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2005年2月号
特集

在庫削減はどこまできたか 日本の在庫が減ってきた

FEBRUARY 2005 6在庫循環の終わりこのたび本誌は上場メ カ 約一一〇〇社の連結財務諸表を元に在庫回転率の推移を調査した 九頁 調査の方法 参照 過去にも本誌は上場メ カ の在庫調査を二度 実施している 二〇〇二年二月号では過去一〇期分にわたる単独決算の財務諸表を分析し 九〇年代の一〇年間で日本企業の在庫回転率がどのように推移したのかを表した また二〇〇四年二月号では連結・単独双方の過去三期分を対象にして二〇〇〇年以降の在庫の推移を算出した ロジステ クス経営によ て 日本企業の在庫回転率は向上した そんな仮説を検証することが過去の調査の目的だ た しかし結果としては いずれの調査においてもその証拠は見出せなか た 在庫削減の掛け声とは裏腹に 財務諸表上には全く成果が現れていなか た ところが連結決算の直近七期分を対象にした今回の調査では 在庫回転率が継続的に改善する傾向を見せている 合計の在庫回転率は九九年度の六・五四から二〇〇四年度の八・三まで 前回の景気の谷とされる二〇〇二年度に若干悪化したものの 基本的に右肩上がりで推移している 図1 景気の判断材料の一つとされる マクロ的な在庫循環にも異変が起きている 図2は経済産業省が作成した日本の在庫循環図だ 景気の変動に伴 て 在庫は 在庫調整 → 意図せざる在庫減 → 在庫積み増し → 意図せざる在庫増 というサイクルを描く 縦軸に在庫水準 横軸に生産量をと た循環図を従来は三年から三年半で一回転するというのが通常のパタ ンだ た ところが現在の日本の在庫動向は 二〇〇二年の第三・四半期以降 二年間にわたり 在庫積み増し 局面で足踏みを続けている 売特 集  日本の在庫が減ってきたロジスティクス改革の成果が財務諸表に現れ出した。
しかし取り組みは、まだ社内レベルにとどまっている。
一企業の枠を超えたSCMには今のところ成功事例が見当たらない。
欧米のソリューションの導入は、ことごとく失敗に終わった。
日本型モデルの構築が必要だ。
そこでは改めて在庫を持つことの意味が問い直されることになる。
(大矢昌浩)解説 1 7 FEBRUARY 2005り上げの伸びに比べ 生産量を抑えているため 在庫が増えない 作り溜めを避け 意図せざる在庫増 に陥るのを踏みとどま ている格好だ 在庫量を抑えれば キ シ フロ に余裕が生まれる その分 借金を返して資産を減らせば 例え利益が横這いであ たとしてもROA 総資産事業利益率 は向上する 浮いたキ シ を収益性の期待できる投資に振り分けて利益自体を増やすことも望める 本誌の調査でも在庫回転率の向上とROA 総資産事業利益率 は連動している 日本企業のROAが 欧米はもちろん他のアジア諸国の企業と比較しても低いレベルにあることは既に広く認識されている 同じことが在庫回転率についても当てはまる 物流の多頻度小口化が進んだ日本は少ない在庫でサプライチ ンを回しているという俗説は事実と異なる 企業の財務諸表を見る限り 日本の抱える在庫は欧米より格段に多い 本誌二〇〇三年二月号参照 今回の調査結果からは そんな日本企業の弱点が克服されつつあるように見える もちろん今後 景気が後退局面に入れば 利益の減少によるROAの悪化は避けられないだろう しかし その場合でも在庫の棄却損や維持コストが低く抑えられれば改革の成果はあ たと言える 一橋大学大学院の安田隆二教授は 業種によ て温度差はあるものの 日本の大手企業の社内改革は今や峠を越えた という 日本企業のロジステ クス管理は新たなフ ズに入る 取引先を巻き込んだSCMの実践が次のテ マだ もともと日本の個別企業の管理レベルは欧米の先進企業と比較しても遜色はないと言われる ところがサプライチ ン全体という視点になると途端に非効率が目立 てくる それだけに取引先との協働 コラ在庫積み上がり局面 在庫積み増し局面 在庫調整局面 意図せざる在庫減局面 生産前年同期比(%) 出典:経済産業省「産業活動分析」 在庫前年同期末比 %  20 15 10 5 0 − 5 − 10 − 15 − 