2021年6月号
特集
特集
SBロジスティクス 米BG社との提携で完全自動化倉庫に王手
ソフトバンクの3PL事業戦略
──ソフトバンクグループが物流事業に進出した狙いをあらためて説明してください。
「簡単に言うと、ECの物流は増えていく、一方で労働人口は減っていく、それならわれわれは物流に使えるロボットを作りたい、というのがスタートです。
しかし、検討を進めていくと物流ロボットは、『Pepper(ペッパー)』のようなコミュニケーションロボットを販売するのとは勝手が違って、倉庫内のプロセスが全てつながって初めて意味を持つ。
大事なのはロボットではなく物流です」 「だったらわれわれは自分たちで物流をやる必要があるだろう。
後発としてわれわれが参入する以上は完全自動化を目指そう──ということになりました。
ちなみにSBロジスティクスは兄弟会社のソフトバンクロボティクスのロジスティクス事業部門と、メンバーも含めてほぼ一体です。
SBロジスティクスで自分たちの現場を回しながら、それをソフトバンクロボティクスで成熟させてロボットを作って販売するという構想です」 ──完全自動化はアマゾンでさえ割に合わないと判断して見送っています。
前職でアマゾンジャパンの物流開発に携わってきた安高COOはそのハードルの高さを誰よりご存じのはずです。
「その通りです。
それだけに当社でなければできないだろうと自負しています。
純粋な小売業者はコスト重視にならざるを得ない。
われわれには孫(正義)会長という強烈な後ろ盾があり、グループからさまざまなサポートも受けられる。
しかも、われわれは研究開発だけをやっているわけではなく、実際に倉庫を動かしている。
難しさを言い訳にできない。
前に進むしかない」 ──4月にソフトバンクロボティクス、SBロジスティクス、そして米バークシャーグレイ(BG社)の3社は、世界最先端のEC向け3PLサービスを提供することを目的として、共同パートナーシップを締結しました。
SBロジが運営する市川DC(ディストリビューションセンター)に、BG社のロボットを導入してピッキングと梱包プロセスを完全自動化したとの発表がありました。
「庫内作業の中で最も自動化が難しかったのがピースピッキングでした。
あらゆるロボットを調べました。
しかし、実験ではうまく動いても、実務に使うとなると箱形の荷物以外はSKUの10%くらいしかつかめない。
最大のボトルネックでした。
それだけにBG社との出会いは衝撃的でした」 「2018年の暮れごろにボストンにあるBG社の本社を訪問すると、トム・ワグナー創業者CEOがピッキングロボットを前にして、私に『お前の財布を貸せ』という。
私が手渡すと彼はそれをポンとトートの中に投げ入れて『これ、取れるから』という。
ロボットは最初、私の使い込んだ財布に戸惑っていました。
しかし、事前登録されていない裸の財布を問題なく取り上げて、カメラの前でSKU登録して、エラー用のトートに投入するという完璧なデモをやってのけた」 ──BG社は他のロボット開発会社と何が違うのでしょうか。
「ロボットピッキングには大きく三つの要素があります。
一つがモノを見て認識するロボットビジョン、二つ目がモーションプランニング(動作計画)、三つ目が動作を実行するエグゼキューション、モノをつかむグリッパーの工夫です。
他社は3要素のうち一つか二つに優れていても欠けている部分があった。
BG社には三つがそろっていた」 「ただし、彼らのロボットをそのまま日本に持ち込むわけにはいきませんでした。
BG社のロボットはモノをつかんでトートに投入することはできるけれど、そっとは置かない。
そんなニーズは米国にはないからです。
しかし、日本では外装箱に少しでも傷をつけたら失格です。
そこでわれわれとBG社で一緒になってダメージの基準を作ったり、丁寧にモノを置く方法を開発してきました」 ──そのロボットが完成したのですか。
「まだ完全ではありません。
しかし、先ほど現状では箱モノ以外は10%くらいしか取れないと言いましたが、われわれのロボットは60%くらい取れるようになった。
しかも、ピッキングしたモノが出荷箱に上手に収まるように向きを変えて丁寧に置くことができる。
それでも残り4割は取れないわけですから、まだまだ先はある」 ──ピースピッキング以外のプロセスの自動化は既にクリアされているのですか。
「実は出荷箱に緩衝材を詰める作業が自動化のもうひとつの穴でした。
しかし、そこも解決のめどが立ちました。
当社で特許も取得して梱包機メーカーと一緒に装置を開発しています。
この先1〜2カ月で、トートからロボットアームでピースピッキングして箱に収めて梱包して出荷するという工程の完全自動化が実現します。
ただし、入荷して検品するところまでは人力です。
