2021年5月号
特集
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ケーススタディ:サントリーホールディングス 物流に軸足を置いてものづくりを変える
現場スタッフに“楽してみなはれ”
サントリーMONOZUKURIエキスパートは昨年春、新たな試みとして、拠点運営を委託している物流パートナーの現場スタッフを対象に「楽してみなはれ大賞2020」を実施した。
コスト削減策を募る従来の改善活動とは違って、現場が楽になるアイデアであれば何でもOK、一切の制約なしに提案してほしいと依頼した。
全国の現場から200件以上の提案があった。
同社の大泉雪子SCM本部物流部部長は「これまでわれわれの耳に届いていなかった現場の声がたくさん集まった」という。
その一つが閑散期の祝日の休配だ。
競合メーカーが納品している以上、従来はやるのが当たり前だった。
しかし、閑散期の物量は限られている。
1日前倒しで卸に発注してもらう、あるいは納品を1日遅らせても、実害はほとんどないはずだ。
それで現場は休みが取れる。
祝日を家族と一緒に過ごせる。
物流部から事業会社に働きかけ、提案を実行に移すことにした。
これにより同社の今年度の配送日は競合他社よりも数日少なくなる見通しだ。
リードタイムの延長を求める声もあった。
食品・飲料業界では18年以降、メーカーから卸への納品リードタイムを従来の翌日(D1)から翌々日(D2)に改める動きが広がっている。
サントリーグループでも既に食品・飲料はD2が定着している。
ただし、カテゴリーによってはD1がまだ残っている。
全てD2になればオペレーションは格段に楽になる。
庫内作業はもちろん、車両の手配にも余裕が生まれる。
協力会社のドライバーを急な依頼で振り回さずに済む。
これも競合メーカーの動きを待たずに、今年度から実施に動く考えだ。
サントリーMONOZUKURIエキスパートは、グループの事業会社のものづくりに横串を刺す機能会社として17年に設立された。
その傘下には、売上高519億円(20年度)、従業員数約500人の物流子会社、サントリーロジスティクスがある。
同社は「物流マネジメント事業」として、独自の「統合配車システム」を活用した拠点間輸送管理、ローリー輸送管理、在庫配置業務を手掛けるほか、センター運営や輸配送などの現業に当たっている。
それに対して、サントリーMONOZUKURIエキスパートは、サントリーロジスティクスだけでなく、鴻池運輸や日本通運などの物流パートナーとも直接契約を結び、オペレーションをコントロールする一方、サントリー食品インターナショナルやサントリービールなどの事業会社と連携して持続可能な物流の実現を目指している。
大泉部長は「当社も従来はコスト偏重だった。
世間で物流危機が騒がれるようになっても、パートナーのお陰で運べていたために社内の感度は低かった」という。
しかし、18年の猛暑で飲料の供給が逼迫、9月には北海道胆振東部地震、近畿地方を襲った台風21号などの大規模災害が相次ぎ、運べない事態に繰り返し直面したことがグループの意識を大きく変えた。
「モノは作って終わりではない。
運べなければメーカーの事業は成り立たないことを痛感させられた。
持続可能な物流はわれわれ物流部門の目標である以前に、メーカーとしてのミッションだ。
物流の制約に軸足を置いて、ものづくり全体を見直していく」と大泉部長は言う。
そのために物流リソースの計画的な利用を最も重視している。
需要予測の精度には限界がある。
それでも予測に一定の幅を持たせて計画に基づいて在庫を配分、輸送や庫内作業のリソースも計画的に手配することで運べないリスクを抑えられる。
ムダなコストの発生も避けられる。
さらには事業会社の出荷計画や工場の生産計画を所与の前提とするのではなく、計画の策定プロセスに踏み込んでいる。
繁忙期に確保できる1日当たりの車両台数は限られる。
ピーク時の台数を抑制するには移送のタイミングをずらして日々の物量を平準化しなければならない。
移送に間に合うように在庫を積み上げておくことがその前提になる。
しかし、生産効率と物流は往々にしてトレードオフの関係にある。
