2021年8月号
特集
特集
AIの判断ミスは誰が責任をとるべきか?
物流業界で導入相次ぐ
現在、AIブームが進展中である。
1950年代の「認識・推論」を軸にした第1次ブーム、「専門家による仕事を再現するエキスパートシステムや音声認識」が開発された第2次ブームに続く第3次ブームである。
ブームが始まった正確な時期については諸説さまざまあるが、およそ2010年代以降続いている。
「機械学習」と「ディープラーニング」が今回のブームのキーワードである。
そして早晩第3次ブームは終焉を迎え、いずれAIが人類の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れる。
第4次AIブームが起きて、人々の生活が一変するとされている。
さて、時計の針を現代に戻そう。
第3次AIブームの真っただ中にあって、実際にAIはわが国企業にどの程度導入されているのだろうか。
実は少し前まではさまざまなアンケート調査などが行われていたが、ここ1~2年はあまり存在しない(それだけAIが浸透してきたことの表れかもしれない)。
やや古いデータになるが、最も信頼のおける調査の一つとされる「AI白書2020(独立行政法人情報処理推進機構)」の「企業におけるAI利用動向アンケート調査」を見てみよう。
調査時点は2019年7~9月であるから、およそ2年前の状況である。
「すでに導入している」4・2%、「現在実証実験を行っている」4・8%、「利用に向けて検討を進めている」10・5%となっている。
20%弱の企業が、実際に導入あるいは前向きに導入を検討している。
「ロジスティクス・調達・物流」に限定すると、「すでに導入している」4・5%、「現在実証実験を行っている」8・0%、「検討中/関心あり」16・2%である。
米スタンフォード大の社会学者、E・M・ロジャース教授が提唱したイノベーション理論によると、普及率が16%を超えるとその商品やサービスは爆発的に普及するらしい。
AIに関しても、そろそろ爆発的に普及する分岐点を迎えることだろう。
企業はなぜAIを導入するのだろうか。
同じく「AI白書2020」のアンケート調査の結果を見ると(図表1)、「すでに導入している企業」は、その理由に「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」を挙げている。
これに次いで、「新サービスの創出」「既存サービスの高度化、付加価値向上」「品質向上」である。
一方、「検討/関心ありの企業」は、導入している企業同様、「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」が高いが、導入している企業では低い項目の「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「労働力不足への対策」「人件費の削減」も高い。
「すでに導入している企業」と「検討/関心ありの企業」でその結果にやや違いが見られるのは興味深いがその点はさておき、ここで皆さんは何かにお気付きになられることだろう。
「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「労働力不足への対策」「人件費の削減」という項目は、ロジスティクスを手掛ける企業の方々は、とてもよく目にするのではないだろうか。
つまりロジスティクスに関連する企業の方々は、ロジスティクス業界が、そして自分の企業が、「AIの導入が期待される」業界あるいは企業であることを認識しておく必要がある。
今はAIを導入していない企業であっても、ライバル企業が相次いで導入し、その情報を耳にした時には、急遽導入を検討するかもしれない。
以下、こうした認識を基に、AIを経営に利活用する際に気を付けておくべきこと、考えておくべきことを整理する。
そもそもAIとは何なのか? ここまで本稿では、AIという言葉を定義せずに書き進めてきたが、そもそもAIとは何なのだろうか。
「AIは人工知能である」「Artificial Intelligenceの略である」といえばその通りだが、それではそもそも人工知能とは何なのだろうか。
この点に関しては、松尾豊氏(東京大大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 教授)の書籍『人工知能は人間を超えるか─ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA、2015年)などに整理されている。
なかでも浅田稔氏(大阪国際工科専門職大学 工科学部 教授)による定義を紹介しておきたい。
氏は「知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない」としている。
要は、AIは定義できないのだ。
