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2021年7月号
特集

《座談会》DX時代の新しい高度物流人材像

荷物も重いが責任も重い 東京大学 先端科学技術研究センター 西成活裕 教授(以下、東大・西成):本日はそれぞれ異なる立場から物流に携わっている方々に集まってもらいました。
物流系ベンチャーCBcloudの松本社長、荷主企業として日本マクドナルドの梶野部長、B2Bを担う日立物流の石山部長、B2Cを担うヤマト運輸の齊藤ゼネラルマネージャーです。
また、国土交通省から金井審議官に参加してもらいました。
まずはそれぞれ自己紹介を兼ねて、物流に関わるようになったきっかけやキャリア、エピソードなどについて順に聞かせてください。
国土交通省 金井昭彦 大臣官房審議官(公共交通・物流政策・危機管理)(以下、国交省・金井):現在、国交省で物流政策を担当している審議官の金井です。
過去には自動車、鉄道、航空などの部門を担当してきました。
その中でも物流は非常に横断的で一番広がりがある。
そこに物流の面白さと難しさを感じています。
そして今、コロナ禍で人の動きはストップしてもモノは動き続けている。
モノの動きの重要性があらためて認識されていると思います。
 物流には、日本のこの縦社会の中で連携して全体最適を実現することが求められています。
そのためにはDXが待ったなしの課題です。
これから各企業のビジネスモデルだけでなく、社会全体の変革を進めていかなければなりません。
そこでどのような人材が必要になるのか。
さらに、どのような人材育成の場を作っていく必要があるのかを、今日はトータルに議論したいと思っています。
CBcloud松本隆一 代表取締役CEO(以下、CBcloud・松本):私も元は国交省の職員でした。
空が大好きで羽田空港で航空管制官をしていました。
正直なところ当時、物流にはまったく興味がありませんでした。
しかし、当時の彼女、現在の妻の父親がたまたま物流の仕事をしていました。
アイデアマンで軽貨物の冷凍車を開発して販売したんです。
 事業を通じて義父は、物流の世界には個人事業主のドライバーがたくさんいて、とてもフェアネスとは言えない環境で仕事をしているということを、初めて知ったようです。
そして「自分はクルマを販売することで彼らを不幸にしてしまった。
それを何とかしたい」と考え、自分で運送の営業をして、クルマを購入したお客さまに仕事を斡旋する会社を立ち上げました。
 事業が進む中で私は妻経由で義父に出会いました。
困った人を助けるためにビジネスをしているその姿に大変共感しました。
それと同時に、物流は欠かせない社会インフラなのにドライバーの仕事はまったく評価されていない。
そもそも価値が可視化されていない、という事実に直面して、学生時代に覚えたプログラミングの知識を生かして休日を使って義父の手助けをしていました。
 その義父から「娘との縁は切れても僕との縁は続けてほしい」とまで言われて、義父と共に物流を変えようと国交省を退省した矢先、義父が急逝しました。
唐突に、私が義父の跡を継ぐことになりました。
委託先のドライバーや荷主からひっきりなしに電話が鳴るなか、自分で営業して配車してクルマを運転して、というスタートでした。
 そこで感じたのは、ドライバーの仕事は荷物も重いけれど責任も重い。
それなのに評価されていないということです。
それを変えようと創業したのが現在のCBcloudです。
20人余りのドライバーと一緒に事業を開始しましたが、現在はベンチャーとして出資を受けながら全国2万5千人を超えるドライバーと一つのインフラを作り上げています。
日本マクドナルド 梶野 透 サプライチェーン本部ストラテジックソーシング部長(以下、マクドナルド・梶野):私は現在、日本マクドナルドで調達全般を担当しています。
その前は物流全般を担当していました。
さらに遡ってマクドナルドに入社する前は、P&Gで日本およびシンガポールにおけるサプライチェーン全般を担当しました。
といっても、松本さんのように大志を抱いていたわけではなく、軽い気持ちで社会人の1年目からサプライチェーンの世界に足を踏み入れました。
