2019年12月号
特集
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米シリコンバレー「ロボビジネス2019」報告
テーマは「AI×協働ロボティクス」
毎年、米シリコンバレーで開催される「ロボビジネス(RoboBusiness)」は、非製造ロボットを主な対象とする全米最大のカンファレンス・展示会だ。
大学における研究成果の報告や、パーソナルロボット、産業ロボット、物流ロボット等が数多く展示され、広範囲にわたるテーマの講演やワークショップが開催される。
ロボットビジネス関係者には参加必須のイベントとなっている。
2019年の大会は10月1日〜3日に「サンタクララ・コンベンションセンター」で開催された。
五つの基調講演の他、「ロボット産業」「テクノロジー」「イノベーション」そして「チーフ・ロボティクス・オフィサー・サミット」を二つに分けた計五つのセミナートラックが設けられ、同時進行でセミナーが行われた。
本稿では筆者が参加した基調講演やセミナーの概要、会場の様子を紹介する。
4年前の「ロボビジネス2015」でシンギュラリティー(技術的特異点)に関する著述で知られるレイ・カーツワイル(RayKurzweil)氏がAIに関する基調講演を行って以降、毎年、AIがロボティクスの主要テーマとして取り上げられている。
AIとロボットの融合がその焦点であり、今年は「AIを介した協働ロボティクス」が大会全体のテーマであった。
最初の基調講演は、カーネギーメロン大のロボット工学の教授であり、BioroboticsLabの共同ディレクターおよびRoboticsMajorのディレクターを務めるハウィー・チョセット教授(Howie Choset)による「AIによる救助:製造業における高度なロボット工学の未来(AI to the Rescue: The Future of Advanced Robotics in Manufacturing)」であった。
彼が取り上げたのは以下の問題である。
すなわち、アメリカのものづくりがアジアやヨーロッパに立ち後れた理由、その遅れを取り戻し逆転するために必要な措置、われわれアメリカが今どこにいてどこに行くのかを誰も予測できない原因、そしてロボットの民主化は産業をどのように変えるのか、である。
それを解説するために彼はNASA(アメリカ航空宇宙局)が1989年に定義した「TRL(Technology readiness levels:技術成熟度レベル)」という概念を用いた。
いわく、大学や研究機関における活動の対象は「Level1−基礎理論の着想段階」「Level2−技術要素の適応、応用範囲の明確化」であり、産業においては「Level7−システムとしての技術成立性の確認」「Level8−システムの運用テスト、認証試験」「Level9−最終段階、実運用」である。
それに対してレベル3〜6はアメリカにとって、いわば“死の谷”である。
大学での基礎研究やそこで生まれたアイデアを起業家がビジネスへとつなぐためには、投資を得て「Level3−技術実証のデモンストレーション(Proof of Concept)」「Level4−ラボレベルでの実証」「Level5−シミュレート及び実空間での実証」そして「Level6=システムとしての技術成立性の確認」を行う必要がある。
彼の目指す高度ロボット製造のゴールは、労働者に力を与え、能力の民主化を促し、雇用を創出し、アメリカのリーダーシップを取り戻すことである。
現在、アメリカの製造業は小規模工場が全体の98・6%を占めている。
従業員20名以下の企業が75・3%である。
彼らに力を与えることでアメリカ全体の生産効率を高めることができる。
その昔、コンピューターは大型かつ高価であり大企業しか所有できなかった。
それが今や中小企業はもちろん一般家庭にもパソコンがある。
同じように小規模工場にもロボットは必要であり、使いやすい値段の手頃なロボットが求められている。
ところが国別のロボットの導入数は1位が中国で13万8千台、2位の日本が4万5566台、3位が韓国の4万1373台であり、アメリカは3万3192台にすぎない(2017年)。
なぜアメリカは死の谷を越えることができないのか──それはラボで機能する研究を現実の世界に移行する方法を確立するためのコンセンサスを取る方法や手法がないからである。
また実際にコミュニティは科学的な方法に従っていない──そうチョセット教授はコメントし、「われわれは本当に適切な問題を解決しようとしているだろうか?」という問い掛けで講演を締め括った。
