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2020年5月号
特集

サプライウェブ──「鎖」から「クモの巣」へ

あらためてSCMとは何か?  サプライチェーンマネジメントとは、素材の調達から、部品の加工、完成品の生産、保管・輸送、エンドユーザーへの販売に至るまでの供給プロセスを中心に、企画・設計、研究開発、マーケティング、アフターサービスなどの機能を含めた全体最適を実現する手法である。
 ユニクロやZARAのように、川上から川下までの全てを自社でコントロールできるSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)であれば、全体最適を追求することは比較的容易であろう。
しかしながら、大多数の企業はサプライチェーンの一部のプロセス・機能を担っているにすぎない。
自社およびそのグループ会社のプロセス・機能を最適化するだけでは、全体最適は成し得ない。
 翻って、B2Bの取引関係は総じて固定的である。
食品業界であれば、食品メーカーが特定の商社から原材料を調達し加工した上で、得意先の食品卸を介して小売りへと商品が供給される。
家電メーカーは特定のサプライヤーから部品を調達し、製品化した上で、その多くを大手家電量販店に販売する。
いずれの業界においても、「調達先や納品先が毎日のように変わる」「その多くは新規取引先である」ということはない。
だからこそ、調達先や納品先と協力してサプライチェーン全体の最適化を図ることが可能なのである。
 実際にEDIの規格化や物流センターの共通化といった企業間連携の取り組みが多くの業界で展開されている。
その最たる例が自動車業界だ。
ティア2からティア1に、ティア1から自動車メーカーにという具合に、固定的な調達・納品関係を通じて製品が製造されて、系列ディーラーで販売される。
誤解を恐れずにいえば、自動車業界、とりわけ日本の完成車メーカーは調達・生産から販売に至る全てのプロセスを固定化・系列化することで、サプライチェーンの全体最適を成し遂げてきたのである。
 しかし、インダストリー4・0をはじめとする今日の事業環境変化の行く末を見据えると、この「固定的な関係を基盤としたサプライチェーンの全体最適」は徐々に崩れていくことが予想される。
ものづくりの在り方が変わっていくからである。
 現状の大量生産と同等以上の生産性を有しながら、エンドユーザーのニーズや要望に応じてカスタムメイドした製品を提供する、いわゆるマスカスタマイゼーションが、これからさまざまな領域で広がっていく。
従来の生産・供給体制はパラダイムシフトを余儀なくされる。
 アパレル業界では、パターンオーダーの注文が増える。
全国各地に配された3Dプリンターやロボットミシンで服を製作し、来店した人にその場で手渡したり、宅配したりすることが珍しくなくなる。
自分のサイズに合った服を探すための試着は不要になる。
自分だけのデザインの服を着ることもたやすくなる。
全ての服作りがパターンオーダーに変わるわけではなくとも、アパレル産業全体が「トレンド予測に基づく大量生産」から「ニーズありきの受注生産」にシフトしていく。
 食品や医薬品もカスタムメイドに変わる。
健康食品や医薬品のように、効能が期待されるものは、使用者の遺伝子型や健康状態、疾病の状況などに応じて成分を調整するテーラーメイド販売が増える。
現在は何種類もの錠剤を毎日服用している人が、「その人のためだけに調合された薬を1袋飲むだけ」でよくなる。
 そうなると、テーラーメイドの調合に必要な設備・薬剤を取りそろえることができない薬局は立ち行かなくなる。
集約・統合による薬局の大規模化を促すことになるだろう。
あるいは米アマゾンが2018年に買収したオンライン薬局ピルパック(PillPack)のように、大規模拠点で集中的に薬を調合して、使用者の家まで配送する薬局が日本にも出てくるかもしれない。
 家電業界も変化する。
パソコンのBTO(Build to Order)と同様に、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電を、家の大きさや部屋の壁紙などに合わせてカスタマイズして購入するようになる。
その結果、家電の販売物流は「工場や流通加工センターから自宅までの直送」が基本となる。
 固定的・系列的サプライチェーンの典型ともいうべき自動車業界もCASE(Connected/Autonomous/Shared&Service/Electric)の時代には一大転換を果たす。
自動車メーカーとサプライヤーによる擦り合わせの必要性、有効性は薄れていく。
電動化が進むことで部品点数が減るだけでなく、エンジンを中心としたパワートレインを付加価値の源泉としてきた自動車メーカーが、単なる「組み立て屋」に成り下がる可能性もある。
 はたまた、カーシェアリングが普及して、自動車が「買うもの」ではなく「都度利用するもの」になったとき、アフターサービスで利益を確保するディーラーの収益モデルは崩壊する。