 大学時代は機械工学を専攻して大学院に進むつもりでしたが、興味本位で参加した企業のインターンシップでビジネスの面白さを知り、新卒でP&Gに入社して生産統括本部に所属しました。
入社2年目の頃に「サプライ・ドリブン・セールス」という新たな指標が追加されました。
生産部門が売り上げにどう貢献したかを指標化するものです。
仮の話ですが、母の日のプレゼント用にネーム入りの化粧品を生産部門で考案して販売したら売り上げが増えたのであれば、その貢献度を可視化するわけです。
 とても面白い指標だと感じました。
それまで私は生産部門のエンジニアとして改善によってボトムライン(利益率)に貢献するという心持ちだったのですが、生産部門でも売り上げを作っていけるということに気付きました。
そこから始まってこれまで、さまざまな形でトップラインおよびボトムラインに貢献する経験をしてきました。
物流の仕事を選ぶ理由 日立物流 石山 圭 経営戦略本部経営戦略部長(以下、日立物流・石山):日立物流でB2Bの物流に携わっています。
B2Cに比べて企業間物流は普通の人にはイメージしにくいだろうと思います。
社名から、製造部品や電気製品、発電所設備、新幹線などを運んでいる会社というイメージを持つ人が多いようです。
 しかし、実際には誰もが馴染みのあるショッピングセンターやコンビニ、コーヒーショップ、雑貨店やワンコインショップなどの物流にも当社は携わっています。
国内外で生産された製品を物流センターで保管して、需要に合わせて仕分けて店舗に納品するといった仕事です。
売り上げベースでは現在、日立グループ向けが全体の約15パーセント、残りは一般顧客でB2Bの3PL事業をメーンにしています。
また、海外比率が約40パーセントを占めています。
 私自身は1995年に入社して、最初に電子部品の包装設計を担当しました。
包装仕様一つを決めるにも、メーカーの設計部門、資材調達部門、製造技術部門、生産部門、さらには営業部門や国内外の納品先に至るまで、幅広い調査と設計レビューが必要になります。
その経験を通して顧客のサプライチェーン、バリューチェーンを学ぶことができました。
 それから海外現地法人(シンガポール)へ出向し、顧客の海外現地工場で約4年間、物流管理業務を担当しました。
そこで学んだのは現場作業者の意識や質の違いです。
日本ならプロセスのつなぎ目に当たる仕事でも相互に機転を利かせてチーム全体でカバーするのですが、海外だと最初からジョブディスクリプションが明確に決まっていて、何となく帳尻が合うということは起きない。
そのお陰できめ細かく、そつなく業務プロセスを設計するスキルが身に付いたと思います。
 それとは逆に、日本で自動化・省人化を進めようとしたときには、現場の優秀な作業者や管理者の持っている暗黙知が、非常に見える化しにくい。
そのために投資効果を出しにくい、機械化が進まない。
それが物流業界の労働装備率の低さにつながっているのではないかと考えています。
 現場を離れて現在の経営戦略部に異動になってからは、社会環境や顧客環境の変化にどう対応するか、そのためにDX、協創、シェアリングなどの戦略を立案して、実行をフォローする立場にあります。
しかし、今の仕事においても、現場で自分が経験したこと、学んだことが基礎になっています。
ヤマト運輸 齊藤泰裕 EC事業本部ゼネラルマネージャー(以下、ヤマト・齊藤):私は現在、EC事業本部に所属して、昨年から始まったプロジェクトに取り組んでいます。
「宅急便」は、個人から個人にモノを送ることから始まりました。
それに対してECの荷物は、自分で頼んだモノを自分で受け取ります。
そのためモノを受け取るお客さまのニーズも従来とは変化してきています。
 ECの荷物を、「宅急便」のネットワークから切り離して新しく構築するため、今年4月から社内プロジェクトを事業本部体制に切り換えて取り組んでいます。
デジタルを駆使し、置き配にも対応し、配達はパートナーと連携する。
「宅急便」とは別の第2の事業、第2の配送商品として「EAZY」を開発しました。