コンピュータービジョンとAI 米パロアルト研究所(Palo Alto Research Center:PARC)のマーカス・ラーソン(Markus Larsson)グローバルビジネス開発担当副社長によるコンピュータービジョンの講演があった。
コンピュータービジョンの最近の代表的なアプリケーションは顔認識、自律運転そしてロボットのピッキングのための画像認識である。
PARCは、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の依頼を受けて顔認証および分析を画像処理で行う「OLAYスキンアドバイザー」を2016年にリリースしている。
「OLAY」はP&Gの化粧品ブランドの一つ。
顧客がスマートフォンなどで自撮りした写真をアップすると、AIが分析して皮膚年齢スコアを出力する。
皮膚の老化に関する大量の画像データを基に深層学習を行いシステムを作り上げた。
深層学習の結果を顧客に提供して、自分の肌に合ったスキンケア製品を提案するというビジネスモデルである。
これによってOLAYの通販サイトへのコンバージョン比率はそれまでの約2倍になり、売り上げが約40%増えたという。
物流ロボットの普及速度 ロンドンのInteract Analysisのアッシュ・シャーマ(Ash Sharma)リサーチディレクターによる物流ロボットの動向調査報告があった。
氏は5カ月間にわたって60社以上の企業を調査およびインタビューしたという。
その骨子は以下の通りである。
・ 倉庫作業員の人手不足、より速くより安い配達を求める消費者の要求、人件費の上昇、eコマースの拡大、オムニチャネルの急増、そして購買・返品習慣の変化によって物流ロボットの必要性が急激に高まっている。
・ 5兆ドル産業のロジスティクス業界がロボティクスに揺れている。
モバイルロボットの100近いベンダーの多くが物流に焦点を当てている。
2023年にモバイルロボットは60億ドル市場になると予測される。
倉庫オートメーション市場は23年には300億ドルを超える。
そのうち7億ドルがAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)/AMR(Autonomous Mobile Robot:協働型自律移動ロボット)である。
・ モバイルロボットをイノベーター理論の四つのフェーズに当てはめると、現状はまだ幼年期にあり、現在のユーザーは「イノベーター」に区分される。
これから「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」と導入が広がっていく。
・ 倉庫ロボティクスで先行したのは2012年にアマゾンに買収されたキバ・システム(Kiva Systems)である。
・ オーダーフルフィルメントのロボットは「PTG(Person-to-goods)」「GTP(Goods-to-person」(Kivaタイプ)「アーム付き走行ロボット」「ソーター」の4種類に分けられる。
・ 現在までにアマゾンは20万台のロボットを導入している。
・ 物流ロボットの活用におけるアマゾンのリーダーシップは今後も続く。
しかし、2022年にはその他大勢の利用台数がアマゾンを超えるという予測がある。
アマゾンに労働人材を取られているために、その他大勢のロボット化が加速しているとも言える。
・ 米ウォルマートや米ターゲットの物流設備投資は、ロボットを使ったシステムの購入にシフトしつつある。
人手不足により、オーダーピッキングだけでなく、フォーク、牽引、パレット搬送などにもロボットが活用される。
・ 現在は物流作業の2%ぐらいしか自動化されていない。
モバイルロボットの将来 筆者のイノベーション・マトリックスが取り扱っている協働ロボットメーカー、米プリサイス・オートメーション(Precise Automation)のブライアン・カーライル(BrianCarlisle)共同創業者CEOのセッションに参加した。
ちなみに氏は筆者が以前に所属していたAdept Technology(現オムロン アデプト テクノロジーズ)の共同創業者であり、そのCEOを20年間務め、同社をロボット販売で1億ドル以上に成長させた立役者である。
セッションでカーライル氏はプリサイス社の製品を含むモバイルロボット全般の将来の方向性を次のように語った。
・ 研究開発、半導体工場、農業、機械搬送、検査、オーダーピッキング、倉庫オートメーションなど、さまざまなロボットのモバイル化が始まった。
プリサイス社では現在、SCARA型(水平多関節型)ロボットアームを搬送車に搭載した協働ロボット75台を研究開発拠点や半導体工場で稼働させている。
・ グリーンハウス内の走行レールに搭載された協働ロボットがトマトの色を検知して収穫するという農業アプリケーションも登場している。
