2020年7月号
特集
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【働き方】事務職から現場職へテレワークが広がる
浮き彫りになった課題
緊急事態宣言を受け、多くの企業がテレワークの一つの形態である「在宅勤務」を実施することで、通勤などに伴う移動を削減し、感染拡大を防止するための外出自粛要請に応えた。
管理部門などを中心に在宅勤務に踏み切った物流企業も多い一方、物流業は現場業務が事業の中核となることから、在宅勤務の実施には困難を伴うことも浮き彫りになった。
テレワークとはTele(離れたところで)とWork(働く)をあわせた造語だ。
情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方のことを表す。
日本テレワーク協会が定義する就業場所による分類では、自宅で仕事を行う「在宅勤務」、出張時の移動中などに公共交通機関内やカフェなどで仕事をする「モバイル勤務(モバイルワーク)」、共同のワークスペースなどを利用して仕事を行う「サテライトオフィス勤務」の3形態がある。
今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、企業は過去に例をみない規模でテレワークを実施した。
まずはその実施率の概要を見てみたい。
厚生労働省がLINEを利用して行った「第3回新型コロナ対策のための全国調査」によると、オフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の職業従事者におけるテレワークの実施率は4月12日~13日時点で26・8%であった(本設問の回答者数628万3871人)。
都道府県別では、東京都(実施率51・9%)、神奈川県(同44・0%)、千葉県(同36・0%)、埼玉県(同32・6%)の順に高く、首都圏を中心に高い実施率となった。
また、パーソル総合研究所による調査(回答者数2万5769人)では4月10日~12日時点でのテレワーク実施率は27・9%と、厚生労働省による調査結果とほぼ同水準の結果となった。
これらは個人に対する調査であるが、企業に対する調査としては東京商工リサーチが実施したものがある。
それによると3月27日~4月5日時点で在宅勤務を実施した企業は25・3%であった(有効回答社数1万7896社)。
企業規模別では、大企業の48・0%が実施したと回答したのに対し、中小企業では20・9%にとどまり、実施率に倍以上の差が見られた(資本金1億円以上を大企業、1億円未満や個人企業などを中小企業と定義)。
前述の調査では産業別のテレワーク実施率は出されていないが、総務省の「平成30年通信利用動向調査(企業編)」によると、新型コロナ感染拡大前(Beforeコロナ期)である2018年時点のテレワーク導入企業の割合は全体で19・1%だった。
産業別では情報通信業が最も高く39・9%、次いで金融・保険業(37・9%)、製造業(20・8%)、卸売・小売業(20・1%)などで高い結果となっており、運輸・郵便業は前年の7・7%から1ポイント増加したものの、引き続き最下位で8・7%にとどまった(図表1)。
運輸業と同じく現場作業のある製造業では20・8%、建設業でも18・8%と倍以上の割合となっていることから、運輸業の対応には遅れがみられる。
「Beforeコロナ期」の働き方改革 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」による改正後の労働基準法が19年4月から順次施行されている。
同法は長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などのための措置を講じている。
具体的には残業時間の上限規制の強化、勤務間インターバル制度の導入促進、年次有給休暇の取得義務化(年次有給休暇が10日付与される労働者が対象で最低5日取得)、同一労働同一賃金などが含まれ、これらの遂行により「多様で柔軟な働き方の実現」を目指すとされる。
一般業種・職種では、36協定で定めることができる時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間だ。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合であっても、年720時間以内となっている。
