{literal} {/literal}

2021年8月号
特集

シノプス 小売りの発注を起点にデマンドチェーン構築

SCM vs DCM ──シノプスは「デマンド・チェーン・マネジメント(DCM)の実現」をビジョンに掲げています。
従来のSCMと、シノプスが目指すDCMは何が違うのですか。
 「SCMという言葉を私が初めて聞いたのは30年近く前のことでした。
アメリカでウォルマートとP&Gが成功したから、これを日本にも持ち込もうという話でした。
しかし、うまくいかなかった。
日本企業だけでなく、ウォルマートをはじめ流通外資が次々に日本に参入したけれど、どこも撤退したり苦戦したりしている。
結局、日本の消費者はSCMでは納得してくれないわけです」  「そもそも物流コストが合わない。
アメリカのように日本の26倍もの面積があって、四角い大陸であれば、大量生産・大量配送・大量消費もあり得るでしょう。
しかし、日本は細長い弓形の島国です。
うねうねと山を越え川を橋を越え、海を越えて輸送するわけですから物流コストが高くつく。
燃料費も高いし、土地も高い。
まとめて持ってこられても置いておくスペースがない。
だからジャスト・イン・タイムが必要なわけです」  「もうひとつ理由があって、日本は商品の種類が極端に多い。
江戸時代にはざっと300の藩があって、それぞれ殿様に献上する名産品を競い合ってきた。
隣の藩とは味噌も違えば醤油も違う。
どこへ行ってもその土地柄に合う日本酒があり、食材がある。
300の藩にそれぞれ10あれば3千種類もの商品があるわけです」  「しかも、日本人は口にするものにシビアです。
海外に行けば食パンや玉子でも賞味期限は全て30日。
日本のように数日ということはない。
賞味期限と消費期限で2種類あるのも日本だけ。
これはやはり、生で食べる文化が非常に強いからです。
在庫したり売れ残ったりすればすぐに賞味期限切れになる。
そのため日本ではサプライヤー目線でモノを川下に運んでいくという考え方ではダメで、需要を起点にしなければいけない」 ──しかし、元々サプライチェーンも川下の注文が起点になっています。
 「小売業は“発注は命”だと言います。
ところが、実際にその命を担っているのはパート社員です。
もちろん、パートさんの中にも非常に高い精度で発注する優れた人はいます。
それでも、ほとんどの人は適当ですよ。
スーパーであれば店には1万数千種類の商品が並んでいる。
それを普通は10人余りで分担して発注している。
つまり1人当たり1千を超えるアイテムを管理させている。
どんなに物覚えの良い人でも1人で管理できるのは100までです。
残り900は適当にならざるを得ない」  「賞味期限の長い加工食品や工業生産品であれば、それでも大きな問題にはならないかもしれない。
間違えてたくさん発注したら、しばらく発注をやめておけばいいわけですから。
しかし、日配カテゴリーはそうはいきません。
牛乳やヨーグルトなどの『洋日配』、豆腐や納豆などの『和日配』の賞味期限は長いものでも2週間くらいです。
その注文を間違えたら値引きして売りさばくしかない。
それでもだめなら廃棄するしかない。
その結果、毎年膨大な食料品が廃棄されています」 ──どうすればDCMを実現できますか。
 「需要側の情報を中間流通から上流に速やかに上げていく。
そのために需要予測を機械にやらせて発注を自動化すればいい。
25~26年前から私はそう言ってきたのですが、当時のコンピューターは今ほど性能が良くないし価格も高かったので、やりたくてもできなかった。
それがこの10年で変わりました。
通信スピードが上がり、ハードウエアの能力も向上して価格は下がった。
タブレットのようなツールも普及した。
しかも普段から自分のスマホを使っているので誰でも使いこなせる。
環境が整いました。
そのため今になって、南谷が言っていたのは、そういうことだったのかと分かってもらえるようになりました」 ──シノプスの設立は1987年10月ですから既に33年の社歴がある。
しかし、急成長を遂げたのはこの10年です。
