2021年7月号
特集
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APICS(CPIM、CSCP、CLTD) 世界15万人が保有するSCMの国際標準資格
SCM実務家の国際標準資格
「APICS」とは、米国シカゴに本部をおく世界最大のSCM専門家団体「ASCM(Association for Supply Chain Management)」が提供する教育プログラムと国際資格の名称です。
ASCMには現在、世界4万5千人以上の会員が在籍して、100社以上の有力多国籍企業が法人会員となっています。
世界47か国に311のパートナー組織を有し、全世界共通の教材による教育プログラムや国際資格を提供しています。
日本ではわれわれ日本生産性本部がパートナーを務めています。
APICSの歴史は1957年設立のAmerican Production and Inventory Control Societyに遡ります。
直訳すれば「米国生産・在庫管理協会」です。
その名称から連想されるように、工場の生産管理に端を発し、サプライチェーンの概念が拡大するとともに対象範囲を広げて発展してきました。
「SCM」という言葉は一般的には90年代以降に広く普及しましたが、APICSはそれ以前から、「オペレーションマネジメント(運営管理)」の分野で基本的な知識体系を確立し、その概念やフレームワークを提唱してきました。
他に米国にはSCM分野の有力団体としてSCC(Supply Chain Council)がありましたが、2014年にAPICSに統合されました。
SCCの開発した「SCOR-P」というサプライチェーンを記述するモデルも現在はAPICSが所管しています。
また、15年には輸送・ロジスティクスの専門職団体AST&L(American Society of Transportation and Logistics)もAPICSが統合し、その流れを受け継いだ「APICS CLTD」という資格を新たに開発・提供しています。
そして19年にAPICSは現在のASCMに組織名を変更し、「APICS」は資格や教育のブランド名となりました。
APICSの資格(certification)には以下の三つがあります。
・CPIM(Certified in Planning and Inventory Management)生産計画・在庫管理の専門資格 ・CSCP(Certified Supply Chain Professional)SCMの専門資格 ・CLTD(Certified in Logistics, Transportation and Distribution)ロジスティクス・輸送・物流の専門資格 三つの資格のうちCPIMが最も歴史が古く、取得者数は全世界で10万人を超えています。
CPIMのPは、もともとはPlanningではなくProductionの略語でした。
現在も事業会社や工場の生産管理や需給管理担当者が多く受験しています。
CPIMを取得するには「Part 1」「Part 2」の二つの試験に合格する必要があります。
「Part 1」はいわば基礎編、「Part 2」では幅広い領域にわたる詳細な知識が求められます。
CSCPは2006年に始まったSCMの専門職資格です。
ITやリスクマネジメントなども含む幅広い領域を対象としており、受験資格として学歴や実務経験年数などが求められます。
業種・業態を問わずマネージャーやコンサルタントなどが多く挑戦しています。
CLTDは先に述べた通り18年に始まった最も新しい資格で、物流に重点が置かれており、三つの資格の入門的な位置付けとなっており、物流管理担当者や物流事業者が多く受験しています。
少し古い資料になりますが、英専門メディア「SCM World」が14年に発表した資格ランキングでは、APICSが第1位、第2位がAPICSに統合されたSCOR−Pでした。
SCMの職業資格としてAPICSは群を抜く認知度と評価を得ています。
しかし、日本では、残念ながらまだあまり知られていません。
資格取得者数のデータは非公開なのですが、国別ランキングでは米国が1位、2位にはオランダが続き、日本は37位となっています。
これはドイツや中国よりも低く、アジアの他の国と比べても低水準です。
こうした状況に危機感を覚え、日本生産性本部では、11年から日本におけるAPICSに関連する教育や普及を行っています。
11年当初は試験実施機関として、紙による試験を年4回実施していました。
その後、試験は全てオンラインとなり、今では試験業務はPearsonVUE社にアウトソーシングされ、日本各地のテストセンターで一年中いつでも受験できるようになっています。
なお各資格の詳細や関連情報は、APICSの公式ホームページ(http://apics.jp/)に日本語で掲載しています。
資格取得のメリット APICSの教育内容は毎年見直され、試験内容も5年をめどにSCMの実務家を対象とした調査結果を基に更新されています。
ただし、APICSは最先端の高度な知識を問うものではありません。
むしろ基礎的とも言える内容ですが、非常に広範で網羅的であることが特徴です。
例えば、CPIMの教材は、基準生産計画、資材所要量計画、製造能力管理、購買、在庫管理、実行管理、物流、改善、需要管理、S&OP(販売と運営計画)といったテーマのほか、需要予測、管理会計、キャッシュフロー、制約理論についての知識もカバーしています。
CSCPでは、それに加えて、事業戦略、ITや技術、リスクマネジメント、サステナビリティ、CRM(顧客関係管理)やSRM(サプライヤー関係管理)などが含まれてきます。
こうした広範な内容と表裏する特徴として、APICSの背後には全体最適の思想があります。
そもそもSCMには、個別企業の最適ではなく、情報共有や協働を通じて全体としてより効果を上げるという目的があります。
情報共有や協働のためには標準化や共通言語によるコミュニケーションが必要であり、APICSはそのための土台、基礎として位置付けられています。
グローバルビジネスにおいてAPICSの資格を取得していると、相手から「SCMについて一定の知識を持っているだろう」「まずは話ができる相手だろう」と認めてもらえます。
そのためグローバル企業の多くがSCM関連部門のメンバーにAPICS資格の取得を奨励しています。
「APICS資格取得者の方が給与が高い」という調査データさえあります。
一方、日本国内だけでSCMの業務についている限り、APICS資格を取得していなくても困ることはないだろうと思います。
それでも、APICSを学ぶことで業務知識が整理され、SCMの体系的な知識が身に付きます。
「物流の実務経験はあるが、工場内や上流のことはよく分からない」「品質管理や現場の運営管理は分かるが、計画系や経営レベルの話はよく分からない」ということがなくなります。
APICSの試験、教材は全て英語です。
多くの日本人にとっては語学がハードルになることは確かです。
実は英語圏以外の海外諸国でも事情は同じで、私が会ったあるフランス人の資格取得者は、「英語を学ぶためにAPICSを学習した」と言っていました。
日本にいても海外とのやりとりをする機会は今後ますます増えていきます。
日本企業の駐在員として非英語圏に派遣された場合も共通言語は英語です。
日本人にとってAPICSの資格取得はビジネス英語やSCMの専門用語を学ぶ有効な手段にもなり得ます。
以下に日本語を母国語としながらAPICSを取得した実務家3人の体験談を紹介します。
外資系メーカーの社内プログラムを利用 資格取得のきっかけは、オペレーション部門のトップが、サプライチェーン職の人材育成のプログラムとしてCPIMを強く推奨したことです。
私は30年近くサプライチェーン職に従事していますが、最初の10年ほどのトレーニングは、所属する部署で人から人へと受け継がれてきた知識と手法を、OJTで身に付けることが中心でした。
その後リーダー層が交代して、OJTとは別にサプライチェーン職に体系的な知識を習得させる目的でトレーニング予算が組まれて、CPIMの取得が業務資格として担当者に求められることになりました。
私は、海外から招聘したAPICS講師による社内クラス、各国の社員を対象とした社内通信教育クラス、公募の通信教育クラスの三つを経験しました。
そのうち最も理解が深まり、参加者全員にとって効果的だと感じたのは、社内クラスでした。
所属する部署の各国のサプライチェーンリーダー職を一つの会議室に集めてフェイス・トゥ・フェイスで実施しました。
日常業務でやり取りしている同僚と一緒に疑問点を議論し、共通の理解を得られたことは、各個人の知識のレベルアップのみならず、その後数年間にわたり世界各国の各工場で、これまでのやり方を見直し全体最適を実現するという業務を進める上で重要な礎となりました。
私が資格を取得した2000年代後半当時、CPIMは日本では受験できませんでした。
そこで、資格試験が行われている国の現地工場への出張日程を、(3カ月に一度、土曜日に開催される)試験日と調整して、計5年がかりでようやく資格を取得しました。
資格取得後は、名刺やメールの署名欄にCPIMと記載することができるようになり、所属する部署以外の社員と交流する際にも自信になりました。
