{literal} {/literal}

2021年8月号
特集

AI配車システムの選び方・使い方・導入効果

AI配車システムのバリエーション  最近では配車実務にAI配車システムを利用するケースが増えてきている。
当社のグループ会社のセンコーも積極的に導入に動いている。
しかし、物流ITツールの一つとして配送経路の計算システムは従来から存在した。
それと現在のAI配車システムはどこが違うのであろうか。
 AIを文字通り、“人工:工学的に開発されたもの”を用いて、“知能:インプットに対してそれを自動で処理(計算など)して何かしらをアウトプットするもの”と理解すれば、シンプルな電卓やスマホアプリもAIと呼ぶことができる。
現状のAI配車システムも実態としては、この定義に近いものであろうと筆者らは受けとめている。
 筆者(釜屋)は20年ほど前、日本IBMに勤務していた時代に「VRP(Vehicle Routing Planner)」と呼ぶアプリケーションを販売していた。
最適化問題に対するアルゴリズムを用いて、最適な配送経路を求める計算システムだ。
 当時AIという言葉は使っていなかったが、「開発されたアプリケーション」で「オーダー情報を自動処理して配送経路をアウトプットするもの」という点では現在のAI配車システムとまったく変わりはない。
今日のAI配車システムを配送経路計算システムの一つと考えても大きな間違いではないだろう。
 ただし、ここ数年のテクノロジーの進化によってコンピューターの計算能力は格段に向上した。
データを処理する方法も多様化・高度化している。
そのために配車システムを導入して効果を得られる対象が大きく広がったのは事実である。
適切なシステムを選び、適切に運用すればAI配車システムは有効なツールになり得る。
 まず、おさらいの意味を込めて、AI配車システムの種類を計算ロジック別に大きく分類する。
ユーザーはAI配車システムを選択する際に、当然ながらアウトプットの良し悪しと使い勝手の良さを優先する。
しかし、そこで使用されている計算ロジックについても意識しておいた方がいい。
⃝ルール型  ベテラン配車担当者の配車組みの方法(最も遠い納品先を起点として、その納品先から距離が近い順に満載になるまで積むなど)や、その際に考慮している要件を「ルール」としてあらかじめプログラムに組み込み、配車担当者が実施する配車に近い結果を導き出す。
 人間(開発者)が考える配車を正解とする前提に立っているため、システムが導き出した配車計画が本当に最適かどうかは分からない。
しかし、筆者が見てきた現場では最もよく利用されている配車システムであり、現場にマッチすれば長く使われる傾向にある。
人間の意思を反映しやすい仕組みでもある。
⃝組み合わせ最適化型  ローカルサーチや遺伝的アルゴリズムなどの最適化計算ロジックを用いて、最適ルートの近似解を導き出す。
最近のパッケージ製品では主流になりつつある。
 数学的に正しい配車を組むことができるが、適切な制約条件を設定しないとアウトプットが配車担当者の意思に沿わないものとなる。
また、計算ロジックがブラックボックス化する傾向にあり、アウトプットを変えたい場合、どの制約条件の設定を変更すればよいのか分かりにくい。
 パッケージ製品によって最適の定義に「車両台数が最小であること」あるいは「運行に関わる変動費(距離、時間)が最小であること」などの違いがある。
システム導入時にパッケージ機能でそのユーザーにとっての最適を定義する。
パッケージベンダーの経験値とコンサルティング能力が重要となる。
⃝総当たり型  組み合わせ最適化型では何度もシミュレーションを行い、最適に近付いたとAI配車システムが判断したときに計算を中止し、仮の最適解=近似解を解としてアウトプットしている。
それに対して総当たり型は、量子コンピューターを用いて全ての組み合わせパターンを計算し、その中から最適なパターンを選び出す。
そのためアウトプットは組み合わせ最適化型のような近似解ではなく最適解であると言える。
ただし、現時点では実用化の取り組みが始まったばかりであり、今後の発展が待たれる。
⃝機械学習型  最近では大手ITベンダー中心に機械学習型のAI配車システムの実用化に向けた取り組みも進んでいる。
配車担当者の過去の配車結果をAIが学習して、複数の配送オーダーを方面別・車両別に仕分けていく処理を自動的に行う。
 最も“人間っぽい”動きをする、人間のような知能と呼べなくもない。
しかしながら、これもルール型と同様に人間の判断が正しいという前提に立っており、それが本当に最適なのかどうかは判断できない。
 また、機械に賢くなってもらうためには、膨大な実配車の実績データが学習データとして必要になる。
しかし、実績データの収集は実際には容易ではない。
一方、道路ネットワークの走行条件、納品先の軒先条件・時間指定などデータは取得しやすいため、部分的に機械学習型を活用することもできるかもしれない。
配車はどこまで自動化できるか  AI配車システムを導入した現場における配車業務の流れを一般化すると図1のようなフローとなる。
このうちAI配車システムによって自動化されるプロセスは「2.仮配車」「4.仮配車」「6.仮配車」である。
