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2020年1月号
特集

「物流危機が荷主に運び方改革を迫る」

「ホワイト物流」推進運動の前夜 ──「ホワイト物流」推進運動には、どの段階から関わってこられたのですか。
 「最初から。
いや、その前からですね。
荷主を取り込まないと物流の問題は前に進まない。
そのためにこれまでも、手を変え、品を変えてさまざまな委員会に参画してきましたが、実態はなかなか変わらずに、歯がゆい思いをずっとしてきました。
そうした中で物流危機が起きて『さすがにもう待ったなしだ』となった。
さらに安倍内閣の働き方改革がトラック運送業をターゲットに据えた。
首相出席の下、官邸で会議も開かれた。
そこから『ホワイト経営』と『ホワイト物流』という二つの流れが出て来ました」 ──ホワイト経営の「自動車運送事業のホワイト経営の『見える化』検討会」と、ホワイト物流の「『ホワイト物流』推進会議」はいずれも野尻先生が座長を務められています。
 「ホワイト経営はトラック・バス・タクシーの交通事業者の働き方を透明化しようという取り組みです。
交通事業者に人が集まらないのは、やはりドライバーの働き方に対する不安感が大きい。
それを取り除くために国土交通省と厚生労働省で『ホワイト経営認証制度(運転者職場環境良好度認証制度)』を創設して、ドライバーの労働条件、労働環境を透明化することになりました」  「『ホワイト』というネーミングは当時の国交省の担当官のアイデアだったのですが、実はこれにはトラック事業者から反対意見がかなりありました。
『ホワイト経営に乗れなければブラック企業なのか。
そう解釈されてしまう』と。
『いや、それは心配ない。
ホワイトになればいいんだから。
そうしない限りドライバーはもう集まりませんよ』と押し切りましたが」  「もう一方のホワイト物流は荷主が主な対象です。
これも私が座長を務める『トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会』(平成27年5月20日に第1回会議を開催)では、初めて荷主と物流会社を同じ土俵に載せて、ドライバーの手待ち時間の問題を切り口にウィンウィンの関係を作ろうと進めてきました。
最終的には取引慣行まで切り込んでいきたいのですが、まだそこまでには至っていない。
そんなところに物流危機が発生して、内閣を挙げてこれに取り組むことになった。
われわれはいわばそれを利用しました」 ──運送取引の適正化という点ではホワイト物流以前にも取り組みがあったのでしょうか。
 「私が関わったのは下請法関連からです。
下請法は書類の作成・保存義務、提出義務を定めています。
それを見れば元請け下請けの関係は明らかになる。
平成15年の下請法改正で運送・保管業務がその対象になりましたから、いわゆる運送業界の多重下請け構造の問題は、制度的には整理がついたと個人的には考えています。
ただし、下請法は同業者にしか適用されない。
荷主と物流企業は異業種ですから、そこに切り込むには独禁法の優先的地位の濫用という規定に持っていかなくてはいけない。
これは解釈適用が非常に難しくて、かなりハードルが高い」  「そこで運送会社と荷主との取引については法律論に持ち込むのではなく『パートナーシップ』をキーワードにして、物流についてお互いに困っている問題を忌憚なく出してもらい、荷主と物流企業で一緒に改善していきましょうということをずっとやってきた。
しかし、霞ヶ関の会議室で話している限りはうまくいったようでも、現場に行くと話が違う」 ──物流企業にとって荷主は顧客なので、不満があっても強いことは言えません。
 「今まではそうだったかもしれません。
しかし、それも節目を迎えました。
今回は法律のことは念頭にありません。
法律を作れば世の中その通りになるかといえば、そんなことにはならない。
もちろん法律は大切です。
しかし、本当に世の中を変えるには、一般国民を巻き込んで、『物流というのは大変であり大切なんだ、今のままでは将来が危ない』という意識を盛り上げていく仕掛けが必要です。
そのための運動だというのが、私の考えです」 東京2020大会に物流レガシーを期待 ──2019年4月に施行された働き方改革関連法案では、運送業に例外措置が取られました。
適用に5年間の猶予期間が与えられ、年間残業時間の上限も一般則の720時間よりも多い960時間に設定されました。
これは政府や行政の危機意識とは矛盾しませんか。
 「他の業種と同じ規制を運送業に適用したらさすがに物流がパンクするという判断でしょう。
そのため5年の猶予期間を設けた。
その代わり5年以内に体制を整えないとその先はない。
労働基準監督署は強制権限を持っていますからトラック業者も逆らえない。
トラック業者にとっては相当に厳しい話です」 ──大手荷主の自主行動宣言の提出状況をどう評価しますか。
 「今の時点で多い少ないを判断するのは時期尚早だと思います。
リストを見るとやはり大手が先行しているけれど、この後、どこまで裾野を広げていけるか。
地道な努力を重ねていくしかありません」 ──突破口はありますか。
 「東京オリンピックは一つのきっかけになるかもしれません。
私だけなく多くの人がそう考えています。
2019年9月に流通経済大学ロジスティクス・イノベーション推進センターでアンケート調査(『東京2020大会における物流に関する荷主企業アンケート:物流企業アンケート』)を実施しました。
荷主と物流業者の双方にそれぞれ大会の開催に伴う物流問題について尋ねたものです」  「その速報値が先日出たのですが、それによると『大変なことになりそうだ』とは皆が承知している。
しかし、準備はあまり進んでいない。
そこで荷主としては物流会社と協力して手を打ちたいと答えている。
物流会社も荷主との連携が必要だと答えている。
そこからIOC(国際オリンピック協会)の目指す『レガシー(社会的遺産)』の一つが生まれることを期待しています」 ──これまで四半世紀にわたって進められてきたトラック運送業の規制緩和政策は折り返し地点を迎えたのでしょうか。
 「平成2年に『物流二法(貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)』を施行した時から、『経済的規制の緩和と社会的規制の強化』というのが規制緩和政策のキャッチフレーズでした。
しかし、実際にはその後、社会的規制の強化はそれほど進まなかった。
そう考えると『折り返した』というよりも、もともと強化すべきだったものが、今になって進んでいるということでしょう。
経済的規制については平成14年の法改正で、新規参入も、運賃についてもほぼ自由化されました。
規制として残っているのは後は労働と環境しかありません。
その流れが今になっても続いている。
ただし、平成30年の改正法では、トラック運送業の参入の厳格化や運賃規制が改めて俎上に乗りました。
規制緩和の折り返しを云々するのであれば、そこかもしれません」

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