2020年6月号
特集
特集
海外の代表的研究論文をレビューする
オムニチャネル戦略においては「チャネル横断的な統合」が重視される。
ロジスティクスの統合は、その核となる要素である。
しかしながら、日本におけるオムニチャネルに関する文献資料は、今のところオムニチャネル小売業の先端事例の紹介が中心であり、オムニチャネルのロジスティクス研究や、その知見の実践への応用は今後の課題となっている。
本稿では、海外の学術論文を中心に、オムニチャネル小売業におけるロジスティクス研究をレビューする。
オムニチャネル小売業のロジスティクス研究は大きく「1.フレームワーク」「2.発展形態」「3.オペレーション」「4.物流サービス」の四つに分類することができる。
それぞれの代表的な研究に焦点を当て論考する。
1.フレームワーク オムニチャネル小売業のロジスティクス統合に関する代表的研究者の1人が、現在、独ミュンヘン工科大に所属するアレキサンダー・ヒュブナー(Alexander Hübner)教授である。
ヒュブナー教授らによる論文“Retail Logistics in the Transition from Multi-channel to Omni-channel”(2016)は、マルチチャネルからオムニチャネルへ移行する際のロジスティクス課題についての調査研究を行い、小売業者がオムニチャネル化する際の統合対象を、「①在庫」「②ピッキング」「③品揃え物」「④配達」「⑤返品」「⑥組織」「⑦情報システム」の七つに分類するフレームワークを図1の通り提示した。
同論文で実施されたドイツの小売業者を対象にしたアンケート調査によれば、店舗向けと通信販売向けの在庫保管を「別拠点で行うか、同一拠点で行うか」という質問に対して、オムニチャネルの経験年数が長い小売業者ほど同一拠点、すなわち統合のレベルが高くなる傾向を示した。
品揃え形成についても、経験年数と共にオンラインの品揃え物が拡大して、店舗における品揃え物を上回るようになる傾向が明らかになった。
一方で、配達や返品については、オンラインで注文して、店舗などで商品をピックアップする「クリック&コレクト(以下C&C)」や、購買時と異なるチャネルからの返品を受け入れるといったチャネルを横断するオペレーションの統合は、経験年数よりも、むしろ商品特性や店舗密度に応じて行われていた。
同論文は「(チャネルを越えた)組織の統合が(オムニチャネルの)ロジスティクス統合を可能にする」と結論付けている。
また、情報システムの統合は、チャネルを越えた在庫管理や商品の貨物追跡、顧客とのコミュニケーションを促進する点を明らかにした(図2)。
ヒュブナー教授らは、同じ年に発表した別の論文“Distribution Systems in Omni-channel Retailing”で、ドイツ圏の非食品のオムニチャネル小売業に対して、ロジスティクスの現状に関するインタビュー調査を行っている。
同インタビューで、実務家の関心は「①配送モードの開発と最適化」「②配送スピードの向上」「③在庫の可視化」「④クロスチャネルプロセスの最適化」および「⑤在庫統合と配置」にあった。
ヒュブナー教授らは、同論文における前者三つ、すなわち「①配送モードの開発と最適化」「②配送スピードの向上」「③在庫の可視化」を「サービス視点」、後者の「④クロスチャネルプロセスの最適化」「⑤在庫統合と配置」の二つを「ロジスティクスコスト」の問題と捉え、そのうえで、商品の発地(サプライヤーDC・小売DC・店舗)と受け取り方法(宅配・C&Cなど)の組み合わせによって、オムニチャネルロジスティクスのネットワーク構造を整理した。
伊ミラノ工科大のジーノ・マルケト(Gino Marchet)教授らは、“Business Logistics Models in Omni-channel:A Classification Framework and Empirical Analysis”(2018)で、ヒュブナー教授らの研究とイタリア企業に対する事例研究を基に、オムニチャネルロジスティクスの新たなフレームワークを提起した。
同論文はオムニチャネルロジスティクスの戦略領域として「配送サービス」「流通構造」「フルフィルメント戦略」「返品管理」の四つを規定した(図3)。
それぞれ以下のような内容となっている。
●配送サービス 配送モード・配送リードタイム・時間帯指定の有無や時間帯指定料金の設定といった「ラストマイル」に関する内容が多く挙げられている。
例えば、配送モードでは、C&Cを店舗内で対応するのか、あるいはドライブスルーのような隣接型なのか、店舗とは別の場所なのかと細かく分類している点が特徴的である。
●流通構造 ピッキング拠点・配送エリアの設定・輸送モードの選択といった「ロジスティクスネットワーク」の設計に関する内容を中心としている。
●フルフィルメント戦略 物流センターの自動化・ピッキング作業の統合・注文に応じた出荷場所の柔軟性といった「オペレーション」に関する課題を提示している。
