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2021年11月号
特集

海外論文 持続可能な物流に関する体系的文献調査

イントロダクション  グリーン&サステナブル・ロジスティクス(G&SL=グリーンで持続可能なロジスティクス)とは、貨物輸送が引き起こす悪影響を減らし、環境や社会にとって可能な限りプラスのフィードバックとすることを目指す取り組みのことをいう。
 道路をベースとする交通システムは、大型トラックによる長距離輸送から都市部の個別配送に至るまで、日々のオペレーションに伴って汚染物質排出・渋滞・事故・騒音・景観破壊・インフラの毀損・リソースの浪費など、膨大な外部不経済を生みだしている。
 こうした外部不経済は、ロジスティクスシステム自身の欠陥(インテリジェント化の遅れ、属人化された業務、脆弱性)と相まって、企業や地域のサプライチェーンパフォーマンスの劣化をもたらしている。
ロジスティクス需要の急激な成長につれてますます大きくなるダメージは、やがて経済とエコシステム全体に取り返しのつかない影響を与えることになるだろう。
 SCMの中で最も重要かつ困難な課題の一つが、貨物輸送のオペレーションマネジメントである。
莫大な数に上る荷物やコンテナの各種手配を、刻々と変わるロジスティクスシナリオに沿って、リアルタイムで行わなければならないからである。
 汚染物質排出削減と物流効率改善を目的とするG&SLとは、先進的な物流技術と環境マネジメントを活用したロジスティクスシステムの計画・コントロール・管理・実行のことをいう。
さらには顧客にグリーン製品やサービスを提供するだけではなく、ロジスティクスプロセスのライフサイクル全体のグリーン化や持続可能性をも意味する。
 かねてよりグリーンロジスティクスのさまざまなモード・アクティビティ・作用が提唱されており、政府の規制から技術的イノベーションに至るまで、理解は徐々に深まりつつある。
具体的にはグリーン・ロジスティクス・ネットワークの構築、静脈物流、排出量コントロール、電気自動車、モーダルシフトおよびマルチモーダル輸送、省エネルギー、コラボレーション、アウトソーシングなどを挙げることができる。
 グローバルなG&SL研究を体系的に調査した本稿の目的は、G&SLの最新技術・課題・研究動向を把握し、分類体系を構築することである。
調査方法  1999年から2019年8月までに発表された研究論文の中から、われわれは調査対象として306件を選び出した。
図表1に明らかなように、G&SLの研究は09年まで実質的に停滞しており、増加に転じるのは10年以降である。
 図表2に、主要キーワードとその共起関係を示した。
これらのキーワードは四つのクラスターに分類され、それぞれ色分けされている。
「クラスター#1」は、持続可能なロジスティクスの実践とマネジメント(コラボレーション、ケーススタディ、インターモーダル輸送など)に関する18の項目を含む。
「クラスター#2」は25項目から成り、炭素排出・エネルギー消費・ライフサイクルアセスメントといった貨物輸送の環境面を網羅する。
「クラスター#3」(34項目)はモデル・プランニング・最適化、「クラスター#4」(34項目)はサプライチェーンパフォーマンス・成長戦略・競争力などである。
 図表3は主要キーワードの詳細である。
最も頻出して相互の関係性も深い上位10語は(括弧内はその語が使われている論文の数を表す)、多いものから順に「サステナビリティ(80)」「グリーンサプライチェーン(68)」「マネジメント(58)」「モデル(55)」「グリーンロジスティクス(48)」「パフォーマンス(47)」「ロジスティクス(46)」「フレームワーク(43)」「インパクト(41)」「静脈物流(39)」などである。
 これらのキーワードはG&SLの基本的な研究課題を構成するものであり、主な研究分野の間をつなぐ橋渡し役も担う。
被引用回数の平均からすると「輸送」「環境持続可能性」「生産」「静脈物流」「効率」などの用語が注目されていると判断できる。
 ただしキーワードの登場回数は単に特定分野の総合的な注目度に過ぎず、その言葉が使用された時間的経緯は考慮されていない。
 図表4は、1999年〜2019年の各年に8件以上の論文に登場したキーワードを経時的表現で表したものである。