 私がこの物流業界に入ったきっかけは、学生時代に経験した宅配会社のアルバイトです。
荷物を届けに行くと、お客さまから感謝される。
人に感謝されることを直接、肌で感じられることに魅力を感じ、ヤマトに入社しました。
入社後は、山梨県の支店に配属されました。
集配業務だけでなく、B級品の農産物をどうすれば売れるかいろいろ考え、生産者の方々に提案するなど、入社1年目から自由に営業していました。
 現場の管理者などを経験した後、本社の商品企画で新商品「宅急便コンパクト」や「ネコポス」を開発しました。
ヤマトは、ECやフリーマーケットなどが普及し始めた頃から、デジタルとアナログを融合してお客さまにどんなサービスを提供できるか、ということをずっと考え続けています。
それを実現できることがヤマトで働く面白さであり、人に感謝されることが喜びだと日々感じています。
未来から逆算して考える 東大・西成:物流のデジタル化やDXは個別企業だけの問題ではなく、産業全体のテーマでもあります。
そのあたりを行政はどう考えているのでしょうか。
国交省・金井:私どもは今、次の「総合物流施策大綱」を検討しているのですが、その議論においても物流DX、標準化、デジタル化を進めなければならないというのは共通認識となっています。
 しかし、そこでもやはり指摘されていたのが、日本の現場は対応力が非常に優れていて、工夫が行き届いている。
荷主の要望に現場が全力で応えて、無理難題にも応じてしまう。
しかし、そのためにデジタル化が進まない。
そのために全体最適のシステムを構築することも遅れてしまっているのではないか、という問題です。
 そこで物流政策を作る立場にあるわれわれとしては、今日のパネリストの皆さんに、これからどのような物流を作っていきたいのかという未来像と、そのために今どこから何に手を付けていかないといけないのかというところをお聞きしたい。
東大・西成:それでは物流の未来の話に移ります。
それぞれ今後、何を実現したいのか、制約条件はとりあえず脇に置いて、夢や野望を聞かせてください。
ヤマト・齊藤:社内では常々、物流会社として社会的な役割を果たそうと伝えています。
平時だけではなく災害時にも、物流が重要な場面でしっかりと自分たちの役割を果たしたいと思っています。
 DXの観点では、単純に全部デジタル化すればいいという話ではなく、先ほどの金井審議官のお話にもあったような、日本のアナログの強さを生かしながら、デジタルをどう加えていくかがポイントだと思います。
 当社は、昨年から国内外のさまざまなベンチャーとの提携を進めています。
そこであらためて気付かされるのが日本の現場の第一線やラストワンマイルの強さです。
ただ、そこにはデジタルの要素が足りない。
一昔前までは「日本の物流や宅配は最先端」と言われていたのに今では後れを取っている。
ECが普及し、スピード感が明らかに違う海外勢に抜かれている。
もう一度競争力を取り戻す必要があります。
 そのためには今まで強みとしてきたものを核として、どこをデジタルに変えていくか。
それには下からの積み上げだけではなく、未来の姿を俯瞰し、上と下の両方から道を導き出すのが正しい方法だと考えています。
日立物流・石山:製造業と同じように、物流ソリューションを「知財化」していく。
ノウハウをアナログのままではなく形式知化する。
それによって物流事業者の地位を高めていくことが必要だと思います。
われわれ物流事業者自らがそうした声をどんどん出していかないといけない。
 当社の目指す「高度物流」とは、荷主企業のサプライチェーンに潜在しているムダなモノの動き、ムダなコスト、ムダな二酸化炭素の排出量を削減して流通全体の生産性を向上していこうというものです。
そのためには庫内作業や輸配送などのコアな物流領域だけではなく、その上流・下流に目を向けなくてはなりません。
 最近、当社にはESGやSDGsに関する相談が頻繁に寄せられています。
脱炭素をしたくても自分たちでは手に負えない。
サプライチェーン全体で二酸化炭素を減らしていく取り組みを提案してほしいという相談を多く受ける。
当社は洗練されたソリューションやノウハウを武器にそうしたニーズに応えていきたい。
