2020年5月号
特集
特集
フィジカルインターネット論
イントロダクション
ロジスティクス、そして輸送システムの現状にますます注目が集まっている。
経済面では輸送コストが上昇を続け、サプライチェーンにおけるあらゆるコスト削減の努力が水泡に帰している。
われわれの社会には、交通事故・騒音・大気汚染などの多大な“ストレス”が道路交通網の酷使によってもたらされている。
環境面に着目すると、他のすべての産業が温室効果ガス排出を着実に減らしているというのに、残念ながら輸送セクターだけは反対方向を向いているようである。
お世辞にもサステナブルとはいえない旧態依然たるロジスティクス業界には、破壊的イノベーションが早急に求められる。
その1つが2011年に米ジョージア工科大学のモントルイユ教授によって提唱されたフィジカルインターネット(Physical Internet=PI)であり、“ロジスティクスサステナビリティへの大きな課題”に取り組む革命的なコンセプトだとして評価されている。
PIのメタファーとして引き合い出されるのは、既に一般に広く普及しているデジタルインターネット(DI)である。
DIにおいてデジタルデータがスムーズにユーザー間を流通するのと同様に、物理的な実体がオープンかつ相互接続されたロジスティクスネットワーク中をシームレスに動き回る、というのがPIのコンセプトなのである。
しかし、その多くの利点にもかかわらず、PIに対する批判は後を絶たない。
なかでも昨今は、コンセプトから実用段階へと離陸するためのビジネスモデルが欠如していることを指摘する声が目立つ。
PIについての研究は現在までのところ、主にコンセプトとその効用に関するものが大半であり、意外なことに実際の運用について言及しているものはほとんど存在しない。
このギャップを少しでも埋めることを念頭に、われわれはここでDIをベースとしたPIの概念的フレームワークを提唱することにしたい。
DIを引き合いに出すことには2つの理由がある。
1つはそれがPIのメタファーであり、両者には名称をはじめとしてモデルや実際の運用にいたるまで多くの相似点があること。
もう1つは既に確固とした制度として実社会に普及していることである。
本稿では概念的フレームワークの分析を行い、さらに実現可能なモデルのアウトラインを示すことで、PIのはらむ複雑な課題を浮き彫りにする。
PIの主たる構成要素同士の関係性を理解すること、実現への道のりを示唆する現実的なモデルを提示すること、必要とされる議論と研究を活性化させること──などが本稿の主な狙いである。
デジタルインターネットの構造 フィジカルインターネット(PI)のデザインと運用を検討するにあたっては、制度として既に確立しているデジタルインターネット(DI)を参照する必要がある。
そこで浮かび上がるのがDIに関する2つの問い、すなわち「①DIはどのように構成されているか」、そして「②DIにおいてデータはどのように伝わるのか」である。
このセクションではまずシンプルなネットワークを概観し、次にインターネットプロトコルについての手短な説明を交えながらデータ通信を論じることにしよう。
DIは世界中に広がる無数のデバイスをつなぐ精緻なエンジニアリングシステムであり、理論上、各デバイスはその他すべてのデバイスとの通信が可能であるため、全体としてのDIを手短に説明することは至難の業である。
ここではその基本的な構造を示すことにする(図1)。
行政機関、営利団体、個人など、インターネットのユーザーとなる各主体は、コンピューターやスマートフォンといったターミナルデバイスを備えている。
ユーザーがDIの中にデジタルデータという形で情報を流し込むと、それらがパケット単位にまとめられ、通信リンクのネットワークを介して伝送される。
ルーターがネットワーク中の経路を指示し、銅線や通信ケーブル、あるいは無線を介してデータが伝わり、モデム等が各端末に合わせた形に変換する。
インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と呼ばれる接続事業者が数多く存在し、あらゆる種類のデジタル情報を円滑に伝えるサービスを提供している。
インターネットの運用、つまりデータ通信を円滑に行うにあたっては、各種の基準が必要不可欠である。
そのために導入されたのがインターネットプロトコルである。
プロトコルとはパケットのフォーマット、ネットワークホストの識別、パケット通信のやり方などを定めた規約のことをいう。
デジタルインターネットから フィジカルインターネットへ 図1のDIにならい、図2にPIのネットワークの模式図を示した。
PIのユーザー(荷主)は企業と個人どちらの場合もある。
荷主が食料や日用品といった各種の物理的実体をPIに投入すると、それらは標準化されたパッケージにまとめられたあと、現実の物流網によって運ばれる。
配送センターがネットワークにおける貨物の流れをナビゲートし、鉄道やトラックなどの輸送手段が貨物を運び、インター・モーダル・ターミナルにおいて輸送モードの切り替えが行われる。
PIサービスを提供するさまざまなロジスティクス・サービス・プロバイダー(LSP)の使命は、あらゆる荷物がスムーズに運ばれることである。
図1と図2を比較し、、両者の相似点を対照したものが表1である。