グリーンハウスの農作物はペストコントロールの必要がなく、温度を常に一定に保てるので、1年を通してスーパーマーケット内で生産することができる。
農作物の店内生産が可能となり、真の現地直送が実現するわけである。
・ アーム付きロボットが棚を移動し、注文をピックするという運用も現実化している。
とりわけ薬局におけるオーダーピックのロボットは将来性が高い。
もちろんクリアすべき課題も多くある。
カーライル氏は次のような課題を挙げていた。
・ バッテリーのサイズは移動するプラットフォームの大きさに制約を受けるため電力容量に制限がある。
・ LiDARなどの障害物センサーは走行プラットフォームにしか付いていないのでロボットアームの高さの障害物を検知できない。
・ 走行フラットフォームがオムニ(無指向性)ではないため、位置決め調整などが困難である。
・ ワイヤレス充電が必要 なお、協働ロボットのロボットアーム分野における新たな動きとして、スタンフォード大学でロボット工学を学んだ研究者たちが、「現在のロボットは十分なインテリジェンス、汎用性がなく、ビジネスの変動に調整ができない」という背景から、中国の資本でFlexIVというロボット工学とAIを融合した会社を創立し、最初の適応ロボットとして「Rizon」がリリースされた。
各軸に力センサーを持った7軸の垂直多関節ロボットである。
同マーケットで先行しているデンマークのユニバーサルロボットの競合となる可能性がある。
2025年のロボティクス×AI ロボティクスとAIの風景は2025年に向けどう変わっていくのかというテーマで、「ロボティクス・ビジネス・レビュー」のキース・ショー(Keith Shaw)編集長の司会によるパネルがあった。
パネリストは、グーグルの元ロボティクス責任者であり、現在はトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI-AD)のジェイムズ・カフナー(James Kuffner)CEO。
調査会社STIELER社のゲオルク・フリードリヒ・シュタイラー(Georg Friedrich Stieler)アジア代表。
米ハーモニック・ドライブ・システムズ社のダグ・オルソン(Doug Olson)CEO。
協働ロボットのYork Exponentialのジョン・マクリゴット(John McElligott)CEOの4人である。
それぞれのコメントを紹介する。
●現状について カフナー氏 デモ機を作るのは簡単だが、そこから製品を作るのは大変だ。
今はクラウドで動くように開発している。
シュタイラー氏 10年前はドイツのトップメーカーでさえ買収されるほど景気が悪かった。
今は景気が上向いている。
オルソン氏 小企業や新規参入企業にとっては最悪の時期だが、確立された企業にとっては良い時期。
マクリゴット氏 東海岸の州政府はハブを作るために資金を投入している。
●5年後どうなるか? オルソン氏 期待レベルは高い。
カフナー氏 今はまだ幼年期。
5年ではなく10年後に期待したい。
アルゴリズムや計算力は改善された。
手に入れた情報をいかにオンラインで伝達していくかがカギ。
非常にエキサイティングな未来が待っている。
トヨタではピック(ものをつかむこと)を研究している。
シュタイラー氏 ロボットは人の仕事を奪うのではなく、人の作業を補足するために活用される。
●人に残される役割は何か。
カフナー氏 カーネギーメロン大では80年代にメカ、電気、ソフトウエアを統合するスキルと位置付けてロボット工学博士課程を作った。
これからもどんどん新しい機会が生まれるだろう。
オルソン氏 ロボットを修理するための職業再訓練が一つは考えられる。
シュタイラー氏 子供達にロボットを見せ、教育することは、希望を持って人生を変化させていくことに役立つ。
アメリカの大学生の多くは学生ローンで苦しんでいる。
もっと職業専門学校の道を検討すべきだ。
●グローバル市場におけるアメリカの位置付け シュタイラー氏 中国は驚くほどの成長を実現した。
新しい優良企業が数多く生まれた。
ロボット会社もそこに含まれる。
アメリカは製造業を中国に奪われ、ロボット導入台数でも中国に抜かれた。
インダストリー4・0によって低賃金労働が不要になれば、アメリカに工場が戻ってくるかもしれない。
「中国製造2025」の影響を見極めたい。
マクリゴット氏 高齢化社会となり、低賃金労働者はいなくなる。
コネクテットロボットによって工場を材料に近い所に置くことになる。
現在、新工場を過疎地に作っている。
人の介在をあまり必要としないので、工場はどこにでも作れるというということを実証したい。
AIは世界中の過疎地問題の解決につながる。
