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2020年6月号
特集

現場で学んだオムニチャネル経営の実践

あらためてオムニチャネルとは何か  「オムニチャネル」という言葉は、2011年の全米小売業協会(NRF)の大会でその概念が紹介されて注目を浴び、米老舗百貨店メーシーズのCEOが「オムニチャネル企業を目指す」と宣言したことから広く使われ始めた。
日本では2015年11月にセブン&アイホールディングスが総合通販サイト「オムニ7」をオープンしたことをきっかけに広まった。
 直訳すれば「オムニ=あらゆる」+「チャネル」なので、一般的には店舗やEコマース、スマホアプリなどの、販売チャネルの話として受けとめられている。
しかし、その実践においては販売チャネルの裏側におけるフルフィルメントの構築、端的には物流が大きなカギを握っているというのが、筆者の経験に基づく認識である。
 商品の販売チャネルは図1の通りこれまで4つのステップを踏んで進化を遂げてきた。
第1ステップの「シングルチャネル」においては物流は、店舗販売であれば店舗からの持ち帰り、Eコマースやカタログ販売であれば宅配だけに対応する。
第2ステップの複数のチャネルを並行して運用する「マルチチャネル」に移行しても、チャネル別のフルフィルメントは変わらない。
 しかし、第3段階の「クロスチャネル」に進むと、チャネルを横断するトータルな在庫管理と物流網の整備が必須になる。
「ネットで注文して店舗で受け取る」といったサービスを可能にするため、物流センターの在庫を店舗に送ったり、店舗間で横持ちしたり、あるいは店舗で欠品している在庫を物流センターから宅配便で自宅に届けたり、それぞれの顧客のニーズに合わせてフルフィルメントを組み立てることになる。
 そのように店舗、ECサイト、電話通販の3つのチャネルで注文ができて、店でも宅配でも受け取れるのがクロスチャネルだ。
それに対してオムニチャネルはクロスチャネルのインフラをベースに、どのチャネルからも店舗や倉庫の在庫情報が見える、共通ポイントを付与する、過去の購買履歴を見て注文できる、といった機能が加わる。
 そして顧客の生涯価値「ライフタイムバリュー(LTV:生涯顧客価値)」をKPIにとり、ロイヤル顧客であればどのチャネルを利用しても同じ優遇が受けられるといった、顧客がチャネルの違いを意識することなくシームレスな買い物ができる環境を提供するのが現在のオムニチャネルの姿である。
 振り返ると店舗小売業のEコマースは、ネットで受けた注文を店舗から宅配便で出荷する、いわゆる「クリック&モルタル」から始まった。
自社サイトで店の宣伝をして、ついでに販売もしようという狙いだった。
その後、ネット店舗自体で売り上げを作ろうという動きに移り、「楽天」をはじめとするモールに出店するようになると、EC倉庫に在庫を置いてそこから出荷するようになった。
 そして現在はLINEをはじめとするSNSの普及とともに、ネットで集客してリアル店舗の売り上げを伸ばそうという「O2O(オンラインtoオフライン)」が一般的となっている。
その発展形がオムニチャネルだ。
ネットと店舗を完全に融合する「オンライン・マージド・オフライン(OMO)」というコンセプトに基づいて、会社全体の成長を目指す。
顧客満足を高めてリピート率を向上し、LTVを最大化することがその役割である。
オムニチャネル経営の実践  以下、本稿では小売業を例にとり、オムニチャネル化の実践について説明する。
図2の通り、小売業の組織は大きく6つの部門と、共通インフラとしてのITシステムから構成されている。
その一つ一つに新たな考え方を適用して、オムニチャネル化を進めていく。
①経営=戦略を戦術まで落とし込む  これまでの企業経営は、経営陣が方針を決めて戦略を描き、各現場は戦術を考えて実践する、というスタイルだった。
しかしながら、それでは現場は指示待ちになり、改革のスピードが大幅に遅れてしまう。
そこで経営陣が“オムニチャネル化を実行する”と方針を決めたら、そのまま方針を各部門に落とすのではなく、“経営としての戦術”まで整理する。
 具体的には経営層で売り上げと利益の目標数値を決めるだけでなく、客数まで分解した目標を立てる。
その時に「売り上げ」は「商品/購買単価×客数」で計算する。
