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2021年1月号
特集

卸売市場法改正に商機を見出す花き卸──大田花き、南関東花き園芸卸売市場、新花

花きのサプライチェーン  2020年は新型コロナウイルス(COVID-19)に翻弄された1年となった。
花き業界も例外ではない。
花きはもともと、卒業式・入学式、歓送迎会、誕生日などのお祝いといった、さまざまなイベント需要に支えられている。
キク、ユリに見られるように、葬儀やお墓参りなど仏事の際の使用も大事である。
コロナウイルスはそれらをことごとく吹き飛ばした。
自粛、自粛‥‥で花きの活躍する場が大幅に奪われてしまった。
 こうした環境下で「卸売市場法」が改正された。
施行は2020年6月21日である。
同法の正式名称は「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律(平成30年法律第62号)」であり、卸売市場法と食品流通構造改善促進法の二つの法律の改正が一体となっている。
 これは農産物流通の実態が大きく変化したため、農産物の公正な取引と卸売市場を中心とした農産物流通の合理化を促進するためである。
食品流通構造改善促進法には市場流通に関する条文があるが、本改正は主に市場流通を対象にした法律の改正であったことから、ここでは卸売市場法の改正をメインに見ていくことにしたい。
 卸売市場法は花きだけを対象にしたものではない。
生鮮品(青果、精肉、鮮魚、花き)を取り扱う業界全てを対象に卸売市場の開設や流通の在り方について定めたものである。
1971年4月に公布され、1999年と2004年の2度の改正を経て、今回の大幅改正となった。
その内容を見る前にまず、花きのサプライチェーンがどうなっているのかを確認しておこう(図)。
 図の「生産者」とはいわゆる農家である。
種苗会社から種子・苗・球根などを購入し、花きの生産を行う。
ちなみに種苗会社は、新品種の育成や種子・苗・球根などの生産・販売を行う。
 生産者および生産者から花きを集荷した農協は、花きを出荷する。
その相手は通常、卸売市場にいる卸売業である。
卸売業は同じく市場で活動する仲卸業あるいは買参権を持つ取引参加者に花きを販売する。
小売業が買参権を持っていれば、卸売業は直接小売業に花きを販売するが、通常は仲卸業を通して小売業に商品を販売する。
 この卸売業と仲卸業の違いが分かりにくいのだが、卸売業は、①公正な取引、価格形成、②商品と情報の集散、③代金決済、④衛生管理などの機能を担う事業者であり、仲卸業は、①仕入れ代行、②小分け・分荷、③商品評価、④地方転送などの機能を担う事業者とされる。
 そして、ここでいう小売業とは、卸売業や仲卸業から商品を仕入れて消費者に花きを販売する事業者である。
一般的な花屋、スーパーマーケット、ホームセンターなどが該当する。
 卸売市場(つまりは卸売業)を通す取引を「市場流通」、通さない取引を「市場外流通」と呼ぶと、花きの市場流通の比率は75・6%であり、全体の4分の1が市場外流通である(2016年、農林水産省調べ)。
 他の生鮮品の市場流通の比率は、青果56・7%、水産物52・0%、食肉8・6%である。
それと比べると花きの市場流通の比率は圧倒的に高い。
つまり花き流通は、まだまだ卸売業が重要な役割を担っている。
この「卸売業や卸売市場」を主体としたサプライチェーンが、今回の改正卸売市場法の施行によりどのように変わるのかが注目される。
改正卸売市場法の内容  ここで今回改正された卸売市場法の内容を見てみよう。
表1は従来の卸売市場法と、改正卸売市場法を比較したものである。
市場法を詳しく調べて作成したが、実際はここで書かれたことはあくまでも原則であり、市場ごとに定めたルールに基づき運用されていることに留意されたい。
 改正市場法施行により注目されているのは、主に次の4点である。
ポイント1「第三者販売の原則禁止」の廃止。
ポイント2「直荷引きの原則禁止」の廃止。
ポイント3「商物一致の原則」の廃止。
ポイント4 中央卸売市場を民間業者も開設可能に。
以下、それぞれ簡単に整理しておこう。
ポイント1 「第三者販売の原則禁止」の廃止  第三者とは、卸売市場内の仲卸業や取引参加者以外の事業者のことである。
