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2021年4月号
特集

日野自動車&Hacobu トラックメーカーのDXが導く物流最適化

スタートアップは生贄であり触媒 ──日野自動車の小佐野CDOは、ヤマトホールディングスとイオンでそれぞれCIOを務め、2020年10月に日野自動車のCDO(最高デジタル責任者)デジタル領域長に就任されました。
日野自動車への入社は、19年9月にHacobuとの業務資本提携を発表した後のことになります。
日野自動車 小佐野 豪績 CDOデジタル領域長(以下、日野・小佐野)「Hacobuとはイオン時代から付き合いがありました。
知人から紹介を受けて佐々木社長から直接お話も伺い、その理念に大いに共感しました。
私がヤマト時代から考えていたことと全く同じだった」 ──佐々木社長は何を話したのですか。
Hacobu 佐々木 太郎 社長(以下、Hacobu・佐々木)「最初は物流拠点のバース管理といった実務の話から入り、その先に広がるビジョンについてご説明しました。
物流のデータを個社で利用するのではなく、サプライチェーン全体で共有することで全体最適が進む。
それがサプライチェーンに関与する個々のプレーヤーに果実をもたらすという内容です」 日野・小佐野「私も経産省の製配販協議会をはじめ事あるごとに、サプライチェーンのデータは分断されている、それをつないでいこうと主張してきました。
しかし、その趣旨には誰もが賛同してくれるのだけれど、いざ実現しようとなると大企業には、いわゆる組織の論理などの、超えられない壁がある。
スタートアップのHacobuなら、そうした壁を切り崩してくれるのではないか、と」 Hacobu・佐々木「それはわれわれも自分たちの使命と考えているところです。
実際、大企業の方たちに『当社をスケープゴートにしてください』と話すことはよくあります。
大企業で重要なポジションにいる人が、これまでにない挑戦をするというのは難易度が高い。
新しいことは失敗する可能性の方が高いわけですから。
それでも変えたいという志は持っている。
その想いを受けてわれわれが動く。
それでもし失敗したら、われわれをスケープゴートにしてくれたらいい。
そうやって切り込んでいくものがいないと社会は変わっていかない。
スタートアップの存在意義や大企業との関係性をそのように考えています」 日野・小佐野「誰がプラットフォーマーになるのかというのは非常に重要です。
大企業同士だと各社の思惑が入って、ライバルとの主導権争いが起きてしまう。
しがらみのない第三者に触媒として入ってもらわないとサプライチェーンはつながらない。
私自身、大企業で長年やってきた経験からそのことは痛いほど分かっています」  「フィンテックの『マネーフォワード』が成功したのも、既存の金融機関とは関係ないところからスタートアップが飛び込んできて、一つ一つをつなげていったら非常に便利なものができたということであって、最初から銀行同士でやっていたら恐らくあれはできなかった。
実は大企業の中にだって全体観を持っている人は必ずいるんです。
そうした人たちを熱い魂を持ったスタートアップが触媒となってつないでいくことを期待しています」 Hacobu・佐々木「実際、ビジョンに共鳴してくれる大企業の方々を見つけ出して、われわれがハブになることで、当人同士ではなかなか話せないことを『向こうはそんなに気にしていないみたいですよ』とつないで動き出すというケースはかなりあります。
ただし、この業界にはいろいろな政治もあるので、どううまくつないでいけばいいのか、業界の方に教えてもらいながら紡いでいるという感じです」 ──Hacobuが日野自動車から出資を受けると他のトラックメーカーとは距離ができます。
特定の大手企業からの出資をどう考えていますか。
Hacobu・佐々木「そこは一つ悩んだところではあります。
各トラックメーカーと等距離で連携していくことも考えました。
各社ともトップ層は変革を望んでいるんです。
しかし、実際に新しい領域に全社的に進んでいけるかとなると、そうではない会社がほとんどだと思います。
その間に入って等距離でつないでいくのはさすがに苦しい。
それよりは、まずはどこかに飛び込んでその会社が進化するお手伝いをした方が、業界全体を前に進めるには有効だと判断しました」 日野・小佐野「確かに伝統のある企業は、伝統を守ろうとして殻を破れないところがある。
私のようにサービス業から来た人間から見ると、とりわけメーカーはその傾向が強い。
ヤマトやイオンは大企業でも自律分散型でした。
それに対してメーカーは規律に基づいて動き、規律を守る。
それがメーカーの文化なのだと思います。
しかし、データを活用した新しい世界に移っていこうとしている今、パラダイム変化が起きた時にはその文化が、目には見えない心の壁になる恐れがある」 トラックが情報のハブになる Hacobu・佐々木「しかし、大企業が変わらないと世界は変わりません。
消費者向けのBtoCならともかく、少なくともB寄りのビジネスは、エスタブリッシュメント(既存勢力)が変わっていかないと日本の社会は変わらない。
その層にどれだけの波紋を起こす石を投げられるかを常に考えています」  「とりわけ物流、サプライチェーンという領域では、トラックの車両自体が果たす役割がこれからますます重要になっていきます。