●返品管理 返品を受け付けるか、受け付ける場合にどのチャネルを利用可とするかといった「返品」に関する内容が示されている。
このフレームワークを基にしたクラスター分析の結果、フルフィルメントを個々のチャネルで別個に行う「分離モデル」、反対にフルフィルメントを統合して行う「統合倉庫モデル」、店舗からの出荷やC&Cを中心とする「店舗ベースモデル」、顧客のニーズに応じて柔軟に対応する「多重配置モデル」の4つの類型が見出された。
以上のように、海外では企業に対するアンケートなどの一次情報に基づいて、小売業のオムニチャネルにおけるロジスティクスを構造的に捉えようとする研究が進んでいる。
これらの研究は、日本の小売業がオムニチャネル化するにあたり、何を検討対象とし、どのような選択肢が考えられるかを議論する際にも有用なフレームワークと言えよう。
2.発展形態 次にオムニチャネルの発展段階に応じた、ロジスティクス形態の研究領域を概覧する。
米オーバーン大のラファイ・イシュファク(Rafay Ishfaq)准教授らは“Realignment of the Physical Distribution Process in Omni-channel Fulfillment”(2006)で、アメリカの小売業界の経営者団体のメンバーに対するインタビュー調査を実施した。
その結果を基に、店舗小売業がオンライン注文を採用してオムニチャネル化していく際の重要な要素の一つが「フルフィルメント」である点を明らかにした。
そして、オムニチャネルフルフィルメントの選択肢として、①流通センター内にオンライン専用在庫を設けるタイプ、②在庫をオンラインとオフラインで共同利用するタイプ、③店舗在庫でオンライン注文に対応するタイプの3つの形態を示した。
そのうえで、流通センターに関して行った分析から、オンライン販売量が少ない段階では、「オンライン業務をオフライン用流通センターと統合して運用する」が、ある閾値を超えると「3PL事業者にアウトソーシングする」ようになり、さらにオンライン販売量が増えると「オンライン専用センターを設置する」といった段階性を明らかにした。
ただし、オンライン販売量が大きくても、流通センターの拠点数および店舗数によって、流通センターを統合型にするか専用型にするかは分かれるという結果が示された。
同論文は「店舗インフラの活用」も調査している。
オンラインで注文した商品を店舗で受け取れる、返品も店舗で受け付けるといった店舗の活用が、EC専業者との差別化要因として捉えられた。
また、これらの施策はオムニチャネルの経験年数が長く、店舗当たりの従業員数が多いほど実施される傾向にあった。
以上の分析を踏まえて同論文は、配送拠点としての店舗活用の有効性、店舗の役割の変化、ラストマイルの配送無料化によるオムニチャネル促進の可能性等を指摘した。
先のヒュブナー教授と共同研究を行ってきた独アイヒシュテット・インゴルシュタット・カトリック大のヨハネス・ヴォルテンベルク(Johannes Wollenburg)博士は自らを第一著者とする共同論文“From Bricks-and-mortar to Bricks-and-clicks:Logistics Networks in Omni-channel Grocery Retailing”(2018)で、欧州6カ国の食料品を扱うオムニチャネル小売業者12社に対するインタビュー調査を行った。
同論文はロジスティクスネットワークを、「①既存の店舗向け物流網を活かして店舗でピッキングと配送を実施するタイプ」「②オンライン専用センターを新設するタイプ」「③流通センターで店舗向けおよび個人向けを統合して行うタイプ」の大きく3つに分類した。
そのうえで「オンラインフルフィルメントのケイパビリティ」が高まると、①店舗でピッキングと配送を実施するタイプから、②オンライン専用センターへ移行する発展プロセスを見出した。
さらに「オンライン売上量」が増加すると、③流通センター統合へと進化していくという発展の方向性を明らかにした。
また、同論文は、先行研究では取り扱う商品が食品か非食品かの違いを踏まえておらず、オムニチャネルにおいて単純にロジスティクス統合が必要であるとしている見解を批判した。
併せて、倉庫業務・ピッキング・流通センターと店舗間などの内部輸送・ラストマイルは相互に関連していて、費用もラストマイルだけでなくトータルコストで考える必要があり、オムニチャネルの解は一つではなく地域によって異なると主張した。
先のイシュファク准教授らの研究と、ヴォルテンベルク博士の研究は、いずれもオムニチャネルの発展段階に応じてロジスティクス形態が変化することを想定しているが、それぞれ異なる結果を示しており、統一された見解は見出せない。
また、シングルチャネルやマルチチャネルのECが拡大する際に生じるロジスティクス形態の変化との違いも明確ではない。
消費者の購買行動がチャネルを超える傾向が強まることで、当然ながらチャネル間の情報共有の仕組みが重要となる。
