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2020年6月号
特集

欧州市場における小売りと物流の融合 “European Omnichannel”

カスタマーこそが王である  小売業者が黄金時代を謳歌していた一方で、買い物客は消費者主義(Consumerism)により、新しくかつ広範な期待を持つようになった。
 IoT、拡張現実(AR)、人工知能、3Dプリントなどの全てが、小売業界をある意味、置き去りにして発展している。
今日の消費者は商品を購入するに当たり自分自身で必要な情報や知識を収集する能力を持っている。
その最たるものがオンラインの購入レビューであり、それはカスタマーにとってブランドの「公平」な評価を把握するための聖杯となっている。
 カスタマーがかつてないほど大きな力を持つようなるにつれ、「速い、安い、良質のうち、どの二つを取るか」という、これまで鉄板とされてきたビジネスの考え方は通用しなくなり、時代遅れの決まり文句になり果てた。
消費者がそれを望む以上は、小売業者はそのハードルを乗り越えなければならない。
 このことは産業界にどのような意味をもたらすであろうか。
新たな購買習慣が引き金となり、リテールとロジスティクスはECの波に乗るために融合せざるを得なくなるだろう。
われわれサヴィルズは、その最初のオムニチャネルレポートとして、この融合が差し迫る欧州において何が起きているのかを、多様な指標・評価軸を用いて確認する調査を行った。
小売業に突き付けられた難問  小売業界はもう後戻りの利かないところまで足を踏み入れてしまった。
これまでの常識は、跡形もなく消え去った。
足早に移り変わる消費者の習慣に適応することは、後になってみなければ答えの出ない難問だが、その難問を解くことが、小売業者が顧客を獲得してつなぎ留めておくための最優先事項となった。
 新聞に店の倒産や閉鎖といったセンセーショナルな見出しが躍っているにもかかわらず(それは主には米国で起きていることだが)、消費者はいまだに靴を履いて買い物に出掛けている。
 クリック一つでモノが買えるようになれば、モノを買うことはもはや買い物に出掛ける第1のモチベーションではなくなり、買い物はもっと楽しく快適なものになるはずだった。
しかし、そうはならなかった。
それゆえに、購買経験の創造に当たり、伝統的なブリック・アンド・モルタルの実店舗が強力なアセットとなっている。
 小売業者にとってフロアスペースは、その製品やブランド哲学を買い物客に披露する「ショールーム」へと続く入口であり、また顧客についての理解を深める入口でもある。
そして「クリック・アンド・コレクト」「リターン・トゥ・ショップ」といったサービスは、買い物客が手に取った商品をカゴに入れるきっかけとなることが証明されており、EC専業者に対する実店舗の競争優位性をもたらす。
 来店が必ずしもそのまま店の販売につながるわけではなくとも、調査会社の仏イプソス社によると、70パーセントの購入者は実店舗を持つ小売業者からオンラインで買うことを好んでいる。
 従って小売業者にとってのメーンの問題は、従来の伝統的な小売業の評価軸では、店舗のパフォーマンスが悪く見えて、その不動産コストが問題視されてしまうことである。
 店頭販売が構造的に減少することで、現在、多くの買い物客が出入りしている、あるいは今後強い客足を期待できる店舗の立地にフォーカスした検討が余儀なくされる。
新たな配送ネットワーク  一般的に小売業者は販売店舗に近接して物流拠点を持つ。
しかし、EC需要が急増したことで彼らの宅配戦略は重圧に晒されている。
EC専業者と競争するために、物流拠点を店舗と統合しててこ入れし、マルチチャネル戦略ではなくオムニチャネル戦略を適用しなければならなくなった。
 当日配達の標準化もまた小売業者の掛け金をつり上げている。
配達ルートを短縮してオンライン顧客向けに即配サービスを提供するために、都会の小規模倉庫をサプライチェーンネットワークに組み込むか、あるいは3PL事業者および4PL事業者と提携することが必要になる。
 このロジスティクスの最後の顧客側の部分で、「宅配便・速達・小包(CEP)」産業が相当に拡大している。
市場会社の英アペックス・インサイト社によると、欧州におけるCEP市場の年間収益は2016年時点で617億ユーロであり、2010年以降、年4・5パーセントのペースで伸びているが、同じ期間にB2C宅配市場規模は年平均23パーセント拡大した。
ECは黄金の卵を生むガチョウか?  ECは小売業売上総額に比べて速いペースで成長を続けており、小売りセクターにおける重要な牽引役となっている。