学問上はそれでも致し方ないのだろうが、しかし自社の経営にAIを利活用する場合はそうはいかない。
AIシステムの導入となれば、かなりのコストと労力を必要とする。
少なくともそのAIがどのようなものであるか、しっかり理解しておく必要がある。
後述するように、このAIのロジックは多くの場合、ブラックボックス化されている。
どのような処理がなされたか分からないケースも少なくない。
得体の知れないものを導入し、そのロジックがブラックボックス化されているとしたら、われわれはそのシステムが出した解を最適解として扱ってよいのだろうか。
その解が間違っていた場合、その責任は、誰がどう取るというのだろうか。
こうした根本的な考えるべきテーマはあるものの、本稿を進めるに当たり、第3次AIブームのAIがどのような機能を兼ね備えたものであるか、やや乱暴であるが整理しておきたい。
先に述べたように、第3次AIブームは「機械学習」「ディープラーニング」の時代である。
機械学習の定義や領域は、これまた研究者によりさまざまであるが、「AI白書2020」によると、「データの背後に潜む規則性や特異性を発見することにより人間と同程度あるいはそれ以上の学習能力をコンピュータで実現しようとする技術」である。
「予測」や「分類(または識別)」をするためのルールを見付ける仕組みであり、検索エンジンや需要予測など、幅広い分野で使用されている。
次にディープラーニングであるが、これは機械学習に含まれる技術である。
人間の神経細胞を数理モデルとして実装したアルゴリズムである。
多層の人工ニューラルネットワークとも呼ばれる。
同じく「予測」や「分類」を行うものである。
音声認識や画像認識などで使用されている。
ここではざっくりとではあるが、「第3次ブームのAIは、何らかの高度なアルゴリズムにより、『予測』『分類』をするもの」と理解しておこう。
期待される活用領域 (1)ターゲット市場の選定 企業のマーケティング戦略を考える際、その基本的な流れは、環境分析、STP分析、マーケティングミックス、である。
このうち主として、STP分析、マーケティングミックスにおいてAIの活躍が期待される。
現代はモノを作れば売れる時代ではなく、モノ余りの時代である。
顧客ニーズは細分化(個別化)し、多様化が進展している。
かつてのコカ・コーラのように、全ての顧客をターゲットにした、いわゆるマスマーケティングの手法は通用しにくい。
市場を細分化し、ターゲットとなる市場を選定し、そこに経営資源を集中的に投入することが重要である。
ここで問題となるのが、「誰をターゲットにするか」「そのターゲットをどのように選ぶか」だろう。
米経営学者、フィリップ・コトラーはその手法としてSTP分析を提唱している。
STP分析とは、①市場細分化(Segmentation)、②標的市場の決定(Targeting)、③自社の立ち位置の明確化(Positioning)の三つを指す。
例えば、わが社の商品「高価なスポーツドリンク」は、「20~30代の所得水準の高い男性で、スポーツが好きな人」に販売する、というように、自社のターゲット顧客を明確にする。
このSTPのプロセスに、AIは大いに活用できる。
ターゲット市場は、今や極小の単位である「個人」にまで細分化され、いわゆるワン・トゥ・ワン・マーケティングが可能になっている。
アマゾン・ドット・コムをはじめとするオンラインショッピングでは、消費者の購買履歴、商品へのアクセス、他の消費者のデータなどを分析することで、パーソナライゼーションを実現している。
一人一人を識別し、その個人をターゲットとする事業の展開である。
そしてその個人に対し、レコメンデーション機能(推奨機能)などを提供している。
AIがビッグデータを基に、自社の戦略やコンセプトに合った個人を特定し、その個人を優良顧客に育て上げるわけで、近い将来、ターゲットマーケティングは、AIなしでは語れない日が訪れるだろう。
(2)マーケティングミックスの実施 ターゲット市場を選定した後に行うのが、マーケティングミックスである。
マーケティングミックスは、企業が目標を達成するために、統制可能なマーケティング要素であるいわゆる四つのP、すなわち、商品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)を組み合わせて実施する。
企業はこのマーケティングミックスを構築し、それらを実行する。
そこで、商品戦略、価格戦略、プロモーション戦略、流通戦略、の四つについて、以下にAI利活用の可能性を見ていくことにしよう。
A. 商品戦略 商品戦略には、主として、商品開発と品揃えの二つがある。
商品開発は、AIによる「あなただけの商品」「オンリーワン商品」の開発である。
一方、品揃えは、特定のターゲット顧客が望む品揃えを提供したり、自社のコンセプトにあった品揃えなどを行ったりするものである。
