2004年6月号
特集
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ロジスティクスの手引き 米SCC報告「RFIDワークショップ」
JUNE 2004 36
二〇〇四年三月二九日から三一日にかけて米国シ
カゴでSCCの年次総会『Supply Chain World
North America
』が開催された。
その最終日、SC C本部内に設立された専門グループのひとつ 「 Consumer Products and Retail Special Industry Group (以後、リテールSIG)」が、RFIDに関 するワークショップを開催した。
ワークショップには、世界のSCC会員約四〇人が 出席、日本からは日本支部チェアマンを務めるNEC の大石高至氏とバイスチェアマンの小生の二人が参加 した。
内容はSCCのコアメンバーであるコンサルテ ィング会社PRTM社によるRFID調査結果の発 表とプレゼンテーション、その後ディズニー、トイザ らス、マコーミック等の出席者によるディスカッショ ンが行われた。
討議内容を次の通り要約し報告する。
RFID調査結果の発表 リテールSIGでは、ワークショップ開催の約三週 間前にSCC会員のほか「RILA(Retail Industry Leaders Association )」や「VICS(Voluntary Industry Commerce Standard )」などの米国内の業 界団体に所属する企業のディレクターおよびマネジャ ーを対象に、RFIDに関する非公式調査を行った。
主な調査結果は、以下の通りである。
Q1『将来RFIDを導入する計画があるか?』 A 二二%が二〇〇五年までに導入、三三%が 二〇〇五年以降に導入すると回答。
その一方で 四四%が、まだ未計画と回答。
Q2『RFIDタグは、業界を変革することになると 思うか?』 A 多数が肯定的な回答をし、特に二〇〇六年 以降に変革が訪れるだろうと回答。
Q3『RFIDタグを導入する際、障害となるものは 何か?』 A 社内におけるテクノロジーやプロセスなど の準備不足、業界における共通のプロセスやメ トリックスなどの欠如、導入における成果や投 資対効果などが不明確といった点が、主な障害 である。
PRTMのプレゼンテーション コンサルティング会社、PRTMのGreg Chiasson 氏が、『RFID Technology and Value Drivers 』とい うタイトルで次のようなプレゼンテーションを行った。
RFIDはすばらしい特性をもっており、小売業界 のみならず製造、流通、運送、セキュリティー、旅行、 医療など、多くの業界に変革を起こす技術である。
R FIDをビジネス・プロセスに取り込むことで、企業 は現在抱えている問題や課題を解決、改善することが できるようになる。
まず問題や課題を認識し、その解決改善方法とし てRFIDの導入を検討するというアプローチが必要 となる。
つまり、『企業において導入効果を最適化さ せるために、どうやってRFIDを用いたソリューシ ョンを計画し、システムを開発し、導入してゆくか』 というステップが重要である。
ある消費財メーカーの導入事例を紹介する。
まずメ ーカーの現状分析を六つの切り口に分けて、それぞれ 課題を整理した。
六つとは?顧客購買経験による改 善、?販売機会損失の削減、?店内物流効果の改善、 ?店舗在庫目減りの削減、?メーカー小売間物流効 果の改善、?流通安全在庫の削減――である。
RFID導入効果に関して、各々の課題について 米SCC報告「RFIDワークショップ」 今年3月に米国シカゴで開催されたSCCの年次総会では、ICタグの 活用が最大のトピックスとなっていた。
総会の開催直前に実施した アンケート調査では、過半数の企業が今後数年以内にICタグを導入 する計画だと答えた。
その一方で導入効果に対する疑問や導入のデ メリットを懸念する声も聞かれた。
神田正美 SCC日本支部 バイスチェアマン (三井物産戦略研究所 事業変革支援室長) Supply Chain Council サプライチェーンカウンシル[SCC]報告 ロジスティクスの手引き 特 集 37 JUNE 2004 業界団体が発表した研究・調査による数値を以下に 参考までに示す。
ただし、?の『顧客購買経験による 改善』に関しては、顧客のプライバシー保護が議論さ れていることもあり、参考数値がない。
ウォルマート がジレット社のかみそりで進めていたRFIDタグの 実証実験が中止されたのも顧客のプライバシー侵害を 懸念したものと推測される(スライド1)。
