2020年8月号
特集
特集
【調査】日本企業のSCM組織はどう動いたのか
再び混乱したサプライチェーン
新型コロナの感染拡大で再びサプライチェーンが混乱している。
突発的な環境の変化に対応するには、状況を適切に把握して、調達先を変更したり、生産量を調整したり、サプライチェーンの組み替えなどを柔軟に実施しなければならない。
そうしたサプライチェーンの柔軟性が重要であることは、新型コロナの問題が起きて初めて指摘されたわけではない。
特に組織面において、サプライチェーンを一元管理する指令塔が必要であることは、東日本大震災をはじめ、災害、疫病、地政学リスクが起きるたびに指摘されてきた。
しかし、残念ながら今回も混乱を避けることはできなかった。
そこで野村総合研究所では、あらためて日本企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)の現状を把握し、課題を整理しておくことが必要であるとの認識に立ち、日本企業のSCMの実務家を対象とするインターネットアンケート調査を実施した。
その調査概要は次の通りである。
【調査方法】インターネットアンケート調査 【対象】以下の条件を全て満たす全国の満20~69歳の男女個人。
国内に本社のある、メーカー・小売・卸のいずれかを主な業務とする企業に勤務。
役職がSCM・物流・購買・貿易企画・管理のいずれか 【有効回答数】309人 【実施時期】2020年5月18日~5月20日 以下、本稿では同調査結果を基に、日本企業が新型コロナの感染拡大に対して、どのようにサプライチェーンをコントロールしたのか、それはどのような組織体制の下で実施されたのか、何が課題として残ったのか、そして課題をどう乗り越えるべきかを検討する。
図1は「サプライチェーン上で実施した対策」に対する回答を、「製造業」「卸・小売業」の業種別に表している。
製造業においては、調達量や製造量の引き下げをした割合が高く、実施率は50%前後となった。
卸・小売業では、調達量の引き下げや調達品在庫量の引き下げを行ったケースが多く、実施率は40%前後となった。
卸・小売業では他にも、調達品の変更や製品在庫量の調整を行った企業が多く、多岐にわたる対策が必要になっていたと想定される。
製造量や調達量を引き下げた企業が多いであろうことは、われわれの事前の予想通りであった。
しかし、必ずしもそこに回答が集中したわけではなく、製造量・調達量あるいは在庫量の引き上げに動いた企業がかなりの割合に達するなど、企業によって対策がばらけた点は想定外であった。
調達先の変更についても、調査をした5月中旬時点での実施は難しいだろうと踏んでいたが、製造業で25・8%、卸・小売業で15・5%が実施していたのは予想以上だった。
また製造業、卸・小売業共に20%以上が出荷トラック数や作業人員の引き下げを行っている。
調達量や製造量の抑制の結果として、物流体制にも広く対策が必要になったと考えられる。
図には掲載していないが、調査結果を企業規模別にみると、調達先の変更、調達品や製品の在庫調整、トラック数や作業人員数の調整といった点で大企業の方が対策を実施した割合が高かった。
規模の大きい企業ほど、扱う量や商材の種別が多く、調整の必要な事項が多かったためと想定される。
次に、サプライチェーン上の対策を実施した主体を見る。
サプライチェーンを調達から生産、販売まで一元的に管理する組織(以下、SCM部門)が対応したケースが、製造業、卸・小売業共に50%強を占めた。
一方、営業部門や工場といった現場組織が対応した割合は35%前後であった(図2)。
大企業ではSCM部門がある割合が70%を超えているのに対し、中小企業では43%にとどまっている。
中小企業においてはSCMの専門部署の整備が進んでいないことが伺える(図3)。
一部、SCM部門があったにもかかわらず現場組織が対応したケースもあった。
その理由としては、現場判断を優先したことや、SCM部門の調整能力不足が挙げられている。
SCM部門が需給計画を策定しても調整機能までは果たせておらず、声の大きな営業部門や生産部門に振り回されている姿が浮かぶ。
SCM部門については従来から日本の製造業は、サプライチェーン全体をコントロールするという志向自体が欧米企業に比べて弱いと指摘されてきた。
日本の現場では創意工夫が重視されること、全体統一されていなくても現場レベルでの調整でカバーできてしまうことなどが背景としてあった。
しかし、危機対応においては、そうした日本のSCM組織の特性が制約となる可能性がある。
浮かび上がった課題 図4は、今回の混乱を踏まえて、今後注力すべきサプライチェーンマネジメント上の課題についての回答だ。
