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2020年5月号
特集

オープン&クローズ戦略と標準化問題

さまざまなプラットフォーム  まずプラットフォームを類型化するために、いくつかの代表的プラットフォームの概要を、誰がどのような目的で整備するのか、その過程でどのような標準化が行われてきたのか、整理してみよう。
1.社会インフラ  道路や電気などの社会インフラも広義のプラットフォームといえるだろう。
通常は人々の生活や企業活動のために、民間企業や行政が整備する。
道路は人や馬車、自動車などその時代の乗り物に応じて道の幅や交通ルールが自然と標準化されて、後追いの形でその標準が規格化されてきた。
 電気のように比較的新しい技術は、まず民間企業がサービスや技術を争って提供し、市場によって選択されることで、いわゆるデファクトスタンダードによる標準化が進んだ。
1880年代後半の米国において、直流送電システムを提案するトーマス・エジソン陣営と交流送電システムを提案するジョージ・ウェスティングハウス陣営の激しい主導権争いを経て、交流110V送電方式や現在のプラグの形式に標準化されたのはその一例だ。
2.GSM方式(設備共有型)  GSM方式(Global System for Mobile Com-munications)とは、欧米を中心に世界のほとんどの国や地域が採用している(日本は採用していない)、携帯電話の通信方式だ。
携帯電話や移動体通信のプラットフォームといえるが、特定企業が大きな収益を上げている点が社会インフラと異なる。
なぜそのようなことが可能なのだろうか。
 GSM方式は、フィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソン、ドイツのシーメンスなどの欧州企業が組織する欧州電気通信標準化機構(ETSI)が規定する標準規格だ。
ETSIは携帯端末の内部構造に関する情報を公開(オープンに)した。
この仕様に基づけば、端末メーカーは世界市場に販売可能な端末を自社で開発する必要がなく、安価に製造することができる。
 しかし、同時にETSIは基地局の内部やその制御装置に関しては情報を公開せず、クローズ領域とした。
このような「オープン&クローズ戦略」により、GSM端末が市場に供給されればされるほど、欧州陣営が独占供給する基地局システムを使わざるを得ない構造になっている。
(この項の説明は出典1より要約引用) 3.FaceBook(情報交換型)  前述のようなオープン&クローズ戦略により独占的利益を得る企業を、プラットフォーム企業あるいはプラットフォーマーと呼ぶ。
また「GAFA」をはじめとするIT領域におけるプラットフォーマーは、デジタルプラットフォーマーとも呼ばれる。
 デジタルプラットフォーマーの中でも、FaceBook(FB)のようなSNSは、情報交換を目的としたプラットフォームに分類できるだろう。
FBは情報の授受を行いたい個人や法人とのインターフェースや情報のフォーマットを標準化してオープンにする一方、蓄積されたビックデータへのアクセスや広告販売のチャネルなどのコア領域は独占することで収益を上げている。
 情報が蓄積されることで他のサービスに乗り換えにくくなる“ロックイン効果”もまた、デジタルプラットフォーマーの巨大化を後押ししている。
4.Uber、Uber Eats(マッチング型)  UberやUber Eatsのサービスは需要と供給をマッチングさせるためのプラットフォームだ。
タクシードライバー・配達員と利用者とのインターフェースに加え、サービスの仕様を標準化することで、システムによる自動マッチングを可能にしている。
利用者に対して情報を提供するだけにとどまらず、タクシーや配達というリアルな世界のサービスを組み合わせていることが特徴だ。
またUber自身ではリアルな資産を所有せず、全てデジタルで処理している点も特徴に加えられるだろう。
5.iTunes、App Store、    YouTube(市場型)  「iTunes」「App Store」「YouTube」などのサービスは、需要と供給に加えて、商材そのものをマッチングしている。
提供者は、プラットフォーマーが定めた規格に基づいて楽曲、アプリケーション、動画などを提供し、利用者は望みのコンテンツを検索購入する、YouTubeの場合であれば広告を視聴する。
このように考えれば、アマゾンAや楽天市場などのECも商品というリアルなコンテンツの交換サービスを提供するプラットフォーマーの一つと位置付けられるだろう。
 右の五つのプラットフォームはいずれも、事業を行う上で必要なインフラである。
そして、インフラの利用者ではなく第三者が整備して提供していること、またサービスを標準化して利用者を増やすことで利用者当たりの費用を抑えている点で共通している。
ただし、収益化戦略の有無、共有するもの、共有の目的はそれぞれ異なる。
 そこで本稿では、プラットフォーム化のアプローチについて下記の手順で整理した後に、物流プラットフォームが今後どのような様相になるのかについて考えてみる。