これまでの卸売市場法では、中央卸売市場の卸売業者による第三者への販売は原則として禁止されていた。
ただし、花き卸売市場における取引には主に競り取引と相対取引があるが、競りで売れ残りが発生した場合などは、取引参加者以外への卸売が認められてきた。
 今回の改正により、卸売業は集荷した花きを卸売市場内の仲卸業や取引参加者以外に販売できるようになった。
その最もドラスティックな変化は、「卸売業が仲卸業や売買参加者を中抜きして、直接小売業に販売できるようになった」ことだろう。
ポイント2 「直荷引きの原則禁止」の廃止  「直荷引き」とは、仲卸業が農家や他の卸売市場の卸売業などから、同一卸売市場の卸売業を通さずに商品を仕入れることをいう。
従来の卸売市場法では、仲卸業は同一市場の卸売業を通して花きを仕入れることが義務付けられていた。
この規約が廃止となり、仲卸業による卸売業の中抜きが可能になった。
 メリットとしては二つ考えられる。
一つは同じ卸売市場内の卸売業の品揃え力が弱い場合、仲卸業としては他の市場の卸売業から花きを仕入れられること。
そしてもうひとつは、卸売業を中抜きすることで現在の多段階の流通構造が改められてコストが削減されることである。
ポイント3 「商物一致の原則」の廃止  これまで花きは、卸売市場を経由して取引されるのが原則であった。
花きの現物そのものが卸売市場を実際に経由しなければならなかったのである。
この原則が廃止された。
これにより卸売業や仲卸業は、卸売市場の外に倉庫や物流拠点を開設し、物流活動を行うことが可能になった。
 卸売業が産地から花きを仕入れる場合、売買関連は卸売業が行うが、その輸配送は販売先である小売業が担当するという取引ができるようになったのである。
売買関連は卸売業や仲卸業が行うが、大型産地や輸入商社などが直接、大手スーパーマーケットや大規模花き小売業の倉庫に商品を納品することも可能になった。
ポイント4 中央卸売市場を民間業者も      開設可能に  卸売市場は、農林水産大臣の認可を受けた地方公共団体(都道府県または人口20万人以上の都市)のみが運営できる中央卸売市場と、都道府県知事の認可を受けて運営する地方卸売市場に分けられる。
今回の法改正により、中央卸売市場に関しても、民間事業者が開設できるようになった(農林水産大臣による認可は必要)。
 新たに花き卸売市場に参入が予想される民間事業者としては、流通に興味を持つ大手商社、大手チェーン小売業(総合品ぞろえスーパー、ホームセンター、大手花き小売業など)、異業種の卸売業(青果、鮮魚、精肉の卸売業など)といったところが予想される。
花き卸売業3社の今後の戦略  このたび筆者らは、花き業界を代表する卸売業3社の社長にインタビューを実施した。
(1)最大手花き卸売業である大田花き(東京都大田区)、(2)神奈川県を拠点とする南関東花き園芸卸売市場(神奈川県厚木市)、(3)新潟県を拠点とする新花(新潟県新潟市)の3社である。
以下のその概略を報告する。
(1)大田花き  大田花きはわが国最大の売上高を誇る花き卸売業で、東京都大田区の中央卸売市場「大田市場」を拠点とする。
同社の磯村信夫社長に話を聞いた。
 大田花きの今後の戦略は大きく、「①メニュープライシングの導入」と「②地方の卸売業との連携」の2点となろう。
このうち「①メニュープライシングの導入」は、先の「ポイント3『商物一致の原則』の廃止」に関係している。
これまでは商流と物流を一致させた取引が義務付けられてきたが、法改正により商物分離型の取引が大手を振って認められることになった。
そこに商機を見出そうというものである。
 磯村社長は、「弊社は、九州の花屋に対しても買参権を発行している。
その花屋が弊社から花を買った時、一度東京の弊社に送って、それをもう一回九州に航空便で持っていく。
こんな馬鹿げた話はない。
北海道に関してもそう」とした。
 そしてこれを下支えするものとして、同社は2017年4月、他社に先駆けて委託手数料の改定を行った。
従来は他の中央卸売市場と同様、委託手数料は一律9・5%であった。
それを「委託手数料」8%+「荷扱い料」の料金体系に変更した。
商物一致型であれ、商物分離型であれ、いずれの取引にも対応できる仕組みに変えたのである。
その物流に関しても、条件に応じて料金に差を設ける、極めて合理的な仕組みになった。
 この点に関し磯村社長は次のように説明する。
「取引の形態によって、安くなるケースがあってしかるべき。
商流と物流を分けることによって、良いものを出してくれる産地にインセンティブを与えることができる」「今後は次の段階に移る予定。
取引業務は、商流、物流、金流、情報流に分けているが、ここまでは本来業務です、ここまでは今の手数料率で行きます、でもそれ以外のものはそのお代金を頂きますよ、と」明確なメニュープライシングの考えを志向していることが分かる。
 さらに「SDGsに始まり、ガバナビリティだとか、最近はそういうのも重要性が増している。
透明性が高い経営をしていく。
手数料率に関しても、明確にしていく」「普通の業界で当たり前とされていることを、花き業界でも行うということ」としている。
 次に、「②地方の卸売業との連携」だが、地方卸売市場の行く末について尋ねたところ、「取扱高が30億円を下回ってくるようになると、仲卸は他(市場)からの仕入れにも頼らざるを得ない」とした。
改正卸売市場法の「ポイント2『直荷引きの原則禁止』の廃止」が今後効いてくる可能性を示唆したものと言える。
 その上で、「現状においても地方の卸売業は、いろいろな市場から買って商品をそろえている」「基本的には、地方の卸売業や中小の卸売業は、自分のところで商品がそろわない、もしくは困ったときはうち(大田花き)を使うという選択肢も視野に入れてくれれば‥‥って思うんですね」としている。
 なお磯村社長へのインタビューの中で印象に残った言葉があった。
「花屋さんは世界で一番素晴らしいサービスをしていると思っている。
顧客のニーズに合わせて、意向を聞いて、世界に一つしかない花束を作ってくれる。
しかも金額の範囲内で。
そういうサービスはほかにない。
手作りで世界に一つだけのものを作る。
そこにストーリーがある。
買いにきたのがご主人だとしたら、奥様が喜ぶのはなんだろうな?って考えて作ってくれる」「地方の卸売市場は、その地元の文化の発信基地でもある。
いわゆる『地産地消』。
その土地ならではの風習や冠婚葬祭などは、地元の卸売業でないと分からない」  量販店はもとより、地元の小さなお花屋さんや、地域に密着した卸売業の存在価値を認め、それを大事にする姿勢、まさに業界トップの卸売業ならではの話を伺うことができた。
(2)南関東花き園芸卸売市場  南関東花き園芸卸売市場は、神奈川県厚木市に本社を置く中堅の卸売市場である。
今回インタビューをした大田花きと新花は、いずれも中央卸売市場に拠点を置くが、開設者は公共団体である(公設の卸売市場)。
大田市場は東京都、新潟中央卸売市場は新潟県が開設者である。
しかし、南関東花き園芸卸売市場は、自らが開設者である民設の地方卸売市場である。
同社の小野吉一社長に話を聞いた。
 同社の今後の戦略は、「①商物分離型システムに合ったビジネスの模索」「②仲卸業務の代替の可能性の模索」「③販売先との間の取引制度の改定の模索」といったところだろう。
 「①商物分離型システムに合ったビジネスの模索」は、「ポイント3『商物一致の原則』の廃止」に関係するものである。
小野社長は現状のビジネスでは、商物分離の取引はないとした上で、「うちを物流だけで利用している取引先(産地)はいない」「鉢物の産地にしてもね。
各産地が別々に東京の卸売市場に持っていっているんだったら、それをうちに置いてっていいよって言ってるんだけどね。
そうすればここで一緒にトラックに積んでいくだけだから、みんな効率が良くなる。
うちを物流拠点として使っていいよって。
だけどみんな乗ってこないね」と言う。
 商流と物流を切り離し、物流のみを取り扱うことの可能性を示唆したものであり、非常に先進的な考えと言えるだろう。
 「②仲卸業務の代替の可能性の模索」は、「ポイント1『第三者販売の原則禁止』の廃止」に絡むものである。
小野社長は「法律上は第三者販売が可能になったが、(買参権を持っている)お客さんとは70年とかのお付き合いをしているのに、急に第三者販売をするわけにはいかないよね」「でもね。
例えば(これまで仲卸業が行ってきた)、束(花束)を作って欲しいという声がお客さんからあがれば、じゃあ(弊社が)作りましょうかって話にはなる。
そういうところで仕事の幅は、調整しながら少しずつ広げていこうかなと‥‥」としている。
 小売業に対するビジネスを積極的に開拓していこうというものではないが、あくまでも顧客から要望があった場合に、それに応じる姿勢を見せている。
