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2020年1月号
特集

ケーススタディー:サッポログループ 在庫の極小化から輸送の平準化に目標を転換

標準システムで属人化を解消  サッポロホールディングス(以下、サッポロHD)は2019年7月、事業会社のサッポロビール、ポッカサッポロフード&ビバレッジ(以下、ポッカサッポロ)、神州一味噌、サッポログループ物流の4社から「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言を提出した。
「ロジスティクス業務の標準化」および「グループ拠点ネットワークの構築」を中心に、物流の効率化・働きやすさ向上に向け取り組むことを表明した。
 同社の事業会社にはそれぞれSCM部門がある。
サッポロビールの「SCM部」、ポッカサッポロの「ロジスティクス部」がこれにあたる。
いずれも調達・生産・販売・物流のサプライチェーン全体を管理し、需要予測、生産計画、補充計画、出荷計画などの業務を遂行している。
 一方、持ち株会社のサッポロHDも19年3月に「ロジスティクス部」を発足させた。
各事業会社の物流部門で企画・政策立案業務にあたるメンバーが部員を兼務している。
同部で決定した施策を各事業会社において実行する体制だ。
 同部はグループコーポレート機能会社「サッポログループマネジメント」の「グループロジスティクス部」を前身とする。
13年1月、サッポロ飲料とポッカコーポレーションの経営統合でポッカサッポロが発足した。
これに先立つ12年3月、飲料・食品事業の統合を機に、酒類事業を含むグループ全体の視点で物流効率化を推進する部門として同部を新設した。
この組織をサッポロHDのロジスティクス部が引き継いだ。
 各事業会社の倉庫・輸配送などの管理はサッポロHDの物流子会社、サッポログループ物流が担当している。
サッポロビールの物流子会社だった旧サッポロ流通システムが12年10月にポッカの子会社ポッカロジスティクスを吸収合併したのを機にサッポログループ物流を新設、サッポロ流通システムの物流管理機能を新会社に移管した。
これによりサッポロ流通システムはサッポログループ物流の子会社となり、現在は協力会社と並列の現業会社として位置付けられている。
 このような組織体制の下で現在、サッポロHDのロジスティクス部が主導して「LPS(Logistics Process Standardization)プロジェクト」と呼ぶグループ横断のプロジェクトに取り組んでいる。
計画主導型の標準業務モデルを構築してグループ全体の業務改革を進める狙いだ。
 その一環でAI技術を活用した商品需給計画システム「サプライチェーンプランニングシステム(以下ではSCプランニングシステム)」を導入した。
グループで扱う全ての商品を対象に需要予測を行い、工場ごとに生産計画を立案して工場から在庫拠点(DC)への補充・供給計画を立てる。
キヤノンITソリューションズの計画系ソリューションを利用して開発を行い、2019年8月からサッポロビール、ポッカサッポロ、サッポログループ物流の3社で運用を開始した。
 従来は各事業会社が独自のシステムを運用していた。
いずれも老朽化問題を抱えていた。
例えばサッポロビールの需給計画システムは今からおよそ20年前に構築したもの。
当時、サッポロビールの商品構成はビールのほかは発泡酒、ワインなどにカテゴリーが限られていた。
しかしその後、新ジャンルのビールがラインナップに加わり、RTD(缶チューハイ・カクテル)や焼酎、梅酒などカテゴリーが拡大してアイテム数が飛躍的に増えた。
 旧システムはこの商品構成の多様化に対応しきれなかった。
システムに不足する機能は人手でカバーするしかない。
新カテゴリーのブランドごとに担当者を決め手作業で計画を作成した。
 担当者がエクセルなどを使い、各自の経験値に基づいて需要を予測して補充数量を算出、生産計画を立て、各工場の製造ラインに割り当てる。
この業務を繰り返すことで担当者のスキルは向上していった。
しかし、その一方で属人化が進んだ。
特定の個人への依存が強まり非効率に陥った。