「7.オーダー調整」と「8.配車確定」は人の手によって実施する。
場合によっては「1.配車オーダー受信」「3.オーダー追加」「5.オーダー締め切り」も人手で処理することになる。
 現状の組み合わせ最適化型に代表されるAI配車システムは、インプットを絶対条件とする静態的なものであり「7.オーダー調整」と「8.配車確定」には対応していない。
そのためAI配車システムによる業務の完全自動化は、オーダー内容が画一的でオーダー調整のロジックが固定されているなどの条件がそろって初めて実現できるものとなっている。
 優秀な配車担当者は最先端のシステムより多くの「変数」を念頭に置いて配車を組んでいる。
ブームに踊らされて、「なんとなく」レベルでAI配車システムを導入すれば、人間による配車とのギャップに悩まされることになるだろう。
現状では配車担当者の代替はできないことを理解しておかないと、せっかく導入したシステムを破棄してしまうことにもなりかねない。
 しかし、だからと言って「AI配車システムは使えない」と突き放してしまうのも早計だ。
AI配車の計算能力は当然ながら人間とは比較にならないほど優れている。
「使えるところには積極的に使っていく」のが正解だろう。
 例えば「オーダー数が多く、配車業務に多くの人手と時間がかかっている」「複数の配車担当者でエリアや荷主を分けて配車をしており、全体最適か分からない」「配車担当者の慣れによる配車のため、それが本当に最適なのかどうか分からない」など、人手による配車に限界を感じている場合には「仮配車」のプロセスを自動化するだけでも大きな効果を得られる。
 筆者らのお勧めは、「現状の課題を理解し、それがAI配車システムで解決できそうなのであれば試してみる」ことである。
配車システムをベースに業務を進める経験を積むことで、その現場にはITツールを利用するカルチャーが醸成される。
さらに進化した最適化エンジンが将来登場した時に、それを現場のレベルアップにつなげる体制を整えることができるからである。
現時点で期待できる導入効果  現時点でAI配車システムを導入して十分な効果を期待できるのは以下のようなケースである。
⃝仮配車の時間短縮  繰り返しになるが仮配車に時間をかけている現場には導入メリットがある。
集車を行うために日々の必要車両台数を時間に追われて計算している現場などである。
 筆者の知る関東の物流事業者では従来、五つの配送方面に対してそれぞれ配車担当者を配置していた。
車両はトータルで130台程度であったが、「2.仮配車」とオーダー追加後の「4.仮配車」に、配車担当者1人当たり1日1時間程度かかっていた。
1カ月25日稼働として1時間/人日×5人×25日/月=125時間/月の工数をかけていた。
 そこにAI配車システムを導入して「2.仮配車」を自動化した。
配送方面ごとの配車担当制度を廃止して、全方面一括配車を行うことにより、20分/日×25日/月=8時間/月への時間短縮が実現した。
「恐らく今の配車方法が正しいだろう」という思い込みの配車業務から脱却できた。
⃝配車担当者の能力に依存しない管理  多くの物流事業者にとって配車は、営業所の収支を左右する最も大きな要因である。
庫内作業の生産性よりもはるかに大きく粗利益に影響する。
そのため従来から物流事業者は、いわば“巧みの技”を持つ配車担当者の育成・確保を重要な経営課題としてきた。
 しかし、慢性的な人材不足は配車担当者も同様である。
配車担当者の不足や欠員は常に起こり得る。
属人化した配車業務から一日も早く脱却しておく必要がある。
AI配車システムは有効なツールである。
 AI配車システムによってこれまでのルート組みが変更になると、ドライバーから必ず不満の声が上がる。
そのドライバーが慣れ親しんだルートから変わることへの不安や不満、特定のドライバーに多くの負荷がかかる可能性への恐れ、配送実績による給与制のドライバー(例えば2運行手当、納品件数に応じた手当など)の収入に対する不安などが原因である。
 「会社全体の最適化を考えてAI配車システムの導入を決めたのだから、それに従ってくれ」と言っても、ドライバーにとっては自分の仕事と生活の方が重要だ。
また、日々の配車業務においてはドライバーのその日の体調やプライベートへの配慮も必要になる。
そうしたドライバーの個別のニーズをAI配車システムに組み込むことはできない。
 言うなれば、AI配車システムは「指示通りに、正確に、素早く配送経路を計算するが、融通が利かず、かつ対人コミュニケーションが苦手な新人」である。
良い面も悪い面もある。
従って完全な自動配車を目指すのではなく、例えば配車担当者の業務負荷を半減しようといったレベルを目標に置くのが現実解となる。
人間とシステムがそれぞれの強みを生かせる業務に取り組むことで配車を効率化・高度化するのである。
参考文献  流通経済大学 物流問題研究№69 松室 伊織 「トラック運送の配車業務への自動配車システムの適合性と有効性に関する一考察」

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから