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2020年8月号
特集

【海運】3大アライアンス体制が環境変動を吸収

反グローバル化とデジタル化  2008年のリーマンショックは、サブプライムローンに対する信用不安が債券市場全体に広がった金融主導の社会問題であった。
言い換えれば、銀行を中心とした信用危機であった。
今回の新型コロナ問題は、世界的な実体経済の停滞を招いたという点でリーマンショックとは状況が異なる。
 世界の財輸出入額は直近20年間で3・4倍に増加した。
経済のグローバリゼーションによるところが大きい。
しかし、ここに来て、米中貿易摩擦や英国のEU離脱など世界の分断化と反グローバリズムの兆しが表れていた。
そして新型コロナは、その動きを加速させることとなった。
 米中貿易摩擦は、18年春のトランプ政権によって中国製品への関税の賦課および引き上げが発動され、中国も米国からの輸入品に関税をかける報復措置を取ったことから始まった。
さらに同年11月、米国が中国通信機器大手ファーウェイに対する締め付けを強化したことで、貿易摩擦から覇権争いへと様相が変わった。
 その結果、一部製造業においては国内回帰やサプライチェーンの見直しが進められている。
米中貿易摩擦を契機に製造拠点を中国から主としてベトナムやタイなど東南アジアにシフトする動きが見られる。
そこに新型コロナが発生したことで、中国依存に対する危機感がいっそう強まり、サプライチェーンの見直しを加速させた。
このことは海上の荷動きにも大きな影響を与えている。
 新型コロナによるもうひとつの変化は、経済・社会のデジタル化の加速である。
外出自粛によりリモートワークやウェブ会議、オンライン学習などが一気に広がりを見せている。
デジタル化の進展は、海運経営の在り方にも大きな影響を及ぼす。
 本稿では新型コロナ感染拡大による海運マーケットへの影響を、国家の分断によるサプライチェーンの見直しとデジタル化という変化を中心に考察する。
なお、海運は大きく外航海運と内航海運に分けられるが、ここでは外航海運に焦点を当て、主としてコンテナ船による定期船業界に的を絞った。
新型コロナの海上荷動きへの影響  世界港湾におけるコンテナ取扱量は、2000年〜18年の18年間で、同時期における財輸出入額とほぼ同じ3・5倍に増加した。
WTO(世界貿易機関/World Trade Organization)は、20年の財貿易の前年比伸び率を、楽観的シナリオで▲12・9%、悲観的シナリオでは▲31・9%という大きな落ち込みを予想している(表1)。
 IMF(国際通貨基金/International Monetary Fund)の経済成長率の予測は、19年の2・9%に対して、20年は当初、標準シナリオで▲3・0%、新型コロナの影響長期化シナリオでは▲5・8%であったが、その後、標準シナリオを▲4・9%に引き下げた。
 世界銀行の予測は▲5・2%。
ただし、回復が遅れれば▲8%と、さらなる下振れを発表した。
また、OECDは、年内に感染が終息した場合を▲6・0%、再拡大した場合には▲7・6%と公表した。
いずれの国際機関も新型コロナの影響により20年の世界経済は大幅に落ち込むと予測している。
 定期船の荷動きは、二つの特徴を持っている。
一つは、経済の動きに対して、その影響がやや遅れて現れるということだ。
そして二つ目は、経済成長率(GDP)よりもその振れ幅が大きく現れることである。
 リーマンショック時には、08年の世界のGDPが▲0・5%であったのに対して、その翌年の港湾におけるコンテナ取扱量は▲12%と大きく落ち込んだ。
今回の新型コロナによる影響はそれ以上であるというのが一般的な見方である。
WTOの財貿易見通しやIMFの経済成長率の見通しからもそれは明らかだ。
 この先、新型コロナの影響がどのくらい続くかはまだ不透明である。
中国では生産が再開されたが、商品の主要輸出先である米国、欧州はまだ回復に至らず、海上荷動きへの影響は21年までずれ込むことも考えられる。
いずれにしても、20年のコンテナ取扱量は、▲13%から▲32%の間で大きく落ち込むことが予想される(図1)。