サントリーグループの取扱SKU数は2千以上に及ぶ。
飲料のカテゴリーだけでも常時600SKU前後が動いている。
その起点となる工場と物流拠点の組み合わせは膨大だ。
そこでSKU別・工場別の生産計画と事業会社の出荷計画の差分を自動計算するシステムを自社開発してトレードオフをシミュレーションしている。
各事業会社のSCM担当と毎週、向こう3カ月先までの在庫計画をすり合わせている。
それとは別に月2回、「生産・在庫・移送」をテーマとする会議を開催している。
その上で現在、中長期の生産計画を調整する新たな会議体の開催を働きかけている。
どの工場で何を生産するのか、ものづくりの基礎構造にまで手を伸ばす考えだ。
「サプライチェーンの上流にいるわれわれが動けば、川下の流れから物流現場の働き方まで変えられる。
メーカーの物流部門でなければできないことがある」と大泉部長は意欲を見せている。
囲み記事 物流の特性が対照的な異業種メーカーと共同化 サントリーは水の品質に強いこだわり持ち、ビール工場をはじめ生産拠点の多くを深い山奥などに置いている。
それだけ消費地からの輸送距離は長く、帰り荷の確保は難しい。
飲料は重量勝ちの荷物であるため積載率の向上にも制約がある。
そこで容積勝ちで繁忙期の重ならない異業種メーカーとの共同化を活発にしかけている。
2017年から日清食品と北海道で共同配送を行っている。
サントリーグループの飲料を、日清食品のインスタントラーメンをはじめとする加工食品と混載している。
従来比で年間25%のCO2排出量削減を実現した。
今年2月にはユニ・チャームと鉄道コンテナを使った共同輸送をスタートした。
静岡の拠点から出荷するサントリーの飲料とユニ・チャームの衛生用品を鉄道コンテナに混載して福岡まで長距離輸送する。
週1回の輸送で両社合わせて年間約2万トンのCO2排出量を削減する計画だ。
建機大手のコマツとは18年から海上コンテナのラウンドユースを実施している。
従来は原材料を東京港と茨城港で陸揚げしてビール工場「群馬・利根川ブルワリー」まで運び、空になったコンテナを港まで戻していた。
これを改め、コマツの小山工場(栃木県小山市)の近隣に設けた仮置き場(インランドデポ)で空コンテナを受け渡す。
コマツをはじめ他メーカーはそれを輸出用に利用している。
コスト削減策を募る従来の改善活動とは違って、現場が楽になるアイデアであれば何でもOK、一切の制約なしに提案してほしいと依頼した。
全国の現場から200件以上の提案があった。
同社の大泉雪子SCM本部物流部部長は「これまでわれわれの耳に届いていなかった現場の声がたくさん集まった」という。
その一つが閑散期の祝日の休配だ。
競合メーカーが納品している以上、従来はやるのが当たり前だった。
しかし、閑散期の物量は限られている。
1日前倒しで卸に発注してもらう、あるいは納品を1日遅らせても、実害はほとんどないはずだ。
それで現場は休みが取れる。
祝日を家族と一緒に過ごせる。
物流部から事業会社に働きかけ、提案を実行に移すことにした。
これにより同社の今年度の配送日は競合他社よりも数日少なくなる見通しだ。
リードタイムの延長を求める声もあった。
食品・飲料業界では18年以降、メーカーから卸への納品リードタイムを従来の翌日(D1)から翌々日(D2)に改める動きが広がっている。
サントリーグループでも既に食品・飲料はD2が定着している。
ただし、カテゴリーによってはD1がまだ残っている。
全てD2になればオペレーションは格段に楽になる。
庫内作業はもちろん、車両の手配にも余裕が生まれる。
協力会社のドライバーを急な依頼で振り回さずに済む。
これも競合メーカーの動きを待たずに、今年度から実施に動く考えだ。
サントリーMONOZUKURIエキスパートは、グループの事業会社のものづくりに横串を刺す機能会社として17年に設立された。
その傘下には、売上高519億円(20年度)、従業員数約500人の物流子会社、サントリーロジスティクスがある。
同社は「物流マネジメント事業」として、独自の「統合配車システム」を活用した拠点間輸送管理、ローリー輸送管理、在庫配置業務を手掛けるほか、センター運営や輸配送などの現業に当たっている。