 ただし、当社だけでできることは限られています。
そのため、さまざまな異業種のパートナーとの協創によって、新しいビジネスモデルを作っていくことに注力しています。
BtoBの物流事業者として世の中の潮流にどのように順応していくか、どうリードしていくかを必死に模索しているわけですが、その結果として10年後になって今を振り返ったら「そういえば当社は物流もやっていたな」というような話になっているかもしれない。
マクドナルド・梶野:私も10年どころか5年後でさえ、自分たちがどうなっているのか分からないと日々感じています。
それをあえて想像するなら、従来の競争領域と非競争領域が、これまでまったく想定されていなかったかたちで入れ替わる、もしくは生み出されていくだろうとみています。
 3年〜4年前、当社は「ビジネス・コンティンジェンシー・プラン(BCP:事業継続計画)」を構築していましたが、今はむしろ「レジリエンシー(弾力性)」に注目しています。
どうやって環境への対応力や弾力性を高めていくか。
いかなる予期せぬ出来事が起きても、常に迅速に対応する力を付けようとしているわけです。
 こうした考え方の変化は、中長期の視座にも当てはまると考えています。
投資の考え方にしても5年ないし7年で減価償却するという従来のやり方を、一気にシェアリングエコノミーに切り換えるといったことになるかもしれない。
そうしたトライ・アンド・エラーを繰り返して、今までとは違うことをやっていくことが大事だと考えています。
CBcloud・松本:「卒業後は物流業界に行きたい」と大学生が思うようになっていてほしい。
今はウチの会社の面接に来た学生に「ドライバーになりたいですか?」と聞いても苦笑いしかしません。
しかし、自動運転やドローンなど、物流業界には想像するだけでもワクワクするような未来が待っています。
人気職業になっていくと思います。
問題はその未来がいつ来るのか。
5年先と50年先ではまったく話が違う。
 それを早めるために私たちは活動しています。
やはりDXがそのスタート地点です。
そしてDXの第一歩は、開発したサービスを現場が使ってくれるかどうかにかかっています。
いくら高度で素晴らしいシステムでも、現場で使ってもらえなければ何の意味もない。
現場が使いたいと思えるようなプロダクトを作れたかどうかが、私たちの評価基準だと思っています。
こんな人と働きたい 東大・西成:これからのロジスティクスにはどういうスキルやマインドを持った人材が必要か。
どういう人と働きたいか。
人材の要件についてはいかがですか。
CBcloud・松本:先ほど、物流は学生に人気がないと言いましたが、私自身は大変にやりがいを感じて働いています。
物流は誰もが必要とするインフラです。
それだけ多くの人の役に立てる。
他にもインフラには電気・ガス・水道などがありますが、物流だけはベンチャーにも入り込める余地が残されている。
 ただし、物流には長い歴史があり、なかなか変えられないしがらみや文化もある。
そうした領域を一緒に変えていく仲間に求める人物像としては、やはりデジタル技術でアナログを代替するというだけではなく、その一方でアナログを補強やアップデートしてデジタルと融合していこうというマインドを持った人であることです。
 アナログの良さは当然ある。
それを無視してしまうと「車輪の再発明」になってしまい、革命も新しい動きも起きない。
もうひとつ挙げるとすれば1社独占ではなく、足りないところは他社と手をつなぎ、補完し合って共創するという考えを持てる人、そんな人材が次の物流を作っていける人だと考えています。
マクドナルド・梶野:二つあります。
一つはビジネスの話ができる人。
もうひとつが問いを立てられる人です。
まず「ビジネスの話ができる人」というのは、例えばPL(損益計算書)上で、どうすれば原価率を下げられるかという話ができる人ならたくさんいらっしゃいます。
では、バランスシートを見ながら、在庫を減らしたらどれだけ投資余力に回せるか、という話ができるサプライチェーンの方はあまりお見掛けしません。
