2020年11月号
特集
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EC自社化・EC物流市場参入の落とし穴
プロジェクトが頓挫する理由
アパレルメーカーのA社は直営店舗とECの連動性を高めてオムニチャネル戦略を推進するため、ECサイトの運営を自社化することにした。
その構想を策定するため大手コンサルティング会社B社に依頼してTo−Beモデルを打ち立てた。
コンサルB社はA社のトップをはじめ経営層へのインタビューを実施してクライアントの要望に忠実に応えた。
しかし、構想策定フェーズが終わり、システムの要件定義フェーズに入るとプロジェクトは暗礁に乗り上げた。
コンサルB社はC社に協力を仰ぎ、プロジェクトを進めた。
ところが、それぞれの組織間で次のような行き違いが生じてしまった。
◦A社マーケティング部門 ・ モール型ECサイトでできていたことは自社ECサイトでも運用できるだろう。
・ 社長から要請されているECと店舗との融合も実現したい。
・ コンビニやロッカーでの荷物受け取り、返品対応、ギフトラッピング、メッセージカード、チラシ同封などは、今までやってきたことなので自社化しても継続しよう。
◦コンサルB社 ・ 分かりました。
みなさんの意見をまとめると全体構想はこうなります。
・ ECサイト構築に実績のあるC社も入れてシステムを構築しましょう。
◦サイト構築C社 ・ 分かりました。
要件定義から参加します。
・ フロント画面はこのようになり、他システムとのECサイト側のインターフェイスはこうなります。
・ ECサイト側のシステム要件は決まりましたので、A社システム部門でも対応をお願いします ◦A社システム部門 ・ そう言われてもシステム全体が分かる人など社内にいない。
どのシステムにどのような影響があるのか分からない。
・ しかし、社運をかけたプロジェクトらしい。
やるしかない。
◦A社物流部門 ・ 会社がやりたいことは分かった。
当然ながらオペレーションを変えなくてはならない。
それに合わせてWMSも修正しなくてはならない。
時間と費用がかかる。
・ そもそも、このプロジェクトに物流部門は入ってなかった。
急に言われても困る。
◦A社マーケティング部門/コンサルB社 ・ これまでかけた費用を無駄にしないためにも、何とかプロジェクトを進めたい。
この一連の流れは、どの企業においても発生する可能性がある。
実際、筆者はこれまで同様のケースをこの目で複数見てきた。
ECサイトのリニューアルは企業の基幹システムの刷新と違って、単なるフロントシステムの更新として軽く考えられてしまう傾向がある。
しかし実際には、ECサイトを変えると企業の各システムに大きな影響が出る。
とりわけ歴史の長い企業ほどシステムは複雑怪奇に絡まっている。
店舗受注システム・EC受注システム・販売管理システム・店舗POSシステム・会計システム・顧客管理システム・WMS・統合在庫管理システムがお互いにどのように連動しているのか、全体像をひも解けるシステム会社や自社部門、人材はまずいない。
LINEなどの外部システムとの連動も加わればなおさらである。
現場を体験して肌感覚を養え 新型コロナによって今後10年間かけて起こるはずだった変革がわずか半年の間に起きている。
大手アパレル会社のオンワードは2020年2月期に約700店を閉鎖したのに続き、今期も700店を閉鎖することを発表している。
約3千店あった店舗数を2年で半減させる。
それと同時にECを強化し、前期333億円だったEC売り上げを今期は500億円に拡大させる計画だ。
この流れはファッション業界だけではなく、店舗販売を行っている企業全般に共通する。
消費者数の変化と一人当たり金額の変化を見ても、コロナ前より状況が良くなっているのはECのみである(図1)。
これを受けて従来はECサイトを「自動的に販売してくれる窓口」程度にしか考えていなかった企業が、にわかにECを販売チャネルの主力に据えようとしている。
その基本的な戦略は次の通りだ。
・ 実店舗と自社ECの連動性を高め、利便性の高い買いもの環境を整備して顧客価値を高める。
・ 実店舗と自社ECの会員の統合とポイントの一元化、ECストアとブランドサイトとの統合、オムニチャネルサービスの強化を図る。