最近、当社はビジョンを『データ・ドリブン・ロジスティクスの実現』だと言っています。
データがトリガーになって動く世界にならないとサプライチェーンは最適化できない。
その際の重要情報の一つが車両から得られる運行や荷物に関するデータです。
トラックが情報のハブになる。
従ってトラックメーカーが進化しないとデータ・ドリブン・ロジスティクスは実現しない」 ──トラックのデジタル化やトラックメーカーのDXの現状を小佐野CDOはどう見ていますか。
日野・小佐野「トラックは製配販の全てのプロセスをつないでいます。
キーワードは『つながる』です。
しかし、まだまだつながりきれてない。
もともとトラックメーカーは車両のデータを取ってはいるんです。
しかし、それは車両の設計品質の向上に使うデータであって、ユーザーが必要とするデータではない。
つまり物流の最適化に資するものではない」 ──トラックがどうなればいいという話なのでしょうか。
Hacobu・佐々木「将来的な話をすると、各車両のデータがトラックメーカーのサーバーにリアルタイムで飛んで、ユーザーがAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を叩けば、そこから情報が取れる形になればいい。
それがあるべき姿です。
全ての情報が取れる世界になったらサプライチェーンの最適化は大きく進みます。
そのためにはICTのデバイスを車両に後付けするのではなく、最初からトラックにビルトインしてほしい」 日野・小佐野「当社は17年発売の大型・中型トラック、19年発売の小型トラックから通信端末を標準で搭載しています。
ICTを活用したユーザーサービス『HINO CONNECT』も18年4月に開始しています。
『コネクティッドトラック』は20年3月までに約10万5千台を生産しました。
トラックのライフサイクルは10年超と長いのですが、25年頃までには走っているトラックの半分くらいがコネクティッドトラックに入れ替わることになります」 Hacobu・佐々木「コネクティッドトラックの登場によって、ユーザーは車両の位置情報などを日野のサーバーから取得できるようになりました。
これまで当社の動態管理サービス『MOVO Fleet(ムーボフリート)』を利用するには後付の専用GPSが必要でした。
しかし、20年10月にムーボフリートとコネクティッドトラックとの連携を開始したことで専用GPSが要らなくなった」  「しかもムーボフリートのコネクティッドトラック専用プランは、従来の半額の900円(月/台)で利用できます。
さらに21年2月にはムーボフリートの追加機能として、日野のコネクティッドトラックであれば傭車先の車両でも自社車両と同じように管理できる機能をリリースしました。
その結果、ムーボフリートのユーザー層が従来の大手荷主から中小運送会社に広がってきています」 ──トラック1台当たり月約1800円が900円になったというのは、小さな価格差のようにも感じます。
日野・小佐野「いや、そうした数百円の違いが運送会社にとって決定的な意味を持つんです。
ヤマト時代に車両管理会社を経営したことがあるので、そのあたりはよく分かる」 Hacobu・佐々木「荷主や運送会社には、自車だけでなく傭車も管理したいというニーズが従来からありました。
しかし、それには傭車に後付デバイスを配る必要がありました。
実際、固定傭車に自社車両と同じデジタコを装備して全台管理している企業もあります。
しかし、非常にコストがかかっている」 日野・小佐野「例えばヤマトの場合、『宅急便』を配るのは自社車両なので自社でデバイスを装着して車両管理しています。
しかし、ベースに入ってくる幹線輸送の大型車は8割近くが傭車です。
そのため思うような管理ができなかった。
それがコネクティッドトラックとムーボフリートなら全て管理できるようになる」 ──傭車先が日野のコネクティッドトラックを使っているとは限りません。
車両を指定するのも現実的には難しい。
Hacobu・佐々木「もちろん理想は全てのトラックメーカーがAPIを公開して、好きなようにデータを取れるようになることです。
当社のようなサービス提供者や自前でシステムの開発ができる大手運送などがそれを使う。
そのAPIに対してトラックメーカーは課金すればいい。
既に欧州ではそうなっています。
FMS(Fleet Management System)という標準化されたプロトコルに従ったインターフェースを介して各社のトラックのデータを取れるようになっている」 日野・小佐野「日本でも経産省が日本版FMS標準の声掛けをしています。
しかし、まだ実現はしてはいない」 Hacobu・佐々木「日本の場合には、日野といすゞ、三菱ふそう、UDトラックスの4社が『APIエコノミー』に入っていかないと、全てのトラックがつながる欧州のような世界にたどり着かない。
しかし、それはタイミングがいつになるかというだけの問題です。
明らかに世界はデジタル化に向けてまっしぐらに進んでいるのに、落ちてくるナイフをつかもうとすれば痛い目にあう。
トラックメーカーは変わらざるを得ない」 日野・小佐野「何がユーザーの役に立つのかを考えていけば、答えは必然的にコネクティッドトラックに行き着く。
日野自動車は一足飛びにその世界に向かいます。
