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2020年8月号
特集

【航空貨物】アフターコロナに向けた三つのシナリオ

ベリースペースの供給減で運賃が急騰  2019年12月に中国の武漢で発生した新型コロナウイルスのパンデミックは瞬く間に世界中に広がり、出入国の禁止など「ヒト」の移動を止めた。
その一方で、「モノ」の動きは、陸・海・空のいずれも多少の制限はあるものの、止まっていない。
 国際航空貨物輸送は新型コロナにどのような影響を受けたのか。
まずはJAFA(航空貨物運送協会)が毎月発表している航空貨物取扱実績でその動向を見てみよう(図表1)。
なお、本稿でいう国際航空貨物輸送は主に日本発着の荷物を指す。
 新型コロナ以前を振り返ると、国際航空貨物輸送は16年5月以降、18年10月ごろまでは堅調な状態が続いていた。
当初は自動車部品関連および電子・電気機器関連品のスポット需要が入るようになったことから前年同月比プラスで推移する傾向だった。
17年以降も電装品など自動車関連の荷動きが新たに盛り上がることなどで好調を継続していた。
 しかし、18年11月以降、アジア・オセアニア向け(TC-3)の半導体関連荷物が落ち込み始めた。
この動きはTC-3以外の各方面でも広がった。
落ち込みが一巡したのは19年11月以降。
アジア・オセアニア向けが底堅く推移し始めた。
また北米向け(TC-1)や欧州向け(TC-2)は自動車部品関連輸送を中心に引き続き軟調に推移していた。
 このような状況下で、新型コロナの世界的な流行が始まった。
20年1月の日本発航空貨物取扱重量は前年比24・2%減の6万5345トン。
この時点では新型コロナの感染拡大は中国・武漢を中心に展開されており、航空貨物に与える影響は特にみられなかった。
 続く2月は14・4%減の7万3833トン。
今年の春節は1月25日だったため、春節の期間が前年(19年の春節は2月5日)よりも影響しなかったことで2月の減少幅は縮小した。
アジア・オセアニア向けは2・2%減の微減となった。
 一方、中国・台湾・香港・シンガポールはプラスに転じた。
半導体関連の荷動きがあったことが要因とみられる。
この時点で新型コロナの影響はアジアを中心に広がり始めていたものの、やはりまだ限定的であった。
 3月に入ってから本格的に新型コロナの影響が拡大し始めた。
3月の日本発航空貨物取扱重量は24・6%減の6万9321トン。
欧米でのロックダウン(都市封鎖)に伴う工場閉鎖などで生産が停止し、輸送量が急速に減少した。
さらに旅客便の欠航が相次ぎ、旅客機の貨物室(ベリー)が使えなくなったため、需給が一気にタイトになった。
輸送数量の「底」は5月か  IATA(国際航空運送協会)のデータによると、世界全体のACTK(Available Cargo Tonne Kilometers 輸送可能トンキロ:供給量を示す)は20年1月に0・2%増、2月3・5%減で推移していたが、3月に入り、24・6%減と急減した。
Asia Pacificでは1月が0・4%増、2月は8・1%減、3月が27・8%減と早期から新型コロナの影響が出ていたこともあり、減少幅は他のエリアと比べて拡大していた。
その結果、「荷物はあるが、運べない」状態となり、航空原価が急騰した(図表2)。
 4月に入って新型コロナの影響はさらに拡大し、日本発航空貨物取扱数量は36・6%減の5万4172トンとなった。
欧米のロックダウンの影響が顕著となり、北米向けが56・3%減の8525トン、欧州向けが56・3%減の7638トンとなった。
欧州向けの取扱量が1万トンを下回るのは13年1月以来、北米向けに至っては1995年以降では初めてである。
これは主に自動車・機械関連の荷動きが停滞したことによるものとみられる。
 4月のACTKは40・9%減を記録、旅客便欠航による貨物スペース不足がより顕著となった。
アジア・オセアニア向けの荷物は半導体部品などの貨物需要が旺盛であったにもかかわらず、3月同様に4月も「荷物はあるが、運べない」状況が継続した。