ECセンターの入荷は基準がまったくバラバラなので早々に諦めて自動化の対象外としています」 2号拠点で採算ラインに乗せる ──ECセンターの自動化ではアマゾンより先に中国のJD.com(京東商城)が18年に完全無人化倉庫を稼働したと発表しています。
「詳しいことは分かりませんが、その後、完全自動化倉庫を横展開しているという話は聞いていませんので、技術力を誇示するためのデモセンターではないかとみています。
ロボットアーム自体は工場では大昔から使われているし、倉庫でも一定の荷姿であれば完全自動化は問題なくできる。
どんな形状の荷物が来るのか分からない環境でピックするところにチャレンジはあります」 ──SBロジが目指す完全自動化はいつ実現できそうですか。
「今はコロナの影響で米国からエンジニアを呼べないので計画よりも半年くらい遅れてしまっているのですが、仕組みとしては既に完成しています。
間違いなく稼働もする。
次はコストです。
その部分でも自信を持っています。
現在の市川DCはパイロット拠点なので、それなりのコストをかけています。
しかし、市川DCを立ち上げる段階でSBロジのマテハンチームには、次の拠点は45%コストカットする、55%の費用で同じものを作れと命じています。
ちょうど今、次のサイトの設計に取りかかろうとしているところなのですが、そこからは採算ラインにきれいに乗ってくる」 「ただし、条件があります。
設備投資を早期に回収するには、倉庫の稼働時間をできる限り長く取り、できる限り多くの物量を取り扱う必要があります。
そもそも1日当たり1千個や2千個を出荷するレベルであれば自動化など考えない方がいい。
1万個でも恐らく人手のほうが有利です。
しかし、10万個になれば絶対に機械化した方がいい」 「とはいえ単独でそれだけの物量がある企業は限られてきますから、当社が3PLとして多くの荷主さんから業務を委託してもらい、大規模施設をみんなでシェアして利用する。
荷主の数やSKUを増やしていくことで波動も吸収できるようになり、施設を動かし続けることもできる。
それが当社の3PL事業のコンセプトです」 ──物流業が労働集約型から装置産業に変わることになります。
「そう考えています。
標準化できる作業は出荷装置に置き換えられていく。
ただし、倉庫が完全に無人化するわけではありません。
例えばギフトラッピングなど付加価値を生むところは今後も人手をかける。
そうやって人間の良いところと機械の良いところの両方を見合わせていくべきです」
「簡単に言うと、ECの物流は増えていく、一方で労働人口は減っていく、それならわれわれは物流に使えるロボットを作りたい、というのがスタートです。
しかし、検討を進めていくと物流ロボットは、『Pepper(ペッパー)』のようなコミュニケーションロボットを販売するのとは勝手が違って、倉庫内のプロセスが全てつながって初めて意味を持つ。
大事なのはロボットではなく物流です」 「だったらわれわれは自分たちで物流をやる必要があるだろう。
後発としてわれわれが参入する以上は完全自動化を目指そう──ということになりました。
ちなみにSBロジスティクスは兄弟会社のソフトバンクロボティクスのロジスティクス事業部門と、メンバーも含めてほぼ一体です。
SBロジスティクスで自分たちの現場を回しながら、それをソフトバンクロボティクスで成熟させてロボットを作って販売するという構想です」 ──完全自動化はアマゾンでさえ割に合わないと判断して見送っています。
前職でアマゾンジャパンの物流開発に携わってきた安高COOはそのハードルの高さを誰よりご存じのはずです。
「その通りです。
それだけに当社でなければできないだろうと自負しています。
純粋な小売業者はコスト重視にならざるを得ない。
われわれには孫(正義)会長という強烈な後ろ盾があり、グループからさまざまなサポートも受けられる。
しかも、われわれは研究開発だけをやっているわけではなく、実際に倉庫を動かしている。
難しさを言い訳にできない。
前に進むしかない」 ──4月にソフトバンクロボティクス、SBロジスティクス、そして米バークシャーグレイ(BG社)の3社は、世界最先端のEC向け3PLサービスを提供することを目的として、共同パートナーシップを締結しました。
SBロジが運営する市川DC(ディストリビューションセンター)に、BG社のロボットを導入してピッキングと梱包プロセスを完全自動化したとの発表がありました。
「庫内作業の中で最も自動化が難しかったのがピースピッキングでした。
あらゆるロボットを調べました。
しかし、実験ではうまく動いても、実務に使うとなると箱形の荷物以外はSKUの10%くらいしかつかめない。
最大のボトルネックでした。