欧州全体でEC売上総額は過去5年、平均21パーセントのペースで上昇した。
その一方、小売業売上総額は年平均成長率が2・5パーセントだった。
 EC売上額の過半数(58パーセント)はコアとなる国、すなわちイギリス、ドイツ、フランスが占めている。
3カ国の小売市場がもともと大きいというだけでなく、この3カ国が早い段階でインターネットを利用し始めたことが理由だ。
 しかし、ECは徐々に欧州全域に広がっている。
独スタティスタ社によると、中欧・東欧では過去5年で年間30パーセント超の成長を遂げたという。
アイルランド、イタリア、スペインも過去12カ月で10~12パーセント成長している。
 インターネット利用率とEC普及率との乖離から、二つのことが明確に見てとれる。
一つは図1のようにECは今後も成長を続ける可能性が高いこと、そしてもうひとつは購買習慣の成熟度から欧州諸国を、次の3つのグループに分類できることである。
「オンラインでの商品需要があり、インターネットの利用が社会に根差している」「オンラインショッピングやインターネットの利用が日常生活の一部になっている」「ECおよびインターネットの利用が急速に拡大している」──である。
 ECの売り上げは現在、小売業売上総額の平均7・5パーセントを占めているが、明確にECを推進するイギリスと他の欧州諸国とではその差に大きな開きがある。
ECとロジスティクスの転換点  小売業者がそのサプライチェーンをオムニチャネル戦略に適用させようと急いでいるのと歩調を合わせて、ロジスティクス市場はECの急速な拡大がもたらす事業機会を積極的につかみ取ろうとしている。
 イギリスでは2012年を機に、ロジスティクス市場が重要かつ積極的な変化と直面している。
この年、オンライン小売り売上高は小売業売上総額のおよそ11パーセントに達した。
 賃貸施設の空室率が5パーセントにまで下落する一方、地価高騰の影響を受け、地域によっては賃料相場が95パーセント値上がりした。
さらに2018年には小売業者、宅配会社、物流企業の占有率が64パーセントに達した。
ECがロジスティクス市場に与えたインパクトの大きさを伺える。
 イギリスは欧州における不動産マーケットサイクルの先頭にいつも位置していることに加え市場が成熟していることから、投資家にとってはイギリスの動向を踏まえることが欧州大陸における新たなビジネスの機会を見つけることにつながる。
 もちろんイギリスと同じことが他国でも起きるとは限らないが、他の欧州のロジスティクス市場と2012年頃のイギリスを対比することで、イギリスで起きた急激な需要の変化が今後、他の国でどれだけ再現されるのかを予測しやすくなる。
ロジスティクス市場の魅力 色分け結果と方法論  われわれはEC革命が欧州でロジスティクスに大きな変化をもたらす可能性を証明するために各国のロジスティクス市場の魅力についての指標「Logistics Market Attractiveness Index:LMAI」を設定した。
ECの普及度合いを評価してロジスティクスの事業拡大に最適な国を確認するため、32の欧州諸国を23色の色分けで表した。
 LMAIは、「EC基盤」(「小売り売上高」「インターネット利用率」「EC普及率」「EC売上高」「人口」)と「ロジスティクス成長力」(「労働力」「人件費」「貨物」「燃料」「不動産」)を2系統の色彩・合計23色で塗り分けて制作した(図2、図3)。
越境ECによる売り上げも重要であることから、最終ランキングには「周辺国」の項目を点数化して合算している(図4)。
 指標に使われているデータは国レベルで収集されたものである。
また、この指標に将来的な見通しを付与するため、確認できた最新の年間データに加えて今後5年間の予測をできる限り採用した。
 さまざまな指標から32の国をランク付け・重み付けした。
この結果はロジスティクス市場のプレーヤーが今後どの国で独占して商売ができるかを表しているわけではない。
小売業者やロジスティクス市場のプレーヤーがオムニチャネル戦略を展開するための案内をマクロ的に提供するものである。
最終ランキングと上位5カ国  最終結果としては、ドイツ、フランス、イギリス、オランダ、アイルランドが上位を占めた(図5)。
この5カ国は、「強固なEC基盤」「確たるロジスティクス成長力」そして「高得点の国家と隣接している」という三つの要素を満たしている。
第1位 ドイツ  ドイツが1位となったのは驚くことではないだろう。