昇進、社内公募、人事異動などでも多少は有利に働いたのではないかと思います。
数年前に、入社数年のサプライチェーン職の社員を対象に、私が社内講師を務めて業務時間外を使った勉強会を開きました。
その参加者のうち何人かは勉強を継続しており、「合格しました!」と嬉しい報告をくれることがあります。
当社では現在に至るまで、CPIMがサプライチェーン職の人材育成のプログラムに継続して組み込まれています。
またCPIMの取得は、人材流動性が高い国で経験者を中途採用する際や社内公募の際の「望ましい要件」として位置付けられています。
3PL専門職のキャリアの支えに 私が物流・サプライチェーンの世界に初めて足を踏み入れたのは、コンサルティング会社勤務、イギリスへの大学院留学を経て、DHLサプライチェーンに入社したときです。
同社には13年余り勤務して、その後、現在のソフトバンクロボティクスのロジスティクス事業(SBロジスティクス)に移り1年半が過ぎました。
これまで約15年にわたり、物流・サプライチェーンの世界で働いてきたことになります。
CSCPは2014年に取得しました。
それによって社内や転職時に評価されたことがあるかと聞かれたら、残念ながらそうした記憶はないというのが正直なところです。
その一方で、自分のキャリアのさまざまな場面や転機において、CSCPの資格は「パートナーとして共にあった」という感覚があります。
グローバルビジネスでキャリアを築きたいという思いをCSCPがサポートしてくれたと感じています。
私がCSCPを取得したきっかけは、日本の物流現場を経験して1度目の中国駐在を終えた後、自分がまだ知らない分野の業務知識についても理解したいと思ったからです。
自分で実際に経験した業務や分野については分かっていても、それはサプライチェーンや物流全体からみれば非常に限られた知識であることに気づきました。
実際、CSCPに挑戦することで非常に広い範囲を学習することになりました。
CSCP取得後、2度目の中国駐在となりました。
それまで私が経験していた販売物流とは異なり、現地の複数工場で構成されるサプライチェーン改革に深く入り込むことになりました。
そこで必要とされるフレームワークがCSCPのカリキュラムに全てカバーされていたことが大いに助けになりました。
これまで3PLの実務家としてさまざまなお客さまと仕事をしてきましたが、そこで感じるのは、それぞれのお客さま、場合によっては同じお客さまでも部署によって、サプライチェーン・物流の用語や思想は異なっているということです。
それらをAPICSの概念やフレームワークを通して理解することが、業務を支えてくれました。
現在は日本のEC物流のデジタル化、倉庫の自動化に携わっています。
日本の労働力不足や物流における安全や労働環境の問題、世界的にはCOVID-19や気候変動などにより注目されているサプライチェーンの持続可能性の問題が、自分の中で課題感として大きくなってきています。
そのような社会課題に挑戦する上でも、APICSやCSCPが自分をサポートしてくれると考えています。
あえて高い目標を掲げて独力で取得 社会人になって以来、一貫してSCM業務に携わってきました。
40代になって今後のキャリアを考え始めた際、「自身の経験や知識を目に見える形で証明できる〝何か〟が欲しい」といろいろ探索した末にAPICSに出会いました。
2017年4月に日本生産性本部主催のAPICS紹介セミナーに参加して、資格内容や資格取得者の体験を詳しく理解できたことで、資格取得に向けたモチベーションが高まりました。
それと同時に「2年以内に全資格(CSCP、CPIM、CLTD)を取得する」という目標を立て、学習を開始しました。
自分を追い込むため会社の補助は受けない=自費での取得を決意しました。
最初、どの資格から取り組むか迷いましたが、自身の一番の弱点領域と思われる生産管理系(CPIM)から取り組むことに決めて、次にCLTD、CSCPと順に取得しようと考えました。
学習を始めてすぐ、資格取得だけを目的とするのではなく、内容を正しくかつ深く理解すること、自身の業務につなげる・活用できるようにすることを目的に加えました。
学習方法としては、全資格とも、APICSの学習教材 "Learning System"を購入して自習しました。
平日は、通勤時間やランチでの隙間時間を活用して約2時間、土日祝日は午前中の3~4時間を学習のために捻出して、テキストを繰り返し読み、時間をかけて深く理解していく、というベーシックな方法をとりました。
