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2020年1月号
特集

トラックドライバーの不安とリスク

序論  配送車両のドライバーは仕事上さまざまな身体的・社会心理的ストレスに見舞われる。
ストレスの要因は、人間とその労働環境、決められた業務を一定の組織的制約の下で遂行するための技術とツールなど、一つではない。
こうしたテーマに全体論的アプローチで迫るのがワークシステム理論である。
 ワークシステムとは多種多様な構成員が関わる社会技術システムのことであり、物流の分野では配送業務の文脈で議論されることが多い。
社会技術システムは各種のサブシステム(人的・技術的・(内部)環境的・組織的)から構成される。
これらのうちどのサブシステムに変化があっても、労働安全衛生に直接的もしくは間接的影響を及ぼすことになる。
 輸送システムは各種の人工物、インフラ、ナレッジ、規制、多種のネットワークなどで構成される。
ワークシステム理論によれば、労働安全衛生にはこういった各構成要素が影響を与える。
トラック、道路、ヤード、建物などといったインフラの質は時が経つにつれて変化していく。
ナレッジは組織的プロセスと従業員のスキルと関係するものである。
例えば新技術が登場すれば、それをどのように安全に利用するかというナレッジが必要とされる。
そのため輸送システムを論じる際、組織間の社会技術的ワークシステムに話が及ぶのである。
 この研究の目的は、配送ドライバーのワークシステムに関連する社会心理的不安の原因を特定することである。
さらにこの人間中心のアプローチを、組織および組織間のリスクマネジメントプロセスにも応用していくことにする。
背景  配送トラックのドライバーは、一連の業務を遂行する上でいくつかの異なる労働環境下に置かれる。
トラックの運転という本来の業務に加え、配送ターミナル、街路・幹線道路・歩道など公共エリア、客先・卸・小売の敷地や建物などでも仕事をしなければならない。
 ドライバーの一日の勤務時間の多くを占めるのがメインターミナルでの荷積み、運転、客先の施設での荷降ろしである(図1)。
積み降ろし作業にはどうしても肉体労働が伴うため、各種の補助器具やツールが利用される。
テールゲートリフターなどトラックのボディに組み込まれているものや、ハンドトラック、パレットトラック、かご台車など荷物を動かす人力のマテハンツールなどがある。
こうした作業の他に最終消費者向けの仕分け作業が含まれることもある。
 配送トラックドライバーには仕事のペースを自分で決める裁量の余地がほとんどない。
欧州労働安全衛生機関の調査によれば、EU諸国の労働者全体のおよそ3分の2は業務内容の選択と変更が可能だとしているのに対し、物流業に限るとその数字が2分の1まで低下する。
 トラックドライバーの仕事が激務となった背景には、経済活動の24時間化に伴って時間厳守の配送が増えたことがある。
またドライバーは自分1人で仕事をすることが普通である。
そのため安全を優先させるか、あるいは多くの業務をこなすために危険な方法を敢えて選ぶかの倫理的な選択を迫られる場面に遭遇することが少なくない。
 サプライチェーン全体のモノの流れで主役を演じるのはトラックドライバーである。
にもかかわらず彼らの健康と労働適応能力が問題にされることはこれまであまりなかった。
トラックドライバーの仕事を考える際には、従来の労働安全衛生的視点だけではなく、心理的・組織的側面をも考慮する必要がある。
 本稿では配送業務における社会心理的緊張やストレスの具体的要因が明らかにされるが、その中でも特に運転以外の仕事に焦点を当てる。
なお、事例として取り上げた地域が北欧であるため、内容には特有の地理的条件や季節的要因(厳冬期など)を含むことを付記しておく。
研究方法および題材  本研究ではReimanその他の研究者たちがかつて配送トラックドライバーの仕事ぶりをビデオに録画したものに、われわれがさらに詳細な分析を加えた。
 データ収集はVIDARというメソッドに拠った。
VIDARとは参加型の人間工学的観察メソッドのことであり、身体的および社会心理的不快・不安等を特定することで作業負荷を評価する。
 ビデオ分析用データの採取は厳冬期に実施され、フィンランドにおける21例が集められている。
