2019年12月号
特集

アリババ菜鳥 「無錫天猫物流倉庫」――自律分散型AIロボットを950台導入

「独身の日」の物流を3日で完了  中国アリババは、「中国全土24時間以内、全世界3日以内」に商品を配達するネットワークの構築を目指して、2017年からの5年間で総額1千億元(約1兆5千億円)の物流投資を実施する計画だ。
同社が過半を出資して13年に設立した物流子会社「菜鳥網絡(Cainiao)」がその実行部隊を務めている。
 中国では毎年11月11日の「独身の日(ダブルイレブン)」に、アリババグループの主導による一大セールが行われる。
19年のダブルイレブンの売上高は2684億元に達した。
日本円にして約4兆円。
一日だけで日本の「楽天市場」の年間流通総額を上回る金額を売り上げたことになる。
 18年のダブルイレブンに菜鳥は2135億元に上る膨大なオーダーをスピーディーに処理して、わずか3日間で全ての配達を完了するという離れわざをやってのけている。
14年に上海で創業したテクノロジースタートアップ、クイックトロン社(Quicktron:上海快倉智能科技有限公司)のロボット技術がそのオペレーションを支えた。
 菜鳥は中国各地にアリババグループ向けの物流センターを展開している。
その一つ、中国江蘇省の「菜鳥無錫天猫物流倉庫」は、BtoC市場で圧倒的なシェアを誇る「天猫(Tmall)」向けの自動化物流センターだ。
延べ床面積は約3万平方メートル。
24時間365日稼働で1日当たり平均8万オーダー・80万件の出荷を処理している。
 クイックトロンの自律分散型AIロボット(AGV)を大量に導入して、ピッキングや荷合わせに利用している。
昨年のダブルイレブンを挟む3日間で同倉庫の計700台のAGVは、地球1周分に当たる延べ4万キロメートルを走行した。
そして19年のダブルイレブンを迎えるに当たり同倉庫はAGVの導入台数を950台まで拡張した。
11月11日朝、8時1分の時点で、324都市で最初のユーザーが荷物を受け取ったという。
 菜鳥は17年にTmall向け倉庫2カ所に、それぞれ別のAGVを導入している。
現在、中国には10社以上のAGVメーカーが存在する。
菜鳥は、その倉庫にクイックトロンを含む複数社のAVGを数十台ずつ導入した。
 このトライアルを経て菜鳥は、クイックトロンに対して約2億元の出資に踏み切った。
現在、クイックトロンのロボット技術はアリババの全ての自動化倉庫に採用されている。
その結果、クイックトロンは創業からわずか5年足らずで、現在は外販をしていないアマゾンロボティクス(旧KIVA)を除き、出荷実績世界第1位のロボットメーカーに躍り出た。
 これまでにクイックトロンは、菜鳥をはじめとする50社以上の有力企業と200以上のプロジェクトを経験している。
累計出荷台数は5千台以上、菜鳥からは合計1万台を受注済みだ。
これはクイックトロンのロボットを制御するAIの完成度の高さに加え、作業スピード、堅牢性、揺れへの強さ、取り扱いの容易さといったハードウエアに対する評価を裏付けているといえるだろう。
 筆者は18年12月、クイックトロンの日本における正規販売代理店として当社を設立した。
そして19年3月には船井総研ロジの出資を受け、同社による導入コンサルティングサービスが始まった。
クイックトロンは日本市場への本格進出を決め、近日、日本法人を設立する。
当社も従前と変わらず、同社の日本展開を支えてゆく。
 日本の物流現場には特殊な仕様が多く見られる。
それは日本人が得意とする「知恵と工夫」の産物であろう。
当社はそのような日本の特性と、中国の優れたAI技術を融合した、新時代の物流施設を提案することを目指している。
A商品には「カートtoパーソン」を採用 以下、本稿では菜鳥の無錫倉庫の自動化オペレーションを解説する。
まずはその前提として、ピッキングプロセスにおける自動搬送技術の基本的な考え方についておさらいしておきたい。
 これまでピッキングは、たとえ歯ブラシ一つのオーダーであっても、それを取ってくるために作業員が巨大な倉庫の中を歩き回らなければならなかった。
ピッキング作業員の歩行距離は1日当たり10キロメートルにも及んだ。
自動搬送技術を導入すれば作業員は歩く必要がなくなる。
ラック自体が移動して作業員の手元まで歯ブラシを運んで来てくれる。
 このラックを運ぶのがAGVだ。
AGVはECのデータ、すなわち消費者がスマホやPCで入力したオーダー情報を基に、倉庫管理システム(WMS)と連携して自律的に動く。
最適なピッキングの順番と移動ルートをAIが判断して、絶妙なタイミングで作業員のところまでラックを運ぶ。
いわゆる「グッズtoパーソン(GTP)」と呼ばれる技術だ。
 それがピッキングの自動搬送技術の概略だが、菜鳥の無錫倉庫の見どころはむしろその先にある。
通常のピッキング自動倉庫は、商品を保管したラックを作業員のところまで運ぶ、いわば「ラックtoパーソン」で運用しているケースがほとんどだ。
しかし、それだけでは同じ商品を1日数千個も出荷する「独身の日」のようなピーク時を乗り切れない。
 そのため無錫倉庫では、SKUの特性に合わせて異なるピッキング方式を採用し、それを後から宛先別に荷揃えするという方法をとることで、全体の処理能力を高めている。
具体的にはSKUを出荷頻度の高いA商品と、B・C商品に分類して、庫内を次の六つのゾーンに区分している。
・入庫ゾーン ・B・C商品ゾーン ・A商品ゾーン ・Rebinゾーン ・梱包ゾーン ・出荷ゾーン  「B・C商品ゾーン」は、1日に数個〜数十個を出荷する低頻度のSKU、いわゆるロングテール型の商品から中頻度の商品を取り扱う。
ここでは前述の「ラックtoパーソン」型で、AGVが保管ラックを作業員のワークステーションまで運ぶ。
 B・C商品ゾーンのワークステーションでは、最大24オーダー分を保管ラックから一度に取り出し、種蒔き式にバケット(循環カート)に仕分ける。
そのために作業員の両脇に、1段4個×3段=12個のバケットを置くバケット台をそれぞれ配置している。
具体的な作業手順は以下の通り。
①ワークステーションに保管ラックが到着すると、ワークステーションに設置されたモニター画面に、ピッキングする商品の数量、その商品の画像、その商品が保管ラックのどの間口にあるかが視覚的に表示される。
②作業員は指定された保管ラックの間口に添付されたバーコードラベルをハンディで読み取る。
間口が間違っていればエラーが出る。
正しい間口をみつけて指定された数を取り出す。
③ピッキングした商品を投入するバケットは、バケット台のランプが点灯して、デジタル表示器が投入個数を表示している。
④表示器の数だけ投入したらバケット台のボタンを押す。
するとバケット台のランプが消える。
デジタル表示器の表示は、残りの作業回数に切り替わる。
全てのランプを消したら、その商品の種蒔きは終了。
次の商品のピッキングに移る。
⑤商品を投入し終えたバケットはAGVに搭載する。
AGVは「Rebinステーション」でA商品と荷合わせするために「待機エリア」で時間を調整する。
 一方、「A商品ゾーン」は1日当たり数百個〜数千個を出荷する高頻度SKUを取り扱う。
「B・C商品ゾーン」と同じ「ラックtoパーソン」型の運用では処理に時間がかかるため、同じAGVを使って「カートtoパーソン」型とも呼ぶべき運用を行っている。
 A商品ゾーンでは、AGVはSKU別に間口を切った保管ラックではなく、納品用カートン(最終的に顧客に届ける段ボール箱)の空箱を搭載したラックを搬送する。
A商品はパレット積みの状態で商品を保管し、ピッキング作業者ごとに担当区域を決めている。
そのラインをAGVが巡回して、同じ納品用カートンにリレー式に商品を投入していく。
 「A商品」と「B・C商品」は、「Rebinゾーン」の「Rebinステーション」で荷合わせする。
A商品を投入した納品用カートンを乗せたAGVがRebinステーションに到着すると、同じタイミングで、その納品用カートンに同梱するB・C商品を詰めたバケットが、やはりAGVによって運ばれてくる。
 作業員はB・C商品をバケットから取り出して、納品用カートンに詰め合わせる。
これで荷合わせが完成。
納品用カートンは次の自動梱包エリアに搬送されていく。
一方、空になったバケットもまた、次のピッキングに使用するために、AGVがB・C商品ゾーンのワークステーションに運ぶ。
「多能工AGV」の配置をAIが最適化  このオペレーションで注目すべきポイントは二つある。
一つは作業員による荷合わせのタイミングが、AGVの動きと完全に同期している点である。
A商品の納品用カートンとB・C商品のバケットは、「Rebinゾーン」のステーションにぴったり同時に到着する。
このタイミングが少しでもズレたら現場は大きく混乱してしまう。
クイックトロンのAIアルゴリズムが700台以上ものAGVの動きを100%コントロールしている。
 注目すべきもうひとつのポイントは、これら異なるゾーンの異なるオペレーションの全ての工程を、同じAGVが分業しながら作業している点である。
そのため例えばA商品ゾーンでロボットの台数が足りない場合には、B・C商品ゾーンやRebinゾーンから自動でAGVが応援に行く。
 つまり、クイックトロンのAGVは特定ゾーン専属ではなく、AIが判断して相互にゾーンを行き来しながら、最適な配置で働く。
ちなみに「AGV(Automatic Guided Vehicle)」に対してレールの上を走る搬送車を「RGV(Rail Guided Vehicle)」と呼ぶことがあるが、クイックトロンのロボットのように自分の持ち場を限定せずAIで動く搬送車をAGVとは別に「IGV(Intelligent Guided Vehicle)」と呼ぶこともある。
 クイックトロンのIGVを開発したのは、同社の研究開発のトップを務める呉海賢(ブライアン・ウー)バイスプレジデント・パートナーであり、氏は無錫倉庫の設計者でもある若き天才エンジニアだ。
 菜鳥の無錫倉庫は、世界的に見てもおそらく類例がないレベルの自動化を実現している。
しかし、日本の労働力不足はむしろ中国以上に深刻だ。
日本に無錫倉庫と同様の高度な自動化施設が登場するのもそう遠い未来のことではないだろう。
当社もその一端を担っていく考えだ。
(執筆協力:Chinoh.Ai 齋藤誠一郎 取締役)

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