そのため恐らく他の資格保有者より多くの時間をかけることになったと思います。
結果的には約1年半を費やし、CPIM→CLTD→CSCPの順に全資格を取得することができましたが、時間確保・学習ともに非常にタフでした。
資格取得後の感想・メリットとしては、サプライチェーンのプロフェッショナルとして、より自信が持てるようになった点が挙げられます。
学習前にもある程度の自負はありましたが、資格取得を通じて生産管理(CPIM)・ロジスティクス(CLTD)・広範なサプライチェーン理解と円滑な運用(CSCP)に関する知識を、体系的かつ広く深く習得したことが、プロとしての立ち居振る舞いに良い影響を与えてくれていると思います。
現在はグローバルレベルのサプライチェーン業務に従事しています。
海外拠点やパートナー、サプライヤーとコミュニケーションする際、SCMの共通言語を使って会話ができるのは非常に効果的です。
サプライチェーンの各機能の改善や課題解決を行う際にも、SCM全体を俯瞰してアクションが取れるようになったことも非常に大きな成果です。
コロナ禍前までは海外の方々とも直接、面談する機会が多かったのですが、私の名刺に記載されたCSCP、CPIMの文字に気づかれる方が複数いました。
海外、特に米国におけるCSCP、CPIMの認知度の高さは、初対面の相手でもプロとして認めてもらえるという点で有利に働くと思います。
資格取得者のコミュニティ 日本生産性本部では、APICSの資格取得者、また取得を目指している方などの交流の場として、17年に「APICSコミュニティ」を設立しました。
「日本ならでは、日本におけるAPICSの価値を開発し、伝える。
」というミッションを掲げて、講演会などを実施し、自分とは異なる業界、異なるサプライチェーンのSCMの実務家たちとの横のつながりを支援しています。
また、米国のAPICSは全世界で使われている5千語近いSCM用語を掲載した「APICSディクショナリー」を刊行して改版を重ねています。
そこにはheijunka、jidouka、poka-yokeなど、日本由来のコンセプトも多く含まれています。
その日本語対訳版を日本のAPICSインストラクターや資格取得者の協力の下で刊行しています。
幸いAPICSには優秀な人材が数多く集まっています。
そうした方々の協力を得ながら今後は日本発のコンセプトを世界に発信して、世界のSCMコミュニティにおける日本のプレゼンスを高めていきたいと思っています。
一人でも多くの日本のSCM実務家にAPICSに挑戦してもらい、われわれの仲間に加わっていただきたいと願っています。
ASCMには現在、世界4万5千人以上の会員が在籍して、100社以上の有力多国籍企業が法人会員となっています。
世界47か国に311のパートナー組織を有し、全世界共通の教材による教育プログラムや国際資格を提供しています。
日本ではわれわれ日本生産性本部がパートナーを務めています。
APICSの歴史は1957年設立のAmerican Production and Inventory Control Societyに遡ります。
直訳すれば「米国生産・在庫管理協会」です。
その名称から連想されるように、工場の生産管理に端を発し、サプライチェーンの概念が拡大するとともに対象範囲を広げて発展してきました。
「SCM」という言葉は一般的には90年代以降に広く普及しましたが、APICSはそれ以前から、「オペレーションマネジメント(運営管理)」の分野で基本的な知識体系を確立し、その概念やフレームワークを提唱してきました。
他に米国にはSCM分野の有力団体としてSCC(Supply Chain Council)がありましたが、2014年にAPICSに統合されました。
SCCの開発した「SCOR-P」というサプライチェーンを記述するモデルも現在はAPICSが所管しています。
また、15年には輸送・ロジスティクスの専門職団体AST&L(American Society of Transportation and Logistics)もAPICSが統合し、その流れを受け継いだ「APICS CLTD」という資格を新たに開発・提供しています。
そして19年にAPICSは現在のASCMに組織名を変更し、「APICS」は資格や教育のブランド名となりました。
APICSの資格(certification)には以下の三つがあります。