ただし、トラックドライバーを含む「自動車運転の業務」は5年間の猶予が与えられ、24年4月から年960時間の上限規制が適用されることになる(特別条項付き36協定を締結する場合)。
そのため、トラック運送業界では24年からの時間外労働の上限規制適用に向けて、労働時間を減らすための取り組みが鋭意進められている。
物流現場においては手荷役での積み込みや積み降し作業による身体への負担増、あるいは荷待ち時間の発生に起因する長時間労働などの課題がある。
これらが生産性の低下やドライバー不足の一因となっていることから、「ホワイト物流」推進運動に代表される「下請け取引の適正化」や「荷待ち時間や荷役作業の改善」が進められている。
こうした「Beforeコロナ期」における物流業界の働き方改革はトラックドライバーを中心とした労働条件の改善や荷役、ピッキング、運搬作業の省力化・自動化などによる作業効率の向上、適正取引の推進といった現場寄りの改革が中心で、他業界にみられるようなテレワークなどの新しい働き方の導入にはあまり進展がなかった。
それが「Underコロナ」によって一変した。
これまで在宅勤務などのテレワーク勤務制度を十分整備していなかった物流企業にも半ば強制的に在宅勤務措置が求められ、事務職や営業職の従業員を中心に働き方の変容が進んだのである。
大手物流企業の取り組み 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は3月11日~13日に会員である荷主企業と物流企業を対象に緊急アンケート調査「新型コロナウイルスの感染拡大による物流への影響について」(有効回答社数182社、回答率23・1%)を実施した。
それによると社員の新型コロナウイルス感染を防ぐために実施している制度・対策として、荷主企業では回答事業者の68・6%、物流企業では32・3%が「テレワーク・在宅勤務の実施・励行」を選択している。
コロナ禍において物流企業でもテレワーク・在宅勤務が進展している可能性が高いことが明らかになった。
同調査では「時差勤務の実施・励行」についても荷主企業の81・4%、物流企業の51・6%が実施・励行していると回答している。
出勤せざるを得ない社員には時差勤務という対策を取ることで、感染拡大防止に努めている。
次に筆者が独自に調査したUnderコロナにおける物流企業のテレワーク事例を三つ紹介したい。
1 大手物流A社 平時のテレワーク対象者は限定的であったが、新型コロナウイルスの感染防止策として、在宅勤務を本社勤務の従業員を対象に開始。
現状では約7~8割の従業員が在宅勤務を実施している。
日々の配送業務を担う営業所などの現場職については通常通りの勤務としているが、車両・設備・器具の洗浄と消毒、作業空間と人員配置の見直し、小グループでの朝礼や点呼、対面点呼時の適切な距離の確保、あるいは非対面での配達などといった幅広い対策を取ることにより、現場での感染拡大防止に努めている。
2 大手倉庫B社 本社や支部本部における管理部門および営業部門の社員については、可能な限り在宅勤務とし、社内システムの利用などが必要な業務の場合は交代勤務などで対応している。
現場の社員についても在宅勤務を推奨しているものの、現場を止めることができないため、必然的にほぼ通常勤務となっているようである。
その代わり、自家用車通勤への切り替えや時差出勤の推奨などで、通勤時や勤務時における感染拡大防止対策を実施している。
3 大手物流C社 事務職については職場によって業務内容が在宅勤務に適していないなどの課題があるものの、IT機器の配備など在宅勤務ができる環境が比較的整った職場で在宅勤務を原則としたことで実施率は大幅に高まった。
事務職員が出勤の際は時差出勤のほか、手洗いうがい、マスク着用、定期的な消毒、ソーシャルディスタンスの確保などの感染防止対策を徹底している。
現場職については、緊急事態宣言に伴う外出自粛要請などの影響によって消費者の宅配ニーズが増加。
宅配便業界が業務繁忙となっているが、高齢や妊娠中など感染時の重症化リスクが高い社員の出勤を停止したり、商業地から住宅地への稼働シフトなどにより特定地域で長時間労働が発生しないよう調整をしている。
各現場においても、各種感染防止対策の徹底を行い、顧客および社員の不安を軽減させるよう努めている。