 「需要予測は26〜27年前に卸向けに始めたのですが、当初の10年間は誰も見向きもしてくれませんでした。
風向きが変わったのは、2008年にスーパーの日配品の自動発注をやりだしてからです。
最初の1、2年は苦戦したのですが2010年頃になるとどんどん成果が上がってきて手応えをつかみました。
大手チェーンからの指名が次々に舞い込むようになりました」 ──シノプスの2021年第1四半期の報告書によると、現在の小売業の契約者数は87社。
拠点数は5643。
小売市場全体に占めるシェア率は16・5%。
これを40%まで高めていくという目標を掲げています。
 「まずは安定シェアとされる40%を確保して、卸業、製造業に手を広げていきたい。
日本の食品廃棄ロスは年間620万トンにも上っています。
それを削減していくには小売業だけではダメで、卸業、製造業のムダを削減する必要があります」 ディープラーニングは使えない ──需要予測システムは2000年代にもブームがありました。
当時のi2テクノロジーズが開発したSCP(サプライチェーン計画ソフト)を日本の大手メーカーをはじめ多くの企業が導入した。
しかし、定着はしませんでした。
 「メーカーが出荷実績だけで、小売りの在庫データがない状態で需要を予測しようとしても結局、靴の上から足をかくようなことになってしまう。
精度の高い在庫データとPOSデータがなければ需要は予測できません」 ──在庫データもPOSデータも当時からありました。
 「システム上の在庫は金額で合わせているだけです。
同じ商品でも仕入れ単価には違いがあるので数量とはリンクしていない。
POSデータにしても在庫データがなければ結局、活用できない。
売れ行きの傾向が分かるだけで、在庫のムダを削減することはできません。
精度の高い予測をするには精度の高い在庫データが必要です。
そのために当社ではユーザーの在庫データを日々メンテナンスしています」 ──AIの進化は需要予測の世界にどのような影響を与えていますか。
 「今話題になっている機械学習やディープラーニングには膨大な実績データが必要です。
しかし、小売業にそこまでのデータはありません。
必要なデータが貯まるのを待っていたら商品が切り替わってしまう。
十分なデータがない状態で予測させても精度は上がりません。
しかも、AIは赤ん坊が言葉を覚えるのと同じで、たくさん入力して使っていくうちに、いつの間にか話せるようになる。
なぜ、そうなったのかは分からない。
ブラックボックスです」  「当社にもAIの専門家がたくさん入社してくれるようになり、彼らに研究させてはいますが、今のところ『まだ使えるところまでいっていません』という報告ばかりです。
そのため当社では『エキスパート法』と呼ばれる一世代前のAI技術を使っています。
専門家が仮説と検証に基づいて目標の精度を達成するまで手直しを繰り返す。
そのやり方でも、お客さまに満足してもらえるのが80点だとすれば、82、83点は取れる。
それで十分だと思っています」 ──人間だと何点なのですか。
 「平均をとったら50〜60点です。
だから統計学的には60点でOKのはずですが、80点は求められる」 ──既に人間を凌駕しているのですか。
 「いや、優秀な人には適わない。
以前に全国に100以上の拠点を展開する卸で最優秀クラスのセンター長と、当社の『sinops(シノプス)』を競い合わせたことがあります。
同じデータを使って、どちらの精度が高いか大勢の目の前で勝負した。
その結果、シノプスは僅差で負けてしまいました」  「会場には50人余りの関係者が集まっていて、口々に『さすが、いつも社長賞を取っているだけあるな。
機械より上だな』とセンター長を褒めていたのですが、それを聞いた経営幹部が『君たち何を言っているんだ。
そうじゃない』と。
当時500万円くらいだったシノプスが、年収1千万円クラスの人材と微調整もなしに良い戦いをしたのだぞ、と。
それを使えば精度の低い90%のセンターを底上げができるという話になりました」

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから