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2021年8月号
特集

OKI 自動交渉を物流業界に応用する

OKIの「AI協調」と自動交渉  われわれOKIは「社会の大丈夫をつくっていく。
」をスローガンに掲げて物流業界の課題解決に乗り出している。
現在は物流事務作業の効率化ソリューションや、AI技術を用いて物流業界の企業間の協調を生み出すシステムなどの研究・開発を行っている。
本稿では自動交渉と呼ばれるAI技術を求貨求車サービスに適用する研究を紹介し、その効果や課題、応用可能性について筆者個人の想いも含めて述べたい。
 われわれが力を入れるAI技術分野の一つに「AI協調」がある。
近年AI技術の社会実装が進み、自動配車や需要予測、倉庫配置最適化のようなAIシステムが着々と実績を積んでいる。
しかしこれらのAIシステムは個別のタスクを解決する機能に留まっているため、依存関係にあるシステムの間を人間が取り持つケースも多く、業務上の新たなボトルネックとなっている。
 そこでわれわれは、AIが他のAIと相互に作用して目的を果たすための技術が必要であると考えた。
複数のAIが目的のために協調することで、単体のAIシステムよりも大きな対象(例えば企業群、バリューチェーン全体、社会全体)により大きな価値と影響をもたらす。
それがOKIの描く「AI協調」である。
 人間同士が効果的に協調するためのタスクに「交渉」がある。
それは複数の人間の合意が必要な意思決定問題に対して行われる相互作用の一つである。
意思決定に参加する人間は互いに競合する目的や価値観を持ち、交渉によって互いに合意できる結論を導く。
近年、コンピュータープログラムによって人間同士の交渉を支援・代替することを目的とした研究が行われている。
それが「自動交渉」である。
⃝自動交渉とは  自動交渉とは、それぞれの価値観を持ち自律的に判断を下せる複数の自動交渉エージェント(以下「交渉AI」)の間で、互いに合意できる結論を探索する技術である。
荷主と運送会社が輸送の受発注条件を決定する交渉を例に、図1を用いて自動交渉のイメージを説明しよう。
 荷主は埼玉県某所から大阪府某所まで冷蔵貨物1・5トンの輸送を希望しているとする。
このとき、荷主と運送会社の間で集荷日時、配送日時、料金を決定するための交渉を考える。
荷主と運送会社は、コンピューター上にそれぞれ交渉AIを設定する。
それぞれの交渉AIには対応する企業の価値観と交渉戦略が与えられている。
 ここでの価値観とは例えば、「納品は8月12日の朝9時前でないと合意できない」「他の貨物と混載するなら2万6千円まで値下げできる」などの定量的な指標であり、自動交渉ではこれを効用関数と呼んでいる。
この効用関数は自動交渉の結論に大きく影響を及ぼすため、社会実装に当たっては、「企業の価値観を効用関数としてどのように表現するか」が重要な研究テーマの一つとなる。
 2社の交渉AIはそれぞれの効用関数と交渉戦略に基づいて、「集荷日時、配送日時、料金」という論点について合意可能な結論の探索を行う。
この探索方法の一つである相互提案プロトコルでは「相手の提案に対して自分が合意可能か判断し、合意できる場合はそのサインを、できない場合は自分の価値観に基づいて生成した代案を返す」という処理をどちらかが合意するまで交互に繰り返す。
 ここで、相手からの提案に合意すべきか、また相手にどのような提案をすればより良い結論に導けるかを判断するのが交渉戦略である。
通常、両者の利害が完全に一致することはないため、自分にとって最良の条件を提案し続けるだけでは、互いに合意可能な結論を見つけることができない。
 そこで図2のように徐々に相手の提案に歩み寄りつつ、可能な限り自身の効用値(効用関数の値)を下げない条件を提案するような交渉戦略をとることが多い。
それぞれの交渉AIは相手の効用関数や交渉戦略の全貌を観測できないが、相手の提案内容からこれらをゲーム理論的、あるいは機械学習的な手法で推測することで、互いに合意可能な結論へ上手に歩み寄ることができる。
⃝自動交渉を社会実装する  自動交渉は人間同士の交渉に着想を得た技術ではあるが、人間が日常的に行う全ての交渉を代替できるわけではない。
例えば、お土産片手に熱心に契約を勧める、「今回は貸しですよ」と情報を落としていくなど、単純な損得計算では動かないエモーショナルな交渉事を自動化することは、現時点では難しい。
 一方で自動交渉には、適切な効用関数や交渉戦略を与えれば、その条件下での結論を素早く導くことができるという強みがある。
この特性を生かすためには、ある程度定型的な内容で発生頻度も高く、結論の価値が定量化しやすい、ビジネスライクな交渉への適用が望ましい。
 また、自動交渉は一般的なデータ連携に比べて情報の秘匿性が高い。
企業間の協調において、貨物の送り先情報、トラックの空き情報、受発注料金など営業秘密に関わるデータは他社への開示が望まれない場合もあるだろう。
自動交渉では効用関数や交渉戦略が右記データに依存する可能性も考えられるが、交渉AIが観測できるのは相手の提案内容だけである。
このことから、自動交渉は秘匿性を求められる企業間協調に対しても効果的な技術であると考えられる。
 このように自動交渉は企業間をつなぐ新たなインターフェースとなる。
今までボトルネックとなっていた調整・交渉業務の省力化のみならず、柔軟でシステマティックな企業間協調の実現によって、サプライチェーンの在り方が大きく変革するだろう。
 われわれは物流業界をその最初のターゲットに据えた。
その最も大きな理由は、トラック輸送における最大の課題「輸送効率向上」の解決に、AI協調の考え方がフィットすることである。
 トラック輸送業界では日常的に定型的な受発注交渉を行っており、物流事業者や運送会社の「収益性高く運行したい」や荷主の「希望の条件を満たして安く運んでほしい」という目的も明確である。
ここにOKIのAI協調技術を提供し、交渉の仕組みや手段を工夫することで、輸送効率と個社の利益を共に向上させられると考えている。
 もう一つの理由は、多発する自然災害によって、物流がサプライチェーンへ与える影響を実感したことである。
近年の地震や大規模水害で物流網や工場が打撃を受け、関連する製品の供給に影響を及ぼしたことは記憶に新しい。
自身も製造業を営むOKIは、このことがきっかけでサプライチェーンにおける強靭かつ柔軟な物流網の重要性を再認識した。
そこで、物流業界に対して積極的に新しい技術を提案し、サプライチェーン全体の効率性・柔軟性とその持続可能性を高めたいと考えた。
 一方、この技術を物流業界に適用する際の問題点についても述べておく。
一つは、物流業界のDXがいまだ発展途上にあることである。
NECソリューションイノベータの報告「物流や配送、物流システム(TMS/WMS)に関するリサーチ結果(2021年)」によると、従業員100人未満の企業の約55%が配送計画を人手で立案している。
 OKIが開発を進めているAI協調システムでは、企業間協調に関係する社内の業務が電子化されていない場合、人手で情報を入力する作業が発生する可能性がある。
このような場合は、AI協調システムと連携可能な業務システムを合わせて提供することが望ましいだろう。
設備投資が遅れがちな企業を業界の新たな標準から締め出すことの無いよう、十分に配慮しながら機能を設計する必要があると考えている。
求貨求車サービスの課題  トラック輸送業界にはさまざまな企業間協調が存在するが、特に注目しているのはスポット貨物を効率よく運ぶ「求貨求車サービス」における荷主と運送会社の協調である。
 国土交通省の報告によると、営業用トラックの積載効率は直近で約40%まで落ち込んでいる。
運送会社など多くの物流企業が、自社内で輸送計画を工夫するだけでは十分な輸送効率を得られない状況にある。
 そこで近年、特定の荷主企業が手を組んで共同輸送・配送を行う取り組みが増えており、継続的な輸送需要には効率向上の効果が出始めている。
このような企業間協調に必要な企業間の条件調整をさらに柔軟化することで、スポット的に発生する貨物も効率よく運ぶことができないかと考えた。
 求貨求車サービスはスポット貨物を効率よく輸送する手段の一つである。
業種や荷物種別を限定せず、車や貨物を求める幅広い利用者をもち、より多くのバラエティに富んだ求車・求貨要望を集めることができる。
また、荷主の要望に確実に応える一般的な輸送受発注と異なり、互いの希望条件が合致するかどうかを対等な立場で確認し合う場合が多い。
このような広い混載資源と柔軟なマッチングが企業間の柔軟な協調を促進し、スポット貨物の輸送効率向上に貢献していると考えられる。
 ただし、求貨求車サービスの多くはマッチング候補の自動検索機能を備えているが、ほとんどの場合、マッチング候補との契約まで自動で至るわけではない。
マッチング候補の利用者間(もしくはサービス従事者と利用者間)で、より詳細な輸送条件や料金について交渉を行っている。
この交渉はマッチングの柔軟性や契約履行の信憑性の担保には重要な業務だが、多くは電話を利用するため担当者の拘束が必要で、ボトルネックになりやすい。
 今すぐに貨物(または車)を確保したいときや、さまざまな企業と交渉してもなかなか条件の合う相手が見つからないとき、自分の代わりに素早く交渉してくれる「分身」を作れたらどうだろう。
分身がたくさんの相手と繰り返し交渉している間に自分にしかできない専門性の高い業務をこなし、ボトルネックを解消できるのではないだろうか。
OKIの課題解決アプローチ  求貨求車サービスの課題に対し、現在二つのアプローチで研究に取り組んでいる。
一つ目は企業間で行われる輸送条件や料金の交渉を自動交渉に置き換えること。
そして二つ目は複数の自動交渉の結果(もしくは経過)を基に成約相手を決定する仕組みの開発である。
 一つ目の実現には、各サービス利用者が自身の交渉AIに効用関数と交渉戦略を設定する必要がある。
ただし、これらを独自に設計することが難しい企業に対しては、汎用的なモデルの交渉AIを提供し、各社の都合に合わせたパラメーターを設定するだけで利用できる環境を整備したい。
これに合わせて現在は、経路シミュレーションや運行コストを基に効用関数を生成する運送会社向けの交渉AIなどを設計している。
 二つ目のメカニズムについては、交渉AIが複数の交渉AIと同時並行で自動交渉を進めつつ最も条件の良い相手を選ぶことができる並列交渉や、複数の自動交渉の結果から全体最適なマッチングを導くアルゴリズムの研究を行っている。
 ここでのマッチングとは個別の成約のことではなく、複数の求貨・求車依頼をどのような組み合わせで成約させるべきか、リソース割り当て問題の考え方で決定することを指す。
最適化の指標としては、成約率を最大にするマッチング、利用者の満足度総和を最大にするマッチング、両想いなのに結ばれないペアを作らない安定マッチングを実装している。
 今後はこのようないくつかの最適化指標で導いたマッチング結果を比較し、成約率や利用者の満足度などを比較評価する計画である。
自動交渉に期待できる効果  前述した方式の導入効果を、「交渉の自動化」「交渉の並列化」「マッチングの全体最適化」の三つの観点で述べる。
⃝交渉の自動化  交渉の自動化の主な効果は、属人性の解消と迅速化である。
利用者は、あらかじめ自社の交渉AIを設定しておくことで、求貨・求車依頼を登録するたびに自動で候補の検索と企業間の交渉が行われ、交渉結果を閲覧することができる。
配車マンなどの担当者は、交渉AIの設定部分と、交渉結果の内容で契約するかどうかの最終判断のみに専念し、余った時間をより専門性の高い別の業務に充てることができる。
 われわれの行った「集荷日時、配送日時、料金」に関する自動交渉の実験では、交渉AIは0・0007秒に1回のペースで提案を繰り返し、1交渉を0・11秒前後で終えて結果を返した。
自動交渉の所要時間は設定に大きく依存するが、それでも相手の電話番号をダイヤルしているうちに結果が分かる程の迅速性と言えるだろう。
⃝交渉の並列化  交渉の並列化の効果は、より良いマッチング相手が見つかることである。
従来の交渉では、電話口で伝えられた輸送条件や料金が合意可能であれば、たとえ最良の相手でなくても成約することがあるだろう。
その交渉時点では他の候補とどのような条件で合意できるか分からないためである。
 OKIの提案する交渉の並列化では、複数の自動交渉を並列して実行し、自分にとってより好ましい条件で合意可能な相手を見つけることができる。
これは例えば、「既存の貨物と混載した場合、より効率よく巡回できる貨物を選びたい」という運送会社や、「希望条件を満たす中で、できるだけ安価に運んでほしい」という荷主の要望を満たすメカニズムである。
⃝マッチングの全体最適化  最後のマッチングの全体最適化がもたらす効果は、成約率や利用者満足度の向上である。
従来の求貨求車サービスでは、荷主と運送会社が2者間の直接交渉で合意すれば成約済みとなる。
従って、成約率最大、利用者満足度最大など全体最適的な組み合わせで成約できず、成約率の低下や満足度のバラツキなどを生み出す可能性がある。
 OKIのアプローチでは、自動交渉によってさまざまな組み合わせの交渉結果とその満足度を取得し、これを基に全体最適的なマッチングを導出し、各担当者へ最終判断を提案することができる。
最適化の材料となる交渉結果・満足度の収集は、迅速で人の意思決定を介さない自動交渉が実現して初めて可能になる。
このメカニズムにより、より多くの利用者が安定的に好ましい相手と成約できるようになると考えている。
社会実装上の課題  求貨求車サービスの企業間交渉に自動交渉を適用するに当たり、考えられる社会実装上の課題について触れる。
⃝交渉論点と規格標準化  まずは、利用者間の交渉で調整、もしくは確認される項目が多岐にわたることと、規格の標準化が十分に進んでいないことを挙げたい。