PIにおける多くの際立った特質、例えば組織同士のコラボレーションなどはDIでも対応する特質が確認できる。
ただし、この分析はDIとPIのごく一般的な比較に過ぎないことには留意してもらいたい。
より先進的、あるいは例外的なケースは常にありうる。
たとえばあらゆる物理的実体が必ずしも標準化された箱に収まるわけではない。
梱包や保管に特殊な取り扱いが必要な荷物もある。
原油や穀物、巨大な機械部品、危険物などがその代表的な例である。
定義上、PIにおいてはシームレスに相互連結したロジスティクスサービスが提供されることになる。
この観点からすると、他にも多くの利点があるにしろ、PIはまずなによりも各々のロジスティクスネットワークが相互に結合したものとしてとらえることができる。
どんな荷物であろうとも、出発点Aから目的地Bまで送り届けることが前提なのである。
そこでまず直面するのが到達可能性問題である。
これはDIで課題となった到達可能性問題と概念的には類似している。
世界各地からの荷物を確実に配送するためには、流通の標準化を目的としたプロトコルのような無数の国際的な取り決めが存在する。
たとえば手紙を出そうと思えば、誰でもまずその手紙を封筒に入れ、それから近くの郵便ポストに投函するであろう。
DIではユーザーが“コネクションフリー”なサービスを享受できるように、設計とプロトコルが採用されている。
発信地から目的地までデータがどのように送られるかを理解していなくても、DIを使う上では何の問題もない。
同様の“コネクションフリー”サービスはPIでも実現可能である。
PIユーザーは自分の荷物がどんな経路をたどって目的地に運ばれるかについて一切関知しなくとも、PIとそのサービスを信頼してすべてお任せにすることができる。
ネットワーク上の主立ったノード(交通結節点)を押さえているLSPであれば、荷主との契約の範囲内で都合のよい輸送経路を選べる。
たとえば北京からブリュッセルまで荷物を送る場合、実際には北京─天津─ロッテルダム─ブリュッセルという経路をとるとしても荷主に詳細は開示されず、厳密にどのルートを選ぶかはあくまでLSP側の業務上の都合によって決められる、といった運用のしかたである。
DIとPIの相違点 PIがDIの相似形だといっても、両者はそもそも全くの別物である。
DIが伝送するデジタルデータの基本単位は電子的な0と1である。
すなわちDIで運ばれるものは規格化された強弱の電圧値や光パルス、あるいは搬送波や周波数なのである。
DIの基礎を形づくるのは、情報をデジタルパケットに変換するのに利用される信号の二進法的性質であり、関連するアプリケーションとプロトコルもすべてこの基本的事実の上に成り立っている。
一方、PIが扱うのは多種多様な物理的実体である。
物理的実体はそれぞれが固有の性質をもっている。
0と1の標準化ユニットなどは存在しない。
仮に別種の実物を同じ規格の箱に収めることができて、それらの箱をLSPが同じように取り扱うことが可能だとしても、PIユーザーの目から見ればどちらも価値が同じということにはならない。
別々の荷物が同じ種類の箱に入って手元に届いたとしてもユーザーは気にもとめないだろうが、中身が思っていたものと違うとなればそうはいかない。
インターネットの世界にはパケットの再送という仕組みがある。
ネットワークの輻輳(混雑)によってパケットが消失すると、一定の時間を置いて再送される仕組みになっている。
しかし実物を再送しようとすればコストがかかるうえ、それを手放しで歓迎するPIユーザーもいない。
デジタル信号ではなく実物を輸送するには、より多くの労力がかかる。
したがってそれをロジスティクスの評価尺度に照らして検討してみる必要がある。
評価尺度は主にコスト、時間、スケジュールの3つのカテゴリーに分類できる。
⃝コスト Eメールを送る際に発生する変動費は、電力消費にまつわる些細な額にすぎない(インフラコストは一般にISPやキャリアの料金に含まれる)のに対し、実物を送るには実際の輸送、梱包および開梱、物流センターでの積み降ろし、等々に伴う変動費がかかる。
さらにはそうした実際の金銭的なコストに加えて、ガス排出、騒音、汚染、渋滞などの外部コストも発生する。
⃝時間 デジタル信号はほぼ光速と同じスピードで伝わるため、DIではタイムラグが問題になることはほとんどない。
しかしPIにおいては、所要時間や到着時刻を左右する輸送モード、労働力の確保、倉庫での受渡時間等の要因が、PIユーザーにとって決定的に重要である。
輸送にかかる時間(日数)も同様で、どのような経路を選ぶかによってそれは大幅に変動する。
⃝スケジュール デジタル情報の伝送はほぼ一瞬である。
そのため信号の迂回やパケットの再送によって生じる遅れは特に問題にならない。
これは多くのDIユーザーにとって、情報伝達のスケジュールを心配する必要がないということを意味する。
しかしPIのスケジュールは刻々と変化するリアルタイムの状況に影響を受ける。
いつ何どき問題が生じるかわからないダイナミックなプロセスなのである。
交通渋滞や車両故障が発生すれば、遅れを挽回するため別のルートをとる必要が出てくる。
遅延はペナルティや商機の喪失、あるいは追加コスト等を招きかねないため、荷主・カスタマー・サービスプロバイダーに共通する課題となる。
これらロジスティクス評価尺度の存在はPIの複雑さを際立たせることになる。