アフターパーツの主要な納入先は、ディーラーや修理工場から各所に点在するカーステーションに移るだろう。
 いずれの業界においても、特定の調達先・納品先との固定的関係を前提としたサプライチェーンマネジメントは成立しなくなる。
川上・川下の区別なく、最適な調達先・納品先を柔軟かつ機動的に選択できる供給ネットワークが必要になる。
それを筆者は「サプライウェブ(Supply Web)」と呼ぶことにしたい。
固定的な「チェーン=鎖」ではなく、あらゆる調達先・納品先と自由につながることができる「ウェブ=クモの巣」への進化こそが、未来のサプライマネジメントの姿である。
あらゆるプロセスがつながる  サプライウェブの要諦は、「あらゆるプロセスがつながること」、そして「本来必要のないプロセスがなくなること」の二つである。
 「ウェブ=クモの巣」を思い浮かべてほしい。
クモは網の目状の巣の上を縦横無尽に行き来する。
サプライウェブはまさにクモの巣のように、不特定多数の調達先・納品先と自由につながることを基本思想とする。
 サプライチェーンをサプライウェブに革新することで素材・部品メーカーは、今まで取引関係のなかったセットメーカーへの納品が容易になる。
アフターパーツは、修理工場や店舗への直送が増えるかもしれない。
セットメーカーや流通事業者は、国内外に存在する無数のサプライヤーから必要な製品を調達できる。
エンドユーザーの注文に応じて、製品の大きさや形状、色などをカスタマイズし、宅配することも珍しくなくなる。
 この「特定少数をつなぐチェーン」から「不特定多数をつなぐウェブ」への転換を果たすには、製品・製造に関する各社の「品質・機能(Q)」「コスト(C)」「稼働状況(D)」などの情報を広く共有するプラットフォームが必要となる。
 これまではそのような仕組みがないために、過去の取引実績などに基づいて意思決定するしかなかった。
しかし、これからは企業の信用情報を蓄積したデータベースと同様に、各社のQCDをリアルタイムで提供するデータビジネスが生まれて、その活用が広がっていく。
 「MaaS(Mobility as a Service)」「RaaS(Robot as a Service)」などの、いわゆる「XaaS」の普及に伴い、「買う」のではなく「利用する」モノが増えていく。
「買う→捨てる」物流に代わり「利用する→返す」がより一般化する。
川下から川上へのモノの流れをつなぐリバースロジスティクスの重要性が顕著に高まる。
米フェデックスが2015年に買収したGENCO(現FedEx Supply Chain)のようなリバースロジスティクスを専門とする事業者が日本でも台頭するかもしれない。
 サプライウェブが広がることで、企業・業界の垣根を超えた水平的なつながりも強くなる。
不特定多数の調達先・納品先との自由なつながりは輸送ロットの小口化をもたらす。
そのままでは物流の効率が低下する。
それを抑制するために、トラックや倉庫などの物流アセットを他社と共用することで、規模の経済性を確保しようとする動きが広がる。
 これらの変化は当然ながら日本国内に限定されない。
インターネットが世界をつなぐ存在になったように、世界中のあらゆる場所に、モノを送り届ける/受け取れる時代の到来を想定すべきである。
必要のないプロセスがなくなる  サプライチェーンがサプライウェブに進化して「あらゆるプロセスがつながる」ことで、本来必要のないプロセスがなくなる。
「発注レス」「検品レス」「輸送レス」そして「物流レス」が実現してプロセス全体の効率が飛躍的に高まる。
● 発注レス  「発注」の目的は、必要とするモノを、必要なときに、必要な場所に、必要な量だけ確保することである。
だが、実のところ、「必要な量」は事前には分からない。
そのため、在庫が過度に多くなったり不足したりする。
キャッシュフローの悪化や廃棄ロス、もしくは機会ロスが生じる。
サプライウェブ全体をつなげて自動的に在庫を補充すればそれが最適化される。
発注の手間や無駄がなくなる。
 日本のスタートアップであるスマートショッピングは、在庫の自動補充を可能とするIoTデバイス「スマートマット」を提供している。
スマートマットの重量センサーが使用量を検知して在庫が一定量を下回ると、あらかじめ指定された調達先に不足分を自動発注する。
在庫の数量確認や発注の手間が解消される。
 発注を受ける側にも少なからずメリットがある。
IoTデバイスのデータプラットフォームを通じて納品先の在庫使用状況をリアルタイムで把握できるようになる。
使用量の増減に応じて生産量や調達量をフレキシブルに変更できる。
発注を受ける側の在庫量も適正化される。
● 検品レス  「検品」の目的は入荷や出荷に際してモノの数量や品質を確認することである。
入荷検品で問題が見つかれば、調達先にその旨を指摘する。
納品先からそのような指摘を受けないように調達先でも出荷検品をしている。
問題の責任は誰にあるのか、それを追及するため/追及されないようにするために、それぞれ検品しているわけだ。
