2021年4月号
特集
特集
小売業のDX その現状と企業変革の進め方
いま小売業で起きている変化
経産省の「商業動態統計」によると2020年の小売業全体の販売額は前年比3・2%減の146兆4570億円(19年は前年比100・1%)であった。
また19年度の物販全体のEC化率は6・76%だったが、20年度は消費者のネット利用増でさらに伸びているだろう。
ただし、コロナ禍の影響は業種・業態によって異なる。
以下に代表的な業態の現状と取り組みについて見ていこう。
①食品スーパー──いまだ変革には至らず 飲食業の売上高が前年比84・9%(日本フードサービス協会)と苦戦する中、“食”は自宅での食事へとシフトしている。
20年の食品スーパーの販売額は14兆8106億円、前年比103・4%(19年は前年比99・5%)と好調であった。
店舗への来店だけではなく、食品宅配のネットスーパーの需要も軒並み跳ね上がっている。
筆者が聞いている限りではほぼ2倍~3倍の受注となっているようだ。
同じく生協も20年4月~11月までの累計が店舗部門で107・9%、宅配部門で117・6%と大きく伸びている。
19年度の食品EC化率は2・89%だったが、20年度は大きく伸びているだろう。
コロナ禍に対応して食品スーパー業界では、店内滞在時間を減らすために、ネットで頼んだ食品を駐車場で受け取れるサービスを始めたり、現金の授受を減らすために電子マネー決済を増やしたり、部分的なデジタル化は進んだ。
しかし、DXと呼べるほどの変革はまだ見られない。
②ホームセンター──カインズが先行 ホームセンターは店内の広さや品揃えの豊富さ、いわゆる“おうち時間”の増加に伴うDIY需要などから、消費者にあらためて注目されることになった。
20年の販売額は3兆4959億円、前年比106・8%(19年は前年比99・7%)と好調であった。
ホームセンターの上位企業は多くがコロナ禍前から消費者向けアプリとネット通販の仕組みを整えていた。
中でもカインズは「クリック&コレクト(ネット通販で注文し、店舗で受け取る)」を導入し、店頭での受け取りやロッカーでの受け取りを推進、消費者のニーズに応えるとともに、アプリやネット通販の利用者に対しては、その購買データから最適なお薦め情報を提供したり、さまざまな分析も始めている。
会社全体でその取り組みを進めており、DXを着々と進めているといえるだろう。
同業他社もその取り組みを見ながら取り入れて、同様の進化を遂げようとしている。
③家電大型専門店──DXが先に進む 家電業界はリモートワーク環境や、自宅環境を快適にするための需要が増えた。
家電大型専門店の20年販売額は4兆7929億円、前年比105・1%(19年は前年比103・5%)と大きく伸びた。
19年度のEC化率は32・75%と平均の5倍近くあるが、20年度はさらに伸びるだろう。
上位企業の多くはこれまでの対Amazon戦略の中でネット通販を強化しており、クリック&コレクトも導入し、店舗型ビジネスからネット通販も融合したビジネスモデルへの変革は進んでいた。
特にヨドバシカメラは80年代後半から店舗と倉庫在庫の一元管理を進め、いち早くネット通販とクリック&コレクトを実現、自社配送網による差別化も実現している。
またポイントカードを導入しアプリ化、自社クレジットカードとも連動させて、ネット通販と店舗の顧客をつなげて把握し分析できる環境も整えている。
まさにDXが進んでいる企業といえよう。
④ドラッグストア──薬機法が制約に マスクや消毒液の需要からも販売額は伸び、7兆2851億円、前年比106・6%(19年は前年比105・6%)と好調だった。
都心型でインバウンド需要が多かった店舗は苦戦したが、郊外型の店舗が伸び、業界全体としては成長した。
業界内はM&Aが続いており、19年度数字で5位のマツモトキヨシHDと7位のココカラファインの統合は最近では一番の話題となった。
一方でDXにおいては業界固有の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などによって、例えば処方箋の紙を保存/活用しなければならないなどの制約があり、ネット通販があまり進化していない。
19年度の化粧品・医薬品EC化率は6%と平均並みである。
ポイントカードのアプリ化による、自社グループのドラックストア各屋号を統合したマーケティングのデジタル化は進んでいる。
⑤百貨店──取り組みの遅れ目立つ もともと厳しい業界ではあったが、コロナ禍で最も影響を受け、販売額は4兆6935億円、前年比75・7%(19年は前年比97・7%)と大きく下がった。
そのネット通販は百貨店の全商品が購入できるわけではなく、中元歳暮などの贈答品や、一部商材に限られていたため、売り上げは小さかった。
コロナ禍でも変わっていなかったため、他業種のように店舗売上の減少分をネット通販で補うことができなかった。
ようやく品揃えを拡充し、店舗での受取サービスなども強化し始めたが、欧米の百貨店に比べてその遅れは大きく、オンライン接客なども始めたものの、いずれも業務改革まではつながっておらず、DXには一番遠い業種となってしまっている。
⑥衣料品──DXが業績に明暗 統計区分で「織物・衣服・身の回り品小売業」を見てみると、販売額は8兆6380億円、前年比83・2%(19年は前年比99・5%)と百貨店同様、非常に厳しい。
19年度のEC化率は13・87%と平均の2倍ほどであるが、後に述べる通り20年度は百貨店と違い、大きく成長するだろう。
外出機会が減って需要が減ったことと、ショッピングセンター・百貨店の休業や営業時間短縮が続いたことが店舗販売額の減少には大きく影響した。
一方でネット通販においては大きく成長している。
多くのアパレル企業の既存ネット通販事業は2~3倍の成長だと聞いている。
しかしながらもともとのEC化率がどれだけあったかによって、店舗の減少分を補えたかどうか、違いが出てきている。
例えばセレクトショップのBEAMSはおそらく25~30%近いEC化率だったと推測されるが、3倍近くになることで、全社売上の75~85%近くまで成長し、店舗売上減少分を相当補ったと思われる。
このようにこの業界は特に、コロナ前までのDX投資と実績次第で、各社の業績は大きく影響を受けているだろう。
DXの観点ではオンライン接客やネット通販への取り組みにも積極的で、21年度はどこまで投資余力があるのかによって、その成果の大きさも変わってくると思われる。
変わらざるを得ない中でのDXは、厳しい言い方だが一番企業を変革させることができる。
⑦コンビニエンスストア──試行錯誤続く 意外と影響を受けているのがこの業種だ。
店前通行客が減り、都心部の店舗だけでなく、郊外店も品揃えの豊富なスーパーやホームセンター、ドラッグストアに顧客が流れてしまい、20年の販売額全体は11兆291億円、前年比95・6%、その内訳で前年まで104・4%と伸びていたチケットなどのサービス売上高は90・1%と大きく下がっている。
大手3社ともポイントカードとしてのアプリを導入し、その後に電子マネーなどを実装していったが、セブンイレブンは「セブンペイ」の失敗で後退、ネット通販は自社でというより他のネット通販の商品受取や支払場所としての機能も大きかったが、不在時の置き配が普及したことと、コンビニ自体が受取ロッカーなどの強化を進めなかったことも相まってさらなる客離れが起きたと思われる。
DXという点では遅れている業種であり、その成功体験から店舗販売を中心にし過ぎたビジネスモデルをどう転換していくのか、可能性はあるものの、各社とも商社主導の変革において、顧客起点のDXがどこまで描けるのか、オーナーのES(従業員満足)をどこまで高められるのかが注目である。
筆者が注目する先端事例 小売業界を業種別に俯瞰したが、企業単位ではいくつもの成功事例がある。
筆者が注目する代表的な国内企業と、海外事例をいくつか列挙する。
①メガネスーパー──連続赤字からV字回復 業界5位、売上高274億円(20年4月期決算)の同社は、一時は8期連続の赤字に陥るなどビジネスモデルに課題を抱えていた。
13年に再建ファンドから派遣された星崎尚彦社長とEC担当の川添隆氏が、いくつもの改革を実行。
V字回復を成し遂げた。
物売りではなく“アイケアカンパニー宣言”を掲げ、DX視点では、顧客が来店日時を予約できる仕組みや、店舗でコンタクトレンズを購入した顧客が2回目以降は宅配で受け取れる仕組み(売上は2回目以降も店舗に)を導入するなど、顧客の利便性向上と従業員の作業負荷軽減を実現した。
16年に9期ぶりの黒字化を達成、以降も黒字が続いた。
足元ではコロナ禍で苦戦しているものの、訪問販売やコミュニケーションアプリ「LINE」などさまざまな顧客接点の強化に努め、店舗基盤とデジタル基盤を活用した戦略を進めている。
②BEAMS──企業変革まで起こす アパレルセレクトショップの同社は、カジュアル衣料業界では3~5位の大手で2019年2月期の売上高は822億円(決算)。
業界でいち早くDX化に着手した。
