境保全活動および社会活動などを評価する必要があるとしている。
04年には環境活動の実態を評価するための経営者の判断材料およびステークホルダーとのコミュニケーションツールとして環境会計を導入した。
環境省のガイドラインに従って、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果を示している。
さらに、グループを含めた環境会計システムを導入し、グループ全体の環境会計およびパフォーマンスデータの把握を視野に入れている。
05年には車両点検や社内外での教育・啓蒙活動を対象とした安全対策コストを新設している。
コスト総額では前年比10%程度増加しているが、全体の80%以上を占めた事業エリア内コスト・公害防止コストが90%以上減少しており、組み換えがうかがえる。
公害防止を安全対策の一部と位置付けてから、安全対策を環境保全の一環としている。
06年には環境保全コストの主な増減要因を示したが、その後は10年まで大きな変化は見られない。
11年から17年までは報告書の形式が変更され、調査時点では環境会計が確認できなかった。
18年からは環境会計が再び掲載され、現在の公表形式となっている。
同社の環境会計の特徴としては、ガイドライン準拠とともに、環境保全の一環としての安全対策を重視した結果、環境保全コストのなかで安全対策コストの占める割合が高い点にある。
4.大手3社の環境会計の考察 右の環境会計の公表企業大手3社(以下、公表企業)は、それぞれ重点の相違はあっても、業種固有の取り組みを反映して、車両や梱包に関する費目を公表している点で共通している。
さらに、ガイドラインの公表を契機に関連コスト算定の重要性を認識しながら、ガイドラインに一部準拠した公表を徐々に行ってきた点も共通した特徴である。
各社がガイドラインに完全に準拠していれば、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果に関して、各社の時系列比較や3社間の相互比較も可能であるが、それぞれが一部準拠という状況では困難である。
この点はガイドライン・アプローチの限界と言える。
従ってガイドラインからの乖離に注目し、その特徴を明らかにする。
当面の改定は見込めないガイドラインを所与として、以下の三つの視点より八木(2003)や牟礼(2018)による調査を踏まえた考察を行う(5)。
第1の視点はコストと効果の対比または併記に関するものである(以下、対比と略称)。
一般にコストは効果よりも算定が容易なため、ガイドラインでは環境保全コストの算定から着手し、その後に環境保全効果の算定およびコストとの対比を推奨している。
直近では2社が対比しているが、これまでの実施期間を全体として見れば、車両などの投資を中心としたコストの公表が主流である(6)。
投資の効果は複数期間に及ぶなど、費用よりも算定が困難である。
仮定的な効果を公表するよりも、実施項目とその金額を時系列で示し、取り組み内容と規模の推移を明らかにすることが考えられる。
他方、たとえ算定は困難であっても根拠を示してコストと対比すれば、取り組みの効率を示すことができる。
他業種では物量表示の環境保全効果を貨幣測定して対比の精緻化も試みられてきた。
取り組みの発展に伴う算定対象の拡張も考えられる。
従来からの環境保全活動に加えて、事業活動の効率化によっても環境負荷が削減されれば、環境保全コストに起因しない効果も得られる。
そのような効果の重要性が高まれば、ガイドラインとは異なり、効果を算定してから対応するコストを算定することもあろう。
現在のガイドラインは具体的な対比方法に言及していないが、個別企業の環境会計には対比がよく見られる。
コストと効果の対応関係を十分に考慮しない安易な対比が行われてきた可能性もある。
対比が困難な場合には、コストの公表にとどめることも必要であろう。
他方、取り組み内容の重要性などから対比を必要とする場合には、算定した効果の範囲やコストとの関連性など対比方法の詳細を明記すべきである。
第2の視点は経済効果の公表に関するものである。
ガイドラインでは環境保全コストの算定後、環境保全効果と共に経済効果の算定を推奨している。
経済効果は金額表示のため、環境保全コストとの親和性が高い。
既存の調査でも経済効果の公表は定着している。
他方、公表企業の直近の環境会計では経済効果の公表がなく、全体を見てもSGHDで一時期見られたに過ぎない。
環境報告の対象をめぐっては、顧客などの特定の関係者を重視するのか、社会一般を対象とするかで議論がある。
公表企業は大別すれば、前者であろう。
荷主は環境負荷削減に関心はあっても、事業者の取り組みに伴うコスト削減などへの関心は低いと想定される。
顧客向けの環境報告では、経済効果の単独公表は無用な誤解を与えることもあろう。
今後、環境報告の対象が拡張した場合にも、現在のような金額を単独に公表するのではなく、例えば環境保全コスト削減への寄与など、取り組み全体に関連付けた公表が考えられる。