さらに経営指標をみながら全社的な戦略などのお話になってくると、ほぼお会いしたことがございません。
 二つ目の「問いを立てられる人」というのは、なぜそれをやるのか、どこに注力すべきなのか、WhyとWhatの問いに答えられる人です。
DXや在庫回転率の向上、生産性の向上などは全てHowの話です。
HowはWhyやWhatがあって初めて成り立ちます。
しかし、「デジタル化します」「工場を見える化します」という話はよく聞きますが、何のためにそれをやるのか、どこに注力すべきなのかという問いを立てられる人は本当に少ないと感じています。
 物流やサプライチェーンという問題を解く人ではなく、ビジネスの話ができる人、問いを立てられる人と一緒に働きたいと思います。
日立物流・石山:私も二つあります。
一つは既成概念にとらわれないこと。
もうひとつが、サイバー(仮想空間)とフィジカル(現場)をつないでサイクルとして回していけることです。
物流機能を客観的、俯瞰的に見ながらサプライチェーンを提案できる人材がいたら、すごい物流企業になれる。
そんな人材がそう簡単に見つかるとは思いません。
それでも既成概念にとらわれず、物流のコア領域ではないところまで踏み込んでいこうという人と一緒に仕事をしていきたい。
 それとやはりデジタル化を牽引する人材です。
物流の現場は現状では紙だらけです。
それをデジタル化して、そこから取得したデータを分析してデータドリブンで最適なサプライチェーンを提案・実行していける人材です。
 日立物流グループには、800人近くのシステムエンジニアからなる日立物流ソフトウェアというシステム開発会社があります。
しかし、現場側からシステム化に向けた目的と要件定義がしっかりできないと、どれだけ高度なシステムを開発してもその機能が発揮されません。
今後DXをさらに推進していく上で、現場とエンジニアをバランスを持ってつなげる人材が必須となっています。
ヤマト・齊藤:当社の場合は、物流を通じてお客さまにいかに喜んでもらうか、そのためにどう価値を提供するかということに尽きます。
単純な言葉ですが、そこにはいろいろな意味が含まれています。
 まずはデザイン力です。
お客さまにどういう状態になってほしいか。
そのためにはどういう登場人物が必要か。
何をしなければそれは成し得ないか。
そうやって突き詰めていくことで少しずつ物事が俯瞰的に見えてきます。
 社会に出てからでも通常業務は繰り返せばできるようになります。
しかし、俯瞰的に考える力は学生の時から身に付けておいた方がいいと思います。
その力は社会に出た時に役に立ちます。
ある大学で講演した時、学生に「あなたなら、お客さまにどう喜んでもらいたいですか」と質問したところ面白いアイデアがどんどん出てきました。
そのほとんどが今の当社のニーズと合致していました。
原理・原則や答えというのは、それだけ単純なものなのだと思います。
どこで学ぶか、どう学ぶか 東大・西成:パネリストの意見を聞いて金井審議官はどのような感想を持ちましたか。
国交省・金井:それぞれのお話を大変興味深くうかがいましたが、恐らく皆さん同じことを訴えているのだと思います。
それぞれの役割をそれぞれがしっかり果たせばうまくいくという世界が急速に壊れてきている。
その問題が特に表面化しているのが物流の世界です。
部分最適に陥っている。
 私自身、役所に籍を置き、自分に与えられた役割を果たしたいという思いと、何が本質なのかという問いの狭間で日々、部門間の調整に悩んだりしています。
問題の本質に迫って課題解決のために全てを構築していくことが全体最適につながるわけですが、そうした思考が、私を含めてなかなかできない。
 その理由の一端は教育にもあると思います。
諸外国に比べて日本は大学の教育内容と産業界のニーズがつながっていない気がします。
そこで逆に西成先生にうかがいたいのですが、東大の優秀な理系人材に物流を学んでもらおうという西成研究室の「先端物流科学寄付講座」を作るのが大変だった、文系・理系を越えて学生が自由に講座を取るのも難しいという話を以前に先生からお聞きしました。
 また、高度物流人材をどこで育成するかという時に、現状では大学と企業で二分されている。
