2020年8月号
特集
特集
パンデミックの需給シミュレーション
フォーチュン1000をコロナが直撃
サプライチェーンリスクは、大別すればオペレーションリスクと機能停止リスクの二つに分けられる。
オペレーションリスクとは、リードタイムや需要変動といった日々のオペレーションに障害を来すリスクのことをいう。
それに対して、頻度は少なくとも影響の大きいのが機能停止リスクである。
地震や津波(2011年に発生した日本の津波と、世界のサプライチェーンにあたえたその甚大な影響を想起されたい)などの自然災害、人為的なカタストロフ(グローバルサプライチェーンに原材料不足をもたらした独BASFの工場における16年の爆発事故など)、法的争い、ストライキ、等々がその具体例として挙げられる。
こうしたリスクの特徴は、サプライチェーンネットワークに及ぼす即時かつ甚大な影響である。
いったん事が起きれば、工場・サプライヤー・交通網などが一時的な機能停止に追い込まれる可能性をはらむ。
原材料不足と納期の遅れがサプライチェーンの川下にまで拡がると、波及効果で売り上げが減り、サービスレベルと生産性も低下する。
サプライチェーンに混乱をもたらすその一例が感染症の大流行、すなわちパンデミックである。
サプライチェーンリスクの一形態としてのパンデミックは、次の三つの要因によって明確に特徴づけられる。
(ⅰ)長期にわたる機能停止と予測不能な拡大規模 (ⅱ)サプライチェーンにおける機能停止の拡がり(波及効果)と一般社会での大流行 (ⅲ)供給・需要・物流インフラの同時崩壊 他の機能停止リスクとは異なり、感染症の場合、流行の初期段階こそ小規模であっても、それがたちまち蔓延して地理的にも広範囲に拡散することになる。
SARS、MERS、エボラ出血熱、豚インフルエンザ、そして今回の新型コロナウイルス(COVID-19)などが好例である。
中国の武漢地方に端を発したCOVID-19の流行は、ただちに中国の輸出に影響を及ぼすことになり、グローバルサプライチェーンへの供給が劇的に減少した。
2月下旬から3月初頭にかけ、アジアと欧米の感染者数は指数関数的に増加し、国境閉鎖と都市のロックダウンを招来することとなった。
全世界の感染者数が11万8千人を上回った3月11日、世界保健機構(WHO)はパンデミックの発生を宣言した。
多数の企業で構成されるサプライチェーンは、効率化とグローバル化を前提としたその成り立ちからして、感染症の流行に対しては脆弱である。
今回のCOVID-19では、フォーチュン1000社の実に94%が、何らかの形でサプライチェーン寸断の影響を受けた(米フォーチュン誌調べ)。
直接のサプライヤーが武漢市に1社以上ある企業は、世界で5万1千社に上り、COVID-19の発生地である武漢地方にティア1以下のサプライヤーをもつ企業数も500万社を下らない(米ダンアンドブラッドストリート社調べ)。
フォーチュン1千社のうち938社は、武漢地方にティア1もしくはティア2のサプライヤーを抱えている。
またCOVID-19によって封鎖されたエリアには、1千を数える世界の主要サプライチェーンが1万2千もの施設(工場・倉庫など)を構えている。
このような混乱の中、企業は感染症の流行がもたらす次のような課題に直面することになる。
・ この麻痺状態にサプライチェーンはどれだけの期間持ちこたえることができるのか? ・ パンデミック収束後、回復にどれだけの時間がかかるのか? ・ 感染拡大のレベルに即して対処していくには、どのような運営方針(一時的な品不足を前提として受け入れる、かねてから準備していた事業継続計画(BCP)を発動させる、流行期間中の状況変化を見てその都度対応する、等々)が最も効率的なのか? 本稿ではこれらの疑問に答えるべく、シミュレーション結果を検討していくことにしたい。
ケーススタディーと シミュレーションモデル われわれはグローバルサプライチェーンの仮想モデルとして、5種類の照明器具を販売する製造業者を想定することにした。
サプライチェーンはサプライヤー、工場、アモイおよび深圳のDC(物流センター)からなる多層構造であり、顧客は世界各地に散在しているものとする。
サプライチェーンには、二つの製造工場が含まれる。
二つの製造工場はそれぞれ地場のサプライヤー1社(それぞれの工場に近いため図1には現れない)から供給を受けている。