 5月の日本発航空貨物取扱数量は4月よりもさらに状況が悪化して、38・1%減の4万7487トンとなった。
荷動きのトレンドは4月と大きな変化はなかったが、元々5月はゴールデンウィークなどの関係で営業日数が他の月と比べて少ないほか、日本で4月7日に緊急事態宣言が発令されたことで経済活動が停滞した影響があらわれた。
 方面別では、北米向けが59・8%減の6743トン、欧州向けは54・7%減の6882トンと引き続き1万トンを大きく割り込んだ。
月間の輸送重量が5万トンを切るのは2009年2月以来。
航空貨物の輸送動向を見る限り、新型コロナの拡大が世界経済に与えたダメージはリーマンショック以来の大きさだといえる。
 ただし、その後、世界各国が経済活動を再開し、日本でも5月26日には緊急事態宣言が全国で解除されたことから、輸送数量減は5月でいったん「底」を打ったとみられる。
また、航空貨物需要が底堅いため、ANAなどでは旅客機の客席を貨物スペースとして利用したり、旅客便を貨物室のみで運用したりすることで、少しでも収益を上げようとしている。
欧州を中心に国際線旅客便の運航再開に向けた模索も始まっており、ベリーを中心に航空貨物供給量は徐々に回復していくとみられる。
輸送量の年内回復は困難  では、今後の国際航空貨物マーケットはどのように推移するのだろうか。
 まず、今年年末までの短期的な観点で考察する。
前述のように3月の欧米諸国などでのロックダウン、日本における緊急事態宣言による外出自粛、休業要請などで経済活動は一気に縮小した。
現在はそこから徐々に正常化に向けて動き出し始めた状態である。
 日本の例でいえば、5月25日に公表された外出自粛の段階的緩和の目安が、それにあたるだろう。
ただし、5月25日からのステップゼロは不要不急の県をまたぐ移動は避けるとしており、これは緊急事態宣言時と同様であった。
 6月1日からのステップ1では、首都圏(埼玉、千葉、東京、埼玉)と北海道を対象に「不要不急の県をまたぐ移動を慎重に」とするほか、感染者の少ない府県での外出自粛を解除した。
6月19日からのステップ2で全国の外出自粛を解除した。
この時点でプロ野球が開幕した。
 7月10日からのステップ3では観光目的の県をまたぐ移動も含めて徐々に再開するとしている。
そして移行期間終了後の8月1日を目途に「Go Toキャンペーン」などの観光促進策を実施するという具合である。
 ただし、海外のロックダウン解除の段階の踏み方も日本と同様、徐々に行われていることから、「ヒト」の動き、「モノ」の動きは急激には戻らず、あくまで段階的に進むとみられる。
 また、ワクチンの開発が進んでいるとの報道はあるものの、20年中に希望者全てがワクチン接種できる状況にはとても至らないであろうことや、6月末時点においても世界の新型コロナの新規感染者数が減少していないことを踏まえると、今後も新型コロナの感染は世界的に拡大し続けるとみるのが妥当だろう。
 その場合、国境間の「ヒト」の移動を通常に戻そうとする動きは進むものの、完全には戻らず、旅客便は一部のビジネス客のみが制限付きで利用するにとどまる。
従って、旅客便の運航は少なくとも20年の年内に元に戻ることはなく、貨物スペースの供給減状態は継続するだろう。
 一方、輸送需要は、5G関連の投資が世界的に旺盛であることから、半導体や電子部品は引き続き堅調に推移するとみられる。
自動車の生産台数は稼働再開で輸送数量は回復するものの、元々ピークアウト感があったことから、前年比でもやや軟調に推移するだろう。
よって、航空貨物の輸送数量全体が前年を超えるためには半導体・電子部品輸送が今以上に盛り上がること、そして新型コロナ関連の医療輸送の活発化が必須条件であろう。
三つの中長期シナリオ  続いて21年から25年ごろまでを見据えた中長期的なマーケットの動向を、メインシナリオ、ベストシナリオ、ワーストシナリオの三つの面から考察する。
なお、シナリオの主な変動ファクターには、新型コロナ感染拡大の収束時期、米中関係動向、需要と供給のバランスなどが挙げられよう(図表3)。