第3の視点は安全の取り組みの位置付けである。
上記の二つの視点は概ね公表企業に共通していたが、安全の取り組みの公表は現時点では1社である。
しかし、トラック事業者と比べて環境会計の公表が先行している化学業界では、安全の取り組みを環境会計の対象とする企業がかなり見られる。
安全の取り組みを環境保全活動の一環とみなせば、環境保全活動に関する安全対策コストを環境保全コストと位置付けることができる。
他方、環境・安全の取り組みとして分けて公表する企業もある。
二つの取り組みは異なるものとすれば、環境保全コストとは別個に安全対策コストの算定が必要である。
しかし、その算定方法は現状では確立されていない。
そのため上述の目的基準など環境保全コストに準じた算定が想定される。
環境の取り組みと同様、安全の取り組みが事業活動に追加するものから、事業活動と一体化したものへと発展すれば、実施コストも低下して効率的な取り組みも可能であろう。
環境保全コストと同様に、安全の取り組みの効率性を明らかにするには、コストに対応する効果の算定も必要である。
既存の環境会計の対象とせずに、両者の併記または別建ても考えられる(7)。
今後、社会的責任に関する取り組み強化により、安全以外でも同様な対応を要することがあろう。
5.まとめと今後の課題 これまで物流における環境の取り組みは、メーカーなどの荷主の視点を中心に論じられ、製造と比較して環境負荷とコストの同時削減の可能性が高いなどと主張されてきた。
他方、トラック事業者の視点からは、そのような主張が常に妥当する状況にはない。
本稿では環境会計による現状把握および効率推進が有用という理解の下で、環境省のガイドラインの内容を整理した後、環境会計を継続的に公表してきた大手3社の現状と、現状に至る経緯を明らかにした。
環境会計の実施状況に関する既存の調査によれば、環境省のガイドラインに準拠して、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果という3項目の公表が一般的である。
ところが公表企業では、投資を中心とするコストのみの公表、経済効果の非公表および安全の取り組みとの併記という特徴が見られた。
現時点ではガイドラインに一部準拠という状況である。
このような状況は、企業に裁量を認めるガイドライン・アプローチの採用によって明らかになったと言えよう。
ガイドラインからの乖離には、準拠が困難である場合と、準拠を不要と判断している場合とがある。
公表企業3社は環境報告における先進的な取り組み内容から推察すれば、明らかに後者であろう。
本稿では一部準拠から派生する課題を明らかにして、環境会計の機能向上に必要な対応を考察した。
3社の環境会計が一部準拠にとどまるのは各社の事情によるが、業種固有の状況への対応が十分でないというガイドライン側の問題とも言える。
今後、業種内における企業間の比較可能性や業種固有の取り組みへの関心が高まれば、公表方法の統一化も求められる。
現在のガイドライン・アプローチを所与とすれば、鉄道業などで既に活用されている業種別ガイドラインの策定が一つの解決策となろう。
しかしながら、現在の業種別ガイドラインは既存のガイドライン準拠が基本であり、適用対象が限定的な場合もある。
例えば、環境保全コストを構成する事業エリア内コストと上・下流コストに関して、公表企業では前者が大半を占め、後者はほとんど発生していない。
製造では原材料の調達、製品の製造、利用、回収および廃棄にわたる取り組みを実施するが、物流を含むサービスでは提供と利用が同時に行われて、取り組み内容が限られるためであろう。
実態を反映するコスト分類を採用するなど、業種の特性に十分配慮したガイドライン策定が必要である。
ところで、環境の取り組みは事業活動への追加や効率化によって実施されるため、詳細なコスト算定による事業活動の把握は環境会計導入の前提と言える。
換言すれば、詳細なコスト算定が行われていないと環境会計の実施はあり得ないし、環境会計実施のためにあえて詳細なコスト算定に着手することも考えにくい。
この点から現在の環境会計は大手企業による実施に限られている。
導入件数には業種間で多寡があり、業種内でも企業間で導入の有無が見られる。
公表企業3社では環境報告の取り組み内容から詳細なコスト算定の実施が想定されるが、非公表の同業他社の状況は不明である。
同業種において詳細なコスト算定の必要性は以前から認識されている。
詳細なコスト算定からコスト管理が発展して効率化が推進される。
従って環境会計の公表は、詳細なコスト算定に基づく環境の取り組みによる効率化を示す一つの指標と言える。
環境会計公表の有無により、環境パフォーマンスなどにおいて事業者間に差異が生じるという推論も可能であろう。
本稿での議論を踏まえて環境会計に関する広範囲な調査を今後の課題としたい。