■小売段階のRFID導入効果 ・店舗売り上げ‥‥二〜一〇%アップ ・店舗棚在庫‥‥五〜八%改善 ・店舗在庫水準‥‥五〜一〇%改善 ・店舗在庫目減り‥‥一ポイント改善 (盗難、不正、破損などのシュリンケージ) ■流通段階のRFID導入効果 ・メーカー売り上げ‥‥一〜五%アップ ・センターコストおよび輸送費‥‥二〜十三%ダウン ・流通在庫‥‥五〜一〇%ダウン ・流通リードタイム‥‥一〇〜一五%短縮 このようにRFID効果で注目されるのは、複数の 段階で効果が期待できる点である。
右に挙げた効果以 外にも例えば、従来のバーコードをRFIDタグに置 き替えて、倉庫内製品在庫管理の改善に利用すれば、 一層の波及効果が期待できる。
ひとつの改善が、製品 情報の向上、需要予測の改善、在庫の減少等複数の 改善につながっていく。
(スライド2) まず特定の現場導入から始め、次に社内全体への 普及へと続き、さらにサプライチェーン全体への普及 につなげていく。
最後は新しいサービス・ビジネスの 創出へとRFID導入効果はステップアップしていく。
最初に取り組むある現場での改善自体が、RFID の導入によって期待される効果やROIをもたらさな い場合には、RFID導入が本当に必要かどうか、戦 略的に計画が実行されているかどうかを、慎重に検討 し直す必要がある。
PRTM社が所有する『PRTM's AIM 』というR FID導入における戦略的フレームワークを紹介する。
このフレームワークは、以下の八つのレイヤー(階層) から構成されている。
PRTM社が、このフレームワークを実際に使用し て、RFID導入可否を検討したタイヤメーカーX社 のケーススタディーを紹介する。
このケースは近年起 こったファイヤー・ストーン社のタイヤ事件を契機に、 某メーカーが欧州のタイヤOEM市場およびアフター マーケットにおいて、RFIDの導入可否を検討した ものである。
ユーザー アプリケーション 使用環境 ディバイス コミュニケーション・ ゲートウェイ サービス・デリバリー・ イネイブラー コア・オペレーション・ インテグレーション ビジネス・モデル ステークホルダーの把握、 ニーズと制約の分析 アプリケーションの特性理解、 価値命題の設定 セキュリティー、法律、規制、 気候など環境要因の把握 ディバイス HMIの特性理解、 ディバイスのロードマップの作成 WAN―LAN―PANアーキテク チャー、ネットワークの特性理解 カスタマー側とオペレーション側 におけるイネイブラーの検討 プロセス、システム、データベー スの統合/組織体制やチェンジ・ マネジメントの検討 ヴァリュー・チェーン、ファイナ ンシャル・モデルの設定/実施方 法と計画の検討 PRTM’s AIM: m-Powering Productivity through Mobility レイヤー 1 レイヤー 2 レイヤー 3 レイヤー 5 レイヤー 6 レイヤー 8 レイヤー 4 レイヤー 7 スライド2 PRTM社資料よりスライド1 PRTM社資料より JUNE 2004 38 段階的検討を進める中で、レイヤー7の「コア・オ ペレーション・インテグレーション」において、SC C の 「 S C O R ( Supply Chain Operations Reference Model )」のフレームワークを用いて、必 要とされるプロセス、ファンクション、ITシステム などを検討した。
レイヤー8の『ビジネス・モデル』では、重要かつ 基本となる三つの検討事項を踏まえながら、実行可能 なシナリオを目標、戦略、運営面から多角的に評価し て、シナリオ選択を行った。
このタイヤメーカーの場 合、『自社ビジネス主導で、単独で既存組織体制の中 でRFIDを導入する』という選択をした(スライド 3参照)。
■■経営判断の三つのポイント Q1 RFIDを導入、利用するべきか? Q2 単独で行うべきか、または他社と協力、提携 すべきか? Q3 RFIDの導入は、既存の組織体制の中で実 施されるべきか? 最後にSCORのメトリックスを用いてRFID 導入効果を測定した事例を説明した。
(スライド4) この参考例では、顧客満足度、顧客リードタイムな ど、SCCが定義しているサプライチェーン・レベル 1での九種類のメトリックスを取り上げている。
例え ば、顧客満足度は、X社は八四%、業界平均は八七%、 業界ベストの平均は九八%と示されている。
他のメトリックスを見ると、サプライチェーン管理 コスト、在庫日数、キャッシュフローサイクルに関し て、X社は業界平均より著しく劣っていることがわか った。