それに対して、サントリーMONOZUKURIエキスパートは、サントリーロジスティクスだけでなく、鴻池運輸や日本通運などの物流パートナーとも直接契約を結び、オペレーションをコントロールする一方、サントリー食品インターナショナルやサントリービールなどの事業会社と連携して持続可能な物流の実現を目指している。
大泉部長は「当社も従来はコスト偏重だった。
世間で物流危機が騒がれるようになっても、パートナーのお陰で運べていたために社内の感度は低かった」という。
しかし、18年の猛暑で飲料の供給が逼迫、9月には北海道胆振東部地震、近畿地方を襲った台風21号などの大規模災害が相次ぎ、運べない事態に繰り返し直面したことがグループの意識を大きく変えた。
「モノは作って終わりではない。
運べなければメーカーの事業は成り立たないことを痛感させられた。
持続可能な物流はわれわれ物流部門の目標である以前に、メーカーとしてのミッションだ。
物流の制約に軸足を置いて、ものづくり全体を見直していく」と大泉部長は言う。
そのために物流リソースの計画的な利用を最も重視している。
需要予測の精度には限界がある。
それでも予測に一定の幅を持たせて計画に基づいて在庫を配分、輸送や庫内作業のリソースも計画的に手配することで運べないリスクを抑えられる。
ムダなコストの発生も避けられる。
さらには事業会社の出荷計画や工場の生産計画を所与の前提とするのではなく、計画の策定プロセスに踏み込んでいる。
繁忙期に確保できる1日当たりの車両台数は限られる。
ピーク時の台数を抑制するには移送のタイミングをずらして日々の物量を平準化しなければならない。
移送に間に合うように在庫を積み上げておくことがその前提になる。
しかし、生産効率と物流は往々にしてトレードオフの関係にある。
サントリーグループの取扱SKU数は2千以上に及ぶ。
飲料のカテゴリーだけでも常時600SKU前後が動いている。
その起点となる工場と物流拠点の組み合わせは膨大だ。
そこでSKU別・工場別の生産計画と事業会社の出荷計画の差分を自動計算するシステムを自社開発してトレードオフをシミュレーションしている。
各事業会社のSCM担当と毎週、向こう3カ月先までの在庫計画をすり合わせている。
それとは別に月2回、「生産・在庫・移送」をテーマとする会議を開催している。
その上で現在、中長期の生産計画を調整する新たな会議体の開催を働きかけている。
どの工場で何を生産するのか、ものづくりの基礎構造にまで手を伸ばす考えだ。
「サプライチェーンの上流にいるわれわれが動けば、川下の流れから物流現場の働き方まで変えられる。
メーカーの物流部門でなければできないことがある」と大泉部長は意欲を見せている。
囲み記事 物流の特性が対照的な異業種メーカーと共同化 サントリーは水の品質に強いこだわり持ち、ビール工場をはじめ生産拠点の多くを深い山奥などに置いている。
それだけ消費地からの輸送距離は長く、帰り荷の確保は難しい。
飲料は重量勝ちの荷物であるため積載率の向上にも制約がある。
そこで容積勝ちで繁忙期の重ならない異業種メーカーとの共同化を活発にしかけている。
2017年から日清食品と北海道で共同配送を行っている。
サントリーグループの飲料を、日清食品のインスタントラーメンをはじめとする加工食品と混載している。
従来比で年間25%のCO2排出量削減を実現した。
今年2月にはユニ・チャームと鉄道コンテナを使った共同輸送をスタートした。
静岡の拠点から出荷するサントリーの飲料とユニ・チャームの衛生用品を鉄道コンテナに混載して福岡まで長距離輸送する。
週1回の輸送で両社合わせて年間約2万トンのCO2排出量を削減する計画だ。
建機大手のコマツとは18年から海上コンテナのラウンドユースを実施している。
従来は原材料を東京港と茨城港で陸揚げしてビール工場「群馬・利根川ブルワリー」まで運び、空になったコンテナを港まで戻していた。
これを改め、コマツの小山工場(栃木県小山市)の近隣に設けた仮置き場(インランドデポ)で空コンテナを受け渡す。
コマツをはじめ他メーカーはそれを輸出用に利用している。