注 (1)ガイドラインでは環境会計を「企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」と定義している。
(2)環境管理会計については経済産業省(2002)を参照。
。
また、環境管理会計の上位概念である環境経営の意義については國部他(2012)を参照。
(3)取引規模が大きい企業はそうでない企業よりも、環境会計の必要性や実行可能性が高いと考えられるため、業界動向サーチによる売上高上位企業を対象とした。
(4)環境報告書上に環境会計を公表する企業の割合については、当時の環境省「環境にやさしい企業行動調査」を参考にしている。
同調査は1991年から2019年まで実施された。
(5)八木(2003)では2000年から02年までの東証一部上場企業について、牟礼(2018)では09年と17年の売上高上位100社について、それぞれ環境会計に関する公表状況を調査している。
(6)環境省(2012)によれば、運輸業、郵便業全体で見ると、他業種と比較して設備投資のなかで環境目的の占める割合が高い。
これは車両投資のためであろう。
この点で3社の取り組みに大きな差異は見られないが、SGHDでは他社よりもコスト全体に占める投資の割合が低い。
上述した複合コストの算定と関連するが、環境投資では投資額全体の何割を環境分として計上するかは各企業の判断によるため、他社より環境分を控えめに計上したのではないかと考えられる。
(7)環境と安全の併記では日本貨物鉄道が毎年公表している「環境・安全情報総括表」が参考になる。
引用文献 大森 明(2005)「環境会計における効果の貨幣的測定」『地域分析』43巻2号、pp.37−60. 河野正男(2009)「環境の変化と環境会計の動向」『環境管理』45巻6号、pp.1−6. 経済産業省(2002)「環境管理会計手法ワークブック」. 環境省(2005)「環境会計ガイドライン2005年版」. 環境省(2012)「平成22年度 環境投資等実態調査結果」. 環境省(2019)「平成30年度 環境にやさしい企業行動調査」. 國部克彦・伊坪徳宏・水口 剛(2012)『環境経営・会計第2版』有斐閣. 水口 剛(2005)「環境会計におけるガイドライン・アプローチの限界と制度化議論の必要性」『高崎経済大学論集』48巻1号、pp.19−31. 牟礼恵美子(2018)「環境会計の開示の変化とその要因」『会計プロフェッション』13号、 pp.301−312. 八木裕之(2003)「日本企業における環境会計発展の軌跡」『横浜経営研究』24巻1/2号、pp.51−67.
製造と比較すると物流は、環境負荷とコストの同時削減が可能な取り組みが多いとされ、その実行可能性の高さも指摘されている。
各種のガイドラインも環境負荷削減以外の効果を強調して、物流における環境の取り組みを奨励してきた。
しかしながら、これらは概してメーカーなど荷主の視点によるものであり、物流の主要な担い手であるトラック事業者の視点からは一定の限界があろう。
確かに、物流の利用者は不要な利用量を削減するための弾力的な取り組みも可能である。
しかし、トラック事業者のサービス提供量は、荷主の利用量のようには調整できない。
物流の利用と実施では環境の取り組みが非対称であり、荷主は独自の判断による広範囲な取り組みが可能でも、トラック事業者は荷主の要求を所与とした制約的な取り組みとならざるを得ない。
このような状況下にあるトラック事業者には、環境の取り組みをコスト算定の対象として把握し、事業活動と関連付けた上で効率化を推進する環境会計の実施が有用と考えられる。
現在の環境会計は業種を問わず大手企業が実施し、その成果を環境報告上に公表している。
大手トラック事業者による環境報告も知られているが、環境会計はこれまで十分に検討されておらず、実施状況も明らかでなかった。
従って、本稿ではまず、環境会計の意義を確認した上で、継続的な公表を行っている大手トラック事業者の状況を示し、同業種における今後の実施や改善を促す手掛かりを提示したい。
具体的には日本における標準的な環境会計である環境省によるガイドラインの内容を整理した後、大手トラック事業者3社による環境会計の現状とこれまでの経緯を明らかにする。
続いて、ガイドラインによる環境会計と比較した3社の特徴を示してから考察を行う。
2.日本における環境会計の発展 地球環境問題に対する社会的な関心の高まりを反映して、1990年代ごろから企業経営に環境マネジメントが導入されるようになった。
環境マネジメントは、環境負荷削減に関する各種の取り組みを基本的に物量で測定する。
だが、企業活動は貨幣価値による測定を基本とするため、環境マネジメントは企業活動と別個に行う必要があった。
一方、環境マネジメントの一部に含まれる環境会計は環境の取り組みを貨幣測定の対象とするため、企業活動との関連付けが可能となっている。
環境会計には算定対象の広さに応じて種類がある。
日本では環境省のガイドラインが2000年に公表され、当初は製造業を中心に導入されていたが、その後、他業種にも普及した。
現在は大手企業の多くが同ガイドラインに準拠した環境会計を環境報告書で公表している。
同ガイドラインは02年と05年に改定が行われ、算定および公表方法が精緻化されている。
最新の05年版は以下の項目からなっている。
① 環境会計とは ② 環境会計の基本事項 ③ 環境保全コスト ④ 環境保全効果 ⑤ 環境保全対策に伴う経済効果 ⑥ 連結環境会計の取扱い ⑦ 環境会計情報の開示 ⑧ 内部管理のための活用 ⑨ 環境会計の数値を用いた分析のための指標 ⑩ 環境会計の開示様式と内部管理表 概要は以下の通りである。
「①環境会計とは」では環境会計の定義を示し、内部管理機能および外部報告機能に関する役割、目的適合性、信頼性、明瞭性および比較可能性などの環境会計に関する一般的要件を解説している(1)。
「②環境会計の基本事項」では環境会計の対象期間や集計範囲に言及している。
「③環境保全コスト」では環境保全目的を有するものが対象となり、投資額と費用額に区分される。
これらは事業エリア内、上・下流、管理活動、研究開発、社会活動および環境損傷の各コストとして算定する。
算定方法としては直接識別できる場合と複合コストの場合があり、後者では総額から差額集計や按分集計により環境分を抽出する。
「④環境保全効果」では③におけるコスト分類に対応させて、事業活動に投入する資源、事業活動から排出する環境負荷および廃棄物、事業活動から算出する財、サービスおよびその他に関する環境保全効果を算定する。
基準期間における環境負荷量と当期における環境負荷量との差額とするが、基準期間は原則として前期である。
「⑤環境保全対策に伴う経済効果」は、環境保全の結果、企業などの利益に貢献した効果とし、貨幣単位で測定する。
その根拠の確実さの程度によって、実質的効果と推定的効果とに分けられる。
「⑥連結環境会計の取扱い」について、現状では法的な形式に基づく法人単位の情報から環境会計の実態を捉えることは困難となっている。
事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を捉えようとすれば、可能な限りサプライチェーンの広い範囲に関する環境負荷を対象としていく必要がある。
そのため重要性に応じて連結範囲を設定する。
また、コストや効果の算定では二重計上を消去するというかたちで取り扱われている。
「⑦環境会計情報の開示」では、環境会計の外部報告機能という観点から、環境報告書を通じて環境会計情報を積極的に開示することを推奨している。
環境保全活動の経過および成果、基本となる重要な事項(対象範囲、集計期間、コストや効果の内容や算定基準など)および集計結果を記載する。
「⑧内部管理のための活用」では、環境会計では環境保全に関する定量的な情報を内部管理および外部報告に提供するが、内部管理情報を要約整理したものが外部報告情報となることが説明されている。
また、内部管理目的に特化した環境管理会計も発展している(2)。
「⑨環境会計の数値を用いた分析のための指標」は、環境会計の複数の集計項目や事業活動量の指標などを組み合わせて、環境保全活動の状況を分析するための指標を用い、集計結果の意味をさまざまな視点から示すことができる。
また、このような指標の期間比較により、企業などの環境保全活動の進展が理解され、内部管理上も目標として活用できる。
「⑩環境会計の開示様式と内部管理表」では、社会全体の統一的な理解を促進するため、共通した様式の公表用フォーマットの利用を推奨している。
さらに、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果に関する本表と付属明細表を示している。
取り組みの熟度や目的に応じて、環境保全コストの公表から着手して後に効果と対比する段階的な取り組みも可能である。
内部利用のための詳細な管理表も示している。
以上のようにガイドラインは、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果の3項目の算定を推奨しているが、その方法や範囲をめぐっては改善の必要性も指摘されてきた。
例えば、水口(2005)は、ガイドラインによる誘導というアプローチの限界を指摘して制度化による補完という可能性について検討を加えている。
河野(2009)はコストと効果のフローに加えて資産や負債のストックを算定する必要性を検討している。
大森(2005)は金額と物量による対比を改善するため、環境保全効果の貨幣測定を検討している。
その後、これらの指摘に関して一定の対応が見られた。
また、複合コストから上記「③環境保全コスト」を集計する方法についてもさらなる検討を要する。
現在の集計方法は便宜的であり、金額の正確性については一定の限界が指摘されてきた。
他方、集計方法の精緻化により正確な算定も可能である。
環境保全活動は単独で着手しても、後に実施コストの低減などを目的に事業活動と関連付けて実施する傾向が見られる。