・ 物流面では自前の物流施設から発送することによるお直しやギフト対応、店頭での試着や受け取りなどを実施する。
「ショッピングモール型のECサイトで自社製品を販売してきたが、販売件数も本格的に増えてきたこともあり、自社ECサイトでの販売に切り替えたい」という企業も増えてきた。
ECモールへの手数料の支払いを減らして利益率を上げることが目的の一つである。
しかしながらECサイトの自社化やリニューアルで失敗する事例は後を絶たない。
全体構想の策定時には、ECサイトリニューアルによって影響を受けるシステムと関連部門の業務の洗い出しが最低限必要である。
そして関連部門との事前調整を済ましておかなければならない。
これらができていないと運用レベルに達していないECサイトが作られる結果となり、サイトの閉鎖に追い込まれることさえある。
顧客の利便性向上につながる施策の実現は、部門横断のコミュニケーションが必須である(図2)。
しかし、ECプロジェクトはマーケティング部門を中心に進められることが多く、物流は軽視されがちである。
物流は最後に調整すればよいくらいに考えられてしまう。
プロジェクトが失敗に終わる可能性は高くなる。
物流部門は、企業内におけるコストセンターとして位置づけられてきたことから、指示待ちの傾向がある。
極論すれば、言われたことはやるが、言われない限りやらない部門である。
そのためプロジェクトメンバーも「これまで物流部門は要求をいろいろと聞いてくれていたし、ECサイトのリニューアルに伴う作業の変更にも対応してくれるだろう」と勝手に思い込んでいる。
プロジェクトチームは、物流部門が現在、何をしているのか、どこまでできるのかを知っておくべきである。
そのために実際にモノが動いている現場を定期的に見ておいた方がよい。
物流センターのレイアウト、製品の保管形態、流通加工場、使用マテハン、WMS、人員体制、シフト勤務時間、タイムチャートなどをチェックして大まかでも頭に入れておく。
さらには1日だけでも構わないので現場作業を経験してみる。
肌感覚が養える。
それがプロジェクトを実施する際にモノを言う。
既存の物流ビジネスとの決定的な違い 物流事業者もEC物流市場への参入を安易に考えてはいけない。
筆者は一般社団法人3PL協会のEC物流委員会の幹事を務めている。
同委員会ではEC物流に着手したい物流事業者が集まり、毎年テーマを掲げてEC物流を研究している。
しかし、ECのオペレーションを既存の延長線上で考えている物流事業者は、EC物流には手を出さない方がよいと筆者は考えている。
なぜならEC物流をビジネスとして展開するには、従来のコスト志向からマーケティング志向に組織のカルチャー自体を変革しなければならないからだ。
EC物流は単に荷主の指示に従い商品を在庫して出荷するのではなく、荷主のブランド価値を高めるためには何をすべきかを考えることが求められる。
その荷主企業の理念や中期経営計画、マーケティングについての深い理解が必要になる。
さらには荷主企業・業界の特性や課題、荷主が大切にしているブランド価値についての理解を深めておかなければならない。
その上で物流はどうあるべきかを考え、何を準備しておかなければならないかを整理する。
検討すべき項目は次のようにたくさんある。
・ 早く届ける──宅配便で対応するのか、それとも自社の軽貨物車両で運ぶのか。
・ 受取場所を選択できる──在庫の引当順位をどうするのか、統合在庫をどのように持つのか。
・ メッセージカードを選べる──受注システムは何をどう使うべきか。
・ 複数商品を同梱で届ける──WMSへのオーダーをどのように行うのか。
・ ノベルティグッズを同梱する──在庫管理をどうするのか。
筆者の友人の物流コンサルタント、LiNKTHの小橋重信代表は、「実店舗でもECでも結局は“ブランド”を売ることに変わりはない。
だからこそ物流が担うのものは大きい」として、物流オペレーションを図3のように「基本作業」と「こだわり作業」に分けて再定義している。
これまで物流事業者は、物流センターやトラックなどのアセットや物流ネットワークをアピールにしてきた。
しかし、それらはあくまで「基本作業」の範疇である。
物流センターの自動化・無人化、シェアリングをどれだけ進めても、料金体系をどれだけ工夫しようが、荷主の顧客満足度にそのままつながるわけではない。