他のメーカーも遅かれ早かれコネクティッド化に進んでいく。
そうしないと生き残れない。
おそらくクリティカルマスは25年ごろに訪れます。
コストが下がり、サービスも充実して一気に変わる」 Hacobu・佐々木「その時には本来ならプロトコルが統一されていてほしいところですが、仮にばらばらであったとしてもメーカーは4社だけですから、4種類であればサービスプロバイダー側で対応できる。
便利なサービスを提供できます」 シェアリングより本質的なこと ──トラックのデータを全て取得できれば、非稼働のリソースを共有するシェアリングが実現する。
それがインパクトとしては一番大きいのでしょうか。
Hacobu・佐々木「それは少し先の話になります。
もっと手前の部分でハッピーになれることがたくさんある」 日野・小佐野「僕も非稼働リソースの活用というのは本質的ではないと考えています。
それよりも目の前で今、非効率なことがたくさん起きている。
例えばトラックの長時間待機です。
大規模な物流センターの周辺の側道には着車待ちのトラックが列を成して待機している。
その手前のサービスエリアの駐車場でも多くのドライバーが時間調整をしている」  「ようやく自分の順番が回ってきても、ドライバーは荷降ろしをして全量検品までしなくてはならない。
出荷時に検品しているのに、ドライバーに同じ事をやらせている。
挙げ句の果てには、庫内作業員が棚に格納する時も検品したりしている。
現場ではそれが当たり前になってしまっているけれど何の付加価値も生んでいません。
拘束時間ばかりいたずらに長くなって、人手が足りないということになってしまっている。
こうした問題はデータがあれば全て解消できます」 Hacobu・佐々木「データというファクトをベースにしてみんなで解決策を考えることが、さまざまな非効率をなくしていきます。
サプライチェーンは1社単体ではなく複数のステークホルダーが絡み合っています。
しかし、これまでは定性情報だけだったので、『大変そうだね』『すごい工数かかっています』『じゃあ頑張れ』『それでは値上げさせてください』という話にしかならなかった。
しかし、お互いにデータを見ることで『これは確かにウチに問題があるかもしれない。
発注の問題だな。
では発注を見直そう』といった建設的な議論ができるようになっていく。
それがわれわれの考えるデータ・ドリブン・ロジスティクスです」 ──現在はさまざまなプレーヤーが物流情報プラットフォームの構築を目指しています。
その競争におけるHacobuの優位性やポジションをどう考えていますか。
Hacobu・佐々木「実は当社と同じ場所を目指しているプレーヤーはいないと考えています。
もちろんバース管理や車両管理ソリューションにはそれぞれ競合がいますが、掲げている目的が違う。
ツールのプラットフォーム、あるいは一つの基盤の上にいくつもツールを用意しようというプレーヤーはいても、異なるステークホルダー間のデータを基に物流の最適解を導き出すことを目的とした企業はわれわれのほかには見当たりません。
登ろうとしている山が違う」 ──その頂上には近付いてきましたか。
Hacobu・佐々木「実は昨年の1年間でだいぶ違う景色が見えるようになってきました。
データを活用して物流の最適解を導き出すということが実際にかなりできるようになってきた。
その結果として共同配送が成立したり、孫請け・ひ孫請けの協力運送会社との関係性を見直すといったことが起きています。
それができるだけのデータが取れるようになってきた。
今はまだデータをマニュアルで解析しながらやっていますが、いずれはそれも自動化できる。
ユーザーのパソコン画面上にクリック一つで『これだけの最適化の方法があります』といったことを表示できるようになる」 ──そうした世界がやってくるとトラックメーカーのビジネスはどう変化しますか。
日野・小佐野「よく言われているように、モノ売りからコト売りに変わります」 ──デジタル化で日野は必ずしも他のトラックメーカーに先行してきたわけではありません。
モノ売りで最も成功したメーカーですから、DXを推進するのは最も難しいのでは。
日野・小佐野「当社の成功体験の一つは『日野の車は壊れないね』というユーザーからの評価です。
ライフサイクルコストに圧倒的に競争力がある。
それをこれからは『日野の車は便利だね』と言われるようにしていきます。
便利だからユーザーが喜んでくれる。
だから選ばれる。
そうした新しい成功体験を積み上げていきます。
そのためのコネクティッドトラックです」  「コネクティッドトラックを活用したソリューションを充実させていくことが重要です。
それは当社が単独でできることではありません。
Hacobuのような企業と組みその後押しをすることでまずはマスを広げる。
それによってデータの取り出し品質が上がっていく。
そこからまたコネクティッドトラックを使った新しいサービスが生まれてくる。
エンドユーザーはサービスの選択肢が広がって、ますます便利になっていきます。
それを実現するために当社は『リープフロッグ型(既存インフラが整備されていない新興国において、新しいサービスなどが先進国を飛び越えて一気に広まる現象)』でDXを進めていきます」

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