これに伴い環境保全コスト全体に占める複合コストの割合が増加すれば、取り組みの実態を反映する算定方法が求められる。
3.トラック事業者における環境会計 環境会計の公表状況については、環境省「環境にやさしい企業行動調査」に代表されるように、上場企業や大手企業の全体としての状況や業種別の概要は知られている。
他方、各業種の内訳や一部製造業を除けば、個別企業の詳細までは明らかではない。
例えば、最新の上記調査は13業種を対象としている。
その一つには「運輸業、郵便業」が含まれている。
回答企業113社のうち18社が環境会計導入とあるが、その内訳や具体的な状況は不明である。
これらを踏まえ筆者は、現在の環境会計が大手企業による実施が先行している現状を鑑み、2021年4月時点において直近の売上高上位10社のトラック事業者について、各社のウェブサイト上にある環境報告などから環境会計の実施状況を調査した(3)。
その結果5社の公表があり、以下の3社では単独かつ継続的な実施が見られたため、これらの現状と、着手から現状に至る経緯を明らかにする。
(1)日本通運 日本通運はウェブサイト上でESGデータの一部として「環境保全に関する投資」を公表している。
これらは(a)モーダルシフト推進のための投資、(b)引越用反復梱包資材への投資、(c)車両関係投資、(d)廃棄物適正処理管理費用、(e)環境マネジメントシステム登録費用、(f)緑化推進のための植栽への投資、および(g)その他からなっている。
過去3年分の金額が記載されている。
毎年(c)車両関係投資が最も多く、(a)モーダルシフト推進のための投資がそれに続いている。
同社では環境報告のバックナンバーを2000年から掲載しており、環境会計では以下の発展が見られた。
まず2000年には「物流サービスにおける環境負荷低減への取組み」のなかで、エネルギー消費量低減のための投資額、反復梱包材への投資額および植栽の推進(投資額)を明らかにしている。
01年には「環境保全コストのご報告」の中でモーダルシフトに関する投資、引越業務に伴う梱包資材への投資、新規導入車両への投資および緑化推進のための投資額を集計可能なものとして公表している。
前年のエネルギー消費量低減のための投資をモーダルシフトと新規導入車両に区分している。
以降、この投資分類は後に「その他」を追加して現在まで踏襲されている。
続いて04年から「環境経営評価の指標としての環境会計」となり、環境省のガイドラインに一部準拠して環境保全に関する投資とともに、環境保全効果を明らかにした。
投資は従来と同様の分類であり、効果ではモーダルシフトによる効果および引越用反復梱包資材利用により削減できた従来の梱包資材である。
モーダルシフトでは鉄道や船舶で輸送している貨物数量をトラックで輸送したと仮定した場合のCO2排出量との差を削減効果としている。
梱包資材では引越1件当たり平均使用数を乗じて削減数量を算定する。
その後の07年から16年までは、環境会計を環境経営評価指標として重要な指標と位置付け、より詳細な環境会計評価指標の確立を目標としながら、環境保全に関する主な投資額のみを報告していた。
17年と18年では環境保全につながる投資を積極的に行う点が強調されている。
19年からは報告書ではなく、ESGデータの一部としての公表となり、現在に至っている。
同社の特徴は、ガイドラインに準拠して環境保全効果を計上した時期もあるが、全体としては車両、モーダルシフトおよび梱包を中心とした投資の公表を継続的に行ってきた点にある。
(2)ヤマトホールディングス ヤマトホールディングス(HD)はウェブサイト上に、「ESGに関するデータ類」の一部として環境会計を公表している。
環境省ガイドラインに一部準拠して、環境保全コストと環境保全効果を算定している。
コストは投資額と費用額に区分し、投資額は費用額よりも多く、事業エリア内コストとしての「低炭素な車両や新スリーターの導入コスト」が大半を占めている。
費用額では事業エリア内コストのロールボックスやコールドボックスなどの修繕に関する「資源の効率的な利用のためのコスト」が中心である。
環境保全効果では、改善による廃棄物削減と省エネによるCO2削減について前年実績との差を示しているが、コストと比較すれば少量である。
同社では環境報告のバックナンバーを2000年から掲載しており、環境会計は以下の発展が見られた。
2000年では環境保護活動方針において、環境保護活動に要した費用と効果・結果は、可能な限り数値・数量で把握し、進捗の指針として、相互に情報開示を進めながら活動を展開し、環境報告書の作成や環境会計の準備を進めるとある。
01年には環境負荷低減のためのコストを低公害車と廃棄物処理に区分して示した。
02年には重点事項5項目の一つとして、環境会計の導入を目指し、廃棄物処理費やその他の環境対策処理費用などの数値、数量を正確に算定し、開示項目を策定とある。