20 −20  20151050− 5− 10− 15H12年第4傾向変動除去前 傾向変動除去後 1998年度  1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 1998年度  1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度■棚卸資産回転期間(カ月)業種別一覧 図1 日本メーカーの在庫回転率とROAは5期連続で改善している(1108社と業種別の合計値の推移) 図2 日本の鉱工業在庫循環図 ■総資産事業利益率=ROA(%)業種別一覧 H16年 第219991998 2000 2001 2002 200319991998 2000 2001 2002 20039876543210回転率 回転 ROA %  売上 兆円 在庫 兆円  回転期間 カ月  ■在庫回転率&ROA(同左) ■売上高&在庫&回転期間(1108社合計) 300250200150100500全 業 種 合 計  食 品  繊 維 製 品  パ ル プ ・ 紙  化 学  医 薬 品  石 油・石 炭 製 品  ゴ ム 製 品  ガラス・土石製品 鉄 鋼  非 鉄 金 属  金 属 製 品  機 械  電 気 機 器  輸 送 用 機 器  精 密 機 器  そ の 他 製 品  1.83 1.71 1.64 1.67 1.53 1.450.93 0.91 0.91 0.92 0.93 0.912.24 2.18 2.06 2.07 2.02 1.931.56 1.37 1.30 1.37 1.30 1.291.67 1.60 1.62 1.70 1.63 1.541.72 1.66 1.62 1.59 1.58 1.531.23 1.05 1.09 1.13 1.16 1.231.64 1.62 1.68 1.69 1.57 1.552.01 1.76 1.67 1.84 1.77 1.672.84 2.63 2.47 2.70 2.47 2.302.02 1.93 1.85 2.04 1.93 1.741.62 1.52 1.54 1.60 1.53 1.453.84 3.73 3.22 3.19 2.98 2.762.07 1.89 1.79 1.89 1.63 1.501.17 1.10 1.08 1.06 1.00 0.983.00 2.81 2.73 2.92 2.73 2.501.29 1.21 1.18 1.17 1.18 1.133.86 4.31 5.22 3.38 4.92 5.835.32 5.67 4.88 4.43 4.99 5.762.59 3.10 3.87 2.94 3.63 4.541.03 2.00 4.41 2.37 3.11 4.164.55 5.40 5.76 4.32 5.52 6.0410.57 11.10 10.38 11.17 11.92 12.371.49 1.33 2.65 2.44 3.09 2.438.22 9.04 7.27 5.05 7.22 7.482.71 3.22 4.88 2.25 3.38 4.411.44 2.42 4.11 1.39 3.24 5.232.40 3.04 5.22 1.74 1.74 3.632.04 3.32 3.37 2.15 3.18 4.183.07 2.87 4.37 2.72 3.57 4.593.08 3.99 5.65 0.91 3.45 4.624.83 4.33 4.70 5.92 7.21 7.655.03 5.79 7.25 4.90 6.74 8.185.48 5.69 5.32 5.47 5.90 6.76(年度) (年度) 6.54 7.017.31 7.20 7.828.303.864.315.223.384.925.83回転率 ROA1.83 1.71 1.64 1.67 1.531.452.001.