しかもコスト・時間・スケジュールという3つの尺度はほとんどのケースでそれぞれ関連し合っており、総合的な見地から検討する必要がある。
3つは各々が独立して存在するわけではない。
LSPがPIユーザーにサービスの見積もりを提示する場合、まず輸送経路と必要とされるサービス内容を検討し、その条件を満たすのにかかるコストと時間をはじき出すだろう。
ユーザーと川下のサービスプロバイダー、そして荷物を受けとるカスタマーは荷物の配送がスケジュール通りに行われることを期待しているため、PIの状況をリアルタイムでアップデートすることが求められる。
たとえばユーザーがPIを利用して特定の時間(スピード)とサービスレベルの契約を交わしたあと、事故が発生して予定していたルートの一部が通行止めになったとしよう。
この場合、PIは直ちにアップデートを行って全ルートを改めて最適化しなければならない。
また、PIのユーザー側では契約条件に基づき、PIの状況変化に合わせたコストやサービスレベルの変更を認める、元の計画を変えず遅延を甘受する、あるいは契約不履行を理由にペナルティを科す、などの対応をとることになる。
こうしたロジスティクス評価尺度の存在によって、PIはDIとは比べものにならないほど複雑になる。
PIはA地点からB地点のルーティングなどの到達可能性問題だけでなく、ロジスティクス評価尺度などの最適化問題にも直面しなければならないのである。
PIのネットワークモデル 有限集合の頂点と辺で構成されるグラフを考えてみよう(図3)。
左右のs(shipper)とr(reciever)はそれぞれ発送人と受取人を表す。
黒丸は梱包ステーション、白丸はフィジカルインターネットにおけるインフラ、すなわち物流施設やターミナルなどを意味する。
矢印と点線は2つのインフラを結ぶ輸送路である。
フィジカルインターネットの目的は、最適なコストやサービスレベルを実現するsからrへのルートを探すことにある。
もしグラフがトポロジー的に安定しており、そして(金銭的)コストだけを考えるのであれば、PI問題の数学的構造は昔ながらの「巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem:TSP)」と大差のないものになるだろう。
出発点から目的地まで、最少のコストで移動できるルートはどれかという問題である。
巡回セールスマン問題に関しては長年にわたる研究の蓄積があり、その知見はPIを研究する上でも参考になる。
たとえばいわゆる「ダイナミックTSP」や「時間依存TSP」は、コストの変動を取り扱う。
キャパシティやコラボレーションなどでダイナミックにコストが変化する状況に対処する場合、こうしたアプローチが役立つことになる。
輸送の全工程に必要な時間だけが問題で、しかも遅延の原因が過剰な輸送量と限られたキャパシティによるものであれば、その分析には古典的な「交通量配分問題(Traffic Assignment Problem=TAP)」の知見を援用することができる。
TAPが扱うのはネットワークにおける交通遅延の問題である。
PIが巡回セールスマン問題とも交通量配分問題とも異なるのは次の2つの点である。
1つはPIではダイナミックに変化するコストと時間を両方同時に考慮する必要があること。
2点目はPIは理論上、現実に存在するあらゆる荷主とLSPを包摂する膨大なネットワークを前提としており、TSPやTAPと比べその規模がはるかに大きいことである。
TSPやTAPを解決するとされているどんな画期的アルゴリズムをもってしても、PI問題の規模と複雑さの前にはまったく歯が立たない。
そこでわれわれはまず最初に到達可能性問題を、続いて最適化問題に取り組むという、二段構えのヒューリスティックな(試行錯誤的な推測を繰り返すことよって問題を解いていく方法)ソリューションを提案することにしたい。
そこではPIのどこかでソリューションに変更が生じると、それに応じてグラフのトポロジーがアップデートされ、荷物が受取手の手元に渡るまで、二段構えの問題解決プロセスが反復されることになる。
このアルゴリズムのフローチャートを図4に示した。
われわれのアルゴリズムの勘所は、錯綜した問題を2つ(到達可能性と最適化問題)に分割するという点にある。
工程的な面からいえば、この2つはPIに内在するそれぞれ独立した問題として別々に切り離して取り扱い、またヒューリスティックなアプローチをとるため、当然のことながらPIの実際のオペレーションを順番になぞるという手順をふむ。
技術的な面からすると、複雑な問題を2つに分けることである程度単純化した対象に、連続的かつ反復的プロセスによって迫るアプローチであり、そうすることで計算にかかる労力は減ることになる。
前述のモントルイユ(2011)は、グローバルロジスティクスのサステナビリティビジョンを実現する13の特性を挙げている。
われわれのモデルは、潜在的な可能性も含めこうした特性をほぼ網羅している(表2)。
PIの概念化と運営のイノベーションについては、グラフ理論に基づく研究の蓄積がある。
図3のモデルでは、コストおよびリードタイム面の最適化の問題が浮き彫りになっている。
統計学的にはこれらは1次モーメント(積率)の評価にすぎないため、2次モーメントを測定することにも意義がある。
それはリードタイムについては時間的な正確さを、そしてコストの場合は輸送量の多寡で変化する値を把握するなどの意味をもつ。
1次と2次のどちらも考慮する必要がある場合もあって、たとえ時間がかかるとしても、到着日時がより確実な輸送サービスを選ぶ荷主もいる。
コストとリードタイム以外も考慮することができる。
典型的なのは輸送サービスに伴う温室効果ガス排出である。
図3のグラフ上の各頂点と各辺に、インフラや輸送手段から排出されるガスを表す重みを付加すれば、排出量を削減する機能がモデルに追加されることになる。
こうした課題はそれぞれ別々に解決が図られるが、PIのユーザーがコストとリードタイム、あるいはコストと排出のあいだでバランスのとれたソリューションを希望することもあるだろう。
その場合は図4のフローチャートの初期設定に戻り、改めて多目的最適化アルゴリズムを適用すればよい。
現実的な制約をモデルに組み込むことも可能である。
制約とは、倉庫や輸送手段のキャパシティに限界がある、標準化パッケージにいくつものサイズの違いがある、荷主がリバースロジスティクスを必要としている等々である。
こうした制約を臨機応変に取り扱うことも可能である。
たとえば直面する最適化問題にしかるべきソリューションが得られない場合、荷主(もしくは権限のある責任者)はPIを断念するか、あるいは代替ソリューションのコストおよびサービス条件を飲むかの選択を促す通知を受けることになる。
PIモデルの導入:ケーススタディ 今、PIのユーザーのひとりが1本のワインを友人宅に送るとする。
そのワインの配送に利用されるPIの一部を図5に示す。
ここでの問題は図6のグラフのようにモデル化できる。
荷物がまず頂点sに投入され、そして最後には頂点rへと運ばれる。
PIにおけるインフラを表す9つの頂点(v1からv9)および輸送サービスを意味する各辺によって輸送過程が最適化される。
各頂点および各辺は括弧内の荷重ベクトルと対応する。
ただし、この図はPIモデルにおける、ある一瞬を示したスナップショットであり、時間を表すインデックスは省略されている。
それぞれの荷重ベクトルは当該部分を利用するのに必要なコストおよび時間を表し、どちらの数値も標準化されている。
例を挙げると、頂点v1の利用には1単位のコストと1単位の時間がかかり、v2からv4への輸送にはコストが6単位と時間9単位が必要とされる。
いまこの瞬間、荷物は頂点sにある。
荷物が動き始めると、図6のグラフのトポロジーと荷重ベクトルには随時変化する可能性が生まれる。
このモデルの眼目は、予め定めたサービス条件に即して最低のコストと最短の時間で荷物を運ぶことにある。
フローチャート図4に準拠してまず到達可能性問題に、次いで最適化問題に取り組む。
到達可能性問題はsからrに通じるすべてのルートを列挙することで解決される。
その5ルートが表3である。
なおv4とv6は目的地の頂点に接続しないため除外してある。
手順にしたがって次のステップで最適化問題を検討する。
サービス条件がトータルコストの最小化であれば、5つのルート中で最もコストの低い3番のルートを選び、それがもし納期最優先ということなら5番を選択することになる。
3番は相対的に安価な鉄道輸送を多用し、5番はコストはかかっても時短になる高速道路を利用する。
PIにおいてはその時々の状況に応じてダイナミックにサービス内容をアップデートすることが可能である。
たとえばv2に到着した時点でv5への接続が不可能になれば、グラフは図7のようにアップデートされる。
この段階で到達可能性および最適化の問題が改めて検討され、コストを優先とするかあるいは時間優先かという2つの選択肢に絞られる(表4)。
荷物が頂点rに達するまでこのプロセスが繰り返される まとめ PIは将来生じる輸送問題のすべての面をカバーしうる包括的なコンセプトであることから、われわれのモデルも今後さらに拡充されることが求められる。
規格化された容器に収まらない荷物などがその一例であり、その場合グラフはまた違ったものになるだろう。
また自然災害が発生すればインフラが打撃を受け、政府や自治体が対応に乗り出すと考えられる。
そのような非常時には、状況に応じて特別なモードが必要になることもあるだろう。
幸いなことに、グラフ理論に関する研究論文は極めて豊富であり、PIにおけるこうした特別な課題に役立つさまざまなグラフ理論的アプローチが提案されている。
さらに多くの特性をモデルに取り込むことも可能である。
たとえばコストと時間は、他の多くのパラメーター、すなわち荷物の大きさ、ノードのスループット(単位時間当たりの処理能力)、キャパシティ等の制約、速度制限、輸送手段の限界、等々によっても変化する。
納品先がまだ決まっていない在庫の配送と保管もPI活用法の1つとなりうる。
このケースでは、荷物がPIに投入されても最終的な受取手がはっきりしないため、PIのどこかで保管する必要が生じる。
したがって到達可能性問題とそれに続く最適化問題は、誰が受けとるかが決まり次第その都度アップデートされなければならなくなるわけである。
ここで素描した簡易モデルをより精緻化するようなシナリオは、他にも多く存在するだろう。
PIは登場したばかりの研究領域であり、PIコンセプトの実施運用に向けた諸課題について網羅的に取り上げることが本稿の目的ではないからである。