 ちなみに、米コンサルティング会社のアリックス・パートナーズは20年の世界の自動車販売台数を昨年比21%減の7050万台と予測している。
定期船荷動きも、リーマンショック時以上の落ち込みは覚悟しなければならないだろう。
 世界主要港の20年第1四半期のコンテナ取扱量は、中国は上海が前年同期比▲10・4%、寧波・舟山▲8・2%、深圳▲11・9%、広州▲10・3%などの落ち込みが大きい。
米国もロサンゼルス▲18・5%、ロングビーチ▲6・9%と厳しい状況にある。
 シンガポール4・2%増、タイ▲2・4%など、医薬品や食品が伸び、輸出が堅調な港も一部には見られる。
しかし、そのシンガポールも4月以降はマイナスになり、5月は前年同期比▲10・5%と落ち込んでいる。
欧州の港湾は、第1四半期の影響は比較的軽微であったが、自動車産業の大規模な操業停止などの影響が第2四半期以降に現れると予想される。
楽観は許されない状況にある。
定期船(コンテナ)運賃への影響  定期船(コンテナ)荷動きが大きく落ち込む一方、運賃は堅調に推移している。
これまでは、荷動きが減少すると船腹過剰から過当競争に陥り、運賃が下落するのが常であった。
空で運航するよりコンテナ一本でも欲しいという考え方が浸透していた。
この悪循環に変化が起きた契機はリーマンショックによる景気後退であった。
 マースクラインに牽引される形で、1980年代後半から船舶の大型化によるコストダウンが進み、低コストを武器にした運賃競争が起きていた。
荷動きの減少はそこに拍車をかける傾向にあった。
 しかし、リーマンショック以降、運賃競争を避けるために減速運航や係船により船腹量を調整する戦略に大きく舵が切られた。
コンテナ船の航海速度を25ノットから20ノット以下に抑えることが一般的となった。
運賃競争からコスト・採算重視への戦略転換である(図2)。
 こうした転換を可能にしたのは、定期船業界の寡占化である。
定期船業界では、1990年代からM&Aや合併が急速に進み、メジャープレーヤーの数は減少していった。
現在は三つのアライアンス(国際戦略提携)を構成する9社がコンテナ船の船腹量の約80%を占める寡占市場を形成している。
その結果、荷動きの減少に対応する需給調整が容易になった。
 今回の新型コロナでも各アライアンスとも大幅な減便を実施しており、船腹需給はむしろタイト感が出ている。
「ザ・アライアンス」と「2Mアライアンス」は、それぞれ第3四半期の減便を既に表明している。
また、ザ・アライアンスは、欧州航路の復航をスエズ運河経由から喜望峰経由に変更してコスト削減を図っている。
 この二つに「オーシャン・アライアンス」を加えた世界3大アライアンス体制下の需給調整機能は当面有効に機能することが見込まれる。
大きな運賃下落には至らないであろう。
 定期船業界にアライアンスが登場したのは1995年である。
当初は、マースクラインやエバーグリーンなど、アライアンスには参加せずM&Aなどで単独で規模の拡大を図る船社と、日本船社を中心としたアライアンス体制で生き残りを図ろうとする二つのグループに分かれており、またアライアンスのメンバーの組み換えも行われていた。
 2001年時点では、世界規模で主要航路にサービス網を持つ定期船会社22社のうち13社がアライアンスに参加していた。
22社の船腹量(TEUベース)のシェアは市場全体の約80%であった。
その後、APLやP&O Nedlloydなど欧米の名門船社が次々と淘汰され、19年までに世界の大手定期船会社は9社に集約された。
 リーマンショック後は全ての大手船社がアライアンスに参加、3大アライアンス体制が構築された。
現在の3大アライアンス9社のシェアは80%超である。
船舶調整などはアライアンスごとに実施されることから、船腹調整を迅速に実施することが可能となり、その結果として、大幅な荷動き減少にもかかわらず運賃レベルを維持できているものと考えられる。
新型コロナと船員  日本商船隊は外国籍船2235隻、日本国籍船261隻、計2496隻(2019年4月)を数えるが、それらに乗船する日本人船員は、わずか2093人(職員1663人、部員430人)である。
つまり、日本商船隊の船員はほとんどが外国人船員であり、中でも一番多いのがフィリピン人だ。