さらに「客数」は「新規」と「既存」に分解する。
新規と既存それぞれの平均客単価は、過去の実績数値から計算する。
 筆者がこれまで見てきた傾向としては、1回当たりの購買単価は、新規1に対して既存1・5~3、年間購買回数は新規3に対して既存が6~9となる。
その結果、1回当たりの購買単価×年間購買回数は、新規3に対して既存9~27となる。
したがって年間利用額の差は最小でも3倍、最大では9倍になる。
こうした数値を基に、経営戦略で決めた売上目標を新規客数と既存客数の戦術レベルの指標に落とし込む。
 それによって新規・既存の販促費用にそれぞれどれだけの予算を投じるべきかを算出できる。
販管費が見えると営業利益の目標も正確になる。
経営レベルでここまで詰めてから各部門に落とせば、各部門は具体的に自主的に動ける。
②商品=マスターを整備する  商品部門は具体的には、「商品マスター」「在庫マスター」「会員マスター」の3つのマスターデータベースの整備と、データに基づく商品開発に新たに取り組む必要がある(図3)。
 従来の「商品マスター」は一般的には、ユニーク(単一)で重複しないJANなどの商品コードと「社内管理コード」「商品名/メーカー名」「登録原価/売価」および簡単な商品仕様等によって構成されて、受発注と伝票・会計処理に主に使われてきた。
 しかし、オムニチャネル化を進めるには「商品カテゴリー」の整備が必要になる。
食品スーパーであれば「日配」「デリカ」「ハムソーセージ」「塩干」「青果」「精肉」「鮮魚」等々の商品カテゴリーがきれいに整備されていないと分析ができない。
また商品マスターに商品の画像や関連商材などの情報が欠けていると、Eコマースの販売に利用するときに支障を来す。
商品マスターの情報項目は、システム構築を担当するIT部門が決めてしまうことが多いが、システムを運用する商品部門が定義すべきである。
 一方、顧客データに基づく商品開発とは、ECやアプリにおける顧客の検索実績や購買情報を元に、既存客や常連客が望む定番商品や新規客が反応するエンド台(目につきやすい場所に陳列する)商品を探り当て、それを基に新たな仕入先を開拓したり、新商品を開発することである。
 国内の市場規模が縮小してリピート購買が重要になったにもかかわらず、大ロットで安く仕入れて薄利多売するという、これまでのやり方を続けていれば過剰在庫を生み出すだけだ。
適正な発注と在庫管理、データ分析から導き出した仮説に基づく品揃え、商品開発を進めるのである。
③売り場=販売員をデジタルで支援  これまで売り場といえば実店舗を指すことが多かったが、オムニチャネルにおいてはウェブサイトも売り場であり、スマホアプリも売り場であり、コールセンターも売り場である。
さらにはYouTubeなどの撮影動画による販売や、動画を配信しながら販売するライブコマースもまた売り場である。
すなわち顧客が商品・サービス情報を確認しながら注文・予約できる全ての場所が売り場となる。
 そして全ての売り場に共通するテーマが、品揃えと接客だ。
品揃え面では、いたずらに棚面積を拡げてたくさんの商品を並べる見せ方では、顧客は商品を選ぶのに疲れてしまい、売り上げを伸ばせなくなってきている。
それよりも必要なアイテムをきちんと在庫すること、そして時々しか売れないものは無理に在庫せず、タブレットなどで取り扱い状況を検索して取り寄せ発注ができるようにする、といった棲み分けが求められている。
 リアル店舗の販売でも、社内のデータベースにアクセスできるタブレットなどのツールを店員が利用することで、社内や他の店舗在庫を探して急ぎの顧客に商品を案内できる。
取り寄せについても事前にメーカー側と出荷や納期回答のリードタイムを取り決めておくことで、顧客に納期を確約できる。
対面であれ、電話ごしであれ、チャットであれ、販売員は必要な情報武装をした上で接客をする。
そのために適正なIT投資とツールの使い方の研修などを行い、販売員をオムニチャネル化の最前線に投入するのである。
④販促・マーケ=デジタルとアナログをつなぐ  小売業においてデジタル化が最初に進んだのが販促・マーケティング部門である。
マス広告で広範囲に、またチラシや折り込み広告で近隣エリアにアプローチする従来の手法は経済が成長している間は通用しても、市場が縮小に転じて以降は有効性が下がっている。