われわれの研究がいまも続くPIコンセプト発展の一助となることを願っている。
(翻訳構成 大矢英樹)
経済面では輸送コストが上昇を続け、サプライチェーンにおけるあらゆるコスト削減の努力が水泡に帰している。
われわれの社会には、交通事故・騒音・大気汚染などの多大な“ストレス”が道路交通網の酷使によってもたらされている。
環境面に着目すると、他のすべての産業が温室効果ガス排出を着実に減らしているというのに、残念ながら輸送セクターだけは反対方向を向いているようである。
お世辞にもサステナブルとはいえない旧態依然たるロジスティクス業界には、破壊的イノベーションが早急に求められる。
その1つが2011年に米ジョージア工科大学のモントルイユ教授によって提唱されたフィジカルインターネット(Physical Internet=PI)であり、“ロジスティクスサステナビリティへの大きな課題”に取り組む革命的なコンセプトだとして評価されている。
PIのメタファーとして引き合い出されるのは、既に一般に広く普及しているデジタルインターネット(DI)である。
DIにおいてデジタルデータがスムーズにユーザー間を流通するのと同様に、物理的な実体がオープンかつ相互接続されたロジスティクスネットワーク中をシームレスに動き回る、というのがPIのコンセプトなのである。
しかし、その多くの利点にもかかわらず、PIに対する批判は後を絶たない。
なかでも昨今は、コンセプトから実用段階へと離陸するためのビジネスモデルが欠如していることを指摘する声が目立つ。
PIについての研究は現在までのところ、主にコンセプトとその効用に関するものが大半であり、意外なことに実際の運用について言及しているものはほとんど存在しない。
このギャップを少しでも埋めることを念頭に、われわれはここでDIをベースとしたPIの概念的フレームワークを提唱することにしたい。
DIを引き合いに出すことには2つの理由がある。
1つはそれがPIのメタファーであり、両者には名称をはじめとしてモデルや実際の運用にいたるまで多くの相似点があること。
もう1つは既に確固とした制度として実社会に普及していることである。
本稿では概念的フレームワークの分析を行い、さらに実現可能なモデルのアウトラインを示すことで、PIのはらむ複雑な課題を浮き彫りにする。
PIの主たる構成要素同士の関係性を理解すること、実現への道のりを示唆する現実的なモデルを提示すること、必要とされる議論と研究を活性化させること──などが本稿の主な狙いである。
デジタルインターネットの構造 フィジカルインターネット(PI)のデザインと運用を検討するにあたっては、制度として既に確立しているデジタルインターネット(DI)を参照する必要がある。
そこで浮かび上がるのがDIに関する2つの問い、すなわち「①DIはどのように構成されているか」、そして「②DIにおいてデータはどのように伝わるのか」である。
このセクションではまずシンプルなネットワークを概観し、次にインターネットプロトコルについての手短な説明を交えながらデータ通信を論じることにしよう。
DIは世界中に広がる無数のデバイスをつなぐ精緻なエンジニアリングシステムであり、理論上、各デバイスはその他すべてのデバイスとの通信が可能であるため、全体としてのDIを手短に説明することは至難の業である。
ここではその基本的な構造を示すことにする(図1)。
行政機関、営利団体、個人など、インターネットのユーザーとなる各主体は、コンピューターやスマートフォンといったターミナルデバイスを備えている。
ユーザーがDIの中にデジタルデータという形で情報を流し込むと、それらがパケット単位にまとめられ、通信リンクのネットワークを介して伝送される。
ルーターがネットワーク中の経路を指示し、銅線や通信ケーブル、あるいは無線を介してデータが伝わり、モデム等が各端末に合わせた形に変換する。
インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と呼ばれる接続事業者が数多く存在し、あらゆる種類のデジタル情報を円滑に伝えるサービスを提供している。
インターネットの運用、つまりデータ通信を円滑に行うにあたっては、各種の基準が必要不可欠である。
そのために導入されたのがインターネットプロトコルである。
プロトコルとはパケットのフォーマット、ネットワークホストの識別、パケット通信のやり方などを定めた規約のことをいう。
デジタルインターネットから フィジカルインターネットへ 図1のDIにならい、図2にPIのネットワークの模式図を示した。
PIのユーザー(荷主)は企業と個人どちらの場合もある。
荷主が食料や日用品といった各種の物理的実体をPIに投入すると、それらは標準化されたパッケージにまとめられたあと、現実の物流網によって運ばれる。
配送センターがネットワークにおける貨物の流れをナビゲートし、鉄道やトラックなどの輸送手段が貨物を運び、インター・モーダル・ターミナルにおいて輸送モードの切り替えが行われる。
PIサービスを提供するさまざまなロジスティクス・サービス・プロバイダー(LSP)の使命は、あらゆる荷物がスムーズに運ばれることである。
図1と図2を比較し、、両者の相似点を対照したものが表1である。
PIにおける多くの際立った特質、例えば組織同士のコラボレーションなどはDIでも対応する特質が確認できる。