 「③販売先との間の取引制度の改定の模索」は、本稿を記す前の2020年6月に東京都中央卸売市場の世田谷市場において、東京砧花き園芸市場(東京都世田谷区)が、デジタル機器大手のオークネットに経営統合された事例を確認しておきたい。
要は民間企業による中央卸売市場への参入であり、「ポイント4 中央卸売市場を民間業者も開設可能に」に関連した動きと言える。
 オークネットは、販売先である小売業から「1ケース〇円」のような形で物流費を徴収している。
これまで一般的な卸売業は、売買価格に料率(例えば10%など)をかけた金額を小売業から収受してきた。
花の売れ行きが芳しくなく、売買価格が低下している現状では、卸売業の手取りは少なくなる。
これを改めるためにオークネットは物流費を外に出し、「1ケース当たり〇円」という制度に変えたのである。
 こうした動きは卸売業界における主流にはなっていないが、今後、検討する価値は十分あるだろう。
小野社長は「昔1万円で売っていたものが6千円になっちゃったら、頂ける金額は1千円が600円になる。
ここに物流費が入っているんだけど、400円減っちゃったらやっていけない」「1箱50円とか100円とか頂かないと、もうやっていけません、っていう話を花屋に相談するのは、今後は検討する価値があるかもしれない」としている。
 業界が大きく変わりつつある中、より透明な取引制度に変更する可能性を模索するものとして高く評価できるだろう。
(3)新花  新花は新潟県新潟市を拠点とする卸売業である。
同社の今後の戦略は「①資材など花関連商材の取扱いの強化」「②産地との結びつきの強化」の2点になろう。
玉木隆幸社長に話を聞いた。
 まず「①資材など花関連商材の取扱いの強化」だが、新潟卸売市場ではこれまで3社の仲卸業がいたが2020年に2社となった。
卸売市場のスペースに余裕ができたため、新花ではそのスペースを活用して花きに関連する資材の取り扱いを検討したいという。
これまでは開設者である新潟県から、資材の取り扱いは許可されなかったが、今回の卸売市場法の改定により取り扱うことが可能になった。
 玉木社長は「小売業や仲卸の、花きに対するワンストップショッピングニーズを満たすようにしたい。
花きはこれまで扱ってきたが、資材の取り扱いを検討したい。
要はセロハン、リボン、カゴなどの取り扱い」としている。
 次に「②産地との結びつきの強化」であるが、玉木社長は、「産地が弱っている。
高齢化も進んでいる。
とにかく人手不足。
花が咲いているのに収穫できないケースが増えてきている」「生産者の代わりに花を収穫し、そして手数料を頂くというのはビジネスとして興味がある」「産地と市場の情報をマッチングさせることも重要だろう。
産地に、花の相場を伝え『こっちの市場に出したらどうか』『こっちの市場で花が足りない』などの情報を提供することは産地振興になるだろう」「より長期的には、『こういうものを植えたらどうか』など、生産に関するコンサルティングを行うことも視野に入れている」としている。
 サプライチェーンの中で中心的な役割を果たす卸売業が、販売先である仲卸業や小売業、仕入れ先である産地に対し、さまざまなサービスの拡充を図っていこうという姿勢を確認することができた。
 2020年6月、改正卸売市場法が施行され、花き流通の仕組みは大きく変わった。
今回の改正により、市場開設者、そこに参加する卸売業、仲卸業、取引参加者に関する規制が大幅に緩和された。
卸売業としては、これまで以上に柔軟な取引を行えるようになった。
 今まさに戦いの火ぶたが切って落とされたところである。
その戦いの相手は、同業他社である卸売業や、販売先である仲卸業や小売業だけではない。
花き卸売の領域に、青果、精肉、鮮魚などを扱う生鮮卸が参入してくるかもしれない。
大手総合商社系列の事業者が参入してくるかもしれない。
まさに熾烈な競争が展開されることだろう。
今後の動向が大いに注目される。
注 本論文は寺嶋正尚「改正卸売市場法の施行が花卉流通及び花卉卸売業に与える影響~インタビュー調査に基づく考察~」『経済貿易研究』47、神奈川大学経済貿易研究所、2021年3月(予定)の一部をベースに執筆したものです。

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