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2020年8月号
特集

レジリエンスに投資すべきこれだけの理由

 それは誰も想像し得ない速さだった。
中国は1月、コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、労働者を自宅に帰して事業を停止させた。
これによってグローバルサプライチェーンに不可欠な、安定的な部品の供給が減速もしくはストップした。
この予期せぬ寸断は世界中の経営層に衝撃波となって広がった。
Covid-19パンデミックの始まりだ。
 未曽有の公衆衛生危機に直面して、どの会社も社員の安全確保と地域コミュニティーへの支援を最優先にした。
主要産業のメーカーは工場稼働のため代替サプライヤー探しに奔走した。
現在、一部の地域ではパンデミックの最も深刻なフェーズを脱して、復旧計画に入っている。
経営層はサプライチェーンの信頼性とリスクを綿密に精査している。
 新型コロナの感染拡大のような混乱は特殊な出来事ではない。
地政学的問題や気候変動に伴う災害、公衆衛生危機など、サプライチェーンの混乱はその頻度と規模を増している。
最近でも「ブレグジット」や米中貿易摩擦が起きている。
この数十年、SCMの基本原則はコスト削減と在庫削減だった。
しかし、ますます荒れ狂う世界において、ローコストサプライヤーや在庫水準の最小化に過度に依存する供給ネットワークは、瞬く間に事業を危うくさせてしまう恐れがある(図1)。
 米中間の貿易摩擦に火が付いた昨年、リーディングカンパニーは既に、よりレジリエントなサプライチェーンを構築するために、ネットワークリスクのコストインパクトや投資について再考を始めていた。
柔軟なネットワークは、非常時に素早く対応することを可能にする。
生産部隊が需要の変化に応じて素早く方針を転換する助けにもなる。
これは重要かつ競争力のある優位性となる。
 われわれベインの分析によると、レジリエントなサプライチェーンを有する企業は成長も早い。
需要が変動した時にすぐに顧客のニーズに応じて動くことができるからだ。
レジリエントなサプライチェーンは完全オーダー充足率を20~40パーセント向上し、顧客満足度を30パーセントも引き上げる。
 また柔軟性があるサプライチェーンは、在庫回転率を10~40パーセント向上することでコストを削減し、キャッシュフローを改善する。
そして経営リーダーたちは計画・予測精度を向上する先進的な分析技術に投資をして、供給ネットワークにバッファを持たせることで、混乱を抑制する(図2)。
コスト VS レジリエンス  シニアエグゼクティブの多くは、パンデミックが過ぎ去り、世界経済が通常通り動き始めれば、これまでと同じようにローコスト志向かつ最小の在庫で、グローバルな供給ネットワークを管理すべきだと考えているかもしれない。
その考え方は世界経済が安定している限りにおいては有効だったが、今ではリスクの増加をもたらす。
SCMの前提条件は変化したのである。
 原材料もしくは部品の突然の不足で苦しんできた経営陣は、それがいかに高くつくかを分かっている。
あるグローバル電機メーカーでは、日本の熊本で地震が頻発して、サプライチェーンが断絶したことで、2016年度の売上高が16パーセント減った。
当期純利益は66パーセント減少した。
また、部品の生産をタイに依存していた、ある自動車メーカーでは、2011年の洪水被害でグローバル生産高が5パーセント低下した。
これは50億ドルの販売機会損失に相当する規模だった。
 成功している会社は、こうしたリスクの最小化および効率の向上によって利益を生み出すことを目的に、サプライチェーンレジリエンスに投資を行っている。
例えばプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は生産・外部需要に関するリアルタイムの情報を、同社のサプライチェーン・コントロール・タワーに提供するためにクラウドベースのプラットフォームを実装している。
 これにより、2012年に大型ハリケーン「サンディー」が米ニュージャージー州を襲った際には、同社の香料製造の91パーセントを生産している工場のラインを一時ストップさせて、影響を最小化することに成功した。
先進的な分析から生み出された知見が、素早く正しい判断を下すことを可能にした。
実際、このケースでは工場の稼働停止期間をわずか2・5日にとどめることができた。
 P&Gはこの時の経験から学んで、2017年にフロリダ州で発生した超大型ハリケーン「イルマ」に襲われた時には、デジタルツールを使用してサプライヤー、工場、配送センターが被るであろうダメージを予測した。
それによってコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の策定や在庫の再配置を行うことができた。
結果として、同社は他の企業が被ったような混乱や経済損失を避けることができた。
 トヨタ自動車もまた、サプライチェーンレジリエンス向上のための新たな機能に投資してきた。
パートナーのサプライヤーと協働し、部品ごとに供給ネットワークを可視化するデータベースを開発した。
 災害が襲った際には、リスクに直面した部品を瞬時に特定できる。
サプライヤー1社だけから供給を受け、代替が難しい部品を、データベースが見つけ出す。
またトヨタは、設計を標準化して、機器仕様書を部品の製造施設やサプライヤーと共有して、単独のサプライヤーへの依存度を下げている。
サプライチェーンの競争優位  ベインの経験によると、サプライチェーンレジリエンスに投資をしている企業は、製品の開発サイクルを40~60パーセント短縮できている。
生産チームは需要の変化に素早く対応できるので、収益力が向上する。
柔軟なサプライチェーンを保有する企業はオペレーションの最適化によって生産高を15~25パーセント拡張させている。
 あるグローバルフットウェアメーカーは、増え続けるカスタマイゼーションの需要に応えるため、高度にフレキシブルなサプライチェーンの構築に投資している。
消費者が自分でオンラインでデザインした特注シューズを、企業は受注後、10日以内に届けている。
このスピードを順守するため、同社はロボットや自動化に強い企業と提携した。
以前は靴底部分を作るのに1足当たり50分を要したが、テクノロジー企業の力を借りることで2・5分に短縮することに成功した。
 今回のコロナ禍は、既に柔軟な製造ラインを構築している企業にスポットライトを当てることになった。
例えば、ファッション産業では、本業の生産ラインが消毒剤や医療機器の製造からそれほどかけ離れてはいなかったことから感染拡大がフランスやイタリアで猛威を振るい、医療物資が不足した際には、機敏な高級ブランド品メーカーが、緊急物資を生産するために生産オペレーションを組み替え物資を提供した。
 フランス政府が企業に協力を呼び掛けてから72時間以内に、モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH)の香水工場では、手指消毒用アルコールの製造が始まった。
ジョルジオ・アルマーニ、グッチ、プラダは、イタリアにあるデザイナーズウェアの縫製工場を転用して、医療物資全般を量産した。
 また、バーバリーはトレンチコートの製造拠点を、フェイスマスクならびに非手術用ガウンの生産に利用した。
そのため設備を一新するよりはるかに素早く対応できた。
このようにフレキシブルなサプライチェーンが、迅速な原材料調達、製品設計、開発、試験運用、そして配送において決定的な役割を果たしたのだった。
さあ投資に踏み出そう  レジリエントなサプライチェーンを構築するため、経営リーダーは次の五つの機能に投資をしなければならない。
●ネットワークアジリティー  混乱に即座に対応するには、サプライヤーやパートナー企業との柔軟なエコシステムの構築が求められる。
それは突然の在庫不足に対処して、場合によっては新しい製品を生産することさえ可能にする。
つまりは、代替工場と組み立て拠点を用意して、コストを最適化するために「インダストリー4・0」のデジタルツールを最大限活用し、ネットワークの可視性を強化して反応速度を向上するのである。
 経営リーダーは、パフォーマンス向上や経費削減を目的にサプライチェーンの各セグメントにおけるテーラーメイドのソリューションを策定する。
海外生産に依存している場合には、一部を国内もしくは中核市場に近い場所に切り換えるのである。
トヨタは、必要部品の60パーセントをサプライヤー1社に生産させて、他のサプライヤー2社にそれぞれ20パーセントずつ生産させてリスク回避を図っている。
●デジタルコラボレーション  クラウドベースのサプライチェーンアプリケーションやコラボレーションのプラットフォームは情報共有を容易にする。
また、組織内の意思決定、サプライヤーとの意思決定、外部パートナーとの意思決定の質とスピードを、安全な環境下で向上させる。
 新型コロナのパンデミックの渦中においてメーカーは、サプライヤーに対してサプライチェーンにおけるいっそうの見える化を求めている。
経営リーダーはサプライチェーンをより自律的なものにするために自動化やロボティクスの導入を推進し、事業継続性を確保するためにサプライヤーを自分たちの市場に組み込もうとしている。
●リアルタイム・ネットワーク・ビジビリティ  サプライチェーン全体のデータを統合するコントロール・タワー・ソリューション、5G技術、そしてブロックチェーンは、経営陣にリアルタイムの可視性を提供する。
企業は自社生産能力データと、気象データなどのリアルタイムの需要指標を照らし合わせ算出する需要予測によって、より上手く供給を調整することが可能となる。
●迅速なインサイトの創造  リーダーシップチームは、内部情報やビッグデータの外部ソースをすぐに分析する能力を高めることにより、サプライチェーンの混乱に一歩先んじることができる。
マシンラーニングとAIを、予測分析と「規範(prescriptive)分析」に活用することで早期警報システムを構築し、リスクシナリオをモデル化し、事前にプログラミングする対応策を開発することができる。
混乱のリスクが高まる今、従来の想定はもはや役には立たないので、パラメーターや目的を都度アップデートして練り直す必要がある。
●権限を与えられたチーム  中央集権型ではない分散型のチームは、先進的な分析により生み出されたインサイト(洞察)にすぐに反応することができる。
それが迅速な復旧能力を生み出し、非常時における企業のスムーズな運営を後押しする。
*****  グローバル経済が直面する衝撃の頻度と激しさは増加する傾向にある。
新型コロナは、広範囲にわたる、遠方まで伸びたサプライチェーンが、いかに脆いかを露呈させた。
これまでは適切な柔軟性として通用してきたものが、今では不十分となった。
レジリエントなサプライチェーンに今、投資を始める企業は、次にグローバルなモノの流れが滞る事態が起きた時にはそれを上手く切り抜け、ベストなポジションを確立することになるだろう。

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