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00売上高(兆円) 棚卸資産(兆円) 棚卸回転期間  FEBRUARY 2005 8ボレ シ ン によ て 日本市場のサプライチ ンが効率化されれば その効果は欧米以上に大きい ただし日本企業はこれまで欧米で開発されたSCMソリ シ ンの導入に ことごとく失敗している 例えばECR EfficientConsumerResponse:効率的な消費者対応 メ カ と流通業者が連携してサプライチ ンの全体最適化を進めようというSCMのスキ ムだ 九三年に米国のグロ サリ 業界を中心に始まり その後 約四〇の先進諸国に活動が拡が ている 日本では九七年に当時の堀紘一代表率いるボストン・コンサルテ ング・グル プ BCG が ECRニ ポン を旗揚げした 国内大手メ カ と有力流通業者 約五〇社が参加 巨額の開発費を投じて業種業態を超えたロジステ クスのコラボレ シ ンが企画された しかし活動開始から一年を待たずしてプロジ クトは頓挫してしま た 事前調査が進み 具体的な取り組み内容が明らかにな てくるのに伴い まず大手量販店が脱会 それに引きずられる形でプロジ クトから離脱するメ カ や卸が後を絶たない 最後は運営事務局を務めたBCGが コラボレ シ ンによ て効果が得られるだけのボリ ムを確保できないと判断し 約九カ月間の活動に幕を閉じた 日本でもサプライチ ンの全体最適化という総論では意見が一致するものの ライバルとの標準化や共同化が俎上にあがる各論では反対意見が続出する 改革のリスクと報酬を取引先と分け合う成果配分や情報共有への疑心暗鬼も根強い 結局 各社の足並みが揃わなか た 先進国の中でECRの推進団体を持たないのは現在 日本だけだ SCMの基本的な施策との一つされるベンダ 小売間の自動補充も日本には定着していない IBMは二〇〇三年に CRP ContinuousReplenishmentProgram:連続自動補充方式 と呼ぶベンダ 小売り間の自動在庫補充プログラムの運用を 日本国内に限り打ち切 た 欧米では現在も多くの企業がCRPを活用している しかも その取り組みは単なるトランザクシ ンの自動化を超えて 需要予測や販売計画自体をメ カ と小売りで連携するCPFR CollaborativePlanningForecastingandReplenishment にまで発展している ところが日本では それが機能しなか た と 日本IBMの久保田和孝オンデマンド・ビジネス営業推進部長はいう 平和堂モデルの教訓CRPはメ カ や卸などのベンダ と小売り間の受発注自体をやめることで ムダなコストを省き 在庫を減らす さらにはサプライチ ンという視点では全く価値を生んでいない取引先同士の駆け引きをなくすことを狙いとしている もともとはP&Gが九〇年代初頭にウ ルマ トへの納品を自動化するために開発したもので その後 IBMに運用が委託され 九三年から同社がグロ バルにソリ シ ンを展開している 日本では九七年四月に滋賀県を地盤とする中堅ス パ の平和堂向けの納品で 加工食品メ カ 四社がCRPを導入 当初は欠品率の改善やセンタ 在庫の大幅な削減が報告され ピ ク時には加工食品と日用雑貨の有力メ カ 計二〇数社にまで導入が拡が た しかしIBMがサ ビスを中止したのを最後に 平和堂のプロジ クトも事実上 活動を停止した 現在はIBMのサ ビス提供を受けずに従来から自社システムで自動補充を行 てきた数社が運用を続けて日本IBMの久保田和孝オンデマンド・ビジネス営業推進部長図5 平和堂はCRPを活用して独自のモデルを目指した 工  場 工場直送・翌日納品 工場直送・翌日納品 CRPCRP翌日納品 翌日納品 工  場 工  場 高回転商品 中回転商品 低回転商品 店  舗 店  舗 店  舗 通過型専用センタ  メーカー 在庫 (専用) 卸在庫 (汎用)   株式を公開している日本企業のうち製造業を対象にした。
各社の棚卸資産回転期間(カ月)は、有価証券報告書に記載されている棚卸資産の各項目(部品・製品、半製品・仕掛品、原材料・貯蔵品など)を合算し、期首期末平均値を同期の月平均売上高で割ることで算出した。
ROA(総資産事業利益率:%)は当該期の事業利益を期首期末平均総資産で割って算出した。
  データは2004年3月期を最新として過去7期にわたるものを使用し、掲載企業は全1122社。
7期以内に決算期変更などがあった企業もそのまま一覧表に掲載し、変則決算だった期を欄外に明記した。