店舗販売員がスタイリング提案コンテンツ(画像、ブログ)を自ら撮影・作成し、WEBにアップ、そこから顧客が購入するというネット通販の進化モデルを構築した。
その後も動画コンテンツやオンライン接客などの新しい取り組みとともに社内のネットと店舗の壁を取り払い、元のEC部隊を一部の統括部門を残して各レーベルに配置換えして、レーベルメンバーとともにさらなるDXを推進している。
EC自体はコミュニティデザイン部へと進化し、販売員と顧客、双方の人をつなぐコミュニティとしてのデジタル活用に邁進している。
企業変革をも起こしている同社はDXの好事例である。
③キタムラ──小型店かつ少資本でDX 筆者が11~16年まで丸6年間在籍していた古巣である。
カメラ/写真プリント販売・スタジオ・アップル製品修理サービス(正規代理店)を主な事業としている。
18年に東証2部上場を取りやめた。
売上高は現在、約1千億円規模で推移している。
全国の店舗網を活用して専門店ならではの店舗とネット通販を融合したオムニチャネル化を進めた。
ネット注文→店受取とネット通販宅配売上の合算は400億円を超え、EC化率は40%を超える。
店舗在庫の見える化、買取/販売価格のWEB公開による透明性、アプリなど顧客利便性を追求しつつ、タブレット業務による伝票レスや作業減など、EX(従業員体験)の強化によるCX(顧客満足)の強化を実現。
全社挙げてのオムニチャネル戦略は小型店舗かつ少資本でのDX好事例といえよう。
④FABRICTOKYO──D2Cの先行事例 同社はオーダースーツ市場における「D2C(Direct To Consumer:メーカー直接販売)」の代表事例といえる。
従来のいわゆる“中抜き”による安売りではなく、独自の世界観と顧客の利便性を追求し、ブランドに共感する消費者とつながるのが現在のD2Cモデルである。
同社はショールームで採寸しながら顧客の利用シーンをカルテに起こし、生地の提案を行う。
従来のモデルと違い、無理にクロージングせずに採寸後はネット端末でのログインによる採寸サイズ確認と、生地オーダーの操作を顧客に体験してもらい、自宅からの注文を促す。
売り上げではなく顧客リピートを重要指標としている。
RaaS(Retail as a Service:小売業のサービス事業化)を掲げ、月額398円でさまざまな補償やサービスが受けられる仕組みも提供、新しいビジネスモデルと企業収益、企業体制への変革を続けている。
⑤海外事例──業界大手のデジタル改革 売上高が60兆円近い世界一の小売業、米ウォルマートは早くからDXを推進してきた。
既存事業のデジタル化だけではなく、EC界の寵児として知られていたマーク・ロリー氏をそのECサイト「JET.com」ごと買収し、EC事業の責任者に据えてデジタル化を加速させた。
コロナ禍に入りウォルマートのネット通販の売り上げが前年比7割増のペースで拡大し、それに牽引されて既存店の売り上げも伸びている。
同社がこれまで何年も時間をかけて進化させてきたアプリやカーブサイドピックアップ(駐車場でネット注文品を車に積み込む)などのサービスがついに花開いた。
英百貨店チェーンのジョン・ルイス(JohnLewis)は売上高6千億円規模の百貨店事業と1兆2千億円の高級スーパー「Waitrose」事業を傘下にしている。
百貨店のネット通販サイトでは店舗で扱っているあらゆる商品を購入できるだけでなく、ソファであれば生地の張替えまでオーダーできる。
EC化率は3割にも達している。
このように既存の店舗小売業大手も、「企業戦略+業務+IT」の組み合わせでDXを成し遂げている。
日本の百貨店もまだまだDXによる成長の可能性はあるのではないだろうか。
ただし、そのためには「消化仕入れ(店頭に陳列している商品の所有権をメーカーや卸のままにしておき、商品が実際に販売されると同時に仕入れを立て、所有権を百貨店側に移す取引制度)」などの旧態依然としたルールを早く変えて、同じスタートラインに並ぶことが必要だろう。
そもそもDXとはなにか? DXを理解するために、まずは19年の経済産業省の定義を引用する。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること (「DX 推進指標」における「DX」の定義) DXの本質を示した、非常にわかりやすく簡潔な定義として、筆者はコンサルティング先や講演などで活用している。
業務をデジタル化するだけではなく、デジタルを活用してビジネスモデルを変革していくことが求められているのである。
