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2020年5月号
特集

ラクスル 松本恭攝 社長CEO 「リアルな物流の世界に独占は起きない」

事業成長に秘策はない ──ラクスルが運営する印刷や物流のシェアリングプラットフォームをインターネット業界のプラットフォームと比較すると、どのような特徴がありますか。
 「大きな違いの一つは在庫量の制約です。
SNSのコンテンツであれば、ユーザー数がどれだけ増えても、どこまでも供給を増やしていける。
グーグルが認識するサイトの数も指数関数的に増えていく。
供給に対する制限はインターネットの中にしか存在しません。
しかし、リアルな世界のプラットフォームは在庫の制約を受けます。
トラックやタクシーの台数は限定されているので需要が増えれば取り合いが発生する」  「需要者がいつでも欲しい時に使えるという点では、インターネットもリアルも変わりません。
情報が欲しい時にグーグルを検索するのと同様に、タクシーが必要な時にアプリで呼べばいい。
しかし、供給サイドがその要請に応えるにはリアルタイムにキャパシティーを確保する必要がある。
インターネットのコンテンツが賞味期限もなくいつまでも在庫できて、蓄積が増え続けていくのとは大きく違います」  「もう一つあります。
ロケーションの制約です。
インターネットの世界は、アメリカもヨーロッパも、日本も、まあ中国は例外としても、基本的には全てつながっている。
言語の違いはあっても翻訳を通じて共通化できます。
しかし、リアルな世界はロケーションの影響を受けます。
ニューヨークでドライバーがどれだけ余っていても、東京からは呼べないわけです」 ──そのことがプラットフォーマーにどのような影響を与えるのでしょうか。
 「グーグルやフェイスブックは世界中で勝ちました。
利用者が増えれば増えるほどサービスの価値が高まる『ネットワーク効果』が働くので、自然と独占に向かう。
そして当初はリアルの世界のプラットフォームでもネットワーク効果は働くと誰もが考えていた。
そのためにウーバーは米国から世界中に出て行った。
ところが、各地域にそれぞれライバルが登場して、競争の結果、ほとんどの地域で負けてしまった」 ──リアルな世界はローカル市場単位で独占が起きるということでしょうか。
 「恐らくそれもない。
ウーバーはお膝元のアメリカでもリフト(Lyft)の台頭を許しています。
依然として競争が続き、独占できていない。
結局、リアルの世界では支配的なプラットフォーマーが出て来ても、利用料を上げたり、供給サイドへの支払い価格を下げたりすれば、その瞬間にもっと良い条件を提示するライバルが出てきてしまう。
そのため一定の寡占化は進んでも構造的に1社にはならないのかもしれない。
その壮大な社会実験が今、行われている。
われわれもそこに参加している1社です」 ──ラクスルが物流の前にシェアリングビジネスを成功させた印刷業界ではどのようにリソースやロケーションの制約を乗り越えたのですか。
 「当社の印刷通販事業は非常に早い速度で成長させてもらいましたが、そこに何か秘訣があったかというと、実はあまりないです。
印刷事業において、われわれは今も競争環境にあります。
一般の印刷会社やネット印刷を行っている会社と競争している。
われわれとモデルは違っても、お客さまには関係ありません。
お客さまに選ばれるには、品質を高めてコストダウンを図り、しっかり納期を守って満足度の高いサービスを提供するという、本当に当たり前のことをするしかない」  「われわれはプラットフォーマーですから、印刷機を所有しているパートナーの印刷会社さまにもしっかりメリットを提供して、お客さまとわれわれを含めた“三方よし”の関係の下でそれを進めていく必要があります。
そこにマジックはなくて、時間をかけて一歩一歩やってきた、その積み上げで今に至っています」 ──「ラクスル」の成長が早いのはなぜですか。
 「印刷機は1台当たり3億円から5億円します。
かなりの初期投資が必要で、事業の成長は工場のサイズに規定されます。
工場計画となれば2年単位くらいの時間軸になってくる。
自社アセットを所有せず、プラットフォームという形態をとれば、そうした制約を受けずに済む。
大きな資本を持たないスタートアップがプラットフォームビジネスを目指す背景です」 クラウドTMSで物流をつなぐ ──ネット印刷事業の経験は「ハコベル」にどう生かされているのでしょうか。
また印刷業と運送業では、プラットフォームにどのような違いがありますか。
 「いろんな業界を調べましたが、印刷業界よりもさらに大規模な多重下請け構造で業務効率の悪い業界が運送業界でした。
それらの課題をテクノロジーとプラットフォームで解決しようというのが最初のアイデアで、まずは軽貨物のマッチングからスタートしました。
軽貨物の個人事業主をお客さまと直接マッチングすることで多重下請け構造を解消しました」  「それはそれでしっかり価値を出せる事業なのですが、最大積載量350キロのラストワンマイルの世界だけでは物流の効率化という点では限界があります。
そこで2年前に一般貨物の域内配送・幹線輸送に進出しました。
今は軽貨物と一般貨物の事業がそれぞれ10億円以上のサイズになってきました。
その運営を通して感じたのが、仕事の情報だけを運送会社に流しても効率化できる部分は限られるということです。
マッチングだけでなく運送のプロセス全体を管理する仕組みが必要でした。
そのために開発したのがクラウド型TMSの『ハコベルコネクト』です」 ──既存のTMSと何が違うのですか。
 「通常のTMSが自社車両を管理する仕組みであるのに対して、ハコベルコネクトは委託先の車両までカバーできます。
しかも車両が足りない時にはハコベルコネクトを通じてワンクリックで空いているトラックをマッチングできる。
ハコベルのネットワークに入っている全ての運送会社を協力会社として恒常的に配車計画に組み込める。
配車係のペーパーワークがなくなって最適な配車が実現します」  「運送会社側ではスポットの依頼はもちろん、定期の仕事の情報もたくさん流れるようになってきています。
これは自社内に閉じたオンプレミスのTMSではなく、われわれと荷主がSaaSを通して運送会社のIDを共有しているから実現できる仕組みです。
運送業をデジタル化してつないでいく、分断をなくしていくことで効率化しようというコンセプトです」 ──ハコベルの他にも今、オープンな物流プラットフォームがいくつも立ち上がっています。
これらはやがて淘汰されて集約されていくのでしょうか。
 「プラットフォーム間の競争が本格化するのはずっと先のことです。
物流のデジタル化はまだ一合目にも達していません。
今はデジタル化をしっかりと進めていくことが何より重要です。
デジタル化によって運送の仕事が楽になることを現場の人たちに実感してもらう。
運送業の生産性が上がって給料が上がることを分かってもらう。
そのために使い勝手の改善を重ねて、物流の現場に入り込んでユーザーをサポートしていくことを一歩一歩進めていきます」

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