ただし、この分析はDIとPIのごく一般的な比較に過ぎないことには留意してもらいたい。
より先進的、あるいは例外的なケースは常にありうる。
たとえばあらゆる物理的実体が必ずしも標準化された箱に収まるわけではない。
梱包や保管に特殊な取り扱いが必要な荷物もある。
原油や穀物、巨大な機械部品、危険物などがその代表的な例である。
定義上、PIにおいてはシームレスに相互連結したロジスティクスサービスが提供されることになる。
この観点からすると、他にも多くの利点があるにしろ、PIはまずなによりも各々のロジスティクスネットワークが相互に結合したものとしてとらえることができる。
どんな荷物であろうとも、出発点Aから目的地Bまで送り届けることが前提なのである。
そこでまず直面するのが到達可能性問題である。
これはDIで課題となった到達可能性問題と概念的には類似している。
世界各地からの荷物を確実に配送するためには、流通の標準化を目的としたプロトコルのような無数の国際的な取り決めが存在する。
たとえば手紙を出そうと思えば、誰でもまずその手紙を封筒に入れ、それから近くの郵便ポストに投函するであろう。
DIではユーザーが“コネクションフリー”なサービスを享受できるように、設計とプロトコルが採用されている。
発信地から目的地までデータがどのように送られるかを理解していなくても、DIを使う上では何の問題もない。
同様の“コネクションフリー”サービスはPIでも実現可能である。
PIユーザーは自分の荷物がどんな経路をたどって目的地に運ばれるかについて一切関知しなくとも、PIとそのサービスを信頼してすべてお任せにすることができる。
ネットワーク上の主立ったノード(交通結節点)を押さえているLSPであれば、荷主との契約の範囲内で都合のよい輸送経路を選べる。
たとえば北京からブリュッセルまで荷物を送る場合、実際には北京─天津─ロッテルダム─ブリュッセルという経路をとるとしても荷主に詳細は開示されず、厳密にどのルートを選ぶかはあくまでLSP側の業務上の都合によって決められる、といった運用のしかたである。
DIとPIの相違点 PIがDIの相似形だといっても、両者はそもそも全くの別物である。
DIが伝送するデジタルデータの基本単位は電子的な0と1である。
すなわちDIで運ばれるものは規格化された強弱の電圧値や光パルス、あるいは搬送波や周波数なのである。
DIの基礎を形づくるのは、情報をデジタルパケットに変換するのに利用される信号の二進法的性質であり、関連するアプリケーションとプロトコルもすべてこの基本的事実の上に成り立っている。
一方、PIが扱うのは多種多様な物理的実体である。
物理的実体はそれぞれが固有の性質をもっている。
0と1の標準化ユニットなどは存在しない。
仮に別種の実物を同じ規格の箱に収めることができて、それらの箱をLSPが同じように取り扱うことが可能だとしても、PIユーザーの目から見ればどちらも価値が同じということにはならない。
別々の荷物が同じ種類の箱に入って手元に届いたとしてもユーザーは気にもとめないだろうが、中身が思っていたものと違うとなればそうはいかない。
インターネットの世界にはパケットの再送という仕組みがある。
ネットワークの輻輳(混雑)によってパケットが消失すると、一定の時間を置いて再送される仕組みになっている。
しかし実物を再送しようとすればコストがかかるうえ、それを手放しで歓迎するPIユーザーもいない。
デジタル信号ではなく実物を輸送するには、より多くの労力がかかる。
したがってそれをロジスティクスの評価尺度に照らして検討してみる必要がある。
評価尺度は主にコスト、時間、スケジュールの3つのカテゴリーに分類できる。
⃝コスト Eメールを送る際に発生する変動費は、電力消費にまつわる些細な額にすぎない(インフラコストは一般にISPやキャリアの料金に含まれる)のに対し、実物を送るには実際の輸送、梱包および開梱、物流センターでの積み降ろし、等々に伴う変動費がかかる。
さらにはそうした実際の金銭的なコストに加えて、ガス排出、騒音、汚染、渋滞などの外部コストも発生する。
⃝時間 デジタル信号はほぼ光速と同じスピードで伝わるため、DIではタイムラグが問題になることはほとんどない。
しかしPIにおいては、所要時間や到着時刻を左右する輸送モード、労働力の確保、倉庫での受渡時間等の要因が、PIユーザーにとって決定的に重要である。
輸送にかかる時間(日数)も同様で、どのような経路を選ぶかによってそれは大幅に変動する。
⃝スケジュール デジタル情報の伝送はほぼ一瞬である。
そのため信号の迂回やパケットの再送によって生じる遅れは特に問題にならない。
これは多くのDIユーザーにとって、情報伝達のスケジュールを心配する必要がないということを意味する。
しかしPIのスケジュールは刻々と変化するリアルタイムの状況に影響を受ける。
いつ何どき問題が生じるかわからないダイナミックなプロセスなのである。
交通渋滞や車両故障が発生すれば、遅れを挽回するため別のルートをとる必要が出てくる。
遅延はペナルティや商機の喪失、あるいは追加コスト等を招きかねないため、荷主・カスタマー・サービスプロバイダーに共通する課題となる。
これらロジスティクス評価尺度の存在はPIの複雑さを際立たせることになる。
しかもコスト・時間・スケジュールという3つの尺度はほとんどのケースでそれぞれ関連し合っており、総合的な見地から検討する必要がある。