しかし、逆の見方をすれば、この劣勢は改善の 大きなチャンスを示しているともいえるので、X社は、 在庫日数を現在の一一〇日から五五日に、そしてキ ャッシュフローサイクルを現在の一六二日から七五日 に改善することを目標にあげて、RFIDの導入に取 り組むことがふさわしいかどうかの経営判断に委ねて いる。
ワーキンググループ討議 PRTM社の報告および事例説明を受けてワーキ ンググループ内で討議した。
次の六つのカテゴリーに おけるSCORメトリックスを参考にしながら、RF IDタグ導入後一八カ月の間にどのような影響や効 タイヤ在庫と生産の可視化 総合タイヤ品質追跡管理 タイヤ製品管理の諸条件機能 自動受け渡し タイヤ製品の認証・検査 タイヤ製品の品質管理 自動ピッキング ロット毎の総合管理 詳細な原材料・半製品・製品の追跡管理 統合化されたMRO管理と実行 自動輸送とロジスティックス 単体、パレット、トラック単位のID階層管理 ユーザー識別配送と自動決済 総合的なタイヤ製品監査 自動RMA 統合化された品質管理 ■RFID導入によるプロセス・機能への影響をSCORで確認 Plan 計画 Source 調達 Make 製造 Deliver 配送 Return コストの削減 顧客への影響 実施までにかかる時間 新規の収入 サプライヤーへの影響 実施コスト 実質的な価値 競争への反応 運営、管理の難易度 法規面での認可 社内における承認 ■シナリオ選択における評価事項 達成目標 戦 略 運 営 スライド3 PRTM社資料より 39 JUNE 2004 果が予測されるかについて、ワークショップ出席者の 間で意見交換が行われた。
参考となる意見を以下に 紹介する。
■■六つのカテゴリー ・サプライチェーンのデリバリー信頼度 (定時配 送、納品率など) ・サプライチェーンの反応 (発注リードタイム、 店舗製品補充リードタイムなど) ・サプライチェーンの柔軟性 ・サプライチェーン・コスト (SC管理コスト、 製品コスト、店舗コストなど) ・サプライチェーンの資産管理の効率 (キャッシ ュ・サイクル・タイム、資産活用利回りなど) ・株主価値 (粗利、純利益、既存店当たりの売 上など) ■■参加者の主な意見 → ICタグを付帯するステップが増えるので、その 分デリバリーのプロセスは増え、リードタイムが 遅くなる懸念がある。
→ 労働集約的な業務プロセスの場合は、RFID 導入によりプロセスが効率化される期待がもてる。
→ RFIDを導入しても、管理運営ができなければ 効率化は期待できない。
→ RFID導入で、製造における製品コストは上 昇する懸念がある。
→ 小売段階では商品紛失が防げるようになるため、 コスト・利益面で有利である。
→ RFIDによって商品のトレーサビリティが上が るので、小売における商品の返却や取り替え面 で効果が出ると予想される。
→ RFID導入のROIを考えると、改善だけで はなく売上増加に結びつける努力が必要である。
→ ウォルマートのように、RFIDの導入を外部パ ートナーから要請された場合、自社内で投資効 果がでるように戦略を立てることが必要である。
参加者には二〇〇六年には企業は例外なくRFI Dに巻き込まれるという意識が強く、活発な討議がな された。
しかしRFIDの導入はまだ実験段階であり、 費用対効果を前提にした試算をするにはほど遠いため、 自社内での準備ばかりでなく、業界全体の準備がどう 進むのかに関心が集まっていた。
とりわけRFID導 入後に運営管理方法が各社各様になってしまうことへ の不安は強く、SCC内リテールSIGを通じて実 践企業による管理運用の基準作りが期待されていた。
我が国でも現在、流通業界で各種のRFIDの実 証実験が行われている。
今のところ我が国では小売り もメーカーも安全確保策としてのトレーサビリティを重視しているようだ。
今後それが発展し、RFIDに よってPOSによる店頭購買分析をはるかに凌ぐ店頭 購入後の消費者行動分析が可能となってくれば、商 品開発や棚割だけでなく、返品や欠品の問題、適正 在庫のあり方を根底から覆す、ワン to ワンマーケティ ングに代表されるようなマーケティング・マーチャン ダイジング革命につながる可能性がある。
しかし、今回の発表にもあったようにRFIDの普 及には消費者のプライバシー保護という大きなハード ルも控えている。
これについてSCCでは実践企業に よるリテールSIGにおいて今後もRFID活用の検 討を進めて行くという。
米国の強みであるルール作り、 標準化の動きを期待したい。