大学での学びと企業による育成が別々になっている。
そして企業にしても自社で横断的な育成を行う体制が整っていないという問題に直面します。
物流はそこを突破しなければいけない。
そのためには大学の問題も含め、どういう「場」でそうした人材を育成すべきなのか。
東大・西成:高度物流人材をどこで育成するか。
大学か。
企業か。
もちろん答えはその両方なのですが、私はそうした危機感を約10年前に感じて昨年、東大に先端物流科学寄付講座を開設しました。
そこに至るまでには、それこそ映画を作れるくらいの苦労をした。
実は無理だと諦めた時期もありました。
 しかし、世間でドライバー不足や物流危機が問題視されるにようになって、それまでは「うちに何の役に立つの?」と言っていた人たちも段々と危機感を共有するようになっていった。
長期的に見たら絶対に講座を作った方がいいと分かってきた。
そしてヤマトさんにSBSホールディングスさん、鈴与さんの3社から寄付をいただき昨年1月に東京大学先端科学技術研究センターに「先端物流科学寄附研究部門」が設置されました。
 最初の講座を開設するところまで漕ぎ着けた時には涙が出るほど感動しました。
後は教え方を工夫すれば、私は文系の学生でもうまく学べると思っています。
われわれが持っているノウハウのエッセンスを教えられる。
そうしたカリキュラムを大学として考えていきたい。
 最後に4人からも一言ずつお願いします。
ヤマト・齊藤:学生に物流を知ってもらうというフェーズから、一緒に考えてもらうというフェーズに移っていると思います。
講義するだけではなく、社会課題を一緒に解決していく場を持ちたい。
少人数でも構わないのでわれわれと一緒に研究する。
研究成果がすぐ形になって見えると学生も面白いはずです。
それを繰り返していけば、物流にもっと興味を持ってもらえると思います。
マクドナルド・梶野:アウトプットをする場を自分から取りに行くことが重要だと思っています。
それが経営会議でも商談でも、あるいは今日のようなイベントで私見を述べるというのでもいいのですが、強い人材というのはアウトプットを繰り返すことで育っていくのではないでしょうか。
 私はずっと外資系で働いてきて、育てられるというより「あなたに求められるジョブディスクリプションはこれです」という環境で、新入社員の頃からずっと育ってきました。
特に前職では相手がインド人だろうと、シンガポール人だろうと、アメリカ人だろうと、どう考えているかをアウトプットし続ける必要がありました。
 日本人はインプットする作業、勉強して体系化して学ぶことは得意なのですが、アウトプットは苦手ではないでしょうか? しかし、海外とのやり取りに阿吽の呼吸は通用しません。
自分からアウトプットしていかない限り何も伝わらない。
たとえ英語という語学的なハンディがあっても、アウトプットを続けることが大事だと思います。
日立物流・石山:学生にはまず、ヤマトさんの「羽田クロノゲート」のような物流センターを見学してほしい。
昔ながらの倉庫のような、暗く、危なく、汚い施設とはまったく違って、物流が装置産業になりつつあることが分かると思います。
それを見て物流に興味を持ってもらい、自分たちが勉強すれば伸ばせる領域だということを感じ取ってもらいたい。
CBcloud・松本:私も現場を見てもらうことが大事だと思います。
私たちCBcloudの現場は、先進的な羽田クロノゲートとは対照的な、改善余地のある中小運送の世界です。
しかし、今のデジタルネイティブの若い人たちはそれをむしろ摩訶不思議で面白いと感じてくれるのではないか。
 私自身、現場が好きで今でもよく足を運びます。
実状を把握するためというのもありますが、現場に行くとそこで働いている人たちの工夫が見えてきます。
毎回発見があり、それが仕組み化の示唆になる。
ですので、仕組み化されていない生の現場を学生たちと一緒に見に行くというのも面白い。
東大・西成:お話は尽きませんが時間になりました。
今日はありがとうございました。

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