それだけにBG社との出会いは衝撃的でした」 「2018年の暮れごろにボストンにあるBG社の本社を訪問すると、トム・ワグナー創業者CEOがピッキングロボットを前にして、私に『お前の財布を貸せ』という。
私が手渡すと彼はそれをポンとトートの中に投げ入れて『これ、取れるから』という。
ロボットは最初、私の使い込んだ財布に戸惑っていました。
しかし、事前登録されていない裸の財布を問題なく取り上げて、カメラの前でSKU登録して、エラー用のトートに投入するという完璧なデモをやってのけた」 ──BG社は他のロボット開発会社と何が違うのでしょうか。
「ロボットピッキングには大きく三つの要素があります。
一つがモノを見て認識するロボットビジョン、二つ目がモーションプランニング(動作計画)、三つ目が動作を実行するエグゼキューション、モノをつかむグリッパーの工夫です。
他社は3要素のうち一つか二つに優れていても欠けている部分があった。
BG社には三つがそろっていた」 「ただし、彼らのロボットをそのまま日本に持ち込むわけにはいきませんでした。
BG社のロボットはモノをつかんでトートに投入することはできるけれど、そっとは置かない。
そんなニーズは米国にはないからです。
しかし、日本では外装箱に少しでも傷をつけたら失格です。
そこでわれわれとBG社で一緒になってダメージの基準を作ったり、丁寧にモノを置く方法を開発してきました」 ──そのロボットが完成したのですか。
「まだ完全ではありません。
しかし、先ほど現状では箱モノ以外は10%くらいしか取れないと言いましたが、われわれのロボットは60%くらい取れるようになった。
しかも、ピッキングしたモノが出荷箱に上手に収まるように向きを変えて丁寧に置くことができる。
それでも残り4割は取れないわけですから、まだまだ先はある」 ──ピースピッキング以外のプロセスの自動化は既にクリアされているのですか。
「実は出荷箱に緩衝材を詰める作業が自動化のもうひとつの穴でした。
しかし、そこも解決のめどが立ちました。
当社で特許も取得して梱包機メーカーと一緒に装置を開発しています。
この先1〜2カ月で、トートからロボットアームでピースピッキングして箱に収めて梱包して出荷するという工程の完全自動化が実現します。
ただし、入荷して検品するところまでは人力です。
ECセンターの入荷は基準がまったくバラバラなので早々に諦めて自動化の対象外としています」 2号拠点で採算ラインに乗せる ──ECセンターの自動化ではアマゾンより先に中国のJD.com(京東商城)が18年に完全無人化倉庫を稼働したと発表しています。
「詳しいことは分かりませんが、その後、完全自動化倉庫を横展開しているという話は聞いていませんので、技術力を誇示するためのデモセンターではないかとみています。
ロボットアーム自体は工場では大昔から使われているし、倉庫でも一定の荷姿であれば完全自動化は問題なくできる。
どんな形状の荷物が来るのか分からない環境でピックするところにチャレンジはあります」 ──SBロジが目指す完全自動化はいつ実現できそうですか。
「今はコロナの影響で米国からエンジニアを呼べないので計画よりも半年くらい遅れてしまっているのですが、仕組みとしては既に完成しています。
間違いなく稼働もする。
次はコストです。
その部分でも自信を持っています。
現在の市川DCはパイロット拠点なので、それなりのコストをかけています。
しかし、市川DCを立ち上げる段階でSBロジのマテハンチームには、次の拠点は45%コストカットする、55%の費用で同じものを作れと命じています。
ちょうど今、次のサイトの設計に取りかかろうとしているところなのですが、そこからは採算ラインにきれいに乗ってくる」 「ただし、条件があります。
設備投資を早期に回収するには、倉庫の稼働時間をできる限り長く取り、できる限り多くの物量を取り扱う必要があります。
そもそも1日当たり1千個や2千個を出荷するレベルであれば自動化など考えない方がいい。
1万個でも恐らく人手のほうが有利です。
しかし、10万個になれば絶対に機械化した方がいい」 「とはいえ単独でそれだけの物量がある企業は限られてきますから、当社が3PLとして多くの荷主さんから業務を委託してもらい、大規模施設をみんなでシェアして利用する。
荷主の数やSKUを増やしていくことで波動も吸収できるようになり、施設を動かし続けることもできる。
それが当社の3PL事業のコンセプトです」 ──物流業が労働集約型から装置産業に変わることになります。
「そう考えています。
標準化できる作業は出荷装置に置き換えられていく。
ただし、倉庫が完全に無人化するわけではありません。
例えばギフトラッピングなど付加価値を生むところは今後も人手をかける。
そうやって人間の良いところと機械の良いところの両方を見合わせていくべきです」