リサーチャーはいつもの走行ルートを行く配送トラックに同乗し、原則としてドライバーが運転以外の仕事をしている姿を全てビデオに収めた。
(*分析方法等の詳細は省略) 結果  分析の結果99項目の社会心理的な不安・苦痛が特定され、それらをメインカテゴリーおよびサブカテゴリーに分類した(表1)。
 最も多いのが「リスク」という社会心理的不安で、全体の半数を超える(53%)。
サブカテゴリーを見ると「自分自身の事故・ケガのリスク」(28%)と、「経済的損失が生じるリスク」(13%)が目立つ。
 「リスク」を挙げた割合は、ステークホルダーのグループ(43・9%)よりもドライバーのグループ(63・1%)の方が多い。
ステークホルダーでは「障害/中断/妨害」(33・8%)も目につく。
 明らかになった99項目の不安/不快のうち、具体的にどのような状況下で不安・不快が発生するのかについて、60項目にわたって記述的な説明を加えた(表2)。
 積荷についてはターミナル内の位置情報が足りないこと、そしてカーゴスペースに荷物がきっちりと収まらないことが、業務の効率を低下させる要因として挙げられている。
それに加え、大きさの異なる荷物をどう扱うべきかよく分からないことが社会心理的不安を生じさせる。
 カーゴスペース(床フック、扉など)や設備装置(かご車、テールゲートリフターなど)といったツールや技術の不備は、不安要因であるだけではなく事故を引き起こす可能性さえある。
 慣れない環境(カーゴスペース、公道、客先など)も苦痛をもたらす。
例えば転落や滑落の恐れがあるテールゲートリフターやカーゴスペース、安全管理の行き届かない客先の建物や敷地などである。
 ステークホルダーグループは、危険を誘発するドライバーの判断を懸念するが、その原因の多くはトレーニング不足と指導の不徹底にある。
しかしながらドライバー自身の判断で危険な行動とることも間々あるのは言うまでもないだろう。
 大量の業務を制限時間内に終えなければならないこと、不規則な働き方、仕事中に邪魔が入ること等々に起因するストレスといったように、配慮に欠ける業務の割り当てと不適切な指示指導が労務リスクとなり得る。
 こうした業務が行われる労働環境は一様ではなく、照明設備の不備によって明度が不足している場合や厳冬期など、必ずしも安全とはいえない環境そのものもリスクである。
さらに、荷降ろしをする場所が一時保管場所としても使用されていたり、あるいはそもそも荷降ろしを想定していない作りになっている場合さえある。
 労働環境そのものが事故を引き起こす具体的なリスクをはらむ。
コミュニケーション不足、リソースの欠如、あいまいで手順の定まっていないプロセスなど、組織上の問題も同様である。
 施設/装置や技術については、例えばツールの使い勝手が悪かったり目的にそぐわない場合には、ケガや事故を招く可能性がある。
さらに業務上の事故のみではなく、施設や設備など経済的損失も考慮する必要がある。
 また、ケガや事故に加えて周囲(同僚、上司、顧客、その他のステークホルダー)からの非難も、リスクと不安の要因として無視できない。
事故やケガを防ぐためには、ここで取り上げた全ての要素を幅広く考慮したリスクマネジメントが要求される(図2)。
ディスカッション  さまざまな身体的・社会心理的ストレスの原因は配送ドライバーの業務に由来する。
心理的不安は人間の健康に悪影響を及ぼすばかりでなく、仕事の能率低下をも招く。
それゆえにリスクと不安の軽減(もしくは排除)は、生産性・質・勤勉さといった点でより望ましいワークシステムにつながるのである。
 リスクを軽減・排除するには、その前にまず何がリスクであるかを見極める必要がある。
運転という仕事以外の配送ドライバーの業務に起因する社会心理的不安を特定した上で、それらの分析を進め、この問題への理解を深めることが当研究の目的である。
 バリューチェーンは価値の創造に貢献する一連の各種アクティビティから成り立っており、配送という仕事もその一部である。
運送会社も他の会社と同様、バリューチェーンの中で互いに影響を与え合うひとつのワークシステムとして捉えることができる。
この視点からすれば、配送トラックとドライバーは当然そのワークシステムの中心となる。
 調和のとれた組織とは次のように定義される。
すなわちビジネス目標とそれが人びとに与える影響に配慮する、ワークシステム・デザインの良い面悪い面をきちんと評価する、(人員、物品、設備装置、労働環境に関連する)間違い・混乱・事故・些細な異変などといったマイナス要因をできるだけ減らす、等々である。
 ここではドライバーとその他のステークホルダーという二つの異なる立場のグループそれぞれの視点から、労務リスクを挙げてもらった。
労務リスクはバリューチェーンでの立ち位置が異なる複数の視点から評価されねばならないからである。
リスクマネジメント  リスクマネジメントとは、経営陣自身が先頭に立って指揮しなければならない複雑なプロセスであり、その目的はリスクを軽減・除去するソリューションを見出すことにある。
そこで問題になるのがリスクを特定するためのモデルとツールである。
 ドライバーが仕事をする環境には他の労働者、歩行者、自転車などさまざまな人びとがいる。
このことは運転、積み込み、荷降ろしのどの場面でも変わらない。
こうした人びとの行動は予測できない上に、彼らをドライバーの労働環境からシステマチックに排除または制限することもまた不可能である。
 であるからこそ、何らかのリスク緩和策が求められるのである。
積み降ろしの際に生じうるリスク、そして業務を遂行する過程で向き合うことになる人びとに関するリスクについて、ドライバーはどう対処すべきか弁えておく必要がある。
 われわれはこれを今後の研究課題の1とする。
こうしたリスクを緩和する策としてはまず、知識教育とトレーニングの二つが考えられる。
その上で例えば、ルートと業務プランに対して経営層が何らかの判断を下すことなども有効であろうが、そのためには顧客との事前の話し合いが必要とされることが多い。
このようなステークホルダーと議論をするプロセスの改善が研究課題2である。
 このワークシステムモデルは、配送ドライバーのスキルと意識を高めるだけでなく、組織そのものと組織同士のつながりという面からシステマチックにアプローチすることをも可能にする。
リスクと不安は両者ともワークシステムの構成要素としてとらえることができ、それがリスクマネジメントの優先順位を決める一助となる。
 本稿で特定したリスクの多くは、カーゴスペースやテールゲートリフターなど車両とその構造に関連する。
ドライバーはダメージを与えることを恐れており、適切なツールがないことが社会心理的不安の要因となっているようである。
それゆえドライバーと運送会社、そして技術とツールの設計や製造を担うステークホルダーとの間でもっと徹底的な議論が必要とされるのである。
したがって三つ目の研究課題はこの設計者とエンドユーザー間のコラボレーション・プロセスの改善となる。
 客先の構内や共用エリアなどの多様な労働環境のもとで肉体労働をすることにもリスクがある。
スペースの狭さ、距離の長さ、計画性の欠如などが社会心理的リスク要因として考えられる。
そうした社会心理的不安によって、ドライバーが働き方や一日のペース配分を調整することが難しくなってしまう。
改革を要する労働環境が研究課題の4となるだろう。
 事前の予想に反し、冬期の条件がリスクもしくは不安要因となるケースはそれほど多くなかったこと(60件中の6件)にわれわれは驚かされた。
これらの要因に共通するのは多かれ少なかれ敷地や建物、ロジスティクス、ツールなどのプランニングの不備である。
バリューチェーンに属する各グループが協力し合いながらプランニングをすればこうした不安要因は容易に取り除くか、もしくは軽減することができるはずである。
この冬期の条件が研究課題の5として挙げられるであろう。
 リスクや不安の原因は、仕事をめぐる状況がいろいろな面で苛酷であることだけではない。
もちろんそれも原因の一つではあろうが、調査結果から浮かび上がってきたのはさまざまなステークホールダーを巻き込むことの重要性である。
リスクマネジメントモデルに関して言えば、社会心理的リスクを引き起こす主な原因は、仕事そのものの性質から来るものと社内コミュニケーションの問題である。
仕事の生産性や質、勤勉さに影響を及ぼすこうしたリスクを軽減するためには、企業がそれぞれの原因に応じた種々の対策を講じることが重要である。
(翻訳構成 大矢英樹)

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