●協働ロボットの将来は? シュタイラー氏 もっと安全になる必要はあるが、倍に増えるだろう。
オルソン氏 通常の産業ロボットの年成長率12%に対して協働ロボットは28%と言われている。
シュタイラー氏 協働よりもスピードの方が大事。
カフナー氏 無人自動車よりも空飛ぶ自動車の方が早く展開するだろう。
ラストマイルデリバリーにはロボットが必要だ。
ピッチファイヤーのトップ3 今年もロボビジネスの人気イベント「ピッチファイヤー」が行われた。
スタートアップ各社が限られた時間内に自社製品とビジネスモデルをアピールするピッチコンテストだ。
優勝賞金は5千ドルだが、投資家たちとビジネスプランや経営戦略を相談する機会を得たり、メディア露出などのメリットがある。
今年は7社の発表があった。
年々、発表者の製品レベルは上がっているようだ。
今回1位を獲得したTombot社。
(tombot.com)は、認知症に苦しむ高齢者の生活支援を目的に、感情的な愛着オブジェクトとして機能するロボット介助動物を開発している。
CEOの母親がアルツハイマー病を発症したことが開発のきっかけという。
2位は2018年に創業したばかりのDusty Robotics社(www.dustyrobotics.com)だ。
建設現場のマッピング用測量ロボットを開発している。
CADでレイアウトを作成する人手の不足に対応したものだ。
建設現場をロボットが自律的に動き回って進行中のレイアウトにマーキングを行うことで、常に最新の状態が反映されていることを保証する。
創業者のテッサ・ラウ(Tessa Lau)CEOとフィリップ・ハーガート(Phillip Hergert)CTOの2人は、ホテル内の配送ロボットで有名となったSavioke社(サビオケ)出身。
ラウ博士はサビオケの元CTO、ハーガートはリードエンジニアであった。
自律走行ロボットの経験者による建築現場用のレイアウト作りということで、大いに期待されている。
3位は3PLの拠点や食品工場、家具工場などで大型荷物を牽引するロボットを開発したAnantakRobotics社(https://www.anantak.com)が獲得した。
なお、物流ロボットそのものは既に珍しいものではなくなっているため、展示も控え目になっている。
フェッチ・ロボティクス社(FetchRobotics,Inc.)はパネルブースのみ。
本体の展示はローカス・ロボティクス社(Locus Robotics)の「Locus Bot」やウェイポイントロボティックス(Way point Robotics)の無指向性車両ぐらいであった。
一方、アームロボットは大手のABBをはじめ、先のPreciseRoboticsによる6軸スカラ型ロボットの新製品「UniversalRobots」に加え、今回デビューとなったFlexIVの「Rizon」が注目を浴びていた。
またフロアにはテレプレゼンス・ロボットやテクメティック社(Techmetics)のコンシェルジュ・ロボットたちが歩き回っていた。
ロボットビジネスブーム 昨年は、展示会オープン前日にビッグデータのセミナーがあったが、今回はロボティックス・スタートアップ用のブートキャンプが開催された。
いわゆる起業セミナーであり、資金を見つける方法から、短期的および長期的な市場分析などについての解説があった。
2018年現在、約4千カ所の倉庫にロボットが導入されている。
それが2025年までに約5万カ所まで増加して、400万台以上のロボットが稼働するようになると予測されている。
またGrand View Researchの新しいレポートによると、AMRの世界市場規模は2025年までに72・8億米ドルに達すると予想されている。
最近、グローバルなECプラットフォームを運営するカナダShopifyが、マサチューセッツ州ウォルサムに本拠を置く倉庫ロボットのスタートアップ、6RiverSystemsを4億5000万ドルで買収するとの発表があった。
新しいフルフィルメントセンターシステムでロジスティクスを改善することが目的という。
これは2012年にアマゾンが7・75億ドルでキバ社を買収した構図に似ている。
本レポートでも見てきたように物流倉庫における自動化はこれから益々進展する。
さまざまな形態の物流ロボットが開発され、導入されていくであろう。
一つの倉庫内で使われるロボットや機器の数も当然ながら増えていく。
そのため通信においてはWi−Fiだけでなく5Gが非常に重要な要素になってくる。
インダストリー4・0のコンセプトに基づきコネクトされたIoTのデータを混雑することなく処理できるかという課題と直面する。
それでもロボットの増加は止まらない。
