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2021年8月号
特集

アクセンチュア 需要予測を起点にサプライチェーン最適化

「AI Powered SCM」  AIはもはやビジネスにおける重要なパートナーだ。
アクセンチュアの調査によると、日本の経営幹部の77%が、AIをビジネス全体に積極的に導入しなければ2025年までに著しく業績が低下するリスクがあると回答しており、グローバル企業はもちろん国内で事業展開する企業でも、今や何らかのかたちでAIを利用するようになっている。
 ただし、活用レベルのバラツキは大きい。
企業の経営戦略に沿ってサプライチェーンの計画立案やオペレーションを最適化し、さらに工場や物流センターの立地などネットワークの構造にまで踏み込み、AIを使ってSCMを一気通貫で効率化している企業がある一方、いまだに実験段階にとどまっていたり、導入はしたものの実際には使っていないという企業も多い。
先の調査でも、AIの実証の方法は分かるがビジネス全体でAIを活用させることに苦労している企業が、76%に上るという結果が出ている。
 筆者は2010年代初頭に業務コンサルタントとして大手アパレルの大規模なデジタル化プロジェクトの立ち上げに参画して以来、ビッグデータを分析して需給調整を精緻化・高度化するコンサルティング案件に従事してきた。
現在はアクセンチュアのAIグループに所属して、アナリティクスコンサルタントとして顧客企業の事情に詳しい業務コンサルタントとタッグを組み、顧客のAI導入を支援している。
 アクセンチュアでは、AIを使ってさまざまな業務プロセスを効率化・高度化する「AI Poweredサービス」シリーズを展開している。
その一つ「AI Powered SCM」はSCMを効率化するサービスだ。
製品・サービス開発から物流まで、モノづくりのバリューチェーン全体にAIを組み込み、パーソナライズされた製品やサービスを、顧客が望むタイミングで届けるビジネスを実現できる(図1)。
 その基点となるのがAIによる需要の予測値だ。
過去の実績から曜日や季節傾向、トレンドを読み取り、それ以外の要素との因果関係を、機械学習を用いて読み解くことで、人間よりも正確に需要を予測する。
 バリューチェーンの各プロセスでは、その予測値をインプットとして、それぞれ最適化を進める。
工場では需要予測を基に生産計画を立案して調達計画、要員計画に展開していく。
ロジスティクス部門は在庫配分を決定し、庫内の人員配置や作業計画、輸送計画、配車を管理する。
 店舗では発注を最適化して品揃えを強化し、ダイナミックプライシングなどの手法を使って売れ行きをコントロールする。
最近では店舗に設置したデジタルサイネージ(電子看板)の表示を需要予測と連動させて、顧客に推奨する内容を工夫することで売り上げを伸ばすといった取り組みも行われている。
「説明可能なAI」の優位性  需要予測のアルゴリズムにはたくさんの種類があり、日進月歩で進化している。
適切な需要予測アルゴリズムを柔軟に取り入れていくことが重要だ。
「AI Poweredサービス」シリーズは、ビジネスニーズに合わせて常に最適なAIエンジンを組み合わせて利用することを可能にする「AI Hubプラットフォーム」をベースに作られている。
 このプラットフォームを使えば、大きな投資やシステム開発に時間をかけることなく、その時々でベストと思われるAIエンジンに乗り換えることが容易になる。
全てのデータを経由させて蓄積し、そのデータを活用して学習を繰り返すことで、サービスを継続的に進化できる。
 これまで筆者は顧客の要望に応じてアクセンチュア独自の需要予測アルゴリズムの他にもさまざまなアルゴリズムを扱ってきた。
当社のアルゴリズムと他社のアルゴリズムを両方導入して結果が良い方を使いたいという要請を受け、その導入から効果検証までを担当したこともある。
 優れたアルゴリズムを選択していく上で、精度のほかに着目すべきは解釈性だ。
AIの思考プロセスが見えない“ブラックボックス”のアルゴリズムよりも、ユーザーがAIの弾いた予測値の根拠を理解できる、いわゆる“ホワイトボックス”の方が、SCMを高度化する上では好まれることが多い。
 最先端のアルゴリズムと聞くと、通常はディープラーニングなどを思い浮かべるであろう。
それに対してホワイトボックスの回帰分析や時系列解析(ARIMA)はいわば一世代前のモデルである。
しかし、ホワイトボックスの統計手法もまた進化しており、ベイズ統計学を活用した時系列解析アルゴリズムは実用段階にあり、多くのクライアントへの導入が進んでいる。
 今後、ブラックボックスのアルゴリズムが発展して、常に人間を上回る精度を発揮するようになれば状況はまた変わってくるかもしれない。