SCC日本支部として も、その動きを適時会員に紹介していく方針だ。
ロジスティクスの手引き 特 集 スライド4 PRTM社資料より セッション風景。
参加者の間で活発な 討議が行われた
その最終日、SC C本部内に設立された専門グループのひとつ 「 Consumer Products and Retail Special Industry Group (以後、リテールSIG)」が、RFIDに関 するワークショップを開催した。
ワークショップには、世界のSCC会員約四〇人が 出席、日本からは日本支部チェアマンを務めるNEC の大石高至氏とバイスチェアマンの小生の二人が参加 した。
内容はSCCのコアメンバーであるコンサルテ ィング会社PRTM社によるRFID調査結果の発 表とプレゼンテーション、その後ディズニー、トイザ らス、マコーミック等の出席者によるディスカッショ ンが行われた。
討議内容を次の通り要約し報告する。
RFID調査結果の発表 リテールSIGでは、ワークショップ開催の約三週 間前にSCC会員のほか「RILA(Retail Industry Leaders Association )」や「VICS(Voluntary Industry Commerce Standard )」などの米国内の業 界団体に所属する企業のディレクターおよびマネジャ ーを対象に、RFIDに関する非公式調査を行った。
主な調査結果は、以下の通りである。
Q1『将来RFIDを導入する計画があるか?』 A 二二%が二〇〇五年までに導入、三三%が 二〇〇五年以降に導入すると回答。
その一方で 四四%が、まだ未計画と回答。
Q2『RFIDタグは、業界を変革することになると 思うか?』 A 多数が肯定的な回答をし、特に二〇〇六年 以降に変革が訪れるだろうと回答。
Q3『RFIDタグを導入する際、障害となるものは 何か?』 A 社内におけるテクノロジーやプロセスなど の準備不足、業界における共通のプロセスやメ トリックスなどの欠如、導入における成果や投 資対効果などが不明確といった点が、主な障害 である。
PRTMのプレゼンテーション コンサルティング会社、PRTMのGreg Chiasson 氏が、『RFID Technology and Value Drivers 』とい うタイトルで次のようなプレゼンテーションを行った。
RFIDはすばらしい特性をもっており、小売業界 のみならず製造、流通、運送、セキュリティー、旅行、 医療など、多くの業界に変革を起こす技術である。
R FIDをビジネス・プロセスに取り込むことで、企業 は現在抱えている問題や課題を解決、改善することが できるようになる。
まず問題や課題を認識し、その解決改善方法とし てRFIDの導入を検討するというアプローチが必要 となる。
つまり、『企業において導入効果を最適化さ せるために、どうやってRFIDを用いたソリューシ ョンを計画し、システムを開発し、導入してゆくか』 というステップが重要である。
ある消費財メーカーの導入事例を紹介する。
まずメ ーカーの現状分析を六つの切り口に分けて、それぞれ 課題を整理した。
六つとは?顧客購買経験による改 善、?販売機会損失の削減、?店内物流効果の改善、 ?店舗在庫目減りの削減、?メーカー小売間物流効 果の改善、?流通安全在庫の削減――である。
RFID導入効果に関して、各々の課題について 米SCC報告「RFIDワークショップ」 今年3月に米国シカゴで開催されたSCCの年次総会では、ICタグの 活用が最大のトピックスとなっていた。
総会の開催直前に実施した アンケート調査では、過半数の企業が今後数年以内にICタグを導入 する計画だと答えた。
その一方で導入効果に対する疑問や導入のデ メリットを懸念する声も聞かれた。
神田正美 SCC日本支部 バイスチェアマン (三井物産戦略研究所 事業変革支援室長) Supply Chain Council サプライチェーンカウンシル[SCC]報告 ロジスティクスの手引き 特 集 37 JUNE 2004 業界団体が発表した研究・調査による数値を以下に 参考までに示す。
ただし、?の『顧客購買経験による 改善』に関しては、顧客のプライバシー保護が議論さ れていることもあり、参考数値がない。
ウォルマート がジレット社のかみそりで進めていたRFIDタグの 実証実験が中止されたのも顧客のプライバシー侵害を 懸念したものと推測される(スライド1)。