さらに、クロスマーチャンダイジング(クロスMD)機能への利活用もある。
どの消費者がどのような組み合わせで商品を購入するかを特定し、それに基づく品揃えを準備するといったことは、まさにAIの得意とするところである。
自社にとって非常に重要な優良顧客が望む品揃えなどは、ぜひとも実現しておきたいところだろう。
B. 価格戦略 価格戦略としては、AIがさまざまなデータを基に柔軟なプライシングをするという、いわゆるダイナミックプライシングなどが挙げられる。
収益拡大や在庫処分などを目的に、最適な価格を実現するものである。
これにより、「短期的な視点でなく中長期的な視点に立った、顧客満足度を最大にするプライシング」「自社へのロイヤルティに応じた顧客別プライシング」などが可能になる。
C. プロモーション戦略 これまでもレジで商品の代金を支払う際に、ある商品を購入すると、その関連商品のクーポンが出される仕組みなどは存在した。
これがAIにより、さらに顧客に適合したプロモーションが実施される。
テレビCMに反応する人、店内のPOPに反応する人、従業員の働きかけに反応する人など、さまざまな人が存在するなか、個別ニーズに合致したプロモーションが、スマートフォンやパソコン、タブレット端末などを経由して提供されるようになるだろう。
チラシに反応しない人に、永遠にチラシを送り続けるのは非効率で無駄である。
顧客ごとに、最も望ましいプロモーションがAIによって判断され、実施されていくことになると思われる。
D. 流通戦略 流通戦略への利用は主として、販売予測・在庫管理、物流の二つに大別される。
まず、販売予測・在庫管理だが、AI利活用の事例は非常に多い。
ビッグデータを容易に利活用できるようになった現在、必要なデータをAI自ら選択し、それを基に需要予測を行うことで、欠品・品切れ、または過剰在庫による返品・廃棄ロスなどを削減できるようになった。
同様に物流も利活用事例に溢れている。
物流の主要業務には、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報などがあるが、例えば医薬品の配送などにおいて、トラック内の温度、気温などを基に、AIが最適なルートを決定する事例などが報告されている。
AIがAIを管理する時代に さてこのように、非常に便利で、多くの企業によって利活用が望まれるAIであるが、実際に導入する際は、どのような点に考慮する必要があるだろうか。
図表2に見るように、AIを経営に利活用する段階は、学習段階、利用段階の二つに分けられる。
前者の学習段階は、学習済みモデルを作成する段階である。
ユーザーを含む関係各所からデータを提供してもらい、そのデータを加工して学習に適したデータの集まり(学習用データセット)を作り、それを学習用プログラムに入力することで学習済みモデルを作成する。
後者の利用段階は、作成した学習済みモデルに実践的な新しいデータを入力し、その結果を出力するというもので、最終的にはAI生成物(何らかの成果)を得ることを目的とする。
要は、AIは導入していきなり効果を発揮するものではない。
AIベンダーとユーザー企業が手を取りながら、適切なデータを入力し、学習させることによって、良質なAIに育てていくのである。
つまり他のシステムと異なり、AIは、導入した時点ではそのAIが本当に役に立つものになるかどうか確信が持てないという、ある種の「不確かさ」を常にリスクとして内包していることになる。
こうしたリスクへの対応としては、①技術的視点からの対応、②法的な視点からの対応、③ガバナンスの視点からの対応、などさまざまなものが考えられる。
以下、特に注目される①に焦点を絞って考えてみよう。
企業はAIを経営に生かす場合、どのような方式をとるべきだろうか。
ここではAIの導き出した答えの透明性と客観性を技術的に示す二つの方式を提言する。
●方式1:データおよびアルゴリズムを開示(ホワイトボックス型のAI) 方式1は、予測・推定の根拠が分かるAI、すなわち「ホワイトボックス型のAI」である。
このAIを利活用する企業は、その中身が分かることで、なぜそのように予測したのか説明することが可能になる。
ホワイトボックス型のAIは、主として決定木や線形回帰などの統計解析の技術を使用している。
ディープラーニングよりも旧式の手法であり、複雑な計算はできないが、人間にとっては解釈しやすいモデルである。
NECは、このホワイトボックス型AIの研究・開発にいち早く取り組み、2012年の段階ですでに事業化している。
しかしながら説明可能である一方、ホワイトボックス型のAIは予測の精度を高めるのが大変という弱点がある。
そこで高い予測精度を得られ、かつ説明可能な策として考えられるのが、次の方式2である。