EC物流にチャレンジするとは「こだわり作業」で差別化することである。
それは物流をコストセンターから付加価値業務に変える絶好のチャンスでもある。
その構想を策定するため大手コンサルティング会社B社に依頼してTo−Beモデルを打ち立てた。
コンサルB社はA社のトップをはじめ経営層へのインタビューを実施してクライアントの要望に忠実に応えた。
しかし、構想策定フェーズが終わり、システムの要件定義フェーズに入るとプロジェクトは暗礁に乗り上げた。
コンサルB社はC社に協力を仰ぎ、プロジェクトを進めた。
ところが、それぞれの組織間で次のような行き違いが生じてしまった。
◦A社マーケティング部門 ・ モール型ECサイトでできていたことは自社ECサイトでも運用できるだろう。
・ 社長から要請されているECと店舗との融合も実現したい。
・ コンビニやロッカーでの荷物受け取り、返品対応、ギフトラッピング、メッセージカード、チラシ同封などは、今までやってきたことなので自社化しても継続しよう。
◦コンサルB社 ・ 分かりました。
みなさんの意見をまとめると全体構想はこうなります。
・ ECサイト構築に実績のあるC社も入れてシステムを構築しましょう。
◦サイト構築C社 ・ 分かりました。
要件定義から参加します。
・ フロント画面はこのようになり、他システムとのECサイト側のインターフェイスはこうなります。
・ ECサイト側のシステム要件は決まりましたので、A社システム部門でも対応をお願いします ◦A社システム部門 ・ そう言われてもシステム全体が分かる人など社内にいない。
どのシステムにどのような影響があるのか分からない。
・ しかし、社運をかけたプロジェクトらしい。
やるしかない。
◦A社物流部門 ・ 会社がやりたいことは分かった。
当然ながらオペレーションを変えなくてはならない。
それに合わせてWMSも修正しなくてはならない。
時間と費用がかかる。
・ そもそも、このプロジェクトに物流部門は入ってなかった。
急に言われても困る。
◦A社マーケティング部門/コンサルB社 ・ これまでかけた費用を無駄にしないためにも、何とかプロジェクトを進めたい。
この一連の流れは、どの企業においても発生する可能性がある。
実際、筆者はこれまで同様のケースをこの目で複数見てきた。
ECサイトのリニューアルは企業の基幹システムの刷新と違って、単なるフロントシステムの更新として軽く考えられてしまう傾向がある。
しかし実際には、ECサイトを変えると企業の各システムに大きな影響が出る。
とりわけ歴史の長い企業ほどシステムは複雑怪奇に絡まっている。
店舗受注システム・EC受注システム・販売管理システム・店舗POSシステム・会計システム・顧客管理システム・WMS・統合在庫管理システムがお互いにどのように連動しているのか、全体像をひも解けるシステム会社や自社部門、人材はまずいない。
LINEなどの外部システムとの連動も加わればなおさらである。
現場を体験して肌感覚を養え 新型コロナによって今後10年間かけて起こるはずだった変革がわずか半年の間に起きている。
大手アパレル会社のオンワードは2020年2月期に約700店を閉鎖したのに続き、今期も700店を閉鎖することを発表している。
約3千店あった店舗数を2年で半減させる。
それと同時にECを強化し、前期333億円だったEC売り上げを今期は500億円に拡大させる計画だ。
この流れはファッション業界だけではなく、店舗販売を行っている企業全般に共通する。
消費者数の変化と一人当たり金額の変化を見ても、コロナ前より状況が良くなっているのはECのみである(図1)。
これを受けて従来はECサイトを「自動的に販売してくれる窓口」程度にしか考えていなかった企業が、にわかにECを販売チャネルの主力に据えようとしている。
その基本的な戦略は次の通りだ。
・ 実店舗と自社ECの連動性を高め、利便性の高い買いもの環境を整備して顧客価値を高める。
・ 実店舗と自社ECの会員の統合とポイントの一元化、ECストアとブランドサイトとの統合、オムニチャネルサービスの強化を図る。
・ 物流面では自前の物流施設から発送することによるお直しやギフト対応、店頭での試着や受け取りなどを実施する。