それは経営陣による改革方針の決断や、新しいシステムの導入だけでは実現できない。
経営・業務・ITが一体となった改革が必要である。
DXを進めるためには企業の大小にかかわらず以下の点が重要である。
①社外/社内のDX 小売りの場合は、とかくアプリやネット通販の仕組みを導入することがDXと思われがちだが、それはチャネルの拡大でありDXではない。
そうした社外のデジタル化とともに、社内のデジタル化が必須である(図1)。
アプリやネット通販を通じて顧客に見せる商品データベースや在庫数管理、顧客がチャネルごとに登録している顧客情報を連携させるID管理ができていなければ、欠品や納期が守れないなど顧客の期待を裏切り、店舗の来店をも減らすことになってしまう。
②LTVと関与売上 DXにおいては社内部門ごとの売り上げではなく、顧客起点の「LTV」(LifeTimeValue:顧客生涯価値、顧客がその生涯において、ある企業のサービスを使い続けること)と、部門が相互支援して顧客満足を高める「関与売上」による評価・指標設計が重要である(図2)。
LTVは既存の商品部門別・販売部門別の売り上げを立てた後に、顧客単位で再区分する。
まずは新規と既存。
さらに既存顧客を、①毎年継続②新規→継続③休眠復活などに分類して、平均客単価と比較して、ロイヤルティランクで区分する。
その区分ごとに購買商品を分析し、デジタルやアナログでお薦めを行うことで継続的な売り上げと利益に結び付ける。
関与売上は例えば図3のように、「ネット注文→店舗受取」の売り上げと利益は全て店舗に付け、送客したEC部隊には、同じ金額をダブルカウントで評価として付ける。
その数字を財務会計でも管理会計でもなく、純粋に評価としてのみ活用する。
コールセンターが販売チャネルの売り上げに貢献した際にも同様のコールセンター関与売上が適用できる。
従来のように売り上げ=評価となっていると、売り上げをどこに付けるのか、社内で奪い合いが発生する。
しかし、双方にカウントされるのであれば、企業全体として部署/販売チャネルに関係なく顧客と向き合うことができる。
それが企業全体の売り上げと利益を最大化するのだ。
③社内教育 筆者はDX人材を社外に求める相談をよく受けるが、そのたびに次のような質問をしている。
「外部の専門家を社内で教育して、自社商品/サービス、組織と慣習、さまざまなルールを覚えてもらうのと、内部の人にデジタルの専門家に学んでもらうのとどちらが早いと思いますか?」 外部の知見は重要だが、社内の人材を外部の専門家に育ててもらうのが一番早い。
そのお金がないなら、筆者が理事を務める日本オムニチャネル協会でもどこでも、外部の団体や勉強会に通わせて、同じ立場の各社のデジタルを学ぶプロパー社員たちと接点を持たせて、成長を支援することだ。
自社人材の可能性をもう一度見つめ直し、人事制度を戦略の観点から見直すことをお勧めする。
DXは事業の手段である DX、オムニチャネル、はたまたOMO(Online Merges with Offline)など、新たなキーワードは次々に登場する。
それらは目的ではない。
事業収益と顧客満足のための手段に過ぎない。
デジタル化を進めて販売作業を大幅に軽減して、店舗からコールセンターサポートに配置換えを進めることで事業を成長させて顧客満足度を向上することも、立派なDXである。
どこから始めるのか悩んでいるのであれば、経営から現場まで、階層別、縦割りではなく、さまざまな役職や部署のメンバーが集まって、自社のDXを自由に議論してみてはいかがだろうか。
図4に示すように、EX/CXを横軸に、楽しさ/効率化を縦軸に4象限に分けて、自社の顧客、業務をイメージしながら“あるべき姿”の議論を交わす。
まずは自由にアイデアを発散させて、それらを4象限に区分する。
そこから課題とあるべき姿をセットにしてリストアップ、収益/顧客の視点で優先順位をつけて実行計画を策定する。
その際に、現業の業務フローも併せて整理して、DXの推進を企業全体の業務プロセスの一部として組み入れることをお薦めする。
前工程/後工程含めた課題と改善プランを整理することにもなるため、現場からも歓迎される内容となるだろう。
それが結果として顧客満足を生み出す現場に必要なゆとりをもたらす。
小売業はこれまで経済成長と人口増を背景に、労働集約型のオペレーションと仕入原価の低減を追求してきた。
しかし、その前提は崩れ、新しい現実に直面している。