「マネジメント」「モデル」「グリーンサプライチェーン」の研究は05年までに集中的に発表されており、その後も勢いが衰えていない。
それはこうした初期のテーマが、現在でも引き続き研究課題であることを示すものである。
 これとは対照的に「コラボレーション」「輸送計画」「モーダルシフト」「ステークホルダー」に関係する論文は、15年から17年に多く発表されている。
こうした新しいテーマは近年しばしば議論の俎上に載ることが多く、今後中心的な研究課題になる可能性がある。
また、07年から15年の間には数多くのキーワードが現れてきており、この期間にG&SLの研究が進んだことをうかがわせる。
G&SL研究の現状  ここでは頻出キーワードのクラスター分析をベースとし、1999年から2019年におけるG&SL研究の体系的分類を試みたい。
G&SLの研究テーマを五つのグループ、50のサブグループに分類したものが図表5である。
G&SLイニシアティブが 社会・環境・経済に与える影響  グリーン・ロジスティクス・イニシアティブが物流の「三つのボトムライン(社会的・環境的・経済的パフォーマンス)」に対してどのような影響を与えるかについて、評価および定量化を試みている研究論文は全体の4分の1近く(306件中71件)に上る。
こうした研究テーマは、基本的に炭素排出・エネルギー消費・社会的持続可能性・外部の費用便益分析の四つの領域と関連が深い。
 MattilaとAntikainenは、EU諸国が制定した持続可能な開発目標と政策を基に、未来のあるべき姿から逆算して今取り組むべき課題を探る「バックキャスティング」の手法を用いながら、長距離輸送による温室ガス排出および化石燃料消費の長期的見通しについて論じている。
 また同様の研究は米国についても行われている。
MakanとHeynsが実施したアンケート調査によれば、物流企業が持続可能なイニシアティブに取り組む主な理由は、消費者からの圧力・ブランドイメージ保護・経営者の方針・コスト削減などである。
 Khanらは国の経済発展や、マクロレベルの社会および環境の指標に対する影響をモデル化している。
ロジスティクスの持続可能性は業務効率、そして経済的・社会的側面の社会受容性と密接な関係があるとする研究もある。
 MoranaとGonzalez-Feliuはシティロジスティクスの持続可能性に最も影響を及ぼす要因として、支出の節約・サービスの質・顧客満足度(=経済面)、汚染物質排出・交通渋滞(=環境面)、雇用者数・失業者数(=社会面)を挙げる。
 持続可能なロジスティクスを推進するに当たっては、財政的・経済的アクティビティよりも、社会的・環境的アクティビティの役割が重要である。
三つのボトムラインに優れたロジスティクス産業には、次のような特徴が認められる。
(ⅰ)よく整備されたロジスティクスネットワークインフラ (ⅱ)優秀なサービスプロバイダー (ⅲ)貨物追跡技術 (ⅳ)効率的なスケジューリング  物流業務とビジネス面に着目して三つのボトムラインを評価したものに、GuoとMaの研究がある。
都市部のグリーンな配送を推進するに当たっては、3PLプロバイダーと共同配送が環境保全に極めて有効であると彼らは評価する。
 またグリーンロジスティクスは国際貿易の輸出国にプラスの効果がある。
HeroldとLeeはUPS、フェデックス、DHLなど大手国際物流企業が発表した炭素排出の報告書を比較し、各社の持続可能性戦略を比較している。
G&SLの計画・政策・ マネジメントリサーチ  ここでは(ⅰ)産業レベルでのプランニング、開発、政策立案、(ⅱ)プロジェクトレベルでのコラボレーション戦略とマネジメントの二つに焦点を当てる。
前者については公的サポート・ステークホルダーのパートナーシップ・高度なマネジメントスキルなどが、ロジスティクス産業の持続可能な発展に最も重要な役割を果たす。
そしてG&SLに不可欠な基盤となるのは、大都市経済・物流インフラへの投資・「産業チェーン」のアップグレードという三つの要素をうまく連携させることである。
 G&SLの実現には、全体的な計画の流れや輸送計画に物流業務を組み込んでおくことも重要である。
Shankarらは、貨物輸送の動的不確実性と本質的な持続可能性リスクを定量化し、リスクの大半は財政的な理由ではなく社会的要因によるものであると結論づけている。
 システムダイナミクスのシミュレーションによれば、G&SLの経済的パフォーマンスには貨物政策が直接反映される一方で、環境的パフォーマンスへの影響は間接的なものにすぎない。
Klumppはグリーンロジスティクスを推し進める二つの戦略、すなわち公共投資の促進と炭素原料への課税強化を提案している。
 一般に、ステークホルダー同士の確固たる協力関係は、G&SLの業務パフォーマンスだけでなくサプライチェーン全体の改善にも役立つ。
中でもサプライヤー・顧客・荷主の間のコラボレーションは重要である。
知識の普及、そしてグリーン化の経済的インセンティブの旗振り役を担うのは政府であり、それが物流技術のイノベーションへとつながっていく。
 また、共同物流・スマートロジスティクス・低排出ゾーンなど、輸送過程の持続可能性改善を目的とする新たな取り組みも行われている。
そうした中で注目されている話題は、アウトソーシングとクラウドシッピング(CS、クラウドソーシングともいう)である。
ラストマイルデリバリー問題への対策として提案されたCSとは、人々が移動する動線に沿って荷物も一緒に運んでもらうというコンセプトである。
 物流業務のうちでアウトソーシングされることが最も多いのは、輸送・倉庫保管・静脈物流の三つである。
エネルギー消費・地球温暖化・サプライチェーンリスクを減らすには、通常の物流業務と比べてアウトソーシングの方が、高い削減効果を持つことが明らかになっている。
実際のアプリケーション  過去10年に及ぶG&SLの実践についての研究は、SCM・静脈物流・eコマース・都市部の配送・マルチモーダル輸送、あるいは食品や工場ロジスティクスなど、幅広い分野にわたる。
しかしさらに有益な知見が得られる領域は、実際に利用されているアプリケーションである。
 例えばサプライチェーンの持続可能性を阻む原因の多くは、輸送の遅延・コミュニケーション不足・カーボンフットプリントの効果的マネジメントの不足など、下流の物流業務の機能不全である。
 持続可能なSCMはロジスティクス企業の競争力・業績・環境対策を向上させる。
しかしそうしたSCMが必ずしも競争優位につながるとは限らず、品質の劣る商品をつかまされているとユーザーに感じさせてしまうこともある。
 環境汚染と資源の浪費を抑制する最も効果的なソリューションの一つが、使用済み製品の価値を再生させる静脈物流であることに議論の余地はない。
法律・社会的イメージ・企業市民という考え方・マーケットの要請などにより、企業はサプライチェーンに静脈物流を組み入れることを余儀なくされている。
現実のアプリケーションにおける静脈物流の持続可能性とグリーン化プロセスの第1目標は、サプライチェーンパフォーマンス全般の最適化である。
 グリーン関連の静脈物流の研究は、主にネットワークデザインとシステムプランニングに焦点を当てている。
その他にはごみの再生利用、ベネフィットアセスメント、回収作業のアウトソーシング、社会的責任などのトピックが取りあげられている。
 一刻も早いグリーン化が求められているのは、都市部のロジスティクスである。
大都市におけるB2BやB2Cの緊急配送といった膨大なロジスティクス需要が、大気汚染や生活環境の悪化を招く原因となっている。
ラストマイルデリバリー・輸送管理・リーンロジスティクスなど、グリーン・ロジスティクス・プランニングをスマートシティに最初から組み込む動きも、欧州を中心に進められている。
 トラックから鉄道や水運へのモーダルシフトには、環境の持続可能性やフレキシビリティの向上、コスト削減などの効果が期待できる。
だが政府による後押しにもかかわらず、インフラ投資の問題などから、インターモーダル輸送の現状はいまだ初期段階にとどまる。
G&SLの進展を促進する新技術  貨物輸送の課題に取り組む持続可能で前向きなソリューションの一つは、先進的な設備や技術を発展させることである。
ここ数年でもアーバン・コンソリデーション・センター、電気道路システム、パッケージング・ベンチマーキング・システムなど、新たなロジスティクスシステムが提案されている。
 こうしたシステムの持続的発展を支えるため、物流業務にビッグデータ、IoT、クラウドコンピューテイング・プラットフォームなどの技術が活用される。