●方式2:ブラックボックス型AIに透明性・客観性を担保 方式2は、ブラックボックス型AIをそのまま利活用し、その答えに対して透明性・客観性を確保するというものである。
ブラックボックスと言われるディープラーニングに、解釈性を付加する方式であり、こうしたAIは「説明可能なAI(Explainable AI:XAI)」と呼ばれる。
ブラックボックス型であるにもかかわらず、説明可能な点が画期的である。
XAIの実現を目指して、AIベンダー各社は、さまざまな手法や技術開発にしのぎを削っている。
初めに紹介するのは、グーグルである。
グーグルは、2019年11月21日に「Explainable AI」を発表した。
このツールは、用いた手法およびその結論に至った理由を、ユーザーに説明してくれる。
同社が提供する「AutoML Tables」または「AI Platform」というサービスに、この「Explainable AI」を導入すると、どの要因が最終結果にどの程度影響を与えるか、その予測とスコアが得られるというものである。
さらに「AI Platform」に統合された What-If ツールを使用すると、そのモデルすなわち「AutoML Tables」または「AI Platform」の性能も評価することができる。
次に紹介するのは、IBMの「Watson OpenScale」である。
稼働中のAIモデルの動作をモニターし、それらが偏った振る舞いをしているかどうかを検知する。
また検知するだけでなく、検知したバイアスを緩和する機能も有している。
さらに、AIの予測の根拠・道筋を提示することもできる。
図表3は「Watson OpenScale」がAIをどのような軸で評価するか、その基準例を示したものである。
図表4は「Watson OpenScale」の画面であるが、図表3で見た精度(Accuracy)と公平性(Fairness)に問題があることを示している。
このようにIBMの「Watson OpenScale」は、現在使用しているAIがきちんと稼働しているか、精度、公平性、説明可能性の視点から評価する仕組みである。
要はAIがAIを評価し、このAIは精度の面で問題がある、そのAIは説明可能性に問題がある、というように判断するのである。
この「Watson OpenScale」が意義深い点は、IBMのAIシステム(Watson)だけでなく、他社のAIシステムに関しても使用し、評価できることである。
どこでどのように構築されたAIシステムであるか、またどこで運用されているAIシステムかといったことは問わない。
まさにオープンなプラットフォームであり、企業にとっては、使用しているシステムやクラウド環境に依存しないため、IBMだけでなく他社のAIに対しても幅広くモニターすることができる。
以上、グーグルの「Explainable AI」とIBMの「Watson OpenScale」を例に、AIを経営に導入する際、技術的な視点から、考えておくべきことを記した。
AIの利活用のその先に 今後より多くの企業が、自社の経営にAIを導入するようになるだろう。
その可能性は非常に大きく、企業にとっての新市場開拓や業務改善などが実現すると思われる。
われわれ人間が気付かない、気が付いても実施しようとしない領域を、AIは果敢に切り開いてくれることだろう。
本稿では、AIの定義が定かでないこと、AIは根源的に「不確かさ」を内包していること、AIを経営に利活用する際はさまざまな点からそのリスクをマネジメントすることの重要性を述べた。
その一方で、リスクを意識し過ぎて、経営に悪影響を与えることもあってはならないということも最後に記しておきたい。
業務を拡大するためにはリスクを積極的にテイクすることが大事になる場面もあるだろう。
まさにそうした判断は、経営者が進んで関わっていくべきである。
実際にAIを経営に利活用する際は、AIは万能であるとか、これで何でもできるようになった、というふうに考えてはならない。
成果の出そうなところから、便利なものだから、ちょっと使ってみようか? というくらいの気軽さこそ、時に必要かもしれない。
それによってAIが社内に浸透し、扱ってみたら意外と便利じゃないか、という流れになれば好都合である。
経営者がAIを大げさに取り上げて、大々的に取り組む姿勢を見せると、社内において過剰な期待を生んだり、もしくは過剰なリスクに対する恐れを生んだりしてしまう。
AIはそんな大したものではないというところからスタートさせるのが正しい進め方だろう。
ロジスティクスに関係する業界および企業の方々が、考えられるあるいは想定されるリスクをしっかり把握し、またそのマネジメントの方策をきちんと準備した上で、AIを経営に利活用し、その成果を十分に享受することを期待したい。
(注)本稿は、寺嶋正尚編著『AI経営のリスクマネジメント(日本経済新聞出版・2021年3月)』を基に整理したものである。