・CPIM(Certified in Planning and Inventory Management)生産計画・在庫管理の専門資格 ・CSCP(Certified Supply Chain Professional)SCMの専門資格 ・CLTD(Certified in Logistics, Transportation and Distribution)ロジスティクス・輸送・物流の専門資格 三つの資格のうちCPIMが最も歴史が古く、取得者数は全世界で10万人を超えています。
CPIMのPは、もともとはPlanningではなくProductionの略語でした。
現在も事業会社や工場の生産管理や需給管理担当者が多く受験しています。
CPIMを取得するには「Part 1」「Part 2」の二つの試験に合格する必要があります。
「Part 1」はいわば基礎編、「Part 2」では幅広い領域にわたる詳細な知識が求められます。
CSCPは2006年に始まったSCMの専門職資格です。
ITやリスクマネジメントなども含む幅広い領域を対象としており、受験資格として学歴や実務経験年数などが求められます。
業種・業態を問わずマネージャーやコンサルタントなどが多く挑戦しています。
CLTDは先に述べた通り18年に始まった最も新しい資格で、物流に重点が置かれており、三つの資格の入門的な位置付けとなっており、物流管理担当者や物流事業者が多く受験しています。
少し古い資料になりますが、英専門メディア「SCM World」が14年に発表した資格ランキングでは、APICSが第1位、第2位がAPICSに統合されたSCOR−Pでした。
SCMの職業資格としてAPICSは群を抜く認知度と評価を得ています。
しかし、日本では、残念ながらまだあまり知られていません。
資格取得者数のデータは非公開なのですが、国別ランキングでは米国が1位、2位にはオランダが続き、日本は37位となっています。
これはドイツや中国よりも低く、アジアの他の国と比べても低水準です。
こうした状況に危機感を覚え、日本生産性本部では、11年から日本におけるAPICSに関連する教育や普及を行っています。
11年当初は試験実施機関として、紙による試験を年4回実施していました。
その後、試験は全てオンラインとなり、今では試験業務はPearsonVUE社にアウトソーシングされ、日本各地のテストセンターで一年中いつでも受験できるようになっています。
なお各資格の詳細や関連情報は、APICSの公式ホームページ(http://apics.jp/)に日本語で掲載しています。
資格取得のメリット APICSの教育内容は毎年見直され、試験内容も5年をめどにSCMの実務家を対象とした調査結果を基に更新されています。
ただし、APICSは最先端の高度な知識を問うものではありません。
むしろ基礎的とも言える内容ですが、非常に広範で網羅的であることが特徴です。
例えば、CPIMの教材は、基準生産計画、資材所要量計画、製造能力管理、購買、在庫管理、実行管理、物流、改善、需要管理、S&OP(販売と運営計画)といったテーマのほか、需要予測、管理会計、キャッシュフロー、制約理論についての知識もカバーしています。
CSCPでは、それに加えて、事業戦略、ITや技術、リスクマネジメント、サステナビリティ、CRM(顧客関係管理)やSRM(サプライヤー関係管理)などが含まれてきます。
こうした広範な内容と表裏する特徴として、APICSの背後には全体最適の思想があります。
そもそもSCMには、個別企業の最適ではなく、情報共有や協働を通じて全体としてより効果を上げるという目的があります。
情報共有や協働のためには標準化や共通言語によるコミュニケーションが必要であり、APICSはそのための土台、基礎として位置付けられています。
グローバルビジネスにおいてAPICSの資格を取得していると、相手から「SCMについて一定の知識を持っているだろう」「まずは話ができる相手だろう」と認めてもらえます。
そのためグローバル企業の多くがSCM関連部門のメンバーにAPICS資格の取得を奨励しています。
「APICS資格取得者の方が給与が高い」という調査データさえあります。
一方、日本国内だけでSCMの業務についている限り、APICS資格を取得していなくても困ることはないだろうと思います。
それでも、APICSを学ぶことで業務知識が整理され、SCMの体系的な知識が身に付きます。
「物流の実務経験はあるが、工場内や上流のことはよく分からない」「品質管理や現場の運営管理は分かるが、計画系や経営レベルの話はよく分からない」ということがなくなります。
APICSの試験、教材は全て英語です。
多くの日本人にとっては語学がハードルになることは確かです。
実は英語圏以外の海外諸国でも事情は同じで、私が会ったあるフランス人の資格取得者は、「英語を学ぶためにAPICSを学習した」と言っていました。