しかし、今の段階で評価する限り、アルゴリズムの選択の要諦は大きく次の三つである。
①継続的な自動進化 最新実績を取り込みAIが自動的にモデルを更新、最新の商売に応じた予測を算出して予測精度の劣化を抑制すること。
②予測・需要のブレ幅の可視化 ブレ幅(信頼区間)を可視化することで、予測・需要のブレに応じて安全在庫数を決定するなどの意思決定が可能であること。
③予測の根拠の可視化 パラメータのAI評価結果を可視化することで、パラメータごとのインパクトを担当者が把握して意志入れが可能であること。
 アクセンチュアの多種多様な需要予測アルゴリズムの中でも最も利用頻度が高いのはホワイトボックス型であり、その汎用性に特徴がある。
 サプライチェーンの川上に当たる事業本部では通常、半年から1年先までの需要を週別に予測して、計画業務の省力化や生産量・販売量の最適化を図る。
それに対して川下の倉庫や店舗では、在庫水準や配送頻度を適正化するのに日別の予測が必要で、計画期間は数週間と短い。
 上記アルゴリズムはその両方に対応している。
業務に必要な需要予測のメッシュや対象とする商品の売れ方の違いを問わず、同じアルゴリズムで予測ができる。
それにより、業務に必要なメッシュごとにアルゴリズムを導入する必要がなく、一つのアルゴリズムで幅広く活用することが可能となり運用効率を高く保つことができる。
 このアルゴリズムは従来の回帰分析、時系列解析モデルに対しても優位性がある。
回帰分析は過去から直近、未来へと進む時間の流れを考慮することが難しい。
一方、時系列解析モデルは、時間の流れを考慮できるが、需要変動に影響する変数、例えばイベントや天候、価格弾力性といった要因を評価することができない。
 それに対してアクセンチュアのモデルは、時間の流れと需要変動に寄与する変数の評価を同時に分析できる。
統計的な異常値を自動で除外して予測への影響を低減する機能を備えている。
既に飲食、雑貨、アパレル、眼鏡、医療機器、家電、縫製素材、アフターパーツなど豊富な導入実績がある。
ボタン一つで計画を修正  これまでAIを使ってサプライチェーンを最適化することについて、具体的なサービスの内容を交えて論じてきた。
ここでAIの活用領域をさらに広げ、最適な経営判断にAIを使う取り組みについて紹介したい。
 AIによる最適化計算とは、複数のシナリオが考えられる場合の意思決定に際して、どのシナリオが最善なのか、アルゴリズムを用いて判定することである。
同じことを人間がやろうとしても前年や前例をベースに、限られた数パターンの中から選択するのがせいぜいだ。
それに対してAIは膨大な数の組み合わせを瞬時に探索して最適解を導き出すことができる。
 まず、最適とは何なのか、粗利やコスト、生産性などのKPIを定義する。
続いて入手可能なデータからKPIを算出する計算ロジック・関数を構築する。
さらに意思決定する際に変更が可能な項目を整理して目的関数の変数を定義し、制約条件に対して意志入れが可能な範囲とその条件を整理する。
 AIは現状の最適解を算出するだけでなく、制約条件を改善した場合にKPIがどう変化するのかシミュレーションもできる。
その結果に基づいて、制約条件を改善するのに必要な投資と、それによって得られるKPIの改善効果を天秤にかける。
 アクセンチュアでは、経営レベルのKPIを一元管理しスピーディな経営判断を可能にする「AI Poweredマネジメントコックピット」を提供している(図2)。
これも前述の「AI Poweredサービス」シリーズの一つで、「AI Hubプラットフォーム」がベースになっている。
 このサービスを利用することで、経営会議において経営者と事業責任者、業務担当者の全員が、必要な情報をダッシュボードの数字を確認しながら、迅速に経営課題を発見して対応策を決定することができる。
 「AI Poweredマネジメントコックピット」は、KPIの着地見込み(成行)を、担当者の勘や経験、思惑に依存せずに、AIが客観的に予測する。
さらに利益の最大化やコストの最小化などの最適化の定義に合わせて、有効な改善策を提案する。
それに対して経営会議のメンバーは、発注や販売促進、値引き販売などのアクションをとった場合のKPIの変化をコックピット上でシミュレーションして、最適な選択肢を選ぶ。
 これまでの戦略会議は現状のKPIだけを材料に議論するしかなかった。
会議の席で期待の持てそうなアイデアが生まれても、いったん各部署に持ち帰らないと実現可能性や制約への影響を評価できなかった。
AIを使えばシミュレーション結果がその場で分かる。
会議中にトレードオフを議論して、全ての施策を積み上げた業績の着地見込みまでを確認できる。