それはロボットと協働する人間にも新たな課題を突き付ける。
ロボットを活用してより生産性を向上させるための知識を深める必要が急務である。
そのことを強く感じた今年のカンファレンスであった。
大学における研究成果の報告や、パーソナルロボット、産業ロボット、物流ロボット等が数多く展示され、広範囲にわたるテーマの講演やワークショップが開催される。
ロボットビジネス関係者には参加必須のイベントとなっている。
2019年の大会は10月1日〜3日に「サンタクララ・コンベンションセンター」で開催された。
五つの基調講演の他、「ロボット産業」「テクノロジー」「イノベーション」そして「チーフ・ロボティクス・オフィサー・サミット」を二つに分けた計五つのセミナートラックが設けられ、同時進行でセミナーが行われた。
本稿では筆者が参加した基調講演やセミナーの概要、会場の様子を紹介する。
4年前の「ロボビジネス2015」でシンギュラリティー(技術的特異点)に関する著述で知られるレイ・カーツワイル(RayKurzweil)氏がAIに関する基調講演を行って以降、毎年、AIがロボティクスの主要テーマとして取り上げられている。
AIとロボットの融合がその焦点であり、今年は「AIを介した協働ロボティクス」が大会全体のテーマであった。
最初の基調講演は、カーネギーメロン大のロボット工学の教授であり、BioroboticsLabの共同ディレクターおよびRoboticsMajorのディレクターを務めるハウィー・チョセット教授(Howie Choset)による「AIによる救助:製造業における高度なロボット工学の未来(AI to the Rescue: The Future of Advanced Robotics in Manufacturing)」であった。
彼が取り上げたのは以下の問題である。
すなわち、アメリカのものづくりがアジアやヨーロッパに立ち後れた理由、その遅れを取り戻し逆転するために必要な措置、われわれアメリカが今どこにいてどこに行くのかを誰も予測できない原因、そしてロボットの民主化は産業をどのように変えるのか、である。
それを解説するために彼はNASA(アメリカ航空宇宙局)が1989年に定義した「TRL(Technology readiness levels:技術成熟度レベル)」という概念を用いた。
いわく、大学や研究機関における活動の対象は「Level1−基礎理論の着想段階」「Level2−技術要素の適応、応用範囲の明確化」であり、産業においては「Level7−システムとしての技術成立性の確認」「Level8−システムの運用テスト、認証試験」「Level9−最終段階、実運用」である。
それに対してレベル3〜6はアメリカにとって、いわば“死の谷”である。
大学での基礎研究やそこで生まれたアイデアを起業家がビジネスへとつなぐためには、投資を得て「Level3−技術実証のデモンストレーション(Proof of Concept)」「Level4−ラボレベルでの実証」「Level5−シミュレート及び実空間での実証」そして「Level6=システムとしての技術成立性の確認」を行う必要がある。
彼の目指す高度ロボット製造のゴールは、労働者に力を与え、能力の民主化を促し、雇用を創出し、アメリカのリーダーシップを取り戻すことである。
現在、アメリカの製造業は小規模工場が全体の98・6%を占めている。
従業員20名以下の企業が75・3%である。
彼らに力を与えることでアメリカ全体の生産効率を高めることができる。
その昔、コンピューターは大型かつ高価であり大企業しか所有できなかった。
それが今や中小企業はもちろん一般家庭にもパソコンがある。
同じように小規模工場にもロボットは必要であり、使いやすい値段の手頃なロボットが求められている。
ところが国別のロボットの導入数は1位が中国で13万8千台、2位の日本が4万5566台、3位が韓国の4万1373台であり、アメリカは3万3192台にすぎない(2017年)。
なぜアメリカは死の谷を越えることができないのか──それはラボで機能する研究を現実の世界に移行する方法を確立するためのコンセンサスを取る方法や手法がないからである。
また実際にコミュニティは科学的な方法に従っていない──そうチョセット教授はコメントし、「われわれは本当に適切な問題を解決しようとしているだろうか?」という問い掛けで講演を締め括った。
コンピュータービジョンとAI 米パロアルト研究所(Palo Alto Research Center:PARC)のマーカス・ラーソン(Markus Larsson)グローバルビジネス開発担当副社長によるコンピュータービジョンの講演があった。
コンピュータービジョンの最近の代表的なアプリケーションは顔認識、自律運転そしてロボットのピッキングのための画像認識である。
PARCは、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の依頼を受けて顔認証および分析を画像処理で行う「OLAYスキンアドバイザー」を2016年にリリースしている。
「OLAY」はP&Gの化粧品ブランドの一つ。
顧客がスマートフォンなどで自撮りした写真をアップすると、AIが分析して皮膚年齢スコアを出力する。
皮膚の老化に関する大量の画像データを基に深層学習を行いシステムを作り上げた。
深層学習の結果を顧客に提供して、自分の肌に合ったスキンケア製品を提案するというビジネスモデルである。
これによってOLAYの通販サイトへのコンバージョン比率はそれまでの約2倍になり、売り上げが約40%増えたという。
物流ロボットの普及速度 ロンドンのInteract Analysisのアッシュ・シャーマ(Ash Sharma)リサーチディレクターによる物流ロボットの動向調査報告があった。
氏は5カ月間にわたって60社以上の企業を調査およびインタビューしたという。
その骨子は以下の通りである。
・ 倉庫作業員の人手不足、より速くより安い配達を求める消費者の要求、人件費の上昇、eコマースの拡大、オムニチャネルの急増、そして購買・返品習慣の変化によって物流ロボットの必要性が急激に高まっている。
・ 5兆ドル産業のロジスティクス業界がロボティクスに揺れている。
モバイルロボットの100近いベンダーの多くが物流に焦点を当てている。
2023年にモバイルロボットは60億ドル市場になると予測される。
倉庫オートメーション市場は23年には300億ドルを超える。
そのうち7億ドルがAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)/AMR(Autonomous Mobile Robot:協働型自律移動ロボット)である。
・ モバイルロボットをイノベーター理論の四つのフェーズに当てはめると、現状はまだ幼年期にあり、現在のユーザーは「イノベーター」に区分される。
これから「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」と導入が広がっていく。
・ 倉庫ロボティクスで先行したのは2012年にアマゾンに買収されたキバ・システム(Kiva Systems)である。
・ オーダーフルフィルメントのロボットは「PTG(Person-to-goods)」「GTP(Goods-to-person」(Kivaタイプ)「アーム付き走行ロボット」「ソーター」の4種類に分けられる。
・ 現在までにアマゾンは20万台のロボットを導入している。
・ 物流ロボットの活用におけるアマゾンのリーダーシップは今後も続く。
しかし、2022年にはその他大勢の利用台数がアマゾンを超えるという予測がある。
アマゾンに労働人材を取られているために、その他大勢のロボット化が加速しているとも言える。
・ 米ウォルマートや米ターゲットの物流設備投資は、ロボットを使ったシステムの購入にシフトしつつある。
人手不足により、オーダーピッキングだけでなく、フォーク、牽引、パレット搬送などにもロボットが活用される。
・ 現在は物流作業の2%ぐらいしか自動化されていない。
モバイルロボットの将来 筆者のイノベーション・マトリックスが取り扱っている協働ロボットメーカー、米プリサイス・オートメーション(Precise Automation)のブライアン・カーライル(BrianCarlisle)共同創業者CEOのセッションに参加した。
ちなみに氏は筆者が以前に所属していたAdept Technology(現オムロン アデプト テクノロジーズ)の共同創業者であり、そのCEOを20年間務め、同社をロボット販売で1億ドル以上に成長させた立役者である。
セッションでカーライル氏はプリサイス社の製品を含むモバイルロボット全般の将来の方向性を次のように語った。
・ 研究開発、半導体工場、農業、機械搬送、検査、オーダーピッキング、倉庫オートメーションなど、さまざまなロボットのモバイル化が始まった。
プリサイス社では現在、SCARA型(水平多関節型)ロボットアームを搬送車に搭載した協働ロボット75台を研究開発拠点や半導体工場で稼働させている。
・ グリーンハウス内の走行レールに搭載された協働ロボットがトマトの色を検知して収穫するという農業アプリケーションも登場している。
グリーンハウスの農作物はペストコントロールの必要がなく、温度を常に一定に保てるので、1年を通してスーパーマーケット内で生産することができる。
農作物の店内生産が可能となり、真の現地直送が実現するわけである。
・ アーム付きロボットが棚を移動し、注文をピックするという運用も現実化している。
とりわけ薬局におけるオーダーピックのロボットは将来性が高い。
もちろんクリアすべき課題も多くある。
カーライル氏は次のような課題を挙げていた。
・ バッテリーのサイズは移動するプラットフォームの大きさに制約を受けるため電力容量に制限がある。
・ LiDARなどの障害物センサーは走行プラットフォームにしか付いていないのでロボットアームの高さの障害物を検知できない。
・ 走行フラットフォームがオムニ(無指向性)ではないため、位置決め調整などが困難である。
・ ワイヤレス充電が必要 なお、協働ロボットのロボットアーム分野における新たな動きとして、スタンフォード大学でロボット工学を学んだ研究者たちが、「現在のロボットは十分なインテリジェンス、汎用性がなく、ビジネスの変動に調整ができない」という背景から、中国の資本でFlexIVというロボット工学とAIを融合した会社を創立し、最初の適応ロボットとして「Rizon」がリリースされた。
各軸に力センサーを持った7軸の垂直多関節ロボットである。
同マーケットで先行しているデンマークのユニバーサルロボットの競合となる可能性がある。
2025年のロボティクス×AI ロボティクスとAIの風景は2025年に向けどう変わっていくのかというテーマで、「ロボティクス・ビジネス・レビュー」のキース・ショー(Keith Shaw)編集長の司会によるパネルがあった。
パネリストは、グーグルの元ロボティクス責任者であり、現在はトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI-AD)のジェイムズ・カフナー(James Kuffner)CEO。
調査会社STIELER社のゲオルク・フリードリヒ・シュタイラー(Georg Friedrich Stieler)アジア代表。
米ハーモニック・ドライブ・システムズ社のダグ・オルソン(Doug Olson)CEO。
協働ロボットのYork Exponentialのジョン・マクリゴット(John McElligott)CEOの4人である。
それぞれのコメントを紹介する。
●現状について カフナー氏 デモ機を作るのは簡単だが、そこから製品を作るのは大変だ。
今はクラウドで動くように開発している。
シュタイラー氏 10年前はドイツのトップメーカーでさえ買収されるほど景気が悪かった。
今は景気が上向いている。
オルソン氏 小企業や新規参入企業にとっては最悪の時期だが、確立された企業にとっては良い時期。
マクリゴット氏 東海岸の州政府はハブを作るために資金を投入している。
●5年後どうなるか? オルソン氏 期待レベルは高い。
カフナー氏 今はまだ幼年期。
5年ではなく10年後に期待したい。
アルゴリズムや計算力は改善された。
手に入れた情報をいかにオンラインで伝達していくかがカギ。
非常にエキサイティングな未来が待っている。
トヨタではピック(ものをつかむこと)を研究している。
シュタイラー氏 ロボットは人の仕事を奪うのではなく、人の作業を補足するために活用される。
●人に残される役割は何か。
カフナー氏 カーネギーメロン大では80年代にメカ、電気、ソフトウエアを統合するスキルと位置付けてロボット工学博士課程を作った。
これからもどんどん新しい機会が生まれるだろう。
オルソン氏 ロボットを修理するための職業再訓練が一つは考えられる。
シュタイラー氏 子供達にロボットを見せ、教育することは、希望を持って人生を変化させていくことに役立つ。
アメリカの大学生の多くは学生ローンで苦しんでいる。
もっと職業専門学校の道を検討すべきだ。
●グローバル市場におけるアメリカの位置付け シュタイラー氏 中国は驚くほどの成長を実現した。
新しい優良企業が数多く生まれた。
ロボット会社もそこに含まれる。
アメリカは製造業を中国に奪われ、ロボット導入台数でも中国に抜かれた。
インダストリー4・0によって低賃金労働が不要になれば、アメリカに工場が戻ってくるかもしれない。
「中国製造2025」の影響を見極めたい。
マクリゴット氏 高齢化社会となり、低賃金労働者はいなくなる。
コネクテットロボットによって工場を材料に近い所に置くことになる。
現在、新工場を過疎地に作っている。
人の介在をあまり必要としないので、工場はどこにでも作れるというということを実証したい。
AIは世界中の過疎地問題の解決につながる。
●協働ロボットの将来は? シュタイラー氏 もっと安全になる必要はあるが、倍に増えるだろう。
オルソン氏 通常の産業ロボットの年成長率12%に対して協働ロボットは28%と言われている。