 素材から部品に、部品から完成品にという製造プロセスにおいては、モノ自体が変化するために、品質を確認するための検品を省略できない。
しかし、完成品をメーカーから卸・小売りを介してエンドユーザーに供給するプロセスにおいては、包装・梱包の形態や出荷・配送ロットなどに変化はあったとしても、モノ自体は変わらない。
 そのため、SPAのように全てのプロセスを自社化している企業の多くは簡易的な検品で済ませている。
あるいは検品を省略している。
大半の企業はそれができないため、メーカー、卸、小売りのそれぞれのセンターで同じ検品作業を繰り返している。
 モノの動きを正確にトレースできればそうした作業の重複は不要になる。
物流センターや輸送中の状態をセンサーで把握して、そのデータをプラットフォームに蓄積しておけば、問題が発生したときには過去をさかのぼって原因を特定できる。
多くの人的リソースを投入している検品作業を解消するコスト効果は極めて大きい。
● 輸送レス  日本国内におけるトラック輸送の積載率は年を追うごとに低下する傾向にあり、直近では40%を下回っている。
片荷にならざるを得ないルートもあるため、100%にはならないにしても、著しく低い水準である。
サプライウェブで最適化すればトラックの必要台数を半分以下にできるだろう。
 今夜、東京から名古屋に向かうトラックが千台あり、その平均積載率が40%だったとする。
各車の発地と着地、荷物の種類や大きさ、最大積載量などの情報が、数日前に共有されていれば、混載によって使用台数を大幅に減らせる。
荷主各社の出荷・配車計画を共有するプラットフォームがあればそれが可能になる。
 多段階物流も回避できる。
例えば、海外で生産したモノを国内のメーカー倉庫に保管、卸のセンター、小売りのセンターを経て店舗に納品している場合、メーカー倉庫を出てから店舗に届くまでに3回トラックを使っている。
サプライウェブ上の最適な在庫を引き当てることで、それを店舗直送の1回で済ますことができる。
● 物流レス  さらに3Dプリンターに代表されるデジタルファブリケーション機器の出現は、運ぶ・保管する・荷役する・手配するといった「物流オペレーションが発生しない物流」を現実のものとするだろう。
 世界最大の商用車メーカー独ダイムラーは、トラックやバス向けのアフターパーツの生産を3Dプリンターに切り替える取り組みを進めている。
トラックやバスは、一般の乗用車と比べてモデルは少ないものの、パーツの種類はケタ違いに多い。
モデルサイクルとユーザーの所有期間も長いので、メーカーは膨大な量のアフターパーツ在庫を長期にわたって保有し続けなければならない。
キャッシュフローへの影響も含め負担は決して小さくない。
 アフターパーツの供給を「3Dプリンターによる都度生産」に変えることで在庫を持つ必要がなくなる。
保管も輸送も管理も要らなくなる。
パーツの材料となる素材原料さえ確保すればいい。
ライン生産と比べてパーツ単体の製造コストは上がっても、それをはるかに上回るメリットがある。
 3Dプリンターはアパレル、食品、医薬品、家電などの業界でも利用が始まっている。
ものづくりがマスカスタマイゼーションにシフトすることで、D2C(Direct to Consumer)が広がり、ついには「店舗レス」までが進んでいく。
プラットフォーマーの可能性  繰り返すがサプライチェーンマネジメントは、調達先・納品先との固定的な関係を基本としている。
ゆえに、サプライチェーンを構成する複数の企業で全体最適を実現するために必要な投資を実行し、その成果を分かち合うことができる。
 しかし、サプライウェブはそうはいかない。
不特定多数の調達先・納品先をつなぐ必要があるからだ。
特定の企業間による互助的な仕組みではなく、広く多くの企業が自由にアクセス可能なプラットフォームの提供が求められる。
GAFAのようなプラットフォーマーの出現を予見すべき領域といえるだろう。
 インターネットが「情報をつなぐ仕組み」であるのに対して、サプライウェブは「モノと情報をつなぐ仕組み」である。
それはあらゆるプロセスをつなぐことで産業構造を変革し、必要のないプロセスをなくすことで全体を効率化する。
インターネットと同レベルの社会的インパクトを秘めている。
 ただし、全てをつなぐ仕組みが一足飛びに完成するわけではない。
何をつないで、どのプロセスをレスするのか。
そのターゲットと道筋を明確に定めて、提供価値を一つ一つ具現化していくことが、サプライウェブを成功させる核心といえよう。
 情報だけではなくモノもつなぐサプライウェブは、インターネットと比べてはるかに多くの投資を要する。
しかし、物流会社や商社、流通事業者、あるいはロジテックベンチャーにとってはゼロからのスタートではない。
既存のインフラを生かせる。
プラットフォーマーの有力候補としての資格を有しているといえるだろう。

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