1950年代の「認識・推論」を軸にした第1次ブーム、「専門家による仕事を再現するエキスパートシステムや音声認識」が開発された第2次ブームに続く第3次ブームである。
ブームが始まった正確な時期については諸説さまざまあるが、およそ2010年代以降続いている。
「機械学習」と「ディープラーニング」が今回のブームのキーワードである。
そして早晩第3次ブームは終焉を迎え、いずれAIが人類の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れる。
第4次AIブームが起きて、人々の生活が一変するとされている。
さて、時計の針を現代に戻そう。
第3次AIブームの真っただ中にあって、実際にAIはわが国企業にどの程度導入されているのだろうか。
実は少し前まではさまざまなアンケート調査などが行われていたが、ここ1~2年はあまり存在しない(それだけAIが浸透してきたことの表れかもしれない)。
やや古いデータになるが、最も信頼のおける調査の一つとされる「AI白書2020(独立行政法人情報処理推進機構)」の「企業におけるAI利用動向アンケート調査」を見てみよう。
調査時点は2019年7~9月であるから、およそ2年前の状況である。
「すでに導入している」4・2%、「現在実証実験を行っている」4・8%、「利用に向けて検討を進めている」10・5%となっている。
20%弱の企業が、実際に導入あるいは前向きに導入を検討している。
「ロジスティクス・調達・物流」に限定すると、「すでに導入している」4・5%、「現在実証実験を行っている」8・0%、「検討中/関心あり」16・2%である。
米スタンフォード大の社会学者、E・M・ロジャース教授が提唱したイノベーション理論によると、普及率が16%を超えるとその商品やサービスは爆発的に普及するらしい。
AIに関しても、そろそろ爆発的に普及する分岐点を迎えることだろう。
企業はなぜAIを導入するのだろうか。
同じく「AI白書2020」のアンケート調査の結果を見ると(図表1)、「すでに導入している企業」は、その理由に「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」を挙げている。
これに次いで、「新サービスの創出」「既存サービスの高度化、付加価値向上」「品質向上」である。
一方、「検討/関心ありの企業」は、導入している企業同様、「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」が高いが、導入している企業では低い項目の「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「労働力不足への対策」「人件費の削減」も高い。
「すでに導入している企業」と「検討/関心ありの企業」でその結果にやや違いが見られるのは興味深いがその点はさておき、ここで皆さんは何かにお気付きになられることだろう。
「業務効率化による業務負担の軽減」「生産性向上」「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「労働力不足への対策」「人件費の削減」という項目は、ロジスティクスを手掛ける企業の方々は、とてもよく目にするのではないだろうか。
つまりロジスティクスに関連する企業の方々は、ロジスティクス業界が、そして自分の企業が、「AIの導入が期待される」業界あるいは企業であることを認識しておく必要がある。
今はAIを導入していない企業であっても、ライバル企業が相次いで導入し、その情報を耳にした時には、急遽導入を検討するかもしれない。
以下、こうした認識を基に、AIを経営に利活用する際に気を付けておくべきこと、考えておくべきことを整理する。
そもそもAIとは何なのか? ここまで本稿では、AIという言葉を定義せずに書き進めてきたが、そもそもAIとは何なのだろうか。
「AIは人工知能である」「Artificial Intelligenceの略である」といえばその通りだが、それではそもそも人工知能とは何なのだろうか。
この点に関しては、松尾豊氏(東京大大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 教授)の書籍『人工知能は人間を超えるか─ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA、2015年)などに整理されている。
なかでも浅田稔氏(大阪国際工科専門職大学 工科学部 教授)による定義を紹介しておきたい。
氏は「知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない」としている。
要は、AIは定義できないのだ。