「ショッピングモール型のECサイトで自社製品を販売してきたが、販売件数も本格的に増えてきたこともあり、自社ECサイトでの販売に切り替えたい」という企業も増えてきた。
ECモールへの手数料の支払いを減らして利益率を上げることが目的の一つである。
しかしながらECサイトの自社化やリニューアルで失敗する事例は後を絶たない。
全体構想の策定時には、ECサイトリニューアルによって影響を受けるシステムと関連部門の業務の洗い出しが最低限必要である。
そして関連部門との事前調整を済ましておかなければならない。
これらができていないと運用レベルに達していないECサイトが作られる結果となり、サイトの閉鎖に追い込まれることさえある。
顧客の利便性向上につながる施策の実現は、部門横断のコミュニケーションが必須である(図2)。
しかし、ECプロジェクトはマーケティング部門を中心に進められることが多く、物流は軽視されがちである。
物流は最後に調整すればよいくらいに考えられてしまう。
プロジェクトが失敗に終わる可能性は高くなる。
物流部門は、企業内におけるコストセンターとして位置づけられてきたことから、指示待ちの傾向がある。
極論すれば、言われたことはやるが、言われない限りやらない部門である。
そのためプロジェクトメンバーも「これまで物流部門は要求をいろいろと聞いてくれていたし、ECサイトのリニューアルに伴う作業の変更にも対応してくれるだろう」と勝手に思い込んでいる。
プロジェクトチームは、物流部門が現在、何をしているのか、どこまでできるのかを知っておくべきである。
そのために実際にモノが動いている現場を定期的に見ておいた方がよい。
物流センターのレイアウト、製品の保管形態、流通加工場、使用マテハン、WMS、人員体制、シフト勤務時間、タイムチャートなどをチェックして大まかでも頭に入れておく。
さらには1日だけでも構わないので現場作業を経験してみる。
肌感覚が養える。
それがプロジェクトを実施する際にモノを言う。
既存の物流ビジネスとの決定的な違い 物流事業者もEC物流市場への参入を安易に考えてはいけない。
筆者は一般社団法人3PL協会のEC物流委員会の幹事を務めている。
同委員会ではEC物流に着手したい物流事業者が集まり、毎年テーマを掲げてEC物流を研究している。
しかし、ECのオペレーションを既存の延長線上で考えている物流事業者は、EC物流には手を出さない方がよいと筆者は考えている。
なぜならEC物流をビジネスとして展開するには、従来のコスト志向からマーケティング志向に組織のカルチャー自体を変革しなければならないからだ。
EC物流は単に荷主の指示に従い商品を在庫して出荷するのではなく、荷主のブランド価値を高めるためには何をすべきかを考えることが求められる。
その荷主企業の理念や中期経営計画、マーケティングについての深い理解が必要になる。
さらには荷主企業・業界の特性や課題、荷主が大切にしているブランド価値についての理解を深めておかなければならない。
その上で物流はどうあるべきかを考え、何を準備しておかなければならないかを整理する。
検討すべき項目は次のようにたくさんある。
・ 早く届ける──宅配便で対応するのか、それとも自社の軽貨物車両で運ぶのか。
・ 受取場所を選択できる──在庫の引当順位をどうするのか、統合在庫をどのように持つのか。
・ メッセージカードを選べる──受注システムは何をどう使うべきか。
・ 複数商品を同梱で届ける──WMSへのオーダーをどのように行うのか。
・ ノベルティグッズを同梱する──在庫管理をどうするのか。
筆者の友人の物流コンサルタント、LiNKTHの小橋重信代表は、「実店舗でもECでも結局は“ブランド”を売ることに変わりはない。
だからこそ物流が担うのものは大きい」として、物流オペレーションを図3のように「基本作業」と「こだわり作業」に分けて再定義している。
これまで物流事業者は、物流センターやトラックなどのアセットや物流ネットワークをアピールにしてきた。
しかし、それらはあくまで「基本作業」の範疇である。
物流センターの自動化・無人化、シェアリングをどれだけ進めても、料金体系をどれだけ工夫しようが、荷主の顧客満足度にそのままつながるわけではない。
EC物流にチャレンジするとは「こだわり作業」で差別化することである。
それは物流をコストセンターから付加価値業務に変える絶好のチャンスでもある。
