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2021年8月号
特集

NEC 独自のホワイトボックス型を400件超実装

若き天才が発明した「異種混合学習」  NECは2018年7月に、食品のバリューチェーンを対象とする「需給最適化プラットフォーム事業」を開始した。
食品業界のメーカー、卸売業・物流業、小売業からそれぞれ実績データを受け取り、NECが各社の需要を予測、アイテム別出荷数や店舗別売り上げ、日別・時間帯別の来客数などの予測値を提供する。
 NECの武藤裕美交通・物流ソリューション事業部ソリューション推進部長は「日本国内だけでも現在、年間646万トンもの食料が廃棄されている。
その半分以上がサプライチェーンで発生している。
食料を無駄にするのをやめるために、みんなで情報を持ち寄って需要予測の精度を高めていきましょう、と呼びかけ、賛同してくれた企業と取り組みを進めている」と言う。
 NECが各社の機密を保護するファイアウォールの役割を果たすことで製配販3層の実績データを収集、マーケット情報や気象情報など売り上げに影響を与える「コーザルデータ」を加えてAIで解析する。
予測精度の大幅な向上、日配品の廃棄を40%削減するなどの効果が報告されている。
 NECが独自に開発したアルゴリズム「異種混合学習」がそこで活用されている。
データサイエンティストに代わってAIが、多種多様なデータの中に潜んでいる規則性を複数見つけ出す。
一つの規則性だけを発見して予測する従来の方式よりも精度が高い。
しかも、その予測値を算出した理由を計算式で示すことができる。
 通常の機械学習は、予測値の根拠を説明できない“ブラックボックス”だ。
そのため、どれだけ精度が高くても決裁者の承認を得ることが難しく、対策を検討することもできない。
異種混合学習は、高精度でありながら解釈性を備えたホワイトボックス型のAIだ。
結果の検証が可能であり、人間の判断と意思決定を支援できる。
これまでに計400以上のプロジェクトに適用されている。
 昨年9月1日、イトーヨーカ堂は全国の132店で、常温の加工食品、冷凍食品、アイスや牛乳など、約8千アイテムを対象に「AI発注システム」を導入した。
同社は18年2月に異種混合学習を活用した需要予測の検証を開始、昨年8月末までに33店でテストを済ませていた。
発注作業にかかる時間を平均3割削減し、営業時間中の欠品を抑制する効果などを確認できたという。
 NECグループでICTの保守・運用サービスをメーンとするNECフィールディングは、異種混合学習を活用して約14万品目に上る補修用部品の在庫最適化に取り組んだ。
従来、補修用部品はロジスティクス部門のスタッフが、それぞれの部品の設計時に計算された障害率に実績値を加味して需要を予測していた。
しかし、予測精度は低く、業務の負荷は大きかった。
従来の手法に限界を感じて需要予測の自動化に踏み切った。
 AIが対象部品の障害率と実績だけでなく、あらゆるデータの中から需要に影響を与える要因を自動でグルーピングして予測式を作成。
日々の実績データの動きから最適な計算式を選び予測値を導き出す。
新システムを導入した結果、予測の誤差率は従来の35%から9%に向上した。
2割の在庫削減と欠品率の抑制が実現した。
部品の発注数を自動計算することで発注業務の負荷が減り、営業部門などへの配置転換が可能になったという。
 ちなみにNECで異種混合学習のアルゴリズム開発を牽引した藤巻遼平氏は、2015年に史上最年少の33歳で同社の主席研究員に就任した若き天才だ。
藤巻氏は18年にNECをカーブアウトして米シリコンバレーでdotDataを創業。
同社は設立間もないスタートアップながら、機械学習自動化の領域では既に世界的リーディングカンパニーとして認知されている。
 NECはAI関連の出願特許では質、量共に世界トップクラス、SIベンダーとしては世界一を誇っている。
とりわけ指紋認証や顔認証、虹彩認証などの見える化の領域では1960年代に郵便局の宛名読み取り区分機を開発して以来の実績がある。
ディープラーニングを高速・軽量で処理する「RAPID機械学習」と呼ぶ独自のブラックボックス型技術も持っている。
 しかし、NECの片岡昭人AI・アナリティクス事業部エキスパートは「ディープラーニングはあらかじめゴールが決まっている問題を解くのに適している。
それに対して経営判断や新商品開発など、ゴールが一つに定まらない問題では、人間の判断に対する示唆がAIの役どころになる。
その場合にはホワイトボックス型を推奨している」と言う。
 上図はNECが有する世界オンリーワンもしくはナンバーワンのAI製品群だ。
このうち「解釈付き分析」に異種混合学習をはじめとするホワイトボックス型の独自技術が並んでいる。
さらには、予測の根拠を計算式で示すだけでなく、その原因や経緯まで推定する独自技術「ルール発見型推論」の提供も始まった。
 計画・最適化の領域では「意図学習」と呼ぶアルゴリズムを開発した。
優れた配車係や生産性の高いセンター長などをお手本に、熟練者の暗黙知を学習して意思決定を模倣する。
武藤部長は「当社のAIはBtoBに軸足を置いているので一般の認知度はそれほど高くないかもしれない。
しかし、業務系の案件にはどこにも負けない実績がある。
実務に則した仕組みを提供できる」と胸を張る。
日本通運と手を組み物流DX推進  今年6月、NECは日本通運と「DXによる価値共創」に向けた業務提携を締結した。
日通の物流ネットワークやロジスティクスのノウハウとNECのデジタル技術やインテグレーション力を活用して新たな事業を立ち上げる。
短期的には、IoTを用いて倉庫内の人やモノの動きをリアルタイムに把握、実績データをAIで分析することで、作業員のノウハウや暗黙知をデジタル化する。
産業軸では電機・電子から始めて、半導体、自動車に展開していくことを検討する。
 中期的には、これまで人力による作業の提供が困難だった場所で、AIや遠隔操作ロボットなどを用いて作業を提供することを目指す。
日通の倉庫作業の遠隔操作で実証を開始、ロボット操作人材の育成や動作プログラムの構築などを通じて知見を蓄積していく。
物流プロセスにおけるCO2排出量の可視化と削減もテーマに掲げている。
 NECはあらゆる業界・業種のサプライチェーンを一つにつなぐ「ロジスティクスプラットフォーム」を2030年までに構築することを目指している。
プラットフォームを介して全てのデータが企業の壁を超えてシームレスに接続される。
そこではAIが司令塔となり、調達から納品までのサプライチェーンをコントロールすることになる。

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