学問上はそれでも致し方ないのだろうが、しかし自社の経営にAIを利活用する場合はそうはいかない。
AIシステムの導入となれば、かなりのコストと労力を必要とする。
少なくともそのAIがどのようなものであるか、しっかり理解しておく必要がある。
後述するように、このAIのロジックは多くの場合、ブラックボックス化されている。
どのような処理がなされたか分からないケースも少なくない。
得体の知れないものを導入し、そのロジックがブラックボックス化されているとしたら、われわれはそのシステムが出した解を最適解として扱ってよいのだろうか。
その解が間違っていた場合、その責任は、誰がどう取るというのだろうか。
こうした根本的な考えるべきテーマはあるものの、本稿を進めるに当たり、第3次AIブームのAIがどのような機能を兼ね備えたものであるか、やや乱暴であるが整理しておきたい。
先に述べたように、第3次AIブームは「機械学習」「ディープラーニング」の時代である。
機械学習の定義や領域は、これまた研究者によりさまざまであるが、「AI白書2020」によると、「データの背後に潜む規則性や特異性を発見することにより人間と同程度あるいはそれ以上の学習能力をコンピュータで実現しようとする技術」である。
「予測」や「分類(または識別)」をするためのルールを見付ける仕組みであり、検索エンジンや需要予測など、幅広い分野で使用されている。
次にディープラーニングであるが、これは機械学習に含まれる技術である。
人間の神経細胞を数理モデルとして実装したアルゴリズムである。
多層の人工ニューラルネットワークとも呼ばれる。
同じく「予測」や「分類」を行うものである。
音声認識や画像認識などで使用されている。
ここではざっくりとではあるが、「第3次ブームのAIは、何らかの高度なアルゴリズムにより、『予測』『分類』をするもの」と理解しておこう。
期待される活用領域 (1)ターゲット市場の選定 企業のマーケティング戦略を考える際、その基本的な流れは、環境分析、STP分析、マーケティングミックス、である。
このうち主として、STP分析、マーケティングミックスにおいてAIの活躍が期待される。
現代はモノを作れば売れる時代ではなく、モノ余りの時代である。
顧客ニーズは細分化(個別化)し、多様化が進展している。
かつてのコカ・コーラのように、全ての顧客をターゲットにした、いわゆるマスマーケティングの手法は通用しにくい。
市場を細分化し、ターゲットとなる市場を選定し、そこに経営資源を集中的に投入することが重要である。
ここで問題となるのが、「誰をターゲットにするか」「そのターゲットをどのように選ぶか」だろう。
米経営学者、フィリップ・コトラーはその手法としてSTP分析を提唱している。
STP分析とは、①市場細分化(Segmentation)、②標的市場の決定(Targeting)、③自社の立ち位置の明確化(Positioning)の三つを指す。
例えば、わが社の商品「高価なスポーツドリンク」は、「20~30代の所得水準の高い男性で、スポーツが好きな人」に販売する、というように、自社のターゲット顧客を明確にする。
このSTPのプロセスに、AIは大いに活用できる。
ターゲット市場は、今や極小の単位である「個人」にまで細分化され、いわゆるワン・トゥ・ワン・マーケティングが可能になっている。
アマゾン・ドット・コムをはじめとするオンラインショッピングでは、消費者の購買履歴、商品へのアクセス、他の消費者のデータなどを分析することで、パーソナライゼーションを実現している。
一人一人を識別し、その個人をターゲットとする事業の展開である。
そしてその個人に対し、レコメンデーション機能(推奨機能)などを提供している。
AIがビッグデータを基に、自社の戦略やコンセプトに合った個人を特定し、その個人を優良顧客に育て上げるわけで、近い将来、ターゲットマーケティングは、AIなしでは語れない日が訪れるだろう。
(2)マーケティングミックスの実施 ターゲット市場を選定した後に行うのが、マーケティングミックスである。
マーケティングミックスは、企業が目標を達成するために、統制可能なマーケティング要素であるいわゆる四つのP、すなわち、商品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)を組み合わせて実施する。
企業はこのマーケティングミックスを構築し、それらを実行する。
そこで、商品戦略、価格戦略、プロモーション戦略、流通戦略、の四つについて、以下にAI利活用の可能性を見ていくことにしよう。
A. 商品戦略 商品戦略には、主として、商品開発と品揃えの二つがある。
商品開発は、AIによる「あなただけの商品」「オンリーワン商品」の開発である。
一方、品揃えは、特定のターゲット顧客が望む品揃えを提供したり、自社のコンセプトにあった品揃えなどを行ったりするものである。