①プラットフォームの類型化 ②オープン&クローズ戦略 ③標準化戦略  右に挙げた「1.社会インフラ」と他のプラットフォームの違いは、オープン&クローズ戦略による収益化を狙うプラットフォーマーの存在だ。
以下、本稿では社会インフラ以外のプラットフォームを対象にする。
①プラットフォームの類型化  「2.GMS方式」は「資源共有型」のプラットフォームとして整理することができる。
アマゾンの「AWS」やJRの「Suica」もここに分類できるだろう。
資源共有型プラットフォームの目的は「設備コストを複数ユーザーで分担する」ことである。
それは後述する「情報交換型」「マッチング型」「コンテンツ型」のプラットフォームの目的の一つでもあることに留意してほしい(表)。
 「3.FaceBook」などのSNSは情報の共有を目的とした「情報交換型」のプラットフォームだ。
同じく情報交換を目的とした情報インフラには、銀行間取引をオンライン処理する「全銀ネット」、食品業界のVANサービス「FINET」、CPFRをはじめとするEDIなどがある。
しかし、先に社会インフラと他のプラットフォームとの違いを見た時と同様に本稿では、オープン&クローズ戦略によって収益化を狙うプラットフォーマーを、「情報交換型」と位置付ける。
 「4.Uber、Uber Eats」は、特定のコンテンツに関する需給情報を共有することで提供者と消費者を結び付けることを目的とした「マッチング型」のプラットフォームだ。
従来型の人材のマッチングサービスや宿泊予約サイトもここに分類されるが、UberやUber Eatsはダイナミックな価格変動機能により、マッチングのみならず需給調整まで行っている。
 「5.iTunes、App Store、YouTube」は、コンテンツそのものまで共有の対象とすることで提供者と商材と消費者を結び付けることを目的とした「市場型」プラットフォームだ。
「eBay」「ヤフオク」「メルカリ」などもこに分類しよう。
②オープン&クローズ戦略  社会インフラと他のプラットフォーム、またEDIとSNSの違いは、オープン&クローズ戦略による収益化を狙うプラットフォーマーの存在であった。
小川(出典1)はGMS方式の他にもプラットフォーマーの事例として、シスコシステムズ、アップル、TSMCなどを挙げている。
 たとえば、アップルは端末の製造販売と「iTunes」「App Store」の運営にオープン&クローズ戦略を組み込んでいるという。
端末の製造においてはOSやMPUの内部仕様をクローズにし、また「iTunes」「App Store」の運営においてはデータの暗号化方式やOSの内部構造をクローズにすることで、互換機や代替サービスの出現を防ぎ、利益を独占している。
 その一方で、周辺部品の仕様とクローズ領域とのインターフェースはオープンにすることで部品市場の拡大を促し、楽曲の登録方法やOSとアプリケーションのインターフェース(API)を公開することでコンテンツの充実を図っている。
 立木(出典2)は製品戦略とプラットフォーム戦略の違いについて、「製品戦略が『自社の製品の競争力をあげる』ことに力点が置かれるのに対して、プラットフォーム戦略が『自社と補完関係に形成されるエコシステムの拡大』を積極的に行う点に違いがある」と指摘している。
③標準化戦略  オープン&クローズ戦略は「二面市場戦略」とも呼ばれる。
プラットフォームとなる企業、「iTunes」の例で言えばアップルは、市場から広く楽曲を集めると、同時に市場の消費者にそれを提供している。
つまり、プラットフォーマーは調達側と販売側の二つの市場のハブに位置取りしている。
このエコシステムの中で、顧客となる法人や個人はプラットフォーマーを経由して資源を共有し、逆に共有資源は顧客となる法人や個人を共有している(図)。
 このとき、顧客からみた資源は標準化されたサービスという形で提供される。
資源からみた顧客へのアプローチ方法もまた標準化されている。
それによってトランザクションごとの調整は不要になる。
大幅に効率が高まる。
しかし、過度な、あるいは誤った標準化を行うと、資源の提供者や顧客の数は伸び悩む。
つまり標準化の設計は、戦略上重要なトレードオフをはらんでいる。
 小川(出典1)によると標準化の方法には、一社で標準規格の設定を行い、市場で最も普及した企業の標準が産業全体の標準として受け入れられる「デファクト標準化」、公的組織によって市場を介さず行う「デジュリ(de jure)標準化」、独占禁止法に抵触するとして奨励されなかったものの国際競争力が問題になった1980年代以降にガイドラインが明示され、にわかに脚光を浴びている「コンセンサス標準化」の三つがある。
 プラットフォーマーの多くは主要な利害関係者とコンソーシアムを形成し、コンセンサス標準化を進めている。
1社で独占的市場シェアを獲得してデファクト標準化を確立できるか否かは市場次第であり、リスクが高いためだ。
ちなみに今日のGAFA規制が独占禁止法の文脈で議論されるのは、このアプローチが談合とも解釈され得るからだ。