環境負荷低減のための主要コストとして、低公害車購入追加投資額・燃料油脂費の追加負担額と廃棄物処理費用を計上している。
03年の環境保護宣言では重点事項の一つに廃棄物処理費用やその他環境対策費用などの数値、数量などを正しく把握して開示し、(a)大気汚染防止対策・地球温暖化防止対策、(b)騒音防止対策、(c)廃棄物の削減・リサイクル、(d)環境コミュニケーションの各項目を環境保全の主要コストとして公表している。
(a)大気汚染防止対策・地球温暖化防止対策が総額の大半を占め(c)廃棄物の削減・リサイクルが続いている。
その後は04年から10年まで金額の多い順に上記4項目を公表してきた。
11年には「主要な環境への投資」へと名称を変更したが、内訳には大きな変更は見られない。
12年と13年の報告書は簡易版となり環境会計は掲載されず、14年から再び上記の環境投資が掲載された。
18年には環境省ガイドラインに準拠した公表となり、上記の分類に対応した環境保全コストを計上し、その後に環境保全効果も追加して現在に至っている。
同社の環境会計の特徴は、車両と梱包に関する項目をコストまたは投資として継続的に公表してきた点にある。
その後にガイドラインに一部準拠して環境保全コストと環境保全効果を示しているが、効果の公表は少量にとどまり、コスト中心の公表と言える。
(3)SGホールディングス SGホールディングス(SGHD)のウェブサイト上にある直近の環境会計では、環境保全コスト、環境パフォーマンス指標および環境保全効果が示されている。
環境保全コストを環境費用と環境投資に区分している。
環境パフォーマンス指標では、軽油、灯油、重油、天然ガスなどの消費量、環境保全効果では環境パフォーマンス指標の前年増減量を示している。
環境保全コストは廃棄物処理などの事業エリア内コストと車両点検などの安全対策コストが中心である。
後者は環境費用からなり、環境保全コスト全体の80%程度を占めている。
SGHDは環境報告のバックナンバーを2000年から公表している。
03年には実証・研究活動としての環境会計の取り組みを紹介した。
環境報告書に環境会計を掲載している企業の割合は75%程度、環境省「環境報告書ガイドライン」に沿って作成した報告書には環境面の経済性を評価する傾向にある(4)。
現在、運輸業、特に貨物輸送業の環境報告書には、環境会計が掲載されていないが、経済的効果を金銭面から評価することは、佐川急便の企業経営にとっても必要であり、環境会計ガイドラインに沿って可能な範囲から導入を検討し、環境保全活動および社会活動などを評価する必要があるとしている。
04年には環境活動の実態を評価するための経営者の判断材料およびステークホルダーとのコミュニケーションツールとして環境会計を導入した。
環境省のガイドラインに従って、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果を示している。
さらに、グループを含めた環境会計システムを導入し、グループ全体の環境会計およびパフォーマンスデータの把握を視野に入れている。
05年には車両点検や社内外での教育・啓蒙活動を対象とした安全対策コストを新設している。
コスト総額では前年比10%程度増加しているが、全体の80%以上を占めた事業エリア内コスト・公害防止コストが90%以上減少しており、組み換えがうかがえる。
公害防止を安全対策の一部と位置付けてから、安全対策を環境保全の一環としている。
06年には環境保全コストの主な増減要因を示したが、その後は10年まで大きな変化は見られない。
11年から17年までは報告書の形式が変更され、調査時点では環境会計が確認できなかった。
18年からは環境会計が再び掲載され、現在の公表形式となっている。
同社の環境会計の特徴としては、ガイドライン準拠とともに、環境保全の一環としての安全対策を重視した結果、環境保全コストのなかで安全対策コストの占める割合が高い点にある。
4.大手3社の環境会計の考察 右の環境会計の公表企業大手3社(以下、公表企業)は、それぞれ重点の相違はあっても、業種固有の取り組みを反映して、車両や梱包に関する費目を公表している点で共通している。
さらに、ガイドラインの公表を契機に関連コスト算定の重要性を認識しながら、ガイドラインに一部準拠した公表を徐々に行ってきた点も共通した特徴である。
各社がガイドラインに完全に準拠していれば、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果に関して、各社の時系列比較や3社間の相互比較も可能であるが、それぞれが一部準拠という状況では困難である。
この点はガイドライン・アプローチの限界と言える。
従ってガイドラインからの乖離に注目し、その特徴を明らかにする。
当面の改定は見込めないガイドラインを所与として、以下の三つの視点より八木(2003)や牟礼(2018)による調査を踏まえた考察を行う(5)。
第1の視点はコストと効果の対比または併記に関するものである(以下、対比と略称)。