このようにBeforeコロナ期には在宅勤務などのテレワーク対象者が限定的であったり、大々的に導入していなかった企業においても、今回の新型コロナ感染拡大を受けて、在宅勤務を中心としたテレワークが大幅に進展した。
Beforeコロナ期におけるテレワーク推進の目的は東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた交通混雑の緩和や仕事の生産性の向上、ワーク・ライフ・バランスの改善や働き方の多様性のための取り組み、あるいは家事や育児、介護中の社員のための福利厚生としての側面が強かった。
しかし、Underコロナにおいてはその目的が大きく変わった。
新型コロナの感染拡大を防ぎ、安全を確保しながら就業や事業を継続するという「事業継続性の確保(BCP)」の意味合いが強くなった。
今回はIT機器やネットワークの準備が整わないまま在宅勤務せざるを得ず、通常通りの仕事ができないという問題が発生した企業もあっただろう。
しかし、ウイルスに限らず、地震や台風などの自然災害による非常事態は突然やってくる。
平時からのBCP対策としてテレワーク勤務環境を整備しておくことが、事業の継続および従業員の命を守ることにつながる。
BCPの策定やテレワーク勤務制度の整備は大手企業を中心に進められているのが現状である。
だが、物流業界は中小企業が大多数を占める。
わが国の物流機能を維持していくためには中小企業における早期の浸透が望まれる。
鍵は物流現場職のモバイルワーク では、どのようにして物流企業におけるテレワークを推進していくべきなのか。
そもそも同じ物流企業の中であっても事務職と現場職では働き方が異なる。
事務・管理職や営業職などについては、仕事のやり方の工夫や文書のデータ化、システムのクラウド化、ITツールの活用などにより、在宅勤務をはじめとするテレワークを比較的容易に実現しやすい。
一方、テレワーク実施が難しいのが物流業の中核を担う現場職だ。
人々の生活や命を守る社会インフラとして、食料品や医薬品、生活用品など、モノの管理・保管、荷役、流通加工、輸送を止めることはできず、人手を介さないと社会機能の維持が困難であることが今回のコロナ禍であらためて確認された。
「ステイホーム」を要請された人々が実際に「ステイホーム」することができたのは感染リスクを負いながら、外で以前と変わらず働き続けた物流現場職のおかげでもある。
物流現場職は物流施設などの現業拠点での現場作業を伴うため、事務職などのように1日単位でのテレワーク実施は難しい。
しかし、やりようはある。
精算処理などの事務処理や報告書など書類の作成といった事務作業のほか、例えばタブレットやスマートフォンなどのIT機器・ツールを活用して、自宅にいながらリモートで部下に指示を出したり、上長の指示を仰ぐモバイルワークなどが考えられる。
コロナ禍における現場職への対応策の一つとしては出勤人数の抑制があった。
在宅勤務などのテレワークが可能な人や業務内容の一部分でテレワークを推奨し、現場に出勤する人数を最低限に抑え、ローテーション勤務をすることで密閉、密集、密接の「3密」となるリスクを減らした。
さらに必要な報告・相談はIT機器・ツールを活用して実施したり、業務報告書などの書類作成はノートパソコンやスマートフォンを使って自宅で行うなどすれば、自宅から現場へ直行直帰するなどして事務所やオフィスに立ち寄る必要性をなくし、他者との接触機会を減らすことが可能となる。
特にモバイルワークは現場職を対象とするテレワーク推進の要でもあり、図表2のような働き方が想定される。
出勤せざるを得ない場合は時差出勤をしたり、通勤手段を電車やバスなどの公共交通機関から自家用車や自転車などといった「3密」にならない移動方法に転換することも有効だ。
この意味においては、テレワーク可能な人がテレワーク実施を徹底すれば、通勤時および勤務時の「3密」が発生する可能性を抑制し、出勤せざるを得ない人の感染リスクを軽減させることに結びつく。
他業界では在宅勤務する社員には在宅勤務時に必要となる家具や機器の購入、光熱費の補填としての「在宅勤務手当」を設けている企業もある。
その一方で、コロナ禍では通勤に感染リスクが伴うことから、通勤自体が危険であるとして、出勤する社員に対し「危険手当」を支払う企業も出てきた。
手当の支給という手段でテレワークをできる職種とテレワークが難しい職種の間の不公平感の解消を試みている事例である。