また昨今は、商品が物流センターから出荷された後で宅配からC&Cに変更するといった、受け取り方法の柔軟な変更が、スマートフォンなどを通じて行われるようになっている。
オムニチャネルのロジスティクスを議論する際には、これらに対応する過程で生じるロジスティクス形態の変化も考察する必要があるだろう。
3.オペレーション 英クランフィールド大MBAのマイケル・ベルノン(Michael Bernon)准教授らは、“Online Retail Returns Management: Integration within an Omni-channel Distribution Context”(2016)で、オムニチャネルの返品問題に焦点を当てた。
インターネット通販の売上高が大きいイギリス企業を対象にアンケート調査を行い、業界による返品率の違いを明らかにした。
同アンケート調査では、小売業者の多くが、消費者の返品しやすさと、そのための移動時間を最小化する返品場所の数が、返品問題のカギになると答えている。
そのため多店舗展開している小売業者は、店舗を活用して返品を受け付けている。
一方、店舗数が限られる小売業者は、①同じグループ企業の店舗、②第三者の店舗ベースのパーセルサービス、③郵便局のサービスを利用等によって返品に対応している。
返品処理ではスピードが重要になる。
そのスピードは、「返金のスピード」と「返品した商品を再販売するスピード」の二つに分類される。
また、返品プロセスの統合の課題として、①返品された商品の管理方法、②C&Cの未回収に対する対応、③返品交換の対応、④C&Cの商品とその他の商品の会計処理、⑤郵便システムを通じた返品処理が指摘された。
前出の米オーバーン大のイシュファク准教授らも、宅配時に配送料無料となる受注金額水準を分析している。
それによるとEC専用型流通センターは、配送料を無料とする受注金額が低い傾向にあった。
また統合型流通センターと3PL利用は、流通センターの拠点数が少ないと配送料無料となる受注金額の水準が高くなり、拠点数が多いと受注金額水準が低くなる傾向が示された。
ペンシルバニア大ウォートン校のマーシャル・フィッシャー(Marshall Fisher)教授らは、“The Value of Rapid Delivery in Omnichannel Retailing” (2019)で、配送スピードの向上がオンラインと店舗の売上高にどのような影響を与えるかという視点から、アメリカのアパレル企業のケーススタディを行った。
このアパレル企業は従来、アメリカ東部に1拠点だけDCを置いていたが、2012年に西部に二つ目のDCを新設して拠点を分散した。
そこで西部DCの設置前と設置後を比較する準実験的研究を行った。
西部エリアではそれまでリードタイムが営業日ベースで5~7日だったものが、地域によっては最大2日程度短縮された。
差分分析の結果、リードタイム変更後の50週で、対象エリアのオンライン販売の売上高は3・79%増加した。
店舗販売も1・82%増えた。
投資対効果として金額ベースで年間400万ドルの利益が残った。
以上の結果から、配送スピードの向上は店舗販売を侵食せず、オンラインと店舗は補完的な関係と結論された。
具体的にみると、短期的には、配送スピードの向上は店舗への来店客数を増加させる効果をもたらし、長期的には、店舗の多さによるブランド力が配送スピードの向上効果を増加させるシナジーが得られた。
ただし、これらのシナジーは両方のチャネルで十分な「ブランドプレゼンス(オンラインでは対象エリアの顧客数・店舗では当該エリアの店舗数)」がある時のみに発揮されるという条件の存在が指摘された。
この論文の他にも、独ケルン応用科学大のステファン・フレイチェル(Stephan Freichel)教授らによるオムニチャネル小売業における包装・梱包に関する研究“The Role of Packaging in Omni-channel Fashion Retail Supply Chains– How can Packaging Contribute to Logistics Efficiency?”(2019)などはあるものの、具体的なオペレーションの研究は少ない。
オムニチャネル小売業の店舗では、ピッキングや梱包・出荷作業が必要になる。
これらの物流作業は、店舗で働く従業員の負荷を高めるリスクがある。
今後は物流センターのみならず、店舗における物流オペレーションに関する研究が重要となるだろう。
4.物流サービス 現在、ペンシルバニア大ウォートン校の助教授を務めるサンチアゴ・ガリーノ(Santiago Gallino)と、ハーバード・ビジネス・スクール准教授のアントニオ・モレノ(Antonio Moreno)は、“Integration of Online and Offline Channels in Retail: The Impact of Sharing Reliable Inventory Availability Information”(2014)で、アメリカの小売業を対象に、「BOPS:Buy-Online, Pick-up-in-Store(オンライン注文・店頭引き取り、C&Cと同義で用いられている)」の実証研究を行っている。