メインシナリオ──22年に回復  メインシナリオは、新型コロナの感染拡大はいずれワクチンの開発などで収束するものの、収束するまでには少なくとも2年程度かかるケースである。
これはスペイン風邪(インフルエンザ)が1918年に発生し、収束したのが20年と2年かかったことなどから新型コロナウイルスも同様のケースに該当すると想定した。
 また、スペイン風邪などのパンデミックではいわゆる「第二波」が発生したことから、新型コロナでも第二波が発生すると想定した。
また、米中関係は拮抗し、良くもなく悪くもない状態が継続する。
 このシナリオでは、中国は「世界の工場」としての地位は揺るがないものの、地政学リスク低減のために中国以外の地域に生産拠点を分散させる動きが出てくるとみている。
航空貨物の主要な輸送品である自動車産業および半導体、電子部品産業などの動向も航空貨物需要を占う上で注視する必要があるだろう。
 自動車販売の落ち込みは一時的で、緩やかに回復していく。
それに伴い生産台数も回復する。
電子部品産業は、5G投資などが活発になることで輸送ニーズが拡大する。
この二つは、いずれのシナリオであってもニーズは発生するだろうとみている。
 医薬品も新型コロナウイルスワクチンなどの緊急輸送ニーズが高まる。
これは後述するベストシナリオと同様である。
さらに新産業の存在もある。
過去においてはオリンピックやサッカーのワールドカップが開催される都度、液晶パネルの緊急輸送需要が発生した。
そのような新たな輸送ニーズが出てくる可能性は十分ある。
これもベストシナリオと同様である。
 一方、供給面では、国際線旅客便が徐々に運航を再開することで、貨物スペースは増えてくる。
また一部の旅客機では貨物機への転用などが行われるだろう。
 供給面でもうひとつ重要な要因が海運である。
航空貨物と海運の関係は、高単価で緊急を要する貨物は航空、急を要さず大量に安価で輸送する貨物は海運と棲み分けがなされている。
 今後、海運は需要に合わせた供給の回復が予想される。
一部貨物の「ソラ」から海運の「ウミ」へのシフトはみられるものの、大きな影響は及ぼさないと考える。
従って、航空貨物の数量が新型コロナ前の水準に戻る時期は感染拡大が収束するであろう2022年と想定する。
ベストシナリオ──21年に回復  ベストシナリオは第二波が襲来せず、ワクチンなどの開発が順調に進み、新型コロナに対する脅威が早期に薄れ、国際線旅客便の運航が元の状態に戻る場合である。
このケースにおいても、「世界の工場」と呼ばれる中国での生産集中を分散させる動きは止まらないだろう。
 過去、大規模な感染症はおおむね10年に1度の頻度で発生している。
新型コロナの前には、MERS(2012年:中東呼吸器症候群)、SARS(02~04年:重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ(1997年)、狂牛病(96年:変質型クロイツフェルト・ヤコブ病)などがあった。
 今後も新たな未知の感染症が定期的に流行する可能性は高い。
その対策として、生産拠点をコスト効率化などの観点から一極集中させるのではなく、さまざまな地域に分散化させる必要がある。
拠点が分散化した場合、拠点間を結ぶ輸送手段の確保が必要となり、緊急時には航空貨物需要の拡大が見込まれよう。
 米中関係はビジネスライクにWin-Winの関係を築き、表向きは良好な関係で推移する。
その際には自動車産業の需要が伸びる。
新型コロナの感染が収束しても、引き続き「ヒト」との接触を避けるために自家用車の需要は拡大し、生産台数が増加する。
 供給面では国際線旅客便が回復してスペースも元の状態に戻る。
需給のタイト感はなくなるので、航空貨物運賃は下落するだろう。
競合となる海運は世界経済が回復する中、減便対応している現状から通常の輸送体制に戻すことで輸送能力が回復する。
全体の輸送量も拡大することから航空との「棲み分け」がなされるだろう。
 その結果、航空貨物の数量がコロナ前の水準に戻る時期は21年と想定する。
あくまでも鍵は新型コロナ感染が早期に収束するかどうかに尽きる。
ただ、現時点(20年6月末)では感染拡大が続いているため、ベストシナリオで進行することは恐らく難しいだろう。