レガシーとして何を残せるか 続いて「Withコロナ期」における物流業界の働き方について述べたい。
まず言えることは、緊急事態宣言解除後もすぐには「Afterコロナ」とはならない点だ。
少なくともワクチンが開発され、普及するまでは新型コロナウイルスと共存しながら生活したり、事業を継続していくWithコロナの時代となる。
その際には「新しい生活様式」に代表される新しい働き方が求められる。
5月4日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議より発表された「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、感染拡大を予防する「新しい生活様式」が提言された。
具体的には、①身体的距離の確保(人との間隔はできるだけ2メートル空ける)②症状がなくてもマスクを着用③手洗いをすること──の3点を感染防止の基本とし、買い物、娯楽・スポーツなど、公共交通機関の利用、食事、冠婚葬祭などの親族行事といった日常生活の場面別に新しい生活様式が例示されている。
「働き方の新しいスタイル」については、テレワークや時差通勤、オンライン会議などが提言されている(図表3)。
物流業界でも複数の業界団体より、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインが出されている。
主な対応策は図表4の通りである。
物流現場でも定期的な消毒、ソーシャルディスタンスの確保などのほか、運転者に対する対面点呼の場面では適切な距離を確保したり、作業員への指図書は手渡しを避けて指定場所に置いたり、非対面での配達(置き配)などの工夫がなされている。
従ってこれから訪れるWithコロナ期の新しい働き方とは、一般に「3密」を避けるためのソーシャルディスタンスを保ちながら従来と同等の生産性、あるいはそれ以上の生産性を達成する働き方を探っていくことである。
他業界では従来は臨時的だった在宅勤務を恒常的な制度へと進展させている企業もある。
米国ではツイッター社やスクエア社が、ロックダウン措置が解除された後も在宅勤務を無期限で許可している。
わが国でもドワンゴが終息後も全社員を原則在宅勤務とする方針にするなど在宅勤務の本格導入が進んでいる。
また、在宅勤務が長期化する中で、在宅勤務時の勤務時間や残業規制の緩和、人事評価の見直しなどを進める企業もある。
在宅勤務の実施には通勤時間が削減されたり、無駄な会議が減ったり、会議時間が短縮されることで時間的な余裕が生まれるといったメリットがある。
さらに集中力を要する業務などは在宅勤務の方が仕事の生産性が高まる点も見逃せない。
一方でコミュニケーション不足や「はんこ文化」などの日本的商慣行、労務管理、情報セキュリティなどの課題も見えてきた。
しかし、これらはウェブ会議システムやビジネスチャット、ワークフローシステム、勤怠管理システム、電子契約サービスなどのITツールやVPN(仮想専用線)通信などの安全性の高い通信方法を採用することなどによって、ある程度は解消できる。
ツール利用のほかにも、情報セキュリティポリシーや在宅勤務時の働き方(上長への報連相など)について社内でルール化し、社員の理解を徹底させることも重要である。
緊急事態宣言下では外出が制限されたことから、多少の不便さや、やりにくさには目をつぶった企業もあっただろう。
だが、今回の「トライアル期」に浮き上がってきた課題を解決しながら、より働きやすい勤務制度に改善したり、出社せずに業務を行えるよう仕事のやり方を見直し、より効率よく働ける環境を目指すことが重要だ。
それには書類のデータ化やブッキング手続きなどのデジタル化といった人の移動を抑制する対策だけではなく、荷役やピッキング、運搬作業の自動化など、物流現場の省人化や人手不足対策にもつながる改善に期待したい。
最後に物流業界の働き方改革の今後について触れたい。
今回の新型コロナ感染拡大によって進んだ働き方の変容をあくまで「緊急事態」下での取り組みとして終えていいのだろうか。
終息後に全員が当たり前に出社する働き方に戻ってしまっていいのだろうか。
それではいけないと筆者は考えている。
今回の試みをテレワークの「トライアル期」と捉え、それをベースに仕組みを発展させて、新型コロナの第2波や将来の他のパンデミック、あるいは自然災害に備えるBCP対策として整備すべきだ。