一般にコストは効果よりも算定が容易なため、ガイドラインでは環境保全コストの算定から着手し、その後に環境保全効果の算定およびコストとの対比を推奨している。
直近では2社が対比しているが、これまでの実施期間を全体として見れば、車両などの投資を中心としたコストの公表が主流である(6)。
投資の効果は複数期間に及ぶなど、費用よりも算定が困難である。
仮定的な効果を公表するよりも、実施項目とその金額を時系列で示し、取り組み内容と規模の推移を明らかにすることが考えられる。
他方、たとえ算定は困難であっても根拠を示してコストと対比すれば、取り組みの効率を示すことができる。
他業種では物量表示の環境保全効果を貨幣測定して対比の精緻化も試みられてきた。
取り組みの発展に伴う算定対象の拡張も考えられる。
従来からの環境保全活動に加えて、事業活動の効率化によっても環境負荷が削減されれば、環境保全コストに起因しない効果も得られる。
そのような効果の重要性が高まれば、ガイドラインとは異なり、効果を算定してから対応するコストを算定することもあろう。
現在のガイドラインは具体的な対比方法に言及していないが、個別企業の環境会計には対比がよく見られる。
コストと効果の対応関係を十分に考慮しない安易な対比が行われてきた可能性もある。
対比が困難な場合には、コストの公表にとどめることも必要であろう。
他方、取り組み内容の重要性などから対比を必要とする場合には、算定した効果の範囲やコストとの関連性など対比方法の詳細を明記すべきである。
第2の視点は経済効果の公表に関するものである。
ガイドラインでは環境保全コストの算定後、環境保全効果と共に経済効果の算定を推奨している。
経済効果は金額表示のため、環境保全コストとの親和性が高い。
既存の調査でも経済効果の公表は定着している。
他方、公表企業の直近の環境会計では経済効果の公表がなく、全体を見てもSGHDで一時期見られたに過ぎない。
環境報告の対象をめぐっては、顧客などの特定の関係者を重視するのか、社会一般を対象とするかで議論がある。
公表企業は大別すれば、前者であろう。
荷主は環境負荷削減に関心はあっても、事業者の取り組みに伴うコスト削減などへの関心は低いと想定される。
顧客向けの環境報告では、経済効果の単独公表は無用な誤解を与えることもあろう。
今後、環境報告の対象が拡張した場合にも、現在のような金額を単独に公表するのではなく、例えば環境保全コスト削減への寄与など、取り組み全体に関連付けた公表が考えられる。
第3の視点は安全の取り組みの位置付けである。
上記の二つの視点は概ね公表企業に共通していたが、安全の取り組みの公表は現時点では1社である。
しかし、トラック事業者と比べて環境会計の公表が先行している化学業界では、安全の取り組みを環境会計の対象とする企業がかなり見られる。
安全の取り組みを環境保全活動の一環とみなせば、環境保全活動に関する安全対策コストを環境保全コストと位置付けることができる。
他方、環境・安全の取り組みとして分けて公表する企業もある。
二つの取り組みは異なるものとすれば、環境保全コストとは別個に安全対策コストの算定が必要である。
しかし、その算定方法は現状では確立されていない。
そのため上述の目的基準など環境保全コストに準じた算定が想定される。
環境の取り組みと同様、安全の取り組みが事業活動に追加するものから、事業活動と一体化したものへと発展すれば、実施コストも低下して効率的な取り組みも可能であろう。
環境保全コストと同様に、安全の取り組みの効率性を明らかにするには、コストに対応する効果の算定も必要である。
既存の環境会計の対象とせずに、両者の併記または別建ても考えられる(7)。
今後、社会的責任に関する取り組み強化により、安全以外でも同様な対応を要することがあろう。
5.まとめと今後の課題 これまで物流における環境の取り組みは、メーカーなどの荷主の視点を中心に論じられ、製造と比較して環境負荷とコストの同時削減の可能性が高いなどと主張されてきた。
他方、トラック事業者の視点からは、そのような主張が常に妥当する状況にはない。
本稿では環境会計による現状把握および効率推進が有用という理解の下で、環境省のガイドラインの内容を整理した後、環境会計を継続的に公表してきた大手3社の現状と、現状に至る経緯を明らかにした。
環境会計の実施状況に関する既存の調査によれば、環境省のガイドラインに準拠して、環境保全コスト、環境保全効果および経済効果という3項目の公表が一般的である。
ところが公表企業では、投資を中心とするコストのみの公表、経済効果の非公表および安全の取り組みとの併記という特徴が見られた。
現時点ではガイドラインに一部準拠という状況である。
このような状況は、企業に裁量を認めるガイドライン・アプローチの採用によって明らかになったと言えよう。
ガイドラインからの乖離には、準拠が困難である場合と、準拠を不要と判断している場合とがある。