意外なことに分析の結果、BOPSの導入によってその小売業のオンライン売上高は減少し、店舗の売上高は増加した。
その理由は、BOPSを実施するために、店舗も含めた全体の在庫情報が正確に可視化された結果、消費者は店舗に在庫があれば、受け取りまでに時間のかかるオンラインではなく、店舗に出向いて購買を行うためであろうと推察された。
さらに、その消費者が他の商品を購入するクロスセリング効果も生じるため、店舗の売上高が増加した。
さらに米マイアミ大のモニーク・マフィールド(Monique Murfield)助教授らは“Investigeting Logistics Service Quality in Omni-channel Retailing”(2017)で、オムニチャネルに特徴的なBOPSと「BSSD:Buy-in-Store-Ship-Direct(店頭注文・宅配)」を対象に、物流サービス品質に関する調査を行い、先行研究で用いられた「アベイラビリティ」「配達状況」「適時性」が、「顧客満足」および「顧客ロイヤルティ」に与える影響を分析した。
その結果、「アベイラビリティ」「配達状況」「適時性」の三つのうち、配達の日時指定やスピードからなる「適時性」だけが、BOPSおよびBSSDのいずれにおいても「顧客満足」および「顧客ロイヤルティ」に有意な正の影響を与える結果が示された。
「アベイラビリティ」や「配達状況」は既に一定程度の水準に達したことから顧客満足の要因にはならず、時間のない家庭が増えて「適時性」が重要になったと推測された。
前出の独アイヒシュテット・インゴルシュタット・カトリック大のヴォルテンベルク博士らは“Omni-channel Customer Management Processes in Retail:An Exploratory Study on Fulfillment-related Options”(2019)でオムニチャネルの顧客管理に関する研究を行った。
同論文ではインタビュー調査を基に、宅配を利用すると配送料が発生するのに対して、C&Cを無料で提供できれば、店舗の売上増につながる可能性や、ECで購入した商品の店舗での返品受付により、消費者の来店が促進され、店舗の売上増につながる可能性が提起された。
これらの研究は、オムニチャネルのロジスティクスが消費者の満足度や購買行動に与える影響を対象とした消費者視点の研究領域といえる。
しかしながら、すべての消費者がC&Cを利用するわけではないため、どのような消費者がC&Cを望むのかといった消費者像の探求が必要であろう。
対象顧客や品揃え物の特徴に応じて物流サービスを設計するという視点は重要である。
日本のオムニチャネルロジスティクス これまで見てきたように、海外ではオムニチャネルロジスティクスの学術的な研究が本格的に始まっている。
その共通点としてはチャネルを超えた在庫情報の可視化や、C&Cのサービスとしての重要性に注目していることが挙げられる。
その多くは主にロジスティクスの「効率性」に焦点が当てたものである。
一方で、オムニチャネルの「効果」を高めるためにロジスティクスが果たす役割が、今後の重要な検討課題と考える。
オムニチャネルがビジネスモデルとして成立するのに、ロジスティクスは不可欠な要素であり、オムニチャネル戦略の検討の中心にロジスティクスを位置付ける必要があると筆者は考えている。
また、日本の代表的なオムニチャネル研究者である小樽商科大の近藤公彦教授は、「日本型オムニチャネルの特質と理論的課題」(2018)で、日本型オムニチャネルの課題として「多業態オムニチャネル」と「ロジスティクス・ハブとしての店舗ネットワーク」を指摘している。
そして後者について、多業態展開する大規模小売グループが有する「緻密かつ膨大な数の店舗ネットワークを構成するコンビニエンス・ストアのハブ機能は、日本型オムニチャネルを特徴づける重要な要素」であるとして、①カバー可能な地理的範囲が広く、受注から配送までのリードタイムを大幅に短縮可能、②消費者の受け取り希望時間対応の柔軟性、③商品在庫の回転率向上、④小売業者の配送コストと消費者の買い物コスト削減といったメリットを指摘している。
店舗ネットワークの密度を活かした日本のセブン&アイ・ホールディングスの事例研究“Build Touchpoints and They will Come:Transitioning to Omnichannel Retailing”(2018)も、ニュージーランドのワイカト大のロイ・ラーク(Roy Larke)教授らによって発表されている。
