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2020年7月号
特集

【ラストワンマイル】最前線に立つドライバーの怯えと不安

“自粛警察”がドライバーを監視  新型コロナウイルスの感染拡大や政府による緊急事態宣言を受けて、物流大手各社はドライバーの安全対策として、うがいや手洗いの徹底、出勤時の検温、フェイスマスクの着用、車両や機材の消毒などを実施している。
自社ドライバーだけでなく、出入りの下請けドライバーにも同じルールを義務づけている。
 外資系宅配便会社の下請けドライバーは、その徹底ぶりに驚いている。
 「毎朝の出勤時の検温では37度を少しでも上回っていたら、その日は出勤停止、すぐに帰宅しなければならない。
仕事に復帰できるのは平熱に戻った状態が数日間続いた後、もちろんコロナに感染していないことが絶対条件だ。
コロナの感染者や感染の疑いがある人との接触の有無、仕事を休んでいる間の毎日の体温、病院で診療を受けた場合には診断結果などの報告も求められる」  特に口酸っぱく指導されるのはマスクの着用だという。
 「当初マスクはドライバーがそれぞれ自分で用意していたが、すぐに元請けから支給されるようになった。
元請けはマスクの枚数をある程度確保できているようで、基本的には1日1枚・使い捨てにしている。
車両置き場にはマスク専用のゴミ箱も用意されている。
営業所内にウイルスを持ち込まないようにするためらしい」  マスクは集荷や配達の対面時だけでなく、運転中も極力外さないでほしい、と要請されているという。
その理由はほかでもない、一般市民からの苦情が入るからだ。
 「ウチのドライバーがマスクを着用していなかった、と“自粛警察”から通報があった。
路上で見かけたとかではなく、運転中の未着用を目撃したようだ。
元請けの担当者としても、世間から監視の眼が向けられているドライバーたちに同情しながらも、『こういうご時世だから我慢してほしい』と終日のマスク着用を呼びかけている」  しかし、気温の上昇とともにマスクはドライバーたちの体力を奪っていく。
 「ただでさえ暑い時期の業務はしんどいのに、片時もマスクを外せないとなると、今度は熱中症にならないか心配だ。
せめて運転中だけでも“ノーマスク”を許してもらえたら‥‥」  元請けからは運転席や荷台、荷物を消毒するための除菌用スプレーも配給された。
スプレーを運転席に常備しておくだけでなく、液体をポケットサイズの小さな容器に移し替えて携帯するようにもしている。
 「荷物の受け渡しが終わったら、まず自分の手にワンプッシュ。
そのほかに車両のハンドルや訪問先のドアノブなど気になる箇所があったら、その都度除菌する。
荷物には送り状の文字がにじまないよう注意しながらスプレーを噴霧している」  元請けによる指導はドライバーの日々の生活スタイルにも及ぶ。
 「不特定多数と長時間接する可能性のある外食は勤務時間外でもできるだけ避けてほしい。
勤務中の昼食もコンビニなどの店舗でテイクアウトするか、弁当の持参で対応してほしいと依頼があった。
免疫力を維持するため、栄養価の高いものを食べたり、睡眠を十分に取るように、という指示も受けている」  トラックドライバーたちは国民のライフラインを支えるため、コロナ感染のリスクに晒されながら、日々ハンドルを握り続けている。
しかし、そんなドライバーたちに対して罵声を浴びせる、心ない荷主や一般消費者も存在する。
 報道やテレビのワイドショーでは、配達先で除菌スプレーを吹きかけられたり、車両のナンバーをみて「コロナを運んでくるな」と暴言を吐かれたり、親の職業がトラックドライバーであることを理由に、学校から子供の登校を拒否された、といった出来事が取り上げられている。
 そこまで極端ではなくても、今回のコロナ騒動に関連して不快な体験をしたドライバーは少なくない。
通販商品を配達する、ある軽トラドライバーはこう漏らす。
 「配達先でインターホンを鳴らしたら、『コロナに罹りたくないから荷物は玄関に置いていって』と、まるで感染者のように扱われた。
配達員が嫌ならネット通販でモノを買うなよ、と言いたかった。
結局、置き配になったので、対面せず帰ることができてよかったが、そういうお客さんはこっちだって顔を見たくない」 配達先で感染を覚悟する  恐怖体験も寄せられている。
1日当たり100軒以上を訪問することもある宅配便の配達員は、否応なしに不特定多数との接触を強いられる。
大手宅配便会社の下請けの軽トラドライバーは、ある配達先で自身のコロナ感染を覚悟したという。
 「いかにも体調が悪そうな顔色をした初老の男性に、荷物を渡してサインをもらっている最中に、思い切り咳を掛けられてしまった。
笑顔でその場を後にしたものの、車に戻ってすぐに自分自身に除菌スプレーをかけたり、マスクを取り替えたりした。
もしかしたらコロナをもらってしまったかもしれないと思うと、その後、数日間は生きた心地がしなかった」  一方、心温まるエピソードもある。
長距離の幹線輸送トラックを運転する、あるドライバーは、関東エリアから東北エリアへの乗務時に、納品先の物流センターで荷受け担当者や見ず知らずの人から労いの言葉を掛けられた。
 「感染者の多いエリアで生活していて、本当は仕事を休みたいはずなのに、いつもご苦労さまです、と感謝された。
高速道路のサービスエリアのトイレでは、隣で用を足していた人から、お仕事頑張ってください、と激励されて、少し驚いた。
普段だったらあり得ないことだ」  前号(2020年6月号)でも触れた通り、トラック輸送市場は現在、コロナ禍の影響で供給過多に転じている。
トラックの配車マッチングサービスの担当者によると、生活必需品以外の荷物の輸送需要は激減しており、市場に出回る限られた求車情報に対し、車両を持て余している運送会社が採算度外視の運賃で次々に入札してくるという。
 運賃が投げ売りされている実態はドライバーたちも把握している。
東京〜大阪間で大型車を運行する、あるドライバーは打ち明ける。
 「配車係から、先日は東京〜大阪間の大型トラックでの輸送を運賃6万円で引き受けた、と聞いた。
売り上げがゼロになるよりはまし、という判断のようだ。
そこまで安い運賃はこれまで聞いたことがない。
それだけ日本全体で輸送の仕事が減っているのだろう」  運賃市況の悪化はトラック運送会社の収益を直撃する。
そのしわ寄せは最終的にドライバーに及ぶ。
先行きへの不安は隠せない。
 「実態を知らない人からは、コロナで失業する人が増えているのに、あなたたちは仕事があっていいね、って言われることもある。
しかし、ここ数年、トラック運賃は上昇していたのに、コロナで全てパーになった。
感染拡大が止まれば、荷量は徐々に増えていくかもしれないが、運賃がコロナ前の水準に戻るとは思えない。
運賃が下がれば、われわれの実入りも減ることを当然覚悟しなければならない」  緊急事態宣言は5月末でいったん解除された。
市中を走るトラックの数も日を追うごとに増えているようだ。
しかし、この先、感染拡大の第2波、第3波が発生すれば、経済活動は再び“一時停止”を余儀なくされる。
輸送需要はさらに落ち込む。
 コロナへの感染や将来への不安を抱えたままトラックドライバーたちがハンドルを握る日々はしばらく続きそうだ。

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