優秀な人材を維持・確保するための働き方の多様性やワーク・ライフ・バランスの改善に向けた一手段として進展させていくことも可能だろう。
働き方や働きやすさにおいて、物流業界はこれ以上、他産業に後れを取ることは許されない。
業界の働き方改革への本気度が問われている。
管理部門などを中心に在宅勤務に踏み切った物流企業も多い一方、物流業は現場業務が事業の中核となることから、在宅勤務の実施には困難を伴うことも浮き彫りになった。
テレワークとはTele(離れたところで)とWork(働く)をあわせた造語だ。
情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方のことを表す。
日本テレワーク協会が定義する就業場所による分類では、自宅で仕事を行う「在宅勤務」、出張時の移動中などに公共交通機関内やカフェなどで仕事をする「モバイル勤務(モバイルワーク)」、共同のワークスペースなどを利用して仕事を行う「サテライトオフィス勤務」の3形態がある。
今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、企業は過去に例をみない規模でテレワークを実施した。
まずはその実施率の概要を見てみたい。
厚生労働省がLINEを利用して行った「第3回新型コロナ対策のための全国調査」によると、オフィスワーク中心(事務・企画・開発など)の職業従事者におけるテレワークの実施率は4月12日~13日時点で26・8%であった(本設問の回答者数628万3871人)。
都道府県別では、東京都(実施率51・9%)、神奈川県(同44・0%)、千葉県(同36・0%)、埼玉県(同32・6%)の順に高く、首都圏を中心に高い実施率となった。
また、パーソル総合研究所による調査(回答者数2万5769人)では4月10日~12日時点でのテレワーク実施率は27・9%と、厚生労働省による調査結果とほぼ同水準の結果となった。
これらは個人に対する調査であるが、企業に対する調査としては東京商工リサーチが実施したものがある。
それによると3月27日~4月5日時点で在宅勤務を実施した企業は25・3%であった(有効回答社数1万7896社)。
企業規模別では、大企業の48・0%が実施したと回答したのに対し、中小企業では20・9%にとどまり、実施率に倍以上の差が見られた(資本金1億円以上を大企業、1億円未満や個人企業などを中小企業と定義)。
前述の調査では産業別のテレワーク実施率は出されていないが、総務省の「平成30年通信利用動向調査(企業編)」によると、新型コロナ感染拡大前(Beforeコロナ期)である2018年時点のテレワーク導入企業の割合は全体で19・1%だった。
産業別では情報通信業が最も高く39・9%、次いで金融・保険業(37・9%)、製造業(20・8%)、卸売・小売業(20・1%)などで高い結果となっており、運輸・郵便業は前年の7・7%から1ポイント増加したものの、引き続き最下位で8・7%にとどまった(図表1)。
運輸業と同じく現場作業のある製造業では20・8%、建設業でも18・8%と倍以上の割合となっていることから、運輸業の対応には遅れがみられる。
「Beforeコロナ期」の働き方改革 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」による改正後の労働基準法が19年4月から順次施行されている。
同法は長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などのための措置を講じている。
具体的には残業時間の上限規制の強化、勤務間インターバル制度の導入促進、年次有給休暇の取得義務化(年次有給休暇が10日付与される労働者が対象で最低5日取得)、同一労働同一賃金などが含まれ、これらの遂行により「多様で柔軟な働き方の実現」を目指すとされる。
一般業種・職種では、36協定で定めることができる時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間だ。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合であっても、年720時間以内となっている。
ただし、トラックドライバーを含む「自動車運転の業務」は5年間の猶予が与えられ、24年4月から年960時間の上限規制が適用されることになる(特別条項付き36協定を締結する場合)。
