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2021年4月号
特集

中間流通のDX データドリブンSCMの実践

サプライチェーンのDXとは何か  スマートフォンで「Googleマップ」を使ったことのある方は本誌の読者の中にも多いであろう。
現在位置から目的地までの最適ルートをリアルタイムで指示するナビゲーションシステムを備えている。
IoTのデータを基に最適化計算を常に回し続けて結果をマップに表示する。
 今やスマホ一つあれば、そうした地図情報だけでなく、世界中の情報に即座にアクセスして何でも好きなだけ調べられる。
N対Nの情報共有もSNSアプリを使えば瞬時に実現する。
われわれはもはや当たり前のこととして受け止めているが、これらは今日のDX(デジタルトランスフォーメーション)の到達点である。
 しかし、ひとたびサプライチェーンの世界に目を転じると、DXはまだ始まってもいない。
必要な情報は実務担当者のパソコンのエクセルファイルの中にあり、外部からはアクセスも検索もできない。
情報共有はメールで添付ファイルを送信するか、下手をすれば電話やファクスで1対1で伝達している。
 データが共有されない限り、サプライチェーンを最適化することはできない。
最適化に必要なデータが存在しない以上、人が判断を下すしかない。
その結果がSCMの属人化だ。
プライベートの生活では既に十分にDXの恩恵にあずかっているにもかかわらず、サプライチェーン業界はいまだに目を覆いたくなるような非効率がはびこっている状況にある。
 しかし、最新のテクノロジーを利用することでサプライチェーンのDXは実現できる。
われわれ丸紅のデジタルSCM推進チームは、それを総合商社の新たなソリューションとして展開している。
それが本誌2021年1月号の特集で紹介した「デジタルSCMサービス」だ。
 デジタルSCMを可能にした要素技術の一つはIoTだ。
グローバル化したサプライチェーンにおいて、荷物が今どこにあるのかをリアルタイムで把握することは、これまでは事実上困難だった。
しかし、この数年のIoTの進化によって、PCでコンテナ番号を入力すれば、荷物が今どこにあるのか、どの港に何日遅れて到着するのかまで高い精度で把握できるようになった。
 一方で販売情報のデジタル化も、ECの普及によって急速に進んでいる。
膨大なデータがリアルタイムで上がってくるようになったと同時に、購買行動が変化して従来とは比較にならないほど需要変動が大きくなっている。
ニーズの多様化とサプライチェーンの複雑化も加速している。
需要予測を人の判断に任せるのはもはや限界に来ている。
データに基づいてサプライチェーンを回していく必要がある。
 サプライチェーンにはステークホルダーをまたがるトレードオフがたくさんある。
生産効率を上げようとすれば在庫量が膨らむ。
在庫を減らせば輸送効率が悪化する。
あるいは欠品が発生する。
サプライチェーンのDXとはそうした連続するトレードオフを、担当者の経験と勘だけを頼りに属人的に判断するのでなく、データを基に、もしくはデータが担当者の判断をサポートするかたちで最適化計算を常に回し続けて全体最適を維持していくことであろう。
 デジタルSCMサービスは、総合商社の有する機能(商流・物流・金融・BPO)に、デジタルテクノロジー(需要予測・最適化・可視化・効率化/自動化)を掛け合わせて、お客さまのサプライチェーン改革を「アズ・ア・サービス」として提供する。
それによってSCMの属人化を解消し、お客さまに売り上げの最大化とコストの最小化という効果をもたらすことを目指している。
トータル物流コストを3割削減  図1はデジタルSCMサービスを導入した小売業X社の事例だ。
海外から輸入した製品を国内数カ所で保管している。
いずれの倉庫も過剰在庫でスペースがひっ迫する一方、欠品も多発していた。
サプライチェーンの見直しが必要であった。
 しかし、X社とサプライヤー各社との取引条件は、X社の国内倉庫渡し、つまり「DDP:関税込み仕向地持ち込み渡し」であり、サプライチェーンの上流の実状は見えていなかった。
 課題の解決のためX社はわれわれに協力を要請した。
われわれはまずサプライチェーンの可視化に取り組んだ。
1社ずつサプライヤーを回って情報提供を依頼した。
その結果、サプライヤー側でもX社向けに過剰在庫を抱えていたり、輸送効率が低くコストが割高についていたりしていることが分かった。
つまりX社と各サプライヤー間で情報が分断されていることによって双方で非効率が発生していた。
 それまでX社では、調達担当者が販売情報をExcelで管理して需要を予測し、発注の量とタイミングを判断していた。
しかし、納品までのリードタイムが長いことから予測は外れることが多く、過剰在庫と欠品の原因になっていた。
 一方でサプライヤー側では、ロットがまとまらない状態での輸出を強いられていた。
生産地の保税倉庫からX社の国内倉庫に納品するまでのタッチポイントが多くなっていた。
あるいは積載率を確保するため最小発注ロットを引き上げることで自分でも多くの在庫を抱えなければならなくなっていた。
 そこで全体のスキームを図2のように組み替えた。
丸紅がサプライヤー各社からFCA(運送人渡し)でいったん商品を買い上げ、現地の保税倉庫に在庫を集約、混載でX社の日本国内倉庫に納品する体制を整えた。