さらに、クロスマーチャンダイジング(クロスMD)機能への利活用もある。
どの消費者がどのような組み合わせで商品を購入するかを特定し、それに基づく品揃えを準備するといったことは、まさにAIの得意とするところである。
自社にとって非常に重要な優良顧客が望む品揃えなどは、ぜひとも実現しておきたいところだろう。
B. 価格戦略 価格戦略としては、AIがさまざまなデータを基に柔軟なプライシングをするという、いわゆるダイナミックプライシングなどが挙げられる。
収益拡大や在庫処分などを目的に、最適な価格を実現するものである。
これにより、「短期的な視点でなく中長期的な視点に立った、顧客満足度を最大にするプライシング」「自社へのロイヤルティに応じた顧客別プライシング」などが可能になる。
C. プロモーション戦略 これまでもレジで商品の代金を支払う際に、ある商品を購入すると、その関連商品のクーポンが出される仕組みなどは存在した。
これがAIにより、さらに顧客に適合したプロモーションが実施される。
テレビCMに反応する人、店内のPOPに反応する人、従業員の働きかけに反応する人など、さまざまな人が存在するなか、個別ニーズに合致したプロモーションが、スマートフォンやパソコン、タブレット端末などを経由して提供されるようになるだろう。
チラシに反応しない人に、永遠にチラシを送り続けるのは非効率で無駄である。
顧客ごとに、最も望ましいプロモーションがAIによって判断され、実施されていくことになると思われる。
D. 流通戦略 流通戦略への利用は主として、販売予測・在庫管理、物流の二つに大別される。
まず、販売予測・在庫管理だが、AI利活用の事例は非常に多い。
ビッグデータを容易に利活用できるようになった現在、必要なデータをAI自ら選択し、それを基に需要予測を行うことで、欠品・品切れ、または過剰在庫による返品・廃棄ロスなどを削減できるようになった。
同様に物流も利活用事例に溢れている。
物流の主要業務には、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報などがあるが、例えば医薬品の配送などにおいて、トラック内の温度、気温などを基に、AIが最適なルートを決定する事例などが報告されている。
AIがAIを管理する時代に さてこのように、非常に便利で、多くの企業によって利活用が望まれるAIであるが、実際に導入する際は、どのような点に考慮する必要があるだろうか。
図表2に見るように、AIを経営に利活用する段階は、学習段階、利用段階の二つに分けられる。
前者の学習段階は、学習済みモデルを作成する段階である。
ユーザーを含む関係各所からデータを提供してもらい、そのデータを加工して学習に適したデータの集まり(学習用データセット)を作り、それを学習用プログラムに入力することで学習済みモデルを作成する。
後者の利用段階は、作成した学習済みモデルに実践的な新しいデータを入力し、その結果を出力するというもので、最終的にはAI生成物(何らかの成果)を得ることを目的とする。
要は、AIは導入していきなり効果を発揮するものではない。
AIベンダーとユーザー企業が手を取りながら、適切なデータを入力し、学習させることによって、良質なAIに育てていくのである。
つまり他のシステムと異なり、AIは、導入した時点ではそのAIが本当に役に立つものになるかどうか確信が持てないという、ある種の「不確かさ」を常にリスクとして内包していることになる。
こうしたリスクへの対応としては、①技術的視点からの対応、②法的な視点からの対応、③ガバナンスの視点からの対応、などさまざまなものが考えられる。
以下、特に注目される①に焦点を絞って考えてみよう。
企業はAIを経営に生かす場合、どのような方式をとるべきだろうか。
ここではAIの導き出した答えの透明性と客観性を技術的に示す二つの方式を提言する。
●方式1:データおよびアルゴリズムを開示(ホワイトボックス型のAI) 方式1は、予測・推定の根拠が分かるAI、すなわち「ホワイトボックス型のAI」である。
このAIを利活用する企業は、その中身が分かることで、なぜそのように予測したのか説明することが可能になる。
ホワイトボックス型のAIは、主として決定木や線形回帰などの統計解析の技術を使用している。
ディープラーニングよりも旧式の手法であり、複雑な計算はできないが、人間にとっては解釈しやすいモデルである。
NECは、このホワイトボックス型AIの研究・開発にいち早く取り組み、2012年の段階ですでに事業化している。
しかしながら説明可能である一方、ホワイトボックス型のAIは予測の精度を高めるのが大変という弱点がある。
そこで高い予測精度を得られ、かつ説明可能な策として考えられるのが、次の方式2である。