そのため、トラック運送業界では24年からの時間外労働の上限規制適用に向けて、労働時間を減らすための取り組みが鋭意進められている。
物流現場においては手荷役での積み込みや積み降し作業による身体への負担増、あるいは荷待ち時間の発生に起因する長時間労働などの課題がある。
これらが生産性の低下やドライバー不足の一因となっていることから、「ホワイト物流」推進運動に代表される「下請け取引の適正化」や「荷待ち時間や荷役作業の改善」が進められている。
こうした「Beforeコロナ期」における物流業界の働き方改革はトラックドライバーを中心とした労働条件の改善や荷役、ピッキング、運搬作業の省力化・自動化などによる作業効率の向上、適正取引の推進といった現場寄りの改革が中心で、他業界にみられるようなテレワークなどの新しい働き方の導入にはあまり進展がなかった。
それが「Underコロナ」によって一変した。
これまで在宅勤務などのテレワーク勤務制度を十分整備していなかった物流企業にも半ば強制的に在宅勤務措置が求められ、事務職や営業職の従業員を中心に働き方の変容が進んだのである。
大手物流企業の取り組み 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は3月11日~13日に会員である荷主企業と物流企業を対象に緊急アンケート調査「新型コロナウイルスの感染拡大による物流への影響について」(有効回答社数182社、回答率23・1%)を実施した。
それによると社員の新型コロナウイルス感染を防ぐために実施している制度・対策として、荷主企業では回答事業者の68・6%、物流企業では32・3%が「テレワーク・在宅勤務の実施・励行」を選択している。
コロナ禍において物流企業でもテレワーク・在宅勤務が進展している可能性が高いことが明らかになった。
同調査では「時差勤務の実施・励行」についても荷主企業の81・4%、物流企業の51・6%が実施・励行していると回答している。
出勤せざるを得ない社員には時差勤務という対策を取ることで、感染拡大防止に努めている。
次に筆者が独自に調査したUnderコロナにおける物流企業のテレワーク事例を三つ紹介したい。
1 大手物流A社 平時のテレワーク対象者は限定的であったが、新型コロナウイルスの感染防止策として、在宅勤務を本社勤務の従業員を対象に開始。
現状では約7~8割の従業員が在宅勤務を実施している。
日々の配送業務を担う営業所などの現場職については通常通りの勤務としているが、車両・設備・器具の洗浄と消毒、作業空間と人員配置の見直し、小グループでの朝礼や点呼、対面点呼時の適切な距離の確保、あるいは非対面での配達などといった幅広い対策を取ることにより、現場での感染拡大防止に努めている。
2 大手倉庫B社 本社や支部本部における管理部門および営業部門の社員については、可能な限り在宅勤務とし、社内システムの利用などが必要な業務の場合は交代勤務などで対応している。
現場の社員についても在宅勤務を推奨しているものの、現場を止めることができないため、必然的にほぼ通常勤務となっているようである。
その代わり、自家用車通勤への切り替えや時差出勤の推奨などで、通勤時や勤務時における感染拡大防止対策を実施している。
3 大手物流C社 事務職については職場によって業務内容が在宅勤務に適していないなどの課題があるものの、IT機器の配備など在宅勤務ができる環境が比較的整った職場で在宅勤務を原則としたことで実施率は大幅に高まった。
事務職員が出勤の際は時差出勤のほか、手洗いうがい、マスク着用、定期的な消毒、ソーシャルディスタンスの確保などの感染防止対策を徹底している。
現場職については、緊急事態宣言に伴う外出自粛要請などの影響によって消費者の宅配ニーズが増加。
宅配便業界が業務繁忙となっているが、高齢や妊娠中など感染時の重症化リスクが高い社員の出勤を停止したり、商業地から住宅地への稼働シフトなどにより特定地域で長時間労働が発生しないよう調整をしている。
各現場においても、各種感染防止対策の徹底を行い、顧客および社員の不安を軽減させるよう努めている。
このようにBeforeコロナ期には在宅勤務などのテレワーク対象者が限定的であったり、大々的に導入していなかった企業においても、今回の新型コロナ感染拡大を受けて、在宅勤務を中心としたテレワークが大幅に進展した。