日本特有の消費者行動に応じた小売業の変革におけるロジスティクス研究は、われわれ日本の研究者の命題であろう。
ロジスティクスの統合は、その核となる要素である。
しかしながら、日本におけるオムニチャネルに関する文献資料は、今のところオムニチャネル小売業の先端事例の紹介が中心であり、オムニチャネルのロジスティクス研究や、その知見の実践への応用は今後の課題となっている。
本稿では、海外の学術論文を中心に、オムニチャネル小売業におけるロジスティクス研究をレビューする。
オムニチャネル小売業のロジスティクス研究は大きく「1.フレームワーク」「2.発展形態」「3.オペレーション」「4.物流サービス」の四つに分類することができる。
それぞれの代表的な研究に焦点を当て論考する。
1.フレームワーク オムニチャネル小売業のロジスティクス統合に関する代表的研究者の1人が、現在、独ミュンヘン工科大に所属するアレキサンダー・ヒュブナー(Alexander Hübner)教授である。
ヒュブナー教授らによる論文“Retail Logistics in the Transition from Multi-channel to Omni-channel”(2016)は、マルチチャネルからオムニチャネルへ移行する際のロジスティクス課題についての調査研究を行い、小売業者がオムニチャネル化する際の統合対象を、「①在庫」「②ピッキング」「③品揃え物」「④配達」「⑤返品」「⑥組織」「⑦情報システム」の七つに分類するフレームワークを図1の通り提示した。
同論文で実施されたドイツの小売業者を対象にしたアンケート調査によれば、店舗向けと通信販売向けの在庫保管を「別拠点で行うか、同一拠点で行うか」という質問に対して、オムニチャネルの経験年数が長い小売業者ほど同一拠点、すなわち統合のレベルが高くなる傾向を示した。
品揃え形成についても、経験年数と共にオンラインの品揃え物が拡大して、店舗における品揃え物を上回るようになる傾向が明らかになった。
一方で、配達や返品については、オンラインで注文して、店舗などで商品をピックアップする「クリック&コレクト(以下C&C)」や、購買時と異なるチャネルからの返品を受け入れるといったチャネルを横断するオペレーションの統合は、経験年数よりも、むしろ商品特性や店舗密度に応じて行われていた。
同論文は「(チャネルを越えた)組織の統合が(オムニチャネルの)ロジスティクス統合を可能にする」と結論付けている。
また、情報システムの統合は、チャネルを越えた在庫管理や商品の貨物追跡、顧客とのコミュニケーションを促進する点を明らかにした(図2)。
ヒュブナー教授らは、同じ年に発表した別の論文“Distribution Systems in Omni-channel Retailing”で、ドイツ圏の非食品のオムニチャネル小売業に対して、ロジスティクスの現状に関するインタビュー調査を行っている。
同インタビューで、実務家の関心は「①配送モードの開発と最適化」「②配送スピードの向上」「③在庫の可視化」「④クロスチャネルプロセスの最適化」および「⑤在庫統合と配置」にあった。
ヒュブナー教授らは、同論文における前者三つ、すなわち「①配送モードの開発と最適化」「②配送スピードの向上」「③在庫の可視化」を「サービス視点」、後者の「④クロスチャネルプロセスの最適化」「⑤在庫統合と配置」の二つを「ロジスティクスコスト」の問題と捉え、そのうえで、商品の発地(サプライヤーDC・小売DC・店舗)と受け取り方法(宅配・C&Cなど)の組み合わせによって、オムニチャネルロジスティクスのネットワーク構造を整理した。
伊ミラノ工科大のジーノ・マルケト(Gino Marchet)教授らは、“Business Logistics Models in Omni-channel:A Classification Framework and Empirical Analysis”(2018)で、ヒュブナー教授らの研究とイタリア企業に対する事例研究を基に、オムニチャネルロジスティクスの新たなフレームワークを提起した。
同論文はオムニチャネルロジスティクスの戦略領域として「配送サービス」「流通構造」「フルフィルメント戦略」「返品管理」の四つを規定した(図3)。
それぞれ以下のような内容となっている。
●配送サービス 配送モード・配送リードタイム・時間帯指定の有無や時間帯指定料金の設定といった「ラストマイル」に関する内容が多く挙げられている。
例えば、配送モードでは、C&Cを店舗内で対応するのか、あるいはドライブスルーのような隣接型なのか、店舗とは別の場所なのかと細かく分類している点が特徴的である。
●流通構造 ピッキング拠点・配送エリアの設定・輸送モードの選択といった「ロジスティクスネットワーク」の設計に関する内容を中心としている。
●フルフィルメント戦略 物流センターの自動化・ピッキング作業の統合・注文に応じた出荷場所の柔軟性といった「オペレーション」に関する課題を提示している。