日本にいても海外とのやりとりをする機会は今後ますます増えていきます。
日本企業の駐在員として非英語圏に派遣された場合も共通言語は英語です。
日本人にとってAPICSの資格取得はビジネス英語やSCMの専門用語を学ぶ有効な手段にもなり得ます。
以下に日本語を母国語としながらAPICSを取得した実務家3人の体験談を紹介します。
外資系メーカーの社内プログラムを利用 資格取得のきっかけは、オペレーション部門のトップが、サプライチェーン職の人材育成のプログラムとしてCPIMを強く推奨したことです。
私は30年近くサプライチェーン職に従事していますが、最初の10年ほどのトレーニングは、所属する部署で人から人へと受け継がれてきた知識と手法を、OJTで身に付けることが中心でした。
その後リーダー層が交代して、OJTとは別にサプライチェーン職に体系的な知識を習得させる目的でトレーニング予算が組まれて、CPIMの取得が業務資格として担当者に求められることになりました。
私は、海外から招聘したAPICS講師による社内クラス、各国の社員を対象とした社内通信教育クラス、公募の通信教育クラスの三つを経験しました。
そのうち最も理解が深まり、参加者全員にとって効果的だと感じたのは、社内クラスでした。
所属する部署の各国のサプライチェーンリーダー職を一つの会議室に集めてフェイス・トゥ・フェイスで実施しました。
日常業務でやり取りしている同僚と一緒に疑問点を議論し、共通の理解を得られたことは、各個人の知識のレベルアップのみならず、その後数年間にわたり世界各国の各工場で、これまでのやり方を見直し全体最適を実現するという業務を進める上で重要な礎となりました。
私が資格を取得した2000年代後半当時、CPIMは日本では受験できませんでした。
そこで、資格試験が行われている国の現地工場への出張日程を、(3カ月に一度、土曜日に開催される)試験日と調整して、計5年がかりでようやく資格を取得しました。
資格取得後は、名刺やメールの署名欄にCPIMと記載することができるようになり、所属する部署以外の社員と交流する際にも自信になりました。
昇進、社内公募、人事異動などでも多少は有利に働いたのではないかと思います。
数年前に、入社数年のサプライチェーン職の社員を対象に、私が社内講師を務めて業務時間外を使った勉強会を開きました。
その参加者のうち何人かは勉強を継続しており、「合格しました!」と嬉しい報告をくれることがあります。
当社では現在に至るまで、CPIMがサプライチェーン職の人材育成のプログラムに継続して組み込まれています。
またCPIMの取得は、人材流動性が高い国で経験者を中途採用する際や社内公募の際の「望ましい要件」として位置付けられています。
3PL専門職のキャリアの支えに 私が物流・サプライチェーンの世界に初めて足を踏み入れたのは、コンサルティング会社勤務、イギリスへの大学院留学を経て、DHLサプライチェーンに入社したときです。
同社には13年余り勤務して、その後、現在のソフトバンクロボティクスのロジスティクス事業(SBロジスティクス)に移り1年半が過ぎました。
これまで約15年にわたり、物流・サプライチェーンの世界で働いてきたことになります。
CSCPは2014年に取得しました。
それによって社内や転職時に評価されたことがあるかと聞かれたら、残念ながらそうした記憶はないというのが正直なところです。
その一方で、自分のキャリアのさまざまな場面や転機において、CSCPの資格は「パートナーとして共にあった」という感覚があります。
グローバルビジネスでキャリアを築きたいという思いをCSCPがサポートしてくれたと感じています。
私がCSCPを取得したきっかけは、日本の物流現場を経験して1度目の中国駐在を終えた後、自分がまだ知らない分野の業務知識についても理解したいと思ったからです。
自分で実際に経験した業務や分野については分かっていても、それはサプライチェーンや物流全体からみれば非常に限られた知識であることに気づきました。
実際、CSCPに挑戦することで非常に広い範囲を学習することになりました。
CSCP取得後、2度目の中国駐在となりました。
それまで私が経験していた販売物流とは異なり、現地の複数工場で構成されるサプライチェーン改革に深く入り込むことになりました。
そこで必要とされるフレームワークがCSCPのカリキュラムに全てカバーされていたことが大いに助けになりました。
これまで3PLの実務家としてさまざまなお客さまと仕事をしてきましたが、そこで感じるのは、それぞれのお客さま、場合によっては同じお客さまでも部署によって、サプライチェーン・物流の用語や思想は異なっているということです。
それらをAPICSの概念やフレームワークを通して理解することが、業務を支えてくれました。
現在は日本のEC物流のデジタル化、倉庫の自動化に携わっています。
日本の労働力不足や物流における安全や労働環境の問題、世界的にはCOVID-19や気候変動などにより注目されているサプライチェーンの持続可能性の問題が、自分の中で課題感として大きくなってきています。
そのような社会課題に挑戦する上でも、APICSやCSCPが自分をサポートしてくれると考えています。
あえて高い目標を掲げて独力で取得 社会人になって以来、一貫してSCM業務に携わってきました。
40代になって今後のキャリアを考え始めた際、「自身の経験や知識を目に見える形で証明できる〝何か〟が欲しい」といろいろ探索した末にAPICSに出会いました。
2017年4月に日本生産性本部主催のAPICS紹介セミナーに参加して、資格内容や資格取得者の体験を詳しく理解できたことで、資格取得に向けたモチベーションが高まりました。
それと同時に「2年以内に全資格(CSCP、CPIM、CLTD)を取得する」という目標を立て、学習を開始しました。
自分を追い込むため会社の補助は受けない=自費での取得を決意しました。
最初、どの資格から取り組むか迷いましたが、自身の一番の弱点領域と思われる生産管理系(CPIM)から取り組むことに決めて、次にCLTD、CSCPと順に取得しようと考えました。
学習を始めてすぐ、資格取得だけを目的とするのではなく、内容を正しくかつ深く理解すること、自身の業務につなげる・活用できるようにすることを目的に加えました。
学習方法としては、全資格とも、APICSの学習教材 "Learning System"を購入して自習しました。
平日は、通勤時間やランチでの隙間時間を活用して約2時間、土日祝日は午前中の3~4時間を学習のために捻出して、テキストを繰り返し読み、時間をかけて深く理解していく、というベーシックな方法をとりました。
そのため恐らく他の資格保有者より多くの時間をかけることになったと思います。
結果的には約1年半を費やし、CPIM→CLTD→CSCPの順に全資格を取得することができましたが、時間確保・学習ともに非常にタフでした。
資格取得後の感想・メリットとしては、サプライチェーンのプロフェッショナルとして、より自信が持てるようになった点が挙げられます。
学習前にもある程度の自負はありましたが、資格取得を通じて生産管理(CPIM)・ロジスティクス(CLTD)・広範なサプライチェーン理解と円滑な運用(CSCP)に関する知識を、体系的かつ広く深く習得したことが、プロとしての立ち居振る舞いに良い影響を与えてくれていると思います。
現在はグローバルレベルのサプライチェーン業務に従事しています。
海外拠点やパートナー、サプライヤーとコミュニケーションする際、SCMの共通言語を使って会話ができるのは非常に効果的です。
サプライチェーンの各機能の改善や課題解決を行う際にも、SCM全体を俯瞰してアクションが取れるようになったことも非常に大きな成果です。
コロナ禍前までは海外の方々とも直接、面談する機会が多かったのですが、私の名刺に記載されたCSCP、CPIMの文字に気づかれる方が複数いました。
海外、特に米国におけるCSCP、CPIMの認知度の高さは、初対面の相手でもプロとして認めてもらえるという点で有利に働くと思います。
資格取得者のコミュニティ 日本生産性本部では、APICSの資格取得者、また取得を目指している方などの交流の場として、17年に「APICSコミュニティ」を設立しました。
「日本ならでは、日本におけるAPICSの価値を開発し、伝える。
」というミッションを掲げて、講演会などを実施し、自分とは異なる業界、異なるサプライチェーンのSCMの実務家たちとの横のつながりを支援しています。
また、米国のAPICSは全世界で使われている5千語近いSCM用語を掲載した「APICSディクショナリー」を刊行して改版を重ねています。
そこにはheijunka、jidouka、poka-yokeなど、日本由来のコンセプトも多く含まれています。
その日本語対訳版を日本のAPICSインストラクターや資格取得者の協力の下で刊行しています。
幸いAPICSには優秀な人材が数多く集まっています。
そうした方々の協力を得ながら今後は日本発のコンセプトを世界に発信して、世界のSCMコミュニティにおける日本のプレゼンスを高めていきたいと思っています。
一人でも多くの日本のSCM実務家にAPICSに挑戦してもらい、われわれの仲間に加わっていただきたいと願っています。