当該地域は感染症の流行により、都市封鎖と生産停止という状況に追い込まれる。
製品は中国から米国、ブラジル、ドイツの各物流センターまでは船便およびマルチモーダル(トラック─鉄道)で輸送される。
リードタイムは平均30日である。
カスタマーへは各物流センターからの配送になる。
米国ではヒューストンに位置するメインの物流センターから直送する場合と、そこからさらに他に四つあるサブの物流センターを経由する場合とがある。
カスタマーの数は全世界で95に上る。
カスタマーが物流センターにオーダーを出すサイクルは5日ごとであり、リードタイムは発注から4日〜9日間とする。
つまり発注から4日〜9日間という範囲内で納品されれば納期順守となり、それを上回れば延着と見なされる。
納期の遅れは当然ながら、オーダー数に対する納期順守の割合という形でサービスレベルに負の影響を及ぼす。
1オーダーはカスタマーごとに4〜80ユニットに固定されているものとする。
需要レベルを一定とする理由は、そもそも照明器具の需要変動が極めて小さいことがまず一つ。
もうひとつはわれわれの主な目的は混乱の影響を明らかにすることであり、そのためにはできるだけ他の変数を介在させないことが望ましいからである。
なお各施設は在庫保管費、間接費、加工費などを含んだ一定の固定費および変動費で運営される。
ここでの分析に用いた時系列は、コロナウイルスの拡散が確認された2020年1月中旬から同3月12日までであり、事実関係は複数のインターネットソースを参照した。
・ 1月25日 現地サプライヤーの工場が操業停止(中国) ・ 2月3日 アセンブリの停止(中国) ・ 2月11日 港湾の稼働停止(中国) ・ 2月25日 物流センターにおける品不足(全世界) ・ 3月11日 生産再開(中国) ・ 3月13日 ロックダウンなどの隔離政策開始(欧州および米国) また、われわれは起こり得るシナリオを次の3つに絞ることにした。
●シナリオⅠ:感染症の流行が中国国内にとどまる ●シナリオⅡ:感染がパンデミックと化して世界中に拡散し、工場や施設が閉鎖 ●シナリオⅢ:パンデミックが世界市場にまで影響をあたえて需要が半減 これらのシナリオに流行期間と地理的拡大にいたる時間差のバリエーションを組み合わせたところ、起こり得るシナリオは総計で63種類となった。
そのうちのいくつかのシナリオにおいては、サプライチェーン全体が完全に麻痺する。
また、川下で施設が閉鎖される一方、川上では施設が再開するというケースもある。
感染流行に対するサプライチェーンのさまざまな反応を検証するため、そして以下の問いに答えを出すために各種の実験環境を想定したわけである。
●感染流行はサプライチェーンパフォーマンスにどのような影響をあたえるか? ●流行収束後、サプライチェーンが正常に戻るにはどれだけの時間がかかるか? ●サプライチェーンが機能停止に耐えられる期間は? ●機能停止の規模とタイミングにはどのような影響があるか? ●最も危機的な流行拡大シナリオとはどのようなものか? シミュレーションモデル われわれのモデルが依拠したシミュレーションソフトウエアは、米The AnyLogic Company社の「anyLogistix」である。
シミュレーションに用いた前提とパラメーターについて一言しておきたい。
近年の研究では、サプライチェーンの機能停止に関係する極めて重要な要因として、「リスク緩和在庫(Risk mitigation inventory)」、リードタイム、バックアップサプライヤーの存在などが指摘されている。
さらに機能停止には「波及効果(Ripple effect)」と呼ばれる性質があるため、一部に限局されることはまれであり、通常はサプライチェーンの各階層に広がることになる。
・ リスク緩和在庫:02〜03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行、10年のアイスランドの火山噴火、11年3月の東日本大震災と津波、11年8月のタイの洪水などをきっかけとして、企業は手元の在庫水準を引き上げるようになった。
しかしながらその水準は依然として15〜30日間にとどまる。
われわれはこれを前提として採用した。
・ リードタイム:中国から米国および欧州への船便は平均でおよそ30日間かかる。
つまり1月25日に始まる春節を前にして中国の工場が停止すれば、最後の船便は2月の最終週に到着することになる。
・ 波及効果:たとえばフィアット・クライスラー・オートモービルズ社は「中国から部品が入ってこないため、セルビアの組立工場の生産が一時的に停止している」と発表した。
同様に現代自動車は「韓国の工場において生産ラインを一時停止する旨を決定した‥‥中国でのコロナウィルス蔓延により部品の供給が途絶したためである」。
これらはコロナウイルスによる波及効果の具体例である。
また、リードタイムがもっと短いケースでは川下の施設の機能停止がいっそう早まるため、それだけ波及効果は急速に拡大する。
検証結果と分析 感染症流行の三つの主な特徴を、他のサプライチェーンリスクとは切り離して取り出すことを念頭に、われわれはこのシミュレーションを組み立てた。
その三つとはすなわち、以下の通りである。
●長期にわたる機能停止と予知の難しいその広がり ●同時多発的な機能停止の拡大(波及効果)と感染の蔓延(パンデミック効果) ●供給・物流インフラ・需要の同時多発的な崩壊 われわれはこれらの与える影響を、さまざまな停止の期間と規模を想定して検証することにした。
まず初めに、機能停止のない平常時のサービスレベル・売り上げ・リードタイム・手元在庫・利益などのKPI(重要業績評価指標)などにより、サプライチェーンパフォーマンスを計算した。
次いで、感染流行のもたらす機能停止の規模とその波及効果の分析をするため、サプライチェーンのダイナミクスを複数のシナリオでシミュレートした。
つまり、多様な要因をさまざまに組み合わせて分析したわけである。
このような過程を経た上で、サプライチェーンの反応を複数のケースで比較して結論を導いた。
図3は感染流行のない平常時におけるサプライチェーンの様子である。
リードタイムの順守レベルが85〜90%、利益は2万8568ドルを計上している。
リードタイムが極めて安定的で在庫ダイナミクスのバランスも良好であることが見てとれるだろう。
次に、シナリオⅠ〜Ⅲをそれぞれシミュレートし、感染症流行のない場合と比べてサプライチェーンパフォーマンスがどう変わるかを確かめた(表1)。
シナリオⅠは、サプライチェーンの川上での機能停止が長引くほどパフォーマンスは低下する、という直観的な予想を裏切らない。
すべてのKPIが低下することになるが、機能停止が90日間におよぶと利益の9割が吹き飛び、リードタイムは15倍に増加する。
結論1:感染の流行がサプライチェーンの川上に限局される場合、サプライチェーンパフォーマンスは機能停止期間に比例して悪化する。
シナリオⅡを分析にすることで、いくつかの興味深い結果を得ることができた。
中国での機能停止期間がたとえ短くても(45日間)、感染流行が米国・南アフリカ・欧州へと拡大し、それにともなって各地の物流センターが閉鎖されると、全てのKPIが悪化するのである。
とはいえ、感染の地理的拡大のスピードと川下での感染流行期間を比較してみると、そこにはサプライチェーンの反応に違いが見られる。
具体的には、川下での機能停止が短期間で収束するシナリオ(中国本土の機能停止45日間、川下への拡大に60日間、川下での機能停止45日間)の場合、パフォーマンスの悪化が最も抑えられる。
しかしながら中国の機能停止が長引くケースでは、川下への感染拡大スピードが遅れてもプラスにはならない(シナリオⅡ:中国の機能停止が60日間のシナリオを参照)。
それと同時に、中国の機能停止が90日間におよぶ場合には、拡大スピードの緩やかさがプラスの効果をもたらすことがわかる。
この中国での機能停止が90日間続くというシナリオにおいては、サプライチェーンの川下への拡大ペースが緩やかであれば、感染の流行が中国に限局するシナリオⅠに比して、すべてのKPIが良好な結果を示したのである。
結論2:サプライチェーンのパフォーマンスは、川上での機能停止期間よりも、川下への感染拡大のタイミングと規模、そしてサプライチェーンの各層における物流施設の閉鎖と再開という事象に多くの影響を受ける。
最も複雑なシナリオⅢでは、複数のネガティブ要因による相乗効果が見られる。
ネガティブ要因が二つ重なると、意外なことにサプライチェーンパフォーマンスにはしばしばプラスに働く。
物流施設の機能停止と需要の減退が同時に起こると、備蓄在庫が消化されていくため、サプライチェーンパフォーマンスはむしろ全般的に向上するのである。
ただし、川下における施設の機能停止と需要減が甚だしく長引く(90日間など)と、この相乗効果は雲散霧消することになる。
またシナリオⅡの場合とは違い、感染拡大のペースが遅いとかえってサプライチェーンパフォーマンスは低下するが、需要減の長期化も同様の影響を及ぼす。
感染拡大のペースが遅い上に川下での機能停止が長引くことは、川上における機能停止の長さという問題よりも大きな危険をはらんでいるのである。
プラスの効果が見込めるのは、サプライチェーンにおける各種の施設が同時に再開する場合である。
中国本土で機能停止60日間、感染拡大に30日間、川下の施設の機能停止45日間、そして需要の減退が45日間続くケースを見てみよう。
中国の工場が生産停止するのが1月25日だとすると、川下の物流センター閉鎖は2月25日、そして3月25日には工場が再開し、4月10日に物流センターも再稼働することになる。
この場合、サプライチェーンの停止期間がトータルとして非常に短いことから、高い利益とサービスレベル、そして短納期という結果が見込まれる。
結論3:感染症の流行に際し、需要減と供給停止が同時に起こることで、サプライチェーンパフォーマンスがむしろ向上することもある。
パフォーマンスに最も深刻な影響を与えるのは、川下の物流施設の機能停止と需要減が揃って長引くケースであり、川上における機能停止期間の長さは関係しない。
結論3が成立する理由の一つは、サプライチェーンに遍在する施設が同時に閉鎖されると、変動費と一部の固定費が減少することにある。
それとは対照的に、川上の施設(中国の生産者など)は稼働していても、川下の施設(欧米の物流センターなど)が機能していない場合には、在庫・製造・輸送にかかる費用は増加するにもかかわらず売上は計上されない。
しかしながら、これらの見方を正当化するためには、納期・注文ポリシー・利用可能な物流インフラなどの諸条件を、個々のケースに即して細かく見ていく必要があることはいうまでもないだろう。
(翻訳構成 大矢英樹)
オペレーションリスクとは、リードタイムや需要変動といった日々のオペレーションに障害を来すリスクのことをいう。
それに対して、頻度は少なくとも影響の大きいのが機能停止リスクである。
地震や津波(2011年に発生した日本の津波と、世界のサプライチェーンにあたえたその甚大な影響を想起されたい)などの自然災害、人為的なカタストロフ(グローバルサプライチェーンに原材料不足をもたらした独BASFの工場における16年の爆発事故など)、法的争い、ストライキ、等々がその具体例として挙げられる。
こうしたリスクの特徴は、サプライチェーンネットワークに及ぼす即時かつ甚大な影響である。
いったん事が起きれば、工場・サプライヤー・交通網などが一時的な機能停止に追い込まれる可能性をはらむ。
原材料不足と納期の遅れがサプライチェーンの川下にまで拡がると、波及効果で売り上げが減り、サービスレベルと生産性も低下する。
サプライチェーンに混乱をもたらすその一例が感染症の大流行、すなわちパンデミックである。
サプライチェーンリスクの一形態としてのパンデミックは、次の三つの要因によって明確に特徴づけられる。
(ⅰ)長期にわたる機能停止と予測不能な拡大規模 (ⅱ)サプライチェーンにおける機能停止の拡がり(波及効果)と一般社会での大流行 (ⅲ)供給・需要・物流インフラの同時崩壊 他の機能停止リスクとは異なり、感染症の場合、流行の初期段階こそ小規模であっても、それがたちまち蔓延して地理的にも広範囲に拡散することになる。
SARS、MERS、エボラ出血熱、豚インフルエンザ、そして今回の新型コロナウイルス(COVID-19)などが好例である。
中国の武漢地方に端を発したCOVID-19の流行は、ただちに中国の輸出に影響を及ぼすことになり、グローバルサプライチェーンへの供給が劇的に減少した。
2月下旬から3月初頭にかけ、アジアと欧米の感染者数は指数関数的に増加し、国境閉鎖と都市のロックダウンを招来することとなった。
全世界の感染者数が11万8千人を上回った3月11日、世界保健機構(WHO)はパンデミックの発生を宣言した。
多数の企業で構成されるサプライチェーンは、効率化とグローバル化を前提としたその成り立ちからして、感染症の流行に対しては脆弱である。
今回のCOVID-19では、フォーチュン1000社の実に94%が、何らかの形でサプライチェーン寸断の影響を受けた(米フォーチュン誌調べ)。
直接のサプライヤーが武漢市に1社以上ある企業は、世界で5万1千社に上り、COVID-19の発生地である武漢地方にティア1以下のサプライヤーをもつ企業数も500万社を下らない(米ダンアンドブラッドストリート社調べ)。
フォーチュン1千社のうち938社は、武漢地方にティア1もしくはティア2のサプライヤーを抱えている。
またCOVID-19によって封鎖されたエリアには、1千を数える世界の主要サプライチェーンが1万2千もの施設(工場・倉庫など)を構えている。
このような混乱の中、企業は感染症の流行がもたらす次のような課題に直面することになる。
・ この麻痺状態にサプライチェーンはどれだけの期間持ちこたえることができるのか? ・ パンデミック収束後、回復にどれだけの時間がかかるのか? ・ 感染拡大のレベルに即して対処していくには、どのような運営方針(一時的な品不足を前提として受け入れる、かねてから準備していた事業継続計画(BCP)を発動させる、流行期間中の状況変化を見てその都度対応する、等々)が最も効率的なのか? 本稿ではこれらの疑問に答えるべく、シミュレーション結果を検討していくことにしたい。
ケーススタディーと シミュレーションモデル われわれはグローバルサプライチェーンの仮想モデルとして、5種類の照明器具を販売する製造業者を想定することにした。
サプライチェーンはサプライヤー、工場、アモイおよび深圳のDC(物流センター)からなる多層構造であり、顧客は世界各地に散在しているものとする。
サプライチェーンには、二つの製造工場が含まれる。
二つの製造工場はそれぞれ地場のサプライヤー1社(それぞれの工場に近いため図1には現れない)から供給を受けている。
当該地域は感染症の流行により、都市封鎖と生産停止という状況に追い込まれる。
製品は中国から米国、ブラジル、ドイツの各物流センターまでは船便およびマルチモーダル(トラック─鉄道)で輸送される。
リードタイムは平均30日である。
カスタマーへは各物流センターからの配送になる。
米国ではヒューストンに位置するメインの物流センターから直送する場合と、そこからさらに他に四つあるサブの物流センターを経由する場合とがある。
カスタマーの数は全世界で95に上る。
カスタマーが物流センターにオーダーを出すサイクルは5日ごとであり、リードタイムは発注から4日〜9日間とする。
つまり発注から4日〜9日間という範囲内で納品されれば納期順守となり、それを上回れば延着と見なされる。
納期の遅れは当然ながら、オーダー数に対する納期順守の割合という形でサービスレベルに負の影響を及ぼす。
1オーダーはカスタマーごとに4〜80ユニットに固定されているものとする。
需要レベルを一定とする理由は、そもそも照明器具の需要変動が極めて小さいことがまず一つ。
もうひとつはわれわれの主な目的は混乱の影響を明らかにすることであり、そのためにはできるだけ他の変数を介在させないことが望ましいからである。
なお各施設は在庫保管費、間接費、加工費などを含んだ一定の固定費および変動費で運営される。
ここでの分析に用いた時系列は、コロナウイルスの拡散が確認された2020年1月中旬から同3月12日までであり、事実関係は複数のインターネットソースを参照した。
・ 1月25日 現地サプライヤーの工場が操業停止(中国) ・ 2月3日 アセンブリの停止(中国) ・ 2月11日 港湾の稼働停止(中国) ・ 2月25日 物流センターにおける品不足(全世界) ・ 3月11日 生産再開(中国) ・ 3月13日 ロックダウンなどの隔離政策開始(欧州および米国) また、われわれは起こり得るシナリオを次の3つに絞ることにした。
●シナリオⅠ:感染症の流行が中国国内にとどまる ●シナリオⅡ:感染がパンデミックと化して世界中に拡散し、工場や施設が閉鎖 ●シナリオⅢ:パンデミックが世界市場にまで影響をあたえて需要が半減 これらのシナリオに流行期間と地理的拡大にいたる時間差のバリエーションを組み合わせたところ、起こり得るシナリオは総計で63種類となった。
そのうちのいくつかのシナリオにおいては、サプライチェーン全体が完全に麻痺する。
また、川下で施設が閉鎖される一方、川上では施設が再開するというケースもある。
感染流行に対するサプライチェーンのさまざまな反応を検証するため、そして以下の問いに答えを出すために各種の実験環境を想定したわけである。
●感染流行はサプライチェーンパフォーマンスにどのような影響をあたえるか? ●流行収束後、サプライチェーンが正常に戻るにはどれだけの時間がかかるか? ●サプライチェーンが機能停止に耐えられる期間は? ●機能停止の規模とタイミングにはどのような影響があるか? ●最も危機的な流行拡大シナリオとはどのようなものか? シミュレーションモデル われわれのモデルが依拠したシミュレーションソフトウエアは、米The AnyLogic Company社の「anyLogistix」である。
シミュレーションに用いた前提とパラメーターについて一言しておきたい。
近年の研究では、サプライチェーンの機能停止に関係する極めて重要な要因として、「リスク緩和在庫(Risk mitigation inventory)」、リードタイム、バックアップサプライヤーの存在などが指摘されている。
さらに機能停止には「波及効果(Ripple effect)」と呼ばれる性質があるため、一部に限局されることはまれであり、通常はサプライチェーンの各階層に広がることになる。
・ リスク緩和在庫:02〜03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行、10年のアイスランドの火山噴火、11年3月の東日本大震災と津波、11年8月のタイの洪水などをきっかけとして、企業は手元の在庫水準を引き上げるようになった。
しかしながらその水準は依然として15〜30日間にとどまる。
われわれはこれを前提として採用した。
・ リードタイム:中国から米国および欧州への船便は平均でおよそ30日間かかる。
つまり1月25日に始まる春節を前にして中国の工場が停止すれば、最後の船便は2月の最終週に到着することになる。
・ 波及効果:たとえばフィアット・クライスラー・オートモービルズ社は「中国から部品が入ってこないため、セルビアの組立工場の生産が一時的に停止している」と発表した。
同様に現代自動車は「韓国の工場において生産ラインを一時停止する旨を決定した‥‥中国でのコロナウィルス蔓延により部品の供給が途絶したためである」。
これらはコロナウイルスによる波及効果の具体例である。
また、リードタイムがもっと短いケースでは川下の施設の機能停止がいっそう早まるため、それだけ波及効果は急速に拡大する。
検証結果と分析 感染症流行の三つの主な特徴を、他のサプライチェーンリスクとは切り離して取り出すことを念頭に、われわれはこのシミュレーションを組み立てた。
その三つとはすなわち、以下の通りである。
●長期にわたる機能停止と予知の難しいその広がり ●同時多発的な機能停止の拡大(波及効果)と感染の蔓延(パンデミック効果) ●供給・物流インフラ・需要の同時多発的な崩壊 われわれはこれらの与える影響を、さまざまな停止の期間と規模を想定して検証することにした。
まず初めに、機能停止のない平常時のサービスレベル・売り上げ・リードタイム・手元在庫・利益などのKPI(重要業績評価指標)などにより、サプライチェーンパフォーマンスを計算した。
次いで、感染流行のもたらす機能停止の規模とその波及効果の分析をするため、サプライチェーンのダイナミクスを複数のシナリオでシミュレートした。
つまり、多様な要因をさまざまに組み合わせて分析したわけである。
このような過程を経た上で、サプライチェーンの反応を複数のケースで比較して結論を導いた。
図3は感染流行のない平常時におけるサプライチェーンの様子である。
リードタイムの順守レベルが85〜90%、利益は2万8568ドルを計上している。
リードタイムが極めて安定的で在庫ダイナミクスのバランスも良好であることが見てとれるだろう。
次に、シナリオⅠ〜Ⅲをそれぞれシミュレートし、感染症流行のない場合と比べてサプライチェーンパフォーマンスがどう変わるかを確かめた(表1)。
シナリオⅠは、サプライチェーンの川上での機能停止が長引くほどパフォーマンスは低下する、という直観的な予想を裏切らない。
すべてのKPIが低下することになるが、機能停止が90日間におよぶと利益の9割が吹き飛び、リードタイムは15倍に増加する。
結論1:感染の流行がサプライチェーンの川上に限局される場合、サプライチェーンパフォーマンスは機能停止期間に比例して悪化する。
シナリオⅡを分析にすることで、いくつかの興味深い結果を得ることができた。
中国での機能停止期間がたとえ短くても(45日間)、感染流行が米国・南アフリカ・欧州へと拡大し、それにともなって各地の物流センターが閉鎖されると、全てのKPIが悪化するのである。
とはいえ、感染の地理的拡大のスピードと川下での感染流行期間を比較してみると、そこにはサプライチェーンの反応に違いが見られる。
具体的には、川下での機能停止が短期間で収束するシナリオ(中国本土の機能停止45日間、川下への拡大に60日間、川下での機能停止45日間)の場合、パフォーマンスの悪化が最も抑えられる。
しかしながら中国の機能停止が長引くケースでは、川下への感染拡大スピードが遅れてもプラスにはならない(シナリオⅡ:中国の機能停止が60日間のシナリオを参照)。
それと同時に、中国の機能停止が90日間におよぶ場合には、拡大スピードの緩やかさがプラスの効果をもたらすことがわかる。
この中国での機能停止が90日間続くというシナリオにおいては、サプライチェーンの川下への拡大ペースが緩やかであれば、感染の流行が中国に限局するシナリオⅠに比して、すべてのKPIが良好な結果を示したのである。
結論2:サプライチェーンのパフォーマンスは、川上での機能停止期間よりも、川下への感染拡大のタイミングと規模、そしてサプライチェーンの各層における物流施設の閉鎖と再開という事象に多くの影響を受ける。
最も複雑なシナリオⅢでは、複数のネガティブ要因による相乗効果が見られる。
ネガティブ要因が二つ重なると、意外なことにサプライチェーンパフォーマンスにはしばしばプラスに働く。
物流施設の機能停止と需要の減退が同時に起こると、備蓄在庫が消化されていくため、サプライチェーンパフォーマンスはむしろ全般的に向上するのである。
ただし、川下における施設の機能停止と需要減が甚だしく長引く(90日間など)と、この相乗効果は雲散霧消することになる。
またシナリオⅡの場合とは違い、感染拡大のペースが遅いとかえってサプライチェーンパフォーマンスは低下するが、需要減の長期化も同様の影響を及ぼす。
感染拡大のペースが遅い上に川下での機能停止が長引くことは、川上における機能停止の長さという問題よりも大きな危険をはらんでいるのである。
プラスの効果が見込めるのは、サプライチェーンにおける各種の施設が同時に再開する場合である。
中国本土で機能停止60日間、感染拡大に30日間、川下の施設の機能停止45日間、そして需要の減退が45日間続くケースを見てみよう。
中国の工場が生産停止するのが1月25日だとすると、川下の物流センター閉鎖は2月25日、そして3月25日には工場が再開し、4月10日に物流センターも再稼働することになる。
この場合、サプライチェーンの停止期間がトータルとして非常に短いことから、高い利益とサービスレベル、そして短納期という結果が見込まれる。
結論3:感染症の流行に際し、需要減と供給停止が同時に起こることで、サプライチェーンパフォーマンスがむしろ向上することもある。
パフォーマンスに最も深刻な影響を与えるのは、川下の物流施設の機能停止と需要減が揃って長引くケースであり、川上における機能停止期間の長さは関係しない。
結論3が成立する理由の一つは、サプライチェーンに遍在する施設が同時に閉鎖されると、変動費と一部の固定費が減少することにある。
それとは対照的に、川上の施設(中国の生産者など)は稼働していても、川下の施設(欧米の物流センターなど)が機能していない場合には、在庫・製造・輸送にかかる費用は増加するにもかかわらず売上は計上されない。
しかしながら、これらの見方を正当化するためには、納期・注文ポリシー・利用可能な物流インフラなどの諸条件を、個々のケースに即して細かく見ていく必要があることはいうまでもないだろう。
(翻訳構成 大矢英樹)