●返品管理 返品を受け付けるか、受け付ける場合にどのチャネルを利用可とするかといった「返品」に関する内容が示されている。
このフレームワークを基にしたクラスター分析の結果、フルフィルメントを個々のチャネルで別個に行う「分離モデル」、反対にフルフィルメントを統合して行う「統合倉庫モデル」、店舗からの出荷やC&Cを中心とする「店舗ベースモデル」、顧客のニーズに応じて柔軟に対応する「多重配置モデル」の4つの類型が見出された。
以上のように、海外では企業に対するアンケートなどの一次情報に基づいて、小売業のオムニチャネルにおけるロジスティクスを構造的に捉えようとする研究が進んでいる。
これらの研究は、日本の小売業がオムニチャネル化するにあたり、何を検討対象とし、どのような選択肢が考えられるかを議論する際にも有用なフレームワークと言えよう。
2.発展形態 次にオムニチャネルの発展段階に応じた、ロジスティクス形態の研究領域を概覧する。
米オーバーン大のラファイ・イシュファク(Rafay Ishfaq)准教授らは“Realignment of the Physical Distribution Process in Omni-channel Fulfillment”(2006)で、アメリカの小売業界の経営者団体のメンバーに対するインタビュー調査を実施した。
その結果を基に、店舗小売業がオンライン注文を採用してオムニチャネル化していく際の重要な要素の一つが「フルフィルメント」である点を明らかにした。
そして、オムニチャネルフルフィルメントの選択肢として、①流通センター内にオンライン専用在庫を設けるタイプ、②在庫をオンラインとオフラインで共同利用するタイプ、③店舗在庫でオンライン注文に対応するタイプの3つの形態を示した。
そのうえで、流通センターに関して行った分析から、オンライン販売量が少ない段階では、「オンライン業務をオフライン用流通センターと統合して運用する」が、ある閾値を超えると「3PL事業者にアウトソーシングする」ようになり、さらにオンライン販売量が増えると「オンライン専用センターを設置する」といった段階性を明らかにした。
ただし、オンライン販売量が大きくても、流通センターの拠点数および店舗数によって、流通センターを統合型にするか専用型にするかは分かれるという結果が示された。
同論文は「店舗インフラの活用」も調査している。
オンラインで注文した商品を店舗で受け取れる、返品も店舗で受け付けるといった店舗の活用が、EC専業者との差別化要因として捉えられた。
また、これらの施策はオムニチャネルの経験年数が長く、店舗当たりの従業員数が多いほど実施される傾向にあった。
以上の分析を踏まえて同論文は、配送拠点としての店舗活用の有効性、店舗の役割の変化、ラストマイルの配送無料化によるオムニチャネル促進の可能性等を指摘した。
先のヒュブナー教授と共同研究を行ってきた独アイヒシュテット・インゴルシュタット・カトリック大のヨハネス・ヴォルテンベルク(Johannes Wollenburg)博士は自らを第一著者とする共同論文“From Bricks-and-mortar to Bricks-and-clicks:Logistics Networks in Omni-channel Grocery Retailing”(2018)で、欧州6カ国の食料品を扱うオムニチャネル小売業者12社に対するインタビュー調査を行った。
同論文はロジスティクスネットワークを、「①既存の店舗向け物流網を活かして店舗でピッキングと配送を実施するタイプ」「②オンライン専用センターを新設するタイプ」「③流通センターで店舗向けおよび個人向けを統合して行うタイプ」の大きく3つに分類した。
そのうえで「オンラインフルフィルメントのケイパビリティ」が高まると、①店舗でピッキングと配送を実施するタイプから、②オンライン専用センターへ移行する発展プロセスを見出した。
さらに「オンライン売上量」が増加すると、③流通センター統合へと進化していくという発展の方向性を明らかにした。
また、同論文は、先行研究では取り扱う商品が食品か非食品かの違いを踏まえておらず、オムニチャネルにおいて単純にロジスティクス統合が必要であるとしている見解を批判した。
併せて、倉庫業務・ピッキング・流通センターと店舗間などの内部輸送・ラストマイルは相互に関連していて、費用もラストマイルだけでなくトータルコストで考える必要があり、オムニチャネルの解は一つではなく地域によって異なると主張した。
先のイシュファク准教授らの研究と、ヴォルテンベルク博士の研究は、いずれもオムニチャネルの発展段階に応じてロジスティクス形態が変化することを想定しているが、それぞれ異なる結果を示しており、統一された見解は見出せない。
また、シングルチャネルやマルチチャネルのECが拡大する際に生じるロジスティクス形態の変化との違いも明確ではない。
消費者の購買行動がチャネルを超える傾向が強まることで、当然ながらチャネル間の情報共有の仕組みが重要となる。