これまでとは違うビジネスモデル、企業の在り方を見つけるタイミングにある。
DXをきっかけに、まずは社内で議論を起こすことをお薦めして、この文を終えたい。
また19年度の物販全体のEC化率は6・76%だったが、20年度は消費者のネット利用増でさらに伸びているだろう。
ただし、コロナ禍の影響は業種・業態によって異なる。
以下に代表的な業態の現状と取り組みについて見ていこう。
①食品スーパー──いまだ変革には至らず 飲食業の売上高が前年比84・9%(日本フードサービス協会)と苦戦する中、“食”は自宅での食事へとシフトしている。
20年の食品スーパーの販売額は14兆8106億円、前年比103・4%(19年は前年比99・5%)と好調であった。
店舗への来店だけではなく、食品宅配のネットスーパーの需要も軒並み跳ね上がっている。
筆者が聞いている限りではほぼ2倍~3倍の受注となっているようだ。
同じく生協も20年4月~11月までの累計が店舗部門で107・9%、宅配部門で117・6%と大きく伸びている。
19年度の食品EC化率は2・89%だったが、20年度は大きく伸びているだろう。
コロナ禍に対応して食品スーパー業界では、店内滞在時間を減らすために、ネットで頼んだ食品を駐車場で受け取れるサービスを始めたり、現金の授受を減らすために電子マネー決済を増やしたり、部分的なデジタル化は進んだ。
しかし、DXと呼べるほどの変革はまだ見られない。
②ホームセンター──カインズが先行 ホームセンターは店内の広さや品揃えの豊富さ、いわゆる“おうち時間”の増加に伴うDIY需要などから、消費者にあらためて注目されることになった。
20年の販売額は3兆4959億円、前年比106・8%(19年は前年比99・7%)と好調であった。
ホームセンターの上位企業は多くがコロナ禍前から消費者向けアプリとネット通販の仕組みを整えていた。
中でもカインズは「クリック&コレクト(ネット通販で注文し、店舗で受け取る)」を導入し、店頭での受け取りやロッカーでの受け取りを推進、消費者のニーズに応えるとともに、アプリやネット通販の利用者に対しては、その購買データから最適なお薦め情報を提供したり、さまざまな分析も始めている。
会社全体でその取り組みを進めており、DXを着々と進めているといえるだろう。
同業他社もその取り組みを見ながら取り入れて、同様の進化を遂げようとしている。
③家電大型専門店──DXが先に進む 家電業界はリモートワーク環境や、自宅環境を快適にするための需要が増えた。
家電大型専門店の20年販売額は4兆7929億円、前年比105・1%(19年は前年比103・5%)と大きく伸びた。
19年度のEC化率は32・75%と平均の5倍近くあるが、20年度はさらに伸びるだろう。
上位企業の多くはこれまでの対Amazon戦略の中でネット通販を強化しており、クリック&コレクトも導入し、店舗型ビジネスからネット通販も融合したビジネスモデルへの変革は進んでいた。
特にヨドバシカメラは80年代後半から店舗と倉庫在庫の一元管理を進め、いち早くネット通販とクリック&コレクトを実現、自社配送網による差別化も実現している。
またポイントカードを導入しアプリ化、自社クレジットカードとも連動させて、ネット通販と店舗の顧客をつなげて把握し分析できる環境も整えている。
まさにDXが進んでいる企業といえよう。
④ドラッグストア──薬機法が制約に マスクや消毒液の需要からも販売額は伸び、7兆2851億円、前年比106・6%(19年は前年比105・6%)と好調だった。
都心型でインバウンド需要が多かった店舗は苦戦したが、郊外型の店舗が伸び、業界全体としては成長した。
業界内はM&Aが続いており、19年度数字で5位のマツモトキヨシHDと7位のココカラファインの統合は最近では一番の話題となった。
一方でDXにおいては業界固有の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などによって、例えば処方箋の紙を保存/活用しなければならないなどの制約があり、ネット通販があまり進化していない。
19年度の化粧品・医薬品EC化率は6%と平均並みである。
ポイントカードのアプリ化による、自社グループのドラックストア各屋号を統合したマーケティングのデジタル化は進んでいる。
⑤百貨店──取り組みの遅れ目立つ もともと厳しい業界ではあったが、コロナ禍で最も影響を受け、販売額は4兆6935億円、前年比75・7%(19年は前年比97・7%)と大きく下がった。