■小売段階のRFID導入効果 ・店舗売り上げ‥‥二〜一〇%アップ ・店舗棚在庫‥‥五〜八%改善 ・店舗在庫水準‥‥五〜一〇%改善 ・店舗在庫目減り‥‥一ポイント改善 (盗難、不正、破損などのシュリンケージ) ■流通段階のRFID導入効果 ・メーカー売り上げ‥‥一〜五%アップ ・センターコストおよび輸送費‥‥二〜十三%ダウン ・流通在庫‥‥五〜一〇%ダウン ・流通リードタイム‥‥一〇〜一五%短縮 このようにRFID効果で注目されるのは、複数の 段階で効果が期待できる点である。
右に挙げた効果以 外にも例えば、従来のバーコードをRFIDタグに置 き替えて、倉庫内製品在庫管理の改善に利用すれば、 一層の波及効果が期待できる。
ひとつの改善が、製品 情報の向上、需要予測の改善、在庫の減少等複数の 改善につながっていく。
(スライド2) まず特定の現場導入から始め、次に社内全体への 普及へと続き、さらにサプライチェーン全体への普及 につなげていく。
最後は新しいサービス・ビジネスの 創出へとRFID導入効果はステップアップしていく。
最初に取り組むある現場での改善自体が、RFID の導入によって期待される効果やROIをもたらさな い場合には、RFID導入が本当に必要かどうか、戦 略的に計画が実行されているかどうかを、慎重に検討 し直す必要がある。
PRTM社が所有する『PRTM's AIM 』というR FID導入における戦略的フレームワークを紹介する。
このフレームワークは、以下の八つのレイヤー(階層) から構成されている。
PRTM社が、このフレームワークを実際に使用し て、RFID導入可否を検討したタイヤメーカーX社 のケーススタディーを紹介する。
このケースは近年起 こったファイヤー・ストーン社のタイヤ事件を契機に、 某メーカーが欧州のタイヤOEM市場およびアフター マーケットにおいて、RFIDの導入可否を検討した ものである。
ユーザー アプリケーション 使用環境 ディバイス コミュニケーション・ ゲートウェイ サービス・デリバリー・ イネイブラー コア・オペレーション・ インテグレーション ビジネス・モデル ステークホルダーの把握、 ニーズと制約の分析 アプリケーションの特性理解、 価値命題の設定 セキュリティー、法律、規制、 気候など環境要因の把握 ディバイス HMIの特性理解、 ディバイスのロードマップの作成 WAN―LAN―PANアーキテク チャー、ネットワークの特性理解 カスタマー側とオペレーション側 におけるイネイブラーの検討 プロセス、システム、データベー スの統合/組織体制やチェンジ・ マネジメントの検討 ヴァリュー・チェーン、ファイナ ンシャル・モデルの設定/実施方 法と計画の検討 PRTM’s AIM: m-Powering Productivity through Mobility レイヤー 1 レイヤー 2 レイヤー 3 レイヤー 5 レイヤー 6 レイヤー 8 レイヤー 4 レイヤー 7 スライド2 PRTM社資料よりスライド1 PRTM社資料より JUNE 2004 38 段階的検討を進める中で、レイヤー7の「コア・オ ペレーション・インテグレーション」において、SC C の 「 S C O R ( Supply Chain Operations Reference Model )」のフレームワークを用いて、必 要とされるプロセス、ファンクション、ITシステム などを検討した。
レイヤー8の『ビジネス・モデル』では、重要かつ 基本となる三つの検討事項を踏まえながら、実行可能 なシナリオを目標、戦略、運営面から多角的に評価し て、シナリオ選択を行った。
このタイヤメーカーの場 合、『自社ビジネス主導で、単独で既存組織体制の中 でRFIDを導入する』という選択をした(スライド 3参照)。
■■経営判断の三つのポイント Q1 RFIDを導入、利用するべきか? Q2 単独で行うべきか、または他社と協力、提携 すべきか? Q3 RFIDの導入は、既存の組織体制の中で実 施されるべきか? 最後にSCORのメトリックスを用いてRFID 導入効果を測定した事例を説明した。
(スライド4) この参考例では、顧客満足度、顧客リードタイムな ど、SCCが定義しているサプライチェーン・レベル 1での九種類のメトリックスを取り上げている。
例え ば、顧客満足度は、X社は八四%、業界平均は八七%、 業界ベストの平均は九八%と示されている。
他のメトリックスを見ると、サプライチェーン管理 コスト、在庫日数、キャッシュフローサイクルに関し て、X社は業界平均より著しく劣っていることがわか った。