「組織体制の改革」「業務プロセスの改革」「ITインフラの強化」が主な課題として挙がっている。
特に業務プロセスの改革の重要性を挙げた回答が60%を超えたことは注目に値する。
この傾向に企業の規模や業種による偏りはなかった。
組織体制よりも業務プロセス改革やITの強化を課題として挙げる企業が多かったのは意外であった。
組織強化、業務改革、ITインフラの強化、すなわちデジタル化の推進が必要との認識はわれわれの予想以上に広く共有されているようだ。
課題の詳細(図5)を見ると、組織体制の改革については、業務横断的にSCMを統括する組織機能の整備を挙げた割合が最も多かった。
SCM部門への権限付与、現場組織間での情報共有する場・体制の整備を挙げた割合もそれぞれ20%以上あり、サプライチェーンを管理する上での基本的な体制整備が必要な企業がまだ多いことが明らかになった。
さらに業種別にみると、製造業では、SCM部門の整備の必要性を挙げた企業が39%と多く、卸・小売業では現場組織間での情報共有の場の整備を挙げた企業が33%と最も多かった。
卸・小売業の場合、複数の倉庫や販売拠点とのやり取りが多く発生すると考えられるため、これら拠点との調整の重要性が認識されていると考えられる。
次に業務プロセス改革については、製造業では、部品の共通化や調達先の多様化を挙げる声が20%前後を占めており、調達面でのリスクマネジメントの重要性は広く認識されている。
ただし、それ以上に多かったのが、業務フローの標準化や効率化を挙げる割合だ。
特に卸・小売業では50%に達している。
卸・小売業は製造業と比較して業務が属人的かつアナログであり、そのことが非常時の対応余力を低くしてしまうといった危機感が背景にあると考えられる。
ITインフラ強化(デジタル化推進)については、AI等を用いた需要予測の精度向上や、電子タグなどのIoTを活用したサプライチェーンの可視化を挙げる企業が多かった。
製造業では、需要予測の精度向上が最も選択された(41%)。
コロナ禍のような突発事象発生時においても、生産計画に直結する需要予測の高度化への強い課題認識が背景にあると考えられる。
一方、卸・小売業では、需要予測の精度向上よりもサプライチェーンの可視化を課題としている企業の方が多く、45%を占めた。
緊急対応を行うためにも、何をどこに送るか、どう在庫するかといった正確な情報をリアルタイムで把握したいとのニーズが強いと考えられる。
可視化、見える化には多くの企業が従来から取り組んできた。
しかし、個品レベルの可視化を実現しているのは高額商材を扱っているメーカーやSPAの一部などに限られる。
単価の低い商品はRFIDのタグや貼付コストがハードルになる。
また、多くの企業で構成するサプライチェーンにおいては、どのプロセスでタグを貼付するのかといった問題も解決しなければならない。
一方で多頻度小口化は加速している。
従来の車両単位、ユニット単位の可視化から個品単位の可視化に精度を上げていく必要があるだろう。
組織・業務プロセス・ITの改革急げ 以上、今回の調査結果から、日本企業は新型コロナの感染拡大による市場の混乱を受け、調達・生産量の調整や在庫調整などの対策を打ってはいるが、組織・業務プロセス・ITのそれぞれの面で課題を抱えていることが分かる。
組織面では、サプライチェーンを管理する上での「司令塔になるような体制の整備」を課題と考える企業が多かった。
その必要性は従来から指摘されているにもかかわらず、中小企業を中心に整備が十分でないことが明らかとなった。
コロナの第2波に向け、迅速な取り組みが求められる。
加えて、コロナ禍のような突発事象に直面してもSCMを機能させるためには、管理組織が、瞬時に状況を把握し、適切に対応できるようになっていることが必要であり、そのためには、(IT面での課題としても挙げられた)電子タグなどのIoTを活用した「サプライチェーンの可視化」が喫緊の課題であるとわれわれは認識している。
業務プロセス上の課題に挙げられた「業務フローの標準化や効率化」も突発事象への速やかな対応には欠かせない。
属人的な業務やアナログでの業務に依存する体制は、対応の遅れにつながる。
慣れ親しんだ業務プロセスを見直し、標準化したプロセスを組織に浸透させるのは容易でない。
これを乗り越えるには、IT化やデジタル化を駆使して属人的なプロセスが入り込む余地をなくすこと、業務の効率化、標準化を守らせるための業務企画部門を設置すること、KPG、KPIの設定などの管理運用方法を整備することが重要であろう。
サプライチェーンに甚大な影響を与える事象は今回の新型コロナで終わりではない。
災害や疫病は今後も繰り返される。
サプライチェーンの柔軟な対応の巧拙は、企業の存続にも関わるテーマである。