 さらに各サプライヤーの生産情報、産地の在庫情報、輸送情報、そしてX社側の在庫情報まで全てを可視化、われわれデジタルSCM推進課が生産計画と輸送計画をコントロールすることで全体最適化を図った。
 その結果、新たに保税倉庫の運用コストと丸紅が収受する中間マージンが発生したが、X社の国内倉庫費用と横持ち費用、サプライヤーの輸送費用・保管費用が大幅に減って、サプライチェーン全体の物流コストは約3割削減された(図3)。
何より在庫量と欠品率を適正にコントロールできるようになったことが大きい。
 もうひとつ国内物流の事例を紹介しよう。
専門店チェーンを展開するY社は、関東、中部、関西の3カ所に在庫型物流拠点を置いて、「品揃えの拡大」と「PB(プライベートブランド)品の強化」を事業戦略として打ち出している。
 しかし、調達の仕組みはNB(ナショナルブランド)品の売れ筋だけを扱っていた時代のままになっていた。
各サプライヤーに対して、各物流拠点がそれぞれ共通の生産ロット、共通の生産リードタイムで補充発注していた(図4)。
 その結果、関東と比較して取り扱い規模が小さい中部と関西の拠点を中心に、過剰在庫の発生や在庫スペースのひっ迫による他商品の欠品、入荷トラックの長時間待機などの問題が起きていた。
このままではアイテム数を増やしていくわけにはいかなかった。
 そこで基幹センターとして新たに「国内マザーセンター」を設置、物流拠点網を2階層化した(図5)。
サプライヤーへの発注と納品を国内マザーセンターに集約して、前線の物流拠点にケース単位・リードタイム1日で補充する。
これによって前線拠点の在庫を最小化するとともに欠品を大幅に削減した。
 さらに丸紅のデジタルSCM推進課がY社の発注・補充・在庫計画を「丸紅計画系システム」を用いて常に最適化することで補充輸送費の最小化とサプライチェーンのトータル在庫の削減を図っている。
これによってY社は品揃えの拡大に対応できる物流体制を整えることができた。
口銭ビジネスからSCMサービスへ  デジタルSCMサービスの対価の収受方法は、成功報酬型であったり、業務委託であったり、商流マージンであったり、ケース・バイ・ケースで設計している。
ただし、いずれの場合もコストを含めた全ての情報をお客さまにガラス張りにしてデジタルSCMサービスのコスト効果を明確にしている。
 これまで総合商社は、お客さまに代わってサプライチェーンの内側に入り込み、取引を仲介することで口銭を得てきた。
端的に言えば、サプライチェーンをブラックボックス化したままにしておくことで、商社は付加価値を生んでいた。
それに対してデジタルSCMサービスは、サプライチェーンを見える化して全体最適を維持することでその対価を得ている。
対照的なビジネスモデルといえるだろう。
 実は18年4月にデジタルSCM推進課が発足してデジタルSCMサービスを開始した当初は、サプライチェーンを可視化すること自体をソリューションとして販売する考えだった。
サプライヤーをつないでサプライチェーンの可視化システムを構築するところまでがわれわれの役割であり、お客さまがそれを運用するという立て付けだった。
 しかし、ネットワークとシステムが整備されていても、サプライチェーンをデータドリブンで回していく業務は決して容易ではない。
例えば先のY社の事例に登場した「丸紅計画系システム」は、発注条件や倉庫スペース、海上輸送の運行スケジュール、サービス率、在庫・荷役・輸送コストなどの制約と要件を考慮して最適な計画を自動的に立案するシステムだ。
 しかし、適切なアルゴリズムを選んでも需要予測が必ず当たるわけではない。
予測の精度には限界がある。
需要計画の実務とは、需要予測が外れた理由を分析してチューニングを重ねていくことで精度の誤差を少しずつ小さくしていく継続的かつ泥臭いオペレーションだ。
 生産と輸送を計画する供給計画にしても、アイテム単位、カテゴリー単位、サプライヤー単位の発注条件など複雑な発注条件を制約として考慮した上で、需要計画を充足し、輸送効率が良く、なおかつ在庫が適正になる発注量を計算するには、担当者にスキルとノウハウが必要だ。
 コンサルティング会社やシステム開発会社を使えばシステムを構築することはできる。
しかし、社内のSCM人材は限られている。
そのため、せっかくのシステムを使いこなせず、再びExcelに戻ってしまったり、あるいはシステム導入を断念する企業が実際にはかなりある。
 海外の有力なグローバル企業は社内に強力なシステム部隊を擁している。
当社が昨年、日本で初導入した米o9ソリューションズのSCMソフトウエアにしても、ウォルマート、ネスレ、ナイキといった欧米ユーザーは社内スタッフが自分たちでシステムを使いこなして、需要予想モデルも社内で開発している。
 それと比べて日本企業のIT組織は脆弱と言わざるを得ない。
外部のシステムインテグレーターにシステム開発と導入を委託することはできても、その後の運用まで任せることはできない。
そのことが日本企業のサプライチェーンDXの足枷になる。
そしてそこに、われわれ総合商社の新しい役割があると考えている。

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