3つは各々が独立して存在するわけではない。
LSPがPIユーザーにサービスの見積もりを提示する場合、まず輸送経路と必要とされるサービス内容を検討し、その条件を満たすのにかかるコストと時間をはじき出すだろう。
ユーザーと川下のサービスプロバイダー、そして荷物を受けとるカスタマーは荷物の配送がスケジュール通りに行われることを期待しているため、PIの状況をリアルタイムでアップデートすることが求められる。
たとえばユーザーがPIを利用して特定の時間(スピード)とサービスレベルの契約を交わしたあと、事故が発生して予定していたルートの一部が通行止めになったとしよう。
この場合、PIは直ちにアップデートを行って全ルートを改めて最適化しなければならない。
また、PIのユーザー側では契約条件に基づき、PIの状況変化に合わせたコストやサービスレベルの変更を認める、元の計画を変えず遅延を甘受する、あるいは契約不履行を理由にペナルティを科す、などの対応をとることになる。
こうしたロジスティクス評価尺度の存在によって、PIはDIとは比べものにならないほど複雑になる。
PIはA地点からB地点のルーティングなどの到達可能性問題だけでなく、ロジスティクス評価尺度などの最適化問題にも直面しなければならないのである。
PIのネットワークモデル 有限集合の頂点と辺で構成されるグラフを考えてみよう(図3)。
左右のs(shipper)とr(reciever)はそれぞれ発送人と受取人を表す。
黒丸は梱包ステーション、白丸はフィジカルインターネットにおけるインフラ、すなわち物流施設やターミナルなどを意味する。
矢印と点線は2つのインフラを結ぶ輸送路である。
フィジカルインターネットの目的は、最適なコストやサービスレベルを実現するsからrへのルートを探すことにある。
もしグラフがトポロジー的に安定しており、そして(金銭的)コストだけを考えるのであれば、PI問題の数学的構造は昔ながらの「巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem:TSP)」と大差のないものになるだろう。
出発点から目的地まで、最少のコストで移動できるルートはどれかという問題である。
巡回セールスマン問題に関しては長年にわたる研究の蓄積があり、その知見はPIを研究する上でも参考になる。
たとえばいわゆる「ダイナミックTSP」や「時間依存TSP」は、コストの変動を取り扱う。
キャパシティやコラボレーションなどでダイナミックにコストが変化する状況に対処する場合、こうしたアプローチが役立つことになる。
輸送の全工程に必要な時間だけが問題で、しかも遅延の原因が過剰な輸送量と限られたキャパシティによるものであれば、その分析には古典的な「交通量配分問題(Traffic Assignment Problem=TAP)」の知見を援用することができる。
TAPが扱うのはネットワークにおける交通遅延の問題である。
PIが巡回セールスマン問題とも交通量配分問題とも異なるのは次の2つの点である。
1つはPIではダイナミックに変化するコストと時間を両方同時に考慮する必要があること。
2点目はPIは理論上、現実に存在するあらゆる荷主とLSPを包摂する膨大なネットワークを前提としており、TSPやTAPと比べその規模がはるかに大きいことである。
TSPやTAPを解決するとされているどんな画期的アルゴリズムをもってしても、PI問題の規模と複雑さの前にはまったく歯が立たない。
そこでわれわれはまず最初に到達可能性問題を、続いて最適化問題に取り組むという、二段構えのヒューリスティックな(試行錯誤的な推測を繰り返すことよって問題を解いていく方法)ソリューションを提案することにしたい。
そこではPIのどこかでソリューションに変更が生じると、それに応じてグラフのトポロジーがアップデートされ、荷物が受取手の手元に渡るまで、二段構えの問題解決プロセスが反復されることになる。
このアルゴリズムのフローチャートを図4に示した。
われわれのアルゴリズムの勘所は、錯綜した問題を2つ(到達可能性と最適化問題)に分割するという点にある。
工程的な面からいえば、この2つはPIに内在するそれぞれ独立した問題として別々に切り離して取り扱い、またヒューリスティックなアプローチをとるため、当然のことながらPIの実際のオペレーションを順番になぞるという手順をふむ。
技術的な面からすると、複雑な問題を2つに分けることである程度単純化した対象に、連続的かつ反復的プロセスによって迫るアプローチであり、そうすることで計算にかかる労力は減ることになる。
前述のモントルイユ(2011)は、グローバルロジスティクスのサステナビリティビジョンを実現する13の特性を挙げている。
われわれのモデルは、潜在的な可能性も含めこうした特性をほぼ網羅している(表2)。
PIの概念化と運営のイノベーションについては、グラフ理論に基づく研究の蓄積がある。
図3のモデルでは、コストおよびリードタイム面の最適化の問題が浮き彫りになっている。
統計学的にはこれらは1次モーメント(積率)の評価にすぎないため、2次モーメントを測定することにも意義がある。
それはリードタイムについては時間的な正確さを、そしてコストの場合は輸送量の多寡で変化する値を把握するなどの意味をもつ。
