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2021年5月号
特集

独キオンの「イントラロジスティクス4.0」

インダストリー4・0の物流戦略  独キオングループ(KION Group)は、日本の豊田自動織機に次ぐ世界第2位のフォークリフトメーカーである。
19世紀以来の長い歴史を持つ独リンデ(Linde AG)の産業車両部門を分離して2006年に発足した。
 その後、16年にマテリアルハンドリングの自動化とサプライチェーンソリューション (以下SCS) に強みを持つ米デマティック(DEMATIC)を買収。
現在は統合サプライチェーンソリューションを提供する企業グループにその姿を変えつつある(図1)。
 キオングループは、デマティック社の買収を機に長期計画を策定し直して、18年に「KION2027」を発表した(図2)。
そこでターゲットとする市場セグメントを従来のフォークリフトから「マテリアルハンドリング」に再定義して、その市場成長を上回る成長と、その市場において最も利益率の高い企業グループとなることを目標に掲げた。
 ここで注目しておきたいのは、COVID-19でにわかに注目を浴びることになった「レジリエンス(Resilience)」というキーワードがKION2027に既に用いられていることだ。
将来、市場に苦境が必ず訪れることを想定して長期戦略を立案しているわけだ。
単にその時の状況に対処するだけでは、継続的な成長は見込めないことを教えてくれているようである。
 「インダストリー4・0」の目的の一つに「Segment of One ものづくり」がある。
個々の顧客のニーズに合わせた製品を、大量生産並みの効率で生産するマスカスタマイゼーションを支えるものづくりのことである。
 そこで必要になるのが、工場や倉庫の構内物流の「システムによる自動化」である。
キオングループでは、この概念を“Automated Systems(自動化システム)”と呼び「No Industry4.0 without Intralogistics4.0(イントラロジスティクス4・0なくしてインダストリー4・0なし)」とのキャッチフレーズをつけている。
 イントラロジスティクス4・0へと向かうキオングループのロードマップはユニークだ。
その手始めに同社はインテリジェントフォークリフトのコンセプト機をSAP HANA Cloud Platformも活用して開発し、自律的に安全に荷物を運搬できることを証明した(図3)。
続いてフリート・データ・マネジメントを用いて、フォークリフトの利用を最適化する方法を編み出し、それらを組み合わせて構内での無人走行の実現を目指している。
 その先に自動化システムがある。
その必要条件の一つが、いわゆる“From shop floor to top floor”とも呼ばれる、現場から経営層までの企業内垂直統合である。
ERPからのデータに基づき経営層が下した意思決定が直接、生産工場で活動する人や機械設備に届き、かつ生産工場が計画通りに稼働しているかどうかが経営層までリアルタイムに届くことを意味する。
 KION2027から読み取れるのは、客先のERPから生産現場にあるフォークリフトやAGV(無人搬送車)などのハードウエアまでの垂直統合を、ワンストップで実現しようとする戦略である。
マルチベンダーで構成される機器やソフトウエアの統合は、通常は顧客側が技術リスクを負う。
それをキオングループで請け負うことで、イントラロジスティクス4・0を求める顧客への価値向上につなげるのである。
 実際の垂直統合の方法は現場ごとに異なる。
例えばデマティック社は、複雑な統合をパターン化して実装する自社開発のサプライチェーン情報システムに加え、「SAP LES(Logistics Execution System)」「SAP EWM(Extended Warehouse Management)」「SAP TM(Transportation Management)」などのSAPの物流ソリューションの導入サービスにも力を入れるSAP導入パートナーとしての顔も持っている。
プロセスの標準化と情報の一元化  キオングループの産業車両部門は「Linde」の他にも「STILL」「FENWICK」「Baoli」「VOLTAS」「OM」など、過去に併合してきた複数のブランドを持つ。
それぞれのブランド価値向上のため、電動フォークリフトや内燃機関式の「カウンタータイプ」「リーチタイプ」のフォークリフトなど同じカテゴリーの車両を複数のブランドが並行して設計・生産している。
 同社はそれぞれのブランドを維持することによって市場の占有率を保持しているが、なおかつ効率の良いものづくりを行うにはどうすべきだろうか。
それについてKION2027には「効率的な製品開発」という方針が示されている。
 それに基づき同社はグループ内におけるプロセスの標準化を目指すIT変革プロジェクトを進めている。
MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)の一元化を目指す「K1MES」と、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)の一元化を目指す「K1PLM」の二つである(図4)。
 K1MESは“From shop floor to top floor”のグループ内垂直統合を単一のITプラットフォームで実現するものだ。
SAP ERPにバリアント選定機能として設定されている製造パフォーマンス管理「SAP Manufacturing Integration and Intelligence(SAP MII)」、製造実行システム「SAP ME」、BIツールの「SAP BI/BO」がそこで活用されている。
 K1MESにおいては全ての作業指示が電子的に下されて、作業の進捗はサイバー空間で可視化されている。
また工場全体のアーキテクチャーはインダストリー4・0の標準に則っている。
 フォークリフトは、受注時に多数のオプションが指定される。
従来はその作業指示が紙ベースだった。
それを電子化したことで、必要な構成部品とその在庫情報を取得する時間が短縮されて、エラーの削減、受注から完成品までの追跡、生産実績の確認などに大きな成果を上げた。
 K1PLMも、KION2027に沿ったプロジェクトだ。
同計画を発表する直前の16年〜17年にかけて、キオングループはPLMのスコープを製品の複雑性の管理に集中させた。
製品のモジュラー設計を進めることで、顧客からのカスタマイズオプション需要を飛躍的に高めることに成功。
一元化されたK1PLMがCADと製品構成を管理するという一応の完成をみた。
 その上で18年から、K1PLMをIoTとデジタル対応に引き上げる取り組みを開始した。
コネクテッドフォークリフトの開発と、そのデータを活用して新たなビジネスモデルを始めることが目的である。
製品構成には、ハードウエアだけでなく埋込みソフトウエアも含まれるようになった。
「つながるフォーク」を市場投入  K1PLMでは、SAP ERPと統合されているSAP PLMと、シーメンスPLMソフトウエアの「Siemens NX」とが密に連携している。
NXを900人ほどのエンジニアが、そしてSAP PLMを2千人ほどのアクティブユーザーが使用しているという。
 「E-CAD」や「Microsoft Office」との連携も果たしている。
生産工程は前述のK1MESプロジェクトでERPと統合済みであり、これによって、製品構成管理を中核にしたモジュラー設計→設計部品表(E-BOM)構成→受注時のバリアント選定(部品とソフトウエア)→製造部品表(M-BOM)展開→部品手配→生産指図と現場での組み立て→生産実績記録までのプロセスがE2Eでつながったことになる。
 この成果として、キオングループは19年末に“インダストリー4・0対応フォークリフト”と銘打って、フルデジタル生産の「Linde Digital Truck 1202」シリーズを発表した。
テレマティクス用ユニットで常にクラウド接続され、インテリジェントセンサーからの情報を解析・活用できる。
キオングループにとって新しいビジネスモデル創出の基礎となる製品である。
これからもフルデジタル生産フォークリフトの市場投入が続いていくはずだ。
 本稿では、キオングループが利益重視に転換した長期戦略に基づき、企業買収とその後のビジネスプロセス一元化、システム統合を行い、デジタルを活用した新たな製品やサービスを市場に投入していこうとしている姿を眺めた。
同社の取り組みは継続中であり、今後もその進捗を確認していきたい。

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