カスタマーのECに対する順応性と小売業の市場規模に加えて、ドイツ企業がポーランド、チェコ、オーストリアに大規模な営業拠点を置き、また越境ECで高いシェアを誇るスイスやルクセンブルクに比較的小規模な営業拠点を置くなど、ドイツから近距離に営業拠点を配置していることによるものだ。
 西欧と東欧に挟まれるドイツの立地はロジスティクス市場にとって戦略的な意味を持つ。
広範かつ良質のインフラにより、欧州中のトラック貨物や海上貨物を最高水準で流通させることができる。
ドイツのLPIスコア(物流パフォーマンス指標)は本レポートがベンチマークしている欧州のどの国よりも高い。
 ロジスティクスセクターにおける投資家の強い関心は、期待投資利回りを押し下げている。
ロジスティクスセクターの期待投資利回りは場所にもよるが4・1~4・4パーセントであり、ドイツはイギリスに次いで欧州で2番目に低い。
第2位 フランス  フランスはEC市場においていまだ強い成長ポテンシャルを有している。
インターネットとECとの普及率における隔たりは、イギリスやドイツ、オランダに比べ大きく広がったままである。
 一方で小売市場は1人当たりの売上高が群を抜いて高く、規模も大きい。
スタティスタ社は、フランスにおけるオンライン売上高がこれからの5年で、年9・8パーセントずつ成長するだろうと予測している。
 フランスは良質のインフラを備えているおかげでトラック・海上貨物輸送の双方で欧州最高水準を誇る。
しかし、人件費もまた欧州随一である。
ロジスティクス市場に対する投資家の関心は拡大している。
首都パリを中心とした地域圏イル=ド=フランスでは主要なロジスティクスの期待投資利回りは4・75パーセントとなっている。
第3位 イギリス  イギリスは3位にランクした。
最も成熟したECマーケットを保有していることが奏功した。
インターネットとEC普及率とのギャップという点では欧州最下位だ。
それだけインターネットが活用されてオンライン購入に移行しているということであり、今後の成長という点でのポテンシャルは勢いが落ちる。
実際、スタティスタ社によると、今後5年間のeコマースの年平均伸び率は6・7パーセントであり、西欧では最低水準である。
 オンライン売上高の急拡大は既にロジスティクス市場における需要増として表れている。
加えて、イギリスはポルトガルとスペインに続いて、西欧で人件費水準が最も安価であることから、戦略的に有効な国でもある。
ロンドン地域の主要なロジスティクスの期待投資利回りは現在4パーセントで欧州最下位だ。
第4位 オランダ  4位はオランダ。
インターネット普及率は本レポートがベンチマークしている32カ国中の五指に入る。
EC普及率の伸びが鈍化していることから市場の成熟がうかがえる。
それでもオンライン売上高は2022年まで年9・2パーセントのペースで伸長するだろうとスタティスタ社は予測する。
 オランダは伝統的に貨物産業・ロジスティクス産業と深く密接な関係を持ってきた。
欧州の玄関口として機能するロッテルダムのコンテナ港がこれに大きく寄与している。
LPIスコアは4・02であり、ランキングトップ5に入っている。
 ロジスティクス業界の従事者は、オランダ国内における全雇用者数の4・3パーセントを占めるにすぎない。
欧州平均5・6パーセントと比較すると、物流産業を牽引する人材は非常に限られてくる。
ロジスティクスへの投資額は増加する傾向にある。
期待投資利回りはアムステルダムで5パーセントである。
第5位 アイルランド  アイルランドは上位4カ国に比べてECは未成熟なものの、その確固とした基盤が力強い成長への道を開いている。
インターネット普及率は82パーセントと、欧州平均(83パーセント)よりわずかに低く、EC普及率とのギャップは相対的に大きい。
 小売市場の規模そのものは大きい。
1人当たりの小売業売上高はベンチマークした32カ国の中で4番目。
英オックスフォード・エコノミクス社は、アイルランドの小売業総売上高は今後5年間で平均4・3パーセントのペースで成長すると予想している。
同4・8パーセントのポーランドに次いで欧州で2番目に高い伸び率である。
またスタティスタ社よると、オンライン売上高の年平均成長率は対象32カ国のうち最高の17・3パーセントと予測されている。
 ロジスティクスについては、アイルランドには雇用可能な物流人材が比較的多く存在し、彼らはスキルも保有している。
ロジスティクスセクターの期待投資利回りは5パーセントでアムステルダムと同水準である。

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