自動交渉では、交渉を行う両者の間で交渉論点の種類や取り得る値の共通認識が必要なため、今までの商習慣で共通の規格を利用していない場合、その規格を合わせることから始める必要がある。
 また一般に、交渉論点の個数や取り得る値が増えるほど、よい合意点の探索は難しくなる。
特に懸念されるのは荷姿や積み付け方法のバラエティで、箱なのかパレットなのか、積み重ねは可能か、固定具が必要かなど、口頭では一言二言の会話で済む内容であるが、自動交渉のサービス上でどこまで詳細に規格化するべきかを独断で定めるのは難しい。
 これに関して、国土交通省は2020年3月、「加工食品分野における物流標準化アクションプラン」において、加工食品分野における納品伝票、外装表示、パレット・外装サイズ、コード体系・物流用語の物流標準化に取り組むという指針を打ち出した。
今後はこのような動向を注視しつつ、業界の実態にマッチする規格化を行いたい。
⃝交渉AIに契約を任せるか  求貨求車の受発注はどこまで自動化できるだろうか。
少なくとも導入初期は、両社の担当者が契約前に自動交渉の結果を承認する仕組みが必要だろう。
 最大の理由は、設計が不十分な交渉AIが実情に合わない条件で契約してしまうトラブルを防ぐためである。
熟練の担当者と全く同じ判断基準を持つ成熟した交渉AIを設計することは難しい。
なぜなら多くの熟練者は、明確なルールだけでなく経験や勘にも頼りながら日々の業務をこなしているためである。
 従って初期段階では、交渉AIはあくまで熟練者のアシスタントとして交渉業務に注力し、熟練者はその経験と勘を生かして承認判断に注力をするという分業が望ましいと考えられる。
一方で、より高度な判断が可能な交渉AIを設計するためには、熟練者の経験や勘を含む判断ロジックを定量的にひもとくことや、過去の大量の判断データを学習させて判断モデルを生成することが有効と考えられる。
このような方法についても、実企業の熟練者の協力を得て研究を進めたいと考えている。
考えられる応用モデル  多重下請け構造に代表されるように、企業間のつながりが深く複雑な物流業界では、日常的にさまざまな企業間交渉が行われていると考えられる。
となれば、自動交渉の適用可能性は求貨求車サービスの他にもあるのではないだろうか。
以下、自動交渉を用いた三つの応用モデルを紹介する。
⃝過疎地の共同配送  個々の運送会社で十分に貨物を確保できない過疎地では、複数の運送会社が持ち回りで共同配送を行うケースがある。
この際、明日はどの企業が運行するのか、収益やトラックコストをどう分配するのか、といった企業間交渉が日々発生していると思われるが、これを自動交渉に任せてみてはどうだろうか。
⃝小口の貨物群と運送会社をつなぐオークション  たくさんの小口貨物の輸送依頼を集約したシステムが、同じ地域の貨物をまとめて集荷(配送)計画を立てる。
その実運送の受注を希望する複数の運送会社がシステムと受注条件の自動交渉を行う。
ここに先に述べた並列交渉のメカニズムを利用することで、より良い条件を提示した運送会社が受注権を獲得するオークションが実現する。
⃝着荷主を巻き込んだ輸送条件交渉  輸送を依頼する荷主は一般に発荷主であり、納品先の着荷主に指定された配送日時を独断で変更することは難しい。
そこで、輸送条件の自動交渉を行う場に、発荷主、運送会社だけでなく着荷主の交渉AIに同席してもらうことで、より柔軟性の高い輸送条件交渉ができる。
その際には、条件変更によって割り引かれた輸送料金の一部を着荷主にも分配するなど、交渉に参加するインセンティブを与えるメカニズムが重要である。
金銭的インセンティブの他にも、輸送効率向上により削減されるCO2排出量や、環境負荷低減への貢献を活用することも考えられる。
 以上、本稿では求貨求車サービスの課題を皮切りに、自動交渉という新しい技術を社会実装する効果と課題について述べた。
OKIは現在、自動交渉機能を組み込んだ求貨求車システムを試作し、人工データを用いたシミュレーション実験で効果検証を行っている。
しかしこのシステムに仮説通りの価値があるかを見極めるためには、実企業の協力を得た実証実験が不可欠である。
 また、われわれは求貨求車以外の適用可能性についても新しいアイデアを模索している。
この記事を読んで少しでも興味を持たれた方がいれば、是非意見交換の機会を頂きたい。
OKIは今後も「AI協調」をはじめとした新しい技術の研究開発・社会実装を進め、物流業界の皆さまと共に課題解決の一端を担っていきたい。

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