また昨今は、商品が物流センターから出荷された後で宅配からC&Cに変更するといった、受け取り方法の柔軟な変更が、スマートフォンなどを通じて行われるようになっている。
オムニチャネルのロジスティクスを議論する際には、これらに対応する過程で生じるロジスティクス形態の変化も考察する必要があるだろう。
3.オペレーション 英クランフィールド大MBAのマイケル・ベルノン(Michael Bernon)准教授らは、“Online Retail Returns Management: Integration within an Omni-channel Distribution Context”(2016)で、オムニチャネルの返品問題に焦点を当てた。
インターネット通販の売上高が大きいイギリス企業を対象にアンケート調査を行い、業界による返品率の違いを明らかにした。
同アンケート調査では、小売業者の多くが、消費者の返品しやすさと、そのための移動時間を最小化する返品場所の数が、返品問題のカギになると答えている。
そのため多店舗展開している小売業者は、店舗を活用して返品を受け付けている。
一方、店舗数が限られる小売業者は、①同じグループ企業の店舗、②第三者の店舗ベースのパーセルサービス、③郵便局のサービスを利用等によって返品に対応している。
返品処理ではスピードが重要になる。
そのスピードは、「返金のスピード」と「返品した商品を再販売するスピード」の二つに分類される。
また、返品プロセスの統合の課題として、①返品された商品の管理方法、②C&Cの未回収に対する対応、③返品交換の対応、④C&Cの商品とその他の商品の会計処理、⑤郵便システムを通じた返品処理が指摘された。
前出の米オーバーン大のイシュファク准教授らも、宅配時に配送料無料となる受注金額水準を分析している。
それによるとEC専用型流通センターは、配送料を無料とする受注金額が低い傾向にあった。
また統合型流通センターと3PL利用は、流通センターの拠点数が少ないと配送料無料となる受注金額の水準が高くなり、拠点数が多いと受注金額水準が低くなる傾向が示された。
ペンシルバニア大ウォートン校のマーシャル・フィッシャー(Marshall Fisher)教授らは、“The Value of Rapid Delivery in Omnichannel Retailing” (2019)で、配送スピードの向上がオンラインと店舗の売上高にどのような影響を与えるかという視点から、アメリカのアパレル企業のケーススタディを行った。
このアパレル企業は従来、アメリカ東部に1拠点だけDCを置いていたが、2012年に西部に二つ目のDCを新設して拠点を分散した。
そこで西部DCの設置前と設置後を比較する準実験的研究を行った。
西部エリアではそれまでリードタイムが営業日ベースで5~7日だったものが、地域によっては最大2日程度短縮された。
差分分析の結果、リードタイム変更後の50週で、対象エリアのオンライン販売の売上高は3・79%増加した。
店舗販売も1・82%増えた。
投資対効果として金額ベースで年間400万ドルの利益が残った。
以上の結果から、配送スピードの向上は店舗販売を侵食せず、オンラインと店舗は補完的な関係と結論された。
具体的にみると、短期的には、配送スピードの向上は店舗への来店客数を増加させる効果をもたらし、長期的には、店舗の多さによるブランド力が配送スピードの向上効果を増加させるシナジーが得られた。
ただし、これらのシナジーは両方のチャネルで十分な「ブランドプレゼンス(オンラインでは対象エリアの顧客数・店舗では当該エリアの店舗数)」がある時のみに発揮されるという条件の存在が指摘された。
この論文の他にも、独ケルン応用科学大のステファン・フレイチェル(Stephan Freichel)教授らによるオムニチャネル小売業における包装・梱包に関する研究“The Role of Packaging in Omni-channel Fashion Retail Supply Chains– How can Packaging Contribute to Logistics Efficiency?”(2019)などはあるものの、具体的なオペレーションの研究は少ない。
オムニチャネル小売業の店舗では、ピッキングや梱包・出荷作業が必要になる。
これらの物流作業は、店舗で働く従業員の負荷を高めるリスクがある。
今後は物流センターのみならず、店舗における物流オペレーションに関する研究が重要となるだろう。
4.物流サービス 現在、ペンシルバニア大ウォートン校の助教授を務めるサンチアゴ・ガリーノ(Santiago Gallino)と、ハーバード・ビジネス・スクール准教授のアントニオ・モレノ(Antonio Moreno)は、“Integration of Online and Offline Channels in Retail: The Impact of Sharing Reliable Inventory Availability Information”(2014)で、アメリカの小売業を対象に、「BOPS:Buy-Online, Pick-up-in-Store(オンライン注文・店頭引き取り、C&Cと同義で用いられている)」の実証研究を行っている。