その生々しい実感が残っている今こそ改革に本気で取り組むべきであろう。
突発的な環境の変化に対応するには、状況を適切に把握して、調達先を変更したり、生産量を調整したり、サプライチェーンの組み替えなどを柔軟に実施しなければならない。
そうしたサプライチェーンの柔軟性が重要であることは、新型コロナの問題が起きて初めて指摘されたわけではない。
特に組織面において、サプライチェーンを一元管理する指令塔が必要であることは、東日本大震災をはじめ、災害、疫病、地政学リスクが起きるたびに指摘されてきた。
しかし、残念ながら今回も混乱を避けることはできなかった。
そこで野村総合研究所では、あらためて日本企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)の現状を把握し、課題を整理しておくことが必要であるとの認識に立ち、日本企業のSCMの実務家を対象とするインターネットアンケート調査を実施した。
その調査概要は次の通りである。
【調査方法】インターネットアンケート調査 【対象】以下の条件を全て満たす全国の満20~69歳の男女個人。
国内に本社のある、メーカー・小売・卸のいずれかを主な業務とする企業に勤務。
役職がSCM・物流・購買・貿易企画・管理のいずれか 【有効回答数】309人 【実施時期】2020年5月18日~5月20日 以下、本稿では同調査結果を基に、日本企業が新型コロナの感染拡大に対して、どのようにサプライチェーンをコントロールしたのか、それはどのような組織体制の下で実施されたのか、何が課題として残ったのか、そして課題をどう乗り越えるべきかを検討する。
図1は「サプライチェーン上で実施した対策」に対する回答を、「製造業」「卸・小売業」の業種別に表している。
製造業においては、調達量や製造量の引き下げをした割合が高く、実施率は50%前後となった。
卸・小売業では、調達量の引き下げや調達品在庫量の引き下げを行ったケースが多く、実施率は40%前後となった。
卸・小売業では他にも、調達品の変更や製品在庫量の調整を行った企業が多く、多岐にわたる対策が必要になっていたと想定される。
製造量や調達量を引き下げた企業が多いであろうことは、われわれの事前の予想通りであった。
しかし、必ずしもそこに回答が集中したわけではなく、製造量・調達量あるいは在庫量の引き上げに動いた企業がかなりの割合に達するなど、企業によって対策がばらけた点は想定外であった。
調達先の変更についても、調査をした5月中旬時点での実施は難しいだろうと踏んでいたが、製造業で25・8%、卸・小売業で15・5%が実施していたのは予想以上だった。
また製造業、卸・小売業共に20%以上が出荷トラック数や作業人員の引き下げを行っている。
調達量や製造量の抑制の結果として、物流体制にも広く対策が必要になったと考えられる。
図には掲載していないが、調査結果を企業規模別にみると、調達先の変更、調達品や製品の在庫調整、トラック数や作業人員数の調整といった点で大企業の方が対策を実施した割合が高かった。
規模の大きい企業ほど、扱う量や商材の種別が多く、調整の必要な事項が多かったためと想定される。
次に、サプライチェーン上の対策を実施した主体を見る。
サプライチェーンを調達から生産、販売まで一元的に管理する組織(以下、SCM部門)が対応したケースが、製造業、卸・小売業共に50%強を占めた。
一方、営業部門や工場といった現場組織が対応した割合は35%前後であった(図2)。
大企業ではSCM部門がある割合が70%を超えているのに対し、中小企業では43%にとどまっている。
中小企業においてはSCMの専門部署の整備が進んでいないことが伺える(図3)。
一部、SCM部門があったにもかかわらず現場組織が対応したケースもあった。
その理由としては、現場判断を優先したことや、SCM部門の調整能力不足が挙げられている。
SCM部門が需給計画を策定しても調整機能までは果たせておらず、声の大きな営業部門や生産部門に振り回されている姿が浮かぶ。
SCM部門については従来から日本の製造業は、サプライチェーン全体をコントロールするという志向自体が欧米企業に比べて弱いと指摘されてきた。
日本の現場では創意工夫が重視されること、全体統一されていなくても現場レベルでの調整でカバーできてしまうことなどが背景としてあった。
しかし、危機対応においては、そうした日本のSCM組織の特性が制約となる可能性がある。
浮かび上がった課題 図4は、今回の混乱を踏まえて、今後注力すべきサプライチェーンマネジメント上の課題についての回答だ。
「組織体制の改革」「業務プロセスの改革」「ITインフラの強化」が主な課題として挙がっている。