Beforeコロナ期におけるテレワーク推進の目的は東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた交通混雑の緩和や仕事の生産性の向上、ワーク・ライフ・バランスの改善や働き方の多様性のための取り組み、あるいは家事や育児、介護中の社員のための福利厚生としての側面が強かった。
しかし、Underコロナにおいてはその目的が大きく変わった。
新型コロナの感染拡大を防ぎ、安全を確保しながら就業や事業を継続するという「事業継続性の確保(BCP)」の意味合いが強くなった。
今回はIT機器やネットワークの準備が整わないまま在宅勤務せざるを得ず、通常通りの仕事ができないという問題が発生した企業もあっただろう。
しかし、ウイルスに限らず、地震や台風などの自然災害による非常事態は突然やってくる。
平時からのBCP対策としてテレワーク勤務環境を整備しておくことが、事業の継続および従業員の命を守ることにつながる。
BCPの策定やテレワーク勤務制度の整備は大手企業を中心に進められているのが現状である。
だが、物流業界は中小企業が大多数を占める。
わが国の物流機能を維持していくためには中小企業における早期の浸透が望まれる。
鍵は物流現場職のモバイルワーク では、どのようにして物流企業におけるテレワークを推進していくべきなのか。
そもそも同じ物流企業の中であっても事務職と現場職では働き方が異なる。
事務・管理職や営業職などについては、仕事のやり方の工夫や文書のデータ化、システムのクラウド化、ITツールの活用などにより、在宅勤務をはじめとするテレワークを比較的容易に実現しやすい。
一方、テレワーク実施が難しいのが物流業の中核を担う現場職だ。
人々の生活や命を守る社会インフラとして、食料品や医薬品、生活用品など、モノの管理・保管、荷役、流通加工、輸送を止めることはできず、人手を介さないと社会機能の維持が困難であることが今回のコロナ禍であらためて確認された。
「ステイホーム」を要請された人々が実際に「ステイホーム」することができたのは感染リスクを負いながら、外で以前と変わらず働き続けた物流現場職のおかげでもある。
物流現場職は物流施設などの現業拠点での現場作業を伴うため、事務職などのように1日単位でのテレワーク実施は難しい。
しかし、やりようはある。
精算処理などの事務処理や報告書など書類の作成といった事務作業のほか、例えばタブレットやスマートフォンなどのIT機器・ツールを活用して、自宅にいながらリモートで部下に指示を出したり、上長の指示を仰ぐモバイルワークなどが考えられる。
コロナ禍における現場職への対応策の一つとしては出勤人数の抑制があった。
在宅勤務などのテレワークが可能な人や業務内容の一部分でテレワークを推奨し、現場に出勤する人数を最低限に抑え、ローテーション勤務をすることで密閉、密集、密接の「3密」となるリスクを減らした。
さらに必要な報告・相談はIT機器・ツールを活用して実施したり、業務報告書などの書類作成はノートパソコンやスマートフォンを使って自宅で行うなどすれば、自宅から現場へ直行直帰するなどして事務所やオフィスに立ち寄る必要性をなくし、他者との接触機会を減らすことが可能となる。
特にモバイルワークは現場職を対象とするテレワーク推進の要でもあり、図表2のような働き方が想定される。
出勤せざるを得ない場合は時差出勤をしたり、通勤手段を電車やバスなどの公共交通機関から自家用車や自転車などといった「3密」にならない移動方法に転換することも有効だ。
この意味においては、テレワーク可能な人がテレワーク実施を徹底すれば、通勤時および勤務時の「3密」が発生する可能性を抑制し、出勤せざるを得ない人の感染リスクを軽減させることに結びつく。
他業界では在宅勤務する社員には在宅勤務時に必要となる家具や機器の購入、光熱費の補填としての「在宅勤務手当」を設けている企業もある。
その一方で、コロナ禍では通勤に感染リスクが伴うことから、通勤自体が危険であるとして、出勤する社員に対し「危険手当」を支払う企業も出てきた。
手当の支給という手段でテレワークをできる職種とテレワークが難しい職種の間の不公平感の解消を試みている事例である。
レガシーとして何を残せるか 続いて「Withコロナ期」における物流業界の働き方について述べたい。
まず言えることは、緊急事態宣言解除後もすぐには「Afterコロナ」とはならない点だ。
少なくともワクチンが開発され、普及するまでは新型コロナウイルスと共存しながら生活したり、事業を継続していくWithコロナの時代となる。