シュタイラー氏 協働よりもスピードの方が大事。
カフナー氏 無人自動車よりも空飛ぶ自動車の方が早く展開するだろう。
ラストマイルデリバリーにはロボットが必要だ。
ピッチファイヤーのトップ3 今年もロボビジネスの人気イベント「ピッチファイヤー」が行われた。
スタートアップ各社が限られた時間内に自社製品とビジネスモデルをアピールするピッチコンテストだ。
優勝賞金は5千ドルだが、投資家たちとビジネスプランや経営戦略を相談する機会を得たり、メディア露出などのメリットがある。
今年は7社の発表があった。
年々、発表者の製品レベルは上がっているようだ。
今回1位を獲得したTombot社。
(tombot.com)は、認知症に苦しむ高齢者の生活支援を目的に、感情的な愛着オブジェクトとして機能するロボット介助動物を開発している。
CEOの母親がアルツハイマー病を発症したことが開発のきっかけという。
2位は2018年に創業したばかりのDusty Robotics社(www.dustyrobotics.com)だ。
建設現場のマッピング用測量ロボットを開発している。
CADでレイアウトを作成する人手の不足に対応したものだ。
建設現場をロボットが自律的に動き回って進行中のレイアウトにマーキングを行うことで、常に最新の状態が反映されていることを保証する。
創業者のテッサ・ラウ(Tessa Lau)CEOとフィリップ・ハーガート(Phillip Hergert)CTOの2人は、ホテル内の配送ロボットで有名となったSavioke社(サビオケ)出身。
ラウ博士はサビオケの元CTO、ハーガートはリードエンジニアであった。
自律走行ロボットの経験者による建築現場用のレイアウト作りということで、大いに期待されている。
3位は3PLの拠点や食品工場、家具工場などで大型荷物を牽引するロボットを開発したAnantakRobotics社(https://www.anantak.com)が獲得した。
なお、物流ロボットそのものは既に珍しいものではなくなっているため、展示も控え目になっている。
フェッチ・ロボティクス社(FetchRobotics,Inc.)はパネルブースのみ。
本体の展示はローカス・ロボティクス社(Locus Robotics)の「Locus Bot」やウェイポイントロボティックス(Way point Robotics)の無指向性車両ぐらいであった。
一方、アームロボットは大手のABBをはじめ、先のPreciseRoboticsによる6軸スカラ型ロボットの新製品「UniversalRobots」に加え、今回デビューとなったFlexIVの「Rizon」が注目を浴びていた。
またフロアにはテレプレゼンス・ロボットやテクメティック社(Techmetics)のコンシェルジュ・ロボットたちが歩き回っていた。
ロボットビジネスブーム 昨年は、展示会オープン前日にビッグデータのセミナーがあったが、今回はロボティックス・スタートアップ用のブートキャンプが開催された。
いわゆる起業セミナーであり、資金を見つける方法から、短期的および長期的な市場分析などについての解説があった。
2018年現在、約4千カ所の倉庫にロボットが導入されている。
それが2025年までに約5万カ所まで増加して、400万台以上のロボットが稼働するようになると予測されている。
またGrand View Researchの新しいレポートによると、AMRの世界市場規模は2025年までに72・8億米ドルに達すると予想されている。
最近、グローバルなECプラットフォームを運営するカナダShopifyが、マサチューセッツ州ウォルサムに本拠を置く倉庫ロボットのスタートアップ、6RiverSystemsを4億5000万ドルで買収するとの発表があった。
新しいフルフィルメントセンターシステムでロジスティクスを改善することが目的という。
これは2012年にアマゾンが7・75億ドルでキバ社を買収した構図に似ている。
本レポートでも見てきたように物流倉庫における自動化はこれから益々進展する。
さまざまな形態の物流ロボットが開発され、導入されていくであろう。
一つの倉庫内で使われるロボットや機器の数も当然ながら増えていく。
そのため通信においてはWi−Fiだけでなく5Gが非常に重要な要素になってくる。
インダストリー4・0のコンセプトに基づきコネクトされたIoTのデータを混雑することなく処理できるかという課題と直面する。
それでもロボットの増加は止まらない。
それはロボットと協働する人間にも新たな課題を突き付ける。
ロボットを活用してより生産性を向上させるための知識を深める必要が急務である。
そのことを強く感じた今年のカンファレンスであった。