個別の顧客へのアプローチをそこに組み込む必要が生じている(図4)。
 その方法としてEコマースやアプリが注目されてマーケティングのデジタル化が始まり、カタカナ言葉の新たなマーケティング用語とアルファベット3文字のさまざまな効果指標が登場した。
リアル店舗においても入店した顧客をビーコンやカメラで追跡して分析する、といった仕組みが進んだ。
 しかしそれらの手法や指標や分析が、財務諸表の売り上げや利益にどう反映されているのか、説得力のある説明ができていないことから、デジタルマーケティングは経営から乖離してしまい、必要な投資を受けにくくなってしまったのが現状である。
各種の指標を先述の新規・既存客の見える化や客単価と販促費用の効果分析などによって財務諸表とつなげることで、経営だけでなく商品・売場ともつながり、顧客視点の企業経営の土台とすることができる。
⑤コールセンター=コストから顧客満足へ  これまでコールセンターはコストセンタ―とされ、予算内で対応を完了すること、通話時間を短くすることが評価される場所であった。
しかしながら、オムニチャネル企業においては通話時間ではなく、どれだけ顧客のリピート購買に貢献しているかが、新たな評価軸になる。
 全てをデジタルで完結できない以上、コールセンターのアナログな接客対応はオムニチャネル化の進展に伴い、ますます重要になる。
苦情相談の顧客がロイヤル顧客であったなら、理不尽な要求でない限りきちんと理由を聞いて対応して、次の購買につなげる。
その結果としてのLTVの向上をデータで見える化することで、コールセンターの貢献度を評価しなければならない。
 コールの件数と内容を「商品に関する問い合わせ」「店舗に関する問い合わせ」「納期に関する問い合わせ」などに分類して見える化し、件数の変化を注視して、優先順位の高い順に関係部署とともに対応していくことも、LTVの改善には欠かせない。
⑥物流=変動費として管理する  物流もコールセンターと同様に従来は予算内で運用することを求められるコストセンターだった。
しかしながら、物流費は基本的には売り上げに伴い変化する変動費だ。
倉庫家賃は固定費でも、作業費や送料は当初から変動費として予算を組み、売上高に占める物流費率と顧客に約束した出荷納期の順守率で評価することで、攻めの物流部門を構築する。
 物流部門は、商品・売場・販促部門と常に情報を共有して、入庫数、出荷数の予測を立て、現場に投入する人員をコントロールする。
また人手不足から物流費はますます高騰していく傾向にあるため、社内の効率化だけではなく、協業や共同配送など、外部パートナーと一緒に効率化を検討することが重要である。
⑦管理=「関与売上」を導入する  管理部門はビジネスにおけるゴールキーパーだ。
ただしガチガチにルールを決めて管理する方法ではオムニチャネル化は進まない。
管理部門の機能のうち、大きくは「決済/経理関係」「人事評価」「経営企画」の3つに変化が求められる。
 経理関係では、電子マネー(WAON等)やICカード(Suica等)、2次元バーコード決済(PayPay等)など新たな決済方法への対応が必要になる。
これまでの現金管理やクレジット与信/入金管理とは、売り上げに対する消込処理や後払いなど債権管理が異なるものが増えている。
売場部門との定期的な情報交換を通じて社内の経理フローを見直していく必要がある。
 人事部門はオムニチャネル化に伴う新たなKPIを個人や組織の評価基準に反映する必要がある。
当然ながら人事部門だけでは決められることではない。
経営と現場の双方と連携して評価制度をまとめる。
既にLTVやリピートについては解説したので、ここでは「関与売上」の考え方と導入について説明する。
 オムニチャネル化が進むと「ネットで注文、店舗で受け取り」が増えてくる。
それをEC部門と店舗のどちらの実績とするのか、売り上げ重視の従来の社内評価制度の下では必ず大きな問題になる。
「関与売上」を導入することで、社内で売り上げの取り合いになることを避けられる。
 「ネットで注文、店舗で受け取り」の場合、財務諸表上の売り上げ・利益は、その顧客から受け取り場所として指定された店舗に全てつける。
その一方、管理会計上はEC部門にも同じ金額を実績として計上する。