その際には「新しい生活様式」に代表される新しい働き方が求められる。
5月4日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議より発表された「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、感染拡大を予防する「新しい生活様式」が提言された。
具体的には、①身体的距離の確保(人との間隔はできるだけ2メートル空ける)②症状がなくてもマスクを着用③手洗いをすること──の3点を感染防止の基本とし、買い物、娯楽・スポーツなど、公共交通機関の利用、食事、冠婚葬祭などの親族行事といった日常生活の場面別に新しい生活様式が例示されている。
「働き方の新しいスタイル」については、テレワークや時差通勤、オンライン会議などが提言されている(図表3)。
物流業界でも複数の業界団体より、新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインが出されている。
主な対応策は図表4の通りである。
物流現場でも定期的な消毒、ソーシャルディスタンスの確保などのほか、運転者に対する対面点呼の場面では適切な距離を確保したり、作業員への指図書は手渡しを避けて指定場所に置いたり、非対面での配達(置き配)などの工夫がなされている。
従ってこれから訪れるWithコロナ期の新しい働き方とは、一般に「3密」を避けるためのソーシャルディスタンスを保ちながら従来と同等の生産性、あるいはそれ以上の生産性を達成する働き方を探っていくことである。
他業界では従来は臨時的だった在宅勤務を恒常的な制度へと進展させている企業もある。
米国ではツイッター社やスクエア社が、ロックダウン措置が解除された後も在宅勤務を無期限で許可している。
わが国でもドワンゴが終息後も全社員を原則在宅勤務とする方針にするなど在宅勤務の本格導入が進んでいる。
また、在宅勤務が長期化する中で、在宅勤務時の勤務時間や残業規制の緩和、人事評価の見直しなどを進める企業もある。
在宅勤務の実施には通勤時間が削減されたり、無駄な会議が減ったり、会議時間が短縮されることで時間的な余裕が生まれるといったメリットがある。
さらに集中力を要する業務などは在宅勤務の方が仕事の生産性が高まる点も見逃せない。
一方でコミュニケーション不足や「はんこ文化」などの日本的商慣行、労務管理、情報セキュリティなどの課題も見えてきた。
しかし、これらはウェブ会議システムやビジネスチャット、ワークフローシステム、勤怠管理システム、電子契約サービスなどのITツールやVPN(仮想専用線)通信などの安全性の高い通信方法を採用することなどによって、ある程度は解消できる。
ツール利用のほかにも、情報セキュリティポリシーや在宅勤務時の働き方(上長への報連相など)について社内でルール化し、社員の理解を徹底させることも重要である。
緊急事態宣言下では外出が制限されたことから、多少の不便さや、やりにくさには目をつぶった企業もあっただろう。
だが、今回の「トライアル期」に浮き上がってきた課題を解決しながら、より働きやすい勤務制度に改善したり、出社せずに業務を行えるよう仕事のやり方を見直し、より効率よく働ける環境を目指すことが重要だ。
それには書類のデータ化やブッキング手続きなどのデジタル化といった人の移動を抑制する対策だけではなく、荷役やピッキング、運搬作業の自動化など、物流現場の省人化や人手不足対策にもつながる改善に期待したい。
最後に物流業界の働き方改革の今後について触れたい。
今回の新型コロナ感染拡大によって進んだ働き方の変容をあくまで「緊急事態」下での取り組みとして終えていいのだろうか。
終息後に全員が当たり前に出社する働き方に戻ってしまっていいのだろうか。
それではいけないと筆者は考えている。
今回の試みをテレワークの「トライアル期」と捉え、それをベースに仕組みを発展させて、新型コロナの第2波や将来の他のパンデミック、あるいは自然災害に備えるBCP対策として整備すべきだ。
優秀な人材を維持・確保するための働き方の多様性やワーク・ライフ・バランスの改善に向けた一手段として進展させていくことも可能だろう。
働き方や働きやすさにおいて、物流業界はこれ以上、他産業に後れを取ることは許されない。
業界の働き方改革への本気度が問われている。
