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2021年1月号
特集

B2Bマーケットプレイスは日本に根付くか

B2Bマーケットプレイスの現状  世界的にB2Bマーケットプレイスの市場拡大が続いている。
独ローランド・ベルガー社の調査【注1】によると、B2Bマーケットプレイスの市場規模は、取引額ベースで2015年に約72兆円だったものが、2020年には100兆円~125兆円規模に拡大すると予測されている。
年平均成長率は約10%と高い。
 ところが、こと日本においては、統計的なデータは見当たらないものの、各企業の活用状況などから類推して、B2Bマーケットプレイスが根付いているとは言い難い状況にある。
少なくとも当初期待されていたような成功は実現していない。
 B2Bマーケットプレイスはインターネットが急速に普及し始めた2000年ごろに台頭した。
売り手と買い手が自由に参加できるインターネット上の取引市場と定義され、当初は主に企業間電子商取引(B2B EC)の文脈で捉えられていた。
 しかし、現在はアマゾンに代表される個人向け(B2C)の電子モールや、個人間(C2C)で商品を売買する「フリマ」などが普及したことで、マーケットプレイスというと、むしろこれらが連想されるようになっている。
 このように定義が曖昧であるが、本稿ではB2Bマーケットプレイスを「B2Bにおけるインターネットを活用した商取引に係るさまざまなサービス」という広義の定義で捉えて、筆者が専門とする調達・購買の立場から考察していく。
 ウェブサイトを通じて「売ります」「買います」情報をつなげるB2Bマーケットプレイスは、新しい売り手や買い手を見つけるための手間やコストを圧倒的に安価にできる仕組みであり、日本でも広く普及していくだろうと、当初は誰もが考えていた。
 さらには業界特化型のB2Bマーケットプレイスが普及して、その業界の特性に適合したツールが広く使われ、デファクト化することで、ツール活用のコストや業界内の情報伝達コストを低減できることが期待された。
 そのため、日本でも多くのベンチャー企業や商社などがマーケットプレイスを立ち上げた。
2003年の電子商取引推進センターの調査【注2】によると、1999年~2002年にサービスを開始した国内のB2Bマーケットプレイスは合計150件に上っている。
 その当時に作成されたと思われるマーケットプレイスのリンク集には、今も146件のサイトが並んでいた。
しかし、筆者がそのリンク先を確認したところ146件中現在も存在するサイトは、わずか38件(26・0%)であった(図1)。
 このように日本においてはB2Bマーケットプレイスの普及は実現されていない。
中国アリババと米アマゾンの「2強」  海外ではどうだろうか。
先のローランド・ベルガーのレポートによると、B2Bマーケットプレイスの地域別の市場規模は、2015年時点ではアジアが最も大きく、全世界の80%のシェアを占めていた。
また、近年は北米市場の成長率が最も高くなっている。
中国アリババと米アマゾンの2社が市場全体を牽引しているからだ。
 マーケットプレイスと聞いて最初に思い浮かぶのはアリババではないだろうか。
同社の2018年度の取引額(流通総額)は7680億ドルにも上っている。
それに対して2015年に「Amazon Business」を立ち上げ、BtoBマーケットプレイスに力を入れ始めた、アマゾンの2019年の取引額は3350億ドルである。
 両者の取引金額を単純に合計すると1兆1030億ドル、日本円に換算して約115兆円だ。
そこにはB2Cの取引も含まれてはいるが、2020年のB2Bマーケットプレイスの市場規模(見込)125兆円と比較して、大きな数字であることが分かる。
両社を「2強」と呼ぶことに異論はないであろう。
 ただし、アリババとアマゾンのビジネスモデルは大きく異なっている。
アリババは1999年にB2Bマーケットプレイス「アリババドットコム」をスタートした。
アリババ自体は取引には介入せず、当初は取引手数料も無料にし、多くの事業者の参画を促し、決済サービスや物流サービス、広告収入によって収益を確保するモデルを採用した。
 一方でアマゾンは自らが取引を仲介するリテールモデルと、取引には関わらないマーケットプレイスモデルを並行する、ハイブリッド型を採用している。
同社の2019年の取引額約3350億ドルのうち約1350億ドルがリテールモデル、約2千億ドルがマーケットプレイスモデルである(図2)。
 アマゾンのリテールモデルはネット通販サイトそのものであり、狭義ではマーケットプレイスとは言えないであろう。
その一方、買い手の立場から見れば、リテールモデルとマーケットプレイスモデルの区分は意味を持たない。
買い手は一番安く、デリバリーの条件が合ったものを購入するだけで、それがアマゾンの倉庫から配送されようが、マーケットプレイスに参加しているテナントからの出荷だろうが、こだわる必要はないからだ。
 一方、アリババはB2Bの「ロングテール品」だけでなく、主要原料や部品など、「ヘッド品」の取引もサポートしている。
サイトには多くのサプライヤー情報が掲載されており、アリババドットコムを経由しないコミュニケーションや、取引も可能な仕組みとなっている。
B2Bマーケットプレイスの成功要因  それでは、B2Bマーケットプレイスの成功要因は何であろうか。
買い手がB2Bマーケットプレイスに期待するのは、基本的にはQCD(Quality、Cost、Delivery)の最適化だ。
ただし、品質(Q)に関しては汎用品の購入では、どこから買おうがほとんど違いはない。
従って「絶対的な安価(C)」と「絶対的な効率性(D)」という二つの要素がキーになる。
 このうち「絶対的な効率性」には、デリバリーが速いということだけでなく、買いたいモノの選定、買いたい先(サプライヤー)の選定、注文の手間、といった要素も含まれる(図3)。
 インドの調査会社The Smarketers社のレポート【注3】によると「B2Bの購買担当者の81%は、高額商品を購入するときに、価格情報のオンライン調査を行う」、ローランド・ベルガー社の調査でも「購買担当者の91%が、何を購入するべきかを調べるために、オンライン調査をしている」という結果が出ている。
購入先や買う物の選定、価格情報の入手などの手間が削減できるのは、バイヤーにとって大きなメリットだ。
 アマゾンの強みはその圧倒的な品揃えによって購入品の選定における「絶対的な効率性」を実現している。
アマゾンはB2BマーケットプレイスであるAmazon Businessの2018年の取引額が1兆円以上に達したとリリースしている。
 Amazon BusinessはプラットフォームをB2Cと共通化することで、注文プロセスの手間を軽減すると同時に、B2Bの個別機能として、承認ワークフローや月末請求書払いへの対応、レポーティング機能、法人向け価格の適用などの利便性をバイヤーに提供している。
 一方、アリババは、そこに無数のサプライヤーが登録されていることによって、購入先の選定における「絶対的な効率性」を実現している。
実際、日本の大手企業でもBCPの観点などから、複数の購買先を確保するため、アリババを利用して新規サプライヤーを探索しているという話を聞く。
そのままアリババ経由で注文することは考えにくいが、アリババは日本の大手企業のバイヤーにも利便性を提供できている。
 このように「絶対的な効率性」はB2Bマーケットプレイス市場の「2強」に共通する要素であり、B2Bマーケットプレイスの成功要因の一つとして、挙げられる。
なぜ日本では普及が進まないのか  それでは、このようなメリットがあるB2Bマーケットプレイスが、日本国内で普及しなかったのはなぜだろう。
次の三つの理由が挙げられる(図4)。
 日本企業のB2B取引は基本的に長期継続的だ。
数年に一度といった頻度でしか購入しないものであっても、購入先は限られている。
実際、企業の支出を分析すると、過去にも取引のあるサプライヤーから購入していることが多い。
つまり日本企業にはそもそも、新しいサプライヤーを探したいというニーズがあまりない。
これがB2Bマーケットプレイスの普及が進まない最大の理由だろう。
 本来であれば、新しいサプライヤーを採用することは、既存のサプライヤーとの競争環境が生まれるため購入側にとってプラスになる。
ただし、リスクもある。
バイヤーは「前のサプライヤーはこういうこともやってくれたのに‥‥」といった開発部門やユーザーからの苦情を恐れる。
汎用品の購入であれば、新しいサプライヤーや代替品を採用するリスクは下がるはずだが、それでも保守的になる傾向がある。
そのため日本では新しいサプライヤーを採用する際に、商社を介在させるスキームが従来から一般化している。
バイヤーは何らかのトラブルが生じたときの保証を商社に求めるからだ。
商社の存在は日本にB2Bマーケットプレイスが普及しない、二つ目の理由である。
 そして三つ目は取引の透明性だ。
伝統的なB2Bの取引条件は全て相対で決まる。
価格条件、納入条件、支払条件などは、個別交渉であり、相対取引の守秘義務も生じる。
それに対してインターネットの取引は、どうしても透明性が高くなる。
誰が何をいくらで売っている(買っている)のか、基本的には、誰でも見ることができる。
その透明性がB2B取引の商慣習と合っていない。
これは必ずしも、日本だけでなく他の国にも見られる傾向である。
日本市場における成功事例  それでも、B2Bマーケットプレイスを広義に捉えてみれば、日本国内においても普及しているサービスも、いくつか存在する。