そのネット通販は百貨店の全商品が購入できるわけではなく、中元歳暮などの贈答品や、一部商材に限られていたため、売り上げは小さかった。
コロナ禍でも変わっていなかったため、他業種のように店舗売上の減少分をネット通販で補うことができなかった。
ようやく品揃えを拡充し、店舗での受取サービスなども強化し始めたが、欧米の百貨店に比べてその遅れは大きく、オンライン接客なども始めたものの、いずれも業務改革まではつながっておらず、DXには一番遠い業種となってしまっている。
⑥衣料品──DXが業績に明暗 統計区分で「織物・衣服・身の回り品小売業」を見てみると、販売額は8兆6380億円、前年比83・2%(19年は前年比99・5%)と百貨店同様、非常に厳しい。
19年度のEC化率は13・87%と平均の2倍ほどであるが、後に述べる通り20年度は百貨店と違い、大きく成長するだろう。
外出機会が減って需要が減ったことと、ショッピングセンター・百貨店の休業や営業時間短縮が続いたことが店舗販売額の減少には大きく影響した。
一方でネット通販においては大きく成長している。
多くのアパレル企業の既存ネット通販事業は2~3倍の成長だと聞いている。
しかしながらもともとのEC化率がどれだけあったかによって、店舗の減少分を補えたかどうか、違いが出てきている。
例えばセレクトショップのBEAMSはおそらく25~30%近いEC化率だったと推測されるが、3倍近くになることで、全社売上の75~85%近くまで成長し、店舗売上減少分を相当補ったと思われる。
このようにこの業界は特に、コロナ前までのDX投資と実績次第で、各社の業績は大きく影響を受けているだろう。
DXの観点ではオンライン接客やネット通販への取り組みにも積極的で、21年度はどこまで投資余力があるのかによって、その成果の大きさも変わってくると思われる。
変わらざるを得ない中でのDXは、厳しい言い方だが一番企業を変革させることができる。
⑦コンビニエンスストア──試行錯誤続く 意外と影響を受けているのがこの業種だ。
店前通行客が減り、都心部の店舗だけでなく、郊外店も品揃えの豊富なスーパーやホームセンター、ドラッグストアに顧客が流れてしまい、20年の販売額全体は11兆291億円、前年比95・6%、その内訳で前年まで104・4%と伸びていたチケットなどのサービス売上高は90・1%と大きく下がっている。
大手3社ともポイントカードとしてのアプリを導入し、その後に電子マネーなどを実装していったが、セブンイレブンは「セブンペイ」の失敗で後退、ネット通販は自社でというより他のネット通販の商品受取や支払場所としての機能も大きかったが、不在時の置き配が普及したことと、コンビニ自体が受取ロッカーなどの強化を進めなかったことも相まってさらなる客離れが起きたと思われる。
DXという点では遅れている業種であり、その成功体験から店舗販売を中心にし過ぎたビジネスモデルをどう転換していくのか、可能性はあるものの、各社とも商社主導の変革において、顧客起点のDXがどこまで描けるのか、オーナーのES(従業員満足)をどこまで高められるのかが注目である。
筆者が注目する先端事例 小売業界を業種別に俯瞰したが、企業単位ではいくつもの成功事例がある。
筆者が注目する代表的な国内企業と、海外事例をいくつか列挙する。
①メガネスーパー──連続赤字からV字回復 業界5位、売上高274億円(20年4月期決算)の同社は、一時は8期連続の赤字に陥るなどビジネスモデルに課題を抱えていた。
13年に再建ファンドから派遣された星崎尚彦社長とEC担当の川添隆氏が、いくつもの改革を実行。
V字回復を成し遂げた。
物売りではなく“アイケアカンパニー宣言”を掲げ、DX視点では、顧客が来店日時を予約できる仕組みや、店舗でコンタクトレンズを購入した顧客が2回目以降は宅配で受け取れる仕組み(売上は2回目以降も店舗に)を導入するなど、顧客の利便性向上と従業員の作業負荷軽減を実現した。
16年に9期ぶりの黒字化を達成、以降も黒字が続いた。
足元ではコロナ禍で苦戦しているものの、訪問販売やコミュニケーションアプリ「LINE」などさまざまな顧客接点の強化に努め、店舗基盤とデジタル基盤を活用した戦略を進めている。
②BEAMS──企業変革まで起こす アパレルセレクトショップの同社は、カジュアル衣料業界では3~5位の大手で2019年2月期の売上高は822億円(決算)。
業界でいち早くDX化に着手した。
店舗販売員がスタイリング提案コンテンツ(画像、ブログ)を自ら撮影・作成し、WEBにアップ、そこから顧客が購入するというネット通販の進化モデルを構築した。