●方式2:ブラックボックス型AIに透明性・客観性を担保 方式2は、ブラックボックス型AIをそのまま利活用し、その答えに対して透明性・客観性を確保するというものである。
ブラックボックスと言われるディープラーニングに、解釈性を付加する方式であり、こうしたAIは「説明可能なAI(Explainable AI:XAI)」と呼ばれる。
ブラックボックス型であるにもかかわらず、説明可能な点が画期的である。
XAIの実現を目指して、AIベンダー各社は、さまざまな手法や技術開発にしのぎを削っている。
初めに紹介するのは、グーグルである。
グーグルは、2019年11月21日に「Explainable AI」を発表した。
このツールは、用いた手法およびその結論に至った理由を、ユーザーに説明してくれる。
同社が提供する「AutoML Tables」または「AI Platform」というサービスに、この「Explainable AI」を導入すると、どの要因が最終結果にどの程度影響を与えるか、その予測とスコアが得られるというものである。
さらに「AI Platform」に統合された What-If ツールを使用すると、そのモデルすなわち「AutoML Tables」または「AI Platform」の性能も評価することができる。
次に紹介するのは、IBMの「Watson OpenScale」である。
稼働中のAIモデルの動作をモニターし、それらが偏った振る舞いをしているかどうかを検知する。
また検知するだけでなく、検知したバイアスを緩和する機能も有している。
さらに、AIの予測の根拠・道筋を提示することもできる。
図表3は「Watson OpenScale」がAIをどのような軸で評価するか、その基準例を示したものである。
図表4は「Watson OpenScale」の画面であるが、図表3で見た精度(Accuracy)と公平性(Fairness)に問題があることを示している。
このようにIBMの「Watson OpenScale」は、現在使用しているAIがきちんと稼働しているか、精度、公平性、説明可能性の視点から評価する仕組みである。
要はAIがAIを評価し、このAIは精度の面で問題がある、そのAIは説明可能性に問題がある、というように判断するのである。
この「Watson OpenScale」が意義深い点は、IBMのAIシステム(Watson)だけでなく、他社のAIシステムに関しても使用し、評価できることである。
どこでどのように構築されたAIシステムであるか、またどこで運用されているAIシステムかといったことは問わない。
まさにオープンなプラットフォームであり、企業にとっては、使用しているシステムやクラウド環境に依存しないため、IBMだけでなく他社のAIに対しても幅広くモニターすることができる。
以上、グーグルの「Explainable AI」とIBMの「Watson OpenScale」を例に、AIを経営に導入する際、技術的な視点から、考えておくべきことを記した。
AIの利活用のその先に 今後より多くの企業が、自社の経営にAIを導入するようになるだろう。
その可能性は非常に大きく、企業にとっての新市場開拓や業務改善などが実現すると思われる。
われわれ人間が気付かない、気が付いても実施しようとしない領域を、AIは果敢に切り開いてくれることだろう。
本稿では、AIの定義が定かでないこと、AIは根源的に「不確かさ」を内包していること、AIを経営に利活用する際はさまざまな点からそのリスクをマネジメントすることの重要性を述べた。
その一方で、リスクを意識し過ぎて、経営に悪影響を与えることもあってはならないということも最後に記しておきたい。
業務を拡大するためにはリスクを積極的にテイクすることが大事になる場面もあるだろう。
まさにそうした判断は、経営者が進んで関わっていくべきである。
実際にAIを経営に利活用する際は、AIは万能であるとか、これで何でもできるようになった、というふうに考えてはならない。
成果の出そうなところから、便利なものだから、ちょっと使ってみようか? というくらいの気軽さこそ、時に必要かもしれない。
それによってAIが社内に浸透し、扱ってみたら意外と便利じゃないか、という流れになれば好都合である。
経営者がAIを大げさに取り上げて、大々的に取り組む姿勢を見せると、社内において過剰な期待を生んだり、もしくは過剰なリスクに対する恐れを生んだりしてしまう。
AIはそんな大したものではないというところからスタートさせるのが正しい進め方だろう。
ロジスティクスに関係する業界および企業の方々が、考えられるあるいは想定されるリスクをしっかり把握し、またそのマネジメントの方策をきちんと準備した上で、AIを経営に利活用し、その成果を十分に享受することを期待したい。
(注)本稿は、寺嶋正尚編著『AI経営のリスクマネジメント(日本経済新聞出版・2021年3月)』を基に整理したものである。