“在庫の極小化”を見直す  サッポログループの生産体制は品目によって大きく異なる。
酒類のうちビールは全て自社工場生産だが、RTDは外部委託もしている。
ワインは半数以上が輸入品だ。
飲料も統合前のサッポロ飲料が生産を全て外部委託するファブレスメーカーだったのに対し、ポッカは8割を自社生産していた。
 需給管理をする上での制約もさまざまだ。
ビールは一つのラインで製造する銘柄を頻繁に切り替えられない。
一方、複数のパッカーに生産を委託する飲料は、自社工場および各委託工場へ生産を割り当てるという煩雑な業務を伴う。
最少製造ロットもパッカーとの契約内容によって工場ごとにまちまちだ。
こうした制約による業務の違いが、需給計画の属人化を生む一因にもなっていた。
 新システム構築の狙いは、一つにはこの属人化の解消とそれによる標準化の実現にあった。
システムが全てのアイテムについて、それぞれの制約条件を取り込んで数値計算を行い、品目ごとに需要を予測、適正な在庫基準を定め、補充数を算出し、生産計画を立てて補充計画を立案する。
生産計画の立案にはAIを活用、与えられた条件の中からAIが最も効率のいい計画を作成する。
ただし、要所ごとに人のチェックが入るようにした。
システムの予測値、生産数量、補充計画について最終的には人が判断して修正を加えた上で実行に移す。
 このSCプランニングシステムを各事業会社が共通の仕組みとして運用することで、需要予測から生産計画、供給補充までの一連の需給業務の標準化を実現する。
運用が定着すれば事業会社間の人事交流も可能になると期待している。
 今回のシステム構築の背景にはもうひとつの大きな環境変化がある。
物流危機だ。
ドライバー不足から輸送力の確保が困難になっている。
とりわけ中長距離の拠点間輸送で問題が深刻化している。
 サッポログループは事態を極めて重く受けとめている。
これまでメーカーの多くはキャッシュフロー改善のために“在庫の極小化”をサプライチェーンマネジメントの目標にしてきた。
同社も例外ではなかった。
しかし、その方針を大きく転換することを決意した。
 サッポロHDの松崎栄治ロジスティクス部長は「需要に応じて最小限の在庫を持つという考え方は、必要な時にいつでも車両を確保できた時代のものだ。
今の環境下ではもはや通用しない。
現実を直視し、確保できる車両の台数を基準として在庫の持ち方を決めるという(逆転の)思想が必要になった」という。
 在庫を極小化するために必要な分だけ補充するという従来のアプローチでは、需要の変動に伴って工場からDCへ補充する数量が毎日変動してしまう。
1週間を例にとると、週末の需要に向けて木曜と金曜に補充数量が増える。
必要な車両台数も多くなる。
ピークとオフピークとの差は2倍以上になる。
この傾向は同社の製品に限らず他の消費財にも共通しており、輸送需要の集中する時期は車両の確保がいっそう困難になる。
 これを改善するためにサッポログループは、需要の変動にかかわらず毎日の補充量(輸送量)を平準化することにした。
極端な表現をすれば、確保できる車両の台数に合わせて補充数量を決めるという考え方だ。
 商品のSKUごとに安全在庫と標準在庫を算出し、安全在庫を越えず標準在庫を切らない範囲の在庫水準を維持しながら、週単位で確保できる車両の台数(予定台数)に応じて平準化して補充を行う。
先の例で言えば、ピークとオフピークの使用車両台数が同じになるように、ピークの木曜・金曜の補充を火曜・水曜に前倒しする。
 松崎部長は「運送会社が需要の変動に左右されずに車両の稼働率を安定して維持できるよう、荷主側で計画的な輸送が可能な環境をつくる必要がある。
それによって協力会社を1社でも増やしたい」という。
 実際の運用は需給計画システムと配車システムを連携して行う。
サッポログループ物流が配車システムから入力する予定台数を与件の一つとして、需給計画システムが補充量を算出する。
 LPSプロジェクトでは需給計画システムの開発と並行して、配車システムや倉庫管理システム(WMS)など需給計画を実行する物流システムの開発も進めている。
