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2020年7月号
特集

【スタートアップ】非接触型社会が次のスターを生み出す

ギグエコノミーが加速する  コロナショックで世界中のスタートアップが岐路に立たされている。
タクシー配車のウーバーや民泊のエアビー、クーポンサイトのグルーポンなどの著名企業が大量のレイオフに踏み切る一方、いわゆる「ニューノーマル(新しい日常)」に対応した宅配、教育、医療、エンターテインメントなどのスタートアップの成長が加速している。
 今年4月のアメリカの失業率は14・7%を記録した。
世界恐慌以来、最悪の数字だ。
3月中旬以降9週間の失業保険申請者数は3800万人を超えた。
その一方で数十万人規模の労働者がデリバリーアプリの仕事に一斉になだれ込んでいる。
非正規雇用かつ低賃金、感染リスクの高い労働環境にありながら、マスクや手袋が支給されるわけでもない。
それでも他に選択肢のない状況に追い込まれた労働者が、目先の生活費を得るためラストワンマイルの仕事に就いている。
 現地の報道によると、買い物代行「インスタカート(Instacart)」の需要はコロナが始まって以降、それまでの5倍以上に膨れあがっている。
フードデリバリーでは「ドアダッシュ(Doordash)」が急成長している。
良かれ悪しかれ、既存産業から溢れ出した雇用を、こうした物流スタートアップが飲み込んでいるわけだ。
 インターネットを通じて単発の仕事を請け負う労働者を「ギグワーカー」と呼ぶ。
ギグワーカーによって成り立つ経済がギグエコノミーだ。
コロナウィルスの災禍を起爆剤として米国ではギグエコノミーが急速に広がっている。
日本でもフードデリバリーの配達員が目立つようになったが、それとは比較にならない規模のダイナミズムが生まれている。
 物流ロボットによるラストワンマイルの配達も既に始まっている。
ソフトバンクグループが約1千億円を出資したニューロ(Nuro)や、リクルートが出資したスターシップ(Starship Technologies)などの配達ロボットが、公道を自律走行して商品を消費者の自宅に届けている。
非接触型配達のニーズがその普及をさらに促進する。
 配送ルートをAIで最適化するソフトウエアを開発するスタートアップのディスパッチトラック(DispatchTruck)は5月、ベンチャーキャピタル(VC)から約150億円の資金調達を行ったと発表した。
米国ではコロナ禍の今にあっても有望なスタートアップに対しては適切なタイミングで適切な規模の投資が行われている。
 それに対して、日本のスタートアップの資金調達は現在、完全にストップしている。
VCが出資を凍結。
大手事業会社によるスタートアップ投資、いわゆるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)もすっかり鳴りを潜めた。
デロイトトーマツベンチャーサポートが5月に実施した緊急調査によると、日本のスタートアップの42%は半年以内に資金が枯渇する恐れがあるという。
 スタートアップにとって銀行融資はハードルが高い。
公的支援にも期待できない。
新型コロナ対策として政府が打ち出した実質無利子・無担保融資は、売り上げの減少が要件の一つとなっている。
売り上げが立たない段階から先行投資で人材採用やプロダクトの開発に資金を投じるスタートアップの資金ニーズには適合しない。
 米国と同様に日本にもコロナ禍によってむしろ成長の可能性が高まっているスタートアップが物流分野にも多数存在する。
しかし、投資家や金融機関は現在、成長余力より足元の収益性を見ている。
当初は赤字でも数年以内に急成長して市場を握るという事業計画が今の日本では許されない。
 プロダクトをどうマネタイズして、支出を抑え、事業を黒字化させるかという、一般の企業と変わらないマネジメント能力とファイナンススキルが、スタートアップに突如として求められることになった。
テクノロジーには長けていても実務の経験は乏しい若い世代の起業家たちにとっては大きな逆風だ。
ピンチをチャンスに変える  それでも、コロナが引き起こしたパラダイムシフトは新たなチャンスももたらしている。
その一つとして物流企業や3PL、物流センターを自社運営する荷主企業を中心に、オペレーションの継続を目的とした自動化需要が生まれている。
 5月23日付けの現地の報道によると米国ではアマゾンの庫内作業員だけでも、新型コロナの感染によって既に8人が亡くなり、公表できないほどの感染者が出ているという。
自動化の進んだアマゾンの現場でさえ、庫内作業員はソーシャルディスタンスを維持できない。
いわば“3密”でのオペレーションを強いられている。
 リスクにさらされながら低賃金で働き続けるエッセンシャルワーカーたちの不安や不満は当然ながら高まっている。
これを看過して被害が発生すれば荷主や物流企業は監督責任を問われることになる。
日本でもそうした事態を避けるために省人化投資の検討を始める企業が足元で増えてきた。
 カリフォルニアを拠点とするスタートアップ、インビア・ロボティクス(inVia Robotics)は5月21日、庫内作業中のソーシャルディスタンスをモニターするためのソフトウエアをリリースした。
作業員同士が一定距離以内に近付くとウェアラブル端末がアラートを鳴らす。
新たなニーズに即座に対応してピンチをチャンスに変えようとするそのバイタリティには素直に脱帽する。
 われわれGROUNDが提供する自律走行型の協働ロボット「AMR(Autonomous Mobile Robot)」も、3密を回避する有効なツールとなる。
ピッキング作業員の持ち場をそれぞれ特定するゾーンピッキングを採用してAMRに荷物を搬送させることで、1人で作業を完結できる。
カートピッキングをはじめ他のピッキング方式と比べて他の作業員と接触する機会が圧倒的に少ない。
 AMRは巣ごもり消費による需要の急増などの物量の変動に合わせてピッキング方法を切り換えるといった対応もとれる。
自動倉庫とコンベヤで構成する従来型のマテハンシステムは、環境の変化に応じてオペレーションをカスタマイズすることが難しい。
柔軟性の獲得を目的としてロボットの導入が検討されるようにもなってきた。
 これまで荷主や物流企業が物流ロボットやAIソフトウエアに投資をする目的は合理化、省人化一辺倒だった。
しかし、コロナを契機としてBCP(事業継続計画)、サステナビリティに対するニーズが広がっている。
物流スタートアップに求められる役割も当然ながら変わっていく。
 現在、日本のスタートアップは非常に厳しい経営環境に立たされている。
それでも新しいテクノロジーを活用した、新しいソリューションを開発して、新しい期待に応えていくことで、コロナショックを乗り越えていく新しいスターがこれからも生まれてくるに違いない。

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