特に業務プロセスの改革の重要性を挙げた回答が60%を超えたことは注目に値する。
この傾向に企業の規模や業種による偏りはなかった。
組織体制よりも業務プロセス改革やITの強化を課題として挙げる企業が多かったのは意外であった。
組織強化、業務改革、ITインフラの強化、すなわちデジタル化の推進が必要との認識はわれわれの予想以上に広く共有されているようだ。
課題の詳細(図5)を見ると、組織体制の改革については、業務横断的にSCMを統括する組織機能の整備を挙げた割合が最も多かった。
SCM部門への権限付与、現場組織間での情報共有する場・体制の整備を挙げた割合もそれぞれ20%以上あり、サプライチェーンを管理する上での基本的な体制整備が必要な企業がまだ多いことが明らかになった。
さらに業種別にみると、製造業では、SCM部門の整備の必要性を挙げた企業が39%と多く、卸・小売業では現場組織間での情報共有の場の整備を挙げた企業が33%と最も多かった。
卸・小売業の場合、複数の倉庫や販売拠点とのやり取りが多く発生すると考えられるため、これら拠点との調整の重要性が認識されていると考えられる。
次に業務プロセス改革については、製造業では、部品の共通化や調達先の多様化を挙げる声が20%前後を占めており、調達面でのリスクマネジメントの重要性は広く認識されている。
ただし、それ以上に多かったのが、業務フローの標準化や効率化を挙げる割合だ。
特に卸・小売業では50%に達している。
卸・小売業は製造業と比較して業務が属人的かつアナログであり、そのことが非常時の対応余力を低くしてしまうといった危機感が背景にあると考えられる。
ITインフラ強化(デジタル化推進)については、AI等を用いた需要予測の精度向上や、電子タグなどのIoTを活用したサプライチェーンの可視化を挙げる企業が多かった。
製造業では、需要予測の精度向上が最も選択された(41%)。
コロナ禍のような突発事象発生時においても、生産計画に直結する需要予測の高度化への強い課題認識が背景にあると考えられる。
一方、卸・小売業では、需要予測の精度向上よりもサプライチェーンの可視化を課題としている企業の方が多く、45%を占めた。
緊急対応を行うためにも、何をどこに送るか、どう在庫するかといった正確な情報をリアルタイムで把握したいとのニーズが強いと考えられる。
可視化、見える化には多くの企業が従来から取り組んできた。
しかし、個品レベルの可視化を実現しているのは高額商材を扱っているメーカーやSPAの一部などに限られる。
単価の低い商品はRFIDのタグや貼付コストがハードルになる。
また、多くの企業で構成するサプライチェーンにおいては、どのプロセスでタグを貼付するのかといった問題も解決しなければならない。
一方で多頻度小口化は加速している。
従来の車両単位、ユニット単位の可視化から個品単位の可視化に精度を上げていく必要があるだろう。
組織・業務プロセス・ITの改革急げ 以上、今回の調査結果から、日本企業は新型コロナの感染拡大による市場の混乱を受け、調達・生産量の調整や在庫調整などの対策を打ってはいるが、組織・業務プロセス・ITのそれぞれの面で課題を抱えていることが分かる。
組織面では、サプライチェーンを管理する上での「司令塔になるような体制の整備」を課題と考える企業が多かった。
その必要性は従来から指摘されているにもかかわらず、中小企業を中心に整備が十分でないことが明らかとなった。
コロナの第2波に向け、迅速な取り組みが求められる。
加えて、コロナ禍のような突発事象に直面してもSCMを機能させるためには、管理組織が、瞬時に状況を把握し、適切に対応できるようになっていることが必要であり、そのためには、(IT面での課題としても挙げられた)電子タグなどのIoTを活用した「サプライチェーンの可視化」が喫緊の課題であるとわれわれは認識している。
業務プロセス上の課題に挙げられた「業務フローの標準化や効率化」も突発事象への速やかな対応には欠かせない。
属人的な業務やアナログでの業務に依存する体制は、対応の遅れにつながる。
慣れ親しんだ業務プロセスを見直し、標準化したプロセスを組織に浸透させるのは容易でない。
これを乗り越えるには、IT化やデジタル化を駆使して属人的なプロセスが入り込む余地をなくすこと、業務の効率化、標準化を守らせるための業務企画部門を設置すること、KPG、KPIの設定などの管理運用方法を整備することが重要であろう。
サプライチェーンに甚大な影響を与える事象は今回の新型コロナで終わりではない。
災害や疫病は今後も繰り返される。
サプライチェーンの柔軟な対応の巧拙は、企業の存続にも関わるテーマである。
その生々しい実感が残っている今こそ改革に本気で取り組むべきであろう。