計画系と実行系システムのデータをシームレスにつなげて計画を同期化し、タイムリーな可視化を実現する。
 実行系のうちこれまでに、ワインなどの輸出入管理・通関業務システムが稼働している。
配車システムは今春に開発を終え、教育期間を経て20年の上半期末をめどに完全稼働を目指している。
在庫補充の拠点間輸送の配車業務が対象になる。
その後、WMSの開発に着手する。
主要な業務委託先の倉庫も含め倉庫管理システムを一本化する。
長距離輸送回避へネットワーク再編  サッポログループは環境変化に対応するもう一つの重点施策として、拠点ネットワークの再編にも取り組んでいる。
 同グループは大きく2通りの拠点ネットワークによってユーザーに商品を供給している。
酒類はサッポロビールの工場を在庫・出荷拠点としてユーザーへ直送する形態が基本。
 一方、飲料・食品は販売チャネルによってルートが異なる。
食品系卸へは共配事業を運営する物流会社のネットワークを活用して配送する。
自社工場または委託先工場の製品を地域別に設けたDCに保管し、DCから共配事業者が各県単位で設置しているTC(非在庫の通過型拠点)へ横持ちして他社製品と積み合わせて配送する。
 業務用を中心とする酒類系卸へはサッポロビールの物流網で一緒に配送する。
ビール工場が飲料・食品の在庫・出荷拠点を兼ねている。
 現在、サッポロビールの工場は恵庭(北海道)、仙台、千葉、静岡、日田(大分県)の5カ所。
これに大阪と岡山の2カ所のDCを含めて酒類の在庫拠点は計7カ所ある。
飲料のDCは全国に10カ所。
このうち4カ所はビール工場の倉庫で、残りの6カ所を北関東、西関東、東海、関西、中四国、九州の各エリアに配置している。
 酒類はユーザーへの直送を基本としているため、7拠点体制では一つの拠点でカバーする出荷エリアが広い。
なかでも拠点(工場・DC)のない北東北や信越、北陸地域へは、現状のネットワークでは長距離輸送が避けられない。
 同社ではトラックが日帰りで往復できる距離を半径150キロメートル圏内と想定している。
配送先が1カ所であれば積み降ろし時間を入れても8時間で往復できる。
だが現状の7拠点体制ではこの条件を満たせないエリアがどうしても出てしまう。
 長距離輸送は車両の確保が困難なだけなく、コスト面でも著しく不利になる。
そこで飲料・食品のDCも含めたネットワーク全体の設計を見直し、ユーザー配送と拠点間輸送を考慮して拠点の再配置を進める。
 その第1弾として今春、東海・北陸エリアで拠点・配送網の再編を行う。
現在、同エリアのユーザーには静岡工場から直送している。
大半が150キロ圏外で、北陸には300キロ圏を超える地域もある。
 そこで新たに名古屋に中継拠点を設ける。
対象エリアを静岡工場から直送するエリアと名古屋の中継拠点から配送するエリアに分けることで長距離輸送の解消を図る。
これに続いて20年度以降に東北、中四国、九州、関東で順次、拠点再編を進める考えだ。
取引先別に配送効率を可視化  配送効率を上げるために取引先に対して納品時間変更などの協力を求める活動にも取り組む。
例えば1回のオーダーが車両1台分に満たない配送先が同じ方面に2カ所あって、それぞれ1台ずつ車両を仕立てているようなケースを抽出、積み合わせることで積載率が上がることを取引先にアピールして納品条件の変更を提案する。
 ロジスティクス部では需給計画システムの在庫補充を実行する拠点間輸送の配車システムとは別に、ユーザー配送を対象とする配車システムの導入を予定している。
配車業務を自動化するとともに、取引先ごとに配送効率を可視化する狙いだ。
 システムの運用によって可視化されたデータを根拠に取引先と交渉する。
事業会社の物流部門が営業部門に働きかけて活動を進める。
松崎部長は「正確なデータがあれば具体的な改善点を提案できる。
われわれロジスティクス部がそれを支援する」という。
 既に改善点が明らかになっている取引先に対してはシステムの導入を待たずに交渉を進める。
先に効率化を進めることで配車システムの導入効果をより高めることができると見込んでいる。

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