それを「ネットで注文、宅配でお届け」の宅配売り上げと合計した「EC関与売上」でEC部門の実績を評価する。
 関与売上は「コールセンターで受注」⇒「ECで出荷」をはじめ、他の部門にも適用できる。
その結果、他の部門もEC関与売上の最大化に沿って動くようになる。
つまり、関与売上という新たな評価軸を作ることで、顧客視点で各部門が協力し合うようになる。
LTVと並ぶオムニチャネルにおける人事評価の基本である。
 経営企画は、これまで紙や会計系システムでしか見られなかった予実管理や投資計画を、誰でも簡便に見られる環境にBIツール等を用いて整備して、わざわざ資料を作って会議報告する時間をとらなくてもいいよう改革しなければならない。
 オムニチャネル化においては、先述のデータベース整備や新たな売場決済システムの導入など、費用対効果を検証しながら導入を進めていく必要のある投資が増えていく。
その都度、事業計画を更新して、経営層と各部門の責任者が素早く判断できるようにする。
 社内の必要情報が常に開示されて、誰でもいつでも見えるようになることで、経営のスピードが早まる。
それと同時に情報をたくさん持っている人が評価されたり、発言力を持ったりすることはなくなる。
⑧IT=投資責任は受益者にある  これまでシステム構築の用件定義は社内のIT部門の役割だった。
IT部門が業務を十分に理解していないために不要な機能を作ったり、必要な機能を欠いているということがしばしば起きていた。
オムニチャネル化においてはそれが致命傷になりかねない。
経営と業務とIT、3つが揃わないと改革は前には進まない。
 そもそもIT部門あるいはCIOはシステム開発の納期と予算、運用の安定性に責任を持つことはできても、作った仕組みが利益を生むかどうかには責任を持てない。
システム投資の費用対効果の責任は、開発を依頼した、もしくはシステムを利用している業務部門の受益者に責任を持たせる。
 それを前提にして業務部門とIT部門が連繋して必要な要件の抜け漏れを防ぐ。
そのためには業務をフローで見える化したり、開発工程を常に見える化するなどのコミュニケーションツールの整備が必要になる(図5)。
これからのオムニチャネル  これまで小売業の将来の方向性は米国市場を参考にすることが多かった。
しかし、今後は必ずしも米国だけ見ていればいいとはいかなくなる。
EC化率に関しては米国が10%であるのに対してヨーロッパ、特にイギリスは20%を超えている。
イギリスは店舗の商圏の大きさ、つまりと店と家との距離が近く、その動向は日本市場の今後を占う上で大いに参考になる。
 そのイギリスでは現在、老舗百貨店チェーンのジョン・ルイスが積極的にオムニチャネルに取り組み、「ネット注文→店舗受取」の売り上げを伸ばしている。
またカタログ通販のアルゴスは積極的にリアル店舗を展開して、店舗在庫を開示するだけではなく、店舗間の横持ち輸送網に投資をして、「〇時までに注文すれば、△時以降に最寄りのお店にご用意します」というサービスを強化している。
自宅で配達を待つよりも、会社の近く、家の近く、買い物のついでに店で受け取った方が早く確実に商品が手に入ることから評価されている。
 中国では、店舗とネットの融合、すなわちOMOの色合いが強い「ニューリテール」というコンセプトでオムニチャネル化が推進されている。
アリペイやウィーチャットペイといった決済アプリを組み合わせて、街中でも自宅でも、いつでも便利に買い物ができる環境が整っている。
同様の取り組みを日本でもLINEがスタートすることを発表している。
 そして米国ではアマゾンに対抗するため、ホームデポやウォルマートなどの大手小売りが、「ネット注文→店舗受取」や店舗在庫の検索アプリなど、店舗の存在を前提としたサービスで差別化を始めている。
どれだけ宅配が早くても、買い物客が自分で棚から商品を取り出すスピードには勝てないのである。
 繰り返すが物流は、オムニチャネル企業のサービスレベルコスト競争力を決定的に左右する最重要要素である。
本誌の中心読者である物流の実務家たちが、オムニチャネル経営の実践に自ら取り組み、また他部門を支援することで、LTV向上を一歩ずつ進めてくれることを期待している。

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