その後も動画コンテンツやオンライン接客などの新しい取り組みとともに社内のネットと店舗の壁を取り払い、元のEC部隊を一部の統括部門を残して各レーベルに配置換えして、レーベルメンバーとともにさらなるDXを推進している。
EC自体はコミュニティデザイン部へと進化し、販売員と顧客、双方の人をつなぐコミュニティとしてのデジタル活用に邁進している。
企業変革をも起こしている同社はDXの好事例である。
③キタムラ──小型店かつ少資本でDX 筆者が11~16年まで丸6年間在籍していた古巣である。
カメラ/写真プリント販売・スタジオ・アップル製品修理サービス(正規代理店)を主な事業としている。
18年に東証2部上場を取りやめた。
売上高は現在、約1千億円規模で推移している。
全国の店舗網を活用して専門店ならではの店舗とネット通販を融合したオムニチャネル化を進めた。
ネット注文→店受取とネット通販宅配売上の合算は400億円を超え、EC化率は40%を超える。
店舗在庫の見える化、買取/販売価格のWEB公開による透明性、アプリなど顧客利便性を追求しつつ、タブレット業務による伝票レスや作業減など、EX(従業員体験)の強化によるCX(顧客満足)の強化を実現。
全社挙げてのオムニチャネル戦略は小型店舗かつ少資本でのDX好事例といえよう。
④FABRICTOKYO──D2Cの先行事例 同社はオーダースーツ市場における「D2C(Direct To Consumer:メーカー直接販売)」の代表事例といえる。
従来のいわゆる“中抜き”による安売りではなく、独自の世界観と顧客の利便性を追求し、ブランドに共感する消費者とつながるのが現在のD2Cモデルである。
同社はショールームで採寸しながら顧客の利用シーンをカルテに起こし、生地の提案を行う。
従来のモデルと違い、無理にクロージングせずに採寸後はネット端末でのログインによる採寸サイズ確認と、生地オーダーの操作を顧客に体験してもらい、自宅からの注文を促す。
売り上げではなく顧客リピートを重要指標としている。
RaaS(Retail as a Service:小売業のサービス事業化)を掲げ、月額398円でさまざまな補償やサービスが受けられる仕組みも提供、新しいビジネスモデルと企業収益、企業体制への変革を続けている。
⑤海外事例──業界大手のデジタル改革 売上高が60兆円近い世界一の小売業、米ウォルマートは早くからDXを推進してきた。
既存事業のデジタル化だけではなく、EC界の寵児として知られていたマーク・ロリー氏をそのECサイト「JET.com」ごと買収し、EC事業の責任者に据えてデジタル化を加速させた。
コロナ禍に入りウォルマートのネット通販の売り上げが前年比7割増のペースで拡大し、それに牽引されて既存店の売り上げも伸びている。
同社がこれまで何年も時間をかけて進化させてきたアプリやカーブサイドピックアップ(駐車場でネット注文品を車に積み込む)などのサービスがついに花開いた。
英百貨店チェーンのジョン・ルイス(JohnLewis)は売上高6千億円規模の百貨店事業と1兆2千億円の高級スーパー「Waitrose」事業を傘下にしている。
百貨店のネット通販サイトでは店舗で扱っているあらゆる商品を購入できるだけでなく、ソファであれば生地の張替えまでオーダーできる。
EC化率は3割にも達している。
このように既存の店舗小売業大手も、「企業戦略+業務+IT」の組み合わせでDXを成し遂げている。
日本の百貨店もまだまだDXによる成長の可能性はあるのではないだろうか。
ただし、そのためには「消化仕入れ(店頭に陳列している商品の所有権をメーカーや卸のままにしておき、商品が実際に販売されると同時に仕入れを立て、所有権を百貨店側に移す取引制度)」などの旧態依然としたルールを早く変えて、同じスタートラインに並ぶことが必要だろう。
そもそもDXとはなにか? DXを理解するために、まずは19年の経済産業省の定義を引用する。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること (「DX 推進指標」における「DX」の定義) DXの本質を示した、非常にわかりやすく簡潔な定義として、筆者はコンサルティング先や講演などで活用している。
業務をデジタル化するだけではなく、デジタルを活用してビジネスモデルを変革していくことが求められているのである。
それは経営陣による改革方針の決断や、新しいシステムの導入だけでは実現できない。