1次と2次のどちらも考慮する必要がある場合もあって、たとえ時間がかかるとしても、到着日時がより確実な輸送サービスを選ぶ荷主もいる。
コストとリードタイム以外も考慮することができる。
典型的なのは輸送サービスに伴う温室効果ガス排出である。
図3のグラフ上の各頂点と各辺に、インフラや輸送手段から排出されるガスを表す重みを付加すれば、排出量を削減する機能がモデルに追加されることになる。
こうした課題はそれぞれ別々に解決が図られるが、PIのユーザーがコストとリードタイム、あるいはコストと排出のあいだでバランスのとれたソリューションを希望することもあるだろう。
その場合は図4のフローチャートの初期設定に戻り、改めて多目的最適化アルゴリズムを適用すればよい。
現実的な制約をモデルに組み込むことも可能である。
制約とは、倉庫や輸送手段のキャパシティに限界がある、標準化パッケージにいくつものサイズの違いがある、荷主がリバースロジスティクスを必要としている等々である。
こうした制約を臨機応変に取り扱うことも可能である。
たとえば直面する最適化問題にしかるべきソリューションが得られない場合、荷主(もしくは権限のある責任者)はPIを断念するか、あるいは代替ソリューションのコストおよびサービス条件を飲むかの選択を促す通知を受けることになる。
PIモデルの導入:ケーススタディ 今、PIのユーザーのひとりが1本のワインを友人宅に送るとする。
そのワインの配送に利用されるPIの一部を図5に示す。
ここでの問題は図6のグラフのようにモデル化できる。
荷物がまず頂点sに投入され、そして最後には頂点rへと運ばれる。
PIにおけるインフラを表す9つの頂点(v1からv9)および輸送サービスを意味する各辺によって輸送過程が最適化される。
各頂点および各辺は括弧内の荷重ベクトルと対応する。
ただし、この図はPIモデルにおける、ある一瞬を示したスナップショットであり、時間を表すインデックスは省略されている。
それぞれの荷重ベクトルは当該部分を利用するのに必要なコストおよび時間を表し、どちらの数値も標準化されている。
例を挙げると、頂点v1の利用には1単位のコストと1単位の時間がかかり、v2からv4への輸送にはコストが6単位と時間9単位が必要とされる。
いまこの瞬間、荷物は頂点sにある。
荷物が動き始めると、図6のグラフのトポロジーと荷重ベクトルには随時変化する可能性が生まれる。
このモデルの眼目は、予め定めたサービス条件に即して最低のコストと最短の時間で荷物を運ぶことにある。
フローチャート図4に準拠してまず到達可能性問題に、次いで最適化問題に取り組む。
到達可能性問題はsからrに通じるすべてのルートを列挙することで解決される。
その5ルートが表3である。
なおv4とv6は目的地の頂点に接続しないため除外してある。
手順にしたがって次のステップで最適化問題を検討する。
サービス条件がトータルコストの最小化であれば、5つのルート中で最もコストの低い3番のルートを選び、それがもし納期最優先ということなら5番を選択することになる。
3番は相対的に安価な鉄道輸送を多用し、5番はコストはかかっても時短になる高速道路を利用する。
PIにおいてはその時々の状況に応じてダイナミックにサービス内容をアップデートすることが可能である。
たとえばv2に到着した時点でv5への接続が不可能になれば、グラフは図7のようにアップデートされる。
この段階で到達可能性および最適化の問題が改めて検討され、コストを優先とするかあるいは時間優先かという2つの選択肢に絞られる(表4)。
荷物が頂点rに達するまでこのプロセスが繰り返される まとめ PIは将来生じる輸送問題のすべての面をカバーしうる包括的なコンセプトであることから、われわれのモデルも今後さらに拡充されることが求められる。
規格化された容器に収まらない荷物などがその一例であり、その場合グラフはまた違ったものになるだろう。
また自然災害が発生すればインフラが打撃を受け、政府や自治体が対応に乗り出すと考えられる。
そのような非常時には、状況に応じて特別なモードが必要になることもあるだろう。
幸いなことに、グラフ理論に関する研究論文は極めて豊富であり、PIにおけるこうした特別な課題に役立つさまざまなグラフ理論的アプローチが提案されている。
さらに多くの特性をモデルに取り込むことも可能である。
たとえばコストと時間は、他の多くのパラメーター、すなわち荷物の大きさ、ノードのスループット(単位時間当たりの処理能力)、キャパシティ等の制約、速度制限、輸送手段の限界、等々によっても変化する。
納品先がまだ決まっていない在庫の配送と保管もPI活用法の1つとなりうる。
このケースでは、荷物がPIに投入されても最終的な受取手がはっきりしないため、PIのどこかで保管する必要が生じる。
したがって到達可能性問題とそれに続く最適化問題は、誰が受けとるかが決まり次第その都度アップデートされなければならなくなるわけである。
ここで素描した簡易モデルをより精緻化するようなシナリオは、他にも多く存在するだろう。
PIは登場したばかりの研究領域であり、PIコンセプトの実施運用に向けた諸課題について網羅的に取り上げることが本稿の目的ではないからである。
われわれの研究がいまも続くPIコンセプト発展の一助となることを願っている。
(翻訳構成 大矢英樹)