ワーストシナリオ──回復せず  ワーストシナリオは、新型コロナの感染拡大が収束しないケースである。
ワクチン開発なども進まず、「ヒト」の移動制限が長期間にわたり続く。
国際線旅客便の運航は元の状態に戻らない。
米中関係は香港への国家安全法適用などの問題で悪化すると想定する。
 この場合、アメリカは「アメリカ・ファースト」を、中国は「一帯一路」をそれぞれ推し進めることになる。
いわゆる「ブロック経済」となり、国際物流量が減少する。
 需要では、新型コロナ感染の拡大影響が長期化することで経済活動が長期にわたり停滞し、自動車販売が落ち込む。
医薬品はガウンなどの緊急輸送ニーズは継続するが、感染拡大が長期化することで自国内での供給体制が整ってくるため、その他の緊急輸送ニーズは減少する。
 新産業に関しては、過去と状況が変わる際に新たな産業が生み出されるとみられるものの、従来の範囲、すなわち半導体・電子部品、自動車、機械、医薬品の輸送量を超えるような輸送ニーズは発生しないと想定する。
 供給面では国際線旅客便が国境間の「ヒト」の移動制限が継続することで、国際線旅客需要が長期にわたり低迷する結果、旅客機の貨物機転用ないし退役が進む。
あるいは、航空会社の破たんなどにより航空機の貨物室の供給量は減少する。
 現状においても既に、独ルフトハンザドイツ航空が航空機材のリストラを進めており、日本のANAホールディングスも機材の見直しを検討している。
また、旅客機の貨物機への転用は、転用コストが発生することから、個社の機齢バランスなどを考慮して行う会社も出てくるだろう。
 航空需要が低迷することから新規の航空機デリバリーは低迷するだろう。
ただし、需要も低迷するため、航空貨物運賃は下落傾向になるとみる。
そうなれば、航空会社だけではなく、体力のない航空フォワーダーが市場から退出、もしくは統合される可能性がある。
 これまでも海外においては、航空フォワーダーのM&Aが散見されてきたが、日本国内はほとんど無風であった。
他の国と比べて日本ではフォワーダーと特定顧客との結びつきが強いことが一因とされている。
しかし、特定顧客に収益を頼れなくなれば、日本でも統合再編が起きる可能性がある。
 供給面で競合となる海運においても、経済の低迷が続けば当然ながら海上荷動き量が低迷する。
現状はコンテナ船業界が三大アライアンスにまとまったことにより、秩序ある価格行動になっている。
しかし、荷動きの低迷が長期化すれば再び価格競争に陥る。
その結果、海上運賃は安価となる。
 緊急輸送ニーズが低下していることなどから「ソラ」から「ウミ」へのシフトが進む。
国際航空貨物輸送にとって逆風になるとみている。
その場合には航空貨物数量は25年になってもコロナ前の水準に戻らないかもしれない。
そうなれば、航空貨物の在り方自体があらためて検討されることになるだろう。
新型コロナ前の状況には戻らない  いずれのシナリオも、新型コロナの感染拡大が「いつ収束する」かがカギとなる。
早期に収束すれば、元の体制に急速に戻るであろうし、長期化すれば新型コロナ対策として実施している生活様式が固定化し、前の生活に戻ることは困難になるだろう。
 依然として感染者数が増加を続けている現状を鑑みれば、個人的にはもう前の状況に戻ることはないだろうと推測している。
未知の感染症への対策を講じた「新しい生活様式」や「新しい体制」に速やかに順応することが必要と考える。
 その過程では揺り戻しもあるだろう。
身近な例でいえば、管理することが責務である管理職にとって、テレワークは部下の管理が難しいので、自らの存在理由を示すために今まで通りのオフィス勤務に戻そうという動きがそれに当たるだろう。
 しかし、言い古された言葉ではあるが、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」とダーウィンは喝破した。
その言葉をわれわれは、いずれのシナリオで推移したとしても、噛みしめることになるだろう。

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