オフィス商品通販のアスクル、工具などの副資材を販売するMonotaRO、ミスミグループ本社の流通事業「MISUMI─VONA(Variation & One-stop by New Alliance)」などだ(図5)。
 アスクルの2020年5月期の売上高は約4千億円規模に達している。
同社の強みはロジスティクスだ。
同社は紙のカタログとFAXによって、オフィス用品を受注翌日に届けるサービスから事業をスタートした。
また自社系列の物流部隊をもち、当日配送を一早く確立し、「明日来る」から「今日来る」へと進化した。
さらに現在はB2Bで確立したインフラを活用して、B2C向けEC事業「LOHACO」を展開している。
 MonotaROは2000年に住友商事と米グレンジャー社が共同出資で設立した副資材(MRO)のB2BECだ。
2019年度の売上高は1265億円で、日本のB2Bマーケットプレイスの売り上げ規模としてはアスクル、ミスミに次ぐ3位だが、その成長ペースやMROの市場規模から、近い将来、日本一のB2Bマーケットプレイスになることが予測される。
 同社の経営戦略には「インターネットを活用して規模の経済を実現し、幅広い商材と高い検索性で差別化する」と書かれている。
その特徴は1800万点に及ぶ品揃えであり、「買いたい物を効率的に選ぶことができる」という「絶対的な効率性」を売り物にしている。
さらに近年は「大企業向け間接材集中購買サービス」を立ち上げ、中小企業から大手企業に顧客層を広げている。
 ミスミのVONA事業の売上高は、1400億円規模で同社の総売上高3130億円の半分近くを占めている。
金型部品やFA装置部品の商社として出発した同社は、カスタマイズ発注だった部品を標準化してカタログに掲載することで、納入までのリードタイムを圧倒的に短縮するというモデルで地盤を築いた。
 2010年に他社ブランドのMRO品を取り扱うVONA事業をスタートした。
同社の品揃えは現在、3100万点以上に上っている。
また、近年はグローバル展開を進めることで、短納期でグローバル調達を可能にしている。
 この3社に共通するのは、大手企業よりも中小企業を主なサービス対象としていること、そして取扱品目が汎用品であることだ(ミスミの顧客には大手企業も多いが、これは同社の当初の顧客基盤が大手製造業の工場であったことによる)。
 従来、中小企業にとって、オフィス用品は近隣の文具屋や卸事業者から購入するものであった。
工具などは、ホームセンターや専門商社から購入していた。
そこにB2Bマーケットプレイスを活用することで、従来よりも安価で「絶対的な効率性」をもって、購入することができる。
 Amazon Businessは2017年9月に日本でもサービスを開始したが、同サービスもまた、中小企業の汎用品(間接材)の購買をターゲットとしている。
同社は日本における事業状況を公開しておらず、詳細は不明だが、これから普及していくことは間違いないであろう。
 Amazon Businessの品揃えは2億点を超えるとも言われており、他のB2Bマーケットプレイスとは桁が違う。
これは、買い手にとって大きなメリットだ。
その一方、Amazon Businessの現状の導入企業一覧には、大手製造業の名前がほとんど見当たらない。
サービスの一層の拡大は大手製造業の取り込みがカギを握るであろう。
 これらのB2Bマーケットプレイスの成功事例は、いずれも「絶対的な効率性(D)」を差別化要因としている。
それに対して「絶対的な安価(C)」で差別化する事例も現れている。
その代表例がラクスルだ。
 ラクスルはネット印刷市場において「絶対的な安価」を提供している。
同社の2020年度の売上見込みは約215億円で、印刷会社としては中堅規模である。
ネット印刷に限ってもトップシェアではない。
それでも価格競争力を発揮できている理由は、シェアリングモデルにある。
 ラクスルは自社では印刷工場を持たず、提携する印刷会社の輪転機の非稼働時間を活用して印刷することで、低価格を実現している。
そのためラクスルの利用者は希望納期を長くとるほど見積価格が安くなる。
さらに同社は現在、同じシェアリングモデルを運輸業界に適用した「ハコベル」事業を立ち上げている。
今後の日本市場での普及の条件  今後、日本におけるB2Bマーケットプレイスはどのような展開をしていくのだろうか。
結論から言えば先に挙げた二つの絶対的な優位性を持つB2Bマーケットプレイスは、ますます普及していくだろう。
その普及の条件は「購買プロセスにフォーカスしたビジネス展開」がキーワードになる。