しかし、逆の見方をすれば、この劣勢は改善の 大きなチャンスを示しているともいえるので、X社は、 在庫日数を現在の一一〇日から五五日に、そしてキ ャッシュフローサイクルを現在の一六二日から七五日 に改善することを目標にあげて、RFIDの導入に取 り組むことがふさわしいかどうかの経営判断に委ねて いる。
ワーキンググループ討議 PRTM社の報告および事例説明を受けてワーキ ンググループ内で討議した。
次の六つのカテゴリーに おけるSCORメトリックスを参考にしながら、RF IDタグ導入後一八カ月の間にどのような影響や効 タイヤ在庫と生産の可視化 総合タイヤ品質追跡管理 タイヤ製品管理の諸条件機能 自動受け渡し タイヤ製品の認証・検査 タイヤ製品の品質管理 自動ピッキング ロット毎の総合管理 詳細な原材料・半製品・製品の追跡管理 統合化されたMRO管理と実行 自動輸送とロジスティックス 単体、パレット、トラック単位のID階層管理 ユーザー識別配送と自動決済 総合的なタイヤ製品監査 自動RMA 統合化された品質管理 ■RFID導入によるプロセス・機能への影響をSCORで確認 Plan 計画 Source 調達 Make 製造 Deliver 配送 Return コストの削減 顧客への影響 実施までにかかる時間 新規の収入 サプライヤーへの影響 実施コスト 実質的な価値 競争への反応 運営、管理の難易度 法規面での認可 社内における承認 ■シナリオ選択における評価事項 達成目標 戦 略 運 営 スライド3 PRTM社資料より 39 JUNE 2004 果が予測されるかについて、ワークショップ出席者の 間で意見交換が行われた。
参考となる意見を以下に 紹介する。
■■六つのカテゴリー ・サプライチェーンのデリバリー信頼度 (定時配 送、納品率など) ・サプライチェーンの反応 (発注リードタイム、 店舗製品補充リードタイムなど) ・サプライチェーンの柔軟性 ・サプライチェーン・コスト (SC管理コスト、 製品コスト、店舗コストなど) ・サプライチェーンの資産管理の効率 (キャッシ ュ・サイクル・タイム、資産活用利回りなど) ・株主価値 (粗利、純利益、既存店当たりの売 上など) ■■参加者の主な意見 → ICタグを付帯するステップが増えるので、その 分デリバリーのプロセスは増え、リードタイムが 遅くなる懸念がある。
→ 労働集約的な業務プロセスの場合は、RFID 導入によりプロセスが効率化される期待がもてる。
→ RFIDを導入しても、管理運営ができなければ 効率化は期待できない。
→ RFID導入で、製造における製品コストは上 昇する懸念がある。
→ 小売段階では商品紛失が防げるようになるため、 コスト・利益面で有利である。
→ RFIDによって商品のトレーサビリティが上が るので、小売における商品の返却や取り替え面 で効果が出ると予想される。
→ RFID導入のROIを考えると、改善だけで はなく売上増加に結びつける努力が必要である。
→ ウォルマートのように、RFIDの導入を外部パ ートナーから要請された場合、自社内で投資効 果がでるように戦略を立てることが必要である。
参加者には二〇〇六年には企業は例外なくRFI Dに巻き込まれるという意識が強く、活発な討議がな された。
しかしRFIDの導入はまだ実験段階であり、 費用対効果を前提にした試算をするにはほど遠いため、 自社内での準備ばかりでなく、業界全体の準備がどう 進むのかに関心が集まっていた。
とりわけRFID導 入後に運営管理方法が各社各様になってしまうことへ の不安は強く、SCC内リテールSIGを通じて実 践企業による管理運用の基準作りが期待されていた。
我が国でも現在、流通業界で各種のRFIDの実 証実験が行われている。
今のところ我が国では小売り もメーカーも安全確保策としてのトレーサビリティを重視しているようだ。
今後それが発展し、RFIDに よってPOSによる店頭購買分析をはるかに凌ぐ店頭 購入後の消費者行動分析が可能となってくれば、商 品開発や棚割だけでなく、返品や欠品の問題、適正 在庫のあり方を根底から覆す、ワン to ワンマーケティ ングに代表されるようなマーケティング・マーチャン ダイジング革命につながる可能性がある。
しかし、今回の発表にもあったようにRFIDの普 及には消費者のプライバシー保護という大きなハード ルも控えている。
これについてSCCでは実践企業に よるリテールSIGにおいて今後もRFID活用の検 討を進めて行くという。
米国の強みであるルール作り、 標準化の動きを期待したい。
SCC日本支部として も、その動きを適時会員に紹介していく方針だ。
ロジスティクスの手引き 特 集 スライド4 PRTM社資料より セッション風景。
参加者の間で活発な 討議が行われた