 その一方で、コンセンサス標準化はデファクト標準化よりもオープン領域が広くなる傾向があることを小川(出典1)は指摘している。
オープン領域が広くなることは、すなわちクローズ領域が相対的に狭くなることであり、独占的な収益の可能性もまた狭まると考えられる。
 従ってプラットフォーマーにとってはデファクト標準化が理想であろう。
ネット通販においてアマゾンは、自社の通販事業で圧倒的なシェアを獲得した後に、同じ仕組みをマーケットプレイスとしてオープンにした。
つまりデファクト標準化を採用した。
他方、楽天市場は13店舗と言われる初期の顧客の意見を集約してサービスを開始した。
これをコンセンサス標準化を進めたものと考えてみよう。
デファクト標準化のアマゾンが自社の都合で自由にマーケットプライスの仕組みを改善できるのに対して、コンセンサス標準化の楽天市場は出店数の増加と共に仕組みが固定化されて、改善はままならなくなる。
そのことは両サイトの使い勝手を比較すれば理解できるのではないだろうか。
物流プラットフォーマーのモデル  以上の議論を整理するとプラットフォーマーとは、「適切な標準化を行うことで、サービスの資源を市場から安価に調達し、多数の顧客にサービスを提供するハブとして自社を位置付け、蓄積した情報により資源と顧客をロックインする仕組みを持つことで独占的な利益を得る事業者」と言えるだろう。
 この定義を物流サービスに適用した時に、現状の物流サービスおよび物流事業はどのように評価できるだろうか。
混載、共同配送、路線などの輸送サービス、賃貸倉庫、営業倉庫などは主に設備共有が目的であり、そこにオープン&クローズ戦略を埋め込んだプラットフォーマーは存在しない。
つまり現状の物流サービスは、「1.社会インフラ」と同じモデルを採用していることになる。
 ヤマト運輸の「宅急便」は輸送サービスの大胆な標準化によって物流事業を革新した。
しかし、ドライバーをはじめとする宅急便のリソースの調達においては今のところオープン戦略やロックイン効果を活用しておらず、プラットフォーマーとはいえないだろう。
マッチング型のUberはオープン&クローズ戦略を採用しているプラットフォーマーではあるが、Lyftのような競合の成長を許している。
ロックイン効果は薄いと考えられる。
 そもそも物流サービスはITサービスと異なり、資源が物理的・地理的に制約される。
資源共有型の物流プラットフォームが巨大化することは恐らくないだろう。
一方、情報交換型のプラットフォームについてはIoTやブロックチェーンを活用した新たなサービスが生まれつつある。
その情報基盤の上に、マッチング型、市場型のサービスがいずれ生まれてくることが予想される。
 多くの物流資源のインターフェースがデジタル化され、プラットフォーマーに接続されることで、調達、製造、保管、輸送、販売といったバリューチェーン全体がデジタル化される。
それはドイツのインダストリー4・0、また米国のインダストリアル・インターネットが目指す姿でもある。
その背後では両国が自国産業の国際競争力強化を目的としたコンソーシアム方式でコンセンサス標準化を進めていることにも留意しておきたい。
 筆者は本誌2018年8月号の本連載で「サプライチェーンのクラウド化」をテーマに究極のマスカスタマイゼーションに向けた道筋を検討し、また本誌19年5月号では「物流業のデジタル化サービス」にて、物流業のデジタル化と物流サービスの将来を考察した。
 その進化の過程において各企業は、いずれより上位のプラットフォームに組み込まれることになったとしても、局所的なプラットフォーマーを目指すのか、あるいは自らのサービスのインターフェースをデジタル化してプラットフォーマーへの接続を準備するのか、選択を迫られることになる。
 いずれを選ぶにしても1日も早く準備を進めるべきだ。
その時には日本人的合議制に基づく最大公約数的な標準化ではなく、戦略的に標準化を進めることが望まれる。
 ホワイトカラー労働者の生産性向上が叫ばれる今日、日本でもRPA(Robotics Process Automation)による業務の自動化が本格化している。
パッケージソフトウエアの導入よりも現場の理解は得やすいようだ。
しかし、筆者から見るとその取り組みは、自社業務の標準化や、標準化されたプロセスに自社業務を適合させるという“本丸”に切り込むことを避けているかのように映っている。
 物流現場におけるロボットの導入についても同様だ。
人手による作業を単にロボットに置き換えるのではなく、大胆な標準化を進めて、設備の共有はもちろん、オープン&クローズ戦略を駆使する真の物流プラットフォーマーを目指してほしい。
そうした企業が日本から生まれてくることを期待したい。
出典 出典1:小川紘一、『オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件』翔泳社 出典2:立木博文、『プラットフォーム企業のグローバル戦略』(有斐閣)

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