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2020年5月号
特集

Hacobu 佐々木 太郎 社長CEO 「23年までに3万拠点をデジタル化する」

物流プラットフォームを巡る混乱 ──Hacobuの運営する物流情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」をはじめ、物流の領域にプラットフォームが次々に生まれています。
 「物流プラットフォームという言葉の意味をいったん整理する必要があると思います。
フィジカルプラットフォームとデジタルプラットフォームの二つをまず大きく分けないといけない。
メーカーごとに分かれていた物流アセットを統合して規模の経済を効かせるといった、共同物流のインフラはフィジカルプラットフォームです。
それに対して物流情報を扱うのがデジタルプラットフォームです。
よく『デジタルツイン』(現実世界のデータを用いて、デジタル空間に現実の環境を再現すること)と言われるように、この二つはいわば生き写しの関係にあります。
それを一緒くたにした議論がかなりある」 ──一緒にしてはだめですか。
 「自分たちはフィジカルプラットフォーマーなのに、GAFAを真似しようとしたりする。
フィジカルプラットフォーマーに必要なのはデジタル化です。
デジタルプラットフォーマーになることではありません」 ──GAFAがグローバル市場を独占しているのを見れば、それを真似ようとするのも当然では。
 「それは全く違う会社に生まれ変わるということですから現実的には不可能です。
IBMが汎用機の世界からソリューションにシフトしていった時でさえ、『絶対に無理だ』と散々言われていましたが、物流会社をデジタルプラットフォーマーに変革するというのは、それよりはるかに大きなジャンプです。
まず最新のウェブアプリケーションテクノロジーを駆使できる人材を社内に大量に抱え込む必要がある。
社員を全員入れ替えるくらいのことになります。
どういうシステムを作ればいいのか事前に正解が分かっているわけではないので、外部のSIerに開発を委託することもできません。
仮説を基にとりあえず作って、実際に使いながら改修を繰り返していくしかない。
だから、どこも自社開発なんです」  「またデジタルプラットフォームにしても、ウーバーのようなマーケットプレイス型と、アマゾンの『AWS(アマゾンウェブサービス)』やグーグルの『GCP(グーグルクラウドプラットフォーム)』のようなプラットフォームは全く別ものです。
AWSやGCPはマッチングしているわけではありません。
一つのインフラの上に連携して動くデバイス群を提供している。
この二つも分けて考えないとやはり混乱する」 ──そのようにプラットフォームを整理した場合にMOVOはどう分類されるのですか。
 「AWSやGCPと似た位置付けです。
われわれはMOVOという一つの基盤の上に、バース予約や動態管理、流通資材のモニタリング、配車管理、マッチングといった、いくつものクラウドアプリケーションを載せて、ユーザーがシングルサインオンでどのアプリケーションでも使えるようにしています。
その基盤の上には当社だけでなく誰でもアプリケーションが作れる。
それらのアプリケーションを多くの人に使ってもらうことによって、物流のビッグデータがたまっていきます。
そこからわれわれがまた価値を生み出し、再びユーザーに還元するという考え方です」 ──海運大手のマースクとIBMが共同開発した「トレードレンズ」をはじめ、ブロックチェーンを活用した物流情報プラットフォームの構築も目立っています。
 「トレードレンズは貿易、われわれは国内物流が中心ですが、目指すゴールは似ています。
ただし、われわれはブロックチェーンを使っていません。
参加者の合意形成が必要だからです。
サプライチェーンには規模も業界も業態も違う無数のプレーヤーが関わっています。
合意の取りようがない」  「とりわけ日本は分散が極端です。
アメリカであればウォルマートが標準化すると言えば、みんな従うかもしれない。
しかし、日本にそんな会社は存在しない。
そのため30年かけてもデータの標準化さえできない。
そこでわれわれは合意形成を図るのではなく、物流の課題を解決するアプリケーションをたくさん作って、現場の課題を解決するためにみんながそこにログインすることで、より多くの人にプラットフォームを使ってもらおうというアプローチを取っています」 バース予約が「スーパーマリオ化」 ──勝算はありますか。
 「トラック予約受付サービスの『MOVO Berth(ムーボバース)』で手応えをつかみました。
今年1月時点の導入数が全国2204拠点、1年間で4倍以上に増えました。
それに引っ張られて他のアプリケーションも伸びています。
社内ではバース予約の『スーパーマリオ化』と呼んでいます」  「ここに来るまでには何度か方針転換も経験しました。
最初は求車求貨の仕組みを提供すればみんなが集まってくれるのではないかと考えた。
しかし、実際やってみたらマッチングには人手が必要で、全くデジタルではなかった。
そこで動態管理やフリートマネジメントに手を広げましたが、そこもデジタコが壁になって一気には普及しない」  「その次がバース予約でした。
地味なアプリケーションですが、物流センターに納品に来る車両が全てMOVOのIDを持つようなる。
その車両が今日はイオン、次の日はセブン&アイと納品に行く。
多対多のサプライチェーンをデジタルの世界に吸い上げるのに、とてもいい切り口だと気付きました。
ここが突破口だと判断してリソースを集中していきました」 ──MOVOがプラットフォームとして普及した先にはどんな世界を期待できますか。
 「ムーボバースは23年までに3万拠点への導入を目指します。
国内の物流センターの4分の1から3分の1をカバーすることになります。
そこまでいけば多対多のサプライチェーンを自動的に最適化できるようになります。
現段階でも既に単独センターの枠を超えた効率化が実現しています。
社内の各センターのデータがMOVOに蓄積されてくると横串の比較ができる。
3PLのA社に委託しているセンターと、B社に委託しているセンターのパフォーマンスをベンチマークすることができます。
それが第1ステップです」  「第2ステップは会社の枠を超えた効率化です。
例えば荷主A社と荷主B社のモノの動きをトータルで見て両社の配車を最適化する。
今は当社がそうしたスキームを組み立て提案しています。
デジタル化によって何ができるのかを実体験してもらうためです。
しかし第3ステップに入ると、一緒に運べる相手先候補のリストをAPIが自動的に画面に表示して、ポチッと押せば共同化が実現するといった世界に入る。
もはやマッチングに人手をかける必要もなくなります」  「ただし、その段階になるとHacobuがデータを独占して好き勝手に使うのではなく、その価値をユーザーにきちんと還元していることを監視するガバナンスが重要になってきます。
そのため今、慶応大の國領二郎先生、アスクル創業者の岩田彰一郎元社長などをアドバイザリーとするガバナンス委員会を組成しているところです」

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