旅客輸送で広く採用されている電気自動車(EV)も、G&SLの領域に革命を起こしつつある。
物流分野のEVに関する研究は、エネルギー効率・フリート最適化・環境面の利点などに関するものが主流である。
 また、交通渋滞などの「外部不経済」抑制策として、地上の物流プロセスを地下に移す地下ロジスティクスシステム(ULS)という興味深いコンセプトが注目を集めるようになってきている。
階層構造をなす地下の物流ノードをパイプラインとトンネルが連結し、都市間の物流を24時間自動で運営する。
 ULSは都市部のロジスティクスパークとラストマイルデリバリーを結ぶ、あるいは海港と都市部ゲートウェイ間のコンテナ専用地下輸送路などという形態のネットワークであり、環境・社会面で桁違いの効果が見込まれる(省エネルギー、交通事故の抑止や交通渋滞の緩和、都市部の物流キャパシティ改善、など)。
 しかし建設費用がかさむことと、まだ一般に広く認知されていないことから、現状ではULSの技術的な実現可能性を探るプロジェクトがいくつか知られている程度で、大規模な本格稼働には至っていない。
 その一方、路面電車・ライトレール・地下鉄といった既存の都市交通システムを活用して、乗客と貨物を同時に運ぶコラボレーティブ戦略が広く認識されるようになり、欧州のいくつかの都市においては実際のエンジニアリング段階にまで達している。
このコラボレーティブモードは、一つの輸送インフラを二つの目的に利用することでシステムコストを現実的なレベルに抑えることが可能である上に、ULSと比べて実現も容易である。
オペレーションズリサーチと最適化手法  実際のアプリケーションに基づくオペレーションズリサーチ(OR)は、ロジスティクスオペレーションにおける意思決定の質に直接関わることから、常に人々の耳目を集めるテーマとなっている。
 G&SLにおけるOR理論とは、立地・輸送・保管や限りあるリソースに合理的な配置を与える意思決定を行うために必要な、環境とコストのトレードオフを見極めるための科学的手法とされる。
 グリーンロジスティクス関連のORアプリケーションには、ロジスティクス・サービス・ネットワーク・デザイン、施設の立地、運搬経路問題(VRP)、サプライチェーン計画、コントロール、調達などがある。
こうした課題に対して、発見的アルゴリズム、確率的プログラミング、ロバスト最適化などさまざまなOR技法が開発されている。
 G&SLはコストや効率といった一般的な目標に加え、炭素排出やエネルギー消費など、環境負荷の軽減にも焦点を当てる。
現状でORの活用が増えてきているのは、需要変動や設備の不具合など複雑なシナリオにおける意思決定の最適化という用途である。
 以上、本稿ではG&SLに関する過去20年以上にわたる貴重な研究の成果を検討した。
グリーンおよび持続可能なロジスティクスというコンセプトは、政府機関・研究者・実務家・国際機関などの関心を集めるようになり、実践と理論の両面で大きな成果を上げている。
 その結果、研究発表の数が年ごとに急速に増加していることが明らかとなった。
18年に公表された論文の数は10年前のそれと比べ15倍にもなっている。
G&SLの研究が盛んな国は中国、米国、英国、スウェーデン、インドである。
共通して現れるキーワードの分析から、G&SLの各クラスターで最も研究が盛んなテーマは以下の通りである。
クラスター#1 持続可能性 クラスター#2 貨物輸送および炭素排出 クラスター#3 モデルおよび静脈物流 クラスター#4 グリーンサプライチェーンおよびグリーンロジスティクス  キーワードが現れる時系列を見ると「コラボレーション」「輸送計画」「モーダルシフト」「ステークホルダー」の各語がここ数年目立つようになっている。
 最後に、われわれがここで選んだ文献がG&SL研究に関するおおよそのテーマを網羅しているとしても、他にも取り上げるべき研究が異なる形式で発表されていたり、あるいは違うデータベースに含まれるものなどについては、どうしても取りこぼしがあると思われる。
本稿はその点で改善の余地があることを、最後に一言つけ加えておきたい。
(翻訳構成 大矢英樹)

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