フィリピンは世界一の船員供給国であり、OFW(Overseas Filipino Worker)と呼ばれる海外雇用者は、世界の船員の20%を占めている。
フィリピン人船員の総数は、漁船の乗組員などを含めると45万人ともいわれる。
 現在、新型コロナ対策で各国とも入国制限をしており、船員の交代が出来ない状況に陥っている。
5月末時点で、全世界で約1万5千人の船員が契約による交代の時期にもかかわらず、下船、帰国が出来ず乗船勤務を続けている。
一方、待機船員は、乗船できず、給与がないという状況にある。
これに対し、日本も含めシンガポールやインドネシアでは、PCR検査を前提に少しずつ船員交代の入国規制を緩和する動きも出てきている。
 フィリピンでは、船員以外のOFWの帰国が相次いでいる。
その多くは欧米からの帰国者で、5月の海外からの帰国者は推定3万人。
そのうちの2%に当たる約600人が新型コロナに感染していた。
今後2〜3カ月間で新型コロナの影響により海外で職を失ったOFWが、15万人ほど帰国すると予想されており、感染拡大が懸念されている。
マニラにおける帰国者のPCR検査体制は必ずしも十分ではなく、既に検査の遅延によって立ち往生を余儀なくされる帰国者もいるという。
 こうした中、船員の新型コロナ感染予防とスムーズな交代体制の構築が望まれる。
船員の管理は船舶管理会社の役割であるが、関係者が一致協力して行うことが必要である。
サプライチェーン再構築の影響  米中貿易摩擦に加え、新型コロナの感染拡大による経済の悪化を背景に、グローバルサプライチェーンから中国を切り離す動きが出ている。
 輸出入ともに中国への依存度が高い韓国では、部品を調達できない企業が続出している。
現代自動車は20年2月4日から国内7カ所全ての工場の操業を停止せざるを得なくなった。
また、サムソンやLG、SKハイソニックなどのハイテク産業も同様の事態に陥ると報道された。
 自動車部品の中国への依存度の高さは日本も同様で、19年の中国からの輸入比率は全体の37%に達している。
安部首相は3月の官邸で開催された政府主催の未来投資会議で「一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものは日本への生産拠点の回帰を図り、そうでないものについても、一国に依存せずASEAN諸国への生産拠点の多元化をはかる」という方針を示した。
実際に、ロームやジャパンディスプレイ(JDI)などでは中国など海外にある電子部品の製造工程を国内に移管する動きがある。
 日本経済新聞が緊急事態宣言の解除後に中国国内に工場を持つ企業経営者を対象に行ったアンケート調査では、72・1%がサプライチェーンを見直す「必要がある」と回答した。
その手法としては、「危機発生に対応し柔軟に調達先を変更できるようにする」が65・3%、「特定国への集中を見直し分散化を進める」が57・1%であった。
 こうしたサプライチェーン見直しの動きは、米中貿易摩擦が始まったころから既に見られていた。
中国への過度な集中によって生じる高関税や人件費高騰のリスクを避けるため、東南アジアへのシフトが進んだ。
 例えば、アシックスは、米国向けシューズ生産を18年秋までに中国からベトナムやインドネシアに移管した。
リコーは、米国向け複合機の生産拠点を19年7月に中国からタイ工場に移管。
任天堂は、家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の生産の一部を19年夏、中国からベトナムに移管した等、多くの例が挙げられる。
 定期船の荷動きについても、新型コロナ以前から米中貿易摩擦の影響で中国発米国向けが減少しており、その分がベトナムやタイからの輸出増加となって表れていた。
 グローバル経済は、最適地生産・最適地販売を基本としてサプライチェーンを地球規模に広げてきた。
それに対して新型コロナは、ヒト、モノの移動を制限する点において反グローバリゼーションの動きを助長するものである。
リスク回避の観点から、脱中国、東南アジアシフト、国内回帰によるサプライチェーンの見直しが加速している。