 人手に依存したシナリオ分析は、シナリオの選択肢や制約条件の数が物理的に限られる上、会議を何度も繰り返すことなど実際にはできないため、結局、時間切れになる。
AIを利用することで、あらゆる選択肢と制約条件を考慮した意思決定が可能になる。
しかも、予測と修正を何度も繰り返すことができる。
 AI需要予測の精度は年を追うごとに向上している。
しかし、どこまでいっても100%正確に未来を予測することはできない。
予測と実績の誤差、予測のブレが発生した時にどう対応していくかは、SCMの重要な要素だ。
 そこでもAIが威力を発揮する。
実績値を常に学習しているため異常値を早期に自動で発見できる。
しかも、発注量や生産量の決定をぎりぎりまで引きつけられる。
生産計画はサプライチェーンに広く展開されており、計画の修正を人手でやるには手間と時間かかる。
しかしAIを使えば、端的にはボタン一つで計画を修正できる。
 筆者はまさに今、「AI Poweredマネジメントコックピット」を導入する案件に取り組んでいる。
PL/BSの着地予測をAIで常に更新して、計画との乖離が発生した場合には、対応シナリオをAIでシミュレーションして、それを作業指示にまでブレークダウンする。
 「このままではA国で欠品が発生する。
追加発注をかけよう。
生産コストは割高になるが、トータルではプラスになる。
あるいは在庫に余裕のあるB国から横持ちをかけたらどうだろう。
その場合の輸送手段はエアか海上輸送か。
抑制できる販売ロスと輸送コストのトレードオフをAIで確認しながら意思決定を下す」──そんなSCMを目指している。
AI経営の現在地  AIを企業に導入すること自体は決して難しくはない。
実績データをシステムに流し込めば予測値もすぐに出る。
しかし、実際にはせっかく導入したシステムが活用されずまったくのムダに終わっていることもある。
 もちろんAIは万能ではない。
属人的な勘と経験でAIをはるかに凌ぐ予測を立てる“達人”がいることは筆者も知っている。
しかし、そうした場合でも実績を調べてみたら、必ずしも予測精度は高くなかった、むしろ大量の廃棄損を出していた、という事例をこれまで少なからず目にしてきた。
 優れた需要予測担当者がいる場合でもAIは有効なツールになる。
AIの予測値に「意志入れ」をすることで担当者の業務負荷を大幅に軽減できる。
人間が予測するよりAIに任せた方が明らかに予測精度が高くなるアイテムが存在する。
数としてはその方が多い。
そうしたアイテムは予測をAIで自動化する。
 さらに人間の経験と勘を分解して、データ化できるものについてはAIに組み込む。
その上で、需要予測担当者は数値化できない「意思」を予測値に反映することに集中する。
こうして人とAIがそれぞれの得意分野に特化することで、予測の精度が全体として底上げされる。
人とAIの協働による相乗効果を期待できる。
 次のステップではネットワークを最適化する。
先進企業はAIを活用して生産能力や拠点の立地などをシミュレーションして、物流の連携がスムーズになるようにサプライチェーンを絶えず再設計している。
 ただし、そのレベルに達している企業は限られる。
原材料の調達から店舗販売まで、サプライチェーンのエンド・トゥ・エンドを垂直統合しているSPA(製造小売り)であればデータの取得やトレードオフの調整もそれほど難しくはない。
しかし、多様なプレーヤーで構成するバリューチェーンの全体を巻き込んでいくのは、着手から効果の刈り取りまでにどうしても長い時間がかかる。
 まずは即効性のある部分を見極めて、その改善からスタートする。
実際、多くの企業は現在、需要予測にAIを使って予測精度を底上げし、それを基に各プロセスの計画やオペレーションの最適化に取り組む段階にある。
 需要予測の高度化は直接的には在庫に効く。
在庫が減る一方で在庫回転率が向上する。
その結果、保管費や輸送費が抑制される。
一方、店舗側では過剰在庫が抑制されて、値引き販売で売れ残りを無理矢理に消化する事態を避けることができる。
 AI導入はそれ自体が目的になりがちだ。
効果をきちんと得るには、AI導入を経営戦略に組み込み、AIを使って何を実現したいのか明確にすることが第一歩だ。
その上で、まず需要予測からAIの活用を始めれば目に見える成果を得やすい。
 それを推進力としてS&OP(Sales and Operations Planning)を進めて部門間を連携させる。
社内の統合を済ませた後は、それをエンド・トゥ・エンドに広げていくというのが効果的な進め方であろう。
エンド・トゥ・エンドでAIを活用し川上から川下まで連動したSCMを構築している企業と、そうでない企業では、既に大きな差が付き始めている。

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