本特集では近年の製造業者の在庫動向の推移を連結決算ベースで俯瞰することを主眼としたため、連結決算データが過去7期分入手できない企業については掲載対象から除外。
また、各業種別もしくは全業種の集計値を算出するときには、異常値を排するため12カ月分の決算データが7期分揃った1108社を対象とした。
このため一覧表の各社の売上高を単純に合算しても集計値とは若干の差違が出る。
  データの入手には東洋経済新報社の「会社財務カルテ」を活用。
業種の分類も同社の分類に準拠した。
社名は一部、略称を使用している。
一覧表の掲載順は各業種ごとに最新期の連結売上高の大きい順とし、各社に掲載番号を付けることによって50音順の索引から検索できるよう配慮した。
 調査の方法  9 FEBRUARY 2005いるだけだ プロジ クトの中断に対してメンバ からは残念だという感想こそあ ても 強い反対の声はなか たという メ カ 側でも 足 が出ていたからだ CRPの導入に伴い メ カ には納品先の在庫を管理する 在庫アナリスト と呼ばれる担当者が必要になる そのコストを吸収し また販売動向を生産計画に反映させて在庫水準を下げるには 取引のボリ ムが必要だ 実際 欧米のメ カ は売り上げ全体の三〇 四〇%をCRPで処理できている しかし日本ではイオンやイト ヨ カ堂クラスでもメ カ 側の売り上げに占めるシ アは数%に過ぎない 平和堂専用センタ の在庫がいくら減 ても メ カ 側のト タル在庫を左右するほどのインパクトにはなり得ない 実際には在庫アナリストの人件費とシステム運用費で持ち出しが発生していた CRPの導入によ て直接的なメリ トを受けるのは本来 小売業者だ 自社の在庫が減る 発注業務に人手をかけずに済むようになる それだけ店頭の販売活動にリソ スを集中できる ところが日本の場合 もともと小売りは在庫リスクを負 ていない しかも大企業同士の取引にも常に卸が介在する 欧米とはサプライチ ンの構造が違う 在庫削減が利益も削る企業内で完結する取り組みならともかく SCMの領域では欧米のソリ シ ンをそのまま日本に持ち込んでも機能しない そんな教訓からIBMは欧米モデルの導入に見切りをつけ 日本ではメ カ ・卸・小売りの三層から成るサプライチ ンを前提とした 卸の発注精度向上などに照準を切り替えた そこでは ITの問題よりも むしろ意思決定の支援が課題になる と久保田部長は説明する 在庫投資は卸にと て最大の意思決定案件だとい ていい メ カ と小売りの板挟みに合う形で 日本では卸が在庫リスクと発注業務を負担している 卸の所有できるト タルの在庫金額は資金力によ て制約される その範囲でどの商品をどれだけ持つか それによ て卸の収益性の大枠が決まる しかし 日本型の自動補充システムを展開するシ コムスの関口壽一代表は 利益を最大化する在庫の持ち方が分か ている卸など 実際にはほとんどない という それを判断する基準となる商品別の利益が把握できていない いきおい卸は売れ筋をできる限り大量に確保するという行動に出る それによ て顧客からの評価も得られる 単品別の利益率を把握していないのは小売りも同じだからだ 売れ筋に対してB C商品の管理は疎かになりがちだ 欠品が発生しても全体に占める割合が小さいので黙認されてしまう ところが 実際に中堅チ ンストアの商品別の利益率を調べてみたところ 大量に販売している売れ筋商品は価格競争が激しく ほとんどが赤字にな ていた 逆に 死に筋 や 見せ筋 と呼ばれて軽視されている商品で大部分の利益を上げていることが分か た と関口代表は証言する つまり売れない商品こそ 欠品の許されない戦略商品だ たのだ 売れ筋をできるだけ多く確保することが 必ずしも利益を最大化するとは限らない 在庫管理の目的は売れ筋の確保でも削減でもない 最適化だ 適正水準を無視した在庫削減は 財務諸表の棚卸資産だけでなく利益まで削減する 欧米モデルとは異なる日本型サプライチ ンを構築するために 日本企業は改めて在庫を誰が持つべきか そして在庫を持つことの意味を問い直す必要ある 特集 シーコムスの関口壽一代表

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