意外なことに分析の結果、BOPSの導入によってその小売業のオンライン売上高は減少し、店舗の売上高は増加した。
その理由は、BOPSを実施するために、店舗も含めた全体の在庫情報が正確に可視化された結果、消費者は店舗に在庫があれば、受け取りまでに時間のかかるオンラインではなく、店舗に出向いて購買を行うためであろうと推察された。
さらに、その消費者が他の商品を購入するクロスセリング効果も生じるため、店舗の売上高が増加した。
さらに米マイアミ大のモニーク・マフィールド(Monique Murfield)助教授らは“Investigeting Logistics Service Quality in Omni-channel Retailing”(2017)で、オムニチャネルに特徴的なBOPSと「BSSD:Buy-in-Store-Ship-Direct(店頭注文・宅配)」を対象に、物流サービス品質に関する調査を行い、先行研究で用いられた「アベイラビリティ」「配達状況」「適時性」が、「顧客満足」および「顧客ロイヤルティ」に与える影響を分析した。
その結果、「アベイラビリティ」「配達状況」「適時性」の三つのうち、配達の日時指定やスピードからなる「適時性」だけが、BOPSおよびBSSDのいずれにおいても「顧客満足」および「顧客ロイヤルティ」に有意な正の影響を与える結果が示された。
「アベイラビリティ」や「配達状況」は既に一定程度の水準に達したことから顧客満足の要因にはならず、時間のない家庭が増えて「適時性」が重要になったと推測された。
前出の独アイヒシュテット・インゴルシュタット・カトリック大のヴォルテンベルク博士らは“Omni-channel Customer Management Processes in Retail:An Exploratory Study on Fulfillment-related Options”(2019)でオムニチャネルの顧客管理に関する研究を行った。
同論文ではインタビュー調査を基に、宅配を利用すると配送料が発生するのに対して、C&Cを無料で提供できれば、店舗の売上増につながる可能性や、ECで購入した商品の店舗での返品受付により、消費者の来店が促進され、店舗の売上増につながる可能性が提起された。
これらの研究は、オムニチャネルのロジスティクスが消費者の満足度や購買行動に与える影響を対象とした消費者視点の研究領域といえる。
しかしながら、すべての消費者がC&Cを利用するわけではないため、どのような消費者がC&Cを望むのかといった消費者像の探求が必要であろう。
対象顧客や品揃え物の特徴に応じて物流サービスを設計するという視点は重要である。
日本のオムニチャネルロジスティクス これまで見てきたように、海外ではオムニチャネルロジスティクスの学術的な研究が本格的に始まっている。
その共通点としてはチャネルを超えた在庫情報の可視化や、C&Cのサービスとしての重要性に注目していることが挙げられる。
その多くは主にロジスティクスの「効率性」に焦点が当てたものである。
一方で、オムニチャネルの「効果」を高めるためにロジスティクスが果たす役割が、今後の重要な検討課題と考える。
オムニチャネルがビジネスモデルとして成立するのに、ロジスティクスは不可欠な要素であり、オムニチャネル戦略の検討の中心にロジスティクスを位置付ける必要があると筆者は考えている。
また、日本の代表的なオムニチャネル研究者である小樽商科大の近藤公彦教授は、「日本型オムニチャネルの特質と理論的課題」(2018)で、日本型オムニチャネルの課題として「多業態オムニチャネル」と「ロジスティクス・ハブとしての店舗ネットワーク」を指摘している。
そして後者について、多業態展開する大規模小売グループが有する「緻密かつ膨大な数の店舗ネットワークを構成するコンビニエンス・ストアのハブ機能は、日本型オムニチャネルを特徴づける重要な要素」であるとして、①カバー可能な地理的範囲が広く、受注から配送までのリードタイムを大幅に短縮可能、②消費者の受け取り希望時間対応の柔軟性、③商品在庫の回転率向上、④小売業者の配送コストと消費者の買い物コスト削減といったメリットを指摘している。
店舗ネットワークの密度を活かした日本のセブン&アイ・ホールディングスの事例研究“Build Touchpoints and They will Come:Transitioning to Omnichannel Retailing”(2018)も、ニュージーランドのワイカト大のロイ・ラーク(Roy Larke)教授らによって発表されている。
日本特有の消費者行動に応じた小売業の変革におけるロジスティクス研究は、われわれ日本の研究者の命題であろう。