公表企業3社は環境報告における先進的な取り組み内容から推察すれば、明らかに後者であろう。
本稿では一部準拠から派生する課題を明らかにして、環境会計の機能向上に必要な対応を考察した。
3社の環境会計が一部準拠にとどまるのは各社の事情によるが、業種固有の状況への対応が十分でないというガイドライン側の問題とも言える。
今後、業種内における企業間の比較可能性や業種固有の取り組みへの関心が高まれば、公表方法の統一化も求められる。
現在のガイドライン・アプローチを所与とすれば、鉄道業などで既に活用されている業種別ガイドラインの策定が一つの解決策となろう。
しかしながら、現在の業種別ガイドラインは既存のガイドライン準拠が基本であり、適用対象が限定的な場合もある。
例えば、環境保全コストを構成する事業エリア内コストと上・下流コストに関して、公表企業では前者が大半を占め、後者はほとんど発生していない。
製造では原材料の調達、製品の製造、利用、回収および廃棄にわたる取り組みを実施するが、物流を含むサービスでは提供と利用が同時に行われて、取り組み内容が限られるためであろう。
実態を反映するコスト分類を採用するなど、業種の特性に十分配慮したガイドライン策定が必要である。
ところで、環境の取り組みは事業活動への追加や効率化によって実施されるため、詳細なコスト算定による事業活動の把握は環境会計導入の前提と言える。
換言すれば、詳細なコスト算定が行われていないと環境会計の実施はあり得ないし、環境会計実施のためにあえて詳細なコスト算定に着手することも考えにくい。
この点から現在の環境会計は大手企業による実施に限られている。
導入件数には業種間で多寡があり、業種内でも企業間で導入の有無が見られる。
公表企業3社では環境報告の取り組み内容から詳細なコスト算定の実施が想定されるが、非公表の同業他社の状況は不明である。
同業種において詳細なコスト算定の必要性は以前から認識されている。
詳細なコスト算定からコスト管理が発展して効率化が推進される。
従って環境会計の公表は、詳細なコスト算定に基づく環境の取り組みによる効率化を示す一つの指標と言える。
環境会計公表の有無により、環境パフォーマンスなどにおいて事業者間に差異が生じるという推論も可能であろう。
本稿での議論を踏まえて環境会計に関する広範囲な調査を今後の課題としたい。
注 (1)ガイドラインでは環境会計を「企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」と定義している。
(2)環境管理会計については経済産業省(2002)を参照。
。
また、環境管理会計の上位概念である環境経営の意義については國部他(2012)を参照。
(3)取引規模が大きい企業はそうでない企業よりも、環境会計の必要性や実行可能性が高いと考えられるため、業界動向サーチによる売上高上位企業を対象とした。
(4)環境報告書上に環境会計を公表する企業の割合については、当時の環境省「環境にやさしい企業行動調査」を参考にしている。
同調査は1991年から2019年まで実施された。
(5)八木(2003)では2000年から02年までの東証一部上場企業について、牟礼(2018)では09年と17年の売上高上位100社について、それぞれ環境会計に関する公表状況を調査している。
(6)環境省(2012)によれば、運輸業、郵便業全体で見ると、他業種と比較して設備投資のなかで環境目的の占める割合が高い。
これは車両投資のためであろう。
この点で3社の取り組みに大きな差異は見られないが、SGHDでは他社よりもコスト全体に占める投資の割合が低い。
上述した複合コストの算定と関連するが、環境投資では投資額全体の何割を環境分として計上するかは各企業の判断によるため、他社より環境分を控えめに計上したのではないかと考えられる。
(7)環境と安全の併記では日本貨物鉄道が毎年公表している「環境・安全情報総括表」が参考になる。
引用文献 大森 明(2005)「環境会計における効果の貨幣的測定」『地域分析』43巻2号、pp.37−60. 河野正男(2009)「環境の変化と環境会計の動向」『環境管理』45巻6号、pp.1−6. 経済産業省(2002)「環境管理会計手法ワークブック」. 環境省(2005)「環境会計ガイドライン2005年版」. 環境省(2012)「平成22年度 環境投資等実態調査結果」. 環境省(2019)「平成30年度 環境にやさしい企業行動調査」. 國部克彦・伊坪徳宏・水口 剛(2012)『環境経営・会計第2版』有斐閣. 水口 剛(2005)「環境会計におけるガイドライン・アプローチの限界と制度化議論の必要性」『高崎経済大学論集』48巻1号、pp.19−31. 牟礼恵美子(2018)「環境会計の開示の変化とその要因」『会計プロフェッション』13号、 pp.301−312. 八木裕之(2003)「日本企業における環境会計発展の軌跡」『横浜経営研究』24巻1/2号、pp.51−67.