 図6のように企業の購買プロセスは、「何を(仕様や購入品選定)」「どこから(購入先選定)」「いくらで(価格決定)」「注文」という四つのステップを踏み、その後「配送」「納品」「検収」「支払い」へと進んでいく。
 大手企業は開発部門や技術部門、購買部門などに、購買の専任担当者を置いている。
とりわけ事業に大きな影響を与える主原料や部品などの直接材の購買に関しては、多くの専門家を擁している。
そのため購買プロセスの前半の四つは自社内で、滞りなく遂行できる。
 しかし、MROなどの間接材は多様であり、購買の専門家はあまり存在しない。
そのため、B2Bマーケットプレイスを利用して、何を買うかを決めるプロセスを効率化することは、中小企業のみならず、大手企業でも価値につながる。
 一方、大手企業はMROなどの汎用品も商社経由で購入していることが多く、新しいサプライヤー(メーカー)を独自に探すニーズはあまり高くない。
そのため、「どこから買うか(購入先選定)」というプロセスを効率化するB2Bマーケットプレイスの利便性は、大きな価値を持たない。
 それに対して中小企業は、「どこから買うか(購入先の選定)についても、B2Bマーケットプレイスは効率性を提供できる。
また中小企業にとっては翌日納品などの短納期のメリットも大きい。
 このように考えると、B2Bマーケットプレイスによって効率化メリットが大きい購買プロセスは、対象となる買い手企業と品目によって異なる。
従ってその成否は、品揃え、サプライヤーのラインナップ、ロジスティクス(納品スピ―ド)などの自社の強みを、適切な対象顧客や対象品目に適合できるか、による。
既存産業にどのような影響を与えるか  現在、大手企業向けを中心とする既存の商社のビジネスと、中小企業を中心としたB2Bマーケットプレイスのサービスは、一定の棲み分けがなされている。
B2Bマーケットプレイスが普及しても、当面は既存産業に与える影響は、それほど大きくないだろう。
 しかしB2Bマーケットプレイスを大手企業が利用するようになると、局面が変わる。
いわゆる“商社中抜き”が進展する。
その引き金となり得るのが、Amazon Businessではないかと筆者は考える。
 アスクルやMonotaRO、その他のECが大手企業においても利用されるようになったのは、「パンチアウト」と呼ばれる仕組みによるところが大きい。
大手企業の購買システムとサプライヤーのカタログサイトを連携させて、購買プロセスを効率化する仕組みである。
 当初の購買システムは、購入できるものをあらかじめ定めて、それ以外の購入品やサプライヤーとの取引に統制をかけていた。
ボールペン1本を購入するにも、どのメーカーのどの商品、購入価格まで決まっていた。
しかし、このやり方には限界があり、徐々にルール外の購買が増えていった。
幅広い品揃えの中から、最適なものを選んで購入できる仕組みが、求められるようになり、そのニーズに応えるかたちでパンチアウトが普及した。
パンチアウトによって、購入価格はそこそこでも、業務は効率化され、購買統制も実現できた。
 さらにAmazon Businessは、従来のパンチアウトでは購入できなかった日用品や緊急手配品などを購入できる仕組みを提供している。
ヘッド品は自社システム、テール品はパンチアウトカタログ、ロングテール品はマーケットプレイスからといった具合に、ワンシステムで購入できる(図7)。
これによって、買いたい物を探す手間は大きく軽減されて、購買統制は最適化される。
 このようなパンチアウトを拡張したマーケットプレイスのサービスを、大手企業が利用しはじめ、ワンシステムが実現されると、日本においてもB2Bマーケットプレイスの市場拡大が一気に加速するだろう。
こうなると大手企業を顧客に持つ既存産業は、大きな影響を受けざるを得ない。
既存の流通業や商社は、新たな付加価値の提供を求められていくことになるだろう。
出典 【注1】:"B2B Marketplaces are blossoming" 独ローランド・ベルガー社 Olivier de Panafieu、2018年6月 【注2】:「e-マーケットプレイスに関する調査報告書 企業間電子商取引の拡大とオープン化に関する調査研究」日本情報処理開発協会電子商取引推進センター、2003年3月 【注3】:Enoch Pakanati "How Manufacturers Can Optimize Their B2B Sales Through Online Market places?" The Smarketers、2018年6月(https://www.thesmarketers.com/manufacturers-can-optimize-b2b-sales-online-marketplaces)

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