 しかしながら、国内回帰にそれほど多くを期待することはできないだろう。
経済合理性を考えれば、国内生産に戻るのは電子部品や医薬関連製品など一部に限られると考えられる。
東南アジアシフトは確実に進むとみられるがそれも時間はかかりそうだ。
 サプライチェーンの変更は簡単ではない。
それは時間をかけて徐々に一つのサプライチェーンを複数化していく多重化現象となって現れる。
その結果、定期船荷動きが徐々に影響を受けることは間違いがない。
しかしながら、先述の通り現在の定期船業界は3大アライアンスによる寡占化が実現しており、船腹需給を含めて航路改変等の柔軟性を備えている。
供給体制に問題はないと考えられる。
デジタル化・自動化の影響  新型コロナの感染拡大防止のために多くの企業がテレワークを採り入れた。
海運業界も例外ではない。
しかし、B/L(船荷証券)がテレワーク導入の壁になった。
B/Lの発行だけでなく輸入貨物引き取りにおけるB/Lの差し入れなどの業務もあり、完全な在宅勤務は難しいことがあらためて認識された。
B/Lの電子化の議論は1990年代にまで遡るが、これまで実施には至っていなかった。
しかし、新型コロナをきっかけに実現に向けて大きく前進し始めた。
 2019年、定期船業界ではデジタルの標準化を図るために「DCSA(Digital Container Shipping Association)」が設立されて、B/L電子化を含む業務プロセスやデータの取り扱いに関する標準化の策定が進められてきた。
航空貨物分野ではIATAにより10年に「e-Waybill」が既に導入されており、その利用率は68%に達している。
DCSAによれば、海運業界に電子B/Lが導入されて、その利用率が50%に達すれば年間40億ドルのコスト削減効果があるという。
また、ブロックチェーン技術もB/Lの電子化を支援する材料になる。
 ブッキング業務のデジタル化においても日本は他国に比べ大きく後れを取っていたが、新型コロナの影響でオンライン化がにわかに進んでいる。
 こうした業務のデジタル化は海運の周辺でも進んでいる。
フォワーダー業界ではデジタルフォワーダーが登場し、またコンテナターミナルではAIの活用や自動化ターミナルの整備が進んでいる。
わが国の国土交通省もAIターミナルの推進を掲げており、20年度の第1次補正予算では港湾デジタル化加速関連予算として約8億円を計上している。
 海運およびその周辺業界におけるデジタル化や、AIの利用促進とそれらの有機的結合によってサプライチェーン全体の効率化を図るためのプラットフォームとして、マースクラインとIBMが提唱する「トレードレンズ」の利用も加速すると見込まれる。
 デジタル化は、貨物情報が途切れることなくサプライチェーンの基点から終点まで貨物の「見える化」を実現する。
このことは既に、マースクラインなど一部の定期船会社の戦略にも表れている。
海上輸送にそれ以外の物流業務(陸上輸送やフォワーディングなど)を含めた垂直統合の動きである。
こうした垂直統合の動きが、デジタル化の進展によってより拡大、加速されると予想される。
まとめ  現在、定期船業界は新型コロナの影響で荷動きが激減しているが、減速運航や減便などの船腹調整により運賃は下がっていない。
その背景には、定期船業界の構造変化がある。
つまり、3大アライアンス体制による市場寡占化が需給調整を可能にした結果である。
 今後、製造業を中心に脱中国、サプライチェーンの多重化が進むと考えられるが、その進展は一足飛びではなく徐々に進む。
定期船業界はその変化に対応する十分な力を備えており、供給体制に問題はないとみられる。
運賃の大幅な下落も当面考えにくい。
 新型コロナを契機に今後、電子B/Lだけでなく、デジタルフォワーダーやAIターミナルなど、定期船業界を取り巻く関連業界も含めて、デジタル化・自動化やAIの利用が加速度的に進むと考えられる。
 新型コロナは、海上荷動きの減少という意味では定期船業界にとって打撃である。
しかし、それ以前から始まっていたサプライチェーンの見直しやデジタル化などを加速させる効果をもたらすということである。

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