経営・業務・ITが一体となった改革が必要である。
DXを進めるためには企業の大小にかかわらず以下の点が重要である。
①社外/社内のDX 小売りの場合は、とかくアプリやネット通販の仕組みを導入することがDXと思われがちだが、それはチャネルの拡大でありDXではない。
そうした社外のデジタル化とともに、社内のデジタル化が必須である(図1)。
アプリやネット通販を通じて顧客に見せる商品データベースや在庫数管理、顧客がチャネルごとに登録している顧客情報を連携させるID管理ができていなければ、欠品や納期が守れないなど顧客の期待を裏切り、店舗の来店をも減らすことになってしまう。
②LTVと関与売上 DXにおいては社内部門ごとの売り上げではなく、顧客起点の「LTV」(LifeTimeValue:顧客生涯価値、顧客がその生涯において、ある企業のサービスを使い続けること)と、部門が相互支援して顧客満足を高める「関与売上」による評価・指標設計が重要である(図2)。
LTVは既存の商品部門別・販売部門別の売り上げを立てた後に、顧客単位で再区分する。
まずは新規と既存。
さらに既存顧客を、①毎年継続②新規→継続③休眠復活などに分類して、平均客単価と比較して、ロイヤルティランクで区分する。
その区分ごとに購買商品を分析し、デジタルやアナログでお薦めを行うことで継続的な売り上げと利益に結び付ける。
関与売上は例えば図3のように、「ネット注文→店舗受取」の売り上げと利益は全て店舗に付け、送客したEC部隊には、同じ金額をダブルカウントで評価として付ける。
その数字を財務会計でも管理会計でもなく、純粋に評価としてのみ活用する。
コールセンターが販売チャネルの売り上げに貢献した際にも同様のコールセンター関与売上が適用できる。
従来のように売り上げ=評価となっていると、売り上げをどこに付けるのか、社内で奪い合いが発生する。
しかし、双方にカウントされるのであれば、企業全体として部署/販売チャネルに関係なく顧客と向き合うことができる。
それが企業全体の売り上げと利益を最大化するのだ。
③社内教育 筆者はDX人材を社外に求める相談をよく受けるが、そのたびに次のような質問をしている。
「外部の専門家を社内で教育して、自社商品/サービス、組織と慣習、さまざまなルールを覚えてもらうのと、内部の人にデジタルの専門家に学んでもらうのとどちらが早いと思いますか?」 外部の知見は重要だが、社内の人材を外部の専門家に育ててもらうのが一番早い。
そのお金がないなら、筆者が理事を務める日本オムニチャネル協会でもどこでも、外部の団体や勉強会に通わせて、同じ立場の各社のデジタルを学ぶプロパー社員たちと接点を持たせて、成長を支援することだ。
自社人材の可能性をもう一度見つめ直し、人事制度を戦略の観点から見直すことをお勧めする。
DXは事業の手段である DX、オムニチャネル、はたまたOMO(Online Merges with Offline)など、新たなキーワードは次々に登場する。
それらは目的ではない。
事業収益と顧客満足のための手段に過ぎない。
デジタル化を進めて販売作業を大幅に軽減して、店舗からコールセンターサポートに配置換えを進めることで事業を成長させて顧客満足度を向上することも、立派なDXである。
どこから始めるのか悩んでいるのであれば、経営から現場まで、階層別、縦割りではなく、さまざまな役職や部署のメンバーが集まって、自社のDXを自由に議論してみてはいかがだろうか。
図4に示すように、EX/CXを横軸に、楽しさ/効率化を縦軸に4象限に分けて、自社の顧客、業務をイメージしながら“あるべき姿”の議論を交わす。
まずは自由にアイデアを発散させて、それらを4象限に区分する。
そこから課題とあるべき姿をセットにしてリストアップ、収益/顧客の視点で優先順位をつけて実行計画を策定する。
その際に、現業の業務フローも併せて整理して、DXの推進を企業全体の業務プロセスの一部として組み入れることをお薦めする。
前工程/後工程含めた課題と改善プランを整理することにもなるため、現場からも歓迎される内容となるだろう。
それが結果として顧客満足を生み出す現場に必要なゆとりをもたらす。
小売業はこれまで経済成長と人口増を背景に、労働集約型のオペレーションと仕入原価の低減を追求してきた。
しかし、その前提は崩れ、新しい現実に直面している。
これまでとは違うビジネスモデル、企業の在り方を見つけるタイミングにある。
DXをきっかけに、まずは社内で議論を起こすことをお薦めして、この文を終えたい。
