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2021年8月号
特集

インダストリー・ワン 食品流通業界で在庫削減と欠品率低減を両立

実証実験では卸センター在庫3割削減  三菱商事と日本電信電話(NTT)はデジタルトランスフォーメーション(DX)サービスを提供する共同出資会社「インダストリー・ワン」(Industry One)を設立し、2021年7月から営業を開始した。
新会社は19年12月に三菱商事とNTTが結んだ産業DX推進に関する業務提携の一環として設立され、株主構成は三菱商事が51%でNTTが49%となる。
 インダストリー・ワンは個別企業のデジタル化支援やデジタル技術を活用した企業間プロセスの最適化などといったDXの土台づくりからソリューション提供までを一気通貫で提供する。
個社では解決が難しい産業構造上の課題をDXによって最適化することをビジョンに掲げている。
その第1弾として取り組んでいるのが食品流通業界における在庫最適化ソリューションの開発と提供だ。
 インダストリー・ワンが展開する在庫最適化ソリューションでは三菱商事とNTTデータが共同開発した小売り、卸、メーカーに散在する在庫や受発注、需要予測などのデータと気象予測情報といった外部データを連携させるデータ連携基盤を活用する。
このデータを三菱商事グループのエムシーデジタルが開発した独自AIエンジンで解析することで、卸物流センターの在庫量を削減する試みとなる。
 三菱食品とローソンが取り扱う約1万商品のデータを活用して実証実験が行われた。
三菱食品の物流センターにおける入荷・出荷実績データとローソン店舗の販売情報を用いて、商品ごとに開発したAIアルゴリズムによって需要を予測。
その需要予測結果に基づいて卸の物流センターにおける発注量推奨数をシステムが提示する。
実験では三菱食品の主な取り扱いカテゴリーである加工食品、菓子、酒類、冷凍冷蔵品などの在庫を平均約3割削減、一部カテゴリーは最大で4割削減できるという結果が出た。
しかも在庫量の削減とはトレードオフの関係にある欠品率も低下させることができた。
 インダストリー・ワンの遠藤翼取締役コンサルティング事業部長は「食品卸の発注精度というのは、既にかなりの量の在庫を削減し、かつ欠品もしないというギリギリのラインで行われている。
そうした中で3割削減の期待効果が出たのというのはかなり大きいと考えている」と話す。
 物流センター在庫の平均3割削減という実証実験結果を受けて、21年の春からは三菱食品が運営するローソン向け物流センターで在庫最適化ソリューションの実運用が始まった。
コンビニはスーパーなどと比較してSKUが少ないため、仮に欠品していた場合に買い物客が他の商品で代替することが難しい。
そのため、他の小売り業態よりも欠品に対してシビアな傾向がある。
 「実務家の立場では在庫量が減らせても欠品率が上がってしまっては意味がない。
一般的にトレードオフの関係にある両者のバランスを取った数値を提示できる点がポイントだと思っている。
言ってみればブレーキを踏みながらアクセルを踏むといった内容に近いので非常に苦労したし、今も試行錯誤している」と遠藤取締役は明かす。
 現在、三菱食品の一部のローソン向けセンターでは発注の担当者がインダストリー・ワンの提供する在庫最適化ソリューションを実際の発注業務で使用している。
ただ、その使用内容については個々の発注担当者の裁量に任されているという。
システムが提示した発注量推奨数の範囲内の数値を使用する場合もあれば、担当者が調整した数量を発注するケースもある。
 インダストリー・ワンとしては実証実験での効果が実運用でもそのまま反映できる水準を目指して、効果の検証と精度の向上を進めている。
使用するデータが増えることで学習が進み予測精度が高まるというAIの特性上、今後も一定程度の期間をかけて予測モデルを洗練させる。
 在庫最適化ソリューションの使い勝手を向上させるに当たってはAIを用いた需要予測の高度化に加えて、取引ルールなどに関連した仕組みを本格的に実装していく方針だ。
例えばメーカーの受注単位に少し足りない場合の追加措置、あるいは特定数の発注で価格が割引になるといった要素に対応した機能をシステムに組み込んでいく。
 現在、三菱食品に提供している在庫最適化ソリューションをその他の卸や小売り、メーカーに提供する計画も進められている。
ただ、三菱食品に提供している内容と全く同じ形ではなく、顧客の要望に応じたカスタマイズを行う。
 「バリューチェーン全体で食品ロスをなくそうと思った場合にメーカー、卸、小売りそれぞれが異なるモデルで需要予測を行うと、その差分がロスにつながるという側面もある。
理想形としては業界全体で同じ予測モデルを共有することだとは思う。
ただ、第一歩としては同じ経済圏の中でモデルを作っていくことが必要だろう。
そのため、少なくとも縦方向では同じモデルで需要予測を行う仕組みが構築されるような形を目指していきたいと考えている。
卸と小売り、あるいは卸とメーカーといった具合にじわじわとチェーンをつないでいく活動を地道に進めていきたい」とインダストリー・ワンの中村裕輔取締役DXサービス事業部長は話す。
産業DXの将来目標に物流最適化  インダストリー・ワンが在庫最適化ソリューションの次に展開を目指しているのが企業間取引伝票のデジタル化サービスだ。
食品業界はEDIによるデジタル化が進んではいるものの、欠品などといったイレギュラーケース発生時には現状でも紙の修正伝票を起票し、双方で伝票の起票、保管、システムへの入力などといった追加事務作業が発生している。
しかも紙の修正伝票の入力ミスによって精算金額が合わない場合にはその確認作業にも追加の人的コストが発生する。
これを解決するため、卸と店舗間を対象に紙伝票を廃止してデジタル化を図るスマートコントラクトの構築を目指していく。
 AIを活用した在庫最適化ソリューションとスマートコントラクトによる事務効率化によって、モノと事務作業の削減を実現した先にインダストリー・ワンが見据えているターゲットが物流最適化だ。
在庫最適化と物流最適化を組み合わせれば、より大きな効果が生まれる。
 インダストリー・ワンを共同で設立した三菱商事とNTTは20年5月にオランダの大手位置情報サービス会社であるHERE Technologies(HERE)に出資している。
HEREは運送、物流、メディア、通信など幅広い分野で位置情報プラットフォームを展開。
三菱商事とNTTは現在、HEREが保有する世界最大規模の位置情報データベースを活用することで車両の位置や運行状況などを可視化して、輸送時の最適ルートを提供するサービスの開発に取り組んでいる。
 三菱商事とNTTが出資していることからインダストリー・ワンも食品流通DXにおける物流最適化ソリューションの展開に向けてはHEREのサービスを活用する方向だ。
ただ物流最適化ソリューションで連携するのはHEREのみではない。
デジタルに強みを持つその他の物流事業者との協業も模索していく。

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